保存方法

 それでは最後に、お茶の保存方法についてお話したいと思います。

「お茶の保存方法……? そんなの考えたこともなかったなあ」


 そうですね。
お茶は乾物ですので、ほかの農産物――果物や野菜などよりも
保存はしやすく、また長期間もちます。

 しかしだからといって、
いい加減に放っておいたりすると、
あっと間に悪くなってしまいます。



「そーいえば、最初のほうでお茶の期限は1年くらいとか……」


 そうです。お茶は毎年、5月に新茶になりますので、
もたせる期間は1年未満を前提にしています。
 お茶業界では、
1年以上経過したお茶は「古茶(こちゃ)」と呼ばれ、
店頭に並ぶことはありません。



「お店に並んでいるのは、みんな新しいお茶なんだ!」


 もちろん、お茶屋さんで手に入るのは、その年の5月に採られたお茶です。
しかし
お茶屋さんには、大きな冷蔵施設があり、また真空包装をして大切に
保管されますので、新茶の状態がほぼ保持されます。


 しかし厳重に管理しているお茶屋さんでも、
1年以上たつと、どうしても新鮮香が落ちてきてしまうのです。
……まあ、「新茶より古茶が好き♪」という人も、けっこういらっしゃるのですけど。


「古茶が好きな人もいるの?」


 
古茶になるとお茶から青臭みが消えて、まろやかになるのです。
もともと関東の人は古茶を好み、初夏に採ったお茶を秋ごろまで寝かせてから飲んでいました。
 「お茶つぼ道中」というのを聞いたことありませんか?
あれは殿さまに1番最初に古茶を飲んでもらうために、お城へ茶つぼを届けることを言うのです。

 ちなみに、新鮮香のする新茶を好むのは、もともとは関西の人たちです。


「じゃあ、てきとうに保存しても、古茶として楽しめるんじゃないの?」


 いいえ。
「適当に保存して傷む」のと、「きちんと管理して古茶にする」のとでは
まったく違います。
傷んだお茶は変質臭(へんしつしゅう)がするため、
まろやかな味どころか、キツい味がします。


「じゃあ、きちんと保存しないといけないのね」


 結局は、そうなります。
もし古茶がほしいのであれば、新茶の季節(4月中旬〜5月中旬)直前の、
3月〜4月初旬にお茶屋さんを訪ねるとよいでしょう。


「あれ? 秋ごろには古茶になるんじゃなかったの?」


 なりません。
今と昔では保存技術に雲泥の差がありますから。殿さまのいた時代に、冷蔵庫や真空包装はありません。
……むしろ、3月のお茶だって、ほんとうは古茶と呼べないのかもしれませんけど。




お茶の大敵

 それでは具体的にお茶の保存方法についてお話したいと思いますが、
その前に、4つのお茶の大敵を紹介しましょう。


「大敵?」


 お茶の保存における大敵とは、
「高温度」「高湿度」「酸素」「光」です。


「えっと……高温と高湿がお茶に悪そうなのは分かるけど……」


 そうですね。乾物である
お茶は高温多湿の環境を嫌います。
空気中の水分を吸い取っていってしまい、
最終的には茶色くなり、カビが生えます。


「カ……カビが生えるのはヤダ……」


 でしょ? では次は酸素。


「酸素って、あたしたちが吸っている酸素?」


 そうです。
酸素はお茶を酸化させ、香味をいちじるしく減退させます。
ですから
お茶は、必要以上に空気に触れさせないことが大切になります。


「でも酸素がなかったら、あたしら生きていけないじゃん」


 たしかにそうですけど……。
まあ、お茶は酸素が嫌い、ということです。
……では最後の大敵、光について。


「光てのも……太陽の光とか、電灯の光とかの光……?」


 そうです。
お茶は光に弱いのです。
ですから、お茶は透明パッケージで売られることがないのです。


「あ、そーいえば透明パッケージのお茶って見たことないね!」


 まとめると、お茶を保存するには、
気温と湿度が低く、酸素もなく、さらに暗いところが最適ということになります。


「そんなヘンなところ、どこにあるのよ」


 
お茶屋さんは、真空包装したお茶を、冷蔵庫・冷凍庫にいれて保存しています。
しかし一般家庭でそれはムリです。

 ですので、ベストとしては、
光を通さない箱に密閉して、冷蔵庫に保管するのがよいでしょう。

 ただし、冷蔵庫から出すときは、温度の変化によって結露が生じ、
お茶に水滴がついてしまいますので、
出した後は密閉したまま、
半日ほど置いて常温に戻してから、開封してください。



「え〜〜〜……超面倒くさいよ〜〜……」


 たしかに。私も、この方法がベストだというだけで、特にお薦めはしません。

 
私もふだんは、茶筒にいれて、直射日光の当たらないところに置いておくだけです。
この
茶筒というのはなかなか優秀で、光と空気をシャットダウンしてくれますから、
あとは気温と湿度にさえ気をつければ2〜3ヶ月はもちます。その間に飲みきってしまえば、
また新しいお茶をお茶屋さんに買いに行けばいいのです。


「茶筒はどこで手に入るの?」


 100円ショップやホームセンターでも手に入りますが、ちょっと古いのでよければ、
お茶屋さんに頼めば、タダでもらえると思いますよ。たぶん……。

 さて、それではこれで、お茶のお話はすべて終了になります。
長々とおつきあいくださり、ほんとうにありがとうございました!


「おつかれさまでしたー!」


 それではまた、どこかでお会いしましょう。


「ばいばーい」



1:お茶の起源
2:お茶の種類
3:日本茶の産地
4:製造工程
5:お茶のおいしい淹れ方
6:保存方法


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