お茶のおいしい淹れ方

 それでは、お茶をおいしく飲める淹れ方をご紹介します。


「……そーゆーのってよく聞くけど、なんか面倒くさそう……」


 それは
たしかに、ちょっとだけ手間は増えてしまいますけど、
私に言わせれば、せっかくのよいお茶を、いい加減な淹れ方をして
台無しにするのは、正直なところすごくおカネがもったいない
です。


「そんなもんかなあ?」


 そうですね。たとえば、2時間撮れるビデオテープに
1時間ずつしか録画しないとか……。そんな感じで、とにかくもったいないです。
本来の力の2分の1しか楽しんでないでしょ?


「うーん、分かったような分からないような」


 とりあえず、安いお茶はともかく、
100gで1000円以上するような上級煎茶は、決して安い買い物ではありません。
せっかくおカネを出してお茶を買うわけですから、淹れ方にもこだわってみたいものです。

 ……それに、人前でこだわった淹れ方をすると、とてもカッコイイです。


「そっかー! どうせならカッコよく淹れたいもんね!」




上級〜並級煎茶の淹れ方

 まずは上級煎茶の淹れ方をお話します。
上級・並級と、淹れ方は基本的に同じですので、一緒にやっていきます。

 その次には、番茶やほうじ茶といった下級茶の淹れ方についてお話します。


「なんで上・並級と下級とで淹れ方が違うの?」


 それは、上級煎茶ほど「味」の成分が多いからです。


「味の成分?」


 「お茶の種類」でも挙げましたが、
日本茶は、「味」を楽しむお茶です。一方、紅茶や烏龍茶は「香り」を楽しむお茶です。

 香りを楽しむ場合には、熱湯で、とにかく熱く淹れることが大事なのですが、
味を楽しむとなりますと、熱湯では熱すぎて味が分かりません。
また、お湯の温度によって、お茶の葉から溶け出してくる味の成分が違ってくるのです。


「温度によって違ってくる?」


 具体的には、
甘味と旨味(うまみ)の成分は、わりと低温でも溶け出してきますが、
苦味と渋味の成分は、かなり高温でないと溶け出してきません。

 おいしいお茶とはすなわち、
「苦渋味がなく、甘味と旨味があるもの」ですから、苦渋味を抑えるため、
熱湯ではなく、少し冷ましたお湯で淹れるのがよいのです。




「なるほど、苦味を抑えるのがポイントなんだ!」


 そうです。旨味より苦味のほうが味が強いですしね。
あと深蒸し茶はもともと甘いので、きちんとした湯温で淹れれば、さらに甘味と旨味が増します。
急須に注ぐときの湯温は、上級煎茶で70℃、並級煎茶で80℃が最適です。


「でもさあ、お湯がそのとき何℃か、なんて分からないよ?」


 いえ、実は簡単に分かるのです。
お湯の温度は、器を替えるごとに、10℃ずつ下がっていくのです。
ですから、沸かした熱湯をポットに入れると、90℃になっています。




「ポットのお湯は100℃の熱湯じゃなかったんだ!」


 そうです。
では、90℃のポットのお湯を、どうやって80℃、70℃にするかというと……?


「うーん、……また器を替えればいいのかな?」


 正解です。
お茶を淹れるときはまずポットのお湯を、人数分の湯飲みに注ぎます。



 こうすることで、湯温が下がり
また湯飲みも温まり、そしてさらにちょうどよい量のお湯を汲める、という、
まさに一石三鳥な芸当ができるのです!


