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肝臓移植回避例

肝臓移植登録患者の生存率は、医学的緊急度の定義とは異なっていた 肝移植適応ガイドラインの信頼性は低い 脳死肝移植登録後の非移植回復例

劇症肝炎 B型肝炎 小児劇症肝炎 肝性ミエロパチー 糖原病 熱中症 新生児へモクロマトーシス 進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型 ウィルソン病 肝芽腫 高チロシン血症 肝細胞癌 自己免疫性肝炎 自己免疫性膵炎 原発性胆汁性肝硬変 胆道閉鎖症 肝肺症候群 アルコール性肝硬変

肝移植後長期生存例 肝臓移植患者の終末期


肝臓移植登録患者の生存率は、医学的緊急度の定義とは異なっていた

*山敷 宣代(東京大学医学部附属病院臓器移植医療部):日本の脳死肝移植医療における適応、評価、待機の現状と問題点 東大移植チームの経験から、肝臓、50(11)、634−643、2009  http://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/50/11/634/_pdf/-char/ja/

 2003年4月から2008年12月までに101症例の脳死肝移植希望患者を評価し、41症例が日本臓器移植ネットワークに脳死肝移植登録をした。初回の医学的緊急度は1点(2例)、3点(10例)、6点(23例)、9点(6例)であった。登録後16症例が移植を受けずに死亡した。脳死肝移植に至った7症例は全例生存した。3例は症状が改善し登録を取り消した(9点→3点→取り消し、3点→取り消し、1点→取り消し)。
 患者の生存率は、実際に使用される緊急度の定義とは異なっていた。たとえば緊急度6点は、予測余命が1〜6ヵ月以内と定義されてはいるが、実際に6点に登録した患者の生存期間の中央値は約1年であった。現在の緊急度6点の患者を重症度別にさらに階層化し、逆に予後良好な緊急度1点を見直して登録を見合わせるなどの措置も今後有用ではないかと考えられた。

当サイト注:緊急度9点は予測余命が1ヵ月以内、同6点は予測余命が1ヵ月〜6ヵ月以内、同3点は予測余命が6ヵ月〜1年以内、同1点は予測余命が1年を超えるもの、とされている。

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肝移植適応ガイドラインの信頼性は低い

山岸 由幸(慶応義塾大学医学部消化器内科):肝臓移植可能な単一施設での新ガイドラインによる急性肝不全患者の内科的治療戦略、日本消化器病学会雑誌、108(臨時増刊号)、A126、2011

 急性肝不全においてはガイドライン改訂による予後予測率向上が期待されている。一方、5日後判定がなくなり、診断時のみで肝移植の適否が判断される可能性がある。当院にて2000年以降の急性肝不全37例は、全例、人工肝補助療法が施行された。内科的治療にて救命14例のうちカットオフの5点以上は4例であった。このうち、2例は5日後判定生存で救命した。2例は5日後判定も死亡であったが内科治療で救命した。単一施設での戦略としては、新ガイドラインは移植検討例の拾い上げに有効であり、内科的治療に並行してドナー検索を進めた上、5日後判定を活用することにより、さらに移植が必要な患者の選定と速やかな移植への移行に役立つと思われた。

 

中山 伸朗(埼玉医科大学消化器内科・肝臓内科):劇症肝炎の新しい肝移植適応ガイドラインによる肝移植実施例の再評価、肝臓、50(Suppl.2)、A585、2009

 わが国の肝移植ガイドライン(1996年)は最近の症例に適応すると正診率が低率である。特に亜急性型では特異度が40%と低く、救命例を死亡と予測して肝移植を実施していた可能性がある。全国集計登録の1998〜2005年に発症の劇症肝炎とLOHF859例のうち、肝移植を実施した174例を対象として(1)従来のガイドライン、(2)多変量解析による新ガイドライン、(3)決定木の3モデルで脳症発症時の予後を予測した。
 (1)従来のガイドライン、166例が解析可能で、うち143例(86%)が死亡と予測された。
 (2)多変量解析による新ガイドライン、137例が解析可能で、うち105例(78%)はスコアが5点以上となり、肝移植非実施例を対象とした検討では死亡率が84%以上と判定された。しかし、12例(9%)は4点、20例(15%)は3点以下で、それぞれの死亡率は56%、18%に相当し、これらには従来法による死亡予測例が8例ずつ含まれていた。
 (3)決定木の3モデル、173例が解析可能で、80例(46%)は肝移植非実施例の死亡率が89%のリーフに、27例(16%)は死亡率80%のリーフに分類された。しかし死亡率が25%と低率なリーフに分類される症例も42例(24%)存在、うち31例は従来法による死亡予測例であった。
 肝移植実施例で移植前の予後を新たに開発した2つのモデルで再評価すると、予測死亡率が低率の症例が少なからず存在し、この中には従来のガイドラインでは死亡と予測される症例も含まれていた。

 

*持田 智(埼玉医科大学第3内科):【成人生体肝移植:その適応をめぐって】内科からみた生体肝移植の問題点、診療と新薬、40(6)、456−466、2003

 この論文は、劇症肝炎における肝移植適応ガイドラインの信頼性が低下し、生存予測でも移植登録および移植手術が行なわれていることを指摘、「慢性肝疾患に関しても内科治療の進歩に応じて、移植の適応を常に見直していく必要がある」と述べている。

 日本急性肝不全研究会の作成した劇症肝炎における肝移植適応ガイドライン(1996年)は、1990年代前半までの症例を基に作成されており、当初は正診率が82.5%と高率だった。しかし1998年〜2000年には劇症肝炎急性型での正診率は昏睡出現時が69%、5日後の再予測でも67.2%とさらに低下した。
 救命された80例のうち、昏睡出現時に正しく「生存」と予測されたのは52例、21例は「死亡」と誤った。5日後の再評価でも16例(20%)が「死亡」予測と誤ったままだった→死亡予測患者のみ肝移植登録が行なわれるため、内科的治療で救命できる患者に肝移植を実施するリスクが高い。
 死亡65例のうち、「生存」と誤って予測された患者が昏睡出現時に19例(29%)と多数存在し、5日後の再評価でも1例。肝移植を受けた15例では、昏睡出現時に「生存」と予測されながら移植登録し移植手術をされた5例が存在した。 1998年〜2000年の劇症肝炎亜急性型では、全体の正診率は昏睡出現時79.4%、5日後の再予測80.7%と高率であるものの、救命された32例のうち、昏睡出現時に27例が、5日後の再評価でも18例(56%)が「死亡」と誤って予測されていた。
 死亡した102例のうち、5日後再評価では4例が「生存」予測となったが死亡した。移植された40例のうち、3例は5日後再評価時点においては「生存」予測だった。

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脳死肝移植登録後の非移植回復例(一部は劇症肝炎以下の報告と重複する見込み)

*和田 浩志(大阪大額消化器外科):脳死肝移植希望登録者の転帰と待機状況よりみた脳死肝移植の現状と問題点、日本臨床外科学会雑誌,74(supple),363,2013

 医学的緊急度9/10点の34名の転帰は死亡16名、生体肝移植8名、肝機能改善7名、脳死肝移植施行3名であった。

 

*山敷 宣代(東京大学医学部附属病院臓器移植医療部):脳死肝移植待機患者の診療体制からみた臓器移植法改正の影響、日本消化器病学会雑誌、109(臨時増刊号)、A606、2012
*山敷 宣代(東京大学医学部附属病院臓器移植医療部):脳死肝移植待機患者の診療体制からみた臓器移植法改正の影響、肝臓、53(supple2)、A644、2012

 当院にて2011年12月までに脳死登録に至った112例のうち、2012年2月時点で脳死肝移植実施は17例であった。脳死肝移植を受けていない95例の転帰は、ドミノ肝移植実施1例、待機中33例、死亡削除42例、生存削除19例であった。

 

*川岸 直樹(東北大学病院移植・再建・内視鏡外科):当院における脳死肝移植の現状、肝臓、53(supple2)、A841、2012

 2007年から2012年6月まで、当院肝移植適応委員会を経て、脳死肝移植適応評価委員会で登録認定を受けた99症例。うち85例が日本臓器移植ネットワークに登録した。3例が脳死肝移植となり、認定症例のうち半数は死亡、1例は肝機能改善のため生存中に登録取り消しとなった。

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劇症肝炎

移植外科へ送る前に、内科でなすべきこと(人工肝補助)がある

 2007年7月5日に開催された座談会“劇症肝炎・急性肝炎”(肝臓48巻9号p409〜p428)では以下の発言がなされている。

  • 井上和明(昭和大学藤が丘):移植施設に送られたもののドナーがいなくて、結局、内科治療を受けるために私たちの施設へ転送となった患者さんが3人おられます。これら3人に共通のことは、十分な内科治療が行われていません。結局、内科はもうあきらめちゃってて、なんでもいいから移植施設に送ればいいだろうという感じ。
     
  • 三代俊治(東芝病院):ありうる話ですな。
     
  • 井上:要するに、外科に送る前に内科でやることがあった筈なんですよ。
     
    (p422)
  • 滝川康裕(岩手医大):HDFとかCHDFが出てから脳浮腫は非常に少なくなったと思います。
     
  • 井上:アメリカは結局、日本のような強力な肝補助がありません。例えばパラセタモールだと1.6日位で肝移植を行います。脳浮腫が出たらサポートする手段が無いので早めに手術に踏み切るわけです。それを日本が真似をする必要はないと私は思います。
    (p424)
  • 血液をドンドン洗って行ってD/T比が上がってこないケースはもう無理ですよ。(中略)肝補助が簡便でどこでもできるようになれば、(肝移植の)適応かそうでないかをクリアーに分けられるようになると僕は思います。再生してこない症例は移植に回す。そういう判断が確実にできますから。10年程前になりますが、「既に移植したのだけれども」といって移植前のデータが送られてきたことがあります。脳症は4度であったというのですが、データで見てみたらD/T比が0.8位あって、まだ内科治療で回復する余地があったのではないかと考えさせられるケースがありました。

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改訂臓器移植法により、脳死肝移植施行率は5倍上昇、自然回復例は半減

*玄田 拓哉(順天堂大学医学部附属静岡病院消化器内科)、市田 隆文(日本脳死肝移植適応評価委員会):脳死肝移植待機リストにおける劇症肝炎患者の現状、肝臓、53(7)、450−451、2012

 2010年7月の改正臓器移植法実施後の脳死ドナー臓器提供数増加は、待機リスト上位にある劇症肝炎患者の転帰に大きな変化をもたらしたと推測されることから、脳死肝移植待機リストにおける劇症肝炎患者の現状を検討した。
 1997年10月から2011年8月末までに日本脳死肝移植適応評価委員会において評価を受け、臓器移植ネットワークに脳死肝移植レシビエント候補として登録された18歳以上の劇症肝炎患者142例、日本脳死肝移植適応評価委員会事務局データベースに記録された適応評価時の臨床情報、検査成績と臓器移植ネットワークに登録された転帰を用いて、累積待機死亡率、累積脳死肝移植率および脳死肝移植施行に寄与する要因、最終転帰について解析した。
 2011年8月末までに脳死肝移植待機リストに登録された18歳以上の劇症肝炎患者は142例。2011年9月末時点の転帰は、脳死肝移植施行17例、生体肝移植移行14例、回復20例、待機中死亡83例、病状悪化による申請取り下げ8例であった。待機中に死亡した例と病状悪化による申請取り下げ例を合わせて待機死亡としKaplan-Meier法で累積待機死亡率を算出したところ、登録後10日、20日、30日の死亡率はそれぞれ29.5%、45.2%、53.8%であり、待機生存期間の中央値は29日であった。
 適応評価時のデータが日本脳死肝移植適応評価委員会事務局に登録されている2007年以降の71例を用いて脳死肝移植施行に寄与する要因をロジスティック回帰分析で検討したところ、年齢、性別、血液型、肝障害の成因、待機時間、肝機能などの要因とは関連が認められず、登録時期すなわち改正 臓器移植法実施前か後かのみが有意な要因であった(Odds ratio 5.41,P=0.01)。
 累積脳死肝移植施行率を算出したところ、登録後10日目の移植施行率は改正法実施前の3.9%に対し実施後は25.5%と上昇していた。
 待機リストから除外された時点の転帰は、改正法実施前は脳死肝移植施行、生体肝移植移行、自然回復、待機死亡の比率はそれぞれ7.8%、14.7%、17.2%、61.2%であったが、実施後はそれぞれ34.6%、0%、7.7%、57.7%となった。

 改正臓器移植法実施により劇症肝炎患者に対する脳死肝移植施行率は約5倍に上昇し、転帰における待機死亡と生体移植移行例の割合が減少していた。すなわち、改正臓器移植法実施による脳死ドナーの増加は肝移植レシピエント待機リストにおける劇症肝炎患者の待機中死亡の減少と共に生体ドナーを回避する効果も認められた。ただし、依然として待機中死亡の割合は高く、更なるドナー活動の普及が予後改善には必要と考えられた。

 

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三重大学医学部附属病院 #mieh

*水野 修吾(三重大学肝胆膵・移植外科):脳死・生体肝移植を前提とした急性肝不全に対する治療成績と課題、日本腹部救急医学会雑誌、34(2),392,2014

 生体・脳死肝移植を前提として治療を行った急性肝不全症例17例(2002.7-2012.9)の治療成績を検討した。生体肝移植10例、8例が移植後に社会復帰したが、2例は敗血症、肝梗塞にて死亡。脳死肝移植登録は7名、うち2名は待機期間24、18日で脳死肝移植を施行。移植後28、17ヵ月経過し社会復帰している。残り5名中2名は血漿交換・high flow HDFにて状態改善し、登録7.5日目でinactive申請後軽快退院したが、3名は登録35、36、35日目に敗血症・肝不全にて死亡した。

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大阪大学医学部付属病院

*富丸 慶人(大阪大学大学院消化器内科学):当院における急性肝不全に対する取り組み、日本腹部救急医学会雑誌、34(2),392,2014

 78例中33例が肝移植の方針となった。33例中、生体および脳死肝移植をそれぞれ19例、2例に施行した。移植施行例ではいわゆる電撃型劇症肝炎であった1例以外は全例救命し得た。一方、移植手術に至らなかった12例のうち3例は内科的治療が奏功し脳死肝移植登録を抹消したが、残り9例は移植手術待機中に死亡した。

 

*和田 浩志(大阪大学消化器外科):脳死肝移植登録症例より見た脳死肝移植の現状と問題点、肝臓、54(Suppl.3),A663,2013

 脳死肝移植希望登録者250名のうち、医学的緊急度9/10点の34名はいずれも劇症肝炎であり、転帰は死亡16名、生体肝移植8名、肝機能改善が7名、脳死肝移植にて救命できたのはわずか3名のみ(8.8%)であった。

 

