戻る ] 上へ ] 進む ]

20020125

透析で12年間生存、移植後123日目に死亡
レシピエントはC型肝炎陽性 低活動性と考え移植
金沢医科大学腎臓内科

 透析療法で12年間生存していた女性が、金沢医科大学で腎臓移植を受けて123日目の1月25日、肝不全に敗血症を合併して死亡した。

 死亡したのは40歳女性。慢性糸球体腎炎による末期腎不全で1976年9月、血液透析導入となった。1978年7月、母親をドナーとして生体腎移植を受けたが、慢性拒絶反応のため1989年2月から再び血液透析導入となった。2001年9月24日、30歳女性をドナーとする「死体」腎移植を受けた。

 レシピエントの40歳女性は、入院時の検査所見ではC型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性だった。しかし金沢医大はC型肝炎の活動性は低いと考え移植に踏み切った。移植後、急性拒絶反応を繰り返し、計4回のステロイドパルス療法を行ったが反応はなかった。敗血症性ショックとそれに伴う急性腎不全と考え、抗生剤投与、持続的血液濾過透析を行った。しかし肺炎からの敗血症を合併して、術後123日目に死亡した。関係者は、免疫抑制に加えて、拒絶反応に対する計4回のステロイドパルス療法が、肝不全を引き起こした1つの要因と見ている。


 出典:山谷 秀喜(金沢医科大学腎機能治療学・腎臓内科):C型肝炎ウイルス陽性患者の腎移植後にFibrosing Cholestatic Hepatitisを発症した1例、移植、40(6)、539―543、2005

 


20020110

蘇生不可能?循環動態安定、昇圧剤ゼロの心停止ドナー
人工呼吸器停止の1時間前からヘパリン ピッツバーグ大


 弘前大学医学部第二外科教室の十束 英志氏らは、米国Pittsburghピッツバーグ大学移植センターにおける「心停止ドナーおよび心停止後蘇生ドナーからの肝移植の経験」を日本医学館発行の「今日の移植」15巻1号p100〜p104で発表した。

 1997年5月から1998年8月までに、ピッツバーグ大学移植センターにて行われた成人全肝移植203例のうち、脳死ではない心停止ドナーからの肝臓移植は8例だった。このうち4例(14歳〜42歳、頭部外傷2例、窒息2例)は臓器摘出手術直前に予期せず心停止したUncontrolled NHBD(non-heart-beating donor)。ほかの4例(30歳〜41歳、頭部外傷2例、窒息2例)は手術室で気管内チューブを抜去し、心停止が確認された時点で臓器摘出を開始したControlled NHBDだった。

 Uncontrolled NHBDのうち3例は手術室搬送以前に予期せず心停止し、15分間の心臓マッサージ後に抗血栓薬ヘパリンが投与され臓器が摘出された。大動脈遮断・保存液灌流までに要した時間は24分、31分、35分。残るドナーの1例は手術開始直前の手術室で心停止したため、心停止から大動脈遮断までは7分だった。

 これらのUncontrolled NHBDの肝臓を移植されたレシピエントのうち、1例は保存障害から再移植後65日目(初回手術後79日目)に敗血症にて死亡、1例は肝動脈塞栓により再移植してICU滞在44日間、残る1例もICU滞在53日間を余儀なくされた。手術室で心停止したUncontrolled NHBDの肝臓を移植されたレシピエントは、ICU滞在7日間だった。
 
 Controlled NHBDは、脳死にはいたらぬものの蘇生不能な患者で、家族がライフサポートシステム除去を希望した症例。手術前の循環動態は安定しており、手術室入室1時間前よりヘパリン投与を開始され、またヘパリンと血管拡張剤を混注した潅流液が用意された。手術室搬送後、家族の目前で麻酔科医の手で気管内チューブが抜去され、心停止確認と同時に家族は退出。待機していたドナー手術チームが入室して手術が開始された。気管内チューブ抜去から心停止まで14〜33分、心停止から大動脈遮断、保存液灌流までは4〜8分。Controlled NHBDの全4例で肝移植片は生着し、ICU滞在期間は2日、5日、8日、31日だった。
 
 十束氏らは「Uncontrolled NHBDは臓器摘出手術前の循環動態が不安定、ヘパリン投与など前処置が不十分、冷却保存液灌流までの阻血時間が延長するなど、きわめてリスクが大きい。一方、Controlled NHBDからの肝移植は良好な結果が得られ、脳死ドナーがきわめてすくない本邦において検討されるべき方法である」としている。


