製茶工程

 ここでは、お茶をどうやって作るのかをご説明いたします。


「はーい」


 昔は手で作っていましたけど、今は機械で作ります。
もちろん、手で作る技術は今も残っていますけどね。


「機械で作るより、手で作ったほうがいいんじゃないの?」


 そうですね。でも手で作ったお茶――
「手もみ茶」は、
一般の人にはまずもって手に入れることができない
ほど、高価で希少なものです。


「えーなんでー?」


 一言で言えば、効率が悪すぎるからです。
ひとりの
茶師が、1日に手で作れるお茶の量は、せいぜい300gです。
機械を使えば、ひとりで1日に、200kg以上のお茶を作ることができるのです。


「そんなに違うんだ」


 そう。手もみ茶でやっていくには、熟練した茶師を何十人と雇わなくてはいけません。
さらにお茶の時期は短いので、効率的に手早くやらないと、どんどん、みる芽が硬葉になっていってしまいます。


 基本的に、手で作ろうが機械で作ろうが、製茶方法は同じです。
手で作る技術を、単に機械に翻訳しているだけですので。

 ですから、たとえ機械を使ったとしても、
茶師はその日の天気、湿度、気温、
茶葉の状態などの、数え切れないくらいの項目を、神経をすり減らして総合的に判断し、
常に忙しく考え、動き回らなければなりません。


 結局、
お茶を作るのは人間だ、ということです。


「……お茶の葉をいれて、スイッチをポン、て押したらできるんじゃないの?」


 できません。
それができたら、製茶方法を勉強させる学校なんてありません。


「学校があるの!?」


 私も静岡県の野菜茶業研究所というところに勉強に行きました。
日本中の若い茶業後継者がたくさん集まるのですよ。


「うは、すご……」





その1:荒茶作り

 ではまず最初に、「荒茶(あらちゃ)」作りを見ていきましょう。


「荒茶って?」


 荒茶とは、
煎茶とか、くき茶とかがまだ分別されていない状態のお茶のことです。
まず、製茶工程の全体の流れを説明しましょうか。


「おねがいしまっす!」


 まず、
畑で収穫されたお茶の生葉(なまば)は、
製茶工場に運ばれて、もみ込まれて、乾燥されて、荒茶になります。

これを荒茶製造工程といいます。


「その荒茶を、あたしたちが買っているわけね?」


 違います。
作られた
荒茶は、今度は仕上げ工程というのに入るのです。


「仕上げ工程……?」


 さっきも言ったとおり、荒茶はただ作っただけのお茶ですから、
葉の部分、くきの部分、粉の部分、芽の部分など、ごちゃまぜなのです。
まずこれを、篩(ふるい)にかけて、煎茶、くき茶、粉茶、芽茶などに分けるのです。


「”篩にかける”、ていう言葉はここから来てるのね?」


 さあ、それは知りませんが……。
で、篩にかけられたお茶は、今度は「火入れ焙煎」をして、香ばしい香味をつけられます。
この仕上げ茶が、店頭に並んでいるお茶です。


「けっこう大変なのねえ……」


 それではまず、荒茶工程を見ていきます。


「はーい!」


 荒茶製造はまず、工場に集められた
生葉が、蒸されるところから始まります。

収穫された生葉
蒸し工程

「え? 蒸すの? なんで?」


 「お茶の種類」の項でもお話しましたけど、
お茶の生葉は、そのまま放っておくと、葉の中の酸化酵素によって、
どんどん発酵(酸化)していってしまう
のです。


「そーいえば、そんなこと言ってたね。紅茶はそうやって作るんだっけ?」


 そのとおりです。
酸化によって、バラのようなよい香りがするようにはなりますが、
緑茶において、それは欠点となってしまいます。


「わかった! もしかして、
蒸すと酸化しなくなるのね!!」


 バッチリそのとおりです!
20〜25秒ほど、お茶の生葉を蒸して熱を加えることで、
葉の中の酸化酵素がなくなり、緑色がキープされる
のです!


