第42回日本救急医学会総会・学術集会
兵庫医科大学救急災害医学講座:一酸化炭素中毒患者は、臓器移植ドナーの良い適応
兵庫県立西宮病院:臓器提供選択肢提示は、以前から持つ意思に気づかせ引き出す
第二岡本総合病院:移植知識をもつ救急医の養成、脳死報告義務、家族支援など提案
聖マリアンナ医科大学:臓器提供に、終末期家族ケアや循環動態安定で医療の継続対応
北海道大学病院:終末期医療の指針、3年間に生命維持装置停止63例、DNAR指示32例
北海道大学病院:10年間に法的脳死判定8例、診療録中に脳死の誤用が少なからずある
弘前大学:高齢者をイメージしにくい若者、年齢を理由とした高齢者の死を受け人れやすい
市立堺病院救急センター:高齢者の病床利用増加によって若年者の病床確保が困難になる
2014年10月28日から30日まで、福岡市内で第42回日本救急医学会総会・学術集会が開催される。以下は、日本救急医学会雑誌25巻8号より注目される発表の部分(各タイトルに続くp・・・は掲載ページ)
*藤崎 宣友(兵庫医科大学救急災害医学講座):一酸化炭素中毒の患者は臓器移植のドナーとなりうるか?ラット心臓移植モデルを用いた検討、p456
臓器移植を待つ末期臓器不全の患者は増加する一方で、臓器提供は需要においついておらず、境界領城のマージナルドナーに適応を広げる努力がなされてきている。熱傷や自殺に伴う一酸化炭素中毒は本邦では外因死となるため、法的に脳死ドナーの適応とならないが、実際に欧米ではドナーとして使用され、比較的良好な成績をあげている。我々は、一酸化炭素吸入がドナーおよびグラフトに及ぼす影響につき、ラット心臓移植モデルを用いて検討を行った。
ラットに250PPMの一酸化炭素を1時間吸人させ、心臓を摘出。UW液の中で8時問保存しラットに移植した。対照群は、3時間空気を吸人させた。
3時間後、レシピエント血中CPK、Tropinin 1の値は、空気群ではそれぞれ4265 IU/L , 155 IU/Lに対し、一酸化炭素群ではそれぞれ2132 IU/L
,76.3 IU/Lと有意に減少していた。
一酸化炭素中毒は臓器移植ドナーの禁忌ではなく、むしろ良い適応である可能性がある。
当Web注:古川らは法的脳死臓器提供者に占める自殺企図ドナー比率は13%と報告している。
*鴻野 公伸(兵庫県立西宮病院救命救急センター):脳死とされうる状態における患者の病状説明の際に行う選択肢提示とその間題点、p456
2012年4月から2014年3月の2年間に当センターで脳死とされうる状態となった患者は26例、年齢は35歳から84歳、平均67歳であった。8例に選択肢提示を行ない、残りの18例は高年齢や循環不安定など医学的理由で行えなかった。選択肢提示を行った8例のうち1例で臓器提供を行った。2例に患者自身あるいは家族に提供の意思があり、その2例とも来院から選択肢提示までに5日以上が経過していた。
家族が臓器提供の意思を示す場合、以前より本人や家族に臓器提供の意思があること。家族が患者の病状を受容するまで一定の時間が必要であると考えられ、選択肢提示は以前から本人や家族が持つ臓器提供の意思に気づかせ、引き出すものであると思われる。
*清水 義博(第二岡本総合病院救急部):救急現場から脳死下臓器提供への課題と解決策を探る、p456
改正臓器移植法が施行され5年で3倍の13.6%に臓器提供の意思記人が増加し、脳死後の提供が急増するはずであったが、未だ少ない理由を救急現場の実情を調査しその課題と解決策を論じる。
2010年に京都府の7救急病院で1か月間の死亡全例を調査した。83例が回収され脳死臓器提供適応が18例。5例が脳死診断を受けたが1例の選択肢提示もなかった。一方日本臓器ネットワーク西日本支部に入る全情報は1年間に約100例の適応だが選択肢提示は約半数で行われていた。ドナー候補が多いにもかかわらず移植に至らない理由をアンケートから見た。
理由順は家族からの申し出が無かった。脳死判定不可。5類型ではない。また選択肢提示は救急医には困難であるとの意見が大半であった。臓器提供が救急医の仕事でなく、脳死状態は治療において敗北であり、選択肢提示は治療の中断と捉えられ家族との信頼関係を損ねるとの懸念である。根本的に救急専門医が不足し、京都府では約100名と多忙な状況であり、臓器提供は賛成であるが、積極的には関与したくないという結果であった。
救急医に負担がないようチームでアプローチしサポートすること、移植知識をもつ多数の救急医の養成。脳死報告義務及びドナ一家族支援等提案する。
*小野 元(聖マリアンナ医科大学脳神経外科):臓器提供承諾書記載までの提供施設における「真の負担」の1考察、p457