 

 脳死ドナーの入院前後における一過性心停止が、移植後肝機能に及ぼす影響についても検討した。脳死ドナー181例を対象に、一過性心停止の既往のない144例:A群と、心停止を来たして心肺蘇生術にて心拍のみ回復した心停止後蘇生脳死ドナー37例:B群を比較検討したところ、移植片生着率、トータルビリルビン、PTに両群に有意差は認められなかったが、GOT値は術後3日目までの期間、心停止後蘇生脳死ドナーB群のほうが有意に低値を示した。
 
 一過性心停止をした脳死ドナーには、短時間の阻血負荷により以後の長時間の阻血に対する耐用性を獲得するIschemic Preconditioning(IPC:局所虚血による障害耐性獲得)現象が、心臓では報告されていたが肝臓でも報告が散見されるようになったことから、十束氏らは、「予期せず心停止するUncontrolled NHBD心停止ドナーに体外人工心肺を接続、腹部臓器の循環を再開、再酸素化したのちに改めて開腹、臓器摘出する方法をとれば、心停止から人工心肺が稼動するまでが肝温阻血時間がIschemic Preconditioningとなり、心停止後蘇生ドナーと同様な病態を作りだし、積極的な肝移植片保護作用が起動できるかもしれない」としている。

 

当Web注

  1. 十束氏らは「Controlled NHBDは、脳死にはいたらぬものの蘇生不能な患者」としているが、これは「手術前の循環動態は安定」という状態とは矛盾するのではないかと考えられる。またp101に掲載された表1によると、Uncontrolled NHBDの4例には昇圧剤のドーパミンが10〜28mcg/kg/min投与されていたのに対して、controlled NHBDの4例には一切投与されていない。昇圧剤が不要だったことからも、controlled NHBDの4例は、心臓機能の面では蘇生していたのではないかと想像される。
     
  2. 抗血液凝固剤、抗血栓剤のヘパリンを頭部外傷患者に投与することは、致死的なため原則として禁止されている。脳死にはいたらぬ重症脳不全患者に、臓器摘出目的の致死的薬剤の投与を行うことや、心停止後も心臓マッサージ、人工心肺で血液循環を図ることの人道的、倫理的問題についての考慮は掲載されていない。
     
  3. 肝臓を移植されたレシピエント8名のうち、2名はICU滞在中(UNOS status1)、5名は一般病棟入院中(UNOS status2)だった。移植後79病日死亡の29歳男性(C型肝炎肝硬変)は一般病棟の患者であり、移植が死期を早めた可能性が高い。ICU滞在53日間となった31歳男性(特発性肝硬変)は、通院中のUNOS status3患者であり、しかも臓器摘出から移植までの時間を示す冷保存時間は7.2時間と短い。移植のリスクについての説明や術前検査が、どのようになされているかの記載はない。

 


20020102

第19例目の脳死下での臓器提供 日本臓器移植ネットワークの発表資料

平成14年1月2日
社団法人 日本臓器移植ネットワーク

 

【第19例目の脳死下での臓器提供事例について】

  • ドナーの方は、関東甲信越地方の医療機関に入院中の40歳代の男性の方。
  • ドナーの方の原疾患は、クモ膜下出血である。
  • ドナーの方は、臓器提供意志表示カードに脳死下での臓器提供の意志を表示。
    提供臓器として心臓、肺、肝臓、膵臓、小腸に○がある(「その他」の項目は、眼球と記載)
    ご本人の署名、ご家族の署名がある。記載時期は、1999年9月。
  • 日本臓器移植ネットワーク関東甲信越ブロックセンターに提供施設より連絡があったのは、12月31日13時05分である。
  • 日本臓器移植ネットワークのコーディネーターが説明を行った上で、
    1月1日17時29分にご家族から脳死判定承諾書および臓器摘出承諾書を受領。
  • ご家族からは、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸の提供についてご承諾を得た。
  • 1月1日19時17分、第一回法的脳死判定を開始。
  • 1月1日21時15分、第一回法的脳死判定を終了。その結果、判定基準を全て満たしていると判定された。
  • 1月2日03時33分より第二回法的脳死判定を開始。
  • 1月2日04時47分に第二回法的脳死判定を終了し、法的に脳死と判定された。