「でもこれじゃあ80℃だよね。70℃にするにはどうすればいいの?」


 それは、また違う湯のみに、お湯をあけるとかします。
……お湯を冷ますためだけに作られた、「湯冷まし」という焼物もありますけど、
なければないで、ほかの湯のみや、もしくはどんぶりなどでも一向に構いません。


「どんぶりでいいの?」


 まあ、焼物ならなんでも。
ただちょっと、お湯をこぼしやすいですけどね。

 ああ、そうそう。急須にいれるお茶っ葉ですけど、
「お茶がおいしくない」と言われる人の大半は、お茶っ葉の量が少ないことが原因です。
ひとりあたり、スプーンすりきり1杯〜少し盛って1杯あたりがちょうどよいかと思われます。


「思われます、ってなによ。はっきりしてよ」


 それは、人によって好みが違うからです。
薄いのが好きな人もいれば、濃いのが好きな人もいます。
お茶のような嗜好品は、結局は個人個人の好みがもっとも重要視されるべきところですので。


「結局は好みか……」


 さて、急須にお茶っ葉をいれて、冷まししたお湯を注ぎます。
ここでかなり重要なポイントがあります。それは、すぐに湯飲みに注がないこと!
浅蒸し煎茶でしたら1分、深蒸し煎茶でしたら30秒、そのまま落ち着いて待ちましょう。




「なんで待たなきゃだめなの?」


 なぜなら、お茶の成分は一瞬でお湯に溶けてはこないからです。
ここで少しだけ我慢して待つことで、急須の中でお茶の成分がとけだしてくるのです。


「あ、30秒たったよー!」


 それでは湯飲みに注いでいきましょう。
ここで最後のポイント、「廻し注ぎ(まわしつぎ)」をします。


「廻し注ぎ?」


 お茶を湯飲みに、1→2→3、と廻しながら注ぎ、
今度は逆に3→2→1と廻していく
注ぎ方です。




「なんでそんな変な注ぎ方をするの?」


 濃さを均等にするためです。
出だしのお茶は、どうしても薄い。しかし後のほうになるにしたがって、濃くなります。
ですので廻し注ぎをしないと、湯飲みごとに濃さがバラバラになってしまいます。
これは、すべてのお茶の淹れ方で共通の基本技です。

 また、廻し注ぎをするとき、
自分の湯飲みに注ぐのは順番の最後にしましょう(ここでは3番目)。
それがマナーです。


「トランプと同じだね!」


 そうですね。そうだ、あともう一点。
お茶を注ぐときは、最後の1滴まで絞り出しましょう。
紅茶のゴールデンルールでは、この最後の1滴のことを「ゴールデン(ベスト)ドロップ」と
いって、1番おいしいところとされています。


「へー……ゴールデンドロップかー」


 注ぎ終わったら、急須のふたを少しだけ開けておきます。
こうすると、中のお茶っ葉がムレません。
そして2煎目は、1煎目より熱く淹れると、おいしくなります。




下級茶の淹れ方

 それでは番茶、ほうじ茶などの下級茶の淹れ方について。
……といっても、こっちは超簡単なのですけど。


「簡単なの好きー!」


 この項の最初のほうと、「お茶の種類」でも触れましたが、
番茶やほうじ茶は、味がない代わりに、火香(ひか)を強くいれたお茶です。
つまりは、紅茶や烏龍茶と同じく、「香りを楽しむお茶」なわけです。


「そうだったね」


 香りを楽しむお茶の場合は、とにかく熱湯で、熱く熱く淹れます。
紅茶や烏龍茶もそうです。


「熱湯で? ポットのお湯は90℃だからだめかなあ?」


 いえ、べつに90℃でも大丈夫です。熱ければ熱いほどよいというだけです。
しかし80℃以下になってしまうと、下級茶はおいしくなりません。

 急須にお茶っ葉を入れたら、
ポットのお湯を、直に注ぎ込みます。簡単でしょう?


「うん、簡単ー!」


 番茶やほうじ茶の場合も、急須にお湯を注いでからしばらく待ちますが、
比較的短く、たとえ浅蒸しであったとしても、30秒も待てば充分です。


「長々とつけてると、どうなるの?」


 火香が強く出すぎてしまって、ちょっとくどくなるのです。
まあそれが好き、というのであれば、私からは特に何も申せません。
結局は……


「結局は、個人の好みー!」


 そのとおりです。
それでは次回は、「保存方法」についてお話します。


「はーい!」



1:お茶の起源
2:お茶の種類
3:日本茶の産地
4:製造工程
5:お茶のおいしい淹れ方
6:保存方法


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