10月

『ヘルボーイ』
 第二次大戦末期、ナチスが魔界へのワームホールを開こうとしていた。怪人ラスプーチンによって魔界から人間界に呼び出された赤ん坊は、連合軍のブルーム教授(ジョン・ハート)によって救出され「ヘルボーイ」(ロン・パールマン)と名づけられた。そして現代。成長したヘルボーイはFBIの超常現象捜査局で、日夜魔物と戦っていた。頑張れ負けるなヘルボーイ!自分の名前が安直なのは気にしちゃダメ!
 アメリカでは有名なコミックの映画化だそうだが、哀しいかな日本では知名度がない為、配給会社ももう戦力外と見ているのか、たいした宣伝がされていない。日本公開後の観客動員数もいまひとつみたいだ。だが、気楽に見られる娯楽作としては悪くないと思うので、この状況はちょっと勿体無いかも。
 ヘルボーイや彼の相方である半魚人エイブ・サピエン(ダグ・ジョーンズ)、超能力者の女性リズ・シャーマン(セルマ・ブレア)らのキャラが立っていて、キャラクター映画としてはなかなか美味しい。ヘルボーイは、外見は筋肉隆々なおっさんで、タフで孤独なヒーローを気取っているのだが、片思い中のリズに対してはオロオロしてしまっててんで情けない。好きな子が他の男と外出しているのをこっそり尾行なんて、お前どこの中学生男子だよ!実は小動物好きで、猫60匹と同居しているというのも可愛い。クールな知性派で、ちょっととぼけたエイブや、トラウマを抱えた美女・リズ、そして敵キャラであるラスプーチンらもなかなか面白い。
 お話自体は、正直、「えっ、どうしてそうなるの?」「それ必要なの?」「ていうかそれ何処だよ!」という所が多々ある大雑把かつ王道なものだが、キャラを重点に見れば、そんなに気にならない。監督は原作コミックのファンだそうで、原作に対する愛情が感じられる。この手の特撮系ヒーローもののお約束をきちんと周到していて、「それやっとかないとね!」という楽しさがあった。エンドロールは少なくとも途中まで見よう。オマケ映像あり。

『IZO』
 安穏とした日常、そして腐敗した世界に天誅を下す為、一人の男が蘇った。その名はIZO。通称人斬り以蔵(中村一也)が蘇り、時空を越えてあらゆる権力を斬り付ける!予定調和を完全無視し映画の文法を突き崩す、三池崇史監督の怪作。
 キャストが驚異的。主役のIZO役に無頼派お騒がせ俳優の中村一也を初め、遠藤憲一、寺島進、松田龍平、美木良介、石橋蓮司、内田裕也、ビートたけし、岡田真澄、樹木希林、原田大二郎、大滝秀治、緒方拳、桃井かおり、松方弘樹。更に及川光博、ミッキーカーチス、はたまたボブサップに魔裟斗、自ら出演して歌う挿入歌に友川かずきと、近年希に見る豪華さ、幅広さである。ほんの数分(しかもあっさり殺される)の出演時間の人が多く、よく出てくれたなーと感心してしまった。
 しかし、これだけのキャストを確保したにも関わらず、いわゆる名作にしようという意図が全く見られない所が却って清清しい。全編IZOが人を斬って斬って斬りまくるだけ、加えてアクション映画というには殺陣が妙にもったりとしており動きが生々しい為、爽快感はない。血も肉も飛びまくりなのでお子様や気の弱い方には進められない。ストーリーのあらすじを読むと娯楽作品ぽいのだが、娯楽要素は薄いと思う。だらだらと斬りあいが続くので、私も正直、途中で眠くなってしまった。
 体制に対する反逆の象徴としてのIZOという存在、そして安易な予定調和に満足する映画ファンへ天誅、という名目があるようだが、それはハッタリではなかろうか。単に監督がやりたいことをやりまくっちゃいましたよ、という感じで、お客はどんどん置いていかれる。とりあえず勢いはわかるのだが、なんだかなぁ。見て得した気にならないんだよなぁ。せめてもうちょっと短ければ・・・。友川かずきの歌が個人的に苦手で耳障りだったのが致命的だった。斬新な映画を作ろうとして、却ってアナクロになってしまった感じ。

