上へ • 肝臓移植回避例 • 心臓移植回避例 • 肺移植回避例 • 臓器移植死

心臓移植回避例

山口大学医学部附属病院 国立循環器病センター 大阪大学医学部付属病院 大垣市民病院 日本大学医学部付属病院 群馬県立心臓血管センター 滋賀医科大学付属病院 山梨大学医学部付属病院 埼玉医科大学病院 東京大学医学部付属病院 大阪医科大学付属病院 日本医科大学附属病院 済生会京都府病院 マツダ株式会社マツダ病院 東京女子医科大学病院 九州大学病院 久留米大学病院 聖マリアンナ医科大学病院

 「助かる方法は心臓移植しかない」と説得されて移植待機患者になったものの、移植を受けることなく長期生存している患者が高率に存在する。

 移植なしで生存できる患者の比率は、臓器不全の重症度および悪化の速度により左右される。

 西田 博(東京女子医科大学日本心臓血圧研究所心臓血管外科):Conventional CABGの再評価 安全で質の高いcomplete arterial graftingと虚血性心筋症に対する意義について、脈管学、425−432、2002は、「1983〜2001年にon pump CABGのみ施行した虚血性心筋症の自験例66例(平均59.8歳)」と「1982〜1997年の心臓移植4万755例(平均45.6歳)」そして「1987〜1996年のDor自身の虚血性心筋症に対するDor手術100例(平均60.5歳)」の遠隔成績を比較して「虚血性心筋症を約半数(45%)含む心臓移植と比較してもCABG群の方がより高齢でありながら早期成績(In hospital death 3%:13%)、遠隔成績(1 year mortality 8%:21%)ともにCABG単独群の成績は勝るとも劣らぬ成績であり、CABGや左室縮小術の適応があればそれを施行し、その後に移植を考慮するという戦略が妥当と思われる。わが国のきわめてすくないドナー心の状況から、虚血とviability、心室容積などを総合的に評価し、移植前の治療法として血行再建、左室縮小術のいずれかを優先するか、あるいは併用するかを症例に応じ選択する治療体系が妥当と思われる」と結論している。

 小野 稔(東京大学心臓外科臓器移植医療部):心臓移植における補助人工心臓の役割、人工臓器、33(2)、S23、2004によると、日本で心臓移植を受けた21例は全例ステイタス1で、15例(71%)が補助人工心臓補助を受けていた。移植待機患者は74人、うちステイタス1は34人(46%)。 これに対して、米国2003年報告では、移植総数約2200例のうちステイタス1が62%、機械的補助は全体の45%が受けていた。移植待機患者は3516人、うちステイタス1は461人(13%)。

 このように諸外国では最も重症のステイタス1ではない患者にも心臓移植をしており、虚血性心筋症患者が多く、さらに待機患者のなかには比較的軽症者の比率がより高い。米国は高齢の虚血性心筋症患者が多いことは割り引かれるべきだが、移植待機患者のうちステイタス1が13%であることから、心臓移植待機登録患者の9割近くは移植ではなくとも救命・延命できる、回復すると想定することが可能だろう。 生活習慣に原因がある臓器不全患者を臓器移植レシピエントにすることに疑問を呈する観点からは、米国では心臓移植待機患者の登録は適切な数よりも10数倍多いと考えられる 。

  • ベイラー医科大学(テキサス州ヒューストン)のDouglas L. Mann氏は、第77回米国心臓協会学術総会(ルイジアナ州ニューオリンズ)において、北米29施設の共同試験により、メッシュ状の心臓補助デバイスが心臓移植や左室補助人工心臓などの必要性を半減させたことを報告している。
     
  • 松田 暉(兵庫医科大学):外科療法 心不全の外科療法 総論、日本臨床、65(増刊5 心不全(下))、211−216、2007は、補助人工心臓による自宅療養の動きを以下のように伝える。
     米国ではLVASの移植へのブリッジとしての適応以外に、その治療を最終手段とする destination 治療が広まってきている。高齢者である、移植に適さない背景がある、デバイスをつけてでも数年の自宅での生活を求める、といった対象に、内科的治療とのランダム試験が行われ、わずかではあるがLVASが有意に生存率で優れていた。これをベースに米国ではこの埋め込みLVAS(HeartMate)による治療を保険適応にしている。最近の成績では管理面での向上により2年生存率で当初の約20%から50%を超えるくらい改善してきている。
     我が国でかかる治療法の選択肢が必要であるか、これから議論が進むであろうが、デバイスの耐久性、安全性、退院プログラムの妥当性、などが検証されなければならないであろう。加えて、今のLVASの適応や申請中の様子からは、適応は心臓移植の適応患者に準じる、あるいはブリッジ使用という範疇に限定されていることから、それを越える必要がある。しかし、我が国では最終という意味に限定するのではなく、BTT(bridge to transplantation)も含めた自宅治療で、life long の補助という意味で広めるのがいいのではないかと思われる。
     
  • 許 俊鋭(埼玉医科大学):心臓移植の現況と心不全の手術治療、成人病と生活習慣病、37(7)、815―822、2007は、「心臓移植の代替治療としてVAS(人工心臓:ventricular assist system)治療が成立するかは、遠隔期mortality・morbidityを含めた長期予後とQOLの比較検討が必要である。心臓移植症例に対する両者の無作為割付試験はまったくないが、移植非適応症例に対しては2001年に報告されたREMATCH studyの結果により、VAS治療が内科治療より有効であることを証明され、FDAよりHeartMate LVASのdestination therapy(DT)が承認された。さらに、2005年の報告では、VAS治療による2年生存率60%まで改善しており、近い将来LVAS治療成績が心臓移植成績に匹敵する可能性を予測させる。(中略)少なくとも2年以上の平均生存期間と在宅治療が可能なEVAHEART(サンメディカル社製)やDuraHeart(テルモ社製)などの植込型LVASが保険償還となった暁には、DTとしてLVAS適応は拡大されていくものと予測される」という。
     
     わが国においても山崎氏、中谷氏による以下の報告がある。
  • 山崎 健二(東京女子医科大学心臓血管外科):次世代型補助人工心臓による重症心不全治療、日本集中治療医学会雑誌、15(Supple)、246、2008は「本邦では極端に少ない移植数のため、(心臓移植または自己心回復後離脱までの)ブリッジの平均補助期間は既に2年を超えており、半年以内に移植可能な欧米と比べ極めて特異的な状況にある。本邦における補助人工心臓治療は、『実質的に移植適格者に対するDT(移植を前提としない最終治療手段:Destination Therapy)とほほ同等』とみなせる」という。そして次世代型補助人工心臓EVAHEARTの臨床治験結果を以下のように紹介している(要旨)。
     適応は、年齢18〜65歳、強心剤依存のNYHA4度の移植適応のある末期重症心不全症とし、現在(2007.12.7)までに15症例の治験を実施した。平均年齢は43歳(18〜57)、女性は4名(29%)、疾患はDCM10名、ICM4名、心サルコイドーシス1名。全例にて拍動流補助による心係数の著明な改善を得た。生存率は、6ケ月:86%、1年:73%、2年:73%で、平均補助期間376日(25〜944日)。2名を脳出血、1名を脳梗塞にて失った。剖検時の検証では3例とも装置内に血栓を認めなかった。12名(80%)は補助継続中で、平均補助期間435日(25〜944日)であり、心臓移植症例はまだ無い。補助期間は6ケ月以上:10名(64%)、1年以上:6名(43%)、2年以上:3名(21%)である。7名は退院・自宅療養へ移行した。さらに2名は装置装着状態で一般企業に就労復帰を果たしている。長期循環補助における3大予後決定因子は、脳血管障害・感染症・装置故障であるが、脳血管障害の発生頻度は従来機器とほほ同等であったが、感染症は1/10以下へと大幅な改善を得た。また装置故障については、拍動シミュレータを用いた18台の長期耐久性試験(累積試験期間42年)と、臨床治験15例(累積補助期間15.4年)共に、故障0であり、極めて高い長期信頼性を実証した。医療経済的観点では、当院での退院2症例について月間保険請求額を検討したところ、入院時月平均約200万円の医療費は、退院後月2〜6万円と1/100〜1/30に激減した。移植の極めて少ない本邦での補助人工心臓治療では、より長期の機械的信頼性・生命予後改善効果を、高いQOL、医療経済効果と共に達成する必要がある。次世代型補助人工心臓は、その資質を充分保有しているものと示唆された。

