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19830515

愛知県がんセンターと名古屋第二赤十字病院
1983年5月15日までに5例の脳死腎臓移植
10歳ドナーも 藤田保健衛生大・中京病院で摘出

 愛知県がんセンターの高木 弘と森本 剛史、そして名古屋第二赤十字病院の打出 和治、両角 國男、山田 宣夫、河合 真千男、石井 高博、加納 忠行、赤座 達也らは、1982年11月30日から1983年5月15日にかけて、5例の脳死腎臓移植を行った。腎臓は、心臓が拍動している脳死者から摘出された(p145:kidneys were harvested from brain dead and beating heart donors)。

 Nagoya Journal of Medical Science 46巻1〜4号、p143−153(1984年)に高木らが報告したCOMPARISON OF EARLY FATES OF CADAVER RENAL ALLOGRAFTS FROM DIFFERENT METHODS OF HARVEST(採取方法別にみた同種移植屍体腎の早期運命の比較検討)によるとドナーは11歳男児、25歳男性、34歳女性、40歳男性、64歳男性、68歳男性。臓器摘出施設として藤田学園保健衛生大病院泌尿器科(1991年に藤田保健衛生大学へ改称)と中京病院も関係している。

 採取方法は,A:シンプルなカテーテルを用いる屍体内灌流法、B:ダブルバルーンカテーテルを用いる屍体内灌流法、C:アメリカから送られてきた、脳死者の心臓拍動時に摘出した腎臓、D:脳死者の心臓拍動時に摘出した腎臓。移植後の早期腎機能は、国内脳死ドナーのD群がもっともよく、ついでダブルバルーンカテーテルを挿入したB群だった。

 A〜D群のドナーおよびレシピエントの主なデータ、移植日などは表のとおり(屍体内灌流がなされていない3例は研究の対象外、ドナー番号4と5は同一ドナー。温阻血時間は体外での冷却灌流時間を含む)。

採取
方法
  ドナー 収縮期血圧
50mmHg未満
〜心停止時間
温阻血時間 冷阻血時間 移植年月日 レシピエント 移植腎、レシピエントの予後
A群 22歳男性 20分間 47分 3時間 77年 8月30日 26歳女性 1.5ヵ月後、透析再導入
22歳男性 20分間 47分 3時間36分 77年 8月30日 24歳女性 8日後、透析再導入
60歳女性 40分間 63分 12時間15分 78年 1月16日 35歳男性 1ヵ月後、透析再導入
27歳男性 360分間 73分 9時間18分 79年 4月29日 38歳男性
(再移植)
機能せず
18 10歳男児 90分間 99分 10時間39分 82年 8月 9日 23歳男性 S.Cr.1.3mg/dl
    平均106分間 平均65.8分 平均7時間45分      
B群 53歳女性 120分間 46分 5時間44分 80年8月10日 28歳女性 12ヵ月後肝炎にて死亡
19歳男性 120分間 40分 4時間57分 80年 9月 4日 28歳男性 拒絶反応、
17ヵ月後透析再導入
10 18歳男性 60分間 51分 4時間19分 80年10月20日 46歳男性 拒絶反応、
4ヵ月後透析再導入
11 31歳女性 60分間 49分 3時間46分 80年12月 7日 34歳男性 S.Cr.0.9mg/dl
13 19歳男性 6分間 70分 1時間56分 81年10月22日 32歳男性 拒絶反応、
2ヵ月後透析再導入 
14 19歳男性 6分間 75分 2時間26分 81年12月25日 31歳男性 拒絶反応、
1.5ヵ月後透析再導入
15 37歳女性 6分間 42分 2時間24分 82年11月 2日 36歳男性 拒絶反応、
1.5ヵ月後透析再導入
17 44歳女性 30分間 74分 3時間 1分 82年 6月 7日 26歳男性 拒絶反応、
11ヵ月後透析再導入
20 25歳男性 120分間 62分 4時間36分 82年 9月15日 31歳女性 機能せず
21 18歳男性 6分間 98分 3時間57分 82年10月11日 28歳女性 拒絶反応、
1ヵ月後透析再導入
25 52歳男性 63分間 93分 3時間54分 83年 2月13日 44歳男性 S.Cr.1.5mg/dl
26 56歳女性 90分間 10分 7時間35分 83年 3月14日 56歳男性
(再移植)
S.Cr.1.6mg/dl
31 59歳女性 60分間 175分 10時間15分 83年 8月19日 47歳男性 S.Cr.3.2mg/dl
32 50歳男性 164分間 116分 7時間24分 83年 9月13日 32歳女性
(再移植)
S.Cr.2.7mg/dl
33 31歳男性 55分間 60分 5時間6分 83年 9月19日 26歳女性 S.Cr.1.3mg/dl
    平均64.4分間 平均70.7分 平均4時間45分      
C群
(US腎)
12 9歳女児 0分間 3分 29時間38分 81年10月18日 56歳女性 拒絶反応、
10日後透析再導入
16 19歳女性 0分間 12分 37時間58分 82年 4月10日 41歳男性 拒絶反応、
16ヵ月後透析再導入
19 5歳男児 0分間 1分 43時間48分 82年 9月 2日 29歳男性 拒絶反応、
11ヵ月後透析再導入
30 29歳男性 0分間 3分 52時間53分 83年 8月11日 54歳女性 S.Cr.1.5mg/dl
      平均4.7分 平均41時間4分      
D群
(脳死)
22 34歳女性 0分間 1分 9時間27分 82年11月30日 37歳男性 S.Cr.1.1mg/dl
23 11歳男児 0分間 1分 1時間38分 83年 1月 7日 34歳男性 S.Cr.1.1mg/dl
24 68歳男性 3分間 1分 10時間19分 83年 1月12日 38歳女性 S.Cr.1.5mg/dl
27 64歳男性 1分間 1分 5時間59分 83年 4月10日 30歳男性 S.Cr.2.8mg/dl
28 25歳男性 0分間 1分 11時間51分 83年 5月14日 31歳女性 S.Cr.0.6mg/dl
29 40歳男性 9分間 4分 3時間33分 83年 5月15日 31歳女性 S.Cr.0.8mg/dl
    平均2.1分間 平均1.5分 平均7時間 7分      

