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20101120

日本生命倫理学会・第22回年次大会 移植外科医が大会会長
心停止ドナー最多、救急病棟を移植医が回診する藤田保健衛生大で開催
神野・脳外科教授 提供側医師は患者をいかに安らかに死なすかを考える  

 日本生命倫理学会・第22回年次大会が11月20日(土)、21日(日)の2日間、“社会における生命倫理”をテーマに藤田保健衛生大学(愛知県豊明市)で開催される。大会長は同大学臓器移植再生医学教授の杉谷 篤氏。以下は、プログラム・予稿集より注目される発表の要旨(タイトルに続くp・・・は掲載ページ)。

当Web注:藤田保健衛生大学付属病院は、「心停止後」と称する献腎摘出回数が1995年4月〜2007年12月では92回(移植44巻6号p534)と国内最多施設。このサイト内では、同病院における小児からの「心停止後」臓器摘出を「脳死」小児からの臓器摘出例ページ内に 掲載、心停止ドナーに対する簡略化した脳死判定は心停止後臓器提供の終焉ページ内に 掲載、心停止ドナーへのドナー管理も脳死になる前から始められたドナー管理ページ内に掲載してある。

 

*神野 哲夫(藤田保健衛生大学脳神経外科名誉教授、世界脳神経外科学会名誉会長):特別講演 脳外科医からみた脳死、p25

 脳死段階での臓器提供数が伸び悩んでいるとのことである。その原因は、実際のところ何処にあるのであろうか。脳外科医として、また救急医として45年間仕事をしてきた。その中で得た若干の経験をもとに議論を展開してみたい。
 日本人にはなぜ少ないか。明確な答えは無いが、言えることは「現在の日本人は確たる宗教観、人生観、哲学があって拒否しているのではない」ということであろうか。他人への奉仕、Donationの気持ちはますます萎えている。大体、日常、家族間や友人間でも死後についての話し合いはまずない。この点は、脳死段階で家族にムンテラする時、強く感じる。提供側医師(脳外科医、救急医)と移植医のコミュニケーションが薄い。提供医側は患者をいかに安らかに死なすかを考え、移植医側は他の患者をいかに生かすかを考える。根本的に両者の接点は日常業務において少ない。
 以上のごとく、日本の現状は脳外科医よりみると全てに八方塞がりの感がする。しかし、演者が移植医療に関心を持った切っ掛けは、ある移植された患者の術前後を見せて頂いて以来である。カテ内に何も流れていなかったが、術後、光輝くきれいな尿が流れているのを見た。このような感動をいかに多くの人に与えるか、この辺に解決に糸口があるかもしれない。

当Web注:11月20日の講演で神野名誉教授は、 上記の内容以外に、同大学で遷延性意識障害患者の治療に取り組んだ脊髄後索電気刺激療法や、札幌医科大学における脳虚血に対する幹細胞移植の成果を示して、「Brain death =No return sure? これからも脳死は不可逆的だろうか?私は一度も脳死からの回復は経験していない、長期脳死は最近1例だけ経験したけれども・・・死の作法があるべき」と講演した。
 講演後に、当サイト開設者の守田が神野名誉教授に「あなたは1988年にGeriatric Medicine26巻4号で、脳死判定した4ヵ月男児が1ヵ月後に自発呼吸をしたこと、178日間生存したことを報告しているではないか」と問うたところ、神野教授は「そうです。(脳死判定は)絶対ではないんです」と答えた。続いて、守田が「『提供医側は患者をいかに安らかに死なすかを考える』と言うならば、臓器提供時点において 脳死の臓器ドナーは死んでいない。あなたは脳不全患者を安楽死させたのか?」と尋ねたところ、神野名誉教授は「いかに安らかに死なすかを考えるというのは、遷延性意識障害患者のことです」と答えたため、守田が重ねて「これまで遷延性意識障害患者は臓器ドナーにしていない。 脳死段階で患者家族にムンテラしている。過去に安らかに死なせた患者のことを言ったのでしょう」と問うたところ、神野名誉教授は「それは誤解を与えました」と答えた。

