大阪府立病院 温阻血時間0分で摘出された腎臓を移植
生前カテーテル挿入の傷害 腎提供者が生存中に脱血か
大阪府立病院は、1985年12月31日から1986年8月30日までに4例の死体腎移植を行った。大阪府立病院医学雑誌10巻1号に掲載された「腎移植症例の概要」は表のとおり。
腎移植症例の概要(原文の表1と表3の主要部分) |
No. |
受者
年齢/性別 |
提供者
年齢/性別 |
腎移植年月日 |
温阻血時間 |
術後腎機能状態
86年12月末現在 |
1 |
45/女 |
48/男 |
85.12.31 |
30分間 |
摘除 |
2 |
34/女 |
12/男 |
86. 5. 3 |
1分間 |
良好 |
3 |
31/女 |
43/男 |
86. 6.13 |
2分間 |
良好 |
4 |
39/女 |
26/男 |
86. 8.30 |
0分間 |
良好 |
腎臓提供者の脳死に至った直接的原因は、脳動脈瘤破裂が2例、交通事故による脳挫傷1例、急性循環不全1例であった。死体腎の摘出は、心停止後の死体内腎灌流冷却に始まる。大腿動・静脈より腹部大動脈・下大静脈に灌流用カニューレを挿入し、静脈側よりの脱血を最初に行い、動脈側より冷却電解質灌流液により腎灌流を行う。温阻血時間は心停止より冷却電解質灌流液による腎灌流開始までの時間である。
出典=伊藤 喜一郎(大阪府立病院泌尿器科):当院で施行した死体腎移植4例の経験、大阪府立病院医学雑誌、10(1)、60−64、1987
当Web注:灌流用カテーテルの挿入に約10分間を要することから、温阻血時間が0分間〜2分間の臓器提供3例は、生前からカテーテルを挿入されていたことは確実とみられる。生前から第3者目的(臓器移植待機患者のため)の行為は傷害行為となる。
また、温阻血時間が1分間や2分間の臓器提供者は、死の三徴候の継続の観察が社会通念とは大幅に異なる短時間で行われたことを示す。そして、温阻血時間が0分間の臓器提供者は、
「生存中に脱血された可能性」または「心停止を59秒間以下しか観察せずに脱血された可能性」が高い。なお、臓器提供施設は同病院以外も含むとみられる。
近畿大学泌尿器科学教室 冷阻血時間28分の死体腎移植
「脳死に近い状態で腎摘するほうが腎機能回復には好ましい」
近畿大学医学部泌尿器科学教室は、1980年から1986年1月までに死体腎移植28例を経験した。
このうち22例については、泌尿器科紀要33巻11号p1756に、腎提供者の年齢、性別、温阻血時間、冷阻血時間を掲載している。ドナー年齢は24歳〜62歳、温阻血時間は1分〜45分(17例目以降はすべて1分)、冷阻血時間は28分〜11時間52分。
p1757に「温阻血時間が短い、つまり脳死に近い状態で腎摘するほうが腎機能回復には好ましい傾向を認めるようである」、p1758にも「温阻血時間が短い、すなわちできる限り脳死に近い状態で腎摘を行なう方が腎機能回復には好ましい傾向と考えられた」と記載している。
レシピエント側では、22例のうち6例が創出血を合併した。
出典=西岡 伯、上島 成也、石井 徳味、植村 匡志、国方 聖司、神田 英憲、金子 茂男、松浦 健、秋山 隆弘、栗田 孝(近畿大学医学部泌尿器科学教室):死体腎移植後無尿期の合併症 特に創出血について
、泌尿器科紀要、33(11)、1755−1759、1987
当Web注:腎臓移植待機患者への連絡、移植の意思決定、術前検査、術前透析などに20〜30時間を要する。冷阻血時間が8時間を超える移植例は22例のうち3例でしかなく、大部分は人為的な心停止ないし生体解剖=「脳死」臓器摘出を伺わせる。温阻血時間1分では、三徴候死は確認されていないだろう。
4例目ドナーは55歳女性、温阻血時間11分・冷阻血時間28分だった。レシピエントは34歳男性。滋賀医科大における1984年8月23日の臓器摘出と類似した、同一施設内においてレシピエント側の開腹が先行し、その後にドナーの人為的心停止が行なわれた可能性が高い。
近畿大学医学部泌尿器科学教室の秋山氏らは、第20回腎移植免疫研究会でも移植患者の早期死亡を報告している。
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