 

 2011年4月から、体内植込型補助人工心臓EVAHEARTとDuraheartの2機種が保険償還されるようになった。新生児から成人体格まで使えるExcorの医師主導治験も2011年度中に治験計画が確定する予定という。

*許 俊鋭(東京大学22世紀医療センター重症心不全治療開発講座):人工心臓開発の歴史と現状 植込型補助人工心臓治療の社会基盤、医学のあゆみ、239(3)、193−199、2011は、2011年に体内植込型補助人工心臓の植込みは20例を超えるとの予想を示し、「4つの定常流埋込型LVADのわが国治験36症例で70%程度の6年生存率が得られており、そのうち著者自身が関与した11例では80%以上の5年生存率が達成された。わが国治験における5年生存率は心臓移植の国際水準に匹敵する」と指摘した。
 また、destination therapy(DT)の日本語訳を、補助人工心臓関連学会で“長期在宅治療”と表現することとしたこと。直訳的な“最終治療”や“究極治療”と表現せず、補助人工心臓を装着して自宅復帰・社会復帰することを目的とする治療の意味を重視したこと。「将来の“心臓移植へのブリッジ”や“自己心機能の回復”の可能性も包含した概念を持つ。日本において60歳以上に心臓移植適応が拡大される可能性や、心臓移植再生医療の発展により自己心機能の回復が高まることも期待される」としている。

 補助人工心臓を用いた重症心不全患者の治療の進展は、慢性腎不全患者に対する透析療法に類似した環境=臓器移植を受けずに長期生存できる患者を増やす一方で、同時に臓器移植を待てる患者も増やす環境、医療費や長期の人工臓器利用によるQOLにかかわる問題の発生に、移る段階といえる。

このページの上へ

補助人工心臓のみが現実的な治療オプション

*絹川 弘一郎(東京大学大学院医学系研究科重症心不全治療開発講座):ステージDの新しい治療戦略 植え込み型補助人工心臓と内科医の関わり、循環制御、33(2)、61‐66、2012

 心臓移植という観点では2010年7月来改正臓器移植法が施行され、年間40症例弱の心臓移植が行われるようになったが、臓器移植ネットワークへの登録患者数は増加傾向であるとともに、後述するようなVAD(補助人工心臓) 術後の生存率向上もあいまって、これまで900日前後であった移植までの待機日数が今後とも短縮される見込みは乏しく、むしろ延長するのではないかとさえ思われる。すなわち、我が国のように脳死ドナーが著しく少ない国において心臓移植は眼前の患者の治療という意味では全く無力というほかはなく、VAD のみが現実的な治療オブションという現状である。
 東大病院心臓移植適応委員会において適応と判断された症例においてカテコラミン持続点滴を要するStatus 1患者の1年後VAD 非装着生存率は33%,2年でほ22%と著しく低いのはもとより、カテコラミン非依存性で適応委員会時点では外来通院可能であったStatus 2の患者においても2年のVAD 非装着生存率は57%と決して楽観できない。
 すなわち、我が国における標準的な移植待機日数をもってすればVAD というオプションなしに移植までブリッジすることは極めて困難であるということがわかる。

 

*泉谷 裕則(愛媛大学大学院心臓血管・呼吸器外科学):重症心不全患者に対しての補助人工心臓治療 体外式から植込型、在宅療養へ、愛媛医学、32(2)、97−101、2013

 本邦で2011年4月の植込型補助人工心臓の保険償還以降、すでに100名以上の患者がその治療を受けている。心臓移植が前提とは言え現在の心臓移植数を見ると、移植待機期間は今後4年から6年程度に延長するという予測もある。即ち、補助人工心臓を装着した状態でその間を過ごすことになる。このような状況はもはやDTと言っても過言ではない。学会ではDTを認める方向性もあり、おそらく米国のようにDTが認められるようになるのも時間の問題であるように思われる。街に補助人工心臓治療を受けた患者があふれる日がくるかもしれない。はたしてこのような光景が望ましいかどうか、治療の適用や医療経済についての検討もすでに始まっている。また、このような患者の終末期医療をどのようにするのか、心臓死の概念をも揺さぶるような局面も見られるであろうし倫理的な側面についての検討も必要である。

当サイト注:この論文は、愛媛大学医学部付属病院が2011年4月から4名の末期重症心不全患者に体外式補助人工心臓治療を行い、52歳女性は二度目の脳出血が広範囲であったため補助期間673日で死亡、39歳男性は多臓器不全が回復せず補助期間73日で死亡、ほかの2名の患者が補助期間400日、304日で心臓移植待機中としている。

このページの上へ

 

各施設における自己心機能の回復例

中谷 武嗣(国立循環器病センター臓器移植部):移植医療 機械的循環補助も含めて、循環器科、62(1)、67―73、2007によると、日本臨床補助人工心臓研究会 レジストリー(1992年〜2006年9月)では補助人工心臓の適応は850例あり、心筋症例に対しては302例 に用いられた。302例のうち39例では心機能の改善を認め離脱した(39例のうち生存28例、移植1例、再度の人工心臓装着2例、死亡8例 )。このほか移植47例(本邦24例:渡航23例)、埋め込み型へ移行4例、施行中62例、死亡150例。

 下記の各施設の報告にみられるとおり、日本では補助人工心臓、両心室ペーシングほかの外科的・内科的心不全治療によって患者の5割弱〜1割強が自己心機能を回復している。

 

山口大学医学部附属病院

  • 鈴木 康夫(山口大学大学院医学系研究科小児科学分野)ほか:強心薬併用極少量β遮断薬の再導入が奏効した拡張型心筋症の乳児例,日本小児科学会雑誌,119(8),1233-1238,2015

     生後6か月時、心不全を発症し治療にて改善傾向であったが、1歳2か月時急性増悪した。移植認定施設への転院を検討した。医学的には移植適応であったが、家族サポート、経済面の問題からその時点での心臓移植治療は困難と判断した。移植認定施設への長期入院も家族の精神的、経済的負担が大きく困難であった。強心薬を追加し、カルベジロールを一時中止した。その後、ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチドが低下し症状が安定化した時点から、カルベジロールを極少量より再導入した。長期間かけ緩徐に増量したところ、心不全症状、左心室駆出率が改善した。現在4歳でNew York Heart Association分類1度と、日常生活に支障なく過ごしている。移植登録は行わず、慢性心不全治療を継続中である。
     強心薬併用極少量β遮断薬の導入は、乳児重症心不全に対する効果的薬物療法のひとつと考えられた。

 

  • 松嶋 敦氏(山口大学器官制御医科学講座):β遮断薬導入に苦慮し、その効果発現に長期間を要した拡張型心筋症の1例、Circulation Journal、67(Suppl.III)、996、2003

 28歳男性患者は拡張型心筋症による心不全の急性憎悪で緊急入院となり、ベータ遮断薬の導入を試みたが心不全憎悪のため断念した。低血圧と腎機能低下のため、血清クレアチニンが5mg/dlまで上昇した時点で再度、ベータ遮断薬の増量を試みたところ、その後、心不全の憎悪なく30mgまで増量することができた。導入から4ヵ月後の心臓エコー図で、左室駆出率は15%から35%へと改善した。

 

 

国立循環器病センター

加藤 倫子(国立循環器病センター心臓血管内科・臓器移植部)重症心不全に対するPDE III阻害薬の使い方 特に左室補助人工心臓装着を要する患者に対して、循環器科、66(4)、481−488、2009
 