 

杉谷 篤(藤田保健衛生大学臓器移植再生医学講座):会長講演 移植医療の現状と展望、p24

 1997年に我が国でも「臓器移植法」が制定され、法治国家としての体制がスタートを切った。本講演では、まず移植医療の現場の人々が抱いている本当の気持ちを紹介したい。医療関係者であっても、移植医療と手術の現状を知らない人は多い。私の専門とする腎移植・膵移植の領域を例にとって、生体ドナー、心停止ドナー、脳死ドナーからの臓器提供や移植手術がどのように行なわれるかを示し、以前と比較して、提供側の主治医、コーディネーター、移植医がどのように分業化を成熟させてきたかを示したい。移植に代替する治療法の進捗状況も紹介し、今後の移植医療の展望と今、我々が領域・専門分野の壁を越えて「学際的に」何を模索しなければならないかを考えてみたい。

当Web注:11月20日の講演で、杉谷教授は「長期脳死症例について無呼吸テストなど正式な脳死判定をしていない」と虚偽の講演を行なった。厚生省“小児における脳死判定基準に関する研究班”平成11年度報告書:小児における脳死判定基準(日本医師会雑誌124巻11号p1623〜p1657、2000年)は、無呼吸テスト2回以上実施、神経学的検査2回以上実施の第T群で、7日以上生存が14人(70%)、30日以上生存が7人(35%)であったことを報告している。竹内 一夫氏らは、この報告書において長期脳死症例を「第1回の脳死判定時から心停止までに30日間以上を要した症例」と定義した。

 杉谷教授は2002年から九州大学医学部附属病院講師、2008年から藤田保健衛生大学医学部教授。この間、以下の行為に直接または間接的な関与が見込まれる。 心臓死以前からの臓器摘出目的の処置(非合法の脳死臓器摘出)、血圧80mmHg時の脳死判定の容認、術前処置によるドナーの容態悪化の可能性、ドナー候補者家族の承諾の任意性、三徴候死の確認、腎移植の医学的必要性など、倫理的にも法的にも疑問が多い。

  1. 石橋道雄、杉谷篤ほか:「心停止下における膵ドナーの摘出条件」ガイドラインに関する膵・膵島移植研究会ワーキンググループ報告、今日の移植、14(3)、355−357、2001=「心停止下における膵ドナーの摘出条件」は、心停止前に大腿動・静脈に膵臓を灌流するためのカテーテルを挿入すること、人工呼吸器の継続が中止されることが望ましい。

  2. 杉谷篤(九州大学臨床腫瘍外科):臓器保存シリーズ31 当施設における献腎摘出方法、Organ Biology、13(1)、53−64、2006=1995年以降の心停止ドナー自験例28例の温阻血時間(おんそけつじかん:心停止から臓器に冷却液が灌流するまでの時間)は平均9.6分(0〜45分)

  3. 竹内徹ほか(日本臓器移植ネットワーク):平成13年度献腎移植全症例の概要について:症例No.50-58、臨牀と研究、80(6)、1156−1157、2003=32歳男性は交通事故による脳挫傷、2001年5月24日入院、8病日目死亡。心停止前カニュレーションを実施。人工呼吸器を停止後、心停止後の検視を実施し両腎を摘出。温阻血時間2分

  4. 杉谷篤(九州大学病院 腎疾患治療部):迅速生検結果によって移植を決断した死戦期無尿状態の献腎移植の1例、移植腎病理研究会・第8回学術集会、2004年http://www.sec-information.net/kidpatho/data/8th/wadai2.html=ドナーは57歳男性、死因は小脳出血。心停止前にカニュレーション、ヘパリン加ののち30分後に心停止となった。温阻血3分 。