清水 健太郎:急性肝不全症例における意思決定 生体肝移植ドナー家族への影響と問題点、日本救急医学会雑誌、19(8)、496、2008

 2001年より、急性肝不全難治症例では生体肝移植に関して家族に十分な情報を提供している。入院時より意識障害を伴う劇症肝炎、急性肝不全42症例において、移植にいたった例は14例、移植にいたらなかった28例(非移植例)中、内科的治療での生存が18例、死亡例は10例であった。移植の意思決定の過程で家族の人間関係が明らかに悪化した症例は4例(移植例1例、非移植例3例)みられた。また長期にわたる血漿交換治療など、治療継続の是非が問題となった症例が4例あった。

 

*入澤 太郎:劇症肝炎における血液浄化法、救急医学、(10)、1219−1233、2004

 26歳女性は、原因不明の高度の肝逸脱酵素上昇ののち、肝性脳症をきたして転院してきた。来院日に脳死肝移植登録。初期3回の血漿交換(plasma exchange;PE)をへて、肝性昏睡U度から、軽度の見当識障害程度に意識レベルの改善をみとめたものの、PT(プロトロンビン時間)値の低下、高ビリルビン血症・直接間接ビリルビン比(D/T比)ともなかなか改善しない状態が持続した。

 15病日に脳死肝移植を再び登録。経過が遷延するものの、臨床的な出血傾向が顕著ではなかったので血漿交換施行の指標となるPT値を、従来の30%から20%にまで引下げ、20日間にわたって計10回の血漿交換を施行した(保険医療として認められている血漿交換は、1連につきおおむね10回以内)。

 第22病日の時点でPT値20%、D/T比<0.3と肝合成能、解毒・排泄能ともに著しく傷害されており、画像上も肝容積約480mlと、著明な肝萎縮を認める状態であった。しかしながら、肝性昏睡T度と意識障害は軽度で、明らかな出血症状も欠いていたため、血液浄化を実施せず保存療法を継続した。

 結果として約3ヵ月を経て肝再生が徐々に進み(肝容積>1000ml)、PT値50%以上を維持、総ビリルビン値の正常化、D/T比の正常化を得た。現在、社会生活に復帰されている。

 劇症肝炎時の血漿交換施行規準は、PTが30%を下回らないように、という見解が一般的であろう。本症例は、とくに肝移植が早々に期待できないような症例について、われわれの施設における血漿交換施行の目安となるPT値の設定を従来より引き下げるきっかけとなった。

 

*中川 雄公:大阪大学高度救命救急センターにおける急性肝不全に対する治療の現状とその問題点、日本救急医学会雑誌、15(19)、491、2004

 肝移植を行なった9例中、3例を失い、1例に神経学的後遺症が残存した一方で、移植の適応と判断されながらもドナーが存在しないため内科的治療法を継続した6症例のうち、2例を救命することができた。このことは、生体肝移植においては肝再生困難で内科的治療の限界と判断する指標が確立されていないことを示しており、より鋭敏な指標の確立が急務と考える。

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手稲渓仁会病院、北海道大学病院、旭川医科大学病院

*姜 貞憲(手稲渓仁会病院消化器病センター):急性肝不全に対する肝移植:脳死移植は生体肝移植か、日本消化器病学会雑誌、110巻(臨増大会),A639,2013

 00年から13年3月までに診療した昏睡型急性肝不全49例中、法改正後の7例を対象とした。
 昏睡診断と同時に全例で生体トナー検討を開始、1例のみで適格ドナーを確保した。7例中6例で脳死登録を検討、5例を登録した。
 内科治療で3例は生存した。1例は脳死登録直後に脳死ドナーが出現するも脂肪肝のため施術されず覚醒後現在も治療中。1例は脳死登録49日で脳死肝移植を受け生存した。死亡は2例で、再活性化1例は感染症を併発し脳死登録断念。ウィルソン病1例では脳死登録21日後脳死ドナーが発生したが感染で待機インアクティブ、感染回復後脳死待機に復帰するもドナーの出現無く34日後適応生体ドナーから移植を予定したが状態不良で非施行、その後脳死ドナーが2回発生したが耐術能低下のため施術を断念した。

 

姜 貞憲(手稲渓仁会病院消化器病センター):臓器移植法改正が急性肝不全診療に与えた臨床的impact 肝臓内科・移植外科協同による地域的診療システムにおける検討、肝臓、53(supple)、A32、2012

 我々は2000年に北海道の肝性昏睡合併急性肝不全(ALF)に対する肝臓内科・移植外科協同の診療システムを構築した。ALF症例に対し内科的集中治療と肝移植準備を並進し、内科・外科医が臨床dataを共有し移植適応をreal timeに検討、内科的治療不応時は速やかに肝移植へ移行する地域的診療システムを展開した。
 11年間に道内33施設から紹介されたALF39例、OTC欠損症1例の40例中33例(83%)は、HDF中心の血液浄化療法で覚醒(あるいは覚醒維持)し、うち19例(48%)が内科治療で救命された。肝移植は26例(生体17、脳死9)で検討・準備され、昏睡発症後中央値29.5日(10−66)日に9例(生体7、脳死2)で施行され、6例(66%)が1年生存した。最終的に25例(63%)が救命された。
 法改正後16ヵ月で診療した3例(OTC欠損症含む)中、1例は内科治療で救命、2例が脳死登録され1例は肝移植で救命された。残る1例は他院で脳死登録し移植待機治療目的で当院へ転入したが内科的救命の可能性ありと診断、待機inactiveとして現在治療中である。
 法改正前に脳死登録された7例中2例は内科治療で、1例は昏睡発症16日後肝移植で救命された。肝移植未施行4例は昏睡発症後13、16、21、78日で死亡した。

 

*姜 貞憲(手稲渓仁会病院消化器病センター):肝臓内科・移植外科協同による地域的劇症肝炎診断system、肝臓、53(4)、250、2012

 2005年から2010年2月まで当センターで診療した劇症肝炎19例を対象とした。肝移植ドナーの選定は17例で行なわれ、7例で適格ドナーが選定され待機した。集中治療を要した17例中14例(82%)は開始4(2〜11)日後に覚醒、適格ドナーが待機する4例を含む9例(47%)が救命された。

 

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神戸大学付属病院

*武部 敦志(神戸大学大学院肝胆膵外科学):臓器移植法改正後の劇症肝炎に対する肝移植、日本消化器病学会雑誌、110巻(臨増大会),A837,2013

 2010年7月より2013年3月までに6例の劇症肝炎・LOHFが移植適応と判断された。3例に生体ドナー(うち血液型非適合ドナー1例)がいたが、全例脳死移植登録手続きを開始した。脳症発生より手続きの開始まで平均3.3日(2〜5日)だった。適応評価は全例が医学的緊急度最高点とされた。
 生体ドナーがいない1例は登録後12日で脳死肝移植が行われ、ドナー出現まで連日血漿交換および血液濾過療法を継続した。1例で、脳死ドナー出現無く登録8日後に生体肝移植が施行された。1例は登録10日後まで連日血漿交換および血液濾過療法が行われ、脳死ドナー出現ないため他施設にて血液型非適合生体肝移植が施行された(グラフト不全にて脳死肝移植施行)、2例は手続き開始後、4日・11日で症状改善を認め登録を取り消した(血漿交換回数は4回・3回)。1例は手続き中に死亡された。

 

*武部 敦志(神戸大学肝膵外科):臓器移植法改正後の肝移植の現況、日本臨床外科学会雑誌,74(supple),363,2013

 移植法改正後に18例の脳死肝移植登録を行い、2例で脳死肝移植を施行した。劇症肝炎3例は医学的緊急度が最高点と判断されたが、1例は10日間の待機後に生体部分肝移植を選択し、2例は内科的治療にて軽快した。

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鹿児島大学医学部付属病院

*熊谷 公太郎(鹿児島大学大学院消化器疾患・生活習慣病学):急性肝不全昏睡型に対するon-line HDFの有用性と組換えヒトHGFによる新規再生医療、肝臓、54(Suppl.3),A664,2013

 2011年10月以降、4例の急性肝不全昏睡型を経験した。全例女性で、薬物性3例、自己免疫性1例。移植適応スコアリングは3例が8点、1例が5点であり、全例移植適応と判断したが、1例は悪性腫瘍合併のため肝移植を断念した。3例は脳死肝移植登録を行った。人工肝補助療法として全例にon-line HDFを施行し、うち3例では血漿交換を併用した。4回のon-line HDFまでに全例で完全覚醒が得られた。
 移植を断念した1例が生存し、移植待機した3例のうち1例が登録後13日目に脳死肝移植で救命された。他の2例は覚醒後3週間にわたって全身状態を維持できたが、それぞれ脳死肝移植登録後24日、27日目に感染症および脳出血で死亡した。

 

*森内 昭博(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科消化器疾患・生活習慣病学):劇症肝炎症例への組換えヒト肝細胞増殖因子の投与、臨床消化器内科、23(13)、1797−1804、2008

 医師主導治験で、劇症肝炎患者血漿から単離・生成された肝細胞増殖因子を、肝移植をしなければ死亡する確率が極めて高い劇症肝炎亜急性型および遅発性肝不全の4例(被験者登録時の死亡確率65〜93%)に投与し2例が生存した。臨床効果について結論を出すことはできないが、少なくとも安全性が証明された。

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慶応義塾大学病院

*篠田 昌宏(慶應義塾大学外科):急性肝不全症例に対する肝移植 生体か脳死待機か、日本臨床外科学会雑誌,74(supple),364,2013

 これまで6例が医学的緊急度10点で脳死肝移植登録を行ったが、このうち生体ドナー不在は2例で、それぞれ17日待機の末死亡、3日間待機中。一方、4例に生体トナーがいたが、うち3例は血液型不適合、ドナーに手術歴があり、過小グラフト等の理由で脳死移植を優先する方針であった。血液型不適合、過小グラフト症例は、2、29日間待機し脳死肝移植を施行。1例は内科的治療が奏功し治癒した。

 

山岸 由幸(慶応義塾大学医学部消化器内科):当院患者における急性肝不全肝移植適応ガイドラインの問題点と見直しについての検討、肝臓、50(Suppl.1)、A105、2009

 当院にて人工肝補助が本格稼動した1999年以降の急性肝不全36例を、人工肝補助にて救命しえた16例(A群)と、人工肝補助で救命できず死亡あるいは生体部分肝移植を施行した20例(B群)にわけガイドライン判定につき検討した。全例人工肝補助が施行され、施行回数はB群が優位に多かった。
 初回判定はA群が9例生存・7例死亡、B群は20例全例死亡であった。5日後判定はA群が11例生存・5例死亡、B群は2例生存・18例死亡であった。

 

海老沼 浩利(慶応義塾大学消化器内科):急性肝不全に対する肝移植の適応とドナー検索の重要性、肝臓、49(8)、408−409、2008

 2005年から2008年3月の間に、肝移植を求めて当院に転院した26例中14例で血液浄化療法を継続もしくは開始した。残りの症例は保存的加療により軽快した。血液浄化療法を施行した14例中6例で最終的に生体肝移植を施行した。肝移植未施行例での救命率は6/8、肝移植症例の救命率は5/6であった。肝移植に至らなかった理由としては、血液浄化療法にて改善したことが最多であったが、ドナーが不適当であったケースが多く認められた。ドナー候補の検索・検査まで行われていないケースが多かった。

 

*山岸 由幸(慶応義塾大学医学部消化器内科):亜急性型劇症肝炎の治療における問題点、肝臓、47(7)、365、2006

 亜急性型14例中、内科的治療にて救命しえたのは2例のみ(14.3%)であり、4例が内科的治療に反応せず死亡した。残りの8例に生体肝移植を施行し、6例救命し、2例は術後合併症にて死亡した。救命例2例は、いずれも脳症発症直後に当院へ搬送され、人工肝補助療法を開始し、また肝萎縮を認めなかった。それ以外の12例で萎縮を認めないのは2例のみであった。ガイドライン初回判定は全例死亡判定であった。

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日本赤十字社医療センター

*高見 尚平(日本赤十字社医療センター):アセトアミノフェン大量服用による劇症肝炎の1例、肝臓、53(supple3)、A830、2012

  自殺目的に焼酎とともに個人輸入したアセトアミノフェン35gを内服、自ら救急要請し救急搬送。来院後、ただちにNアセチルシステイン140mg/kgを経鼻胃管より投与、PE,High flow CHDF開始。第2病日より経眠傾向となり劇症肝炎と診断、父親をドナー候補として肝移植こーディネイト開始。第3病日肝機能は改善し始め、第4病日PE終了、第6病日Nアセチルシステイン内服終了、第8病日CHDF終了、第18病日退院した。

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昭和大学医学部附属藤が丘病院

猪 聡志(昭和大学藤が丘病院消化器内科):劇症肝炎 成因不明例の検討、肝臓、53(supple3)、A829、2012

 過去7年間に当院に入院して治療を受けた成因不明の劇症肝炎。急性肝炎は5例中5例が救命、劇症肝炎急性型は4例中3例が救命、亜急性型は22例中14例、LOHFは12例中が5例が救命された。これらの症例は全例入院時に肝移植のインフォームドコンセントをしたが、肝移植を実施した症例は存在しなかった。
 亜急性型2例とLOHF1例は生体肝移植直前にドナーの意思撤回、サイズミスマッチにより転医してきた症例であり、これら3例は死亡例となった。

 

渡邊 綱正(昭和大学藤が丘病院消化器内科):B型肝炎ウイルス関連劇症肝炎の治療、臨床消化器内科、23(13)、1773−1779、2008

 HBVキャリア発症の劇症肝不全亜急性型の救命例、34歳男性。脳症出現時はD/T比0.65であり、脳死肝移植基準に照らし合わせると、脳症出現日および5日後ともに死亡予測となる。集学的な内科治療(PE+HDFを26回ほか)により、経時的な肝再生が画像上も確認できる。

 

渡邊 綱正(昭和大学医学部附属藤が丘病院消化器内科):当院におけるHBVキャリア急性増悪による劇症肝不全の検討、肝臓、48(8)、398、2007

 1988年から2005年までのHBVキャリアの劇症肝炎46例と劇症化予知式で劇症化が予測された13例のうち、33例が救命された(56%)。治療内容では抗ウイルス療法を施行した症例で優位に救命率が高かった。さらに30回以上肝補助療法を施行した8例中5症例が生存し、通常内科内科的治療では救命困難が予測されるB型キャリアからの劇症肝炎でも半数以上は救命することができる可能性が示唆された。さらに早期に劇症化を予知し、ステロイドパルス療法を用いた免疫抑制療法により肝細胞破壊を最小限にとどめることが、劇症化阻止あるいは内科的治療による救命率の向上に必要であることが予測された。

 