 この論文は図2に、2000〜2008年に移植登録した92名のうち、「長期入院を経て退院可能となる群26名」のうち、退院後も心機能が一層改善していく群NYHA1度が5名、外来観察は可能でもNYHA2〜3度で経過する群21名(このうち、後に5名が突然死、5名が移植まで退院不能の強心剤依存ないしLVAD装着となった)であること。
 移植登録時から「移植まで退院不能の強心剤依存ないしLVAD装着群の66名」のうち、国内移植21名・海外移植12名、待機中12名、死亡21名であることを記載している。

 

津田 悦子(国立循環器病センター小児科):小児科心臓移植を申請した患者の予後の検討、日本小児科学会雑誌、113(5)、821−826、2009

 1992〜2007年に当院小児科から日本循環器学会に心臓移植適応判定について申請し、移植適応と判断された27例(男16例、女11例、判定の申請年齢4ヵ月〜32歳)のうち海外渡航患者は15例、うち13例に移植が施行された。移植後死亡は3例、移植後生存は10例、移植前に死亡した例が2例あった。国内待機は5例で、移植後生存が2例、待機中が1例、待機中に死亡が2例であった。心臓移植の適応から離脱した症例は27例中3例であった。
 発症時14歳男性は、左心補助人工心臓装着後も利尿薬、ベータブロッカー、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の内服を継続し左心補助人工心臓装着から142日後に離脱した。20歳時に、NYHA1度、左心室駆出率20%であったため移植適応外となった。
 発症時4ヵ月男性は、カテコラミンの持続静注が必要な状態だったが、その後カテコラミンを中止することができ、ベータブロッカーの導入後、左心室駆出率は改善した。
 発症時1歳女児は、両心室ペーシングを施行し、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、ベータブロッカーの内服を継続した。脳性ナトリウム利尿ペプチドは術前500pg/ml台であったが、両心室ペーシング施行後3ヵ月で100pg/ml以下となった。7歳児では左心室駆出率57%となり、20pg/ml以下となった。

 

小林 奈歩(国立循環器病センター小児科):心臓移植適応について検討した患者の予後 院内臓器移植医学的適応症例検討会に小児科から提示した症例、日本小児循環器学会雑誌、24(5)、628−635、2008

 1990年から2006年までに院内臓器移植医学的適応症例検討会に、小児科から心臓移植適応について提示した60例(男42例、女18例、0〜27歳、中央値13歳)のうち、移植適応が35例(58%)、不適応が9例(15%)、再検討が9例(15%)、外科治療の方針が7例(12%)であった。
 予後は、死亡33例(55%)、生存26例(43%)、不明1例。死亡時期は、検討会提示後4日〜14年で、中央値137日であった。
 心臓移植施行は14例(23%)(海外12例、国内2例)で、移植時年齢は1〜21歳で中央値は5歳。移植後の死亡は3例で5年生存率は75%。
 外科手術やベータ遮断薬導入による心機能保持は14例(23%)であった。当院は、左室補助人工心臓(LVAS)の適応は、原則として心臓移植適応症例としている。心機能回復によるLVASから離脱 した症例が1例であった。1999年以降、ベータ遮断薬を導入することで心機能が改善したため移植の適応から除外された症例が5例あった。
【結論】院内臓器移植医学的適応症例検討会に提示した小児の重症心不全患者の予後は極めて不良であった。しかし、心臓移植は予後を改善した。 また、外科手術の介入やベータ遮断薬導入は予後を改善しうる。

 

小林 奈歩(国立循環器病センター小児科):当院心臓移植検討会に小児科から提示した患者の予後、日本小児循環器学会雑誌、23(3)、92、2007

 1990年10月から2006年6月までに当院の臓器移植検討会で小児科から提示し検討した63例(0〜27歳、中央値12歳)のうち、移植適応ありとして認められたものは30例、再検討16例であった。心臓移植施行症例13例(20.6%)であり、うち11例が海外渡航移植。移植後の死亡は3例で2例が拒絶反応、1例が遠隔死亡であった。
 移植患者以外50例の予後は死亡31例(49.2%)で、検討会提示後4〜5,116日(中央値137日)であった。生存17例(27.0%)、不明2例であった。生存例のうち、僧帽弁形成術2例、Batista+僧帽弁形成術1例、大動脈弁形成術1例、三尖弁形成術1例、ベータ遮断薬導入後の心機能改善4例、両心室ペーシング1例、心筋炎後左心補助装置離脱1例の計11例現在のところ移植適応なしとなった。
【結論】心臓移植検討症例の死亡率は45%であった。外科手術の介入やベータ遮断薬導入等の内科的治療でも心機能やQOLを改善し、延命を図れる症例もみられた。

 

小田 登(国立循環器病センター臓器移植部):当院におけるLVAS装着患者の経過、Circulation Journal、71(Suppl.3)、995、2007

 当院では1994年3月から現在までに、心臓移植待機中で心筋症を原因疾患とする末期重症心不全患者、のべ82例に左心補助人工心臓(LVAS)を装着している。2006年12月31日の時点で、死亡33例、国内および渡航移植25例、離脱9例、待機中15例であった。

 

眞野 暁子(国立循環器病センター臓器移植部):左心補助人工心臓(Left Ventricular Assist System:LVAS)の適応と管理について、Journal of Cardiology、50巻(Suppl.I)、130、2007

 心臓移植を前提にLVASの装着を行っており、1994年4月〜2007年2月までに84症例を経験、うち8例で計画的離脱に成功している。

 

中谷 武嗣(国立循環器病センター):重症心不全治療としての補助人工心臓装着例および心移植施行例における長期予後の検討、The Japanese Journal of THORACIC AND CARDIOVASCULAR SURGERY、54(Suppl)、376、2006

 LVAS例は、1994年以降心臓移植対象者として装着を行った76例。計画的に離脱した7例は全例1年以内の補助 で、離脱後内科的治療を行っているが、全例生存し、791〜4303(平均2262)日経過している。内科的治療により10年以上経過している離脱例があり、長期安定した心機能を示す離脱例を得るための併用療法や離脱後の管理法などの検討が必要である。

 

眞野 暁子(国立循環器病センター臓器移植部):補助人工心臓(VAS)からの離脱を目指す治療、Journal of Cardiology、48(Suppl.I)、423、2006

 離脱可能であった患者7名の原疾患はいずれも拡張型心筋症で、平均年齢は23歳、平均装着期間は150日であった。離脱後はいずれも退院して外来通院中である。離脱に成功した患者は離脱不可能であった患者に比べて有意に若年で病悩期間が短かった。またエコー上、壁厚が有意に厚かった。組織所見では線維化が少ない傾向にあった。さらに離脱可能患者では、不可能患者に比し、VAS装着後の心機能改善がより速やかであった。<結論>若年で比較的急速に心不全が憎悪し、心筋組織障害の程度が軽い症例においてはVAS離脱の可能性を考慮できることが示唆された。VAS離脱に向けては、ACE阻害薬、ベータ遮断薬といった十分な内科的治療に加え、積極的なリハビリを併せて行うことが重要と考えられた。

 

津田 悦子(国立循環器病センター小児科):当院小児科から日本循環器学会に心臓移植適応について申請した患者の予後、移植、42(6)、569、2007

 当院小児科から日本循環器学会に心臓移植適応について申請し、心臓移植適応ありと判断された患者は、1997年から2006年まで25例。心移植施行患者は16例、5年生存率85%。移植待機中の死亡は5例、心臓移植適応申請から死亡まで2ヵ月から10年。経過中に適応外となった患者は2例で、ベータブロッカーによる改善が1例、両心室ペーシングによる改善が1例であった。

 

駒村 和雄(国立循環器病センター循環動態機能部)ほか:インスリン様成長因子(IGF-1)の血管内皮前駆細胞(EPC)動態と心不全病態に与える効果の検討、成長科学協会研究年報、28、153−164、2005
メディメルトリビューン2005年11月17日付11面記事

 IGF−1(インスリン様成長因子製剤)により移植適応を外せるまでに回復したのは累計2例。

 

