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都志見病院(山口県萩市) |
*秋枝 克昌(医誠会都志見病院リハビリテーション科):PEG造設後放置されていたが、嚥下リハビリテーションにより経口摂取可能となった一症例、日本プライマリ・ケア連合学会誌、33(4)、393−399、2010
嚥下リハビリテーション導入の経緯
都志見病院は234床(59床は療養型病床)の急性期病院である。当院が属する医療圏では脳神経外科医が常勤している
唯一の医療機関であるため、急性期の脳血管障害はほぼ全例当院に搬送または紹介される。毎月約15名の新規の嚥下障害患者のリハ依頼があり、嚥下障害患者にスクリーニング検査を行い、精査として、嚥下内視鏡検査、嚥下造影検査を施行している。特に2008年の4月から嚥下リハに積極的取り組むようになり、当院の関連施設である特別養護老人ホームから、嚥下評価を依頼されることも多くなった。施設の入所者は50名で、そのうち、経管栄養(胃瘻:8名、経鼻胃経管栄養:3名)をおこなっている方は11名であった。経管栄養の中で経口摂取を併用する方はいなかっ
た。
最初は当院で嚥下評価を施行し嚥下リハの指導をしていたが、当院に依頼される人所者は、施設側の判断によることが多く、実際にST
が訪問し嚥下評価をおこなうと、嚥下障害の疑いがある入所者が多く存在していることが分かった。また、食事場面を観察すると、嚥下障害の疑いがある入所者に適していない食形態が提供されていたり、誤った食介助方法で食事介助をおこなっている等、施設側の嚥下障害に対する知識不足が明らかとなった。そこで、2009年の4月から更に連携を深めるために、医師・STが定期的に訪問し、嚥下評価・指導を開始した。
症例
89歳女性、病歴は65歳:脳梗塞、75歳:胆石症、78歳:誤嚥性肺炎、85歳:脳梗塞再発、PEG造設、86歳:誤嚥性肺炎。主訴は、リハ担当看護師の嚥下評価依頼(2005年にPEG造設して以来、経ロ摂取をしていない)。
経過
初期評価(2009年8月8日):脳梗塞の既往があり、85歳時に脳梗塞を再発し当院に人院。その際にPEGを造設して以降、経口摂取は中止となった。神経学的所見では、意識レベルJCST−3。
機能的自立度評価法FIMは18点で日常生活動作は全介助レベル。神経心理学的所見では、認知障害もあり、言語機能では、簡単な口頭指示に従うことも不可能であった。自発話は発声のみで、有意味語はみられず、YES−NO反応も不可能であった。嚥下機能では、現在の栄養摂取手段は、PEGのみで水飲みテスト、フードテストは共に、プロフィール4。藤島の嚥下グレード分類は4、摂食・嚥下障害臨床的重症度分類は2であり、ST
の評価・指導の結果、ゼリー1回1品(1日3回)を開始することとした。
嚥下訓練は、冷圧刺激法、顔面・頸部マッサージの間接訓練を中心に行い、ゼリーの直接的嚥下訓練をリクライニング車椅子にて実施した。STは2週間に1度の訪問のため、リハ担当看護師に、嚥下内視鏡検査・嚥下造影検査を一緒に評価し、嚥下リハのアプローチ方法を指導した。また、全職員に対して嚥下の知識を深めていくために、訪問時は摂食・嚥下障害の勉強会や実際の食事揚面で入所者に適した食事介助方法を指導した。
再評価
2009年8月17日に施設で嚥下内視鏡検査を施行した。ファイバー挿入時、右の梨状窩に中等度の唾液・喀痰の貯留が確認された。ゼリーでは、嚥下反射が惹起されると、スムーズに嚥下することが可能であったので、PEGによる経管栄養を併用しながらゼリー1回2品(1日3回)に変更し、コンスタントに摂取可能であれば食形態の変更を検討することとした。
嚥下訓練を継続し2009年10月19日、嚥下内視鏡検査を再度施行した。前回の検査時に比べ、咽頭内の唾液貯留の量が減少していた。ゼリー・ミキサー・全粥で、嚥下反射が惹起されると、スムーズに食道へ送りこまれた。しかし、全粥では、義歯が無いため咀嚼に時間を要したので、ミキサー・ゼリー1回1品ずつ(1日3回)を開始することとした。