*渡邊 綱正(昭和大学医学部附属藤が丘病院消化器内科):当院における過去19年間に経験したHBV急性感染による劇症肝炎の検討、肝臓、47(7)、362、2006

 B型肝炎ウイルス(HBV)による劇症肝炎には急性感染とキャリア発症の2つの感染様式が存在する。HBVの急性感染による劇症肝炎では旺盛な宿主の免疫応答により急速にウィルスが排除され、脳症発現時にはウィルス増殖はすでに終息しているために、原因治療を行わずとも人工肝補助療法により肝不全期間を乗り切れば、多くの症例で救命は可能であると我々は主張してきた。
 過去19年間に経験したHBV急性感染33例中、劇症肝炎が27例、プロトロンビン時間が40%以下になり脳症1度を呈した急性肝炎重症型が4例、剖検肝から先行肝病変の存在が認められた症例が2例であった。劇症肝炎の内訳は、急性型が23例で亜急性型が4例であった。急性型のうち数日以内に肝機能の廃絶する超急性の経過をとったものが3例であった。治療は劇症肝炎全例に血漿交換と血液透析濾過による人工肝補助療法を施行した。またインターフェロンもほとんどの症例に投与した。その他の治療として1996年以降はラミブジン投与とステロイドパルス療法を施行したが、ラミブジンの投与の有無およびステロイドパルス療法施行の有無で比較しても救命率に有意差は認められなかった。
 治療成績は、劇症肝炎急性型は80%(16/20)が救命された。超急性の経過をとった3例のうち1例は生体肝移植により救命された(内科的救命率0%)。亜急性の経過をとったものは4例とも救命された(100%)。HBV急性感染による劇症肝炎全体の救命率は74%(20/27)であった。

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九州大学病院 #kuh

*吉住 朋晴(九州大学大学院消化器・総合外科)ほか:改正臓器移植法施行前後の急性肝不全に対する生体肝移植、肝臓、53(7)、453−454、2012

 改正臓器移植法施行後、脳死肝移植待機登録は2例で、1例は肝機能改善、1例は待機中に死亡した。

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名古屋大学医学部付属病院

淺田 馨(名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野):HBVによる劇症肝炎を血液濾過透析で救命した1例、日本救急医学会雑誌、23(10)、691、2012

 37歳男性は劇症肝炎として入院、予後不良として脳死移植登録を行なった。肝性昏睡に至り、血漿交換(新鮮凍結血漿40単位)を3回、high flow volume CHDFを14日間施行し、意識回復は第3病日より得られた。CHDFを第16病日まで施行、腎機能も改善し第23病日に一般病棟に転棟した。

 

大西 康晴(名古屋大学移植外科):劇症肝炎が疑われて当院に照会された症例の治療選択と転帰 本邦での問題点、日本腹部救急医学会雑誌、30(2)、275、2010

 2003年以降、劇症肝炎疑いで肝移植適応につき照会があった58例、他施設からの照会が56例、年齢は2ヵ月から66歳(平均40歳)、男女比38:20。当院で肝移植施行の10例(生体9例、脳死1例)中8例が生存中。移植後死亡の原因は敗血症1例、肝炎再発+急性拒絶1例。病床理由により他院での移植例中2例が死亡。
 移植に至らなかった43例は、内科治療で改善した16例と死亡した27例。死亡例は、他臓器合併症17例とドナー無し5例等の理由で適応外または移植不能とされた。脳死登録後死亡8例。 劇症肝炎が疑われても内科治療で改善する場合が少なからずあり、多くは他院からの照会のため、施設間で密接な連携をとりながら移植適応を見極めることが重要である。

 

*有嶋 拓郎(名古屋大学医学部付属病院救急部・集中治療部):肝移植周術期における急性血液浄化療法、ICUとCCU、31(別冊)、s281−s283 、2007

 2003年から2005年の3年間に、急性肝不全でICUに緊急入室したが肝移植に至らなかった症例は11例。急性血液浄化療法はPE単独が1例、HFHDF単独が1例、PEとHFHDF併用が3例であった。11例中6例には移植への情報提供や死体肝移植登録などが行われた。11例中2例(18.2%)のみ移植を回避でき、ICUを軽快退室した。6例中1例は移植を望まれず、3例はドナーが得られず死亡した。

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札幌北楡病院

  • 目黒 順一:予後が肝移植適応基準に合致しなかった劇症肝炎症例、肝臓、41(5)、360―361、2000

 脳症発現時に生存予測されたのは、27例中5例であり、治療開始5日後に生存予測されたのは27例中16例であった。一方、実際の予後は27例中9例が生存した。脳症発現時の予測が実際の予後と異なった症例は27例中7例であり、生と予測したが死亡した1例と、死と予測したが生存した6例であった。一方、治療開始5日後の不一致例は27例中6例であり、6例中5例までが著名な肝萎縮を来し死亡した。

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東京大学医学部附属病院

*山敷 宣代(東京大学消化器内科):劇症肝炎に対する肝移植の適応と問題点、日本消化器病学会雑誌、108(臨時増刊号)、A128、2011

 2006年から2010年6月までに劇症肝炎に対する肝移植を希望した全39例の転帰を検討した。脳死肝移植3例は初診日からそれぞれ5、11、12日で脳死登録、登録から3、4、58日後に脳死肝移植を実施し、全例生存している。肝移植についての相談があった39例中、移植に至らなかったのは24例(62%)で、うち脳死登録後に改善(1)、脳死登録後に死亡(4)、登録作業中に改善(4)、登録作業中に死亡(3)、紹介時点で移植適応なし(7)、脳死登録希望なし(5)であった。今後、紹介のタイミングや移植に向けた内科的治療の標準化により、移植施設紹介時点または脳死登録作業中に移植適応外となる症例を減少させ、全体の生存率を改善する可能性がある。改善に向けた内科、外科間、医療施設間のネットワーク構築が期待される。

当サイト注:東京大学医学部附属病院の2003年4月〜2008年12月における脳死肝移植登録41症例の転帰については、肝臓50巻11号掲載の論文を参照。

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熊本大学医学部付属病院

*原田 俊和(熊本大学医学部付属病院ME機器センター):当院の劇症肝不全(血液浄化法)成績の検討、日本アフェレシス学会雑誌、30(3)、403−404、2011

 2003年から2009年にICUに入室した劇症肝不全25例のうち、移植は14例、非移植例11例のうち救命3例。

*原田 俊和(熊本大学医学部付属病院ME機器センター):アセトアミノフェン(APAP)中毒から劇症肝不全となり救命できた1例、日本アフェレシス学会雑誌、30(3)、404、2011

 30歳代女性、自殺企図にて感冒薬と鎮痛薬を大量服薬、血漿交換とhighFV-CHDF施行、血漿交換は連日3回行った。その後順調に肝機能回復し、入室8日目に呼吸器ならびにCHDFより離脱、9日目にICU退室、1ヵ月後無事退院となった。

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徳島大学病院

*森 大樹(徳島大学外科):急性肝不全に対する肝移植施行のタイミングに難渋した症例、臨床と研究、87(9)、1290−1291、2010

 50歳代男性、2006年3月7日微熱と倦怠感があり感冒薬、解熱剤を2回服用、翌日38度台の熱発とともに意識障害が出現したため近医に緊急搬送された。肝機能の異常高値を認め劇症肝炎を疑い3月9日当院に緊急入院。
 入院時U度の脳症を認めたが腹水は認めず。眼球結膜、全身に黄疸あり、腎不全も伴っており、入院後すぐに血液浄化療法を開始した。当院での肝移植適応評価委員会において、内科的治療にて改善なければ移植適応ありと判断された。しかし腎不全を伴っており状態不良であること。ドナーが治療を要する脂肪肝であるということから、その時点での移植は困難と判断し、万全の待機状態をとり肝移植のタイミングをはかっていた。
 その後、内科的治療を継続した。ドナーのダイエットも行い、肝移植施行時期を模索していたところ、肝機能はほぼ正常化し、腎機能に関しても透析から離脱することができ、患者は入院から40日後に軽快退院した。

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広島大学病院

尾上 隆司(広島大学移植外科):当院における臓器移植法改正後の脳死肝移植登録の状況と脳死肝移植の経験、移植、47(総会臨時号)、255、2012

 2006年〜2012年4月までの当院での脳死肝移植登録63症例中5例に脳死肝移植を施行した。非脳死移植症例の転帰は死亡23例、軽快・取り消し7例、生体移植コンバード10例、待機中18例であった。(当サイト注:登録患者の原疾患は記載なし)

 

大段 秀樹(広島大学大学院先進医療開発科学講座外科学):肝臓移植の現況と展望、広島医学、62(11)、521−527、2009

 2000〜2007年に当科に生体肝移植目的で紹介された劇症肝不全23症例(急性型11例、亜急性型12例)中、生体肝移植を施行した12例中7例が生存(急性型6例中4例生存、亜急性型6例中3例生存)。肝移植を施行しなかった11例中3例は、内科的治療によって肝移植研究会の移植適応ガイドラインからはずれ回復した。残りの移植不能であった8例はわずか1例の生存にとどまった。

 

番匠谷 将隆(広島大学大学院先進医療開発科学講座外科学):移植、44(1)、106−107、2009

 2000〜2007年に当科に生体肝移植目的で紹介された劇症肝不全21症例中、生体肝移植を施行した13例中8名が生存。肝移植を施行しなかった8名中3名は、内科的治療によって肝移植適応ガイドラインから外れて回復した。残り5例は肝移植不能で、レシピエントの状態悪化が3例、ドナー候補がNASHと診断された1例、ドナー候補なしが1例であった。肝移植不能5例では1例の生存にとどまった。

 

*田代 裕尊(広島大学医学部第二外科):当院における劇症肝不全に対する成人生体肝移植の検討、日本腹部救急医学会雑誌、23(2)、246、2003

 2000年より2002年に当科に生体肝移植目的で紹介された劇症肝不全患者10人。1例はアセトアミノフェンによる劇症肝不全で、肝萎縮を認めず保存的に軽快。1例はドナー検査にて脳動脈瘤ありドナー不在になったが、保存的に軽快した。2例は移植施行されず死亡した。移植症例は6例で、3例は神経学的欠損無く生存するも1例は神経学的後遺症をきたした。2例は、術後の門脈血栓症と胆管炎により死亡した。

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岩手医科大学付属病院

遠藤 龍人(岩手医科大学内科学消化器・肝臓内科):劇症肝炎に対する血液浄化療法の有効性と今後の課題、臨床消化器内科、23(13)、1781−1787、2008

 63歳女性、亜急性型劇症肝炎。入院時は脳症1度。第3病日に厚生労働班会議劇症化予測式による予測劇症化確率が70%となりPE+HDFを施行したが、開始直後にアナフィキラシーショックとなり、以後HF+HDF主体の血液浄化を余儀なくされた。肝萎縮は進行し、第9病日に昏睡3度となった。PTは20〜30%(最低14.6%)を維持しながらもHF+HDFおよびCHDFを計17回施行したところ、幸いにも合併症を併発することもなく、第27病日に完全覚醒が得られ救命に至った。
 血漿交換療法(PE)は肝合成物質の補充という点で劇症肝炎治療の重要な位置を占めるが、合併症を併発せずに肝再生が得られる症例では、強力な血液浄化のみでも救命可能であることが示唆される。

 

*八角 有紀(岩手医科大学第1内科):肝移植非実施施設における肝移植の現状と問題点、肝臓、47(Suppl.2)、A476、2006

 1996年から2005年までの10年間に岩手医科大学第1内科で加療し、肝移植を検討した19例。11例を移植施設に搬送し9例に移植を実施して全例生存。1例は劇症肝炎例で内科的に救命、1例はドナー予定者が精査の結果脂肪肝であったため移植を断念し死亡した。

 

遠藤 龍人(岩手医科大学第1内科):劇症肝炎に対する血液浄化法の有効性と今度の課題、肝臓、47(7)、363−364、2006

 当科における劇症肝炎の血液浄化療法の変遷から1期1992年以前:血漿交換(PE)主体の時期50例、2期1993−2003年:PE+持続血液透析濾過(CHDF)の時期34例、3期2004−2006年:PE+CHDF+血液濾過透析(HDF)の時期の3期に分け劇症肝炎治療成績(昏睡覚醒率、内科的救命率)を臨床病型別に比較し、有効性と限界を検討した。なお、亜急性型で移植した3例は死亡例として扱った。
 急性型の覚醒率、救命率は1期でそれぞれ36%、28%、2期で71%、71%、3期で100%、100%であり、亜急性型では1期でそれぞれ24%、14%、2期で35%、6%、3期で86%、29%であった。
 覚醒率は急性型、亜急性型いずれも治療法の発達に応じて有意に改善した。これに対し、救命率は急性型においては治療法の発達に応じて有意に改善したが、亜急性型では有意の改善はみられなかった。

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久留米大学病院

桑原 礼一郎(久留米大学医学部内科学講座消化器内科部門):急性肝炎重症型発症後に肝再生不全が遷延したものの内科治療で救命した1例、肝臓、49(8)、412、2008

 45歳女性は2007年7月上旬に黄疸の出現を自覚、劇症化が危惧され7月25日当院へ転院となった。ウイルス肝炎、自己免疫性疾患、服薬歴や健康食品の摂取状況にも肝障害の原因として疑わしいものは認めなかった。グリチルリチン製剤による肝庇護療法、肝性脳症対策、出血傾向対策やDIC予防、感染症対策を継続して行った。発症から約2ヵ月後には、新鮮凍結血漿の補充にもかかわらずPT活性25%の維持が困難となり、計9回の血漿交換を行ったものの、肝萎縮が進行し血液検査や画像検査では肝再生に兆しは認めずに経過した。
 この時点で肝移植を考慮することを提示したが、内科的治療を継続することを希望されたため、計6回の血漿交換を追加施行した。その後、約1ヵ月間は黄疸の改善はみられたものの、各種検査にても肝再生の徴候は認めなかった。12月上旬には全身倦怠感が増強し、以降は総ビリルビンが上昇傾向となり10mg/dlを越えた。内科治療にて肝再生なく経過し、肝移植検討を再度促したが同意が得られず内科治療を継続したものの、12月中旬にはPT27%、総ビリルビン11.2mg/dlまで増悪した。1月上旬には、緩徐にではあるが肝機能の改善がみられ、PT活性40%を維持できるようになり、また総ビリルビン値も5mg/dl未満までに改善したため、外来での経過観察が可能と判断して2月23日に退院となった。

 

*古賀 郁利子:予後が肝移植適応基準に適合しなかった劇症肝炎の1例、肝臓、41(5)、358―359、2000

 19歳男性は1992年3月16日に劇症肝炎(肝性脳症2度)の診断にて入院。劇症肝炎亜急性型と診断し3月28日までに血漿交換を合計8回施行、5月8日紹介医へ転院となった。肝移植適応ガイドラインにそって予測すると3月16日では死亡判定、5日後の3月20日では再度死亡と判定された。

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岡山大学病院

楳田 祐三(岡山大学医歯薬学総合研究科消化器腫瘍外科):改正臓器移植法施行後の脳死肝移植における問題点、移植、46(6)、633、2011

 2007年5月以降の脳死肝移植登録19症例、うち4例に脳死肝移植を施行した。移植後成績は、3例が生存・社会復帰を果たし、1例を一般病棟転棟後の移植後9日目に致死的不整脈で失った。非移植15例の転帰は、死亡転帰5例(待機期間480日)、軽快・取り消し4例(待機期間359日)、生体肝移植施行2例(待機期間118日)、待機中4例(待機期間415日)であった。