*中谷 武嗣(国立循環器病センター臓器移植部):日本における心臓移植の現況、今日の移植、18(3)、287−293、2005

 2005年4月現在、当センターにおけるネットワークへの登録例は90例待機中に心機能の回復を認めた9例を含む10例が登録取り消しとなった。内訳は下記。

  • 4例:補助人工心臓による心機能回復例
  • 2例:カテコラミンによる心機能回復例
  • 1例:IGF−1による心機能回復例
  • 1例:左室部分切除術による心機能回復例
  • 1例:僧帽弁形成術による心機能回復例
  • 1例:辞退(注:「今日の移植」には記載がないが、「進歩する心臓研究XXIV1号、14−22、2004」に辞退1例とある)
     
     

斎藤 俊輔(国立循環器病センター心臓血管外科):小児拡張型心筋症(DCM)に対する外科治療 bridge to,or alternative to transplantation、日本小児循環器学会雑誌、21(3)、336、2005
 
 1998年〜2004年に18歳未満の拡張型心筋症に対して、心移植、補助人工心臓以外の外科治療を行った5例は1〜17歳。全例がNYHAV〜Wで著名な心肥大を認めた。術式は、(1)partial left ventriculotomy+僧帽弁置換術、(2)僧帽弁形成術+三尖弁形成術、(3)僧帽弁形成術、(4)biventricular pacingリード埋め込み、(5)僧帽弁形成術を施行した。全例生存、心移植、補助人工心臓への移行なし。術後観察期間は2ヵ月〜6年9ヵ月(平均4.1±3.3年)で、全例NYHAT〜Uで経過している。

 

花谷 彰久(国立循環器病センター心臓内科):幼少期冠動脈瘤の退縮後に心筋梗塞を発症し,虚血性心筋症となった1例、Progress in Medicine、24(7)、1694―1697、2004

 26歳男性は、1歳時検診にて発育不良を指摘され、冠動脈瘤を認めたため川崎病と診断された。2歳時の血管造影では冠動脈瘤は消失していた。7歳時投薬中止。小、中、高校と自覚症状もなく経過した。1999年12月 3日、飲酒中に数回嘔吐し、突然激しい胸痛を自覚した。安静にて軽快しないため、心電図により急性心筋梗塞と診断。緊急血管造影で左主幹部(LMT)に100%閉塞を認めたため血栓溶解療法が施行され、LMTは50%まで開大した。しかし,広範囲梗塞で残存血栓を認めたため、IABPが挿入されカテコラミンを開始した。 12月18日、IABPから離脱できたがカテコラミン減量困難となった。LVEFは15%と著明に低下し、カテコラミンの減量で心不全が増悪するため日本循環器学会より心臓移植の適応と判定された。 2000年6月12日、心臓移植待機、心不全加療目的にて国立循環器病センターへ転院。
 エナラプリルを増量し、カテコラミンを少量づつ減量し2001年1月にカテコラミンからの離脱に成功。2月中旬よりカルベジロール導入後、BNPは上昇したが、明らかな心不全の増悪を認めず、 2001年3月退院した。2001年6月、心機能・心臓移植適応の再評価を行い、2001年9月、心臓移植不適応と判定された。以降も定期的に心機能評価を行っているが、心機能、心不全の悪化を認めず経過している。

このページの上へ

 

大阪大学医学部付属病院

吉岡 大輔(大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学):適応に合わせた重症心不全に対する統合的外科治療戦略、日本心臓血管外科学会雑誌、42(Suppl)、219、2013 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcvs/42/Supplement/42_S209/_pdf

 当科で手術施行した小児を除く、
心臓移植に到達した37例は2例(5%)で病院死亡、生存率は94%(1年)、94%(5年)、94%(10年)。
植込み型VAD手術群43例は病院死亡1例(2%)、遠隔期に脳合併症(延べ19例)、敗血症(延べ31例)を認めたが、累積生存率は98%(1年)、94%(2年)、94%(3年)であり全員NYHA1〜2に回復した。
左室形成術+僧帽弁形成術20例は病院死亡2例(10%)、累積生存率は90%(1年)、85%(2年)、80%(3年)であった。左室形成術+僧帽弁形成術症例では、6例(33.3%)においてNYHA3以上の心不全の再発を認めた。
 末期的重症心不全に対する小型植込み型VAD手術は安全に施行でき、遠隔期予後は心臓移植に比しても遜色のないものであった。今後は植込み型LVADを用いたdestination therapyの導入などが心不全治療のパラダイムシフトを起こすことが期待される。左室形成術+僧帽弁形成術は移植適応のない症例に対しても有効な術式であるが、心不全再発予防の向上が肝要であると考えられた。

 

*Sawa Yoshiki(Department of Cardiovascular Surgery, Osaka University Graduate School of Medicine):Tissue engineered myoblast sheets improved cardiac function sufficiently to discontinue LVAS in a patient with DCM: report of a case(培養筋芽細胞シートはDCM患者の心機能をLVAS中止を可能にするまでに十分に回復させる 1症例報告)、Surgery Today、42(2)、181−184、2012 http://link.springer.com/content/pdf/10.1007%2Fs00595-011-0106-4

 自己筋芽細胞シートの移植を受けた56歳男性の臨床状態は著しく改善し、不整脈が全くなくなり、左心補助装置の使用中止と心臓移植の回避が可能となった。

関谷 直純(大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科):自己筋芽細胞シートを用いた心筋再生療法、循環器専門医、16(2)、245−251、2008 (原文はhttp://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN10406982/ISS0000426105_ja.html内で公開されている)

 55歳男性、2004年より心拡大を指摘され、2006年に心不全が増悪し左室補助人工心臓(LVAS)を装着。自己心機能の回復がLVASを離脱するほどには及ばず、2007年3月に大腿部より筋肉を採取し約1ヵ月間の培養後、凍結。同年5月に再培養・シート化して、開胸下に細胞移植を行った。同年9月にLVASから離脱、12月には退院となった。細胞シート移植後において、致死的不整脈を含む合併症は発生しなかった。退院後半年が経過したが、現在のとこと心不全の再発を認めていない。

 

Jun Muratsu(大阪大学 大学院医学系研究科循環器内科):The Impact of Cardiac Resynchronization Therapy in an End-Stage Heart Failure Patient With a Left Ventricular Assist Device as a Bridge to Recovery: A Case Report、International Heart Journal、52(4)、246−247、2011 https://www.jstage.jst.go.jp/article/ihj/52/4/52_4_246/_pdf

 特発性拡張型心筋症の15歳男性は、急性非代償性心不全の管理のため左室補助装置(LVAD)を装着した。薬物治療にも拘わらず、19ヵ月目のオフポンプテストでは左室補助装置を離脱できるほど十分に心機能が改善しなかった。心臓再同期療法(CRT)装置を装着したところ、2ヵ月後に心機能が有意に改善した。患者はその3ヵ月後に左室補助装置を離脱し退院できた。

 

松宮 護郎(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科):わが国における補助人工心臓治療の現況と将来、人工臓器、36(3)、244−247、2007

 これまでに15例でLVAS離脱手術を行い、うち11例でLVAS再装着や心臓移植なしで生存を得ている。

 

福嶌 教偉(大阪大学医学部附属病院移植医療部):【循環器症候群(第2版) その他の循環器疾患を含めて】 心筋疾患 若年期拡張型心筋症、日本臨床、別冊循環器症候群III、134−138、2008

 2007年6月までに心臓移植希望患者として登録したDCM(若年期拡張型心筋症)30例にLVASを装着し、うち8例で回復が認められ、離脱を図り、長期に離脱できている。10歳代の4例全例、30歳代の10例中3例で離脱可能であった(40歳代以上の10例で心機能回復なし)。いずれも罹病期間は短く(初回心不全でLVAS装着)、組織学的に間質の線維化が軽度な症例であった。

 

松宮 護郎(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管呼吸器外科):心臓移植治療の現状 移植待機例の経過と予後から、Journal of Cardiology、50巻(Suppl.I)、124(2007

 日本臓器移植ネットワークに登録を行った症例は70例、48例で術前左室補助人工心臓(LVAS)の装着を要した。うち6例で自己心機能回復を認め離脱した。

 

関谷 直純(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座E1心臓血管外科):小児の左心補助人工心臓(LVAS)装着症例の検討 救命から離脱まで、The Japanese Journal of THORACIC AND CARDIOVASCULAR SURGERY、54(Suppl)、378、2006

