gift of lifeは病院・臓器獲得機構を儲けさせる贈り物
低経費と複数レシピエントへの重複請求で膨大な収入
米国の全国移植共同研究(NCTS)で判明
JAMA日本語版はMayo Clinic の Roger W.Evans,PhD
による「臓器獲得経費の奨励金的性格に関する研究」をp72〜p79に掲載した。
全国移植共同研究(NCTS)班が、1988に米国で施行された全臓器移植の28.7%に当たる症例の資料を分析したところ、臓器獲得に要する経費(中央値)は腎:1万2290ドル、心:1万2578ドル、肝:1万6281ドル、心肺:1万2028ドル、膵:1万5400ドルだった。しかし実際の臓器摘出術費が臓器獲得関連費のなかで占める割合は、腎31%、心14%、肝11%、心肺9%、膵23%にすぎなかった(当Web注:阻血許容時間が短い心臓や肝臓は、高速搬送に経費がかかる)。
Roger
氏は「このデータからみる限り、現在の臓器獲得費支払いシステムになにか重大な問題があると言わざるをえない。・・・・・・『gift
of life』とは病院やOPO(臓器獲得機構)を経済的に儲けさせるための贈り物と考えざるを得ない。多臓器提供ドナーは、1人で多数の患者を救うが、と同時に、各レシピエントは各々に臓器獲得費を請求されるので、結果として膨大な収入を生み出す。・・・・・・臓器獲得に必要な実際の経費で経営することが必要であるし、まずは合理的な請求額と還付可能な予算基準を作ることが必要であろう」と指摘。結論で「奨励金制度は臓器獲得の努力効果を高めるかもしれないが、一方において臓器移植の非経済性を作り出している」と述べた。
この論文を訳した雨宮 浩氏(国立小児病院小児医療研究センター長)は「この著者の述べるように、1腎当たり80万円以上の獲得経費を支払うには、それなりの根拠が必要であるが、同時にそれが腎提供へ向けての救急病院の重い腰を上げさせる奨励制度になっているのは確かである。単純に計算して、心・肺・肝・膵・腎の多臓器提供では80万円×6=480万円にもなる。今の日本の状況では、まず救急病院の協力を得なければならないから、このようなUSA従来方式を考えたくなる。しかし米国では、もうそのような時代が過ぎ、一般市民のより大きな協力を求めるため、奨励金は提供者あるいは、その遺族に支払うべきだとの意見が出始めているのであろう」と解説を結んだ。
九州大学第二外科 53歳男性を生きたまま開腹
カテーテル挿入、生前に冷却液注入 心停止後肝摘出
ドナーの母親は献体と誤認 千里救命救急センターで
1993年10月22日、大阪府吹田市の千里救命救急センターで、九州大学の臓器摘出チームが、53歳男性の気管支喘息重積発作患者に対して、肝臓を他の患者へ移植目的で摘出するために生存中に開腹し、カテーテルを挿入し、さらに心停止する前から冷却液の注入を開始し、その1分後に心臓が停止、肝臓を摘出した。
この人為的心停止後肝臓摘出・移植の経緯について、九州大学第二外科は、1994年3月に発行された肝移植の臨床応用に関する総合的研究(文部省科学研究費補助金 総合研究A 研究成果報告書、研究課題番号:04304041)のなかで、p16〜p18に「心停止肝移植の一例」として発表している。執筆者は杉町圭蔵、矢永勝彦、西崎孝、東秀史、板阪英俊、脇山茂樹、副島雄二、野本健一、柿添三郎、島田光生、池田哲夫、福沢謙吾、岸川圭嗣、安永親生、内田裕之、岡野慎士、石田照佳、竹中賢治の18名。文末には千里救命救急センターの太田宗夫所長、一柳裕司医師、大阪腎臓バンクの湯浅光利コーディネーター他への謝辞が掲載されている。
肝臓移植を受けた肝細胞癌合併肝硬変症(C型)の50歳男性(血液型A型)は、術後54日で人工呼吸器から離脱、59日目にはICUを退室したが、術後72日目に右胸水に対する胸腔穿刺後に血胸を来たし、DICにて術後73日目に死亡した。