高木 章乃夫(岡山大学消化器内科):当院における脳死肝移植登録患者の経過と問題点、肝臓、52(suppl1)、A103、2011

 当院の脳死肝移植登録患者は2007年5月以降、現在までに19名存在する。そのうち6名は肝不全の進行などにより死亡した。自然経過で軽快した症例が3名、生体肝移植に切り替えた症例が3名、脳死肝移植が成立した症例が3名である。残る4名が現在、脳死移植待機中である。

注:上記2つの報告は原疾患が不明だが、脳死肝移植登録後に自然経過で軽快した症例も存在していることを記録するために、ここに記載する。

Yasuhiro Miyake(岡山大学医歯薬学総合研究科消化器肝臓感染症内科学):全身性炎症反応症候群は、劇症B型肝炎の予後に大きく影響する(Systemic inflammatory response syndrome strongly affects the prognosis of patients with fulminant hepatitis B)、Journal of Gastroenterology、42(6)、485−492、2007

 岡山大学病院と関係11病院で1990年1月〜2005年3月の間に、劇症肝不全110例中37例(34%)が肝臓移植をせずに生存、62例(56%)が死亡、11例(10%)が生体血縁間肝移植を受けた。
 劇症肝不全110例中36例(33%)が劇症B型肝炎で、このうち5例は肝移植を行った。残る31例中11例(35%)は肝移植せずに生存し、20例(65%)が死亡した。非生存例は年齢が高く、全身性炎症反応症候群の頻度が高かった。多変量Cox比例hazard modelでは年齢(45歳以上)、全身性炎症反応症候群、総直接ビリルビン値(>2.0)が死亡と関連し、特に1週間生存率と全生存率は全身性炎症反応症候群のある例で39%と8%、無い例で94%と56%であった。全身性炎症反応症候群のある劇症B型肝炎では緊急に肝移植が必要と思われた。

 

*楳田 祐三(岡山大学大学院消化器・腫瘍外科学):成人劇症肝炎に対する生体肝移植 急性型の移植適応への見極め、日本消化器外科学会雑誌、39(7)、1119、2006

 98〜05年に当施設で加療した成人劇症肝炎21症例のうち、肝移植を施行したのは13例。うち1例を虚血性腸炎で失った他は、全例が社会復帰している。移植非施行は02年以前の7例を失い、急性型1例は内科的治療にて軽快した。高度脳浮腫、4度脳症であっても、CHDF奏功例には救命の可能性を見出している。

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倉敷中央病院

*田邊 渉(倉敷中央病院消化器内科):特異な経過を辿った劇症B型肝炎の1例、肝臓、48(8)、405、2007
 
 28歳女性は2006年9月18日頃より37度台の発熱と尿の濃染、その3日後より黄疸、嘔吐、食欲低下、全身倦怠感が出現。9月23日当院救急搬送、B型急性肝炎と診断、9月24日にはCT上肝左葉の萎縮を認め、劇症化が危惧されたため岡山大学病院に転院。
 転院後さらに脳症V度まで悪化。しかし、ドナー候補であった夫が血液型不一致であったため移植に踏み切れず、持続濾過透析、血漿交換による保存的治療にて経過をみたところ、徐々に凝固因子が回復し、CT上肝の再生を認めた。経過中に肺炎の合併を認めたが、肝障害は改善傾向であったため10月3日当院転院。
 転院時にはHBs抗原は陰性化していた。10月18日肝生検を施行したが、急性のperiportalおよびcentrilobular hepatitisの回復像であり、広範囲壊死の像は認めなかった。
 通常であれば肝移植が行われるべき急性型の劇症B型肝炎に対して、ドナーの血液型不一致のため、保存的治療を選択したことが、結果的には多大なリスクを伴う移植と移植後の合併症を回避しえた。

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日本医科大学付属病院

谷合 信彦(日本医科大学外科):劇症肝不全症例に対する肝移植を考慮した高速持続的血液濾過透析(HFCHDF)の適応と問題点、肝臓、51(Suppl.2)、A580、2010

 本学では劇症肝不全症例に対して肝移植を考慮しながら集中治療を行なっている。その中心は血漿交換と高速持続的血液濾過透析の肝補助療法である。また、ドナー検索を含む移植のインフォームドコンセントは治療開始と同時に行なっている。
 劇症肝不全症例28例の転帰は、7例に生体肝移植を行なったが、13例は移植できず失った。8例が内科的治療で回復した。

 

*谷合 信彦(日本医科大学外科):劇症肝不全症例に対する肝移植を考慮したチーム医療による集中治療、肝臓、48巻(Suppl3)、A491、2007

 劇症肝不全の診断で集中治療を行った25例のうち、7例が内科的治療で回復した。そのうち5例は当初より移植適応外であったが、2例は移植適応を満たしていた。移植症例の生存期間は平均28.7ヵ月(1〜72ヵ月)であった。

 

大須賀 勝(日本医科大学付属病院第一外科):集学的治療により救命し得た劇症肝不全の1例、日本医科大学雑誌、69(4)、390−394、2002

 2002年1月10日、62歳女性は転院時、肝性昏睡2度、羽ばたき振戦を認め著明な黄疸、HBe抗体陽性、HBV無症候性キャリアの急性増悪による劇症肝炎と診断。ただちにメチルブレドニゾロンによるパルス療法、抗ウイルス薬ラミブジンの経口投与を開始。生体肝移植実施を視野にいれ、家族(夫)にはその可能性と必要性につき説明した。集中治療室ではPEとHDFに加え感染と脳浮腫の予防として、抗生物質とグリセオールが使用。生体肝移植に際してのドナーの選出、脳死肝移植に備え登録手続きの準備を平行して行った。
 同日夜、FFP40単位を使用したPEが3時間、続いて高流量HDFが6時間をかけて施行された。一回目のPEおよび高流量HDF後から患者の意識は次第に清明となり、3日間連続計3回のPEおよび高流量HDFで、PT,総ビリルビン、トランスアミナーゼは回復した。1月18日一般病室へ転室。発症から約3ヵ月後の現在、患者は退院し、HBs抗原は消失、肝機能は正常化した。

 

秋丸 琥甫(立正佼成会付属佼成病院内科):“20年”一昔、日本肝移植研究会25周年寄稿集「肝移植四半世紀の歩み」、29、2009

 1989年に弘前で開かれた生体肝移植懇話会では肝臓外科の重鎮と若い外科医が肝移植を熱く語らい、動物実験から生体肝移植へと気運が高まった。そのこと、一緒に腎移植を行なっていた内科の飯野先生から劇症肝炎の症例が送られ、ドナー候補を日医大の救命センターに尋ねたところ脳死患者さんがおられ、辺見、山本両先生が二つ返事でOK,いよいよかと準備したところ、劇症肝炎は快方に向かい計画は断念。後日、大塚先生から「ばか!いまやったら死体損壊罪だぞ!」と大目玉を食らった。

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長崎大学医学部・歯学部附属病院

田浦 直太(国立病院機構長崎医療センター)、八橋 弘(長崎大学医学部歯学部附属病院第一内科):当科における劇症肝炎に対する生体肝移植の現状、国立病院機構長崎医療センター医学雑誌、10(1)、25−28、2007

 長崎大学医学部歯学部附属病院第一内科において、肝移植が劇症肝炎成人例に対し治療法として家族へ提示可能となった2000年1月より2005年12月までの期間に劇症肝炎の診断にて入院となった11症例中、ドナー候補者が確定したのは8例、ドナー候補者が確定しなかったのは3例。
 ドナー候補者確定8症例の救命率は88%、生体肝移植施行6例は全例生存、1例は内科的治療後治癒、1例は生体肝移植前に肺炎を併発し死亡した。
 ドナー候補者非確定3症例の救命率は33%、透析中の55歳女性が生存、その他の2例は死亡した。

 

*蒲原 行雄:重症急性肝不全に対する生体肝移植 現状と問題点、日本腹部救急医学会雑誌、25(2)、320、2005

 生体肝移植非施行の15例の疾患は、劇症肝炎6例、急性肝炎5例、慢性肝炎急性増悪2例、他2例。医学的適応はATL合併1例のみで他14例は適応。ドナー不在8例、ドナー候補7例中4例不適格、適格例でも2例が意思決定に2日以上要した。予後は自律回復3例以外は全例死亡、原因は感染症、脳死であった(生存20%)。移植施行8例は、うち1例を脳死で失った以外は生存(88%)。  

 

Katsuhisa Omagari:Recovery from Fulminant Hepatic Failure and Prolonged Deep Coma without Liver Transplantation(肝移植を行わなかった劇症肝炎および長期間の深昏睡からの回復例、Acta Medica Nagasakiensia、49(4)、153−157、2004

 急性型の劇症肝炎および深昏睡(肝性脳症5度)が認められた27歳女性患者は、脳波検査では全般的な低電圧活動が認められた。患者の父親をドナーにした生体肝移植が考慮されたが、術後ドナーの神経障害リスクが高いため放棄された。人工肝補助による治療を行い、5日後の肝性昏睡は2に改善、抜管も可能になった。この段階で肝移植適応になったが、前期の肝補助を続け最終的には神経障害を伴うことなく回復した。

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京都大学医学部付属病院

 劇症肝炎から回復した2名を脳死肝移植登録者から末梢した。

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千葉大学医学部附属病院

  • 三方 林太郎(千葉大学医学部消化器内科):妊娠中に発症したB型劇症肝炎、治療学、41(4)、407−411、2007
     
     2004年10月1日、妊娠27週でB型劇症肝炎を発症、肝移植適応のガイドラインでは死亡と予測された。発症5日で脳症が出現、ドナー候補が存在しなかったため生体肝移植は見送られ、人工肝補助療法を含めた集中治療を行う方針をとった。血液浄化量を倍加させたmodified SPE+HFCHDFにより脳圧、アンモニア値もコントロール良好となった。第35ICU病日に胎児死亡を確認、第36ICU病日に子宮前摘出。第66ICU病日に人工肝補助療法を中止、経口摂取開始。第70ICU病日に一般病棟へ転棟、2005年2月22日退院。  
     
  • 安部 隆三:劇症肝炎(FH)に対する生体肝移植の適応に関する検討、日本救急医学会雑誌、15(2)、25−34、2004

 当科では日本急性肝不全研究会肝移植適応基準に加え、亜急性型もしくは肝萎縮の認められる症例についても肝移植の対象とみなしている。最近5年間に経験した22例の劇症肝炎症例のうち移植適応と判断されたのは19例で、このうち6例に生体肝移植を実施した。2例は術後重症感染症により死亡したが4例を救命した。一方、適応基準を満たしたが移植を実施しなかった14例のうち3例は集中治療によって救命し得たが、11例が死亡した。

 移植断念後に集中治療を継続し、最終的に救命された症例3例のうち、最も期間が長かったのはALS(緩徐血漿交換と持続的血液透析濾過)施行23日間を含む27日間の集中治療を行った症例であった。28日間以上長期延命し得た移植非施行劇症肝炎5例において、1例あたり1000万円以上の医療費を必要とした。5例中3例は、保険の枠である10回を超えて緩徐血漿交換を施行しており、持続的血液透析濾過もほぼ全日施行していたため、ALSによる医療費が医療費全体に占める割合は、5例の平均で65.0%であった。

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兵庫医科大学救命救急センター

 46歳男性患者は、B型肝炎ウィルスキャリアー急性増悪による亜急性劇症肝炎が肝移植ガイドラインで肝移植適応となった。当初のドナー希望者は、迷い親族間で紛争となった。 次のドナー希望者にも反対があり、親子間で紛争となった。この間、約4週間、移植前提であったため免疫抑制剤などの積極的内科治療ができず、ラミブジン投与とPE+CHDFで肝機能の維持に努めた。患者は辛くも回復したが、夫婦間、親族の関係に亀裂を残した。B型肝炎キャリアーの急性増悪での内科的治療の生存率は17%で早期から移植が治療選択肢となるが、肝移植が保険適応となったが故に、ドナー候補者の意思決定過程が愛情の尺度として扱われかねない危うさがある。  

  • 切田 学:救命できなかった腹部消化器系疾患の検討、日本救急医学会雑誌、15(19)、350、2004

 生体肝移植は3例に手続きがなされ、1例は実施直前に死亡、1例は手続き中に改善、実施された1例は救命できなかった。

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東京女子医科大学付属病院

  • 柴田 英里:小児劇症肝炎(亜急性型)に対し血漿交換および血液濾過透析が奏功した1例、ICUとCCU、30(別冊)、S141、2006

 13歳女児は感冒症状のため採血した際に肝機能障害を認め入院、第17病日に意識障害が出現、肝性昏睡2度、保存療法の限界と考え、血漿交換を導入。肝性昏睡2〜3度と悪化し血漿濾過透析も併用し血漿交換30Uを行った。第22病日には意識も清明、凝固能も改善し、血漿交換+血液濾過透析を中止することができた。その後は次第に肝機能改善し第106病日に退院した。生体間移植も考慮した1例であるが、保存療法のみで改善を得ることができた。  

  • 成富 琢磨:肝移植適応基準を満たしながら改善した劇症肝炎2例の検討、肝臓、41(5)、359―360、2000

 51歳女性、68歳女性は3種類の移植適応基準を満たしながら、内科的治療にて改善した。

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岐阜大学医学部附属病院

  • 内木 隆文:劇症肝炎,肝不全治療のあり方 診断から治療へ 当科における劇症肝炎治療の再評価、肝臓、46(Suppl.2)、A332、2005

 対象は、1995年から2004年に当科において入院加療した劇症肝炎17例。脳炎発現時の死亡予測は、肝移植適応ガイドラインによると17例中15例で死亡予測であったが、内科治療での救命例が4症例あった。

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順天堂大学医学部付属病院

  • 川崎 誠治:劇症肝炎に対する肝移植、第32回日本集中治療医学会学術集会プログラム・抄録集、115、2005

 1992年8月以来、生体肝移植を検討したものの実施しなかった劇症肝炎7例のうち2名が保存的治療で救命され、残り5例は移植にいたらず死亡した。

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横浜市立大学付属病院

  • 関戸 仁(横浜市立大学医学部第二外科):劇症肝炎に対する生体肝移植の問題点と展望、日本腹部救急医学会雑誌、23(2)、246、2003

 生体肝移植適応を検討した16例。緊急生体肝移植は6例に実施し生存率67%。非移植10例は、生存3、死亡7。生存3例は、ガイドラインで死亡と予測されたが、肝再生し生存した。死亡7例中2例は、入院時すでにMOFでコンサルテーションの時期が遅すぎた。

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愛媛大学医学部付属病院

  • 道尭 浩二郎:肝移植適応基準による劇症肝炎の予後予測と転帰の不一致例の検討、肝臓、41(5)、362、2000

 劇症肝炎18例の脳症発現時の予後予測では死亡判定13例、生存判定5例で、死亡判定中3例が生存、生存判定例中1例が死亡し、予後予測と転帰が一致したのは14例(77.8%)であった。脳症発現から5日後に行った予後予測では死亡判定13例、生存判定5例で、死亡判定中2例が生存、生存判定例はすべて生存し、予後予測と転帰が一致したのは16例(88.8%)であった。