 左心補助人工心臓(LVAS)は、小児末期的心不全症例に対しても有効な救命手段の1つであるが、容量が過大なdeviceの使用は、血栓発生等のriskが高いと考えられる。国内では、小児を対象としたdeviceはなく、小児へのVAS装着は依然として問題点が多い。しかし、海外においてはLVASからの離脱した小児症例が多数報告されており、riskを回避するためにも早期離脱が望ましい。
 当院での15歳以下(7〜15歳)のLVAS装着例5例の心不全歴は1〜6ヵ月と比較的短かったが、術前において全例ショック状態であり4例はPCPSに依存していた。1例を術後30日後にMOFにて失った。他の4例は生存し、心不全症状の著名な改善を認めた。
 症例1はLVAS除去後に心不全が再発したため、7日後に再装着し5ヵ月後にドイツにて渡航心移植を実施した。症例3、5は離脱に成功した。症例4は術後1年後にBiventricular pacingを導入し、その後のofftestでの心機能が次第に改善傾向を認めたため、離脱手術を検討中である。
 全例でポンプ内血栓による塞栓症(脳、腎、脾梗塞)を高頻度に発症し、症例1、5では頻回のポンプ交換を要した。
 小児LVAS症例は比較的高頻度に離脱が期待できるが、血栓症のリスクが高いため、装着後できるだけ早くbridge to recoveryを目指す必要があると考えられた。

 

瀧原 圭子(大阪大学健康体育部保健センター):フマル酸ビソプロロールにより心機能・QOLの著しい改善を認めた気管支喘息を合併した拡張型心筋症の1例、Progress in Medicine、26(8)、1975−1979、2006

 70歳男性は気管支喘息を合併している拡張型心筋症患者。前医にて1998年にベータ遮断薬・カルベジロールの導入が試みられたが、喘息症状の悪化が認められたため導入は見送られていた。2000年6月、内科的治療の限界と判断され心臓移植適応の検討目的で当院入院。心機能はNYHA3度。
 年齢も考慮し外科的治療の対象とはならないと判断し、内科的治療をさらに強化するべく、再度ベータ遮断薬の導入を試みることとなった。気管支喘息に対して長期間使用されていたプロカテロールおよびテオフィリンを、心機能への影響を考えて中止。プランルカスト内服および吸入ステロイドを開始した。気管支喘息発作は良好にコントロールされ、上室性期外収縮の頻度も減少し、メキシレチンも中止可能となった。次に、心不全に対して、吸入ステロイドの増量を行った後、ベータ遮断薬・フマル酸ビソプロロールを1mgで開始。1週間毎に増量し、気管支喘息および心不全の悪化を認めることなく4mgまで増量し得た。この時点で不整脈はほとんど消失し、心機能もNYHA2度まで改善がみられたため8月に退院。退院後ビソプロロールを5mgまで増量、2001年4月心機能もNYHA1度まで改善した。その後も経過順調で、外来通院の5年間に心不全悪化による入院はない。

 

松宮 護郎(大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管呼吸器外科):自己心治癒を目指した補助人工心臓治療、人工臓器、35(2)、S11、200 6

 左室補助人工心臓(LVAS)による左心室内腔の減圧が心筋代謝、細胞間質、神経体液因子などに影響して治療効果をもたらし自己心機能の改善が得られることが示唆されつつあるが、われわれはこれに加え外科的形成術や薬物療法、再生医療を組み合わせてさらに積極的に自己心治癒を目指す治療を行ってきた。
 2000年以降、積極的にLVASからのweaningを図る方針としてから装着術を施行し、3ヵ月以上生存し自己心機能を評価しえた37例のうち、9例(24%)で79〜662(平均385)日のLVAS補助の間に自己心機能の回復を認め離脱に成功し、術後42から1445日間心不全再発なく生存中である。

 

福嶌 教偉(大阪大学医学部付属病院移植医療部):小児慢性心不全への機械的循環補助と心臓移植、日本小児循環器学会雑誌、26(5)、441−443、2010

 1990年8月〜2010年7月までに当院の心臓移植検討会で心臓移植の適応と判断した18歳未満の44例。補助人工心臓装着8例中、6例で心機能の改善を認めたため、補助人工心臓の離脱を試みた(補助人工心臓装着後76〜743日、平均310±315日)。5例で心不全が再度悪化し、再装着した(離脱期間7〜1643日、平均631±770日)。残りの1例は心機能が改善しstatus2で自宅待機中である(離脱後2287日)。

 

福嶌 教偉(大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科学):重症心不全を呈する小児期心筋症に対する治療戦略の検討、日本小児循環器学会雑誌、21(4)、459―464、2005

 拡張型心筋症の15歳児は、LVAS装着後ベータ遮断剤、ACE阻害剤などの内科的療法を強化し、徐々に心機能が回復し、致死的不整脈が消失したので、685日目にLVASから離脱した。現在、NYHAT度で外来通院中である(2004年11月時点で機械的補助を受けた17歳以下8症例のうち、移植回避1例、渡米移植3例、移植待機中2例、死亡2例)。

 

このページの上へ

 

大垣市民病院 #ogaki-mh

*西原 栄起(大垣市民病院小児循環器新生児科):血漿交換が有効だった幼児拡張型心筋症の2例、日本小児循環器学会雑誌,30(3),326-331,2014 

 重度心不全を伴った拡張型心筋症(Dilated cardiomyopathy:DCM)に対して血漿交換療法(Plasma exchange:PE)が有効だった2幼児例を経験したので報告する.
 症例1:1歳1ヵ月女児、特発性DCM。カテコラミン等の治療を開始するもカテコラミン離脱不能なため99病日PE施行。PE後、心機能回復傾向だったがカテコラミン減量で心機能悪化するため、ピモベンダン、デノパミン内服併用しカテコラミン離脱。臨床症状もNYHAクラスIVからIIに改善した。
 症例2:1歳1ヵ月女児、特発性DCM。カテコラミン等の治療開始。症例1におけるPEの有効性からPE早期導入を考慮し、41病日PE施行。PE後カテコラミン離脱。臨床症状もNYHAクラスIVからIIに改善した。

 

このページの上へ

日本大学医学部付属病院

*丸山 高史(日本大学医学部内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野):心筋症による重症心不全に腹膜透析を導入した1例、臨床透析、27(5)、585−591、2011

 40歳女性は、11歳時に閉塞性肥大型心筋症の診断、25歳から心エコー上拡張相に移行して心不全をたびたび起こすようになり入退院を繰り返していた。38歳時、退院5日後に呼吸困難で再入院。75病日に両室ペーシング機能付き徐細動器を植え込み。入院中に急性腎障害を併発し、第51日まで持続的血液透析、その後は週3回の間欠的血液透析が行なわれていたが、透析時に収縮期血圧が60mmHgを下回ってしまうこともたびたびあり、血液濾過透析や限外濾過に変更または追加したものの、十分な透析と徐水を行なえない状態だった。

 当院小児科で「もったとしても20歳まででしょう」と主治医に言われていた経緯もあり、心臓移植などをしない限りは生命の継続が困難であるものの、年齢が40歳になっていることや腎不全の合併症もあるため、早急に心臓移植をすることも厳しいことから、この入院中に亡くなってしまう可能性もかなり高いと思われた。治療選択肢としては、透析を連日短時間で行なう短時間頻回透析や血液濾過法への変更、あるいは腹膜透析があり、前者は患者さんのストレスも多大なものになり現実味がないこともあり、第190病日より腹膜透析を導入した。血圧は収縮期で90mmHgを連日保つことが可能になり、尿量は腹膜透析移行33日後には1日1000ml以上を連日保つことになった。心エコー上、左室拡張末期径が63.1mmから57.3mmへ、駆出率は24%から38.9%まで改善がみられた。第284病日に独歩で自宅へ退院することができた。長期にわたる重症心不全に対して腹膜透析による除水が心負荷軽減に有効であり、現在は心不全治療の一環として腹膜透析を続けている。