『トルク』
 久々にこめかみが痛くなるくらい頭が悪い映画を見たよ・・・!「あいつバッカだよなー」と言われつつ嫌われはしない、小中学生の時にクラスに一人はいたお調子者男子生徒的な映画(なんだそれ)。
 半年前麻薬密売容疑をかけられて姿を消していたケアリー・フォード(マーティン・ヘンダーソン)が、突然かつての恋人シェインの前に現れた。実はフォードは街を去る前、バイカーギャングのリーダー・ヘンリーからバイクを預かっていた。実はその車体には大量のドラッグが隠されていたのだ。さっそくヘンリーは預けたバイクを返せと迫ってくる。更にヘンリーはフォードに殺人容疑もなすりつけた。フォードはヘンリーと決着をつけるべく“アプリリア/RSVミレ”で飛び出した!
 そもそも麻薬密売容疑を掛けられてタイに逃亡ってなんだよ!どう考えたって怪しまれるじゃん!「彼女に迷惑をかけたくなかったんだ」って、逃げられた方が大迷惑だ!シェインが怒るのも無理ないよ!と冒頭から抱腹絶倒。しかもフォードとシェインがすぐにヨリを戻すんだこれが。あれだけ迷惑かけられたのにいいのかシェイン!
 わかりやすいライバルにわかりやすく因縁をつけられわかりやすく対決。わかりやすい悪役が登場してわかりやすく策略が廻らされわかりやすく決闘でわかりやすく正義は勝つ!な極めてわかりやすい映画。つっこみし放題である。とにかく主人公の頭の悪さにはびっくりなのだが、全くつまらない映画というわけではない。その無理無理な感じがかえって面白い・・・というか笑ってしまう。
 そして、この映画の真の主人公はあくまでバイク。一般的にアクション映画で見られるような、カーチェイスや爆発やどつきあい、はては走行中の電車の上での格闘などを全てバイクでやってくれる。これはなかなか見ていて楽しかった。殆どアクロバットの域に達している。私はバイクにはあまり詳しくないのだが、バイク好きには嬉しいレアな車体も見られるらしい(ただ、バイク映画にしてはバイクの車体そのものをちゃんと観察できるシーンが少なくて、そこが惜しい)。フォードが最後に乗るバイク“YK2”は、ヘリコプター用エンジンを搭載した、世界に10台しかない最速マシンだとか。でもそんなもんで街中を走れるのか?!というかノーヘルで乗って大丈夫なのか?!

『茶の味』
  春野家は山に囲まれた田舎町に住んでいる。カウンセラーの夫(三浦友和)の得意技は催眠術。妻(手塚理美)はアニメーターへの復帰を目指し、かつてカリスマアニメーターだった(らしい)舅(我修院達也)の指導の元、復帰作を制作中。中学一年の長男(佐藤貴広)は片思いだった女の子が転校してしまいがっくりとしている。小学一年の長女(坂野真弥)は、巨大な自分自身が見えることに悩んでいる。ある日長男の中学に転校生が来た。長男はこの美少女(土屋アンナ)に人目ぼれ。しかも彼女が自分と同じ囲碁部だと知って有頂天だ。夫は妻が仕事に夢中なのがなんとなく気に食わない。おじいちゃんはボケているのかいないのか常にマイペース。長女は逆上がりの練習を始めた。そんな一家のごく普通(なのか?)な日々。
 いきなり少年の頭から電車が走っていったり、巨大な女児が出現したりとビジュアルはシュールだが、ストーリー自体はいたってストレートなホームドラマだ。監督は『鮫肌男と桃尻女』『PARTY7』の石井克人。前2作に比べると、奇をてらわない部分、例えば恋する少年の浮き足立った言動だとか、仲の良い妻と義父に対してちょっと複雑な気持ちを抱く夫、久しぶりに会った元彼女との見ていていたたまれないくらいぎこちない会話等、日常のささやかな部分の表し方が格段に上手くなっている。もしかしたら、こういう可笑しくも情けない(本人にとっては一大事だけどはたから見ていると可笑しいとか)日常的なものを描く適性のある人なのかもしれない。今のところ、監督作品としては本作がベストと言えるだろう。
 映画の随所には石井作品らしいオタク的な要素も健在。多分イベント帰りでコスプレ姿のまま電車に乗っている2人組とか、その2人がフィギュアを使ったジオラマ撮影(だんだん規模が大きくなる)をしているとか、あの庵野監督がアニメ監督役で出演しているとか、思わずにやりとさせられた。過度にオタクではなく、オタクっぽいニュアンスをにおわせる程度に留めるところがポイントか。
 石井作品の常連である我修院達也をはじめ、役者も良い。手塚理美演じる妻が我修院達也演じる舅と、制作中のアニメ内のヒーローの決めポーズについてああでもないこうでもないとそれぞれ実演している所が実におかしい。長男役の佐藤貴広は、特にかっこよくはない普通の中学生を公演していた。ぼっちゃん顔なのだがスタイルは意外に悪くなく、動いていると見栄えがすると思う。「美少女をワルから守るオレ」を無言でシュミレーションする姿は大変恥ずかしくて素晴らしい。また、妻の弟役の浅野忠信がいつもながらそこにいるだけでいい味を出している。その他にも、浅野の同僚が武田真治だったり、アニメスタジオのスタッフに草薙剛が混じっていたりと、意外なゲストがいる。  
 最後、舅の彼ならではの置き土産がなかなか気が利いていて、ちょっとホロリとさせられる。じんわりと幸せな気持ちが湧いてくる作品だった。

