<01.7〜8に観た舞台の記録>

  ・スズキビリーバーズ『悪霊〜下女の恋』(01.7)
  ・転球劇場『i・blue』(01.7)
  ・演劇集団キャラメルボックス『ミスター・ムーンライト<月光旅人>』(01.7)
  ・サードステージshowcaseシリーズ『ペーパーマリッジ』(01.7)
  ・スズキビリーバーズ『マシーン日記』(01.7)
  ・グローブ座カンパニー『リチャード二世』(01.8)
  ・ランニングシアターダッシュ『風のピンチヒッター〜大旋風』(01.8)
 

 

 ・スズキビリーバーズ『悪霊〜下女の恋』

    大阪上本町・近鉄小劇場で、7/13〜15の公演。
    7/14の昼に観てきました。
    B列(2列目)19番(センターブロック右端)での観劇。
 
    出演する役者さんも、松尾スズキさんの作・演出も初めて。
    (松尾さんの役者姿はNODA・MAPで2度ほど観ましたけど)
    大人計画(松尾さん主宰劇団)の舞台はかなり特殊な世界だと聞いた
   ことがあるので、その「特殊さ」に自分がついていけるかどうか、結構
   ドキドキしていました。
 
    タケヒコ(宮藤官九郎)とハチマン(大浦龍宇一)は売れないお笑い
   コンビ。最近ようやく、レギュラー番組の話が来たばかり。タケヒコは
   母・キメ(広岡由里子)との二人暮しで、ハチマンもよく家まで訪ねて
   くる。
    ある日、タケヒコの婚約者・ナミエ(小島聖)が現れて、彼らの間に
   加わるようになった。……その日から、一見穏やかだった彼らの関係は
   次第に変化していく。少しずつ明らかになるタケヒコとハチマン、キメ
   の複雑な関係。事故により下半身不随となるタケヒコ。キメの突然の死。
   ナミエとハチマンの不倫、そしてナミエの妊娠……そんな状況で現れた
   家政婦・ホキ(広岡由里子・二役)がキメに瓜二つで、ハチマンに一目
   惚れしたことから、さらに彼らの関係は泥沼の方向へ……
 
    最初から(ほぼ)最後までめちゃめちゃ笑わせてもらいました。ネタ
   も面白かったけど、台詞が関西弁だったので登場人物にある種の親近感
   を感じて、余計にツボにはまったようです(笑)
    ……しかし、ストーリー書いてても思いますが、実際は相当ブラック
   な話ですよねー。もう、何か事件があるごとにドロドロな展開になって
   いっちゃって。
    この手の物語を観た後っていうのは、それまでの間に笑う部分が多く
   あったとしても大抵、後味が悪いのが普通なんですけど(私の場合)、
   この作品は不思議とそうでもありませんでした。なんでかな。ちょっと
   非日常的なところもあったけど、「地に足のついた」ブラックさだった
   と思うのに。身近でも起こり得てしまうような。
 
    インターネットで知り合った「悪霊」というハンドルネームの相手に、
   「いけにえ」を捧げたと言う「タケヒコ」。……彼が選んだ「いけにえ」
   とは何だったのだろうと思う。「ハチマン」ではないと彼は言っていた。
    ……「ナミエ」が産もうとしている子供? 確かに子供は「あかん子」
   (奇形児?)で生まれたけど……それよりも、「ハチマン」を殺そうと
   決めた自分自身、彼自身の「人間らしい心」だったのかも知れない。
 