ご家族および当該医療機関の強い要望により下記の事項について厳守いただきたい。

・報道に当たっては、プライバシーの保護に十分ご配慮いただきたい。
・摘出された臓器を収納する容器を撮影することは、控えていただきたい。

ご家族の強い要望により下記の事項について厳守いただきたい。

・ご家族の強い要望により、患者家族に対する取材等は一切行わないでください。
・ご家族の強い要望により、病院に対する取材等は一切行わないでください。
・ご家族の強い要望により、報道のために他の患者さんの診療や提供病院にご迷惑をおかけしたり、今後も提供しようと思っておられる方が提供しにくくなるので、報道を最小限にしてください。

 コーディネーション業務に支障をきたす恐れがあるため、(社)日本臓器移植ネットワークのオフィス内(4階、6階及び7階スペース)への報道関係者の入室及び個別の取材はご遠慮願いたい。

 

【提供臓器について】

  • 心臓移植実施施設及びレシピエントについて
    ・心臓移植の第一候補者は大阪大学医学部附属病院で移植希望の20歳代の女性で、原疾患名は拡張型心筋症である。
     
  • 腎臓移植実施施設およびレシピエントについて
    ・腎臓移植の第一候補者は慶応義塾大学病院で移植希望の40歳代の慢性腎不全の女性である。
    ・腎臓移植の第二候補者は、北里大学病院で移植希望の60歳代の男性で、原疾患名は慢性糸球体腎炎である。
     
  • 肺移植実施施設およびレシピエントについて
    ・肺移植の第一候補者は岡山大学医学部附属病院で移植希望の40歳代の男性で、原疾患名は間質性肺炎である。
     
  • 肝臓移植実施施設及びレシピエントについて
    ・肝臓移植の第一候補者は信州大学医学部付属病院で移植希望の10歳未満の男児で、原疾患名は劇症肝炎である。
    ・肝臓移植の第二候補者は信州大学医学部付属病院で移植希望の20歳代の女性で、
     原疾患名は二次性胆汁性肝硬変である。
     
  • 膵臓移植実施施設及びレシピエントについて
    ・膵臓移植の第一候補者は大阪大学医学部附属病院で移植希望の30歳代の女性で、原疾患名は糖尿病性腎症である。

 

【臓器の摘出手術について】

  • 臓器の摘出手術について
    ・1月2日 14:59 手術開始

 

【臓器の搬送予定について】

 

  • 心臓の搬送予定経路について
    ・病院 → (救急車) → 羽田空港 → (チャーター便) → 伊丹空港 → 
     (ヘリコプター) → 大阪大学医学部附属病院
     
  • 肺の搬送予定経路について
    ・病院 → (救急車) → 羽田空港 → (チャーター便) → 岡山空港 → (パトカー先導・緊急車両)
     → 岡山大学医学部附属病院
     
  • 肝臓の搬送予定経路について
    ・病院 → (タクシー) → 新宿駅 → (JR特急) → 松本駅 → (タクシー) → 信州大学医学部附属病院
     
  • 膵臓の搬送予定経路について
    ・病院 → (タクシー) → 東京駅 → (新幹線) → 新大阪駅 → (タクシー) → 大阪大学医学部附属病院
     
  • 腎臓の搬送予定経路について
    ・病院 → (タクシー) → 慶応大学病院
         → (タクシー) → 北里大学院

 


