中国二億五千万年、驚異の大恐竜博

4つの翼

一通り恐竜の生態について研究を終えた後には、「甦る太古の環境区」という当時の環境を模した空間に恐竜の原寸復元模型がその威容を以って居並ぶ空間が待っていた。が、ここは割愛。

さっさと歩みを進め、時代は下り、「恐竜飛翔区」のコーナーへ足を運ぶ。そこは文字通り恐竜と鳥との進化の鎖をを結ぶ生物達が多数展示されていた。
鳥類の起源が恐竜にあるとする説は、1870年にイギリスのトーマス・ハクスレーという学者が既に示していたのだが、その証拠を示す羽毛を持つ恐竜が発見されていない当時ではそれが支持されていない状況も仕方無かった。
然して1996年。中国遼寧省で羽毛の痕跡を残す獣脚類の化石が発見されるのを皮切りに、その説は一気に主流へと登りつめる。同地では以後も続々と羽毛恐竜が発見され、この地は進化の連鎖を繋ぐ重要な地域となった。
・・・と、この辺りの事は昨年の恐竜博の場でも紹介した通り。[別頁参照]

この事を説明する具体的なイメージの変遷としては[6-1]写真の比較が分かりやすい。
写真はかつて爬虫類の様に鱗で覆われていると思われた姿(左)が、羽毛で覆われた姿(右)へと解釈が変化した事を示す標本だ。同じ骨格を元にした復元標本であっても、これだけ生物としての印象が変わってしまうのだから、古生物学的に一大事件とならない訳が無い。これによって恐竜の一部は内温性動物であった事がほぼ裏付けられる事になり、羽毛の目的もその出発点は体温の保持にあったのではないかという考えも生まれ、逆に羽毛があったから鳥類と成り得たという事では無い(羽毛が鳥類独自の特徴ではない)という事にもなった。

Dromaeosauridae
[6-1]ドロマエオサウルス科の一種 復元標本の変遷

今回は更に、鳥類進化の過程で現れた面白い特徴を持った羽毛恐竜が紹介されていた。
"ミクロラプトル・グイ"という、その羽毛恐竜の復元模型は実に奇妙な姿をしていた。大きく翼となった前肢を広げている姿のものはこれまでも幾つか見てきたが、その恐竜は後肢も左右に広げているばかりかその脚には翼状に羽根が生えているのだ。この様に4枚の翼を持つ生物は現生種には見られず、また従来の獣脚類の特徴として後肢は前後運動しかできないものと思われていたものが、この発見により後肢が左右にも可動し得るものという可能性も出てきた。
そしてこの特徴はその後発見された他の幾つかの羽毛恐竜の中でも見られる事があり、ミクロラプトル・グイ固有の特徴とは限らず、この時代ある程度の規模で繁栄を勝ち得ていた形態らしいのだ。
これらの恐竜が実際のところ如何にして空を滑空、もしくは飛翔していたのか。そしてこの特徴を持った生物はその後どう進化したのか、あるいは絶滅してしまったのか、今後の研究が待たれる。

Microraptor-Gui
[6-2]ミクロラプトル・グイ 復元標本

ミクロラプトル・グイ Microraptor gui
前期白亜紀の地層から発見された80cmばかりのこの小さな恐竜は、恐竜から鳥類への進化の論争を益々過熱し、そしてその境界を更に曖昧なものとしてしまった。前肢には鉤爪が残るなど恐竜らしい特徴も残しているが、飛行能力についてはアーケオプテリクス(始祖鳥)よりも高いものと推測されている。
[6-3]写真右は写真左円内を拡大したものだが、後肢の筋状のものが羽根の痕跡を示す。
Microraptor-Gui
[6-3]ミクロラプトル・グイ

インキシボサウルス Incisivosaurus
展示の化石は頭骨のみだが、この獣脚類の奇妙さはまさにこの部分に凝縮されている。上顎の先端にはネズミ等齧歯類の様な切歯があり、その後方には竜脚類等植物食の恐竜に見られる歯が並んでいる事から、肉食が通例の獣脚類でありながら植物食だった事がほぼ確実と見られている。
Incisivosaurus
[6-4]インキシボサウルス

グラキリラプトル Graciliraptor
復元標本はやたらと派手なものだったが、これもミクロラプトル・グイ同様四肢に翼を持っていたとされる。前期白亜紀の地層からの発見であるが、より正確な年代測定では羽毛恐竜の主流となるドロマエオサウルス科の中では最古の1億3900万年〜1億2800万年前くらいと推定されている。
Graciliraptor
[6-5]グラキリラプトル

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