このページの上へ

 

群馬県立心臓血管センター

*長谷川 豊(群馬県立心臓血管センター心臓血管外科):両心補助人工心臓により救命し得た劇症型心筋炎の1例、日本集中治療医学会雑誌、18(1)、77−82、2011

 37歳女性は急性心筋炎の診断で他院に入院したが循環状態が悪化し、大動脈バルーンパンピングを挿入され当院に搬送された。多臓器不全、ショックの状態で、気管内挿管、経皮的心肺補助装置を導入し、持続的血液濾過透析を開始した。経皮的心肺補助装置を4日間続けたが心機能の回復がみられなかったため、第5病日に左心補助人工心臓を装着、右室の運動も不良で右心補助人工心臓を追加した。その後、心機能は徐々に改善し、術後11日目に左心補助人工心臓、右心補助人工心臓から離脱、術後14日目に大動脈バルーンパンピングから離脱、術後24日目に人工呼吸器から離脱し間歇透析に移行、術後29日目にICUを退室、術後49日目に透析から離脱した。経過中に右脳梗塞を生じたが回復し、術後102日目に軽快退院した。

*坂田 泰史(大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学):両心補助人工心臓により救命し得た劇症型心筋炎 補助人工心臓装着のタイミングと問題点、日本集中治療医学会雑誌、18(1)、10−12、2011は、劇症型心筋炎の治療法として心筋生検を行ってステロイドを基本とする免疫抑制療法もあること、両心補助人工心臓から離脱できない場合は心臓移植待機患者となることも指摘している。

このページの上へ

滋賀医科大学付属病院

*宗村 純平(滋賀医科大学小児科):アンジオテンシンU受容体拮抗薬を含めた慢性心不全治療が奏功した拡張型心筋症の1小児例、日本小児科学会雑誌、114(10)、1567−1571、2010

 1歳6ヵ月女児は、突然、顔面・眼瞼の浮腫、尿量低下、活動性低下が出現した。胸部レントゲン写真で著明な心拡大を認め、超音波断層心エコー検査にて著明な左室拡大と心機能低下を認めた。拡張型心筋症と診断し、利尿薬、ホスホジエステラーゼV阻害薬、カテコラミンの静脈内投与と酸素投与を開始した。これにより浮腫、多呼吸などの心不全症状の改善を認めたものの、心機能は改善せず、ベータブロッカー、アンジオテンシン変換酵素阻害薬の追加投与を行なった。しかし、カテコラミン投与から離脱することができなかったため、入院151日目にアンジオテンシンU受容体拮抗薬の投与を追加した。アンジオテンシンU受容体拮抗薬の開始後、心機能は明らかな改善を認め、投与開始から70日目にカテコラミンの投与を中止することができた。入院221日目にドブタミンを中止したが血圧、脈拍は安定し、抹消冷感も改善した。入院237日目に退院した。現在、フロセミド、スピロノラクトン、ピモペンダン、カルベジロール、エナラブリル、ロサルタンの経口投与を行なっているが、心不全の増悪は認めていない。
 国内で小児の心臓移植が可能になったとはいえ、実際に移植例が増えるのはまだ先のことと思われる。したがって、拡張型心筋症などの難治性心不全症例に対する内科的治療は依然重要な位置を占めている。アンジオテンシンU受容体拮抗薬を含めた内科的治療は、小児の拡張型心筋症に伴う心不全の治療選択肢の一つになりうるものと考えられた。

 

山梨大学医学部付属病院

*Sugiyama Hisashi(山梨大学医学部小児科):Outcome of Non-Transplant Surgical Strategy for End-Stage Dilated Cardiomyopathy in Young Children(幼児の末期拡張型心筋症に対する非移植手術治療の転帰)、Circulation Journal、73(6)、1045−1048、2009 http://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/73/6/1045/_pdf/-char/ja/

 1998年5月から2008年5月までの期間に重症拡張型心筋症と診断された3歳以下の幼児11例のうち6例に計8回、部分的左室心筋切除術(PLV)5回と僧帽弁置換術(MVR)3回を施行した。4例は生存中で、うち1例は海外で心移植術を受けた。1例は術後1ヵ月後に血栓溶解治療中脳内出血で死亡、他の1例は術後2ヵ月後に心不全で死亡した。
 部分的左室心筋切除術を受けた発症時2歳11ヵ月の男児、11ヵ月男児、2歳4ヵ月女児は、術後5年が経過し、うち2例は無病で小学校に通っている。

このページの上へ

埼玉医科大

許 俊鋭(東京大学心臓外科重症心不全治療開発講座):心筋症の外科治療、Heart View、12(8)、1006−1013、2008

 筆者が埼玉医科大学で実施した109例のVAS治療において26例(24%)がVAS離脱に成功し、うち23例(88%)が退院した。退院後6ヵ月後に1名、3年後に1名失い、1名は離脱後心臓移植を必要としたが、離脱26例中21例(81%)は現在長期生存している。特に心臓再同期療法(CRT)は有効でQRS幅130msec以上を適応としてLVAS装着後CRTを導入した11例中5例がLVAS離脱退院し長期生存している。

 

許 俊鋭(埼玉医科大学):心臓移植低迷の中での重症心不全代替治療の模索、Journal of Cardiology、50(Suppl.I)、124、2007

 心臓移植施設に認定される以前の症例も含めて、過去22年間(1985年〜2007年5月末?)までに補助人工心臓(VAS)装着108例中、58例(54%)がVAS依存状態で死亡 、22例(20%)がVAS離脱に成功した。22例中2例が在院死亡、2例が遠隔死亡、1例が渡航移植を受けたが、18例(82%)は退院後長期生存している。

 

西村 隆(埼玉医科大学心臓血管外科):自己心機能の回復を目指した補助人工心臓治療、呼吸と循環、54(10)、S18−S19、2006

 1992年1月より2005年11月までに難治性心不全に対して補助人工心臓(VAS)を用いた治療を行った症例のうち、 開心術後心不全によるものを除外した心移植適応の重症心不全患者症例42例 を対象とした。疾患の内訳は拡張型心筋症32例、虚血性疾患8例、心筋炎後心筋症1例、産褥性心筋炎1例。付加手術として、中等度以上の僧帽弁閉鎖不全が認められるものに対し僧帽弁輪縫縮術を、また虚血性疾患に対しては全例LVAS装着時にCABGを施行した。
 42例中、補助人工心臓離脱例は9例(21%) 。 内訳は拡張型心筋症5例、虚血性疾患2例、心筋炎後心筋症1例、産褥性心筋炎1例であった。初期の4例中3例に心不全の再憎悪もしくは突然死(2ヵ月未満在院死亡1例、6ヵ月後退院後死亡1例)を認めたが、2002年にCarvedilol導入後は全例健在である(1ヵ月、5ヵ月、15ヵ月、17ヵ月、27ヵ月、5年以上が2例)。
 ま同時期により高い離脱率を目指して、心臓再同期療法(CRT)を適応症例に導入した。離脱症例中2例はCRTにより心機能が改善し離脱しえたものである。 一方、離脱率の低い虚血性疾患に対しては、骨髄単核球細胞移植を行い1例にて離脱が可能であった。

 

堀田 ゆりか(埼玉医科大学国際医療センター心臓内科):LVAS離脱に心室3点ペーシングによるCRTが有効であった症例、Therapeutic Research、28(10)、1956−1962、2007

 拡張型心筋症の35歳女性はカテコラミン離脱困難となり、IABP挿入のうえ、LVAS・心臓移植検討目的にて当院転院。入院日にLVAS装着、僧帽弁輪形成術を施行、カテコラミン投与で血行動態も安定し、徐々に心不全は改善した。本症例は12歳時よりWPW症候群を指摘されており、移植登録のためまずWPW症候群のカテーテルアブレーションを施行したところ、若干心機能改善がみられたが著明なdyssynchronyを認め、まず心臓再同期療法(CRT)で心機能改善を図ることとした。心室3点ぺーシングにてdyssynchronyの改善が認められ、その後、LAVS離脱・カテコラミン離脱したが心不全の増悪はなく、furosemide、carvedilol、enalapril内服を開始し退院となった。