このページの上へ

2015-03 ] 2014-12 ] 2014-10 ] 2014-9 ] 2014-8 ] 2014-7 ] 2014-6 ] 2014-5 ] 2014-4 ] 2014-3 ] 2014-2 ] 2013-12 ] 2013-11 ] 2013-10 ] 2013-9 ] 2013-8 ] 2013-7 ] 2013-6 ] 2013-5 ] 2013-4 ] 2013-3 ] 2013-2 ] 2013-1 ] 2012-12 ] 2012-11 ] 2012-10 ] 2012-9 ] 2012-6 ] 2012-5 ] 2012-3 ] 2012-2 ] 2012-1 ] 2011-12 ] 2011-11 ] 2011-10 ] 2011-9 ] 2011-8 ] 2011-7 ] 2011-6 ] 2011-5 ] 2011-3 ] 2011-2 ] 2011-1 ] 2010-12 ] 2010-11 ] 2010-10 ] 2010-9 ] 2010-8 ] 2010-7 ] 2010-6 ] 2010-5 ] 2010-4 ] 2010-3 ] 2010-2 ] 2010-1 ] 2009-12 ] 2009-11 ] 2009-10 ] 2009-9 ] 2009-7 ] 2009-4 ] 2009-2 ] 2009-1 ] 2008-12 ] 2008-11 ] 2008-10 ] 2008-9 ] 2008-8 ] 2008-7 ] 2008-6 ] 2008-5 ] 2008-4 ] 2008-3 ] 2008-2 ] 2008-1 ] 2007-12 ] 2007-11 ] 2007-10 ] 2007-9 ] 2007-8 ] 2007-7 ] 2007-6 ] 2007-5 ] 2007-4 ] 2007-3 ] 2007-2 ] 2007-1 ] 2006-12 ] 2006-11 ] 2006-10 ] 2006-9 ] 2006-7 ] 2006-6 ] 2006-5 ] 2006-4 ] 2006-3 ] 2006-2 ] 2006-1 ] 2005-12 ] 2005-11 ] 2005-10 ] 2005-9 ] 2005-8 ] 2005-7 ] 2005-6 ] 2005-5 ] 2005-4 ] 2005-3 ] 2005-2 ] 2005-1 ] 2004-12 ] 2004-11 ] 2004-10 ] 2004-9 ] 2004-8 ] 2004-7 ] 2004-6 ] 2004-5 ] 2004-4 ] 2004-3 ] 2004-2 ] 2004-1 ] 2003-12 ] 2003-11 ] 2003-10 ] 2003-9 ] 2003-7 ] 2003-6 ] 2003-5 ] 2003-4 ] 2003-3 ] 2003-2 ] 2003-1 ] 2002-12 ] 2002-11 ] 2002-10 ] 2002-9 ] 2002-8 ] 2002-7 ] 2002-6 ] 2002-5 ] 2002-4 ] 2002-3 ] 2002-2 ] [ 2002-1 ] 2001-12 ] 2001-11 ] 2001-10 ] 2001-9 ] 2001-8 ] 2001-7 ] 2001-5 ] 2001-3 ] 2001-2 ] 2001-1 ] 2000-12 ] 2000-11 ] 2000-10 ] 2000-9 ] 2000-6 ] 2000-4 ] 1999 ] 1998 ] 1997 ] 1996 ] 1994 ] 1993 ] 1992 ] 1991 ] 1990 ] 1989 ] 1988 ] 1986 ] 1985 ] 1984 ] 1983 ] 1982 ] 1981 ] 1969 ] 1968 ] 1967 ] 1966 ] 1964 ]

ホーム ] 総目次 ] 脳死判定廃止論 ] 臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケース ] 臓器摘出時の麻酔管理例 ] 人工呼吸の停止後に脳死ではないことが判ったケース ] 小児脳死判定後の脳死否定例 ] 脊髄反射?それとも脳死ではない? ] 脊髄反射でも問題は解決しない ] 視床下部機能例を脳死とする危険 ] 間脳を検査しない脳死判定、ヒトの死は理論的に誤り ] 脳死判定5日後に鼻腔脳波 ] 頭皮上脳波は判定に役立たない ] 「脳死」例の剖検所見 ] 脳死判定をしてはいけない患者 ] 炭酸ガス刺激だけの無呼吸テスト ] 脳死作成法としての無呼吸テスト ] 補助検査のウソ、ホント ] 自殺企図ドナー ] 生命維持装置停止時の断末魔、死ななかった患者たち ] 脳死になる前から始められたドナー管理 ] 脳死前提の人体実験 ] 脳波がある脳幹死、重症脳幹障害患者 ] 脳波がある無脳児ドナー ] 遷延性脳死・社会的脳死 ] 死者の出産!死人が生まれる? ] 医師・医療スタッフの脳死・移植に対する態度 ] 有権者の脳死認識、臓器移植法の基盤が崩壊した ] 「脳死概念の崩壊」に替わる、「社会の規律として強要される与死(よし)」の登場 ] 「脳死」小児からの臓器摘出例 ] 「心停止後」と偽った「脳死」臓器摘出(成人例) ] 「心停止後臓器提供」の終焉 ] 臓器移植を推進する医学的根拠は少ない ] 組織摘出も法的規制が必要 ] レシピエント指定移植 ] 非血縁生体間移植 倫理無き「倫理指針」改定 ] 医療経済と脳死・臓器移植 ] 遷延性意識障害からの回復例(2010年代) ] 意識不明とされていた時期に意識があったケース ] 安楽死or尊厳死or医療放棄死 ] 終末期医療費 ] 救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン(案)への意見 ] 死体・臨死患者の各種利用 ] News ] 「季刊 福祉労働」 127号参考文献 ] 「世界」・2004年12月号参考文献 ]