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島根医科大学医学部付属病院

  • 土井 克史:遷延した肝性昏睡から回復した劇症肝炎の1症例、ICUとCCU、25(1)、31−35、2000

 B型肝炎による劇症肝炎の24歳女性、ICU搬入時の意識レベルは肝性昏睡U度、プロトロンビン時間6.2%、13日間連続の血漿交換と持続的血液ろ過透析を中心とした治療を行い、入室10日目以降、意識レベルの改善がみられ、ICU入室18日目に退室した。劇症肝炎に対する肝移植適応ガイドラインによると今回の症例では予後の再予測では死亡とされ、肝移植の登録対象となる。

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B型肝炎

日立総合病院

石川 晶久(日立総合病院消化器内科):難治性腹水を合併した肝硬変に対して腹腔静脈シャント造設後にエンテカビルを投与した1例、肝臓、49(9)、426−429、2008 http://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/49/9/426/_pdf/-char/ja/

 65歳男性は、B型肝炎ウイルスによる肝硬変で他院へ通院していたが、大量腹水が出現し、入退院を繰り返していた。2006年8月、当科を紹介受診し、塩分制限、利尿薬の増量、人血清アルブミン製剤点滴静注併用の腹水穿刺排液を施行したが、症状は改善せず、低ナトリウム血症が出現し、利尿薬不耐性の難治性腹水と診断した。生体肝移植の適応症例として、他院へ紹介したが、適当なドナーがみつからなかった。
 2006年10月、腹腔静脈シャントを造設したところ、腹水は著明に減少した。また、B型肝炎ウイルスに対して、PVS造設2カ月後より核酸アナログ製剤(エンテカビル)を開始したが、6カ月後のHBVDNA は測定感度以下となり、耐性ウイルスの出現は認められていない。シャント造設3ヵ月後に閉塞をきたし、交換したが、その後は明らかな合併症は認めなかった。シャント造設後20ヵ月経過したが、QOLおよび肝機能は改善し、現在外来通院中である。

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東京慈恵会医科大学

鈴木 はるか(東京慈恵会医科大学消化器内科肝臓内科):重症化したgenotype Aの急性B型肝炎の1例、肝臓、49(9)、412−413、2008

 29歳男性、第6病日にPT30%とさらに低下したため血漿交換とm-PSL pulse療法を開始した。この時点で脳症2度が出現した段階で肝移植の適応となるため東大病院に母親をドナーとした移植を待機してもらった。第9病日にはPTが50%まで回復、第12病日に脳症1度と診断されたが4日間で改善、第40病日頃よりカリニ肺炎、その後徐々に肝障害は改善、カリニ肺炎も軽快していった。黄疸もピークアウト、アミノトランスフェラーゼも改善してきた。現在、経過観察中である。

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三重大学

*尭天 一亨(三重大学医学部消化器・肝臓内科):非代償性B型肝硬変に対して核酸アナログを投与することにより生体肝移植を回避できた症例の検討、肝臓、49(Suppl.1)、A341、2008

 対象は、肝不全が悪化した肝硬変に対して、ラミブジンを中心とする核酸アナログを投与した4例。ラミブジン投与時Child-Pugh scoreは平均13点で全例腹水を認めた。全例、生体肝移植の準備を進めており、ドナーの検査も施行されていた。
 投与後6ヵ月までにChild-Pugh scoreが全例8点以下になり、全例、生体肝移植を回避できた。投与後12ヵ月後には全例がChildCからAへ改善を認め、T-bilも正常化し、またプロトロンブン時間もほぼ正常化し代償性肝硬変に改善した。しかし1例は、ラミブジン投与後20ヵ月目にbreakthrough hepatitisを来たし、アデフォビルを投与し生体肝移植の準備をすすめるものの肝不全にて死亡した。また、他の1例は肝細胞癌を発症し死亡した。長期投与例では、常にHBV量と変異株をモニターしてbreakthrough hepatitisに特に注意が必要である。

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金沢医科大学

*土島 睦(金沢医科大学消化器機能治療学消化器内科学):B型肝硬変に対するラミブジン投与の有用性の検討、金沢医科大学雑誌、30(4)、577―583、2005

 非代償性B型肝硬変7例に対しラミブジン100mgを連日投与した。入院時の肝移植スコアーは平均8で、1年後に死を迎えることが予測される症例が大部分であったが、死亡は1例のみで、他は全例生存している。8点以上であれば6ヵ月以内の死亡率が95%と予測されるF-Indexの平均は6.6で、7以上が3例認められ、1例は9.4であったが、6ヵ月以内に死亡した症例はなかった。

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愛媛大学

*道尭 浩二郎(愛媛大学医学部光学医療診療部):肝移植回避を目的とした非代償性B型肝硬変に対するラミブジン療法の検討、肝臓、43巻(Suppl.1)、A160、2002

 肝移植適応と判断される非代償性B型肝硬変4例のCTPスコアは、ラミブジン投与開始前に平均10.7、UNOSのStatusは4例とも2B.であった。ラミブジンを150mgまたは100mgを連日投与し、CTPスコアは全例で改善し12ヵ月後に平均5.5に低下した。UNOSのStatusも3例で改善し、2例はStatus3の条件も満たさなくなり、肝移植の適応状態から離脱できた。肝移植回避を目的とした非代償性B型肝硬変に対するラミブジン療法は、少なくとも短期的には有効と考えられた。

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小児劇症肝炎

新潟大学医歯学総合病院

*羽深 理恵(新潟大学医歯学総合病院小児科):劇症肝不全を発症した脊髄性筋萎縮症の1例、日本小児科学会雑誌、117(6)、1031−1036、2013

 今回我々は,基礎疾患として脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy, SMA)I型を有し,高熱を契機に劇症肝不全へ進行した例を経験した。
 症例は3歳男児、入院5カ月前から誤嚥性肺炎を繰り返しており、今回も同様に高熱を認め前医に入院した。その3日後に呼吸・循環動態が悪化し、血液検査で肝逸脱酵素の異常高値とプロトロンビン時間の延長を認め、急性肝不全の診断で当科に転院した。腹部CTでは肝の腫大と脂肪変性を認め、翌日には肝性昏睡3度となった。劇症肝不全へ進行したと考え、肝移植の準備も行ないながら、血漿交換および持続血液濾過透析を含む集学的治療を開始したところ、全身状態・肝機能は徐々に回復し、肝移植なしに救命することができた。
 本症例の病態として、潜在的な脂肪酸代謝異常から、感染・飢餓を契機にミトコンドリア機能障害に至り、Reye症候群および劇症肝不全へと進行したと推察した。SMAでは脂肪酸代謝異常を有する可能性を考慮し、異化亢進時のエネルギー不足に十分な注意が必要と考えられた。

 

九州大学病院

*林田 真(九州大学大学院小児科):当院における小児劇症肝不全/急性肝不全症例の治療成績、日本小児救急医学会雑誌、10(2)、202、2011

 2002年5月から2011年2月まで、劇症肝不全/急性肝不全で当施設に紹介された14例の年齢は1生日から16歳。劇症肝不全が10例、急性肝不全が4例であった。劇症肝不全症例は6例に生体肝移植を施行、5例が救命しえたが、1例は原疾患の再発のため再移植し、再移植後の真菌感染症で死亡した。新生児ヘモクロマトーシスの症例はドナーが存在せず移植不能で、内科的治療を行なったが救命できず死亡した。3例は内科的治療により肝移植適応からはずれ回復したが、2例に肝炎関連再生不良性貧血を合併し、1例は骨髄移植を必要とした。

 

獨協医科大学

*宮本 健志(獨協医科大学医学部小児科):新生児ヘモクロマトーシスによる劇症型肝不全 交換輸血により救命された症例と肝移植施行症例との比較、日本周産期・新生児医学会雑誌、46(2)、580、2010

 症例1は36週、2274gで出生した女児、日齢7に哺乳障害を認め入院。血液検査で重度肝機能障害、凝固異常に加え、鉄代謝の異常を認めた。腹部MRIのT2強調画像で肝実質のびまん性低信号を示した。新生児ヘモクロマトーシスによる劇症型肝不全と診断し、交換輸血を6回、免疫グロブリン療法、デフェロキサミン静注、酪酸トコフェロール内服を施行し多臓器不全から改善した。
 新生児ヘモクロマトーシスは肝移植が唯一の治療とされてきたが、近年では大量免疫グロブリンおよび交換輸血で救命できた報告が散見されている(Rand EB et al.J Pediatr2009)。急性期治療において、肝移植を前提とした積極的な交換輸血と大量ガンマグロブリン療法を行なうことで、新生児ヘモクロマトーシスに罹患した児の救命ができる可能性が示唆された。

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国立成育医療センター

堤 晶子(国立成育医療センター腎臓科):当院における小児劇症肝不全24症例に対する人工肝補助の経験、日本小児腎不全学会雑誌、30、304−306、2010

 2005年10月〜2009年4月までに当院で経験した小児劇症肝不全24例、年齢は1ヵ月〜15歳、全症例で持続的血液濾過透析(CHDF)に加えて血漿交換(PE)を行ないながら、個々の症例ごとに肝移植の適応時期を検討した。肝移植17例中1例を移植後に敗血症にて失った。当院に入院してから移植までは平均6.5日、CHDFは平均6.6日間、PEは平均6.2回であった。
 内科的治療法のみで生存しているのは7例中4例、CHDFは平均8.3日間、PEは平均4回であった。

 

唐木 千晶(国立成育医療センター手術集中治療部集中治療科):小児劇症肝不全の集学的管理と生体肝移植適応、日本集中治療医学会雑誌、16(3)、279−288、2009 http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/16/3/279/_pdf/-char/ja/

 8ヵ月女児は急性型劇症肝不全、当院入院後、呼吸循環管理、中枢神経保護、CHDF、血漿交換などの内科的治療を継続した。その経過中に平坦脳波が出現したものの、生体肝移植をバックアップに肝生検を行なったところ、肝細胞壊死からの回復が70%以上認められたため、移植免疫診療科・消化器科・集中治療科の3科合意のもと移植を実施しなかった。その後、神経学的後遺症なく改善している。平坦脳波が除波に混在する所見を示した症例は、おそらく欧米ならその脳波所見のみで肝移植が施行されているであろう。

 

*福田 晃也(国立成育医療センター移植外科):小児劇症肝不全に対する生体肝移植適応基準に関するpilot study、今日の移植、22(3)、273−281、2009

 2005年10月〜09年2月までに18歳未満の小児劇症肝不全21例の年齢は28日〜16歳、平均体重は11.4kg、全症例で、持続的血液濾過透析に加えて平均5.9回の血漿交換を行いながら、個々の症例ごとに肝移植の適応時期を検討した。
 生体肝移植適応とした16例中1例を移植後敗血症にて失った。内科的治療のみで生存しているのは5例中3例で、2例は脳浮腫および心不全にて肝移植に至らず死亡した。2例に関しては、壊死範囲の縮小と肝細胞の分裂像、肝再生像が認められたため、開腹肝生検のみで肝移植を回避できた。

 

大阪医科大学付属病院

中倉 兵庫(大阪医科大学小児科):体外循環療法により救命し得た肝性昏睡IV〜V度の劇症肝炎の3小児例、ICUとCCU、32巻(別冊)、S97−S100、2008

 B型肝炎ウイルスによる肝炎の12歳女児は入院後、肝性昏睡がIV度にまで進行し、ただちに内科的治療とともに血漿交換(PE)および持続血液濾過透析(CHDF)を導入した。肝移植の必要性を何度も家族に説明したが同意を得られなかった。第4入院日さらに肝性昏睡が進行しV度となったが、血液浄化療法および内科的治療を続行することで徐々に血液データおよび昏睡が改善し、PEを計9回、CHDFを10日間で終了した。

 1歳女児は心内修復術施行後12日目に発熱、肝機能の上昇を認め、術後14日目には肝性昏睡IV度となった。低体重(5kg)の開心術後であり、肝移植は選択できないと考え、早期であるがPEをただちに施行した。初回のPE施行中に血圧が2度低下して肺水腫となった。2回目のPEではさらに慎重に施行することで血圧の変動もなく安全に施行できた。血液データ、肝性昏睡の改善が得られ、PEを終了した。

 移植ガイドラインの適応を満たさなかった4歳男児とともに、全例で後遺症を残すことなく改善することができた。

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筑波大学付属病院

*須磨崎 亮(筑波大学大学院人間総合科学研究科・小児科):筑波大学における小児劇症肝炎11例の後方視的検討、肝臓、47(7)、359−360、2006

 1993年から2004年に筑波大学付属病院で診療した15歳以下の小児劇症肝炎11例。1歳未満の乳児例が7例を占めた。成人劇症肝炎を対象にした劇症化の予知式は、いずれも正診率は低かった。4例は内科的治療のみで完全に回復した。残りは予後不良群で、4例で肝移植が実施され、内科的治療のみの3例のうち1例は中枢神経後遺症を残し、2例は死亡した。肝移植例は、超急性型の1例で術後早期に死亡。他の乳児例も高度の拒絶班によると考えられる経過で死亡した。生存中の1例は移植前に脳浮腫をきたし、術後に重篤な中枢神経後遺症を残した。他の1例は経過良好である。

 

国際福祉大熱海病院、済生会横浜市東部病院こどもセンター

*乾 あやの(国際福祉大熱海病院):先天性代謝性肝疾患に対する移植適応例の検討、肝臓、44(supple)、A365、2003

 劇症肝炎で発症した新生児Hemochromatosis(NH)は予後が極めて悪いので移植を考慮したが、インフォームドコンセントが得られず内科的治療を続け救命された。現在、2.4歳であるが良好なQOLを得ている。NHは予後が絶対不良とされるが、集学的治療により移植に至らない例のあることを知った。

座談会 小児の急性肝不全、肝胆膵、55(2)、337−358、2007

 乾 あやの(済生会横浜市東部病院こどもセンター):(p345)お母さんはHBe抗体陽性のHBVキャリアで、HBIG 1回しか打てなかったのですね。9ヵ月で劇症肝炎を発症して初診時のPTが15%、ALTが1,800でした。現病歴からはHBVの劇症肝炎ですから移植も考えたのですが、なかなか移植に対して理解が得られず、まずはラミブジンとインターフェロンをすぐ始めていただいて、かつ血漿交換とステロイドパルス、シクロスポリンの投与を行いました。しかし、肝性昏睡2度まで進行した時点でもう一度移植の説明をしている間に良くなってしまいました。原因がわかれば肝臓の専門の医者に相談してもらって早期に治療を開始すること凝固異常と脳症発症後でも内科的に救命できる可能性があります。

 藤沢 知雄(済生会横浜市東部病院こどもセンター):小児のB型肝炎ウィルスによる急性肝不全に関しては、早期に抗ウィルス療法を導入することにより、移植せず救命できる見通しがついたような感じがします。

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肝性ミエロパチー


*廣澤 太輔(大阪府立病院機構大阪府立急性期総合医療センター神経内科):可逆性の経過を呈した肝性ミエロパチーの1例、臨床神経学、54(3)、223−226、2014