『SURVIVE STYLE5+』
 SMAPがガッチャマンに扮したNTT、永瀬正敏が布袋寅泰に追われるサントリー「BOSS」(シリーズ後半ではなんと他企業のCMとのコラボも)、小便小僧が軽妙に会話を交わすサントリー「DAKARA」など、誰もが一度は目にする数々の名CMを手がけた、CMプランナー多田琢。そして多田との仕事を多く手がけているCMディレクター関口現。この2人が映画に初チャレンジした。それが本作『SURVIVE STYLE 5+』だ。CMと同様、色彩がビビッドで美術面はかなり凝っている。映画のストーリーというより、絵的な部分でのインパクトの方が強いかもしれない。キャスティングも多田とはCMでおなじみな浅野忠信をはじめ、小泉今日子、岸辺一徳、阿部寛、麻生祐未、千葉真一など、そうそうたるメンバーが揃った。役者としてのキャリアとプライドをかなぐり捨てた、しょうもない役作りをとくとご覧あれ。
  5つのエピソードが入れ替わり立ち代わり写される。1:殺しても殺しても絶対死なない妻(橋本麗華)と夫(浅野忠信)の死闘、2:CMプランナー(小泉今日子)とその愛人の催眠術師(阿部寛)、3:催眠術をかけられてハトになってしまった会社員(岸辺一徳)、4:催眠術師の殺害をCMプランナーから依頼された殺し屋(ヴィニー・ジョーンズ)と通訳(荒川良々)、5:会社員の住む住宅地を荒らしている空き巣3人組(津田寛治、森下能幸、ジェイ・ウェスト)。それぞれのエピソードがどこかでつながっている。一つ一つのエピソードは非常にバカバカしいのだが、役者が熱演している。特に、異様に濃厚な催眠術師(性格悪い)を演じた阿部寛と、テープレコーダーにCMのアイデアを吹き込んでは一人で悦に入るCMプランナーの小泉今日子(これまた性格悪い)は、これまでのキャリアを壊しかねない気持ち悪さで、正に捨て身。ハトになった岸辺一徳もかなりの見物なのだが、この人は何をやってもプロっぽいから・・・まあ皆さんご苦労様という感じだ。
 ただ、映画としてどうかというと、良くも悪くも小ネタの連続という感じで、その時その時に客をひきつけるフックはあるのだが(映像は思い切りがあって面白いし)、見終わった後には「・・・ふーん」という感じで今一つ印象に残らない。それこそ出来のいいCMを数十本連続で見ているようなもので、全体の印象は散漫になってしまった。いきなりの長編映画はやはりキツかったか?一つ一つのネタは面白いだけにもったいない。
 たたみかけるように破茶目茶な展開で押し切るのかと思ったら、ラストには意外にも心温まる?展開が。ハッピーエンドかどうかは微妙なものの、全て吹っ切れてしまうような異様な絵ヅラですよあの2ショット・・・

