北海道の臓器提供施設医師ら 意思表示カードの所持率
道政モニターの4分の1〜60分の1と極めて低率
北海道の臓器提供施設の医師、看護師らの臓器提供意思表示カードの所持率は、道政モニターの4分の1〜60分の1と極めて低いことがわかった。
11月28日、29日の2日間、北海道大学学術交流会館で開催される第30回日本低温医学会総会プログラム・抄録集(低温医学、29巻3号、p69以降、貢なし)に掲載の「嶋村 剛:北海道の臓器移植推進のために」によると臓器提供病院意識調査への回答者は1204名、このうち医師は20%、看護師60%、その他20%。
意思表示カード所持には地域差が大きかったが、所持率は0.3%〜4.6%だった。全国平均値と比べて北海道政モニターはドナー・カードの所持率が高く、北海道庁の定期モニター調査(2000年)によると所持率は17.9%に達している。
嶋村氏らの調査によると、回答者のうち脳死の説明ができるものは35%、実際に関与したものは20%。臓器提供の説明ができるものは22%、実際に関与したものは17%だった。また道内21施設で入院時に意思表示カード所持確認が行われていることも報告している。その他の詳細は看護技術9月号に掲載された内容と同じ。
臓器提供しなくとも脳死は人の死、脳死判定は拒否させない
現行の臓器移植法の根幹も否定 臓器移植法改悪河野私案
衆議院議員の河野 太郎氏は、自らのメールマガジンごまめの歯ぎしり メールマガジン版 河野太郎の国会日記で臓器移植法「改正(改悪)」私案を公表した。
移植にかかわらず脳死を一律に人の死とし、判定も同意不要、家族の同意だけで臓器摘出を認めるなど、臓器移植法の根幹も否定している。自民党内部の検討会で否定された案を、再度公表した格好だ。
臓器移植法改正河野私案
- 移植に使用されるための臓器の提供の有無にかかわらず、脳死は人の死であることを前提とする(現行法の第六条二項の限定を解除)。
- 脳死判定に関して、本人の書面による意思表示及び遺族の同意を必要としない(現行法の第六条三項の削除)。
- 現行の要件に加え、脳死になったもの本人が生前に臓器提供に反対の意思表示をしていなかった時にも、遺族の書面による承諾によって臓器を提供できるものとする。
- 三の場合において、脳死になった者が未成年である場合は、親権者であった者の書面による同意を必要とする。
- 脳死になった場合に親族に臓器を優先的に提供する意思をあらかじめ生前に明確にすることによって、脳死になった場合に、親族に優先的に臓器提供できるものとする。
- 自動車免許に臓器提供の意思を明記する欄を設け、免許の更新時に臓器提供に関する情報提供を行う。
- 省令で定めた生後一定の月日が経っていない者からの脳死下での臓器提供は除外される。
河野氏は、私案の前に下記のコメントも掲載している。
特別国会開会式。ほんの1年半前には死にかけていた病人が、立派に衆議院議長としての職責を果たしているのを見て、臓器移植という医療の有効性を疑わない人はいないだろう。
問題は、日本で年間に五百件近く行われる成人間での肝臓移植のほとんど全てが健康な人間のお腹をかっさばいて、その肝臓をぶった切る生体肝移植であることだ。
肝臓移植は、ドナーの肝臓も半年で元に戻るからまだ良いかもしれな
いが(とは言ってもドナーの12%には後遺症が残っている)、生体肺移植や今度行われようとしている生体膵移植などの場合、ドナーの肺や膵臓は元に戻らない。
もちろん生体心移植はあり得ないし、小児移植も制限されている。その結果、海外で移植を待つ日本人の数は増える一方だ。
さらに、親族に限られている肝臓移植のドナーを、親族以外でもできるようにしようなどという動きまである。ドナーの候補者に対する社会的なプレッシャーを考えれば、これはあまりにおかしい。
もはや、現行の臓器移植法を改正し、脳死からの臓器提供を現実的な
ものにすることは避けて通れない。
そこで、臓器移植法の改正の議論をスタートさせるために、あえて、河野太郎私案を述べる。これを一つのきっかけてしていただきたい。
人工心肺による酸素化血液供給下で心臓死?臓器摘出
48歳男性から 岐阜大学医学部救急部
11月19日〜21日までの3日間、東京国際フォーラム(東京都千代田区)を会場に、第31回日本救急医学会総会が開催。岐阜大学医学部救急部の森 義雄氏は、人工心肺による補助循環下に心停止した48歳男性から、臓器摘出したことを報告した。
森 義雄:心臓死臓器提供の申し出を得た来院時心肺停止の2症例の検討、日本救急医学会雑誌、14(10)、659、2003より。