 本来、効果的な心臓再同期療法(CRT)のためには、極端な心不全重症化前にCRTを施行することが必要である。しかし、本症例のような、移植を考慮する重症心不全症例に対しても、心不全急性期にLVASを装着し、慢性期に心室3点ペーシングによるCRT施行することにより心機能が改善する可能性があることが示された。

 

*櫻田 弘治(心臓血管研究所附属病院理学療法室):心臓外科治療の進歩と理学療法 重症心不全に対する外科治療法と理学療法 左室補助人工心臓(LVAS)の進歩と理学療法、理学療法ジャーナル、39(9)、777−783、2005

 埼玉医科大学病院にて(理学療法を)経験したLVAS12症例の転帰は、心臓移植生存4例(渡航移植3例)、LVAS離脱生存2例、脳梗塞・敗血症・多臓器不全による死亡6例であった。
 拡張型心筋症の32歳男性は、LVAS装着術後2病日より呼吸理学療法・下肢筋肉増強運動を開始した。13病日より歩行練習開始となった。臓器移植ネットワーク登録。心機能改善に伴う運動耐容能の改善(peak VO2:12.5→19.4ml/kg/min)が認められ、LVAS離脱の可能性が高まったため、積極的な筋力増強運動を再開し、身体機能を可能な限り高く維持して離脱に備えた。LVAS装着281日目に離脱・両心室ペーシング装着となった。

 

*西村 元延(埼玉医科大学心臓血管外科):難治性心不全に対する新しい外科治療−外科的両心室ペーシングの応用と自己心機能の回復を目指したVAS治療・Bridge to Therapy 、日本胸部外科学会雑誌、52巻(supplement)、193、2004

 埼玉医科大学では、補助人工心臓(Ventricular Assist System VAS:バス)装着患者に、付加手術として中等度以上の僧帽弁閉鎖不全が認められるものに対し僧帽弁輪縫縮術を、また虚血性心筋症、急性心筋梗塞に対しては全例LVAS装着手術と同時あるいは2期的に冠状動脈バイパスグラフト術を施行した。
 VAS装着の特発性心筋症患者3症例に両心室ペーシングリードを装着し、うち2症例で有効であった。うち1例はVASを離脱し、他の1例も離脱予定である。
 LVAS装着の急性心筋梗塞4例のうち、比較的残存心筋量の多かった2例(50%)でVASを離脱しえた。

このページの上へ

東京大学医学部付属病院

杉山 裕章(東京大学医学部附属病院循環器内科):修正大血管転位・右胸心に合併した最重症心不全に対し心臓再同期療法が著効した1例、心電図、30(1)、63−72、2010
*嵯峨 亜希子(東京大学医学部附属病院循環器内科):修正大血管転位(cc-TGA)に伴う解剖学的右室不全による重症心不全に心臓再同期療法(CRT)が奏功した1例、心臓、43(5)、670−677、2011

 41歳男性は、生後、修正大血管転位(C-TGA)、心室中隔欠損(VSD)、右胸心の指摘を受け、2歳時にVSD閉鎖術、33歳時に三尖弁置換術(TVR)が施行された。以後、心機能低下はあるものの心不全の顕在化なく経過していた(NYHAクラス2)が、2008年10月、突然心肺停止となった。搬送先で蘇生されたが、体心室(解剖学的右室)の収縮能低下を伴う心不全管理に難渋し、カテコラミン依存状態となった(NYHAクラス4)。
 当院転院後、非薬物療法の検討が行われたが、悪液質、MRSA保菌や胃瘻の存在もあり、補助人工心臓・心臓移植が躊躇された。他方、心室内伝導障害と体心室の収縮非同期を認め、心室再同期療法(CRT)の有効性が期待された。心臓移植登録を行ないつつ、補助人工心臓に先行して心室再同期療法(CRT)導入を行なう方針とした。
 術後、速やかな心不全症状の改善に加え、カテコラミンからも離脱しえた(CRT術後7日目)。安定した全身状態にて第66病日に独歩退院となった(NYHAクラス2)。成人期に達したC-TGAにおける体心室の適応破綻はしばしば問題となるが、本症例は補助循環も考慮されるほどの最重症心不全に対してもCRTが著効する場合があることを示唆した貴重な症例と考える。
 成人先天性心疾患に対する心臓移植は2.9%とごく少数のみであり、近年の成人期心臓移植例の推定平均生存期間は約11年といまだ十分ではなく、さらに本邦においてはドナーの慢性的な不足の問題もあり、移植時期をなるべく先送りする“bridge to transplant”治療の需要が今後も高まることは予想に難くない。そのようななか、適切な時期・症例選択を行なうことでCRT導入により著明な改善が得られ、一時的にでも移植待機状態から脱却できる症例が存在することを本症例は示唆している。

 

*小野 稔(東京大学医学部):重症心不全に対する補助人工心臓治療の遠隔成績、Journal of Cardiology、50巻(Suppl.I)、130、2007

 2002年4月以降、LVAD治療を15例経験した。VAD植え込み後の追跡期間は23日から53ヶ月(平均22ヵ月)。転帰は、離脱3例、心臓移植3例、非離脱死亡4例、補助継続中4例。生存(離脱・移植)5例では、現在NYHA1度4例、2度2例である。

 

大阪医科大学付属病院

*佐々木 智(大阪医科大学付属病院心臓血管外科):幼児拡張型心筋症に対しCardiac Resynchronization Therapyが著効した1例、移植、42(6)、568、2007

 1歳8ヵ月女児は乳児期発症の拡張型心筋症に対し内服治療が行われていたが、感冒を契機に心不全が増悪、BNPは4,320pg/mlと異常高値であった。Milrinone投与を追加し、症状の改善とBNPの低下(2,060pg/ml)を得たが、心エコー上、左室壁運動の改善はなく、左室のdyssynchronyと心電図上150msのQRS幅の延長を認めた。心移植適応とも判断されたが、患者家族のインフォームドコンセントの下、CRTが選択された。
 術後、CRTによりQRS幅は10msと短縮し、左室のdyssynchronyの改善と左室基部壁運動の軽度改善が得られた。BNPは258pg/mlまで低下し、術後51日目に退院した。今後、慎重な遠隔期の経過観察により、当症例におけるCRTの効果判定が必要である。CRTが当該疾患に対する心移植前の治療の一選択肢になりうる可能性が示唆された。

 

日本医科大学附属病院

深澤  隆治(日本医科大学附属多摩永山病院小児科):DCMと診断し心移植目的で渡米したものの冠動脈奇形が判明した乳児例、日本小児循環器学会雑誌、23(4)、415―416、2007

 3ヵ月女児、遷延する咳嗽を契機に当院を受診、拡張型心筋症と診断。冠動脈造影に関しては、これまでの経験上高リスクであると判断、心 エコー上拡大もなく正常と判断されたこともあり施行は見送られた。日本循環器学会の判定委員会でも心移植 の適応とされ、米国で心移植が実施される運びとなり渡米した。
 米国にて移植前の最終的な検査にて冠動脈造影 が施行された結果、左冠動脈肺動脈起始症が判明し、修復術が施行された。現在、術後2ヵ月となり、極めてゆっくりではあるが、心機能の回復が認められつつある。

 

済生会京都府病院

*本田 有衣子(済生会京都府病院心臓血管外科):心臓移植の適応から除外された特発性拡張型心筋症に対する外科治療、乙訓医学会集録15回、13−17、2006

 69歳男性は1992年に拡張型心筋症と診断。その後、心不全、脳梗塞、糖尿病にて入退院を繰り返していた。2004年12月、心不全増悪(NYHA分類4度)、2005年12月、起坐呼吸が出現。カテコールアミン持続的点滴、利尿薬の投与等の薬物療法を行ったが反応性は非常に悪く、これ以上の内科的治療は困難と考えられた。他なる治療手段としては心臓移植が考えられたが、年齢や患者の理解度の問題により適応外と判断した。心臓移植の代替手段として2005年2月15日、生体弁MOSAIC29Mによる僧帽弁置換術と両心室ペーシング術を行った。術後経過は良好で、術後3ヵ月後の心エコー、胸部単純X線写真各所見は改善を認めNYHA分類2度まで改善、現在は車椅子移動で自立した生活ができている。

