ドナーは意思に背き命を、費用も提供させられていないか!
法的「脳死」下臓器提供コストは1人1億6830万円
医療における移植の位置づけ検討を 倉持氏が提案
松本歯科大学助教授の倉持 武氏は、松本歯科大学紀要 第31輯(2003年3月18日発行)p1〜p10に「移植の費用について」を発表した。
レシピエントが負担する「移植費用」だけでなく、ドナーや臓器提供施設の負担、さらに健康保険・移植ネットワークシステム・厚生労働予算が支出する社会的経費の総額まで検討したもの。倉持氏は論文の最後に「医療全体における移植医療の位置づけ問題、特に救急医療とのバランスの問題も検討されなければならない。(中略)小論がこの問題を検討するための踏み台となることを願っている」とした。
レシピエント負担については、日本移植学会と厚生労働省臓器移植対策室が提示する費用・用語が異なることを指摘し、移植手術前の術前検査費〜退院後死亡時までの治療費を移植費用に含むべきことを提案している。
具体的なレシピエントの負担金額については、臓器により保険適用の有無が異なり、高度先進医療は適用されない施設もあり、さらに高額療養費制度により患者の所得水準で負担額が異なることから「レシピエントの自己負担額はまさにケースバイケース」とした。
ドナー側家族の負担については、ドナー管理・処置に関わる費用については、臓器移植法「附則11条はドナー負担とも読める」。野本 亀久雄氏、寺岡 慧氏がともに著者として名を連ねた日本内科学会雑誌 第89巻第9号p188掲載の論文で「提供者遺族の負担になる」と書き、その3ヵ月後に発行された救急医学 第24巻第13号p1807では「自己負担分については移植実施側が負担する」と書いているなど不明確さを指摘した。
杏林大学が法的に脳死が確定する以前からドナー管理を開始したことについて「法的脳死判定費はドナー負担である」ことを指摘して、「臓器提供のためにドナー側には費用が一切かからないという説明は正しいのか」とドナー管理の妥当性も含めて疑問を呈した。
当Webページ注:杏林大学で臓器摘出した第7例目の脳死下での臓器提供事例に係る検証結果に関する報告書・臓器提供施設より報告された診断・治療概要(参考資料1)の下部に記載の図を見ると、輸液量の増加は24日朝(夫が本人の臓器意思表示カードを提示した10:35頃)から行ったことが記載されている。法的脳死が確定する4月25日午前8時15分よりはるか前の時点=臨床的脳死診断の24日12:35よりも前に、臓器保存処置を開始した可能性がある。
提供施設の負担については、日本臓器移植ネットワークは提供病院関連費用交付金として218万円を支出(2001年度)したが、通常経費との判別が難しい人件費、通信費、資料代など実質的負担がある。
日本臓器移植ネットワークの支出については下記を概算した(死体腎特別会計1.5億円、HLA検査費0.8億円は除外)。
「脳死」下臓器提供者1人当たりの直接的斡旋費用は7,368万円
(2001年度臓器移植斡旋事業費3億6624万89円÷「脳死」下臓器提供者数5人)
移植手術1件当たりの直接的斡旋費用は1,602万円
(2001年度臓器移植斡旋事業費3億6624万89円÷「脳死」下移植手術数23件)
事務管理費を含めた2001年度移植ネットワーク支出総額8億4150万6152円に対しては(同様の計算で)
「脳死」下臓器提供者1人当たり1億6830万円、移植手術1件当たり3,659万円
厚生労働省健康局疾病対策課臓器移植対策室は、補正後の2001年度臓器移植対策関係予算総額5億8260万円を支出。
(移植ネットワークへの国庫補助金4億3244万1千円+都道府県への補助金である臓器移植対策事業費等補助金1億3106万3千円+厚生労働本省分1909万6千円)
2 001年度に移植医療に対する社会的経費は、厚生労働省とネットワーク合わせて9億9千万円
=日本臓器移植ネットワークの支出総額8億4150万6152円+臓器移植対策事業費等補助金1億3106万3千円+厚生労働本省分1909万6千円
倉持氏は、1999年に青木書店から出版された「臓器交換社会−アメリカの現実・日本の近未来」の訳者の1人。2001年11月には『脳死移植のあしもと』 ISBN944171-09-9 2,000円を松本歯科大学出版会から、今年2月には東洋大の長島 隆教授と共編著で太陽出版から「臓器移植と生命倫理」 ISBN:4884693078 3,600円を出版している。
移植ネットVS移植学会 抗争が再燃?太田医学研究所で会合
親族指定発覚は厚労省に電話したコーディネーターが要領悪い
17日、太田医学研究所において「臓器法施行5年を迎えて」をテーマにディスカッションが開催された。出席者は太田医学研究所の太田 和夫氏(司会)、順天堂大学の川崎 誠冶氏、国立循環器病センターの北村 惣一郎氏、東北大の近藤 丘氏と里見 進氏、九州大の杉谷 篤氏、そして新潟大の高橋 公太氏。以下は今日の移植
Vol.16 N0.3 p215〜p234より、日本臓器移植ネットワーク関連発言の要旨。
高橋:米国のUNOSのように臓器提供をいかに増やすかという点では;熱意を感じられません。情報公開に関してもあいまいな点が多く、はっきりすべきです。
太田:日本はネットワークをつくらないと臓器移植ができないということで、こういう受け皿があって、こういうシステムができているのだから、法律を通してくださいというふうに、とりあえず法律をつくってしまったわけです。とにかくネットワークをつくってしまったということが大きな問題です。日本は症例がない。そこに入ってお金を払った人たちが移植を受けられないためだんだん累積してくる。待っているだけでお金を取られたらばかばかしい、ということで登録しないようになるからお金も集まらない。ですから、本来はまだまだネットワークを結ぶには早すぎる段階で形だけつくってしまったと、だから動
