同胞間腎ドナー 消極的な受身型が8割、補償を求めるケースも
臓器提供決意後のドナー心理 移植リスク軽視・不安否認が多い
第47回日本心身医学会学術講演会
第47回日本心身医学会総会ならびに学術講演会が2006年5月30、31日の2日間、日本教育会館にて開催された。以下は心身医学46巻6号より(各タイトル末尾のp・・・は掲載ページ)。
中西 健二(日本臓器移植ネットワーク):生体腎移植のドナー決定過程における心理的緊張 夫婦間、親子間、同胞間生体腎移植との比較、p600
生体腎移植ではドナー選択に際し家族成員間で心理的緊張が生じ、こうした緊張がレシピエントとドナーの双方に心理的不適応を招く可能性が指摘されている。そこで夫婦間、親子間、同胞間生体腎移植を行ったドナー各10名の計30名に、腎提供の決断過程について面接した。
生体腎ドナーを、提供希望が強い「自発型」、提供希望が中程度で検査によって自分がドナーに適していると判明した後に提供に前向きになる「妥協型」、提供に消極的であり提供決断の意思決定も受け身的な「受け身型」に分類すると、夫婦間ドナーは全員が自発型であった。一方、親子間ドナーでは自発型が6名、妥協型が4名、同胞間ドナーでは自発型が2名、妥協型が4名、受身型が4名であった。
夫婦間ドナーには病苦から配偶者を解放したいという希望と、病気に苦しむ配偶者を見続ける精神的苦痛から自らも解放されたいという希望が存在し、腎提供を夫婦という一つのユニットがより健全な状態へ向かう獲得行為と捉えていた。
親子間ドナーには不自由な体に生んでしまったという罪責感が存在し、腎提供は子どもの健康と自らの罪責感を埋め合わす代償行為と捉えていた。
同胞間ドナーは腎提供を喪失行為と捉えており、術後レシピエントに対し、精神的経済的補償を求めるケースがみられた。
【結論】同胞間ドナーにとって腎提供は喪失行為であるため、レシピエントや他の家族との間に心理的緊張が生じやすい。一方、夫婦間や親子間ドナーでは心理的緊張は見られないが、移植腎が廃絶した場合、それが喪失体験となる(夫婦間)、あるいは新たな罪責感を生む(夫婦間)可能性が考えられる。
藤田 みさお(東京大学
大学院医学系研究科生命・医療倫理人材養成ユニット):成人間生体肝移植におけるドナーの心理・社会的背景(第五報) 臓器提供決意後のドナー心理、p512
京都大学医学部付属病院にて生体肝移植のドナーとなった22名に面接し、手術を迎えるまでの心理的経験について尋ねた。
いったん臓器提供の決意を固めたドナーは、行動面や心理面からその決意を強化しようとしていた。健康管理や身辺整理に励み、移植に難色を示すレシピエントを説得、周囲の反対も受け付けない傾向があった。移植のリスクは軽視され、不安も否認されることが多い。
一方、手術までの期間が長引くと焦燥感が生じ、そのはけ口が医療者に向けられることがあった。手術が近づき移植が現実味を増すと、強い緊張感を経験するドナーも少なくない。
【考察】臓器提供決意後のドナーは、意思決定前の不安や葛藤とは異なる精神的不安を感じていた。手術の待機状況について移植機関から定期的に連絡することができれば、こうしたドナーの負担は一部軽減できるだろう。ドナーから怒りを向けられた場合、医療者はその背景にある焦燥感を理解して受け止め、適切に対処することが望まれる。手術が近づくことで生じる緊張感に対しては、正確な医学的知識に基づく医療者の励ましや支持が有効であろう。
法的「脳死」臓器移植レシピエントの死亡は累計27人
日本臓器移植ネットワークは5月29日、Data
Fileページにおいて法的脳死判定ドナーからの肺移植手術を受けた患者28人に対して、生存している患者数が19人
(=死亡患者数が9人)であることを表示した。法的脳死判定手続下の臓器移植でレシピエントの死亡が判明したのは累計27例目。岡山医学会誌118巻2号p113〜p117および下記の日本呼吸器学会雑誌より
、死亡したのは岡山大で49歳または48歳で移植を受け4年4ヵ月経過、社会復帰後に慢性拒絶反応で死亡した患者とみられる。
柿崎 有美子(山梨県立中央病院内科):関節リウマチ合併間質性肺炎による呼吸不全に対し、脳死右肺移植後4年4ヵ月後に閉塞性細気管支炎による呼吸不全にて死亡した1例、日本呼吸器学会雑誌、45(増刊)、155、2007によると、2006年5月初旬に死亡したのは50歳男性。間質性肺炎で2002年1月初旬、岡山大学にて脳死右肺移植を受けた。術後、血胸、左気胸および吻合部狭窄を合併したが術後56日目に退院。酸素療法なく良好な経過だったが、肺炎にて入退院を繰り返した。2006年3月、岡山大学の定期健診で閉塞性細気管支炎が疑われた。山梨県立中央病院にて酸素療法を継続するも呼吸不全にて死亡。剖検にて移植右肺に閉塞性細気管支炎が確認された。
臓器別の法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。
- 2005年 3月 7日 50代男性←bP2ドナー(20010121) 心臓(国立循環器病センター)
- 2005年 3月21日 40代男性←bR2ドナー(20041120) 心臓(大阪大)
- 2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108) 右肺(東北大)