2009年11月9日に嚥下造影検査を施行した。咀嚼・咽頭への送り込みが不十分で時間を要したが、全粥・キザミとろみでは、嚥下反射が惹起されるとスムーズに、誤嚥なく摂取することが可能であった。水分は3mlでは、嚥下反射が惹起されるとスムーズに食道へ誘導されたが、5mlに増量すると、顕性誤嚥が認められた。食形態は全粥・きざみとろみ、1回1品ずつ(1日3回)に変更し水分はとろみを付け、経過を観察することとした。
最終評価(2009年11月14日):JCSではT−3で変化なく、機能的自立度評価法は21点に上昇した。言語機能では、簡単な口頭指示・YES−NO反応が可能となり、有意味語の発話が出現し単語レベルの発話(挨拶、自分の訴え)が可能となった。嚥下機能では、水飲みテスト、フードテスト共にプロフィール5となり、食事評価では、リクライニング車椅子にて全粥・キザミとろみを部分介助で摂取可能となった。また、嚥下グレード分類は6、摂食・嚥下障害臨床的重症度分類は3に上昇した。
結語
老人保健施設では、嚥下障害に対する知識・経験不足から、経管栄養患者や、誤嚥性肺炎の既往がある入所者に対し、経口摂取の可否は慎重になりがちである。全国的にも常時リハスタッフがいる施設は少なく、嚥下評価されずに経口摂取可能な方が放置されている可能性がある。
今後、地域の嚥下リハ体制を強化するために、地域の施設職員に対して嚥下障害に関する教育指導を実施する必要がある。
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聖マリア病院
救命救急センター |
*江口 信二:ICU環境で長谷川式簡易知能評価(HDS−R)の改善を認めた一症例、日本救急医学会雑誌、20(8)、678、2009
87歳男性が、肋骨骨折を契機に急性呼吸不全で2ヶ月の長期人工呼吸管理後に、慢性呼吸不全・低栄養・重症貧血・廃用性筋萎縮の治療目的で当院ICUへ搬送されてきた。ICU入室時、起立や歩行不能でBIは25/100点、HDS−Rは5/30点の非常に高度痴呆であった。
毎日、車椅子・起座位8時間以上、毎食後の吊り上げ歩行・トイレ訓練、週6日の朝夕2回の理学療法訓練を積極的に加えたら、杖突と平行棒連続歩行20mのBI40/100点に、HDS−Rは20/30点の軽度痴呆へ改善した。
その後、理学療法を継続しながら一般病棟に転棟したが、ベッド安静が主体となり、車椅子・起座位2〜4時間に減り、BIは40/100点のままだったが、HDS−Rは10/30点以下のやや高度痴呆に逆戻り、積極性も低下した。
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札樽病院 |
*岡本 五十雄(札樽病院リハビリテーション科):認知症と診断されていた症例、The Japanese Journal of
Rehabilitation Medicine、46(7)、456、2009
近隣の6医療機関で認知症と診断されていた患者で、睡眠薬と精神安定剤を中止した後、積極的にリハビリテーションを施行し、ほぼ正常にまで改善した症例を経験した。
76歳女性は2007年12月、右人工関節の再置換術を施行、退院後から物忘れが激しくなり、他医でアルツハイマー病の診断を受けた。易興奮性で家族との同居が困難となり、グループホームに入所。患者はグループホームの入所には納得していなかった。服薬を中止すると不穏になる傾向にあり、薬剤のコントロールも難しくなった。脳外科を受診し、正常圧水頭症の診断で手術し、1ヵ月後に当院に入院した。
入院時の長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)は7点。入院2週間後から、意識低下、座位で頭を垂れたまま全く返事をしなくなった。睡眠薬の影響を考え服薬を中止した。翌日も問いかけに全く反応はなかった。3日目の朝から目覚め、介助で歩行をするようになった。その後、理学療法と作業療法の効果も現れ、徐々にHDS-Rも改善し、2008年12月退院時29点となった。現在一人で高齢者アパートで生活している。
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聖マリアンナ医科大学 |
*中野 信行(聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科):透析導入により明らかな精神症状の改善を認めた高齢者の2例、日本透析医学会雑誌、42(Suppl.1)、731、2009