生前に開腹、カテーテル挿入、冷却液注入
九州大学第二外科が「心停止肝移植の一例」に書いたドナー関連記述は、以下の枠内のとおり。
平成5年10月21日、近畿臓器移植ネットワークの情報センターより、千里救命救急センターに気管支喘息重積発作から脳死に陥った血液型B型の患者の家族が脳死状態での肝臓を含む多臓器・組織の提供を申し出ているとの連絡を受けた。その後、再度連絡があり、大阪府の指導により心停止後の提供しかできぬと判明した。
臓器の状態を確認し、移植可能なら持ち帰るべく同日夜、千里救命救急センターに到着した。同センターにて、病歴・検査データなどを検討の上、最終的に翌朝の肝機能の確認の上で最終決定を予定したが、夜間ドナーの循環状態が急速に悪化したため、10月22日未明に手術室に搬入し、開腹後、肝の状態が良好であることを確認し、大動脈、下腸間膜静脈、下大動脈にカニュレーションを行なった。以後、血圧は低下を続け、除脈を経て動脈圧がゼロとなったため、この時点で保存液の注入を開始した。ドナーが胃部分切除後のため肝門部癒着強度で、また上腸間膜動脈より奇形肝動脈右枝が出ていたが、血管・肝臓の損傷なしに心停止29分で肝全摘を終了した。 |
ドナーの母親=献体と言われたのに、ほとんど全身の皮まで剥がれた。人間のすることやない!
近畿臓器移植ネットワークから九州大学第二外科には「患者の家族が脳死状態での肝臓を含む多臓器・組織の提供を申し出ている」と連絡があったとしている。また千里救命救急センターの太田宗夫所長も「家族の強い希望で」と発表した。しかし、ドナーの母親に「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会が調査したところ、臓器提供ではなく献体と思っていたこと、ちゃんと説明してもらったら断っていたこと、太田宗夫所長が面会および説明を拒否していることなど、臓器移植ネットワーク・臓器提供施設の説明と全く異なっていることが判明している。ドナーの母親の訴えの詳細はhttp://fps01.plala.or.jp/~brainx/doctors_lie1.htm。
中川米造氏=脳死状態からの移植と同じ、これを心停止後の移植と言うのは不誠実
1993年10月23日付の毎日新聞は、10月22日の臓器摘出までの時間経過について以下を掲載している。
未明 :血圧が急降下した。
午前4時29分:手術室で提供者の腹部を切開し、冷却用のチューブを動脈と門脈に入れた。
午前5時31分:提供者の脈が途切れ出したため、
午前5時34分:冷却液の注入を始めた。
その1分後 :心臓が停止
毎日新聞は4名の関係者、識者のコメントを掲載している(以下の枠内)。
完全に心臓が止まる前に臓器保存の液を注入したことについて太田宗夫所長は「心停止はある時点で訪れるわけでなく、心臓が停止に至る過程に幅がある。この幅の中にあることを確認して液体を流した。臓器摘出はあくまでも心停止後である」と説明している。
脳死臨調元参与の光石忠敬弁護士は「肝臓にメスを入れたのが心停止後であっても、心臓が動いている時点で摘出のために患者の腹部を切開したとすれば、脳死状態で肝臓摘出に着手したといえる。心停止後の摘出との病院側の説明は奇弁ではないか。社会の矛盾を増幅しかねない」と話し、今後、脳循環や代謝の途絶を確認したのかどうかなど、脳死移植に関係する諸問題を再検討する必要があると強調する。
生命倫理に詳しい中川米造・大阪大学名誉教授は「脈拍があるのに液を入れたのは、脳死状態からの移植と同じようなものだ。これを心停止後の移植と言うのは不誠実だ。救急医療の現場でのインフォームド・コンセントは非常に難しいと承知しているが、やはり家族や第三者を交えてきっちりすべきだ」と話す。
じん臓移植の園田孝夫・大阪府立病院長は「今回の例は、脳死移植とも心停止後の移植とも言えるが、それを議論することはあまり本質的でない。脳死臨調が脳死移植を認めたのに、国がなにもしないから、こんな混乱が起こるのだ」と指摘する。 |