- 2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726) 右肺(大阪大)
- 2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329) 右肺(東北大)
- 2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110) 両肺(岡山大)
- 2004年 6月 7日 50代男性←bR0ドナー(20040520) 両肺(東北大)
- 2005年 3月10日 50代男性←bR6ドナー(20050310) 両肺(京都大)
- 2006年 5月初旬 40代男性←bP9ドナー(20040102) 右肺(岡山大)
- 2006年 5月27日 40代女性←bS6ドナー(20060526) 両肺(岡山大)
- 死亡年月日不明 レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
- 2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105) 肝臓(京都大)
- 2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319) 肝臓(京都大)
- 2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103) 肝臓(北大)
- 2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830) 肝臓(京都大)
- 2005年12月26日 50代女性←bS1ドナー(20051126) 肝臓(北海道大)
- 死亡年月日不明 20代男性←bQ9ドナー(20040205) 肝臓(大阪大)
- 死亡年月日不明 60代男性←bR6ドナー(20050310) 肝臓(京都大)
- 死亡年月日不明 40代男性←bQ2ドナー(20021111) 肝臓(北大)
- 2004年 6月頃 50代女性←bP5ドナー(20010701) 腎臓(東京女子医科大学腎臓総合医療センター)
- 死亡年月日不明 50代男性←a@5ドナー(20000329) 腎臓(千葉大)
- 死亡年月日不明 30代男性←bP4ドナー(20010319) 腎臓(大阪医科大)
- 死亡年月日不明 50代男性←bP6ドナー(20010726) 腎臓(奈良県立医科大)
- 死亡年月日不明 50代男性←a@2ドナー(19990512) 腎臓(東京大学医科学研究所附属病院)
- 死亡年月日不明 女性←bQ6ドナー(20031007) 腎臓(名古屋市立大)
- 死亡年月日不明 50代男性←bR6ドナー(20050310) 腎臓(国立病院機構千葉東病院)
- 2001年9月11日 7歳女児←bP2ドナー(20010121) 小腸(京都大)
46例目法的脳死 クモ膜下出血 金沢大附属病院
26例目死亡 岡山大で両肺移植の翌日40代女性
金沢大医学部付属病院(金沢市)に5月22日朝、クモ膜下出血で救急搬送された50歳代男性が5月24日、臨床的脳死と判断された。男性は臓器提供意思表示カードで、法的脳死判定に従うことを示す「1」には丸印をつけず、同じ欄の臓器にすべて丸印を記入していた。2004年12月の運用見直しhttp://www.mhlw.go.jp/public/bosyuu/iken/p0107-1.html以前であれば記載不備で提供が見送られたケース。25日午後0時半に第46例目法的脳死と判定。26日午前2時43分から臓器摘出手術(45例目)が始まり、同7時3分に摘出を完了した。
心臓は東大附属病院で肥大型心筋症の30歳代女性に、肺は岡山大附属病院でアイゼンメンジャー症候群(生まれつき心室中隔に穴が開き、肺に血液が流れにくい)の40歳代女性に、肝臓は東大附属病院で劇症肝炎の30歳代男性に、膵臓と腎臓は神戸大附属病院で1型糖尿病の30歳代男性に、もう一つの腎臓は金沢医科大病院で慢性糸球体腎炎の50歳代男性に移植された。小腸は移植不適と判断された。
岡山大病院で26日、両肺移植を受けた40歳代女性患者は27日死亡した。女性は肺と周囲の組織との癒着が強く出血が続き、移植した肺もほとんど機能せず意識不明だった。法的脳死判定手続下の臓器移植でレシピエントの死亡が判明したのは
26例目。
法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。
- 2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105) 肝臓(京都大)
- 2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319) 肝臓(京都大)
- 2001年 9月11日 7歳女児←bP2ドナー(20010121) 小腸(京都大)
- 2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103) 肝臓(北大)
- 2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108) 右肺(東北大)
- 2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726) 右肺(大阪大)
