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   認知症の新薬
アルツハイマー病に対するクスリは長い間ドネペジル(商品名アリ
セプト)だけでしたが、このたび一挙に3種類が登場しました。

1つはガランタミン(商品名レミニール、ヤンセンと武田)で、神
経伝達物質のアセチルコリンエステラーゼ阻害作用とニコチン受容
体増強作用を併せ持つ薬物です。基本的にはアリセプトと同じ系統
のクスリですが、既存薬と違いニコチン性アセチルコリン受容体に
も結合してシグナル伝達を増強させ、神経伝達物質の放出を促進し
ます。

2つめはメマンチン(商品名メマリー、第一三共)で、グルタミン
酸受容体の1つであるNMDA受容体に対する拮抗作用があり、認知
能力改善効果と共に神経細胞保護効果も有すると考えられています。
現在、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬以外でアルツハイマー病
に適応を持つ唯一の薬剤ですが、作用機序が違うために他の抗認知
症薬との併用も可能です。

正常な脳では、必要な時だけグルタミン酸が一時的に多量放出され
てNMDA受容体を活性化することでシグナル伝達がおこなわれてい
ます。アルツハイマー病ではグルタミン酸が持続的に放出されてい
てNMDA受容体が常時活性化された状態になっています。このノイ
ズ効果のために正常なシグナル伝達ができなくなっていると考えら
れています。さらにNMDA受容体が常時活性化されていると、カル
シウムが余分に細胞内に入り込み、神経細胞を破壊すると考えられ
ています。メマンチンはNMDA受容体拮抗作用によってノイズ効果
を抑制しますが、この薬剤は受容体に対して低親和性のため、正常
なシグナル伝達を阻害しません。また、カルシウムの過剰な流入か
ら神経細胞を保護します。メマンチンはアルツハイマー病の中核症
状だけでなく行動・心理症状(後述)にたいしても効果があること
が知られています。

3つめはリバスチグミン(商品名;小野薬品からリバスタパッチ、
ノバルティスからイクセロンパッチとして発売)です。このクスリ
は、アセチルコリンエステラーゼとブチリルコリンエステラーゼの
両者に対して阻害作用があります。特筆すべきなのは、パッチ製
剤であることです。パッチ製剤では血中濃度が高くなりすぎること
がなく、適度な効果を長時間保てます。飲むタイプにくらべて吐き
気などの副作用も少なく、優れた効果が期待されています。

選択肢が広がったのは歓迎すべきことですが、これらのクスリの効
果は残念ながらまだ限定的です。

アルツハイマー病の患者さんに対する薬物治療は症状によって大き
く2つに分けることができます。アルツハイマー病の症状は中核症
状(記憶障害、見当識障害、実行機能の障害等)と周辺症状(幻覚、
妄想、徘徊、興奮、攻撃性等)とに分けられます。
周辺症状は 行動・心理症状(BPSD;Behavioral and Psychological
Symptoms of Dementia)とも呼ばれ、病気が進行すると頻繁に出現す
るようになり、QOLの低下を招き介護負担を増大させます。
BPSDに対しては抑肝散、グラマリール、リスパダール、セロクエル
等を使うことで、大抵の場合は改善をみることが可能です。
   
抗認知症薬の目的は中核症状である記憶・見当識障害や実行機能障
害の改善にありますが、今回発売になった新薬でも一定期間、状態
を多少改善するにとどまり、病気の進行を止めることはできません。
現在、アルツハイマー病の患者さんに対しては治療よりも介護の比
重が高いのが現実です。ただ、幸いなことにアルツハイマー病の進
行は大変ゆっくりしていますので、ご家庭でもかなり長い期間ふつ
うの生活を送ることが可能です。

近未来には臨床診断とMRI、PETスキャンによりアルツハイマー病
を早期発見し、ベータアミロイドの蓄積を防ぐ治療をおこなうこと
で、病気の進行を阻止することが可能になると考えられていますが、
それにはもう少し時間が必要です。