「よく考えられてるね」


 ここで
蒸す代わりに、生葉を釜で炒るのが、前にお話した釜炒り茶。
そして
蒸す時間を20秒といわずに、120秒くらいかけて蒸すのが深蒸し茶です。


「……なんで蒸す時間を長くするの?」


 それはですね、
深蒸し茶のほうが甘くておいしいからです。
もともと深蒸し茶は、静岡県の牧之原で生まれたのですけど、最初に蒸す時間を長くするだけで、
甘くて、コクがあり、煎もよくきく(何回もよく出る)、最高においしいお茶ができたのです。
……ちょっと外観の形は悪いのですけど。


「甘いっていっても、やっぱり苦みはあるでしょ?」


 いえ、ないです。
ちょっと飲んでみますか? まずは20秒蒸しの浅蒸し茶。……はいどうぞ。


「色は澄んでいてきれいね。ごくごく……うーーん、苦い……。でもちょっと甘い……」


 じゃあ、次に深蒸し茶。


「色はなんか濃くておいしそ〜。ごくごく……あ、なんかすっごく甘い!!」


 苦味がないでしょう?
これは
深蒸し茶の細かい粒子が、舌の苦味を感じる味蕾(みらい)をふさいでしまうからなのです。
だから、
浅蒸しと成分は同じなのですけど、味は全然違って、甘いのです。
しかも、お茶の色が濃くでて、おいしそうに見えます。


「じゃあ、み〜んな深蒸しにしたらいいんじゃない?」


 いや、しかし浅蒸し茶は浅蒸し茶で、私はけっこう好きなのですよ。
なんといっても、お茶は嗜好品。
上品でほろ苦い浅蒸し茶が好き、という人はけっこう多いのですよ。
ただ、
万人受けするのは深蒸し茶のようで、売られているお茶も、深蒸しが最近増えています。


「そっかー。人によって好き好きなのね」


 じゃあ、蒸しについてはこれくらいで。
次の工程に行きます。


「はーい!」


 蒸した後の工程はすべて、
熱をかけ、ひたすら「もみながら乾かす」です。

葉打ち(手もみでいう「葉ぶるい」)
粗揉工程
(手もみでいう「軽回転揉み」)
揉捻工程(手もみでいう「重回転揉み」)
精揉工程(手もみでいう「こくり」)


「乾かすのは分かるけど……なんでもむの?」


 濡れタオルを、蒸した葉だと思ってください。
そのまま乾かすより、絞って乾かしたほうがずっとよいでしょう?


「ああ、そういうこと!」


 専門的に言えば、もみ込む意味はふたつ。
ひとつは、
細長い形を作って、全体が均等に乾くようにすること。
もうひとつは、
お湯で戻したときに葉の成分がよく出るようにすることです。


「それでぐりぐりと、もむわけね」


 そうです。このもみ込む工程は、
まず
粗揉(そじゅう)、揉捻(じゅうねん)、中揉(ちゅうじゅう)、精揉(せいじゅう)と、
4段階
に分けて、それぞれもみ込みます。


「そんなにもむの!?」


 そうです。荒茶製造工程全体で見ると、
蒸し→粗揉→揉捻→中揉→精揉→乾燥ですから、
最初と最後以外は、時間にして約2〜3時間、ずーーーーーーっともんでいます。


「それは大変……」


 これが
手もみだと、5時間以上かかります。
しかも加熱しながらですから、もう汗だくで、それでももんで、頑張って、
出来上がるのは1日300g。お茶の平袋3つぶんです。


「……なんだか機械を発明した人が、偉大に思えてきたわ!」


 
最初に発明されたのは高林謙三(埼玉県 日高市出身)による粗揉機でした。
手もみ製茶は、体力と神経を酷使する、過酷な重労働ですから、
機械化される意味はとてつもなく大きかったのです。


「なるほどね。でも、粗揉とか中揉とかって、何が違うの?」


 では順に説明しましょう。蒸した葉を最初に入れるのが粗揉機です。
蒸したばかりの葉は、びちゃびちゃの状態ですから、まず熱風と回転するかぎ手、もみ手で
「葉ぶるい」をしながら、水分を半分くらいに減らしつつ、もみ込みます。


