106歳のSさんは呼吸が苦しくなり、食事も食べられないために入院されました。腎機能が悪く、胸部写真では心臓が腫大し胸水も溜まっています。Sさんは、入院前は普通に食事もされ、なんと歩かれてもいたようです。
しかし、何と言っても106歳です。呼吸困難は改善したもののべッドから離れることはできず、食事も食べられそうもありません。106歳のSさんですから子供さん達も皆、後期高齢者です。おまけにSさんは超ワンマンであったらしい。そんなSさんにご家族は「疲れました。もう無駄な医療はやめて欲しい」と、延命は望まれません。主治医との話の中で食べられない状態ではあるものの点滴も打ち切られました。
ところが数日後のことです。それまで意識もあまりはっきりしないような状態であったSさんが突然、「腹へった。飯よこせ。俺を殺す気か」と怒り出したのです。ご家族のお気持ちと異なりSさんは往生する気持などなかったのです。もちろんそうは言っても、そんなに食べられる訳ではありません。でも少しでも口に人り満足されれば良いと考え、食べられる物、食べられる分だけ食べていただきました。2週間後、Sさんはあの世へ旅立たれました。
療養病棟に入院されていたFさんも96歳で、腎機能も高度に低下しています。そんなFさんが肺炎になりました。ご家族は、延命医療は何もして欲しくないとのご希望です。でも現実に高熱があり、苦しんでいるFさんに肺炎の治療をしない訳にはいきません。急性期病棟に移り、抗生剤治療が行われました。
しかしFさん、スタッフにはあまり評判はよくありません。夜となく昼となく大声で叫ぶため、スタッフはその対応で大変なのです。よくわからない言葉ですので、言われることがなかなか理解できません。回診時にじっくり聴きますと、(中略)Fさんがまた何か言いました。
「? 何だろう。わからない」Fさんが頭の方に手をあげました。枕元に補聴器が置かれてありました。取り上げて装着してもらいます。「高いお金を出したが調子悪い」そんなことを言われました。
どうやらFさんが叫ぶのは高度の難聴のためのようです。Fさんにとっては大きな声が当たり前です。しかしそんな事情はなかなか理解されません。「いつも大声で騒ぐ、うるさい患者さん」になってしまいます。さて、Fさんは食べられるようになり、また療養病棟へ戻ります。でもご家族にはあまり歓迎されないようです。
90歳のIさんが受診されました。「最近以前に北べ体力がなくなったように思う。主治医は年のせいと言うが自分としては不安だ。検査をして欲しい」とのご希望です。検査の結果は、何も異常はありませんでした。むしろ年齢から考えれば立派なデータでした。
そのことをお話ししたら、Iさんは安心して帰って行かれました。帰り際に「今まで車の運転をしていましたがそろそろやめようと思っています」との言葉を残して行かれました。
意思を示すことができない場合を除き、どのように生き、どのように最期を迎えるかは患者さん自身が決める問題です。ましてや、「年だから」と他人が判断することは失礼かと思います。 |