    役者さん、4人が4人とも個性に引けを取らない、絶妙なバランスの
   良さでした。人数が少ないほど、作品中の個人にかかる比重って大きく
   なりますから、ひとりでも舞台に合わない人がいると結構悲惨なんです
   よね。その点では、この舞台は安心して観られるものだったと思います。
    宮藤官九郎さん。名前はわりと見かけるし、脚本を書かれたドラマも
   何度か観たことありますが、演技を観るのは初めて。……「シャイな人」
   らしいんですが、舞台を観ているとなかなかそうは思えませんね(笑)
   他の作品でどうなのか知りませんが、めちゃめちゃ面白いし、被害者に
   なるんじゃないかと思わせる空気の中で、その立場を上手く演じられて
   いました。……ラストシーン、女装して出てきた時には、一瞬人形かと
   思っちゃいました。メイクわざとらしいし衣装派手だし。でも今考える
   と、あの女装は最後の一歩を踏み出すための「道具」だったのかなとも。
    大浦龍宇一さん。「32歳にして現役子役(広岡由里子さんによるカー
   テンコールでの紹介)」らしいです(笑)これが初舞台とのことですが、
   かなり良かったと思います。「タケヒコ」がいなければお笑いの仕事を
   成立させられない、「ナミエ」を奪う立場でありながら彼女からも見放
   される、情けない男がはまっていました。
    小島聖さん。見た目がキレイなだけに、ぶっ飛んだ演技が衝撃的です。
   テレビでの演技もほとんど知りませんけど、まぁドラマでは舞台みたい
   な極端な演技やアクションを求められることって普通は無いですよね。
   そういう、「テレビ女優さん」なイメージを勝手に持っていましたから、
   かなりびっくりさせられました。他の3人と比べて、浮いてると感じる
   ことが(少なくとも私は)なかったですから。……びっくりしたと言え
   ば、小島さんの体の身軽さと柔らかさ。大車輪(側転)やら立った状態
   からのブリッジやらバック転やら。体操とかやってらしたのかな。
    広岡由里子さん。雑誌などを見ていても、個性派女優として名高い方
   のようです。この作品の初演にも出ていらして、そもそもこの作品自体、
   広岡さんを軸にして書かれたとか。よく分かる気がします。作家さんに
   してみれば、凄く書きがいのある、イメージを刺激される役者さんです
   よね。お母さん役も家政婦役も素晴らしかった。家政婦で出てくる時に
   歌うシーンがありますが、歌詞もさることながら、その時の衣装が……
   ミニスカートはまだしも、ルーズソックスまで。驚きです(笑)
 
    いろんな意味で観に行ってよかったと思いました。
    ……けど一つだけ思うのは。サブタイトルの「下女の恋」ってのは、
   あんまり付けた意味は無さそうだったなぁということです (^^;
                             (01.7.18)
 
 

 ・転球劇場『i・blue』

    兵庫・伊丹AI・HALLで7/19〜29の公演。
    7/19(初日)に観てきました。
    全席自由、前から5・6列目センターブロック右端席で観劇。
 
    この時期は観たい公演がたくさん重なっていて、とても全部は予算が
   出せそうになかったので、公演時期に行けそうな状態だったら行こう、
   という気持ちでいました。
    結局は行ったんですけど……決してお金に余裕があったわけではあり
   ません(爆)。当日の日記にも書きましたが、その日はちょっと(?)
   ストレスのたまりそうな状況だったので、思いっきり笑って気分転換を
   しようと考えて、急きょ足を運んだんです。この日の日替わりゲストが
   元ピスタチオの腹筋さんだったという理由もありますけど。先日ベター
   ポーヅを観に行けなくなって、腹筋さんも観そこねたので、リベンジの
   つもりで。
 
    舞台は三田マリンパーク、アシカショーの行われる舞台。
    今日が司会初舞台の但馬(橋田雄一郎)、それを指導する先輩調教師
   松阪(福田転球)、様子を見守る三田館長(高木稟)。但馬のトロ臭さ
   にイライラする松阪。アシカに餌をやるにも舞台の掃除をするにも但馬
   一人ではスムーズにいかなくて、結局やってしまう羽目に。そんな松阪
   は館長に何か言いたげである。館長も何かを二人に隠している様子。
    ようやくショーのリハーサルを始めるものの、やはり間違いが多い。
   おまけに妙にノリまくっていたりもする但馬……なんだか不安である。
   お客の入りが悪いマリンパークを立て直すため、なんとか頑張らなくて
   はいけないのだが……
 
    ストーリーというか、展開は一応決めてあるのでしょうけど、細部は
   アドリブの面が多いようです。こういう舞台って、オチが付けにくいと
   いうか……はっきりしたラストシーン、エンディングは作りにくい感じ
   ですね。ちょっと無理矢理な雰囲気の落とし方でした。……そういや、
   前回公演『Jack』のラストってどんなのだったっけ……覚えてない (^^;
    結局マリンパークは閉鎖ということで、3人とも暗くなっちゃって、
   こちらも少々意気消沈してしまう展開だったのですがね。『i・blue』と
   いうタイトルには合ってるかも知れませんが、どうせならもうちょっと
   明るいムードで終わるのを観たかった。
 