症例1、77歳男性、血液透析導入前簡易知能評価スケール20程度だが、徘徊、睡眠障害等の周辺症状を認め認知症と診断。症状強く、一時、腎代替療法の導入は困難と考えられたが、血液透析導入後より周辺症状の明らかな改善を得た。
症例2、64歳女性、22歳より統合失調症の既往あり、末期腎不全加療目的に入院前後より、幻覚・不穏状態が著明となり、統合失調症の陽性症状であるのか、尿毒症の影響であるのか鑑別は困難であったが、透析導入後より精神症状は速やかに改善を認めた。
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国立病院機構宮崎東病院 |
*杉本 精一郎:寝たきりの認知障害者に聴神経鞘腫と続発性正常圧水頭症をみとめ、腫瘍摘出術により軽快した1例、臨床神経学、48(8)、575−578、2008
67歳女性は、2004年頃より歩行が小刻みとなり、会話の際に返事に時間がかかるようになった。2006年7月頃より無自覚性の尿便失禁、記憶障害、発語の極端な減少、歩行障害、仮面性顔貌、摂食障害が生じた。2006年8月に精神科と神経内科を受診したところパーキンソン症候群と診断、嚥下障害のため10月に胃瘻造設。家人の希望により11月に当院入院。
入院時には名前をかろうじて応える程度で、長谷川式簡易知能評価スケールは施行できなかった。数日後返事は不能となった。徐々に外界に対して無関心の状態になった。寝たきり状態で下肢痙縮が著明であったため、歩行障害、認知障害、尿失禁の3主徴はあるものの、これらの症状から積極的に正常圧水頭症を念頭に置くのは困難であった。頭部CT検査で脳室拡大、MRI検査で小脳橋角部腫瘍、髄液検査で液圧正常、蛋白上昇、RI脳槽造影で髄液循環の著明な遅延があり正常圧水頭症と診断した。
2007年1月に宮崎大学脳神経外科で腫瘍摘出術を施行、手術4ヵ月後、外界に対する無関心状態は消失し、排尿排便は自立した。会話が可能となり、長谷川式簡易知能評価スケールは28点と著明に改善し、自己の病状について理解ができるようになった。経口摂取が可能となったため胃瘻チューブは抜去した。自覚的には2006年7月末までの記憶はあるが、それ以後から手術終了後までの記憶は失われている。
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福岡市民病院 |
*渡邉 未知:老年痴呆と誤認された高齢者下垂体性副腎機能低下症の1例、内科、94(2)、386−388、2004
71歳女性の主訴は食欲低下、体重減少。2001年3月までは自宅でADLは自立していたが、4月より食欲低下し、半年で13kgの体重減少を認め、10月17日近医に入院した。上部消化管内視鏡検査にて胃体部前壁と後壁に潰瘍を認め、プロトンポンプ阻害薬の内服を開始したが食欲は改善しなかった。入院時より発語はほとんどなく、寝たきりの状態で、処置時には看護師に噛みつくなどの行為があり老年痴呆と診断されていた。家族および本人の希望で当院受診し、高K血症、腎機能障害を指摘され、精査加療目的に転入院となった。
一般検査で判明した低血糖および電解質異常を手がかりに診断。内分泌学的検査では、血中コルチゾール、尿中コルチゾール、尿中17−OHCSすべて低値であった。LHが低値、ACTHは代償性の上昇を認めず、GHは年齢を考慮すると正常と考えられた。FSHは正常、プロラクチンは高値を示し、コルチゾール低値の影響が示唆された。甲状腺ホルモンは正常であった。頭部MRIでは、下垂体の萎縮を認め、後葉のみ同定可能であった。大脳皮質の萎縮は認めなかった。負荷試験による詳細な検査は、患者の同意が得られず施行できなかったが、MRI所見・内分泌学的所見より下垂体性副腎機能低下症と診断した。
下垂体性副腎機能低下症の治療のため、2日間hydrocortisone
50mg/dayの投与を開始したところ、血清K値低下、Na値上昇および食前血糖の上昇を認めた。その後は30mg/dayの投与を行い、治療開始10日目ごろより徐々に食欲が回復し、倦怠感も消失した。寝たきりで意味不明な言葉を発する状態から、理解可能な発言をするようになり、看護師に対する暴力は認められなくなった。食欲増加に伴い自力で食事摂取が可能となり、2週間後には介助にて起立可能となった。その後もリハビリにて歩行器使用での歩行ができるまでADLは拡大し退院となった。