48歳男性、会社で仮眠中、同僚に呼吸停止の状態を発見され、27分後より救急隊によるCPRが行われ、ACLSを開始した。ACLSの継続にも拘らず、心拍再開は得られず、PCPSの適応と判断し、来院後60分後にPCPS開始した。PCPS開始3分後に心拍が再開した。ICU入室後、一時的に自発呼吸がみられたが、6時間後に消失し、その後、尿崩症となった。本人はドナーカードを所持していなかったが、翌日、当院の臓器提供マニュアルに従った臨床的脳死の判定で臨床的脳死であると判定された。日本臓器移植ネットワーク移植コーディネータにより心臓死臓器提供についての説明がなされ、心臓死臓器提供(腎臓、角膜)の同意が得られた。
心停止の確認後、PCPS補助下で手術室に入室し、臓器提供となった。各症例(この論文ではPCPS補助の記述が無い59歳男性からの骨、角膜、腎提供も報告している)から提供された腎臓は、日本臓器移植ネットワークにより選出されたレシピエントに移植され、移植後の腎機能は良好であった。
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このドナーは年齢や経過から第8回静岡県腎移植研究会において日本臓器移植ネットワーク中日本支部の浅居 朋子氏らが発表した、3名の人工心肺装着ドナーのうちの1人
の【症例1】48歳男性と推定される。
用語説明
CPR:Cardio-Pulmonary Resuscitation、心肺蘇生法(心肺蘇生法のABCとしてA:Airway気道確保、B:Breathing(人工)呼吸、C:Circulation循環(心臓マッサージ)がよく用いられる)
BLS:Basic Life Support、一次救命処置(人工呼吸、心臓マッサージ、除細動)
ACLS:Advanced Cardiovascular Life Support、二次救命処置(気管挿管、薬剤投与、心停止時のみならず重症不整脈、急性冠症候群、急性虚血性脳卒中の初期治療までを網羅)
PCPS:Percutaneal cardiopulmonary support、:経皮的心肺補助装置
ヒトの死後脳から神経幹細胞を採取、移植を検討 札幌医科大
死体の神経幹細胞を脊髄に移植、機能回復を実験 京都大学
札幌医科大学・神経精神医学講座および脳神経外科では、ヒトの死後脳から採取した神経幹細胞を培養、分裂を10数回させて未分化のまま10ヶ月間以上維持する実験に成功しており、神経疾患(脳梗塞、頭部外傷、脊髄損傷、脱髄疾患)の患者に移植して治療に用いることを検討している。
神経精神医学講座の鵜飼 渉氏らは、脳の科学 25巻10号 p1063〜p1069の「ヒト神経幹細胞を用いたうつ病の治療」において「神経細胞の数の回復や、神経ネットワークの再構築を促進することでうつ病を改善できる可能性も考えられる。・・・・・・抗うつ薬や気分安定薬で処理した神経幹細胞の増殖・分化がどのように変化するか、・・・・・・倫理的な問題のクリアなど、臨床応用にむけては今後さらに段階的なプロセスを経ていくことが要求される」とした。
同大学・脳神経外科の本望 修氏らは、脳の科学 2003年増刊号 p42〜p47の「神経幹細胞のソース」において、生着率、増殖能、分化能、分化制御、遊走能、機能再建、細胞確保、自家移植、現実性の観点から検討。
ES細胞は、神経細胞以外の組織への分化が容易に起こってしまうこと。胎児由来神経幹細胞は、倫理的・社会的受容がなく必要細胞量の確保が困難なこと。骨髄細胞は骨髄移植で社会に受け容れられやすく細胞確保も容易、現実性も高いが分化能、分化制御については不明点のあることを指摘。
成人脳由来神経幹細胞については、自己の神経幹細胞を用いた自家移植療法は非常に有望、死後脳からの抽出・培養は「倫理・社会状況を注意深く見守る必要があると思われる」と整理した。
京都大学・生体構造医学講座でも同様の研究が行われ、井出 千束氏は2003年の第108回日本解剖学会総会・全国学術集会において「死体からの神経幹細胞は側脳室SVZを用いた。死後2日までは生存個体と同じ程度の神経幹細胞数が得られ、分化誘導によって生じるニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの割合も生存個体の場合とほぼ同じであった。死後4日以降ではほとんど樹立できなかった。個体の死後、幹細胞は比較的長い期間生存するものと考えられる。このように生存個体あるいは死体から得られた神経幹細胞を脊髄に移植して、修復・再生と機能回復を調べている」と発表した(解剖学雑誌 第78巻抄録号p95「生体由来の神経幹細胞と移植」)。
当Web注:井出氏らが移植した脊髄は、実験動物のものか、それとも生存している人間か、ヒト脊髄組織で試験管レベルかは不明。
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