    しかしまぁ、「思いっきり笑う」という所期の目的は果たせたから、
   個人的にはいいかな。おかげさまでストレスも緩和されました。
    今回はプール(水槽?)を使うというので、どう設置するんだろうと
   思ってました。舞台スペースの一番手前の部分を低くして、そこに水槽
   をはめ込んでいました。深さ70〜80センチ、長さ5メートルってところ
   でしょうか。最初のシーンから水着姿で3人とも水に浸かっているし、
   ラスト近くでは服のまま飛び込んじゃうし。文字どおり、体を張ってる
   なぁって感じでした。あれを何回もやるのは、体調管理にあまり良くな
   さそう……ともかく風邪を引きませんように、と思います。
 
    さて、日替わりゲストの腹筋さん。昔マリンパークに勤務していた、
   館長の元同僚って設定でした。たぶん設定はゲストさんによって変わる
   のではないかと。日によって2人とか3人って場合もありますし。
    ピスタチオで観ていた頃や『Jack』の時はさほど思わなかったのです
   が、すごい筋肉質の方ですね。まぁ考えてみれば当然かも。少林寺拳法
   か何かやってるって話だし。Tシャツとハーフパンツって姿だと、筋肉
   質なのが良く分かります。
    やっぱり、相変わらず腹筋さんは腹筋さんでした(笑)それが客観的
   に考えて良いことなのか悪いことなのか、は分かりませんけど。
    今回もアニメネタあり。宇宙戦艦ヤマト、好きですね〜。
    カーテンコールで、転球さんとかが「腹筋さんはタイミングが難しい」
   とおっしゃっていました。……うーむ、アドリブにわりと慣れていると
   (こちらが)思う方々でもそうなんですね。一観客の私でも分かる気が
   してしまうのがなんとも複雑 (^o^;
                             (01.7.20)
 
 

 ・演劇集団キャラメルボックス『ミスター・ムーンライト<月光旅人>』

     → こちらです。(ネタばれは極力避けてます) 

                             (01.7.20)
 
 
 

 ・サードステージshowcaseシリーズ『ペーパーマリッジ』

    大阪上本町・近鉄小劇場で7/21・22の公演。
    7/21の昼に観てきました。
    D列10番(4列目・実質2列目の左サイド右端)での観劇。
 
    商店街でパン屋を経営する若夫婦・木下ちひろ(長野里美)と惣一郎
   (浅野和之)は、誰もが羨むほどの仲の良さ。しかし実は、二人は偽装
   結婚カップル。結婚願望の無かったちひろと、かつて店の従業員だった
   同性愛者の惣一郎は、先代店主であるちひろの亡き父親の願いで一緒に
   なったのだった。そのことを知るのは、店に現在居候中のちひろの妹・
   桃(旗島伸子)だけ。桃は同棲中の恋人と喧嘩の最中である。
    子供が欲しいちひろと惣一郎は、身寄りのない子供の里親になろうと
   考えている。児童相談所に依頼して、今週がその最終審査。そんな時、
   ちひろたち姉妹の母・亀子(木野花)が突然上京してくる。理由の分か
   らない彼女の上京に三人とも戸惑い顔。おまけに児童相談所からの審査
   員がいつ店に来るか分からない。当然亀子は偽装結婚のことも、里親に
   なろうとしていることも知らない。とにかく亀子と審査員がはち合わせ
   しないようにと、三人の奮闘が始まるが……
 
    第三舞台・サードステージ関連公演なので、showcaseシリーズの案内
   も何度か来てましたが、観に行くのは今回が初めてでした。最近の作品
   2本のビデオは販売されていますが、どちらも買ってませんし……昨年
   (2000年)の『ビューティフル・サンデイ』は評判がものすごく良いの
   で、いつかは観たいと思っていますけどね。
 
    舞台のセットが、とても細かく家の中として作られていて、雰囲気が
   良くて、かなり私好みでした。それだけでもなんとなく心が温まるよう
   な感じで。
 
    さて本編ですが……
    観る前はただ単に、たぶんハートウォーミングな物語だろうなという
   イメージが先行していました。東京公演の感想からの印象でしょうね。
   でも結構シビアだし、心を突き刺される台詞も多い。「ちひろ」たちが
   偽装結婚で、「惣一郎」が同性愛者と知った「亀子」の反応や言い分は
   特に「シビア」ですね。彼女の拒否反応は確かに「一般的な常識」なの
   かも知れない。けれど、そういう「常識」で割り切れない思いもあるん
   ですよね。
 
    女として愛されないと分かっていても「惣一郎」を好きでたまらない
   「ちひろ」。
    本当は「ちひろ」を好きなのに、彼女の負担になりたくないと離婚を
   切り出す「惣一郎」。
    妊娠しているかも、と恋人に言ったら結婚を切り出されて、その展開
   に納得がいかない「桃」。
    そして「常識」や「世間体」に一番こだわる「亀子」も、上京の目的
   はメールで知り合った男性に会うためで、久々のデートに気もそぞろ。
 