当Web注
-
ドナーの心停止を早めたと見込まれる行為=臓器摘出目的で開腹をしたこと、血行を阻害するカテーテルを挿入したこと、冷却液を体内灌流させたこと、などが心停止を早めることに影響したと考えられる。ダブルバルーンカテーテルなど、動脈を閉塞する構造のカテーテルが使用されると動脈閉塞によるショック死を起こす。九州大学の臓器摘出チームは、臓器の冷却灌流および保存に高価なUW液を汎用している。UW液はアデノシンを含有し、心停止を引き起こす可能性が報告されている。
-
死戦期の多様性=吉開俊一(池友会新小文字病院):心停止下腎臓提供における臓器提供意思表示カード所持確認と臓器提供オプション提示の意義、脳神経外科ジャーナル、17(7)、547−550、2007(http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN10380506/ISS0000423275_jp.html内でPDFファイルが公開)は、p708からp709にかけて「(心停止からスタートする)温阻血時間開始時点が血圧モニター0mmHgの時点か心電図モニター平坦の時点かが不明確である。(中略)本報告中、温阻血時間が実際の血流停止は約10〜20分前の血圧モニター0oHg表示時から始まり、温阻血時間の信頼性に疑問が残る。さらに血圧が50〜60mmHg程度から急激に下降して死亡する症例もあれば、きわめて低い血圧が半日以上続く症例もある。このような死戦期の多様性の中で腎血流を温阻血時間の1要素のみで評価することにも疑問が残る」としている。
九州大学第二外科が「除脈を経て動脈圧がゼロとなったため、この時点で保存液の注入を開始した」のは、このような死戦期の多様性を、“臓器に血流が途絶えて移植に使えなくなる”という生理的要請から無視したものだろう。太田宗夫所長の「「心停止はある時点で訪れるわけでなく、心臓が停止に至る過程に幅がある。この幅の中にあることを確認して液体を流した」とは、脳死判定された患者は必ず心停止に至るという脳死認識と思われる。
-
倫理上・法律上の問題=臓器摘出目的の処置は、ドナーの治療目的の行為ではないため、ドナーの生存中に行なうと傷害罪・傷害致死罪に該当する。このため開腹やカテーテル挿入などの外科的処置だけでなく、臓器摘出の投薬(抗血栓剤ほか)も行なうには、ドナーが脳死体になっている必要がある。ところが、ドナーの母親の訴えの詳細はhttp://fps01.plala.or.jp/~brainx/doctors_lie1.htmにあるとおり、脳死での死亡宣告は行なわれていない。そのような法的手続きも存在しなかった。さらに、ドナーの肉親は献体と臓器提供を誤認したと見込まれ、この面からも臓器摘出に正当性はない。
透析で15年生存、移植後21ヵ月で死亡
移植前からあった腎ガン 免疫抑制で転移
43歳男性 「画像診断は困難」と信州大
透析療法で15年間生存していた男性が、腎臓移植を受けて21ヵ月後の1月26日に信州大学でガン死した。
この男性は1991年5月、41歳時に58歳男性からの「死体」腎移植を受けた。移植前には発見できなかった固有腎(多発性嚢胞腎)の腎ガンが、移植後の免疫抑制により進展して広範囲な肝転移を契機に発見された。解剖時に原発巣は直径3.5cm、同大学の医師らは「生前の画像診断は困難であり、まして移植前に発見することは困難であったと考えられる」としている。
出典:Katai M : Sarcomatoid renal cell carcinoma with
widespread metastases to liver and bones in a kidney transplant recipient.
Transplantation 63:1361-1363,1997
このページの上へ