  5. 九州大学病院:献腎移植症例の検討 事例(3)福岡県、臨牀と研究、82(8)、1411、2005=提供者は縊頚の39歳男性、2004年1月入院、第7病日目死亡。心停止前にカニュレーションを実施し、心臓停止後両腎摘出となる。温阻血時間1分

  6. 杉谷篤(九州大学大学院腎疾患治療部)ほか:臓器移植法施行後の心停止下膵腎同時移植2例の長期経過、移植、40巻(総会臨時、198、2005=症例1ドナーは30代女性。カテーテル挿入、人工呼吸器オフのち33分後に心停止となった。レシピエントは36歳女性。症例2ドナーは20代女性。血行動態は安定しており、カテーテル挿入を行ったが、人工呼吸器は停止せず約40分後心停止となった。レシピエントは40歳女性。

  7. 2006年6月28日開催、第2回臓器移植に係る普及啓発に関する作業班資料、福岡における臓器移植に係る普及啓発に取り組み(杉谷参考人提出資料)http://www.wam.go.jp/wamappl/bb13GS40.nsf/0/c672c7ba2035c2254925719c001fbedc/$FILE/20060629siryou4.pdf= 2006年3月16日6時30分に急性心不全、意識不明で発見されてから血圧80mmHgだった62歳男性が、3月17日14時に脳波が平坦とされ、臨床的に脳死状態と判定された。同日20時、九州大学病院の臓器摘出チームによってカテーテル挿入が行われた。3月21日、提供病院主治医にルートをフラッシュしてもらう。3月22日10時に一時、心停止となるも昇圧剤と心肺蘇生術により心拍が再開。九州大学病院に帰還していたドナーチームメンバーが揃った後に腎臓の冷却灌流、摘出準備を開始。12時45分に主治医が死亡宣告、2分後にベッドサイドで体内灌流開始(温阻血時間2分)、12時50分ドナー手術室入室。13時4分両腎摘出した。

  8. 医療経済的にみても不適切と考えられる腎臓移植後の超早期死亡例・早期死亡例が、九州大では移植術後10時間以内や7日目、藤田保健衛生大では34日目、247日目、2年8ヵ月目など発生している。
     

 

*倉持 武(元松本歯科大学):臓器移植2009年法の周辺、p31

 昨年のシンポジウムでは、2009年法は、移植に向かう限りにおいて脳死を人の死とする法案であって、「脳死は一律に人の死」とする法案ではないことを中心にお話しました。本年は、この「前提」にかかわる問題を中心に、近い将来必ずや議論しなければならなくなると考えられる問題の検討を通して、脳死患者の取り扱いは、生死判断を含めて、医学は法律で一律に決定するのではなく、患者本人あるいは患者の家族の意思に任せよう、と提案したいと思います。検討しようと考えている問題は、

  1. 心停止下臓器移植

  2. 移植に関わらない「脳死」

  3. 脳死判定基準と長期脳死
    3-1.長期脳死・脳死からの回復
    3-2.脳死判定基準の欠陥

  4. 結論に代わる提案
    4-1.死亡判定基準・治療停止基準
    4-2.家族・遺族意思表示原則

Web注:長期脳死そして脳死からの回復について、事実関係の確認のやりとりをする時間が設けられなかった。そして、その後にシンポジウムオーガナイザーの1人が質問表を整理している時間に、もう1人のオーガナイザーである星長清隆・藤田保健衛生大学病院院長(脳外科病棟を早朝に同行回診する移植医側トップ)が「それは脳死判定が正しいものだったかどうかという問題があると思いますが・・・」と触れるだけだった。星長院長は、単に時間的な穴埋めで喋り、発表者が応える余地なく、発表の信頼性を落とす効果のある疑問のみ呈した。

 