    「常識」で考えるならば、全て答えの出ている問題なのでしょうけど、
   本人たちはそういう方向には考えることができない。「亀子」でさえ、
   メル友の男性はいい人で間違いはないと言い張る。一人暮らしの淋しい
   毎日に活気を与えてくれた相手を、信じたいと思っているから。
    信じたい気持ち、本当に相手を思う気持ちは、「常識」や「世間体」
   では決して押さえつけられない。
 
    「常識」や「世間体」が現実世界で大きな影響力を持つことは確か。
   その現実は決して優しいことばかりじゃない。
    だけど同時に、現実も捨てたもんじゃない。思いが伝わらないことも
   叶わないこともあるけど、心の底の深い思いで通じ合えることもある。
    正直なところ、心を動かされたという点では、前日に観たキャラメル
   よりも評価の高い作品になりました。
    キャラメルとは少々違う意味で、安心して観ることのできる舞台です。
   このシリーズはぜひ長く続けていってほしいです。
 
    個人的に久しぶりに舞台で見る長野里美さん。役によって程度の差は
   ありますけど、いつも何かしらの点で可愛いなぁと思う女優さんです。
   今回の「ちひろ」は全編通して可愛らしいですね。ラストで彼女が幸せ
   になれたことが、とても嬉しい。
    浅野和之さんは多分初見。「惣一郎」、むちゃくちゃ素敵な旦那さん
   でした!(女性の立場で見れば、バカで鈍いところもありますけどね)
   こんな人と結婚したいと思った女性客はすごく多いのではないでしょう
   か。ちなみに私もその一人です(笑)
    サードステージ関連の舞台(というか、私が観に行く関連舞台)では
   毎回観ている、旗島伸子さん。チラシ・宣伝用の写真と髪型が全然違っ
   ていたので、最初のシーンではしばらく誰か分かりませんでした(爆)
   『恋愛戯曲』での役も結構はまってるとは思いましたけど、どちらかと
   言えば私は、今回の方が好きですね。まぁ旗島さんだけに限らないです
   が、上手な役者さんのヒューマンな役どころというのが私の好みのよう
   です。例えばキャラメルボックス『MIRAGE』の粟根さん然り、ですね。
    木野花さん、名前はよく聞きますが実際に観たことはあまり無いです。
   5年ほど前に新感線の舞台で一度だけ。去年の『トランス』では演出を
   なさっていましたが、出演はされてないので観たとは言えないし。5年
   前も今回も印象に残る方でした(笑)全然違う意味でですけどね。
                              (01.8.5)
 
   *後日、ビデオになっている作品を2本とも観ました。『パ・ド・ドゥ』
   (初演・99年)と『ビューティフル・サンデイ』。……そうですねぇ、
   後者が『ペーパーマリッジ』よりも良いという意見があるんですが、私
   はそこまでは感じませんでした。同じぐらい、それぞれにいい作品かな
   と。個人的には、前作2本のどっちも良い。でも『パ・ド・ドゥ』の方
   が好み。ハッピーエンドとは言えないと思うけど、それに納得がいった
   上で良い作品とも思いました。
                               (01.9.24)
 

 ・スズキビリーバーズ『マシーン日記』

    大阪上本町・近鉄小劇場で7/27〜29の公演。
    7/29の夜(千秋楽)を観てきました。
    I列6番(9列目・実質7列目の左サイド中央あたり)での観劇。
 
    ある夏の嵐の夜、電気修理工のミチオ(阿部サダヲ)は、同じ工場に
   勤める女工・サチコ(宝生舞)を工場外れのプレハブ小屋で強姦。工場
   経営者であるミチオの兄・アキトシ(松尾スズキ)は、弟の責任を取る
   という形でサチコと結婚。さらに、ミチオをプレハブ小屋に鎖で繋ぎ、
   監禁する。……一年後、工場に新しいパートの女性が入ってくる。その
   人物・ケイコ(片桐はいり)は、サチコの中学時代の担任教師。当時、
   いじめに遭い自殺しそうになっていたサチコは、ケイコによって救われ
   たという過去があった。再会を喜ぶサチコはその日、成りゆきでケイコ
   とミチオを出会わせてしまう。二人はその日のうちに関係を持つ間柄と
   なり……奇妙な兄弟、夫婦、師弟、そして男女の関係。彼らが行き着く
   先はどこにあるのか?
 