『エイプリルの七面鳥』
 ニューヨークで黒人のボーイフレンドと暮らすエイプリル(ケイティ・ホームズ)。母親(パトリシア・クラークソン)がガンで余命幾ばくもないことが判明し、感謝祭に疎遠になっている家族をアパートに招くことにした。慣れない料理に悪戦苦闘し、いざ七面鳥を焼こうとしたらオーブンが壊れている!エイプリルは使えるオーブンを求めてアパート中をさ迷うことに。一方、エイプリルの家族は長女からの招待に乗り気ではなく、不承不承車で家を出る。実はエイプリルは一家のお荷物的存在で、忌み嫌われていたのだった。果たして彼らの感謝祭の行方は?
 エイプリルは外見はパンク少女系。彼女の家族は典型的な中流保守派なので、娘の破天荒が許せない。妹や弟から嫌われるのはよくある話だが、両親からこうも嫌われる娘の話というのも珍しいのでは。何しろエイプリルに関する良い思い出が一つも思い出せないというのだから相当のものだ。しかし、具体的に彼女のどういう所が問題なのかということは、実は映画を見ていても良く分からなかった。エイプリルは料理はド下手(手順がひどすぎる!)だが、とりあえず何とか生活しているし、彼氏とのやりとりや、いつもは殆ど話もしない近所の人に助けられて、思わず微笑む様子は、そんな悪い子には見えない。もっとも話が進むうちに、子供の頃には妹弟の髪の毛に火をつけたり、万引きしたり、最近ではドラッグにはまって薬の売人とつきあっていたりという問題が判明していく。しかし、親から忌み嫌われる程のことだとは思えなかった。
 逆に、彼女の母親の方が、普通の人ではあるのだが性格に結構問題があるのではないかと思えてきた。この母親、「こうでなくては」という観念がかなり強い人らしく、エイプリルの素行不良が許せない。二女はまじめな(時々ウザくなるくらい)よく気のつく「良い子」なだけに、エイプリルの不良っぷりは更に際立つ。でも、親の接する態度が違っていれば、エイプリルもそんなに荒れなかったんじゃないの?そんなに許せないことだったの?と問いただしたくなってしまう。
 エイプリルを助けてくれる、人種も年齢も全く違う(時には言葉も通じない)アパートの住民達が個性がそれぞれで面白かった。オーブンを貸してくれた嫌みかつ下心あり気な男の、ある「秘密」には爆笑。よく見ていないと見逃すので注意を。あたたかい気持ちになれる、幸せな映画だった。監督のピーター・ヘッジズは、ラッセ・ハムストルム監督作品の脚本を手がけていた人。お話の組み立て方は流石に上手く、ある意味上手すぎてコント的にも見えた。ともあれ、楽しい映画ですよ。やはり人間寛容でないと(笑)

『CODE46』
 環境破壊が進み、人類は高度に情報化が進み、管理された「内側」・都市部と、荒廃した「外側」砂漠地帯に二極化されていた。内外への行き来には、パペルと呼ばれる許可書が必要とされている。偽造パペルの調査の為香港の印刷所を訪れた調査員ウィリアム(ティム・ロビンス)はマリア(サマンサ・モートン)が犯人だと目星を付ける。しかしマリアに恋したウィリアムは、嘘の報告をするのだった。しかし2人の関係は、生殖を管理する法律「CODE46」に抵触するものだった。
 CODE46とは、同じ遺伝子を持つ人同士の生殖を禁止する法律だ。クローン技術が発達した社会という設定なので、血縁がない人でも自分や親族のクローンやその親族として共通の遺伝子を持っているかもしれないということで、まあ納得がいく。納得がいかないのは、何で二人が恋に落ちたのかということだ。その恋に落ちていく過程が全く描かれていないので、妙に唐突な感がある。単なるペラッペラな不倫話にしか見えませんよ。しかも片方にとってだけ都合がいいのなー。
 そもそも障害のある恋愛話がやりたいんだったら、SFっぽくする必要ない。CODE46とか持ち出さないで普通に近親相姦なりなんなりにしとけばいいじゃん。ていうかそもそもちゃんと避妊しとけ!
 先進国と第二世界の対比みたいなテーマを盛り込みたかったらしいが、単にエキゾチックな風景が撮りたかっただけでは。テーマ後づけにしか見えない。この程度の作品だったら、ティム・ロビンスとサマンサ・モートンという超演技派を起用する必要は全くなかったのではないか。もっと低予算で作れたのでは。ウィンターボトム作品は『ひかりのまち』あたりは好きなんだが、最近迷走中でこの先が不安だ。映像のセンスとしては好きなのだが、映像だけダラダラ垂れ流されるので眠くなってしまった。相変わらずサントラのセンスだけはいい所がまた小憎い。