*植田 育也(静岡県立こども病院 小児集中治療センター):小児ICUと脳死下臓器提供、p53

 改正臓器移植法施行直前に、臓器提供施設に関して種々のアンケート調査が行なわれた。その中で、決まって表出されたいくつかの「現場の不安」がある。それらは、「小児の脳死判定に自信がない」、「家族への対応をする余裕がない」、「小児虐待を診断するのが困難」という事項である。
 実は、これらの「現場の不安」は、奇しくも小児の脳死の問題を契機に、日本での小児の救命救急医療体制が未整備であるという知られざる事実を露呈させるにいたったのである。小児の脳死判定に不安を持つ施設とは、つまり小児の集中治療がしっかり行なえない施設ということである。家族への対応ができない施設とは、つまり小児医療そのものをしっかり行なう基礎のない施設ということである。小児虐待を診断できない施設は、つまり小児救急医療そのものをしっかり行えない施設ということである。
 小児救命救急医療を提供するPICUを全国に整備し、専門医を養成していくことが、脳死と移植の問題にも大きな意義を持つ。「小児の脳死を判定する」「親への対応をする」「虐待を判定する」専門チームの派遣、というプランがあるが、それはピンポイントで改正臓器移植法の施行のためにはなっても、多くの小児のベネフィットとなる日本の小児救命救急体制の確立には寄与しないということに気づいていただければと思う。

当Web注:11月21日に植田医師は、当サイト解説者=守田からの「2回の無呼吸テストを含む正式な脳死判定後に、心停止に至らず長期間に生存する小児が多いにもかかわらず、脳死判定基準を満たしたら人の死とすることは、『心停止に必ず至るから脳死は人の死だ』と思い込んでいる国民に対して、『脳不全は人の死』と医療者が押し付けることになるのではないか」との主旨の質問に、「脳死判定された小児は、いずれ心停止に至るので問題はない」との主旨の回答を行なった。
 前日、「長期脳死症例は正式な脳死判定を受けていない」と講演した杉谷大会長は、21日のシンポジウムで座長を務め、この質問を「脳死判定の問題があることが指摘されました」と紹介せざるをえなかった。

 

*小松 美彦(東京海洋大学海洋科学部):和田移植の知られざる一面 麻酔科医小川秀道を通じてみた当時の生命倫理観、p62

 和田心臓移植に麻酔科医として手術に参与し、胸部外科グループとは異なる立場の小川秀道(現・旭川医大名誉教授)に3時間程度のインタビューを行なった。
 当時の医師は大学病院に籍を置く者でさえ、バイオエシックスはもとより倫理思想とはほとんど接点がなく、「ヒポクラレテスの誓い」を知る程度であった。小川は、和田を正面から批判する姿勢は見せなかったが、移植前後の和田の振る舞いに疑問を呈した。また、小川の言説の行間を読むならば、ドナーの死の判定が不十分であったことが示唆されており、和田移植に内在していた諸問題が浮き彫りになった。とりわけ、密室状態と言われてきた手術室のうち、ことにドナー側の手術室は、麻酔科医の小川も立ち入れず、二重の密室状態だったことが判明した。

 

*神里 彩子、武藤 香織(東京大学):移植用臓器の作成を目的とした動物−人キメラ個体の産出 再議論に向けた検討課題の提示、p117

 移植用臓器の不足が叫ばれて久しい。この問題の長期的な視野からみた解消法の一つとして、動物−人キメラ個体の産出が提案されている。動物−人キメラ胚は「動物性集合胚」に該当し、「特定胚の取扱いに関する指針」では、人の細胞からなる移植用臓器の基礎的研究に限って作成を認めているが、作成された動物性集合胚の動物の胎内への移植は、「当分の間」禁止している。しかし、2008年には膵臓欠損マウスの初期胚に別のマウスのiPS細胞を注入して膵臓の作成に成功したことが報告されている。こうした状況から、人の臓器の作成を目的とした動物性集合胚の動物胎内への移植の是非について、議論を再始動すべき時期に来ていると言える。

 


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