    ………………うーーーん。物凄くコメントに困りますね、この作品。
    設定のドロドロさ加減も救いのなさも、『悪霊〜下女の恋』を確実に
   上回っているような……ギャグで笑うところはあるけれど、その笑いが
   見事に記憶(気分)から消されていきます。考えてみたら後半4分の1
   ぐらい、ギャグの箇所なんてほとんど無かったかも。
    松尾さんの主宰劇団「大人計画」はまだ観たことないけど、どっちか
   と言えば多分こっちの雰囲気に近いのかなぁ、という感じがします。
    いやもー、本当に救いが無い気分になる。何にもコメントできそうに
   ないのに、実際アンケートも何書いていいか分からなかったのに、なぜ
   だか逆に、何かしゃべっていないと耐えられないような、物凄く複雑な
   心持ちでした、観劇直後は。
 
    他の人ってこの作品を、登場人物の誰に一番近い視点で観ていたのか
   なぁ。私はたぶん「サチコ」。彼女が好きなキャラクターってわけでは
   全然ないけれど。当初、一番とんでもない奴だと思っていた「ミチオ」
   を、時間が経つごとに実は「サチコ」以外の3人の中では一番「まとも」
   なんじゃないのか、と思うようになってしまったからなぁ。「サチコ」
   も、順番としては「ミチオ」が一番憎くない、なんて言ってたし。でも
   彼女もたぶん、どこかが壊れている人間なんだろうと思う。なんとなく、
   感覚的にそう感じる。
 
    他のお三方がそれぞれに個性の強い役者さんなので、「サチコ」役の
   宝生舞さんは結構いろいろ批判されてる場合もありましたけど、個人的
   には、あれでいいんじゃないかと思います。ぎこちない雰囲気の演技が
   本当に「ぎこちない」と感じる時もあったけど、作品における「いじめ
   られキャラ」としての役割は果たせているんじゃないかと。
    阿部サダヲさん……やっぱり私は、一番「普通度」の高いのはこの人
   だったと思ってしまう(爆)変人には違いないのにね。作品世界がそれ
   以上に「異常」すぎるということ?
    松尾スズキさん。笑いながら壊れた人間を演じる様って、怖いです。
   6本指というハンデを背負って生きる彼には、五体満足の弟がおそらく
   羨ましくて仕方なかったのでは、と思う。理解できない行動の裏には、
   自分自身のアイデンティティを求めて彷徨う心があるようにも見える。
    片桐はいりさん。昔から雑誌などで写真を見るたび、うわー個性強い
   顔の人だーと思っていましたが(苦笑)。演技の面でもやっぱりそう、
   というか、すごく骨太な演技をなさるというか……片桐さんがこの人物
   をこう作ってしまったら、もう誰にも揺るがしようがないという感じ。
   作品中で(少なくとも私が)一番なにを求めているのか分からないのは、
   「ケイコ」なんですよね……本当に不可解な人間。一般的に言うような
   「人間らしさ」はほとんど感じられない。そういう「マシーン化」が、
   無意識の産物なのか彼女自身の願望なのかもよく分からない。……松尾
   さんの「アキトシ」とは逆に、「ケイコ」は劇中でほとんど笑うことも
   ない。笑顔も無表情も、本心を見せないという効果においては同じもの
   なんですね。裏に隠される「怖さ」の点でも。
                             (01.8.14)
 
 

 ・グローブ座カンパニー『リチャード二世』

    大阪上本町・近鉄小劇場で8/6〜7の公演。
    8/6の夜に観てきました。
    E列8番(5列目・実質3列目の左サイド中央あたり)での観劇。
 
    グローブ座カンパニーは「子供のためのシェイクスピア」と銘打って、
   1995年から年1回の割合でシェイクスピア作品を上演しています。
    子供でも分かるように作ってはいるけど、大人が観ても面白い公演。
   そういうイメージがありましたし、またそのような感想もよく見られま
   した。役者さんに達者な方が多いから、質的にはあんまり心配ないとも
   思えたし……と言いましても、実際に私が観たことあるのは演出兼出演
   の山崎さん(昨年秋の『ラン・フォー・ユア・ワイフ』)と小須田さん
   (第三舞台)しかいらっしゃらなかったんですが (^^; その他の方々は、
   名前は聞いたことあるかな? という程度で……そういうのは知ってる
   とは言わないなぁ(爆)
 
    まぁとにかく。
    当日は平日で、当然ながら仕事がありまして、しかも定時で帰らせて
   ほしいって言ったのに帰らせてもらえなくて、めちゃめちゃ焦って劇場
   へ向かいました。到着は開演予定時間の約10分前。東京の方では開演前
   にも何かステージでやってたという話だったのですが、私が着いた時は
   もうなんの気配もありませんでした。何かやってたにしても、直前には
   できませんしねぇ。15分前ぐらいには終わってしまってたでしょうけど
   ……実際のところどうだったのかな???
 