 42歳女性はアルコール性肝硬変の経過中、痙性歩行が出現し徐々に増悪した。四肢腱反射亢進、下肢振動覚の低下および下肢体性感覚誘発電位(somatosensory evoked potential;SEP)にて脊髄伝導障害をみとめ、肝硬変を基礎疾患とした高アンモニア血症を呈したことから肝性ミエロパチーと診断した。ラクツロース投与により血清アンモニア値は低下し、痙性歩行およびSEPの改善をみとめた。肝性ミエロパチーには肝移植のみが有効な治療とされてきたが、本例ではラクツロース内服によるアンモニア低下療法が有効であった。

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糖原病

*池田 直哉(筑波大学消化器外科・移植外科):糖原病Ia型に合併した肝細胞腺腫に対し2回の切除術を施行した1例、日本消化器外科学会雑誌、43(10)、1019−1024、2010 (日本消化器外科学会雑誌43巻10号はhttp://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN00192066/ISS0000455563_ja.htmlで公開されています)

 糖原病Ia型は先天性糖代謝異常症の一つで、多発肝細胞腺腫を高率に合併する。今回、同腺腫内出血に対し、肝切除術を2回施行した1例を経験した。
 症例は1歳時に糖原病と診断、多発肝細胞腺腫を経過観察されていた18歳の女性。突然の左上腹部痛と発熱を認め、肝外側区域の腺腫内出血と診断された。止血のため選択的肝動脈塞栓療法を施行したが、腹痛や発熱が続いたこと、および悪性腫瘍の可能性を否定できないことから、肝外側区域切除術を施行した。その3年後、肝右葉の腺腫内出血を伴い増大傾向が見られた腺腫に対し、再度の肝切除術を施行した。
 糖原病Ia型に合併する腺腫に対する治療について検討するために、PubMedで1981年から2009年まで検索すると23件の症例報告があり、初回治療として肝切除術が多く行なわれていた。しかし、腺腫を2回切除した報告はなく、2回手術を受けた患者は、2回目にすべて肝移植術を受けていた。今回報告した症例は、増大した肝細胞腺腫が切除可能な部位にあり手術を行なったが、多発腺腫が残存しており、今後も腺腫の状態や病状に応じて治療を行なっていく必要があると思われる。
 糖原病Ia型に合併する多発腺腫の根本治療は肝移植術であるが、本邦では脳死下臓器提供が少ないことから、切除術を中心とした腺腫治療は、肝移植までの有用な治療と考えられた。

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熱中症

国立病院機構大阪医療センター

米満 弘一郎(国立病院機構大阪医療センター救命救急センター):劇症肝不全を合併した熱中症3度症候群の一救命例、日本救急医学会雑誌、19(7)、440−444、2008

 39歳男性はマラソン中に意識消失、第3病日に劇症肝炎を合併、第4病日に肝性昏睡2度、PT活性20%。生体肝移植も考慮にいれたが、血漿交換および持続血液濾過透析を行った。肝障害は速やかに改善し第33病日、独歩退院となった。
 

敬老会中頭病院

*粟国 克己:熱中症による劇症肝炎に対し血漿交換療法にて軽快した1例、日本臨床救急医学会雑誌、11(2)、248、2008

 40歳男性は炎天下の屋外で作業し、意識がなく倒れているのを発見され救急搬送された。頭部CTで異常所見無く、肝疾患の既往なくウイルス検査も陰性であった。薬剤の服用歴も見られず重症熱中症と診断し人工呼吸器管理、輸液管理、クーリングを開始した。翌日より著明な肝機能異常を認めたため劇症肝炎とし血漿交換療法を施行。その後肝機能は徐々に改善。意識レベルも改善したため第12病日に抜管。第87病日にリハビリ目的にて転院となった。報告では熱中症による劇症肝炎は予後不良であるが、本症例は肝移植を行うことなく血漿交換療法などの治療により軽快した。

 

京都大学医学部付属病院

金澤 寛之(京都大学医学部肝胆膵移植外科):熱中症に起因した劇症肝不全の2例、日本救急医学会雑誌、18(8)、485、2007

 15歳男性、熱中症にともなう劇症肝不全の診断で、発症4日目に当科紹介入院。来院時昏睡状態であり頭部CT上は明らかな器質的異常はなかったが、神経学的所見上で病的反射を認めたこと、ドナー候補者不在であったため血漿交換等の肝補助療法を継続施行した。発症12日目まで昏睡状態であったが、13病日に意識レベルの改善、15病日に抜管、28日目神経学的後遺症を残すことなく退院となった。
 熱中症に伴う肝不全に対する肝移植は当院での症例を含め4例の報告があるが、自験例(発症4日目に生体肝移植)以外の3例の予後は極めて不良であった。熱中症に起因した肝不全に対する移植適応や移植時期については症例数が少なく現時点では不明である。

 金澤 寛之(京都大学医学部附属病院肝胆膵移植外科学):熱射病により急性肝不全を合併した2症例 生体肝移植と人工肝補助療法、日本救急医学会雑誌、22(6)、277-283、2011 http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjaam/22/6/277/_pdf/-char/ja/ は、上記15歳男性症例の報告を含むが、「ドナー候補者不在であった」ことは省略されている。

 

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新生児へモクロマトーシス

*宮本 健志(獨協医科大学医学部小児科):免疫グロブリン大量療法と交換輸血で肝移植を回避した新生児ヘモクロマトーシスの1例、日本小児科学会雑誌、115(11)、1762−1767、2011

 在胎38週、2,274gで出生した女児は、日齢6で産科を退院したが、日齢7に哺乳障害、傾眠傾向のため再入院。入院時の血液検査で凝固能異常を伴う重度の肝機能障害、および血清鉄・フェリチン値の著明高値を認めた。腹部核磁気共鳴検査でT2-star強調画像で肝臓のびまん性信号強度低下を認めた。以上より新生児へモクロマトーシスを疑って鉄キレート剤および抗酸化剤投与を開始。さらに6回の交換輸血、免疫グロブリン大量療法を施行したところ、トランスアミナーゼ値の有意な低下がみられた。日齢13になって徐々に肝機能障害および凝固障害の改善を認めてきた。しかし新生児ヘモクロマトーシスに対する肝移植の適応も検討を要したため、自治医科大学病院移植外科に転院となった。日齢17に肝不全から離脱、同日施行した肝生検で肝細胞内に顆粒状の鉄沈着を認め、新生児ヘモクロマトーシスと診断した。凝固能異常を伴う肝機能障害は徐々に改善したため肝移植は行なわず、日齢35日に当院に転院、日齢88に当院を退院した。
 新生児期早期に肝不全を呈する新生児ヘモクロマトーシス症例は、従来、肝移植が唯一の治療とされてきた。しかし近年、本疾患が免疫的機序で発生することが示唆され、免疫グロブリン大量療法および交換輸血で救命できた症例が報告されている。新生児ヘモクロマトーシスでは、交換輸血と免疫グロブリン大量療法で肝臓移植を回避できる可能性があり、治療手段として考慮する必要がある。

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進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型

*川北 理恵(京都大学医学部附属病院小児科):部分的外胆汁瘻により肝移植を回避できた進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型の1例、日本先天代謝異常学会雑誌、25(2)、111、2009

 1歳4ヵ月時に入院の2歳2ヵ月女児。遺伝子検査により進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)1型と診断、肝移植の適応と考えられたが、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症1型では移植後の合併症が多いこともあり、1歳9ヵ月時に小児外科で部分的外胆汁瘻(PEBD)を施行。高度の黄疸、肝繊維化からすでに不可逆性の肝障害を起こしている可能性もあったが、術後速やかに黄疸は改善、皮膚の掻痒は軽減した。現在術後5ヵ月で体重8.2kg、栄養状態と胆汁うっ滞の改善を認めている。

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ウィルソン病

福山 哲広(信州大学医学部小児医学講座):肝移植を回避し得た劇症肝炎型Wilson病の一例、日本先天代謝異常学会雑誌、25(2)、167、2009

 10女児、全身倦怠感、嘔吐、黄疸を認め、地域総合病院を受診した。Wilson病と診断し血漿交換を開始したが、貧血、凝固以上の改善は認めず、New Wilson Indexは16点であった。肝移植が必要となる可能性があり、第4病日に当院に転院。母親からの生体肝移植の準備を進めながら、血漿交換に加え血液透析濾過を連日行なったところ、第6病日には意識障害は改善した。第6病日からD-ペニシラミン、第10病日から酢酸亜鉛の投与を開始し、溶血性貧血、肝機能障害、凝固以上も次第に改善した。第21日に行なった肝生検では強いリンパ球浸潤と肝繊維化を認めた。第24病日に血小板減少のため、D-ペニシラミンを塩酸トリエンチンに変更したが、その後も順調に経過し、第55病日に退院した。

 

芝 博子(大阪府立病院機構大阪府立急性期総合医療センター消化器内科):劇症型ウイルソン病で肝移植を回避し得た1例、肝臓、50(Suppl.3)、A819、2009

 16歳女性は、肝型ウィルソン病の劇症型と診断し治療を行なった。治療経過中に脳症とクームス陰性の溶血性貧血をきたし、分岐アミノ酸製剤投与や輸血を行い、また肝機能も劇症肝炎と同じ病態をきたしており血漿交換や抗凝固療法を行なった。第30病日ごろから肝機能、全身状態も安定し、D−ペニシラミン併用開始しさらに肝機能は改善を認めた。肝生検にて肝硬変まで進展しているウィルソン病と考えられた。第62病日に軽快退院した。

 

岡島 英明(熊本大学医学部附属病院 小児外科・移植外科)肝移植周術期における血液濾過透析(CHDF)、小児外科、40(3)、330−334、2008

 Wilson病の劇症型については急性期を持続血液濾過透析(CHDF)で乗り切り、キレート療法でコントロールされれば必ずしも肝移植を必要としない症例もあり、移植適応について迷う例もある。
 自験例でも13歳女児は総ビリルビン値が40mg/dlを超え、脳症も1〜2度で緊急肝移植を予定していたが、キレート療法を行いCHDFを併用していたところ脳症の改善がみられたため肝移植を中止した。治療継続により肝機能も回復しCHDFから離脱、現在日常生活に復帰している(CHDF施行5日間)。
 一方、7歳男児ではキレート療法の副作用による無顆粒球症のため治療継続不能となり肝移植を考慮するも、無顆粒球症改善までの期間に肝不全が進行し術前状態を悪化させてしまうことも経験しており(CHDF施行11日間)、Wilson病の劇症型に対するCHDFでは、その継続と移植のタイミング決定に慎重な評価が必要である。

 

*座談会 小児の急性肝不全、肝胆膵、55(2)、337−358、2007

  • 乾 あやの(済生会横浜市東部病院こどもセンター):(p339)Wilson病16例中14例が移植です。2例は移植をしないで生存しています。(p340)10年前にアンケート調査を行ったことがあります。いったんは内科的に救命できても、長期的には結局亡くなっているということがわかりました。移植非施行生存例というのが本当に内科的に普通のQOLを遂げながら生活しているかというのはよくわかりません。(p341)私たちがこれから考えていかなくてはいけないのは移植でこれだけ予後がいいからという理由で、黄疸がでてきて、溶血があると小児科医が肝臓の専門医にコンサルトせずにいきなり移植外科医に紹介すると移植医は移植をしてしまっているという可能性があります。これは私たちが内科的にキレート剤で治療できる症例が移植されているのではないかということです。そこが知りたいところですね。
     
  • 藤沢 知雄(済生会横浜市東部病院こどもセンター):肝硬変でなくとも溶血があり、肝性脳症ではなくとも少し元気がなくなることもあります。そのレベルで劇症肝炎だということで移植外科コンサルトされる方も存在すると思います。それは今後、移植外科の先生たちと詰めないといけないと思います。
     
  • 虫明 聡太郎(大阪大学小児科):ある程度進んだ線維化が内科的な根本治療で少しでも止められるか戻るかというのであれば、移植適応については全く別に時間をかけて検討されるべきですね。 

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肝芽腫

*星野 健(慶応義塾大学医学部外科学教室(小児外科)):【小児がん 難治症例へのさらなる治療戦略】 切除困難が予想された進行肝芽腫の治療戦略、小児外科、39(2)、159−162、2007

 日本小児肝癌スタディグループによるJPLT-2中間報告によると術前病期分類PRETEXT-4の原発巣完全切除率は33%(4/12)にすぎず、PRETEXT-1〜3の91%(48/53)と比較して著しく
低い。
 患児は1歳の肝芽腫PRETEXT-4症例、腫瘍自体は化学療法の効果によって左3区域内に縮小した。肝静脈は根部で3本とも腫瘍に囲まれていたが、門脈後区域枝は温存されており、右中肝静脈は腫瘍から離れていた。結果として、横隔膜合併切除、右上肝静脈合併切除を伴った左3区域切除によって、腫瘍は完全切除され、術後3年6ヵ月現在無病生存中である。
 肝切除をする場合は、移植センターにおいて生体肝移植ができる条件を整えておいて、果敢に肝切除に挑戦することも可能である。その結果、完全摘出が可能であるケースも少なくない。また、移植施設によっては、自己肝を摘出し、体外で肝切除を行い、再び体内に戻すex-situ liver resectionを行うなど、そのmodalityは飛躍的に広がることは事実である。そういった意味で、移植可能施設による治療を推奨する論文もみられている。現時点では肝臓移植をback upとして準備しうる環境で、肝切除を考慮するほうが、多くの選択肢を持っているといわざるをえない。

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高チロシン血症

名古屋市立大学病院

 植田 昭仁(名古屋市立大学大学院新生児・小児医学):良好な経過をとる高チロシン血症1型の兄妹例、日本小児科学会雑誌、110(2)、229、2006

 生後5ヵ月男児は高チロシン血症1型と診断、全身状態不良で肝内病変が腫瘍化している可能性もあり母より肝移植を行った。妹も高チロシン血症1型と診断され肝移植の適応を考え・・・・・・父は心疾患があったため移植困難であった。低タンパク血症、腎不全、凝固能低下など全身状態不良となりNTBC:2−(2-nitro-4-trifluoromethylbenzoyl)-1,3-cyclohexanedioneの投与を行った。NTBC投与後数日で全身状態の劇的な改善をみ、救命することができた。日本国内での投与は、本症例が2例目である。現在国内では未承認薬である。・・・・・・家族の強い希望もあり1歳9ヵ月時に母方の叔母より部分生体肝移植を行った。

 

徳島大学付属病院

 伊藤 道徳(国立病院機構香川小児病院小児科)、松田 純子(徳島大学付属病院小児科):【高チロシン血症】NTBCの長期投与により良好な経過をとっているチロジン血症1型の1例、特殊ミルク情報(先天性代謝異常症の治療)、41号、27−30、2005