このページの上へ

マツダ株式会社マツダ病院

*塩谷 基(マツダ株式会社マツダ病院循環器科):ミルリノンとカルベジロールの併用が著効した重症心不全の1例、Therapeutic Research、27(2)、275―282、2006

 73歳男性、高血圧性心疾患の末期状態に伴い重症心不全の急性増悪を繰り返した。2002年4月28日、5回目の入院、ニューヨーク心臓協会(NYHA)の心機能分類IV度であった。強心剤(カテコラミン、PDE阻害薬ミルリノン)、利尿薬(カルペリチド、フロセミド)の持続注射で治療したところ、一時的に心不全症状は軽快したが、次第に薬剤不適応をきたした。
 βブロッカーであるカルベジロールの漸増内服とミルリノン持続静注の併用導入により、約9ヵ月に及ぶ治療の末、心機能は劇的に改善した。2003年1月にミルリノンからの離脱に成功、心不全症状は消失(NYHA心機能分類II度)し2月6日に退院した。その後、外来治療継続していた。2003年9月11日に嚥下性肺炎で救急来院、9月4日に死亡した。
 NYHA IV度の重症心不全では、カテコラミンよりもPDE阻害薬ミルリノン持続静注とβブロッカー内服を併用する方が治療成績がよいと考えられる。この併用療法以外では心機能の回復は見込めず、最終的な治療方法としては心移植以外なかったであろう。今後、このPDE阻害薬とβブロッカーの併用療法の経験を積んでいけば、心移植以外に治療選択枝のないカテコラミン耐性の難治性心不全患者の治療において、新たな治療選択枝の一つとなっていくと考えられる。

 

東京女子医科大学病院

  • 松田 直樹(東京女子医科大学医学部循環器内科):【心不全UPDATE】 心不全の非薬物療法 心臓再同期療法、医学のあゆみ、218(14)、1271−1276、2006

 両心室ペーシングは、NYHAクラスIVの心臓移植待機患者5例中1例に有効、カテコールアミン依存となった末期症例11例中4例に有効だった。

 

九州大学病院

 症例は14歳女児、修正大血管転位症に対し他院でRastelli手術が行われた。その後、永久ペースメーカー植え込み術と解剖学的三尖弁置換術を施行された。12歳時より心不全が出現し、解剖学的右心機能(体心室機能)の高度低下のため心臓移植の適応と判断され、入院待機となっていた。DDDペースメーカー植え込み術を施行したが、術後1ヵ月で心房細動となり同期ペーシング不可となった。そこで、2つのペースメーカーを用いて両心室ペーシング(CRT)を試みた。その結果、心不全は改善し、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は473pg/mlから276pg/mlへと低下した。現在自宅で日常生活を送っている。
 

  • 森田 茂樹(九州大学病院心臓血管外科):短期的左心補助と長期的左心補助を組み合わせた重症心不全の治療経験、人工臓器、33(2)、S64、2004

 1999年2月22日より2004年7月7日現在まで14例(7歳〜73歳、中央値38歳)に補助循環装置の装着を行なった。装着後30日以内の死亡は3例、30日以上の死亡は2例。離脱3例のうち1例は敗血症で死亡したが2例の急性心筋炎の小児は現在も生存中。

このページの上へ

久留米大学病院

  • 戸島 裕徳(久留米大学第3内科):心臓移植の適応基準、循環器専門医、2(1)、151―159、1994

     先天性大動脈弁狭窄症の34歳男性は拡張型心筋症の診断を受け、心臓移植の適応があると説明を受けた。驚いた患者は別の病院を受診したが、そこでも心臓移植しかないといわれ、絶望的になって自棄的な生活の後、妻の実家に移り、そこの市立病院で手術の可能性の検討を進められ私どもの病院に入院した。心雑音も非典型的となった左心機能低下の著しい例ではあったが、手術可能との判断で大動脈弁置換術を依頼し成功した。
     
     次の症例31歳男性は心臓移植の適応とされ、守る会の基金に援助されて英国に渡航したが、症状が安定しているため帰国して待機していた。(当院)入院時NYHAV度、拡張型心筋症。ACE阻害剤およびベータ遮断薬が投与されていなかった。約3ヵ月の入院加療で心不全症状も消失し退院、事務職に復帰した。本例は顧みて問題点がいくつかあるが、第1に指摘したいのは、当時の主治医はあまりにも簡単に心臓移植を口にしたことだろう。「この病気はどこに行っても助かる道は心臓移植しかない」「あと2年の命」(守る会責任者の言による)との主治医の判断は、このような社会的影響の大きい問題に関して独断でなされてはいけないことを示している。

 

 補助人工心臓などを用いない、内科的治療および理学療法による回復例もある。

 

聖マリアンナ医科大学病院

  • 田村 政近(聖マリアンナ医科大学循環器内科):Drug-Combination Therapyにより心臓移植を回避し得た拡張型心筋症の1例、Circulation Journal、66(Suppl.II)、899、2002

     拡張型心筋症の38歳男性は2000年1月、心不全再発にて入院。第4病日に心室細動から心肺停止に至った。蘇生後は以前からのACE阻害薬とベータ遮断薬に加えA-U受容体拮抗薬を開始。心肺停止3ヵ月後の心肺運動負荷試験にて最高酸素摂取量(peak VO2)は12.6ml/kg/minと著明に低く、心臓移植待機者に登録。内科的治療により、9ヵ月後のpeak VO2が17.8と著明に増加した。

 


このページの上へ

肝臓移植回避例 • 心臓移植回避例 • 肺移植回避例 • 臓器移植死

 

ホーム ] 総目次 ] 脳死判定廃止論 ] 臓器摘出時に脳死ではないことが判ったケース ] 臓器摘出時の麻酔管理例 ] 人工呼吸の停止後に脳死ではないことが判ったケース ] 小児脳死判定後の脳死否定例 ] 脊髄反射?それとも脳死ではない? ] 脊髄反射でも問題は解決しない ] 視床下部機能例を脳死とする危険 ] 間脳を検査しない脳死判定、ヒトの死は理論的に誤り ] 脳死判定5日後に鼻腔脳波 ] 頭皮上脳波は判定に役立たない ] 「脳死」例の剖検所見 ] 脳死判定をしてはいけない患者 ] 炭酸ガス刺激だけの無呼吸テスト ] 脳死作成法としての無呼吸テスト ] 補助検査のウソ、ホント ] 自殺企図ドナー ] 生命維持装置停止時の断末魔、死ななかった患者たち ] 脳死になる前から始められたドナー管理 ] 脳死前提の人体実験 ] 脳波がある脳幹死、重症脳幹障害患者 ] 脳波がある無脳児ドナー ] 遷延性脳死・社会的脳死 ] 死者の出産!死人が生まれる? ] 医師・医療スタッフの脳死・移植に対する態度 ] 有権者の脳死認識、臓器移植法の基盤が崩壊した ] 「脳死概念の崩壊」に替わる、「社会の規律として強要される与死(よし)」の登場 ] 「脳死」小児からの臓器摘出例 ] 「心停止後」と偽った「脳死」臓器摘出(成人例) ] 「心停止後臓器提供」の終焉 ] 臓器移植を推進する医学的根拠は少ない ] 組織摘出も法的規制が必要 ] レシピエント指定移植 ] 非血縁生体間移植 倫理無き「倫理指針」改定 ] 医療経済と脳死・臓器移植 ] 遷延性意識障害からの回復例(2010年代) ] 意識不明とされていた時期に意識があったケース ] 安楽死or尊厳死or医療放棄死 ] 終末期医療費 ] 救急医療における終末期医療のあり方に関するガイドライン(案)への意見 ] 死体・臨死患者の各種利用 ] News ] 「季刊 福祉労働」 127号参考文献 ] 「世界」・2004年12月号参考文献 ]