2月

『郊外へ』
  堀江敏幸著
 郊外が持つ良い意味での田舎ぽさと、悪い意味での画一さは、フランスでも共通なのか。著者はその中途半端さに惹かれるようだ。著者の散策の合い間に色々フランス文学の題名が出てきて、読んでみたくなった。が、個人的には郊外、特新興住宅地は苦手である。巨大な郊外型低家賃住宅に住む若者達が通う高校での、文章教室の話には、共感する所があった。「青白赤で塗られたRFRにのれば、たった7分でパリに着くって?けれどパリにむかって走るこの青と、白と、赤に貫かれた郊外は、ぼくを離れはしないんだ」。

『魔法使いハウルと火の悪魔』
  ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、西村醇子訳

 ベテラン作家のはずなのに、何でこんなに読みにくいんだろう・・・。色々なエピソードやアイテムを詰め込みすぎて、きゅうきゅうな感じ。オチも正直苦しい。もっと整理できると思うんだけどなー。ヒロイン・ソフィーが老人に姿を変えられると、開き直って地の性格が出てしまうというのは面白かったけど、老人に失礼ではなかろうか(笑)。

『密猟者たち』
  トム・フランクリン著、伏見威蕃訳

 アメリカ南部を舞台とした小説というと、最近はマキャモンやランズデールを思い浮かべるが、やはり独特の魅力のある土地なのか。この著者も南部出身。身体にしみついたものを形にしたような短・中篇集だった。淡々としているのに、その下に粘着質な狂気のようなものが透けて見え、スリリングで渋く上手い。密猟者兄弟と密猟監視官との攻防を描いた表題作は、アメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞を受賞している。他、著者の体験に近いのかと思わせる「トライアスロン」「青い馬」も、もの悲しくて良い。

『ザ・ギバー 記憶を伝える者』
  ロイス・ローリー著、掛川恭子訳

 少年ジョーナスが暮らすコミュニティーでは、出生率も将来の職業も、全てがコントロールされており、生活はとても安定している。そして人類の過去の記憶は全て、「記憶を伝える者」に委ねられていた。SFではよくある設定だが、負の記憶を1人に背負わせてしまうというところが大変嫌な感じ。コミュニティーの生活にも、思わずうへぇと言いたくなる(「あなたの謝罪を受け入れます」ってうへー)。ラストは、ジョーナスは死んでしまっている感じだし、何ともいえず不愉快。

『後巷説百物語』
  京極夏彦著
 巷説シリーズ完結編。時は明治。翁となった百介によって物語が語られる。京極堂シリーズが付き物を「落とす」話なら、こちらは「憑ける」話である。「お化けは嘘だけれども、居るのです」。しかし近代は妖怪には住み難い世の中らしい。これまでの2冊と比べると、どこか物悲しさが漂う。ちなみに「五位の光」の由良家というのは、あの由良家である(分かる人には分かるよね)。やはり鳥か・・・

『海辺の王国』
  ロバート・ウェストール著、坂崎麻子訳
 戦中一人ぼっちになった少年ハリーが、様々な出会いを経て生きていく。ごく短い期間に自分の中の世界を構築し、変化していく少年。その築き上げた世界が否定されてしまうラストは皮肉だ。今までの自分とは変わってしまったことが、周囲からは(それが家族であっても)分からないし受け入れられない。こういうことはよくあると思う。この先彼は、本来の自分としては生活できないんだろうと思うと、やりきれない感じがする。

『本人の人々』
  南伸坊著

 著者(?)が様々な有名人に扮装し、その有名人になりきった文章を書く。全編にやにやしっぱなしだった。元の顔は似ても似つかぬのに、なんだかそれらしく見えてくるのが不思議だ。素直に似ているものより、微妙(もしくは全くにていない)ものの方が笑え、しかも本人のニュアンスが出ている気がする。個人的にお気に入りなのは井上陽水。写真はもちろん、文章の論旨のズレかたが正に陽水。

