近畿の救急施設 12歳児の心臓を摘出 心停止6時間内
東京女子医科大 心臓死?後わずか15分で心臓を摘出
「今日の移植」第9巻4号はp299〜p328に“Tissue
Bank(心臓弁、血管、気管、骨関節など)の現状と将来構想”を特集した。
奈良県立医科大学第三外科学教室の庭屋 和夫氏らは「凍結同種弁組織バンク構想の現況と問題点(p307〜p310)」のなかで、1991年12月から1995年8月までの同種弁(大動脈弁、肺動脈弁)の提供・移植状況を報告。
近畿圏の3次救急施設から、腎臓などの臓器や角膜、皮膚などの提供と同時だったのは26例、年齢は12歳〜67歳、男性18例、女性8例。各ドナーが心停止してから同種弁を摘出して冷蔵保存するまでに要した時間(温阻血時間)は70分〜360分。病理解剖承諾症例からの提供は12例、35歳〜74歳、男性10例、女性2例。温阻血時間は120分〜520分。現在までに28個の大動脈弁と3個の肺動脈弁を、奈良県立医科大学と国立循環器病センターで組織移植に用いた。
東京女子医科大学 日本心臓血圧研究所外科の八田 光弘氏らは「心臓弁、血管の保存管理体制と臨床経験(p325〜p328)」のなかで、これまでの八田氏らが摘出したのは4例と報告。ドナーの年齢は48歳、44歳、22歳、17歳。男性3例、女性1例。死因は脳血管障害、肺梗塞、喘息重積発作、脳挫傷が各1例。温阻血時間はそれ
ぞれ15分、130分、101分、106分だった(臓器提供症例・病理解剖症例の区別は記載がない)。
当Web注
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温阻血時間は、ドナーの死の3徴候の不可逆性を観察して、家族がドナーと最後の別れをするだけでも15分以上かかる。さらに病室から手術室への搬送、ドナーの皮膚消毒、切開、心臓
全体(または心臓弁を含む心臓の上部)の摘出などに相当の時間を要するはずだが、温阻血時間が15分と極めて短い理由については記載がない。
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心室細動が20分間継続した患者でも、蘇生され生存退院した症例がある
。心臓の拍動の自然再開例は、約12時間後まである(参照:心臓が停止した後に、いつまで蘇生が可能か)。
30歳女性の脳死患者が意識回復、自力歩行、質問に応答
2回目の脳死判定は自発呼吸下 東京女子医大・横山論文
クリニカル エンジニアリング 1996年5月号はp421〜p426に、東京女子医科大学
第1外科の横山 正義氏による“医工学治療と倫理問題 「植物状態」VS.「品位ある死」”を掲載。脳死判定された30歳女性患者が意識を回復したことを報告した。
これは九州の某大学病院に心臓弁膜症で入院中のAさん。人工弁手術後15日目の朝、脳血栓症で全身痙攣、30分後に瞳孔が散大し、呼吸が停止、人工呼吸器を装着した。脳波平定、脳神経専門医の診察は「脳の局所的障害ではなく、脳全体が広範に障害されている。無呼吸、瞳孔散大、対光反射消失などは延髄(生命の中枢)の障害を意味する。痛覚も消失している。したがって、今後の見通しは悪く、回復はほとんど望めない」。
約3週間、集中治療室で患者を治療し、人工呼吸器を使用しているものの状態がそれなりに安定してきたので、患者を一般病室に戻した。患者はうめき声のほか、声を出さない。ときどきベッド上で全身性痙攣発作を起こす。
脳梗塞以来1ヵ月を経過し、人工呼吸器だけは取り外せた。しかし意識はなく、瞳孔は散大、脳波の結果も不変であり、再度の脳死の判定が下された。
意識消失以来4ヵ月経過、「患者が何かしゃべるようだ」という。ミカンを患者の口の中に入れたら「すっぱい」というような発言をしたという。横山氏は「死ぬ予定になっていた患者が話し出したという。幽霊かもしれない」と書いている。脳神経の専門家の診察結果は「不思議にも回復の過程に入っている。脳波も以前のように平定ではなく、スパイクが認められる。これまでの診断は間違っていた。訂正する」ということであった。
心臓手術後7ヵ月経過、Aさんは自分でトイレに行ける。目は少ししか見えないが、何とか手探りで歩けるようになった。耳は聞こえ、周囲の質問には幼稚な言葉で返答するが、言葉になっていない。
横山氏は「急にAさんが声をあげ始めたときは、病院スタッフ全員で大喜びした。『脳神経専門医の診断はあてにならない』と言った人もいた。しかしその後のAさんの状態をみると、やはり専門医の診断は正しかったと考えざるをえない。Aさんが無意識状態から回復したという点では、なるほど誤診であったが、脳の障害との関連でみれば、診断は正しかった。Aさんの知能は幼稚園児以下である。『奇跡の回復』という言葉はあるが、現在の脳神経専門家からみれば、診断は当たらずとも遠いからずである。『奇跡』の介在する余地はほとんどない」・・・・・・「生きているだけが人間ではない。意識があっても生きようとする努力がなければ、生きている意味がない」と書いた。この論文の文末では、「(疾病の)回復可能性のないときは自然死を選択する。これが生と死の調和であり、現代医療の中に仕事をしている我々の義務である」としている。
クリニカル エンジニアリングの編集顧問は東京女子医大の太田 和夫氏と藤田保健衛生大の岡島 光治氏。
当Web注:脳死判定や移植を積極的に推進する人の意見も、当Webではそのまま掲載しています。これは「取材および著作物からの引用は正確に行うべきであること」、そして「推進論者に、どのような意見があるのかを広く知らせることに意義がある」という理由によります。肩書きは当時。「九州の某大学病院」としているが、他地域あるいは自施設の可能性もある。
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