親方の話をするのには、まず、親方のお父さんの話を先にした方が良さそうだ。
50年以上前のことであるが 今でもうっすらだが、覚えていることがある、私が7、8歳くらいのことで、親方 のお父さんとはよく銭湯で逢うことがあった、何の模様かは忘れたが刺青が入っていて一寸怖そうな人でした、
熱い湯が好きで子供が水を出してぬるくでもしようものなら、すぐに、「金を出して日向水に入る馬鹿はいねえ!」と叱られる、だからその人が来ると子供たちは、我慢をして熱い湯に入るか、すぐに出るかになる、一度自分は我慢をして熱い湯にその人と入ったことがある、我慢比べではないが少し意地になって入っていたが、先に出たのは言うまでもなく、湯から出た時に頭がボ−ットしてしばらく動けなかったのを覚えている。
それから数日後、やはり銭湯で逢うとその人から声をかけられた、「田代の息子か?」と問われ「はい」とだけ答えた、それ以上の会話は無かったがその後、他で逢っても怖い人とは思えなくなっていた。
話が逆に成ってしまったが、その人の職業は竹細工をしていて季節だけの花屋(彼岸とお盆)もしていたのを覚えている、竹で作った虫とか花、置物などを作っていた、その当時竹で作った昆虫のバッタが全国の品評会で優勝したとかで一寸した話題の人でもあったようだ、
作品の中に竹で出来た虚無僧がありそれを真似て作ったものを、見せたところ、あまり笑った事のない人だが、ほ-と、笑顔で応えてくれたのが、とても嬉しかった事を記憶している。
その後、その人は丸い竹を平らにして皿を作りそれも評判になり、都内の有名デパ−トから注文が来るも、「沢山は一度に作れない、またどこの誰が使うのか解らないのに売るのは嫌だ」と、けんもほろろに断ったそうです、 職人は相手の解らない人のものを作るのは嫌なものです。 丸い竹を割りどうして平らにしたのかは親方も知らないそうである、その血を受け継ぐのが私の親方です、どんな人か想像がつくと思いますが・・・・・・
家具のことは少しは解っていても、何も知らな私をここまでにしてくれたのは親方のお陰です、未だに足を向けては眠れません。
少し怖くて、頑固で、短気で、器用で(職人に器用は失礼な)、男前で、優しさのある人です。
切りのよい所なので今日はこの辺で、片付けます。
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