 男児は6ヵ月時に紹介入院し、肝生検でチロジン血症1型と確定診断した。家族に治療法として肝臓移植およびNTBC(2-(2-ニトロ-4-トリフルオロメチル-ベンゾイル)-1,3-シクロヘキサネジオン)療法があることを説明したところ、家族の希望によりNTBC療法を行うことになった。亜急性型の軽症例とみられるが、診断後の8ヵ月から8歳11ヵ月までの8年3ヵ月間の長期にわたってNTBCと低チロジン・フェニルアラニン食餌療法の併用することにより肝臓移植を行わずに良好に経過し、NTBCの副作用も認めていない。このことから、NTBC療法は肝臓移植の前にまず試みるべき治療法と考えられる。
 しかしながら、NTBC投与によっても肝臓ガンの発生を予防できない症例もあり、このような症例やNTBC投与により改善傾向を認めない重症例では、時期を失することなく肝臓移植を行う必要がある。

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肝細胞癌

切除可能な肝細胞癌の第一選択は肝切除

*國土 典宏(東京大学大学院医学系研究科・肝胆膵外科・人工臓器移植外科):【肝細胞癌治療の最近の進歩】 肝細胞癌の根治的治療法 外科切除、消化器病セミナー、97、13―24、2004

 日本肝細胞癌研究会の最新の全国追跡調査によると、2001年1月から2002年12月までに新規登録された肝細胞癌症例のうち治療法が明らかなものは19,920例で、このうち5,374例(27.0%)に手術が施行されている。この間の手術死亡率は0.9%で、諸外国で報告されている死亡率3〜6%に比べて明らかに低い。わが国ではこの優秀な短期手術成績と脳死肝移植が困難であるという2つの理由から、切除可能な肝細胞癌の第一選択は肝切除であるということができる。肝移植後の死亡を含めたgraft lossを5〜10%と見積もると、肝切除と肝移植の手術のリスクの差はわが国では無視できないからである。
 (p18)進行癌に関しては、遠隔転移やリンパ節転移などの肝外病変が存在する症例は肝切除による延命は期待できないため適応外と考えられている。肝外病変がなく、門脈腫瘍栓(Vp)が存在する例も一般に予後不良で、肝移植の適応外とされ、肝動脈塞栓術(TAE)や肝動注でも治療が困難である。このような症例に対して、術前のTAEと組み合わせた肝切除を行うと、一部で長期生存が得られる。

 

肝臓移植でなくても相応の生存が得られる

  • 市田 隆文(順天堂大学医学部付属静岡病院消火器内科):肝細胞癌に対する生体肝移植、日本消化器病学会雑誌、103(2)、149−155、2006
     
     ミラノクライテリアに合致する腫瘍個数、腫瘍サイズで肝障害度が軽度な症例に対して、肝移植を第一適応とすることが現状で出来るのであろうか。われわれ臨床の場では、この種の肝細胞癌は消化器医、肝臓内科医が一番多く治療対象としている症例で、外科的切除を始めIVR、局所療法などありとあらゆる治療法が選択され、容易に局所制御可能な肝細胞癌と見なされる。したがって、ミラノクライテリアやUNOSの選択基準を満たす肝細胞癌は現実的には肝細胞癌治療法選択の第一選択肢と考えるのはいささか無理があると思われる。もちろん、生体および脳死ドナーが無尽蔵に入手であれば話は別である。
     
     
  • 片寄 一友(東北大学消化器外科):肝細胞癌に対する肝移植適応基準の再考 過去の肝切除例からの検討、日本消化器外科学会雑誌、35(7)、1082、2002
     
     過去の多発肝細胞癌の肝切除14例のうち、ミラノ基準に沿う症例は生存例は3例で平均生存期間4.3年と良好。死亡例は2例あり、生存期間が4.1年、3.5年で、われわれの多発肝細胞癌の平均生存率の1.77年を大きく上回る。肝移植は今回検討された死亡例で予後の改善の可能性のある症例になされるべきであるのに、ミラノ基準に準じて症例を選択すると、肝移植でなくても相応の生存が得られることになり、基準を逸脱して移植せねばならぬというジレンマに陥る。【まとめ】現在は過渡期であることも考慮して、基準に準拠し症例を集積すべきと考える。

当サイト注:片寄氏らは「肝臓移植でなくとも相応の生存が得られる」と認識しているのに、「ミラノ基準に準拠し症例を集積すべきと考える」とまとめた。患者不在の思考と考えられる。

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術前診断の限界

 治療法を検討する際に、各種検査データにもとづいて検討が行われる。肝細胞癌患者に移植を考慮する場合は、腫瘍の個数・大きさ・浸潤や転移の状態などが検査される。その結果、事前に移植に適する状態と判断されて実際に移植が行われても、摘出した肝臓を検査すると、術前の検査結果と異なる場合がある。その場合、患者の状態によっては癌を再発させて早期に死亡したり、別の治療法がベターな選択肢であったことが判明したり、医療保険が不適用になるなどの経済的問題も発生させる。

  • 居村 学(徳島大学大学院医学研究科外科学):ミラノ基準内と基準外手術の成績、肝胆膵、53(5)、859−867、2006
     
     Wiesnerらの摘出肝の病理検索の報告(n=666)では、摘出肝に腫瘍がなかった割合(過大評価)が23%、ミラノ基準を超えていた割合(過小評価)が22%もあることが判明した。一方、精度が高いと考えられる本邦の集計(藤堂 省:Ann Surg 2004;240:451-461、n=268)でも、過大評価が6.3%、過小評価14.2%であり、術前画像診断の限界、すなわち、ミラノ基準の限界が明らかとなっている。
     
  • 市田 隆文(順天堂大学医学部付属静岡病院消火器内科):肝細胞癌に対する生体肝移植、日本消化器病学会雑誌、103(2)、149−155、2006
     
     術前と術後のミラノクライテリア不致率25%、腫瘍個数不一致率63%の移植後成績を見ると、術前の肝細胞癌の個数や大きさでなく、脈管浸潤能や転移能がすべてを操作していると考えざるをえないと思われる。
     
    術前と術後のミラノクライテリア一致率
    報告施設 ミラノクライテリア
    合致率
    腫瘍個数合致率
    新潟大学
    群馬大学
    京都大学
    九州大学
    東京大学
    6/8(75%)
    4/9(44%)
    25/36(69%)
    45/49(92%)
    47/63(75%)
    7/15(47%)
    3/11(27%)

    14/49(29%)
    27/63(43%) 

    合計

    127/167(76%)

    51/138(37%)


     

 

 

 

 

  • 板本 敏行(広島大学第2外科):肝細胞癌に対する生体肝移植の適応拡大に向けて、日本消化器病学会雑誌、101(臨時増刊)、A514、2004
     
     対象は2003年2月までに当科で施行した生体部分肝移植42例のうち肝細胞癌合併例16例。手術死亡1例(6.3%、術後31日目敗血症)、在院死亡2例(3ヵ月癌死、4.7ヵ月慢性拒絶反応)、再発2例(術後2ヵ月再発・3ヵ月目に癌死、術後12ヵ月再発・術後24ヵ月生存中)、12例が無再発生存中(1〜31ヵ月)。
     術前画像診断でミラノ基準合致例9例中1例が術後病理診断にて逸脱例となり、逸脱礼7例中2例が術後合致例に変更された。また、術前画像診断と術後病理診断で腫瘍個数が一致したのは16例中わずか4例(25%)であった。腫瘍個数に関して、画像診断で9例(56%)が過小評価、3例(19%)が過大評価されていた。

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岡山大学および関連施設

能祖 一裕(広島市立広島市民病院内科):Child C肝癌の予後規定因子および非移植治療、日本消化器病学会雑誌、105巻(臨時増刊号)、A561、2008

 肝細胞癌治療のアルゴリズムでは、Child C肝癌は移植を除き、積極的治療は推奨されていない。しかし、臨床の場では患者サイドの強い希望等より、局所療法やTAEなどの治療が行われる例が散見される。本研究の目的はChild C肝癌の予後規定因子および、治療の有用性について検討することである。
 1996年から2006年までに岡山大学および当院を含む関連施設で登録されたChild C肝癌157症例を対象とした。治療法の内訳は、局所療法23症例(14.7%)、TACE27症例(17.2%)、TAI19症例(12.1%)、BSC88症例(56.1%)であった。このうち予後改善につながる因子となったのはTACEのみであった。Child C肝癌は、Child A/B肝癌と同様に腫瘍側因子と背景肝因子が予後規定因子であった。またTACEにより予後を延長できる症例の存在が示唆された。
 

大阪肝穿刺生検治療研究会参加施設

大崎 住夫(大阪赤十字病院消化器科):Child-Pugh C肝硬変に合併した肝癌は治療すべきか?その是非と治療法選択に関するRetrospective多施設共同研究、日本消化器病学会雑誌、105巻(臨時増刊号)、A561、2008

 大阪肝穿刺生検治療研究会参加施設20施設から203例の治療例を含む436例が集積された。無治療群(233例)の累積生存率は1年25.1%、3年9.9%、5年4.6%であり、それに比してTAE群(79例)ではそれぞれ69%、30%、18%、動注群(64例)62%、29%、4%、経皮穿刺治療群(60例)67%、36%、19%であり、いずれも無治療群に比して予後は有意に良好であった。
 Child-Pugh C肝硬変に合併した肝癌に対しても内科的治療施行することの意義が示唆された。なかでもChild-Pugh低スコア、ミラノ基準適合例では治療により予後を改善させる可能性が示唆された。本検討はRetrospectiveでセレクションバイアスの介在が否定できず、確実なエビデンスとコンセンサス形成のためにはProspectiveなコントロールスタディによる検証が必要と思われる。

 

マイアミ大学付属病院

濱村 啓介(マイアミ大学外科肝消化管移植部門):マイクロ波凝固によるbridge療法を受けた肝細胞癌肝移植の患者長期予後、肝臓、49(Suppl.1)、A363、2008

 1999年2月から、マイクロ波焼灼療法を米国で30例の肝移植待ち肝細胞癌患者のブリッジセラピーとして行い、最長7年間観察、その安全性と有効性を検討した。1人はマイクロ波焼灼療法後の経過が良好で、移植を必要としなかった。5人がリストから脱落、うち2人は肝細胞癌が再発、3人はマイクロ波焼灼療法後無再発で、結局、移植を必要としなかった。肝移植を受けた24人中12人が生存し、生存率は他施設とほぼ同様。この間の肝細胞癌再発は2例にのみ認められ、当施設での肝細胞癌患者全体のデータに比べ低率であった。

 

東近江市立能登川病院

*鈴木 教久(東近江市立能登川病院内科):肝癌再発を繰り返し生体肝移植を検討したC型肝硬変症例、滋賀医学、30、108―109、2008

 59歳女性、C型慢性肝炎、肝硬変にて治療中、2002年より肝細胞癌の発症、再発を繰り返したため、娘をドナーとした生体肝移植を検討。2005年8月よりPEGインターフェロン/リバビリン併用療法を48週間施行。投与開始後2ヵ月目よりウイルスの陰性化を認め、終了後6ヵ月の現在まで陰性を維持している。この間に2回のHCCの再発を認めたが、いずれも局所治療にてコントロールしており、今後HCCの再発に対して厳重に観察していく方針とした。

 

横浜市立大学

  • 田中 邦哉(横浜市立大学大学院医学研究科消化器病態・腫瘍外科学講座):【使用する立場からみた「癌診療ガイドライン」のポイント】 肝癌診療ガイドライン、外科治療、94(2)、149−155、2006

 1990年から2003年の原発性肝癌切除183例中ミラノ基準合致例は97例であった。これら97例の1年、5年、10年生存率はそれぞれ100%、74.1%、52.4%で、recurrence-free survivalはそれぞれ94.7%、67.8%、67.8%であり、いずれもミラノ非合致例に比較し有意に良好であった。さらにMazzaferroらの報告した4年累積生存率75%、recurrence-free survival83%と比較して遜色ないものであった。これらミラノ合致肝切除例と教室で同時期に経験した生体肝移植15例でメディカルコストを比較した。

 患者背景が異なるため単純な比較は困難であるが、いずれの項目でも肝切除例が良好であり、手術に関わるスタッフ数は移植で明らかに多く、このため切除または移植当日の他手術件数は肝切除が多かった。すなわち、ミラノ基準合致肝癌に対する肝切除は、術中偶発肝癌も含んだMazzaferroらの成績と差がないこと、メディカルコストは明らかに有利であること、さらに生体肝移植ではドナーの問題も加わることより、現時点では「切除可能肝癌では、切除が肝移植より優れている」と考えている。

 

日本大学

 切除対象となる肝細胞癌患者の半数はミラノ基準を満たすと考えられ、同基準内の患者全てが肝移植の適応となりうる。しかし肝移植には年齢やドナーの確保をはじめとする制限がある。1994年〜2004年に当科で手術を受けた肝細胞癌患者428人に対する術後生存率を検証し、日本肝移植研究会の術後成績と比較した。428人中、ミラノ基準合致症例は215例(50.2%)であったが、移植の対象となると考えられる60歳以下は59例(13.8%)であった。59例の生存率は98%、88%、75%(1年、3年、5年)で肝移植よりも良好であった。

 肝細胞癌に対する肝移植の制限因はレシピエントの年齢、腫瘍条件、ドナーの確保である。肝移植対象となる年齢60歳以下で「切除対象となる」償性肝硬変合併肝細胞癌に対しては術後成績からも肝切除が初期治療に選択されるべきであり、このことはドナー確保が困難な状況に合致している。

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自己免疫性肝炎

阿部 和道(福島県立医科大学医学部消化器・リウマチ膠原病内科学講座):肝臓移植をめぐる諸問題 自己免疫性肝炎の急性肝不全例における肝移植ガイドラインの問題点、肝臓、51(Suppl.3)、A683、2010

 旧基準肝移植ガイドラインで死亡予測の3例中2例は、新基準で生存予測であった。

*阿部 和道(福島県立医科大学医学部内科学第二講座):当科における自己免疫性肝炎の急性肝不全例についての検討、肝臓、50巻(Suppl.1)、A105、2009

 劇症肝炎における肝移植ガイドラインに、自験の劇症型6例(PTが40%以下で脳症2度以上)をあてはめてみると、意識障害出現時全例死亡と予測される。実際1例は治療開始4日目に死亡し、1例は治療開始2日目に生体肝移植を行なった。治療開始5日目の再評価でも残り4例は死亡と予測されたが、3例は生存しえた。

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自己免疫性膵炎

*河邉 顕(九州大学大学院医学研究院病態制御内科膵臓研究室):自己免疫性膵炎と自己免疫性膵炎関連硬化性胆管炎の予後、肝・胆・膵、54(2)、277―283、2007

