8月

『葉桜の季節に君を想うということ』
  歌野昌午著
 私は桜の紅葉は好きですが。読んでいてある部分にずっと違和感を感じていたのだが、終盤でああそうか!と納得。「このミス」1位にも納得。終盤まで謎らしい謎がなく、どのへんがミステリなのかと思っていたが、そういうことねー。賛否両論な作品だが私は賛の方で。本格ミステリだと思うし、結構いい話じゃないですか(そうか?)。

『グラスホッパー』
  伊坂幸太郎著
 帯のコピーはちょっとあざとすぎる。そんなかっこいい話じゃないし。新米殺し屋・鈴木、女子供も差別しない殺し屋・蝉、「自殺させる」殺し屋・鯨。3人の人生が交差する・・・のだが、正直その絡み合い方が強引だった気がする。相変わらず複数方向からのストーリーテリングが上手いのであっさり読んでしまうのだが。殺し屋が主人公なので当然死人が出る。なので今までの伊坂作品ほど爽やかではない。が、後味がそれほど悪くないのは著者の強みか。

『キマイラの新しい城』
  殊能将之著
 探偵石動戯作が、750年前に古城で起きた殺人事件と現代に起きた殺人事件の両方に挑む・・・のだが、今回も全く役に立ちません!密室講義やってる場合じゃないっすよ先生!「あの方」の登場で、シリーズとしての型が一つ決まったのだろうか。それにしても毎度毎度何か上手いことかわされている感じが。750年前の人の視点で現代社会を見た描写が色々と出てくるのだが、これが面白い。著者のユーモア感覚はやっぱりちょっと歪んでいると思う。六本木ヒルズに行ってから読むといいかも。

『名探偵 木更津悠也』
  麻耶雄嵩著

 名探偵の条件とは何か。名探偵木更津と作家香月が4つの事件を追う。この2人はエリザベス・フェラーズのトビー&ジョージの進化形と言えるだろう。探偵小説における探偵の機能とは何なのかという問題を考えさせられる。一見地味だけどこれはすごい。ミステリとしてのパーツ自体はオーソドックスなのに配置がすごくいびつ、にもかかわらず謎に対する解は端正、なのでその捩れをうっかり見過ごしてしまいそうだ。今度著者の新刊が出たら、どんなに値段が高くても買ってしまいそうな気がする。自分の足場を崩しかねないようなことをデビュー以来ずっとやり続ける姿勢には頭が下がる、というか背筋が冷たくなるものがある。

『Q.E.D〜ventus〜鎌倉の闇』
  高田崇史著
 前作に引き続き、奈々ちゃんの妹・沙織ちゃんが加わったタタルご一行様。今回は古都鎌倉に秘められた闇を切る!何とカラーマップ付き!散策しながらのレクチャーなので酒は控えめです(控えてるだけでちゃんと飲むんだけど)。今回も高田流裏日本史が繰り広げられて興味深い。また鎌倉に行きたくなった。今回は鎌倉の謎の構造と、殺人事件の構造がちゃんとリンクしている感じ(私の母は鎌倉と殺人事件と関係なくって可笑しい〜とウケていましたが。構造としてはリンクしているが、実際問題としては双方勝手に解決される感じ)。

『各務原氏の逆説』
  氷川透著
 いきなりMr.Children『HERO』の歌詞が引用されているので何故よりによって氷川が?!そんな爽やかな人じゃなかったはず!とびっくりしたのだが、読み終わると納得。端正な本格ミステリであると同時に著者初の学園青春小説になっていて、好感度は高い。事件の解決とは別にある仕掛けがしてあるのだが、まんまと騙された(この仕掛けが必要あったかどうかは微妙だが)。もしかして主人公がリレーされるシリーズになるのかな?シリーズ続編も近々登場するそうで楽しみ。

『螢』
  麻耶雄嵩著
 意外にも(?)本当にオーソドックスな本格ミステリ。舞台からして嵐の山荘という王道中の王道。謎解きもあっさり目で正直拍子抜け・・・と思ったのだが、そのトリックの配分具合がどうも妙な感じ。ネタバレになるので中途半端な書き方しかできないが、真犯人や殺害方法へ直結するトリックよりも、その周辺の仕掛けの方が凝っているというか地味に緻密というか・・・。一見ベタなのだがどうも妙なバランスになっている気がする。

『ジェシカが駆け抜けた7年間について』
  歌野晶午著
 ・・・そう来たか。1アイディアのみによるトリック(反則だ!とご立腹の方も多いでしょう)だが、そのアイディアを成立させる為の構成が緻密に作られており、何となく途中でトリックが分かってしまったものの、ある種の美しさを感じた。私的にはアリ。ミステリとしてだけでなく、マラソン界の内幕小説としても結構面白い。ただボリュームが少なくてあっさり目だったので、この業界小説部分をもっと膨らませれば、結構な「泣き」小説に出来たのでは。『葉桜〜』に引き続きタイトルのセンスが良い。

『狂乱廿四孝』
  北森鴻著
 第六回鮎川哲也賞を受賞した、著者のデビュー作。明治3年、画家・河鍋狂斎が描いた幽霊画が歌舞伎界に殺人事件を引き起こす。実在の画家である狂斎の名に惹かれて手にとったのだが、他にも実在の人物が色々出てきて、このあたりの時代背景を知っているともっと面白かったかも。ちょっと登場人物が多すぎる、特に探偵役が多すぎるのではと思ったが、それがちゃんと伏線になっていた。文章が若干硬い(そしてちょっと恥かしい・・・)のがデビュー作らしい。構成はちょっとごちゃごちゃしていた。絵そのものに語らせるという導入部分も、あまり活きていないと思う。
 

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