    シェイクスピアの作品は史実を元にしたものも多いですが、今回のも
   その一つですね。たまたまこれを観に行く少し前に、イギリス王室関係
   の本を読んでいて、「リチャード二世」の記述も少しばかり見ました。
    従兄弟である後のヘンリー四世に王位を追われて、幽閉の末獄死した
   という……これだけ聞くとかなり悲劇的。史実でも信仰心が厚くて洗練
   された、善良な人物だったと言われているようですし。
    ですが劇中では、王位にある頃は結構いいかげんな人物という感じの
   表現をされていました。実際のシェイクスピアの方は読んでないのです
   が、話の長さを縮める際にねじ曲げたりはしてないでしょうから、原作
   でも多分そのように書かれているのでしょう。まぁ、原作は相当に長い
   みたいですから、はしょってしまった台詞なんかは結構ありそうですが。
    どちらがより正しいのかは、本当のところは当時に行ってみない限り
   分かりませんね(笑)国王でも人間ですから、両方の面があったと言え
   るかも知れないし。解釈はそれこそ、人それぞれでいいのでしょう。
 
    厳密に言うなら、子供にとっては難しい話だろうと思います。次々と
   味方に離反され投獄されるリチャード二世の絶望、王位に就いたものの
   いつか自分も同じような目に遭うのではないかと怯えるヘンリー四世の
   苦悩。そういう部分を筋道立てて理解するには、やはりそれなりの年齢
   にならないと無理だろうと。根本的に、難しい言葉もわりとありますし
   ね。
    ……反面、下手なものを見せるよりは余程いいのでは、という思いも
   ありますが(笑)。主婦層で観劇好きの人も多いじゃないですか。そう
   いう人でも安心して、子供を連れて観に来られる舞台と言えそうです。
   私が観た回でも子供の姿がちらほら。でも結構静かに観ていました。話
   を全て理解しているわけでは勿論ないでしょうけど、感覚で分かるもの
   がそれぞれに、何かしらあったのでは。「子供に媚びることはしない」
   のがカンパニーコンセプトの一つらしいです。それがいい意味で生きて
   いるように思えました。
 
    思っていたよりもギャグが多かったので、驚きつつもやっぱり大笑い
   しました(笑)。少々過剰かな、と思えるところもありましたが。
    もっともそれは前半〜中盤にかけてで、後半に入るとストーリー展開
   的にそんな余裕はないですけどね。ていうかギャグ自体がほとんど無い
   し。中盤、客席の子供を巻き込んでのアドリブ合戦に一番爆笑しました
   (子供を使うんだから、事前に示し合わせてのことだとは思いますけど)
   たぶん多くの人があそこで一番笑わされたのでは。
 
    演出方法もおもしろかったというか、興味深かったです。一人何役も
   やるのはありがちですけど、中心人物以外の周囲は、基本的に黒い衣装。
   黒い(または白い)衣装っていうのは、何にでもなれる衣装でもあるん
   ですよね。特定の人物はもちろん不特定多数の誰かにも、また何者とも
   知れないものにも、人の内面的な存在にも。最初と最後、全員その衣装
   でなされる群唱は、かなり迫力があります。ダッシュのような大きな声
   ではないだけに、じわじわと不安や緊張が来るような。
 