質問に対する応答が可能となったのちに行った長谷川式痴呆スケール(HDS-R)の結果は30点(満点)であり、老年痴呆はないと考えられた。
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滝澤病院 |
*春田 道雄:釣鐘散合黄連解毒湯が重度の痴呆のQOLに効果的であった症例について、漢方医学、18、26(1)、2002
60歳になる前より物忘れが目立つようになった70歳男性は、最近は直近の出来事も忘れている。転倒することも多く、1日20回以上つまずき、診察時にも全身にあざがみられた。長谷川式では0点、大脳基底核に微小梗塞がみられ、CVD+ATDの重度の痴呆と考えた。釣鐘散(チョウトウサン)7.5g/日、黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)7.5g/日を毎三食前に投薬するように指示した。
2週間後、長谷川式では変化はなかったが、ADL上は画期的な改善を認め、介護をしている息子の話では転倒することが激減し日に3、4回ほどになり打撲、生傷が減った。さらに息子の声掛けなどにも反応するようになり、家庭内で介を護するのが大変楽になったと述べた。
釣鐘散も黄連解毒湯も脳血管性痴呆にはある程度の効果が報告されているが、長谷川式で2ケタでないと効果は望めないとされている。しかし、この症例のように長谷川式のスコアが0点で、発症して数年以上を経過していても、ADL上や人間的接触性に関しては、漢方薬によりスコアでは図れないQOLの向上が期待できるのではないかと思われた。
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相模台病院 |
*石井 毅:療養病棟の痴呆患者治療経験、老年精神医学雑誌、10(4)、449−457、1999
アルツハイマー型痴呆の83歳男性、入院時すでに最高度の痴呆。しばらくして身体に緊張がなくなり、ぐにゃりとして、座ることもできない、食事もしない、生きる気力のない状態となった。声をかけてもまったく反応がない。心疾患を疑ったが、その所見はなかった。終末期無気力またはうつ状態と診断し、アモキサピン10mg1錠を投与したところ、しだいに元気になり、笑顔が戻り、食事もするようになり、気力が回復してきた。気分は、現在、うつではなく、冗談も言ったりしている。
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群馬大学医学部付属病院 |
*永井 洋子(群馬大学第1内科):副腎皮質ホルモン補充により痴呆状態の改善を認めたACTH単独欠損症の一例、日本内分泌学会雑誌、70(9)、989−994、1994
69歳男性は10年前に腹痛、気力低下、意識混濁にて近医入院し低Na血症を指摘される。この頃より異常行動などの痴呆症状が発現。6年前にも同様の症状にて近医入院。1993年夏頃より食欲不振、体重減少、12月頃より右下腹部痛も顕著になったため近医入院、副腎皮質機能低下を疑われ当科転科となった。入院時、意識はほぼ清明だが、記銘力の低下や計算力の低下を認めた。顔貌は蒼白、無欲状、下腿に浮腫、陰毛の脱落を認めた。右下肢の深部腱反射低下が観察された。心電図上、洞機能不全状態が示唆された。MRI像にて明らかな梗塞像は認めなかった。内分泌学的検査によりACTH単独欠損症と診断された。
副腎皮質ステロイド補充前においては、長谷川式簡易知能評価スケールにおいて1点であったが、副腎皮質ステロイド(20mg/日)補充開始3週間後においては15−20点にまで改善が認められた。この時点において入院時に認められた洞機能不全状態はすでに消失していた。しかしながら大脳半球全体に血流と代謝の低下が観察された。副腎皮質ステロイド投与量が30mg/日に増量され、増量後約4週間目に大脳半球への血流改善が認められ、長谷川式簡易知能評価スケールでは27点とほぼ正常に近いレベルにまでの改善が観察され、軽快退院となった。
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