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1988年4月5日 雨宮 浩著「臓器移植48時間」
三徴候死を観察しなかった「心停止」ドナー
心停止時刻=死亡宣告時刻=体内灌流開始時刻
1988年3月31日 カナダ基準で脳死、米国基準で自発呼吸
臓器提供を撤回 脳死判定は信頼できない
McMaster大医療センター 新生児を脳死判定
   

19880405

雨宮 浩著「臓器移植48時間」
三徴候死を観察しなかった「心停止」ドナー
心停止時刻=死亡宣告時刻=体内灌流開始時刻

 1988年4月5日、岩波書店から雨宮 浩著「臓器移植48時間」が発行された。雨宮氏は、1960年に千葉大学医学部を卒業、千葉大学病院勤務ののち1978年から国立循環器病センター研究所実験治療開発部長。この著書には、死体腎提供例が掲載されており、以下に経過および関係者との会話を掲載する(会話は実際の会話の再現ではなく、移植医としての宣伝上望ましいやりとりへの修正があると見込まれる。曜日から、1985年の臓器摘出例と見込まれる)。

p21〜p22

5月17日(金曜日)
 電話の向こうで交換嬢が、救命救急センターからの電話ですと取り継いででくれる。もしや死体腎提供の情報では、と思いながら外線に接続してもらう。
「もしもし、雨宮ですが・・・・・」
「こちら救命救急センターの鳥海ですが、腎臓を提供してあげてもいいとですね、患者さんのご家族が言っておられるんですが・・・・・・」
「そりゃどうもありがとうございます」
「患者さんはですね、53歳男性で、今月5日に脳内出血で入院された方です。先生の方はですね、直ぐ準備できますか」
「ええ、準備します。血液型は何型ですか」
「ちょっとお待ちください・・・・・・。ええとですね、A型です」

 (中略)腎提供を内諾してくれた患者さん(もちろん内諾してくれたのは患者さんの家族であるが)は、現在脳死の状態にある。死体腎移植の準備には最小限度18時間が必要なので、心停止を起こしてから腎提供の準備を貰ったのでは間に合わない。

当Web注:腎提供予定者について5月17日に「現在脳死の状態にある」としているが、後の記述をみると脳死の診断確定は5月18日だ。

p58〜p60

5月19日(日曜日)

 8階東病棟から電話が入り、移植予定の佐藤さんが入院しましたとの連絡を受ける。(中略)透析にはヘパリンと言われる血液凝固を阻止する薬を使うので、もし今日の午前中に透析を行うとなると、透析終了から4ないし6時間、ヘパリンの作用が無くなるのをまってからでなければ手術は行なえないことになる。ヘパリンが効いている間に切開をすると、出血が止まりにくくて手術に難渋する結果になる。手術のあとも同じことで、切開部分がある程度固まってくれないと、ヘパリンを使った透析は危険である。切開部分からの再出血が起こったりする。

当Web注:ヘパリンが血液を固まりにくくする作用についての認識は、外科医だから当然ある。ヘパリンを、脳内出血のドナーに投与すると再出血を起こすため原則禁忌であることの認識も、あると見込まれる。

p76〜p85

腎提供病院にて

 正午からのICUでの面会時間に提供者の家族の人々が集まっているはずであるし、受持医から容態の悪化していることの説明を受けているはずである。

「ご家族の皆さんがお集まりのようですので、只今の容態をお話します。患者さんは昨日の朝脳死の診断が確定したことは、もうお知らせした通りですが、あれからちょうどまる1日たちました今朝方から、血圧を上げる薬を使っても、あまり効かなくなってきました。そろそろ心臓の止まる危険も大きそうですので、病院内で待機していただきたいと思います」
「わかりました。大変お世話になりました。そろそろということですが、何時ごろでしょう」
「今日の午後、夕方になる前と思います。大変残念ですが、それ以上は無理と思います」
「いいえ、もう脳死と伺っておりますし、十分にみていただいておりますし、本人もきっと思い残すことはないと思います」
「それから、腎臓提供のことですが、心臓停止のあと提供していただくことになりますが、よろしいでしょうね」
「ええ、昨日申し上げましたように、本人も生前に腎臓提供のことを言っておりましたし、私どももお役に立てればそれに越したことはないと考えておりますので・・・・・・」
「ありがとうございます。それでは、この書類は腎臓提供の承諾書でございます。ご記入いただいておき、死亡宣告の後、この書類をいただくようにしたいと思います。それから心臓停止のあと、なるべく早く腎臓を冷却してやるために、予め現時点で血管に2本カテーテルを入れますが、よろしいでしょうか。これはご本人の治療のためではなくて、移植を受ける人のためのものなんですが・・・・・・」
「結構です。せっかく移植してもらうのですから、なるべく良い腎臓をあげたいと思います」

当Web注:臓器摘出目的の処置は、すべて臓器提供者にとって傷害になる。カテーテル挿入時にヘパリンを投与し、カテーテル挿入で血行を阻害するため、致死的傷害になる可能性が高い。日本臓器移植ネットワーク時代になってからも、ヘパリンの副作用を説明しない文書を使って問題を発生させている(参照:第28回群馬移植研究会学術講演会)が、上記の救急医の説明には、ヘパリン投与についての説明もない。

 

 (中略)4人の医師がカテーテル挿入のためICUに向かう。高橋看護師は医局の電話をとり、カテーテル挿入を開始すること、血圧が40ないし60の間で変動していること、尿量はきわめて少なくなってきていること、など現況を移植病院である国立循環器病センターと府立病院の2ヵ所に連絡する。15分位でカテーテル挿入を終わった4人が医局へ戻ってきた。(中略)今12時半(中略)