    リチャード二世役の吉田鋼太郎さん。初見ですね。国王としての威勢
   の良さとか、ギャグの時の明るさなどが初めに印象づくだけに、後々の
   打ちひしがれた姿がとても悲惨というか……哀しいですね。後半、王妃
   との別れのシーンなどは特に。(余談ですが、史実ではリチャード二世
   の当時の王妃はまだ10歳だったとか。しかも夫の幽閉も獄死も、後から
   知らされたらしいです。その後、彼女の妹がヘンリー四世の息子の妃に
   なったりと、まぁ何だかややこしく史実は先にも続くのですが、それは
   おいといて)
    ヘンリー四世役の小須田さん。……実を言えば、記憶の上ではあまり、
   メインの役で観たという覚えがないです。『トランス』初演とか、そう
   いうところで観ているんですけどね。あんまり意識して観ていなかった
   からかなぁ。基本的に第三舞台の公演でしか知らないので、最後に生で
   観たのは4年も前だし。今回は、一緒に観た知人がファンだったことも
   あって、以前よりも意識的に観ていました。……キャラクター的には、
   実際は何を考えているのかよく分からない感じですね。終始あまり表情
   を変えずに、どこか冷たい雰囲気。彼は国王になることを心のどこかで
   は望んでいたのか、全くそんな考えはなかったのか、そのへんも読み取
   りにくい。関連本の記述を読んでみても、個人的には、なんとなく勢い
   に流された部分が大きいような印象が。……望んだか望まなかったかは
   別として、どちらにしても、ヘンリー四世としての彼の余生には安息は
   なかったんだろうな、と思います。終盤はほとんどヘンリー四世のその
   後の話なんですが、誰が味方で敵で、味方のふりをした敵か分からない
   周囲の視線に、そして自分の心の闇の部分に悩まされ続けるばかりの姿
   ……彼も気の毒というか、哀れというか。ラスト、周囲の黒い存在たち
   に自分のかつての名前を呼ばれて、どこか呆然と「え?」と振り返る時
   の声と表情は、心に突き刺さります。
    演出兼出演の山崎さん。……昨年も観ていたと思い出したのは、実は
   観に行ってからでした(爆)。自身が役を演じることはほとんどなくて、
   人形を使ってしゃべらせる形で3役。かなり背の高い人が、黒ずくめの
   姿で人形を使っている光景って、一種の迫力かつ面白さがありました。
   純粋に台詞回しに笑えたということもありますけど(笑)。……加えて、
   人形無しで出てくる唯一のシーンは、何故か母親役でした。女優さんも
   一人出ているにもかかわらず……先ほども言いましたが、かなりでかい
   役者さんなので(おまけに同じシーンに出てる方々がやや低め?だった
   ので)出てこられた時には物凄いインパクトが。それで客席内を駆け回
   られた日には……笑うしかないなって感じでした (^o^;
 
    長々と書いてしまいましたが、総合的にどうだったかと言うと。
    日記にも書きましたけれど、すごく質のいい舞台だと思います。子供
   向けだと決めつけて観に行かなかったら勿体無い。なんていうか、良い
   中編小説(短編や長編ではなく)を読んだ後と同じような気分ですね。
    観劇初心者でも大丈夫だし、観劇慣れした人でも十分楽しめるという
   印象でした。来年もやるらしいので、また観に行きたいです。ちなみに
   作品は『ヴェニスの商人』とのこと……題名だけは知ってるんですが。
   来年までに原作を読んでおこうかな。
                             (01.8.19)
 

 ・ランニングシアターダッシュ『風のピンチヒッター〜大旋風』

    兵庫・伊丹AI・HALLで8/24〜9/2の公演。
    8/25の夜に観てきました。
    B列(2列目)22番(右サイドブロック・センター寄り)席での観劇。
 
    『風のピンチヒッター』三部作の完結編、だそうです。
    一応、前作2本とも観ております。観た順は『〜特訓中』『〜再試合』
   ですが、時間軸・初演の時期で言うと『再試合』の方が先です。
 
    高校野球史上初の女子投手登板を実現させた後、監督を辞めて教職に
   復帰した近藤イサム。彼が赴任した京都・壬生高校は、異常な程の進学
   至上主義。受験勉強が全てに優先し、妨害する者は教師であっても生徒
   会によって制裁を受けるという状態であった。イサムは生徒会の脅しを
   受けながらも生徒との本当の授業を行おうとするが、上手くいかない。
    ある日、突然幕末へとタイムスリップしたイサムは、生徒会メンバー
   や同僚教師にそっくりな新撰組や志士たちに出会う。偶然に志士たちと
   行動を共にすることになった彼は、持っていたバットがきっかけとなり、
   志士たちに野球を教えることになる。イサムが亡き恩師・サカモトから
   譲られたそのバットは、志士たちの亡き師・吉田松陰がペリーから譲り
   受けたものとよく似ているらしい。志士たちの反応に戸惑いながらも、
   イサムは彼らに野球を教え、そして野球の世界の「平等」を語り続ける。
   少しずつ野球の魅力を感じ始めた彼らに、大きな戦いの時が迫る……
 
    ……最近は日記にちょこっと感想を書くことも多いのですが。
    この作品は書く気になれませんでした。まぁ有り体に言ってしまえば、
   楽しめませんでした。初めてダッシュを観るため一緒に行った知人に、
   申し訳ないと思ってしまったぐらい。
 