かないということを私は感じますね。ですからワンキープ、ワンシェアということでやっていた、昔に帰って努力した地域が報われるという形で進んでいく必要性があるのではと思います。法律をつくるために―応、ネットワークをつくったりなんかして、形だけ整えたけれど、まだそういう形で動くほどの実力がない。
高橋:斡旋業は、ある程度事務やコンピューターの選択に任せて、本来のコーディネーターの業務である臓器提供推進活動に積極的に取り組むべきです。
川崎:問題点はほぼ明らかなんです。救急病院に運び込まれてきたときにドナーカードを持っているかどうか調べたら、よほど臓器提供が増えるのではないかとか、いろいろ具体的にしたらいいのではないかということはある程度わかっているのが現状です。臓器提供を増やすという道は国をいかに動かすか、だれがどういうふうに国に影響を与えて方策を実行してもらうかという問題に集約されるように、私は思います。
高橋:川崎先生のお話はもっともだと思います。ご指摘のことを実践するためには、国は資料の提出を要求すると思います。その資料やまとめたデータは、ネットワークだけにしかありません。そのためにも情報公開が必要です。
太田:出してないんですよ。なぜでしょうか。たとえば、私は日本で1年間に腎臓移植をいくつやったかを毎年集計しておりますが、死体腎移植については、私が収集したのとネットワークのほうとの数が一致しなければなりません。死体腎についてネットワークは数をはっきり握っているわけです。こちらで全部症例を集めて、ネットワークの症例数と同じかどうかチェックするのですが、数が違ったりするんです。そういうのもいちいち人づてに聞くわけです。
川崎:ネットワークの人たちはなにをしているのでしょうか。ネットワークの情報すら把握していないのですか。
太田:移植の数も私が教えてあげるまではわかってないのです。
近藤:ネットワークはデータをただ蓄積しているだけではなんの役にも立たないわけで、なにか生きる形で利用しないといけないと思うのです。最近調べることがあって、ネットワークに問い合わせてデータをいただいたことがあります。どの程度まで教えてもらえるのか、私はわかりませんが、聞き方、データの引き出し方を上手にすれば、ある程度こちらの目的にかなったようなデータを引き出すことは可能ではないでしょうか。
高橋:私たちは施設会員として金を払っているわけです。金を払っている以上、ネットワークは義務を負わなくてはなりません。その義務というのはなにかというと、やはりそういう情報公開をきちんとすることです。
太田:ユーロトランスプラントは毎月のようにニュースレターを、毎年1回すごい統計がきちんと出ています。こう
いうことをちゃんとやらなくてはだめです。とにかく毎年毎年、ネットワークが1年の活動をアニュアルレポートでも出して、実態を世に問うということをしてくれないことには、困ってしまいます。そういうことを
きちんとやれる人が専門職として入る。いま本当にネットワークに腰を据え、これを本業としてきちんとやってくれる医者がいません。定年になっ
た教授でもいいと思うんですよ。
高橋:私がもし臓器対策室の室長だったら、こんな減り方だったらちょっと焦って、なにかしないといかんなという気持ちになります。最近みていると、規制をかける方向ばかりですよ。崩壊どころか、もうネットワークは崩壊しているのに、相変わらずそんなことをいっているレベルなんです。崩壊しているのに、これをやると将来崩壊する、と弁護士さんが言いますが、それ以前の問題だと思います。
高橋:骨髄移植の財団のほうはうまくやっていますよ。ネットワークも骨髄移植財団の運営を参考にしたらいかがでしょうか。親族から献腎が出た場合、関東甲信越のブロックでは、1腎を親族に移植しもう1腎を選択基準に則って選ぶことにここ10年行ってきました。これはある面では日本の献腎移植を推進するための処置としてやむをえないと実務者委員会では考えておりました。ところがある症例が出たところ、ネットワークのコーディネーターが実務者委員会のコンサルタント医師に相談すればよいのに、それを越えて厚労省に電話したのです。そうなれば、このような結果(肉親に献腎を提供して移植することができなくなる)になるのは当り前です。中央のコーディネーターも県のコーディネーターのように靴の底を減らして、,本来のコーディネーターの役割に戻らないといけません。
太田:コンサルタントの医師ももっとしっかりした人を決めたほうがいいと思います。そうしな
いといまのままではどうしようもない。きちんと
した人がきちんと仕切ってやれば、もっともっとよくなると思いますが・・・・・・。
ディスカッションでは、このほかの話題も登場した。例えば臓器提供施設の拡大問題について近藤氏が「ただ、現場のざっくばらんな話として、基本的にそういうカードはみたくないということをよく耳にします。それはお金がどうのということではなくて、自分たちの仕事の場にカードが出てくることによって、非常な混乱というか、業務の大変さが増えてしまうわけです」と発言したところ、北村氏からは「それは日本の医者のおかしいところではないですか」、高橋氏からは「それはかなり変わっていますよ」と応酬され、近藤氏は「認識のある方が増えてはいるのでしょうが・・・・・・」と口ごもる場面もあった。
北村氏は「まず医学部卒業生の全員が、脳死というものを理解してカードを持たないといけないと感じます。ところが実際は私の施設に勉強に来るレジデントと看護師のカード保有率をみますと、医師が2割5分、看護師が4割です。しかもそれは循環器病を勉強している医者たちですよ」と話した。
このページの上へ