『零崎双識の人間試験』
  西尾維新著

 戯言シリーズ番外編で、「いーちゃん」は出てこない。今回のメインキャラクターは、「クビシメロマンチスト」に出てきた殺人鬼・零崎人識の兄・零崎双識。「零崎」がどういうものかが明らかにされる。そういうわけで、実は兄弟妹の家族愛小説なので、兄弟姉妹萌な皆さんは読んでみるといい(どういう勧め方だ)。番外編なのでミステリではない。多分。意外と普通に面白かった。

『8つの物語 思い出の子どもたち』
  フィリッパ・ピアス著、片岡しのぶ訳
 コミカルなものから悲哀を含んだものまで、子ども達を主人公とした8つの短編。「ロープ」の川でのロープ遊びをやりたくない(のに、おばあちゃんは子供は外で元気に暴れるものと思い込んでいる)少年の気持ちは良く分かる。何でわんぱくな方が子供らしいと思われるのかなー。そうじゃない子供もいっぱいいるはずなのに。最後の友人の気遣いでちょっと救われた。ちなみに、著者お得意の幽霊話もちゃんとある。

『丘の家、夢の家族』
  キット・ピアソン著、本多英明訳
 9歳のジーナは母親と2人暮らしだが、生活は貧しく、親からはほったらかしにされている。ある時目覚めると、自分が夢見ていたような家族の一員になっていた・・・。リーナは辛い現実から逃げる為に読書にのめりこむ。著者はこれを否定はせず、ある人物にこう言わせる。「だけど、忘れないでね。大人が、あなたがどう暮らしていくか決めるとしても、あなたの心のなか−あなたにとってもっとも大切なところは、あなただけのものなのよ」。小説としては悪くはないが、「夢の家族」のパートが長すぎてバランスが悪いと思う。

『パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない』
  ジャン・ヴォートラン著、高野優訳

 ミステリーであるが、郊外文学とでも言いたくなる。花嫁殺人現場に残された署名を見て、刑事シャポーは愕然とする。「ビリー・ズ・キック」という名前は、彼が幼い娘ジュリーのために作ったお話の、登場人物の名だったのだ。パリ郊外の団地に登場人物たちは住んでいるのだが、その生活にうんざりし、覗きやら売春やら殺人やらに興じている。登場人物がちょっと狂った人ばかりなのに愛着を感じるのは、彼らが出口のない日常の突破口を探って、必死だからかもしれない。半分妄想に足を突っ込み、暴力的な部分も多いがどこか悲しさが漂っている。個人的にとても好きになった作品。

『七人のおば』
  パット・マガー著、大村美根子
 新婚のサリーの元へ「おばが夫を毒殺して自殺した」という知らせが届く。だがどのおばなのかは分からない。いったい誰が?究極の安楽椅子ミステリ。延々と事件に至るまでの背景が語られ、最後数ペ−ジであっという間に解決される、かなり変化球な作品。7人のおば全員が、女性にありがちな嫌な面を代表していて、中々に恐ろしい。放っておけばここまで事態は悪化しなかったはずなのに・・・

『四日間の奇跡』
  朝倉卓弥著
 第一回「このミステリーがすごい!」大賞・大賞金賞受賞作。脳に障害を持つ少女と、ピアノを断念せざるを得なかった青年が、ある診療所で不思議な体験をする。新人とは思えないくらい文章がこなれている。が、感動作と銘うたれる程の感動はない。あまり意外性のない話だったし、何よりキモとなるネタが、ある大ヒット小説と被っているのが致命的。このネタが出た時点でオチがある程度読めてしまう。ネタが被っているということで受賞の際にもかなり審議されたそうだが、将来性が買われたか。まあ、読みやすいことは読みやすい。筆力はそこそこあるのに、主人公の青年がどんな顔をしているのか見えてこない所は不思議。

『夜の静寂に』
  ジル・チャーチル著、戸田早紀訳
 「風の吹くまま」に続く、グレイス&フェイヴァーシリーズ第二弾。ロバートのステキなお兄ちゃまっぷりが強化されているような・・・。ほのぼのコージーミステリではあるが、舞台が大恐慌下のアメリカで第二次大戦の影もちらつき、前作ほどの軽快さはなかった気が。でも時代背景がきちんと書かれている所は面白い。そろそろルーズヴェルトが大統領になりそうだ。

 

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