    野球と幕末を結び付ける必然性を感じられなかったし、野球を教える
   シーンで志士たちの騒ぎ方がひどくうるさく思えた。いつもなら笑えて
   いるかも知れない同じギャグの繰り返しも、今回は何だかくどかったし
   ……そうだなぁ、最大の原因は、新撰組や志士たちが「かっこよく見え
   なかった」からかも知れない。新撰組は人斬り集団にしか見えなかった
   し、志士たちはその志が大人のものではなくて子供のそれのようだった。
 
    上瀧さんの「近藤勇」と岡部さんの「桂小五郎」は、見た目の雰囲気
   はそれなりにいけてたと思います……けど、「近藤勇」の場合、なまじ
   主人公の「近藤イサム」とそっくりという設定にしたがために、クライ
   マックス近くの二人が会話するシーンで、「サカモト」役の佐久間さん
   が「イサム」を代行する形になってて……それが何だか中途半端な感じ
   がしました。「サカモト」の想いが「イサム」の中に生き続けている、
   ということを表したいんだろうとは思いますが……やっぱりなんか中途
   半端。こういう場面こそ「本人」が語らなきゃ意味ないんじゃないです
   かね? 「桂小五郎」は妙〜に人間臭かったですね。実は結構臆病で、
   そのために仲間さえ幕府に売ろうとする。こういう「桂小五郎」像は、
   ある意味(個人的には)新しいとも思えます(実際のところ、というか
   他の人にとってはどうなのでしょう?)今まで見慣れてきた岡部さんの
   キャラとは違って、(一見)クールに格好よいところもわりとはまって
   ました。
 
    私が一番イヤだなぁと感じたのは、クライマックスで志士たちが斬ら
   れていくシーン。何ていうか……観ていて純粋に辛かったですね。志士
   たちがそうなっていくことが、ではなくて、このシーンが延々と長々と
   続くこと自体が。だらだらし過ぎているし、言っちゃなんですが「芸が
   ない」感じがしまして。「桂小五郎」や「高杉晋作」に比べれば知名度
   の低い志士ではあるのでしょうが、それにしても個性がなさすぎる……
   特にこのシーンで、皆同じように、同じことを言いながら斬られていく
   のはどうかなぁ、と。
    ついでに言うなら、この作品の殺陣のシーンは押し並べてだらだらと
   した感じでした。そう数が多いわけじゃありませんでしたが、ある時は
   ひたすら長い。中盤の新撰組と志士たちのシーンも「いつ終わるねん!」
   と言いたいぐらいに長かった……おまけに展開、というか人間の配置も
   殺陣の組み立てもあまり変わらなかったような気が。同じものを何回も
   何回も見せられているようで気分的にしんどかったです。
 
    最終的に、この作品は何に、どこに重点を置いているのか。その点が
   私には捉えられませんでした。「イサム」の教師としての生き方なのか、
   幕末の者たちの生きざまなのか、野球と人との繋がりなのか。
    三部作のひとつということを考えれば、野球に重きを置いてるとする
   のが自然なのでしょうが、それにしてはどこか強引だし……私としては
   現代に戻った「イサム」がこれから学校でどうしていくのか、具体的な
   部分を知りたかったのですが、うやむやにされたまま終わっちゃったし
   ……ご想像にお任せします的に。そういう終わり方自体はありでしょう
   けれど、この作品の場合、幕末部分に時間をかけ過ぎてラストまとめる
   時間が無かったのか? って印象だったんです。だからどうも消化不良
   な気分。
 
    こういう言い方は極端だし失礼かも知れませんけど……キャラメルと
   ピスタチオが「売り」としてきたことを扱おうとして扱い切れてない、
   という感じさえしました。幕末も、殺陣も、衣装の簡素化(?)も……
   現代ものとしても時代劇風としても、生きてない。いつもならダッシュ
   の長所と感じられる部分も、今回はことごとく裏目に出ていたような、
   そんな舞台でした……少なくとも私にとっては。
    失敗した、と思うと同時に、とても残念でした。今までの勢いを好き
   だっただけに。
    次回公演は来年2月で、ロビーでチケットも売ってましたが、買いま
   せんでした。買う気になれなくて。その代わり三部作の中で最初に観た
   『〜特訓中』のビデオを買って帰りました。……ダッシュがこのまま、
   違う方向に行くとは思いたくないです。来年以降で、独自の良さをいい
   方向に伸ばしていってくれることを願います。
                             (01.10.7)
 
 

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