 自己免疫性膵炎(Autoimmune pancreatitis:AIP)は原発性硬化性胆管炎(Primary sclerosing cholangitis:PSC)と類似した硬化性胆管病変を高率に合併することが知られている。(中略)関連硬化性胆管炎は、PSCとは異なって、ステロイドが著効することが多く、黄疸や肝胆道系酵素の異常値も速やかに改善することが報告されている。
 (中略)症例は67歳男性、1999年感冒罹患後より上腹部不快感、黄疸出現したため近医入院。画像検査の結果、手術不能の膵頭部局所進行癌の診断で下腹部総胆管狭窄に対して金属ステント留置のみにて退院。2001年に再び黄疸出現し入院、精査の結果、診断はPSC(原発性硬化性胆管炎)とされ、上部総胆管、両肝内胆管の狭窄に対して金属ステントを留置され経過観察となった。
 2003年再び黄疸出現し、肝機能の低下を認めたため、PSC(原発性硬化性胆管炎)に対する生体肝移植目的にてわれわれの施設に入院となった。(中略)当院入院後にわれわれで前医からの画像所見を再検討したところ、初発時である1999年の腹部CTでは膵は膵頭部の中心にびまん性に腫大しており、胆道造影にても膵内胆管の狭細化を認め、AIP(自己免疫性膵炎)を十分に疑わせる特徴的な画像所見を確認できた。(中略)胆管病変をPSC(原発性硬化性胆管炎)と鑑別する目的で血清IgG4を測定した。その結果、血清IgG4値は986mg/dlと高値を認めた。以上の結果より、本症例は1999年当時に硬化性胆管病変を伴うAIP(自己免疫性膵炎)を発症していたが、正しく診断されずに放置された結果、膵・胆管病変が進行し、非代償期へ進行した慢性膵炎と胆汁うっ滞を示す肝硬変に進展したと考えた。診断後、生体肝移植は中止とし、速やかにステロイド(PSL60mg/day)を開始した。ステロイド治療の結果、黄疸、肝機能障害は速やかに改善し、生体肝移植を行う必要もなく退院となった。現在も外来通院中である。
 本症例の重要な点としては、(1)入院時にAIP(自己免疫性膵炎)に特徴的な画像所見は認めなかったが、発症時にまで画像所見をさかのぼることでAIP(自己免疫性膵炎)の診断が可能であったこと、(2)AIP(自己免疫性膵炎)およびおよびAIP関連硬化性胆管炎は、無治療で放置すると非代償性慢性膵炎、胆汁うっ滞型肝硬変に進行する可能性が高いこと、(3)進行した状態であっても、ステロイド治療にて病勢のコントロールは可能であること、(4)今までPSC(原発性硬化性胆管炎)と診断されている症例や、PSCと診断され肝移植を行われた症例の中に同様な症例が存在した可能性も予想されることなどが挙げられた。

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原発性胆汁性肝硬変

*牛山 淳(東海大学消化器内科):内科的治療にて移植を回避し得た症候性PBCの一例、神奈川医学会雑誌、31(1)、50−51、2004

 61歳女性は1992年、横浜市立大病院を受診し肝生検によりPBC(原発性胆汁性肝硬変)の診断で通院していたが中断。1999年6月当院外来で肝機能異常を指摘されたが、昨年より通院を中断。眼球結膜の黄染に気付きし2002年10月17日受診となった。肝不全徴候を認めた。肝移植の適応と考えたが、新鮮凍結血漿、colestimide、bezafibrate等内科的治療にて、著明に肝機能の改善が得られた症例を経験したので報告する。

質問:PBC自体の悪化にしては、この改善はおかしい。他の肝炎の一過性に合併も考えなくてはいけないのではないか。

回答:肝不全になった理由としてvirus infectionがtrigerとなった可能性も否定できないと思いますので今後検討します。

 

明石 雅博(帝京大学医学部内科):原発性胆汁性肝硬変に対する茵陳蒿湯の生化学的改善効果の検討、診療と新薬、44(2)、144−147、2007

 無症候性の原発性胆汁性肝硬変(PBC)4例と黄疸を伴う進行PBC4例に茵陳蒿湯を投与し、血液検査により生化学的改善効果を判定した。無症候性PBC群では、投与開始後1ヵ月で2例、2ヵ月で2例が投与中止を余儀なくされた。中止した理由は、1例は頭痛、1例は生化学的改善効果が見られなかったため本研究への参加中止を希望したため、1例が飲みにくいという理由、もう1例は体がかゆくなった気がするという理由であった。進行PBC群では、いずれの症例でもコンプライアンスは無症候性PBC症例に比べ良好で、経過観察中は茵陳蒿湯の投与継続が可能であった。しかし、持続的な生化学的改善効果が見られたのは1例のみであった。肝移植以外に治療法がない黄疸を伴う進行PBCでは茵陳蒿湯の投与を考慮する余地は十分にあると考えられた。

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胆道閉鎖症

神奈川県立こども医療センター

*新開 真人(神奈川県立こども医療センター外科):葛西手術後20年経過した胆道閉鎖症例の現状と治療成績、日本小児外科学会雑誌、43(6)、738、2007

 対象は、1970年から1986年まで当院で初回葛西手術を受け、術後フォローアップをされている79例。
 20歳未満で肝不全や消化管出血で死亡した39例と肝移植を受けた6例を除いた34例(43%)が、葛西手術単独で生存した。5年生存率61%、、10年生存率54%、20年生存率は1970〜1975年手術例は31%であったが、1981〜1986年手術例は56%と上昇した。病型1、2型は全例が生存したが、3型は37.5%の生存にとどまった。手術日齢が70日以内と以降の比較では有意に前者の生存率が高かった(56%:20%)。

 20年以上生存例について、20歳時に肝機能が正常であったのは約半数にとどまり、約4割がすでに肝硬変、門脈圧亢進症の診断をされていた。身体発育に異常は認めなかった。最終フォローアップ時の年齢は24.7歳(20〜31.9)であり、20歳以降に38%が胆管炎を、15%が消化管出血を発症した。社会生活(学業、就職)はほぼ可能で、女性5例に計9回の出産を経験した。

 最終的に2例が移植せず死亡し、4例が肝移植を受け、28例が葛西手術のみで生存していた。

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広島市民病院・国立病院機構岡山医療センター

*秋山 卓士(広島市立広島市民病院小児外科)、青山 興司(国立病院機構岡山医療センター小児外科):胆道閉鎖症における長期生存(10歳以上)症例23例の検討 肝門部空腸吻合術のみによる生存、日本小児外科学会雑誌、43(6)、737−738、2007

 対象は、1980年1月1日から2005年12月31日まで26年間に国立病院機構岡山医療センターと広島市民病院にて経験した胆道閉鎖症81例中、肝臓移植なしに10歳以上まで生存した23例。
 肝機能が、ほぼ正常14例、軽度異常2例、中等度障害1例、高度障害6例。1例は16歳で食道静脈瘤からの出血で死亡した。10歳以降に急に肝機能が悪化する症例が存在する。10歳以降の肝臓移植1例あり。

 

群馬県立小児医療センター

*西 明(群馬県立小児医療センター外科):肝門空腸再吻合の再評価、日本小児外科学会雑誌、42(3)、399、2006

 1982年から2005年12月までの胆道閉鎖症手術症例は51例、うち再手術例は20例。術後早期に減黄不良にて再吻合施行したのは16例、うち9例で減黄した。それらの長期予後は全例減黄を維持したが1例は肝肺症候群にて肝移植となった。肝門部掻爬の9症例中減黄したのは2例であり6例で死亡した。肝脱転下に結合織再切離を行った7例では全例減黄した。その後3年以上経過例で胆管炎、門脈圧亢進症状とも認めない症例も4例あった。胆道閉鎖症全体としての長期予後は32例が黄疸無し、2例が黄疸あり生存、5例が移植後生存、12例が死亡(3例移植後死亡、1例他病死)であった。
 初回手術で減黄されない症例は長期的な減黄が望めないとして、再手術せずに移植を勧める報告も多いが、今回の検討では、肝脱転を併用し結合織再切離を行うようにしてからは減黄し続発症を認めない症例も多くみられ、1回の再手術(肝門部再切離)は時期を逸さずに行うならば許容されうると考えられた。

 

京都府立医科大学

*木村 修(京都府立医科大学附属小児疾患研究施設外科):胆道閉鎖症と鑑別が困難であった胆汁鬱滞の1症例、日本小児外科学会雑誌、40(4)、629、2004

 黄疸、灰白色便を主訴に胆道閉鎖症が疑われ生後72日目に入院した女児。試験開腹術にて閉鎖症V−c2-oと診断した。また肝生検では胆道閉鎖症に一致する組織像を呈していた。高度な門脈体静脈系の短絡の存在を考慮し、早期の肝移植が必要と判断し、根治術は施行せず肝移植の準備を進めていたところ、次第に黄色便を認めるようになり、2ヵ月減黄し、肝機能異常も軽快した。

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肝肺症候群

*Fukushima Kazuko(国立病院機構長崎医療センター呼吸器科):Two cases of hepatopulmonary syndrome with improved liver function following long-term oxygen therapy(長期酸素投与により肝機能が改善した肝肺症候群の2症例)、Journal of Gastroenterology、42(2)、176―180、2007

 肝肺症候群(HPS)は、低酸素血症と肺内血管拡張を伴う肝疾患の合併症で、これまでに確立した唯一の治療法は肝移植である。C型肝炎関連肝硬変を合併するHPSの2例(63歳女性、72歳男性)の呼吸器症状を改善する目的で、低量の酸素投与を行った。肝機能がChild-Pugh class CからAに改善し、腹水は1年間の酸素投与後に消失した。長期の酸素投与が、この2症例における肝機能の改善に寄与したと考えられた。長期酸素投与が、低酸素血症を伴う肝硬変患者の新しい治療的アプローチとなる可能性が示唆された。

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アルコール性肝硬変

*梅田 瑠美子(慶応義塾大学医学部消化器内科):アルコール性肝硬変に対する部分生体肝移植症例から断酒期間を含めた適応についての検討、アルコールと医学生物学、29、41−46、2010

 2001年〜2009年にアルコール性肝硬変に対して移植の問い合わせ症例総数は33例で、そのうち7例(男5例、女2例、43〜61歳、平均53.6歳)に生体部分肝移植を施行した。7例は全例移植後も断酒を継続し生存中。海外での脳死肝移植例は3例で、断酒して生存している例が1例、飲酒再開例が2例で1例は生存しているが1例は転帰不明であった。
 移植に至らなかった23例、このうち問い合わせのみ14例。当院にて加療した9例のうち、4例が加療中に死亡したが、5例は内科的治療継続が可能で生存(当院通院中3例、他院通院中2例)であった。それぞれ症例数は少ないものの、生体部分肝移植例と比較して検討項目で特に有意差を認めるものはなく、移植検討が必要な症例でも肝臓内科医による加療にて救命可能、移植回避可能な症例も存在し、今後は症例を蓄積し、両者を分ける因子を解明することがを検討する必要があると思われた。

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肝移植後長期生存例

*松波 英寿(松波総合病院外科):肝移植後15年以上生存した成人30例の検討、肝臓、54(Suppl.3),A662,2013

 本邦における生体肝移植は主に小児に施行された経緯から、おのずと長期生存例は小児症例が主であり、小児症例は成人症例に比して比較的長期の管理は容易である。一方、成人は短期の合併症を克服しても長期経過後には固有の問題が存在するため、長期の管理はしばしば難渋する。
 今回我々は本院で施行した生体肝移植症例と、他施設(国内他大学、オーストラリア ブリスベンQLTS)で移植を受け本院で管理している症例のうち、15年以上生存した30例の問題点を検討した。
 肝移植施行時年齢0.6−60.5歳、男性16例、女性14例、原疾患はCBA7例、C型肝硬変(CLC)4例、PSC4例、PBC3例、FAP3例、劇症肝炎2例、シトルリン血症2例、その他バッドキアリー症候群、バンチ症候群、クリグラーナジャア一症候群、カロリー病、自己免疫性肝炎各々1例づつである。
 生存期間は22年1例、20年5例、19年3例、18年6例、17年3例、16年5例、15年7例であった。死亡例は2例で、CLCは慢性拒絶(18年)、PSCは原疾患再発(16年)で死亡した。
 現在生存中の症例28例中、不可逆的な問題を抱えている症例は8例(末梢神経障害(原疾患不変)3例、原疾患再発2例、肺線維症、慢性拒絶、血液透析)、治癒あるいは問題がコントロールできている症例は8例(胆管吻合部狭窄2例、原疾患再発、原疾患関連疾患、新たな癌、良性腫瘍、総胆管結石、慢性拒絶)であった。
 全く問題ない正常症例は12例であった。
 30例中8例(FAP4例全例、PSC4例全例)で原疾患が長期経過後問題となり、肝移植で原疾患を根治できない疾患がある事が明らかとなった。一方、コントロールできている原疾患再発症例は1例あり、骨髄増殖性疾患に伴うバッドキアリー症候群である。この症例はJAK-2阻害剤の投与により、骨髄疾患の根治を目指して治療中である。また生存しているCLC3例は他疾患を併発しているものの、2例のHCVは消失している。
 これらのことより、肝移植医療は究極的なブリッジユースとして捉え、肝移植により救命出来ている時期に骨髄増殖生疾患やC型肝炎のような原疾患の根治を模索すべきであろう。

 


肝臓移植患者の終末期

*額田 勲(神戸生命倫理研究会):かもがわブックレット129 脳死・移植の行方(かもがわ出版)、34−36、1999

 人の終末期に多少かかわって、人は生きてきたように死ぬ≠ニいうセオリーをおおむね支持してやまない筆者にとって、移植患者の劇的な起死回生と同様にその死もまた大きな関心事である。
 約十年をさかのぼる一九八八年の八月初旬、海外(英国)での肝臓移植後一年をへた患者が今回、心臓移植に成功した大阪大学病院に入院した。拒絶反応を抑制すべく患者は免疫不全状態にコントロールされていたため、健康人にとってなんら害のないクリプトコッカス菌(かびの一種)によって脳髄膜炎に冒されたという診断であった。
 入院直後から意識は混濁し、四肢の硬直、全身のけいれんが繰り返され、病状は肝性昏睡、腎不全と予想以上に急テンポに悪化した。
 治療のため患者の喉は切開され、一般に医療現場で嫌悪されることの多い人工呼吸器がセットされた。さらに鼻腔からのチューブ、点滴類をはじめとして全身に沢山の管が取り付けられ、最近なにかと話題となるところのスパゲッティ状態という有り様であった。
 八月末には全身の血液を洗浄する血祭交換療法、腎不全に対処する人工透析なども開始されたが、そうした治療の回数が増えていくにつれ鼠蹊部、鎖骨下などの血管に針を突き刺すため、満身創痍という無残な印象だけが募るばかりであった。
 もはやなんとしても病状を好転させることはできない。やがて激しい吐血を契機に病状は一気に最終段階へと進み、そうした全身の出血傾向が脳内にもおよび、最後は運命のたわむれというか脳死と覚しき状態となって、入院後七十六日目についに帰らぬ人となった。
 一般に肝臓移植の五年生存率は七〇%とされるが、他方で三、四人に一人は一年以内に死亡、約五人に一人は再移植が必要という厳しい治療法である。
 生存率(期間)という基準でいえば、彼も肝臓移植を受けてから一年三カ月生存したが、最初の移植手術、最後の治療とその約半分の期間を病床で過ごした。奇しくも死への闘病の入院期間は今回の心臓移植患者と同じ日数である。移植成功後の退院という華やかな光景と、彼の末期治療の過酷さとはあまりにも対比的で、はしなくも移植医療の明(可能性)と暗(限界性)を描き出したかに思われてならない。

 


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