くら的2004年ベストもの

本については新刊概刊問わず2004年中に読んだもの。
映画については2004年中に公開されたもの。
ではどうぞ。

*読書編*

<総合>
1.『魔法の石板 ジョルジュ・ペロスの方へ』堀江敏幸著
2.『不思議のひと触れ』シオドア・スタージョン著
3.『贖罪』イアン・マキューアン著、小山太一訳
4.『冬の裁き』スチュアート・カミンスキー著
5.『追悼の達人』嵐山光三郎著
6.『批評の事情』永江朗著
7.『情痴小説の研究』北上次郎著
8.『グラスホッパー』伊坂幸太郎著
9.『ふたりジャネット』テリー・ビッスン著、中村融編・訳
10.『図書館の神様』瀬尾まいこ著

 1は読んでいて何故か涙が零れた。2、9はこれぞ奇想!とでも言うべき短編集。3は好きな作品というわけではないが、嫌〜な話にも関わらず読ませる筆力には感服。4のカミンスキーは出来れば全作品ランクインさせたいくらいの昨年の収穫だった。5,7は文芸批評のようなもので6は批評家の批評のようなもの。どれも著者の視点が光る。8はミステリとしてよりも普通の小説として面白かった。ほんのりと心が温まる10で締めたい。

<ミステリ・ハードボイルド編>
●国内
1.『名探偵 木更津悠也』麻耶雄嵩著
2.『葉桜の季節に君を想うということ』歌野昌午著
3.『チルドレン』伊坂幸太郎著
4.『蛍』麻耶雄嵩著
5.『暗黒館の殺人』綾辻行人著
 1は一見端正な本格ミステリであるにも関わらず、その構造は相当いびつな所が快感。2は著者渾身の一作であろう、大どんでん返しがすがすがしい。3はかちっとよく出来た連作。1作家1作品と思っていたが、あえて入れさせていただいた4は1同様一見シンプルだがどこか歪みを感じさせる所が魅力。5は著者待望の新作長編。著者ならではの世界を見せてくれた。

●国外
1.『ダークライン』ジョー・R・ランズデール著、匝瑳玲子訳
2.『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』ジャン・ヴォートラン著、高野優訳
3.『カーテン』アガサ・クリスティ著、中村能三訳
4.『霊峰の血』エリオット・パティスン著、三川基好訳
5.『老人と犬』ジャック・ケッチャム著、金子浩訳
 1はランズデール節炸裂な傑作。ノスタルジーには留まらない所が著者らしい。2はノワール小説と幻想小説との狭間にあるような不思議な作品。どうしようもないやるせなさがある。3は名探偵ポワロ最後の事件。4は毎度私を泣かせてくれる、チベットを舞台としたシリーズもの。5は老人の復讐話。愛犬家にはお勧めできない。

 

*映画編*

●邦画
1.『誰も知らない』
2.『犬猫』
3.『下妻物語』
4.『イノセンス』
5.『恋の門』
 1はカンヌ主演男優賞も受賞した。非常に労力がかかっていると思う。2は愛すべき一品。等身大の女の子映画と言える。対して3はかなりデフォルメされたガールズムービー。痛快な娯楽作だ。4は賛否は分かれるものの日本アニメーションの一つの極北ではある。5は松尾スズキの初監督作品。勢いがあった。

●洋画
1.『息子のまなざし』
2.『エレファント』
3.『子猫をお願い』
4.『幸せになるためのイタリア語講座』
5.『みなさん、さようなら』
 全てミニシアター系になってしまった。1、2とも奇しくも少年犯罪に関わる映画だが、見た後に色々と考えさせられた。3は韓国映画だが、中ぶらりんな季節を巧みに描いていて身につまされる。4は地味だが心温まる。人生は悪くない。5は人生の終わりに関する映画。シニカルだがユーモアに溢れている。

(2005.1.2)

ベストものボーナストラック 2004年に私が盛り上がったマンガ編*
 
とうとうやってしまった・・・実は読んだマンガの紹介は他の本や映画を紹介するよりも何故か恥かしい。内面がよりさらけ出される気がする。でも昨年は、私にとってのマンガ当たり年だったんでやってしまおう。