『お父さんのバックドロップ』
 お父さんも頑張っているんだよ(しかしその頑張りが報われることは少ない)。
 弱小プロレス団体「新世界プロレス」のプロレスラーの下田牛之介(宇梶剛士)と小学生の息子・一雄(神木隆之介)は、牛之介の父親が暮らす大阪の古いアパートに引っ越してくる。一雄は父親がプロレスラーであることが恥かしくてしょうがない。プロレス巡業に行っていた父親が、母親の危篤にも帰ってこなかったことも一雄の中ではひっかかっており、父親との溝は深まるばかり。そんな中、経済的に苦しくなった「新世界プロレス」の為、牛之介はヒール(悪役)に転向するのだった・・・
 牛之介と一雄は性格が全然違っていて、なかなかかみ合わない。でもこういう親子って結構多いんじゃないだろうか。牛之介が一雄と何とかコミュニケーションをとろうとキャッチボールに誘い、「無理にお父さんやらなくてもいいよ!」と一雄が怒ってしまう様子など、牛之介が一生懸命なだけになかなかイタイタしい。でもこういうお父さんて絶対いるでしょ〜。一雄は一雄で、大阪の小学校には馴染めなくて周りから浮いて苛められるし、死んだお母さんは恋しいし、色々と大変だ。父と息子の、お互いどう接していいのかわからないような所がもどかしくもおかしい。
 牛之介役の宇梶剛士は、この役の為に体重を12キロ増やして身体を作ったそうだ。終盤のプロレスシーンには気合が入っている。息子と接する時の自身なげな言動とは対照的でおかしい。一雄役の神木隆之介は5歳でデビューしただけあって芸達者。そしてルックスがとにかく可愛い。いやー全く似ていない親子だ(笑)。そして南果歩が何か大切な物を捨てているかのごとき演技を見せているのに注目。カ、カビって・・・。更に原作者である故・中島らもがゲスト出演している。床屋のおやじ役なのだが、明らかに常人でないオーラが・・・。
 しかし、お父さんというのは、お母さんと比べると実に報われないものだと思う。一雄は明らかにお母さん子だし、「お母さんはいつも優しいだけじゃなくてどなったりぶったりもしたけれど」やっぱり恋しいと漏らす。こういう感情は、お父さんに対してはなかなか持ってもらえないことが多いのでは。牛之介は一雄の為、最後ある賭けに出るのだが、そこまでやらないと子供の尊敬は得られないのかなー。体張らないと駄目なのか。お父さんという存在の悲哀をひしひしと感じてしまった。しかしお父さんが子供にとってヒーローになる瞬間というのも絶対にあるはずだ。負けるな全国のお父さん!

『恋の門』
 石で漫画を描く自称「漫画芸術家」蒼木門(松田龍平)は、コスプレイヤーでミニコミ系アイドル漫画家の証恋乃(酒井若菜)と恋に落ちる。しかし漫画好きとはいっても、二人の話は全くかみ合わない。微妙な2人の関係にかつて人気漫画家だった漫画バー店主・毬藻田(松尾スズキ)も加わり、妙な漫画対決まですることになっちゃって、この恋(と漫画)の行方はどうなる!?
 巷では「オタクの恋愛映画」的とらえ方もされているらしいが、実際にはオタクなのは恋乃のみ。門はそもそも普通のマンガを読んだことはない(描こうと思えば描けるらしい)し、アニメにもゲームにも興味なし。恋乃は自分のことを分かってもらおうと、好きなアニメやゲームキャラの説明をしたりファンイベントに誘ったりするのだが、門は理解できない。それなのにお互い恋愛感情はあるのだから厄介なのだ。オタク的なディティールがちりばめてあるものの、話の本筋は違った文化的背景を持っている二人がどうやって歩み寄り妥協し合い理解したりしなかったり、つまりコミュニケートするか、という所だと思う。つまり普通に恋愛ドラマであり人間ドラマである。・・・なーんて書いてみたけれど、この人達が本気で「気持ち良い!」と叫ぶのは各々漫画描きに没頭している時。やっぱりそこか?!そこなのか?!恋愛とは別物の楽しさも絶対捨てられないのよね(笑)
  松尾スズキは、表出の仕方こそ突飛だが、人間の情けないところ、「おかしかなしい」所のつかみかたが非常に鋭い。ダメだけど可笑しい、ダメだけど可愛いというところのセンスが抜群に良い。この喜悲劇の上手さがこの映画を間口の広いものにしていると思う。が、全体的に笑いのテンションが高めなので、このテンションについてこられない人は最初から振るい落とされてしまいそうだが・・・。しかしこのノリにのってしまえば最高に楽しい映画だと思う。映画館で観客が声を出して大笑いしているのを見たのは、「下妻物語」以来だ。
 主演の松田龍平、酒井若菜共に、最近めきめきと成長している役者だと思うのだが、今作では今までの出演作の中でベストと言っていいくらいの好演を見せている。特に酒井の「オタクスイッチON/OFF」の演じ分けはテンションの変わり方がすごい(でも戯画的とは思うなかれ。結構こんなもんです)。意外にちゃっかりしたちょっと尻軽な女、にも関わらず嫌みなキャラクターにはなっていないのは、酒井の演じ方、更に言うなら松尾の演出の仕方が上手いからだと思う。大竹しのぶ、塚本晋也、忌野清志郎を始め三池崇史、庵野秀明&安野モヨコ夫妻やジョージ朝倉まで豪華なゲスト出演者もすごい。エンドロールを隅から隅までチェックすべし。ちなみに一番かっこよかったのは小島聖。素敵すぎる。そして主題歌と挿入歌を歌っているサンボマスターがまた素晴らしい。サントラもお勧めだ。
 