院内医療協力部門として移植医療支援室を設置した2007年度から2013年度までの期間において提供情報から提供成立事例と不成功事例をあげ、承諾書作成までの期間や現場の家族ケアを含めて現場負担を検討した。
支援室への情報数は18件〜58件/年で、そのうち提供数は7件〜33件である。成立事例では家族希望や本人所持の意思表示カード事例が多く、不成立事例では医師からの選択肢提示事例であった。支援室への一報から承諾書作成に至った成立事例における期間は平均2日〜5日であり、承諾書作成に至らない不成立事例では支援室や現場における家族ケアを継続した期間は平均で7日〜14日であり、最長では1か月を要していた。
日本臓器移植ネットワーク「移植ドナーコーディネーター」の家族面談回数の多くは1回〜2回であり、家族ケアや支援を充分行えるとは思えない。提供のためには終末期家族ケアや循環動態安定に医療対応の継続が必要である。つまり法改正後の課題は提供不成立事例を含め、いまだ公表すらされない現場負担が多くあると考える。
当Web注:関西医科大学救命救急センターの千代医師は、1990年代に“3回の「説明」で提供を承諾したのが4例ともっとも多いが、17歳男児ドナーの場合は脳死5日後から2日後の心停止提供までの間に、5回の「説明」が熱心に行われた”と報告している。
*丸藤 哲(北海道大学病院先進急性期医療センター):北海道大学病院先進急性期医療センタ一における「終末期医療のあり方に関する指針」の実践と
人工呼吸中止、p457
2008年から終末期医療のあり方に関する指針(以下指針)の作成を開始し、2010年に病院倫理委員会・運営会議で承認された。
終末期医療実践のための前提条件を整えて2011年5月から運用を開始した。指針は、1)終末期医療のあり方、2)DNAR指示、3)救命の可能性がある場合の医師裁量による治療実施の三部から構成され
、これらの具体的運用マニュアルをあわせて作成した。
指針の運用開始3年で、終末期医療63例、DNAR指示32例、治療実施0例を実施した。終末期医療の実践内容は人工呼吸中止を含む生命維持装置の中止であり、DNAR指示では最終的な心停止時の心肺蘇生を施行しな
かった。当初医師・看護師ともに多少の混乱を見たが、終末期状態に関する合意形成・医療チームと患者・家族との話し合いなど、終末期医療への理解が深まった。人工呼吸中止は
、初回例では病院倫理委員会審議に紆余曲折があったが以降の症例では問題は生じていない。
指針の実践を通じて終末期医療への理解が深まったが解決すべき課題も多い。
*柳田 雄一郎(北海道大学病院先進急性期医療センタ一):三次救急施設における10年間の臓器提供の実態、p457
2003年1月から2013年12月までの10年間に院外から搬入された患者の診療録を後方視し、退院時要約中の“脳死”を含む症例のうち法的脳死判定実施例を対象とした。
法的脳死判定実施は8例(法改正前2例、法改正後6例)であった。臓器提供症例数は4(脳死下3、心肺停止後1)(法改正前1、法改正後3)、臓器提供意思表示カード所持症例数は
3(脳死下提供2、提供に至らず1)(法改正前2、法改正後1)、提供者の平均年齢は59歳(42−76歳)、臓器提供症例の脳死の原因はいずれも内因であった。また
、診療録中には“脳死”の誤用が少なからず見られた。
法改正により法的脳死判定実施数および臓器提供数が増した。適切な用語使用の徹底が課題である。
*加藤 博之(弘前大学医学部附属病院総合診療部):救急医療における高齢者の終末期医療を若年者はどう考えるのか 非医学生を対象としたアンケート調査より、p512
2006年4月〜2013年4月に、弘前大学の非医学生418名(平均年齢19.5歳)を対象とし「交通事故で回復不能な外傷を負った90歳の曽祖父」という架空の事例を提示し、(1)今後の治療方針についての希望、(2)自分が同様の状況に陥った場合に望む方針、(3)「尊厳死」という言葉を知っているか、(4)「高齢者」とは何歳以上をイメージするか、(5)治療方針の決定には年齢を考慮すべきか、を尋ねた。
63.6%の者が「患者の治療方針の決定には年齢を考慮すべき」と回答しており、過去の患者家族を対象とした同内容の調査とは対照的な結果であった。今後の治療方針として積極的な治療を望まないとする者が82.5%であったが、自分が同様の状況になった場合にはこの割合は62.4%に下がり、代って一切の治療を中止して欲しいとする者も18.4%存在していた。
当事者意識を持って高齢者をイメージしにくい若年者にとっては、年齢を理由とした救急医療における高齢者の死を比較的受け入れやすい傾向が窺えた。
*森田 正則(市立堺病院救急センター):超高齢化社会を現状のまま迎えると、高齢者の病床利用増加によって若年者の病床確保が困難になる、p513
