7例目は、臨床的脳死以前から臓器保存処置を開始?
臓器摘出時の血圧上昇は、今後の論を待つ必要がある
ICUとCCU、25巻3号は「脳死体からの臓器提供」を特集。このなかで杏林大学医学部の田中 秀治氏(救急医学)は、2000年4月25日の7例目脳死下臓器摘出において、臨床的脳死診断段階で、救命に反する臓器保存処置を開始したことを明らかにした。
田中 秀治:脳死の病態とドナー管理の実際、ICUとCCU、25(3)、155−160、2001によると、田中氏は「(p158)2000年4月23日臨床的脳死に至り、翌日に患者家族から臓器提供の意思表示をいただいた。・・・(中略)・・・患者の臓器提供の意思をかなえるべく、患者家族に昇圧剤の変更や輸液の増量、血漿製剤の使用の了解を戴き、ドナーの循環動態の改善に努めた。・・・(中略)・・・(p160)本来ドナー管理は、法的脳死が確定してから行われる管理を示す言葉ではあるが、実際の臨床の現場では、むしろ法的脳死が確定するまでの間の管理こそ、本当の意味でのドナー管理がなされるべきであることを実感した」と記述している。
このICUとCCU はp159に図7 ドナー管理を行なった1例の経過 を掲載しているが、これは第7例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書 臓器提供施設より報告された診断・治療概要(参考資料1)の下部に記載の図と同じ。これを見ると、輸液量の増加は24日朝(夫が本人の臓器意思表示カードを提示した10:35頃)から行ったことが記載されている。法的脳死が確定する4月25日午前8時15分よりはるか前の時点=臨床的脳死診断の24日12:35よりも前に、臓器保存処置を開始した可能性もある。
このほかICUとCCU、25巻3号「脳死体からの臓器提供」特集では、大阪市立大学の田中 和夫氏(集中治療医学)は「オーストラリアにおけるドナー管理と臓器摘出術」に「ドナー管理を行っているときによく経験されることであるが、臓器摘出術中の侵害刺激に対応して血圧が上昇する。このことから“脳死”そのものに疑問を投げ掛ける意見がある。しかし、現在の脳死の定義に“呼吸中枢の機能廃絶”はあるが、“疼痛刺激に対する循環変動の消失”が含まれていないため現段階では容認されるべきであろう。今後の論を待つ必要がある」と書いた。田中 和夫:オーストラリアのおけるドナー管理と臓器摘出術、ICUとCCU、25(3)、161−165、2000
胎児脳死 世界で10例目 名古屋第二赤十字病院
4月1日〜3日、徳山市内で第52回日本産婦人科学会学術講演会が開催され、名古屋第二赤十字病院産婦人科の倉内 修氏らは胎児脳死症例について報告した。世界的で10例目の報告という。
母親は28歳で出産経験1回、前回の妊娠分娩には異常はなく、今回も妊娠経過に異常を認めなかった。しかし妊娠39週、破水にて入院時し、胎児心拍数図において「軽度の頻脈、基線細変動の完全消失、徐脈をともなわない」という典型的な子宮内胎児脳死パターンを示した。児の予後不良が懸念されたが、本人の希望もあり緊急帝王切開を行った。児は新生児科医によって管理されたが、自発呼吸を認めることなく生後22時間後に死亡した。
インフォームドコンセントを得たのち病理解剖を行ったところ、延髄および橋に存在するオリーブ核の神経細胞に、虚血再灌流に起因する酸化障害が認められた。脳幹部の虚血再灌流障害が、その病因に深く関与していた。
出典:倉内 修(名古屋第二赤十字病院産婦人科)ほか:脳幹部に虚血再灌流障害が認められた子宮内胎児脳死の1例、日本産科婦人科学会雑誌、52巻2号、p552(2000年)http://www.jsog.or.jp/cgi-bin/ps-tjsog-p.pl?ZID=10977&d2=2&d3=3&d4=4&d5=5&d6=6&d7=2&mode=2
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