- 2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329) 右肺(東北大)
- 2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830) 肝臓(京都大)
- 2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110) 両肺(岡山大)
- 2004年 6月頃 50代女性←bP5ドナー(20010701) 腎臓(東京女子医科大学腎臓総合医療センター)
-
2004年 6月 7日 50代男性←bR0ドナー(20040520) 両肺(東北大)
- 2005年 3月 7日 50代男性←bP2ドナー(20010121) 心臓(国立循環器病センター)
- 2005年 3月10日 50代男性←bR6ドナー(20050310) 両肺(京都大)
- 2005年 3月21日 40代男性←bR2ドナー(20041120) 心臓(大阪大)
-
2005年12月26日 50代女性←bS1ドナー(20051126) 肝臓(北海道大)
-
2006年 5月27日 40代女性←bS6ドナー(20060526) 両肺(岡山大)
- 死亡年月日不明 50代男性←a@5ドナー(20000329) 腎臓(千葉大)
- 死亡年月日不明 30代男性←bP4ドナー(20010319) 腎臓(大阪医科大)
- 死亡年月日不明 50代男性←bP6ドナー(20010726) 腎臓(奈良県立医科大)
- 死亡年月日不明 50代男性←a@2ドナー(19990512) 腎臓(東京大学医科学研究所附属病院)
- 死亡年月日不明 20代男性←bQ9ドナー(20040205) 肝臓(大阪大)
- 死亡年月日不明
女性←bQ6ドナー(20031007) 腎臓(名古屋市立大)
- 死亡年月日不明
50代男性←bR6ドナー(20050310) 腎臓(国立病院機構千葉東病院)
- 死亡年月日不明
60代男性←bR6ドナー(20050310) 肝臓(京都大)
- 死亡年月日不明
40代男性←bQ2ドナー(20021111) 肝臓(北大)
- 死亡年月日不明
レシピエント不明←ドナー不明 肺(施設名不明)
日本初? 群馬大医学部が大脳死症例を発表
自発呼吸あり 第9回日本臨床救急医学会総会
5月11、12の2日間、第9回日本臨床救急医学会総会が盛岡市内で開催され、群馬大学医学部救急部の佐藤
洋子氏らは自発呼吸はあるものの脳波が平坦な「大脳死」症例を発表した。
患者は59歳の男性で、意識障害のため救急搬送された。入院時血糖値404mg/dl、高血糖非ケトン性アシドーシス、急性腎不全、右肺炎、横紋筋融解症のためICUに入室したが、心肺停止となり、DIC(播種性血管内凝固症候群)も併発し全身管理、集中治療を行なった。全身状態は徐々に改善したが、自発呼吸はあるものの脳波は平坦波であり大脳死となった。10月4日に一般病棟に転棟した。
出典:佐藤洋子、荻野隆史、浜田邦弘、井原則之、飯野佑一(群馬大学医学部救急部)、森下靖雄(群馬大学医学部臓器病態外科学):異常高血糖のため大量のインスリン投与を要した大脳死の1例、日本臨床救急医学会雑誌 第9巻第2号p220(2006年)
当Web注:他人との意思疎通が困難な遷延性意識障害者や大脳機能が不可逆的に停止した状態を、「人格の死」と称して人の死とする考え方は、これまで概念として取り上げられることはあった。しかし、頭皮上から脳波を測定して平坦でも、頭皮下では脳波
の測定されることが多く、また優生思想にもとづく死亡宣告であるため、個別の患者について「大脳死」として発表する医師はいない。上記は日本初の大脳死症例発表ではないか。群馬大学医学部附属病院には「ICU長期在室者は医療費がかかるから治療に介入する」と第33回日本集中治療医学会学術集会で発表した医師もいる。
「救急医・脳外科医資格に臓器提供要請を必須項目とせよ」
腎臓内科医が主張 市民・医師の関心の低さから
日本医学館発行の「今日の移植」19巻3号は“特集 腎移植への提言 内科系医師から”を掲載。このなかで信州大学医学部付属病院腎臓内科の樋口 誠氏(p325〜p328)は、「日本腎臓学会では、2004年から機関紙上で腎移植の特集を組んで知識の普及に努めているが、残念なことに、末期腎不全患者に対する長野県内の腎臓内科医・透析医からの腎移植のオプション提示が増えた印象は少ない。日本腎臓学会・日本透析医学会の専門医申請資格の一つとして、たとえば末期腎不全患者への腎移植医療のオプション提示10例以上とその詳細な説明文書(1例以上)などを入れるのもよいかもしれない」とした。一般市民向けの腎移植医療推進講演会を県下4地区で年2回行っているが、毎回聴講者数は少ないという。
そしてドナー確保の具体案として「日本救急医学会、日本脳神経外科学会の専門医の資格申請の必須項目として、臨床的脳死患者の家族に対するオプション提示3例以上と、実際の説明文書(1例以上)などを盛り込むのもよいかもしれない」と書いている。
当Web注:脳死判定や移植を積極的に推進する人の意見も、当Webではそのまま掲載しています。これは「取材および著作物からの引用は正確に行うべきであること」、そして「推進論者に、どのような意見があるのかを広く知らせることに意義がある」という理由によります。
このページの上へ