 

当Web注

  1. カテーテル挿入時期はA群・B群ともに心停止後または心停止が切迫した時期と記載されている。また移植可能な臓器が得られた以上は、抗血液凝固剤(抗血栓剤)ヘパリンを心臓の拍動中心に投与あるいは心停止後に投与し心臓マッサージをしたとみられる。A群・B群ともに、第三者(移植患者)目的のカテーテル挿入・ヘパリン投与などの侵襲行為がともない、心停止の実体もないことから三徴候死後の臓器摘出とは言えない。高木らは、心臓が拍動している患者から臓器を摘出したC群、D群のみ脳死臓器摘出と称しているが、実際にはA群、B群、C群、D群ともに脳死前提の臓器摘出になる。
     

  2. 血圧50mmHg未満になってから臓器摘出・移植までの時間が、数時間以内のドナーが多い。「心停止」ドナーで最短はドナー番号13の19歳男性で2時間12分間、「脳死」の11歳男児は1時間39分間。臓器摘出までの組織適合性の検査に数時間、さらにレシピエントへの連絡、来院・検査、移植を受ける意思確認に数時間を要することから、早期から臓器予定準備のなされたケースが多いとみられる。
     

  3. ドナー番号26の56歳女性からは摘出された腎臓は、温阻血時間10分と短い。「腎臓を洗う」と称して脱血させたり、心臓拍動時の臓器摘出に極めて近い手順で臓器摘出がされた可能性がある。
     

  4. ダブルバルーンカテーテルを用いる手技が一般的になった後、1982年8月の腎臓摘出で10歳男児(ドナー番号18)に用いていないのは不可解。
     

  5. おおむね1ドナーから2個の腎臓が摘出されるが、2個目の腎臓の移植施設は不明(当時は東海地方で臓器配分が行われた)。

 


19830312

聖マリア病院・福岡赤十字病院・九州大学
58歳男性の生存中に腎臓を冷却灌流

 1983年3月12日、第3回九州腎臓移植研究会が熊本大学医学部で開催された。「臨床と研究」60巻9号p2998掲載の「死体腎摘出と体内灌流の経験」によると、聖マリア病院の井出 道雄、松島 進、井上 謙吉、林 隆士、福岡赤十字病院腎センターの斎藤 省一郎、藤見 惺、九州大学医学部の飛松 正則、勝本 富士夫、中村 和夫、豊田 清一、許斐 康照の11名は連名で、臓器ドナーが心停止する前から、臓器ドナーの体内にある腎臓を冷却灌流したことを報告した。
 