2013年12月〜2014年3月までに救急外来経由で人院となった1457人のうち小児と妊産婦を除く1026名について、年齢別に人院日数、のべ人院日数、転帰について検討した。
人院日数は65歳未満:11.1±11.3日、65〜74歳:16.5±14.5日、75歳以上:17.9±13.9日。
のべ入院日数は、65歳未満:3863日、65〜74歳:3729日、75歳以上:8091日。
転機は65歳未満:軽快退院92%、転院4%、死亡4%。65〜74歳:軽快退院83%、転院11%、死亡6%。75歳以上で軽快退院72%、転院18%、死亡10%であった。
65歳以上の人院期間は65歳未満と比較して優位に長く、入院のべ日数は3倍に達し軽快退院率が低かった。10年後には75歳以上の人口が現在の倍となるため、病床利用のルールが変わりなければ、1.5倍の病床が必要である。しかし急性期病床は減少する流れであり、現行のシステムのままでは高齢者だけでなく若年者の病床確保も困難になる。今後は、高齢者に対する配慮と若年者の安全を分けたシステム構築の必要性である。
当Web注:このWebサイトでは、当事者が執筆または発表した表現を引用し、あるいは要約して見出しにも用いています(年号のみ西暦に統一します)。これは、正確な記録のための引用や要約です。当事者の表現や主張に対する「支持」または「支持しない」の、いずれも意味しません。支持または不支持についての参考情報は、「当Web注
」で提示する場合があります。
ジャハイ・マクマスさんへの脳死死亡宣告 取り消し請求
公聴会、11月に開催 カリフォルニア州アラメダ郡
指示に従う動作、MRI、月経、脳波、心拍など証拠
米国カリフォルニア州で脳死判定にもとづき死亡が宣告されていたジャハイ・マクマスさん(13歳)について、マクマスさん家族の弁護士は、脳死ではない新たな証拠が見つかったとして死亡宣告の取り消しをアラメダ郡上級裁判所に求め、公聴会は11月に開催される。
当初、公聴会は10月8日に開催される予定だったが、裁判所が指名した小児神経学者、スタンフォード大学のポール・フィッシャー医師の意見書に弁護士が異議を唱えて4週間延期された。フィッシャー医師は、独立した専門家として2013年12月のジャハイ・マクマスさんへの脳死判定に関わり、当初の脳死判定を正当とする意見書をまとめた。
SFGATEサイト内の10月9日付記事「Jahi
McMath hearing postponed after doctor’s determination」によると、フィッシャー医師は「the
doctors used standards and tests that are
irrelevant.」と脳死判定の不適切さを指摘しつつ、「Overall, none of the current materials
presented in the declarations refute my (Dec. 23) examination and
consultation finding ... or those of several prior attending physicians who
completed the same exams, that Jahi McMath met all criteria for brain
death,” he wrote. “None of the declarations provide evidence that Jahi
McMath is not brain dead.」と「ジャハイ・マクマスさんが脳死ではないという根拠はない」とした。
この記事には、9月26日撮影のMRI画像(脳に大きな損傷は見られるものの大脳皮質ほかの構造が保たれ、脳の液状化は起きていないことを示す)やTVビデオが2点掲載されている。TVビデオで短縮されている元の動画は、
ジャハイさんが母親の声による指示で足を動かす動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=jsSeM0RVKuA
手を二度動かす動画はhttps://www.youtube.com/watch?v=yh4YC-XjG9kで公開中。
他のサイトでは、Calixto. Machado医師は「MRI
Test Proves Jahi Not Brain Dead!」、そしてAlan Shewmon医師は「UCLA
Neurologist: Jahi “Alive!” “Awake!”」において、声による指示で動作すること(意識があること)、月経を開始したこと(性的に成熟したこと)、脳波に典型的脳死状態の波形が見られないこと、心拍変異図検査に典型的な脳死のパターンは見られないことなどを指摘している。