 1.『おおきく振りかぶって(1〜2)』ひぐちアサ
 あれよあれよと言う間にハマった高校野球マンガ。私はスポーツが致命的に苦手で、スポーツマンガも殆ど読まない。ちゃんと全巻読んだスポーツマンガは『スラムダンク』のみだ。スポーツマンガを読んでも、題材となったスポーツが面白そうだと思ったことはなく、人間関係ドラマメインで読んでいた。が、「野球って面白いのかも」と思ってしまったじゃーないですか!ワタシ高校野球なんて一度も見たことないんですけど!で、何故私が面白いかもと思ったかというと、キャラクター造型(特に卑屈な主人公)の造型の上手さは勿論、マンガの中でスポーツにおける身体の動きを説明しようとしているからだと思う。私は自分が全く運動オンチなので、スポーツするときの身体感覚は言葉で説明してもらった方が納得できるらしい(体が動く時の感覚が分からないので)。作品の中では部活顧問教師が色々と蘊蓄をたれるが、その蘊蓄の信憑性よりも、説明された「ような気になる」ことの方が、マンガを読む上では重要なのではないかと思う。

2.『PLUTO(1)』浦沢直樹
 いわずとしれた、手塚治虫カバーマンガ。昨年の新刊マンガの中では、話題性では随一ではなかったか。マンガ単行本のTVCMを初めて見た。正直、手塚治虫のアトムよりも面白いと私は思う。主人公が刑事ロボットというところでまずやられ、浦沢版アトムの造形に決定的にしてやられた。もう作者の思うツボですね。浦沢はミステリー的な物語の謎解き部分と、人情話的な部分との兼ね合いが非常に巧みだ。泣かせてやろうという意欲満々なのが見えるのにイヤミがなく、ソフィスティケイトされているなーと思う。連載マンガがこれほど楽しみだったのは久しぶり。2巻が待ち遠しい。あ、さっき本誌連載見たらウランが出ていたよ!でもアトムの方が何か美形度が高い。浦沢わかってるわ〜(何を)。

 3.『団地ともお(1〜3)』小田扉
 小田扉マンガを読んでいると幸せな気分になる。マンガの中で幸せなことが起こっているわけではないのだが、何となく、ゆるーい感じに幸せ。他作品ではややシュールなギャグがかまされているが、本作では比較的ベタか。一昔前風な団地住まいの小学生の日常、というと一見ノスタルジックだが、実際には全然ノスタルジックではないと思う。この面白さは過去を思い起こさせるものではない。どちらかというとファンタジー(というかコントか)だろう。本作に限らず、話がオチているのかいないのかわからない所も持ち味。他にも『男ロワイヤル』とか『マル被警察24時』も良かった。  

4.『DEATH NOTE(1〜4)』
小畑健、大場つぐみ
 近年の週刊少年ジャンプには、常に1本はゲーム的マンガが連載されているが、そのゲーム的マンガの極北とも言える作品だと思う。ルールに対してルールでたたみかけてくるような展開は、読んでいて混乱することもあるが、週刊連載でストーリー、作画共にクオリティを維持しているというのはすごい。ただ、ライトとLが共闘関係を結んでしまうと今後の展開が限られてくるので、どう切り抜けるのかというのが気になる。よく頑張ってるなーというのが正直な感想。しかし小畑の描く女性はエロいですね。

 5.『鋼の錬金術師(1〜9)』荒川弘
 今やスクエア・エニックスのドル箱。ここまで化けるとは・・・。アニメ化の影響で女子ファンが急増(かく言う私もアニメが始まる前に〜と思って買ったクチ)したそうだが、主人公の成長過程を描いたストレートな少年マンガだと思う。月刊ガンガン連載だが、週刊少年ジャンプやサンデーあたりでも違和感はない。少年マンガのドキドキワクワクをちゃんと与えてくれるマンガ。ちょっとコマ割が細かすぎてもったいないなー(もっと引っ張れるところでもサクサク話をすすめてしまうので)というところがあったが、最近は上手いこと盛り上がりをひっぱるようになっていると思う。ただ、TVアニメの方がある意味狂気を孕んでいた(笑)ので、そちらでお腹いっぱいになってしまった感もあり。余談だが、単行本のオマケマンガを読むたびに、この作者は本当にマンガが好きなんだなぁと思う。わざわざそんなところまで・・・。

   他には五十嵐大介『魔女(1)』、志村貴子『放蕩息子(1〜3)』『ラブ・バズ(1〜2)』、山本英夫『ホムンクルス(1〜4)』、望月峯太郎『万祝(1〜4)』、漆原友紀『蟲師(1〜5)』、雁須磨子『のはらのはらの』、記伊孝『犯罪交渉人峰岸英太郎(1〜3)』、中野シズカ『刺星』あたりがそこそこ自分内で盛り上がった。少女漫画率がいつになく低い年だったと思う。

 (2005.1.6)

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