 ドナーは58歳男性、頭部外傷で心停止前に摂氏4度に冷却したラクテート・リンゲルにて大腿動・静脈より挿入したダブル・バルーン・カテーテルにより体外式ポンプで冷却灌流した。温阻血時間は0分、総阻血時間は19時間と21時間10分。
 
 井出氏らは「心臓死で臓器摘出を行う場合、死戦期が長く、温阻血時間も長くなり、臓器のバイアビリティが損なわれる。死戦期においては血圧とhydration(水分補給)の管理が重要である。温阻血時間の短縮には体外式ポンプを用いた急速冷却灌流法が効果的である。自験例では250ml/分の灌流量で十分な冷却灌流効果を得た。今後、温阻血時間の短縮には心停止前の冷却灌流が必要で、かつ灌流量の電解質、浸透圧などの検討を要す」と発表した。

当Web注:福島県立医科大学と原町市立病院も、1978年にドナーの生存時からの臓器の冷却灌流を報告している。ドナー家族には冷却灌流装置が見えないように、ベッド下に隠して行った。
 東京医科大学・八王子医療センター長の小ア 正巳は、1987年に「腹部臓器の体内冷却灌流を行うことは心室細動を発生するので心臓のためによくない」と指摘している。

 


19830404

東京女子医大 1983年以前から脳死臓器摘出・移植
ドナー管理、人工呼吸停止も実施 学内に検討委員会

 1983年4月4日、第10回臓器保存研究会が国立循環器病センター(大阪府吹田市)で開催され、東京女子医科大学附属腎臓病総合医療センターの寺岡 慧氏らは、22歳から50歳までの死体腎提供者から「腎摘出時の肝および膵の組織片を採取して組織学的検索を行なった」と発表した。このうち3例は脳死で、死の判定は当該施設(4施設)の脳外科医が行ったという。

 「今後、脳死状態での臓器の摘出が多くなってくると思われるので、脳死の問題、ドナーの適応基準、臓器摘出に伴う問題点を真剣に話し合うために、東京女子医科大学では『屍体臓器の利用に関する委員会』を結成した」と報告した。

上記の出典は以下の2資料

  1. 寺岡 慧、高橋 公太、渕野上 昌平ほか(東京女子医科大学附属腎臓病総合医療センター):死体腎摘出時における肝および膵の病理学的所見、移植、18(5)、468、1983

  2. 高橋 公太、寺岡 慧、太田 和夫ほか(東京女子医科大学附属腎臓病総合医療センター):脳死と保存 温阻血と腎、肝および膵の病理学的所見、移植、18(5)、473、1983
     

 泌尿器科の高橋 公太講師は1984年2月に発行された東京女子医科大学雑誌54巻2号のp164〜p172に「脳死と死体腎移植」を発表し、1983年10月現在で東京女子医科大学腎臓病総合医療センターが関係した死体腎摘出が28例、このうち脳死摘出が3例あったことを明記している。

 ところが高橋講師は、1984年9月に東大PRC企画委員会が主催した第1回脳死を考えるシンポジウムで、「死体腎移植というのは?亡くなった人というのはどういうことか、心停止後24時間たっていますか」という質問に即答せず、追及された挙げ句に「心臓が止まってはいますが、24時間ということはありません」と答えた。

 

 同時期に東京女子医科大学附属腎臓病総合医療センターの太田 和夫所長と、東京慈恵医科大学脳神経外科の中村 紀夫教授の対談「死体臓器提供の問題点」が“臨床成人病”14巻4号p509〜519(1984年)に掲載されている。

  • 違法なドナー管理を実施=p514で太田所長は「よく脳外科の先生方は、特に脳浮腫などを起こすと、マニトールなどを使って水を絞りますね。場合によっては二次的に腎不全になることがあります。そういう例では輸液をして、昇圧剤を使い、腎機能をかなり取り戻せます。私たちが相談を受けてから、輸液、昇圧剤などをご使用いただき腎機能を改善させることも、しばしばあります」と述べドナー管理を行っていることを公言した。同施設によるドナー管理は、1982年の移植誌にも掲載されている。
     

  • 人工呼吸器の停止も実施=p515では、人工呼吸器を停止し心停止後に臓器摘出をしたことにも言及している。

 


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