 手洗いをすませ、手術用ガウンを着、手術用手袋もはめ、いつでも手術が出来る準備がすんだのは午後1時半であった。そこへ高橋看護師が顔をのぞかせ、ICUの様子を簡潔に、「血圧40、尿量ゼロ。家族の人たちはベッドサイドについています」と報告してくれる。

 (中略)何回か高橋看護師からICUの状況が伝えられてきたが、ちょうど午後2時、「山崎先生、いま心停止です。森先生たちは灌流液を流し始めてます。それと家族の人たちが最後のお別れをしておられますので、もうすぐこちらに提供者が入ります」。手術室のドアから顔だけのぞかせた高橋が押さえた声で連絡。すぐ循環器病センターと府立病院にも電話しなくては、と言いながら出ていく。手術室の空気は一段と緊張の度合いが高まる。ものの5分もたたないうちに、手術室に通じる患者用入口あたりから人声とドアを開けたてする音が静けさを破った。まもなく、手術室の扉があいて患者運搬車にのった提供者が搬入された。

 (中略)「メス」と言ったとたん、手術だけに気持ちが集中する。すでに心臓が停止している死体であるから、これは手術ではなく解剖だという見解もあるかもしれないが、それは内容を知らない人の意見に過ぎない。その内容の第一は、移植のための遺体からの腎摘出は完全に無菌的でなくてはならないし、第二に移植したあと腎臓から出血したりしないように十分な止血操作が必要であり、第三に腎臓を灌流冷却しなければならないし、したがってポンプを使った吸引操作が加わる。これをみて手術ではない解剖だという人はいないであろうし、やっている本人すなわち移植医でこれが解剖だと思っている人は1人もいないはずである。

 (中略、摘出した腎臓を持った医師が出発後)、高橋と経過の記録がきちんとされているかどうかの検討が始まる。
「心停止と死亡宣告は」
「14時ちょうどです」
「体内灌流開始は」
「14時ちょうどです。だから温阻血時間はゼロになります」
「えーと、手術開始以後は」
「手術開始14時06分、左腎摘出14時25分、左腎灌流終了14時35分。それから、右腎摘出14時40分、右腎灌流終了14時45分」

 遺体をきれいに拭き、遺族が用意した真新しい浴衣を着せ、胸の前で手を組み合わせ、すっかり整ったのは15時を20分ほど廻った時刻であった。

当Web注:心停止時刻と死亡宣告時刻そして体内灌流開始時刻が、ともに14時ということは、三徴候死の観察は行なわれなかったことになる。技術的には、この当時もダブルバルーンカテーテルを使用したと見込まれる(参照:柳田洋二郎ケース)。
 A:脳内出血患者(ドナー)に再出血をおこしかねないヘパリン投与、そしてB:大腿部を切開して血行を阻害するカテーテル挿入が、脳内出血患者の容態を悪化させて血圧低下を引き起こし、心停止にいたった可能性がある。そして一瞬の心停止をとらえたダブルバルーンカテーテルの拡張が、この脳内出血患者の動脈、静脈を閉塞して、心停止を確定させたと見込まれる。

 


19880331

カナダ基準で脳死、米国基準で自発呼吸
臓器提供を撤回 脳死判定は信頼できない
McMaster大医療センター 新生児を脳死判定

 ザ ニュー イングランド ジャーナル オブ メディシン318巻13号は、カナダで脳死判定され、米国に臓器提供をしようと米国基準で脳死判定したところ、自発呼吸が確認され臓器提供が撤回された事例“BRAIN DEATH SANS FRONTIERS”を掲載した(p852〜p853)。著者はSimon D.LevinとRobin K.Whyte(McMaster University Medical Center)。

 37週で出生した2530グラムの女児が、生後41時間後にカナダの脳死判定基準を満たした。動脈血二酸化炭素分圧を54mmHgまで上昇させて、自発呼吸がなかった。米国の移植組織により心臓の利用が検討され、60時間後に米国の脳死判定基準(無呼吸テスト時に動脈血二酸化炭素分圧を60mmHgまで上昇させる)にもとづいてテストされた。

 この女児は動脈血二酸化炭素分圧が59mmHgまでは無呼吸だったが、その後64mmHgに上昇するまでsteadily(しっかりとした)呼吸をした。臓器提供の同意は、両親により撤回された。

 米国、カナダ、英国の脳死判定基準は、無呼吸テストで自発呼吸がないことを確認する動脈血二酸化炭素分圧レベルが異なることを除いては、ほぼ同じだ(英国は50mmHg、カナダは50mmHgから55mmHg、米国は60mmHg)。

 脳死を確定するテストは、脳血流停止の証明を除いてはunreliable(信頼できない)。

 

当Web注:日本の無呼吸テストも「動脈血二酸化炭素分圧を60mmHgまで上昇させても呼吸が観察されなければ、無呼吸と判定する」としている。
 刺激を加えて反応を観察するテストは、「反応するのに充分な強さの刺激を加えることができているのか」「どの強度までの刺激ならば、許容されるか」「刺激が反応を返す中枢まで届いているか」「反応はしているが、観察できていないのではないか」という問題がある。無呼吸テストでは、上記以上の動脈血二酸化炭素分圧で自発呼吸が確認されている。臓器摘出の直前に自発呼吸が確認されたケースもある。脳血流検査も、精度の低いことが多数報告されている。

 


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