 この粗揉は製茶工程でかなり重要ですので、
田代園では粗揉機に入れる前に、回転冷却機と葉打ち機で、水分を先にスッキリさせてから
粗揉に入れる
ことにしています。


「おーおー、ちゃっかり宣伝しちゃって。で、次は?」


 あはは……。次の工程は揉捻です。
これは熱をかけずに、
粗っぽくもんだだけの粗揉済み茶葉を、おもりをかけて
じっくりと、ぐりぐりもみ込みます。



「で、その次もまたもむのね」


 そう、次は中揉。
熱を加えて、さらに乾かしながら、もみ込みます。
中揉が終わころになると、もうお茶の葉はけっこう乾いてきています。


「で、さらにもむー!」


 そのとおりです。次は精揉。
精揉は、もみながら、日本茶特有のピンと伸びた針のような形を作る工程です。
この精揉をしないと、お茶は爪みたいに、くるくると曲がった形になってしまいます。

 この精揉で、お茶はもうほとんど乾き、もむ工程は終わります。
次は乾燥です。


「乾燥?」


 そう。精揉しただけですと、長期保存するにはまだ水分が残りすぎているから、
キチッと乾燥させる必要があるのです。
この
乾燥が終わると、荒茶が完成します!


「ふー。なんだか疲れちゃった」


 何をおっしゃる。
まだ仕上げ工程が残ってますよー。


「あー、そうだった!」




その2:仕上げ茶作り

 さて、できあがった荒茶は、
次に仕上げ工程を経て、店頭に並びます。


「けっこう長いのねー」


 長いですよー。 でも、あと少しです。
仕上げは、篩(ふるい)にかけるのと、火入れ焙煎をするだけですから。


「えーと、まずは篩(ふるい)にかけるんだっけ?」


 そうです。しかし
お茶屋さんによっては、
火入れ焙煎をしてから、篩にかけるところもあります。

 こうすると、微妙に味が変わってくるのです。
そういった意味で、
仕上げ工程は、お茶屋さんの個性が1番色濃く出るところ、と言えます。


「そうなんだ」


 同じ荒茶でも、仕上げのしかたによって、
ぜんぜん違ったものになってきてしまいますからね。
前にも言った、
「産地にこだわるより、お茶屋さんにこだわったほうがよい」というのはそのためです。

 ではまず、篩についてお話しましょう。


「おねがいしまーす!」


 篩は、構造的には台所にある篩と同じです。
細かい網目を使って、お茶を、粉、芽、本茶(ほんちゃ)、頭(あたま)とに分けます。


「あたま?」


 ちょっと長すぎの本茶です。つまりは、硬葉だった部分です。
これは、
ほうじ茶や番茶といった、下級茶の原料になります。


「ふーん」


 
本茶は、色彩選別機という機械に入れられ、
さらに、くきの部分と、本茶(葉)の部分に分けられます。

……ちなみに色彩選別機は、葉とくきの色の違いを見分けて、分類してくれる機械です。


「べんりー!」


 この本茶と、先ほどの芽を混ぜたのが、「煎茶」。
芽だけのものが「芽茶」。くきだけのものが「くき茶」……といったように分類していきます。


「そうやって分けてるんだ」


 分けたら、いよいよ
火入れ焙煎です。
しかしこれは、はっきり言ってムズカシイ……。


「どうして難しいの?」


 
お茶の味が決まる、最後の重要ポイントだからです。

 火が弱いと青臭い。強いとせっかくの荒茶の味がつぶれてしまう。
上手に火を入れると、まろやかで甘くなりますけど、
ちょっとでも火が強くなりすぎると、逆に苦くなってしまう……。


「えー、じゃあどういう基準で火を入れるの?」


 それはもう、
茶師の経験と勘、そしてなにより茶師の好みですね。
だからこそ、お茶屋さんによって個性が出るのです。

 また、火入れ機械も、熱源が
ガスであったり、電気であったり、遠赤外線だったり、マイクロ波だったりいろいろです。
それによってまた味も変わってきます。


「じゃあ、火入れ機械の種類によって、だいたいの味の予想はできるの?」


 まあ、お茶屋さんに直接聞かないと
火入れ機のことなんか教えてくれないとは思いますが。
それにどれがよいのか、とは一概には言えません。


「田代園さんの火入れ機は〜?」


 ウチは遠赤外線ドラムで、熱源はガスです。といっても、専門的な用語なので分からないですよね(汗)
ともあれ、甘くまろやかに仕上がりますよ。

 それでは、次回は「お茶をおいしく淹れる方法」についてお話しましょう。


「はーい!」



1:お茶の起源
2:お茶の種類
3:日本茶の産地
4:製造工程
5:お茶のおいしい淹れ方
6:保存方法


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