 ちなみに、原作では恋乃は最初、舞@餓狼伝説のコスプレをしていた。時代背景が窺われます。映画の中でも様々なコスプレーヤーの方々がエキストラ出演しているが、蝶野コスを見られたのは収穫だった(笑)。

『2046』  
 2000年に撮影開始されたものの一時中断、2003年に撮影再開されたものの編集が遅れに遅れ、2004年のカンヌ国際映画祭では上映当日までフィルムが届かず「幻の映画」とさえ呼ばれた本作。制作に約5年かかったという映画の出来栄えは・・・正直微妙。
 1960年代の香港。新聞のゴシップ記事や小説を書いて生計を立てているチャウ(トニー・レオン)は、泊まっているホテルの娘ジンウェイ(フェイ・ウォン)と親しくなる。ジンウェイには日本人の恋人(木村拓哉)がいたが、父親の猛反対にあい離れ離れに。彼女の悲恋に心動かされたチャウは、彼女らをモデルにSF小説を書く。小説の舞台は未来の世界。小説の主人公の青年(木村拓哉)は2046と呼ばれる場所を目指してミステリートレインに乗っている。そこにいけば失われた愛を取り戻せるのだ。徐々にチャウは小説の主人公と自分を重ねあわせ、過去の女性関係を思い起こす。
 早い話がモテ男トニー・レオンが過去現在の女関係をつらつら連想するという、いつも通りのウォン・カーウェイ映画だ。予告編ではSFのようなことを言っていたが、全くSFではない。意図的に話の軸をずらした予告編にしたのかどうかは分からないが、SF目当てで見に来たお客さんにはご愁傷様としか言い様がない。もしこの作品が前作『花様年華』からまもなく公開されたのだったら、そんなに不満は持たなかったかもしれないが、前作からのブランクが長かっただけに、期待しすぎてしまった。ウォン・カーウェイらしい映画ではあるのだが、それ以上のものはなく、「新境地か?!」とわくわくしていたのにちょっと拍子抜けだった。
  もっとも役者陣は豪華。トニー・レオンはいつもどおりセクシーでいやらしい(笑)感じのタラシ役がはまっている。そして彼と絡む華麗な女優陣が、チャン・ツィイー、コン・リー、マギー・チャン。皆それぞれ美しいのだが、気が強くてはすっぱな女を演じたチャン・ツィーイーは、これまでのお嬢さん路線よりも生き生きしていたと思う。私はこの人はあまり好きではなかったのだが、初めて良いと思った。3人の女とのラブストーリーの中でも、チャン・ツィーイーとのエピソードに一番力が入っていたように思う。クールな振りをしている男女のすれ違いは、ラブストーリーとしても王道だろう。
 ストーリーとしては正直メリハリに欠けて退屈だし、映像美の完成度では『花様年華』には及ばないと思うのだが、役者達の存在感で間が持っている感じ。ちなみに木村拓哉の出演時間はあまり長くはないので、彼目当ての客は不満かもしれない。 ちなみに「2046」とは、本土返還から50年後の香港を意味するもの。返還より50年間は、現在の体制を維持すると約束されているのだとか。「2046では何も変わらない・・・」というモノローグも、そうしてみると意味深・・・か?
 

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