リストカットの向うに | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
この数年、国内の年間自殺者数は3万人を超え、2000年には京都府内だけでも696人が自ら命を断っています。 2000年の「厚生労働省人口動態調査」の統計表を眺めていると切なくなります。「老衰」で死ぬ男性は女性の半分以下。逆に「自殺」は2倍以上です。
それが平成15年 厚生労働省 第5表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対)によれば下表のようになり、自殺は交通事故の3倍になりました。
厚生労働省が発表している「2003年の性・年齢階級別にみた主な死因の構成割合」によれば15〜19歳の死因トップ3は@不慮の事故 A自殺 B悪性新生物(ガン)で、20〜39歳のトップでは自殺です。 その男女別の第1位と第2位の一覧表は次の通りです。
文部科学省によると、1999年度に全国の小中学校で死亡した児童・生徒は1000人を超え、その内自殺者は公立の小・中・高校だけで163人を数えました。2000年度は147人、2001年度は134人と減る傾向にはありますが、秋田県では2003年3月から4月上旬にかけての1カ月余りで5人が相ついで自殺するという異常な事態も起きています。 米国の統計でも、15歳〜24歳の若者の死亡原因は自殺が2番目に多く、年間5000人に上り、特に4月と5月が多いといわれ、さらに5時間に一人の割合で思春期の同性愛者が自殺すると推測されています。1989年のアメリカの保健社会福祉省の調査では思春期に自殺した若者の30%は同性愛者によるものであり、思春期の同性愛者は、そうでない若者に比べ2〜3倍、より自殺を試みやすいと報告されているそうです。 ※ホワイトリボンキャンペーンを参照ください。 1993年に出版された鶴見済氏の「完全自殺マニュアル」(太田出版)が青少年にとって有害図書であるとされ、世間を騒がせてから10年ほど経ちました。そのまた10年ほど前の1980年代から「リスカ」(リストカット=おもに手首を切る自傷行為)と言う言葉が世に知られるようになっていましたが、リスカ常習者は「どーせ死ぬ気のない人騒がせな奴」と思われている節があります。 実際、思いがけないハプニングが起こらない限り、手首を切っただけでは死なないように人間の体はできているそうです。また、本当に死ぬ気であれば「中公新書 群発自殺 流行を防ぎ、模倣を止める」にも紹介されているように、三原山をはじめ自殺の名所はいくらもあり、「完全自殺マニュアル」などに頼らずとも「先例」にはこと欠きません。何せ年間3万人以上が「本当に」死んでいるのですから。 しかし、アメリカの「CPI危機予防研究所」の「学校での危機管理プログラム」によると、子供の自殺には次の5段階があるとされています。
しかし、「研究者」ではない私たちは、自傷行為が自殺未遂か狂言か、ゆがんだ自己顕示か、はたまた自意識過剰のパフォーマンスかetc.かどうかを、分類≠オたり分析≠キる必要はないでしょう。 多様なマイノリティ≠フ問題を考える時、そのそれぞれの立場や違いを尊重すべきですが、より重要なのはそこに横たわっている「生き辛さ」を共感することなのではないでしょうか。 リスカやオーバードーズ(薬の大量摂取)などの自傷行為や自殺未遂の常習者が抱える辛さや置かれた状況が、「死にたいほど」、「自分の存在を消してしまいたいほど」であったりする。そして、肉体を傷つけることが「自分の存在を確認する作業」であったり、「辛さを誰かに気付いてほしい」「共感してくれる人を微かに求めている」というサインだということだってあります。 自傷行為や自殺未遂を繰り返す人が身近にいるとき、私たちはオロオロ不安にかられるばかりです。でなければ、困惑の果てに「どうせ死なない」と突き放し、その存在を無視しようとしてしまうかもしれません。「いのちを大切に」と言うだけでは何の解決にもならないことは確かです。だからといって自分の人格のすべてを賭けて相手と向き合うことは、誰にでもできることではありません。 リストカットの向こうにあるのは絶望か死か、あるいは新たな再生の道か?彼女や彼の傍らにいる私たちは、同情し、やがて嫌悪し、ついには無視するほかないのでしょうか?それを考える上でも、私たち自身の「生きやすさ」を考えるためにも、次に紹介する二冊の本は多いに役に立つと思います。 「生きちゃってるし、死なないし リストカット&オーバードーズ依存症」の著者今一生氏は、リストカットを「止めさせる」ことに主眼を置かず、医療(薬)に頼りすぎることに警告を発し、自ら生きやすい場を切り開いていくことを勧めています。また、「人生はコール&レスポンス(呼びかけと返事)である」と訴える著者のイベントやBBSやオフ会をきっかけに生まれた自助グループ「日本自傷連合」をはじめ、向精神薬依存症専門BBS「オーバードーズ同好会」、摂食障害専門BBS「カショキングBBS」などの紹介もあります。 後半は「明日のために」と題した自傷行為から抜け出す手引き。はまっている人も見守っている人も、一読をお薦めします。ただ、この本で紹介されていた「日本自傷連合」の生みの親の「はなだ」さんは、この本が出て一月もたたない内に亡くなられました。 ※はなださんのサイトyoruno_codomo's WEBSITEは残っています。 著作中で紹介されている「自傷らー」の「さならたく」さんの言葉(P103)は次のようなものです。
あわせて読んでいただきたいのが、精神科医の小田晋氏の著書「リストカット 手首を切る少女たち」。医師の立場からこの問題を切り込み、思春期・青年期の女性を中心に実例を紹介しながら、リストカットの背景にある闇を照らし出していきます。 小田氏の主張の特徴は乳・幼児期の育て方、特に母親とのかかわりにあります。目の前の現実と闘っている人からは「今さらどうする」と言った声も聞こえてきそうですが、リストカットなどどこか遠い話という人も含めて、自分が今生きている社会のあり方を問う、一つの育児・教育書として手に取ってみてはいかがでしょう。 もう一冊是非読んで頂きたいのは「卒業式まで死にません 女子高生南条あやの日記」。1999年3月30日、「推定自殺」により18歳で亡くなった南条あやさんの日記です。ページをめくるごとに切なくなりますが、最後まで読み切った時、けっして忘れてはならないことなのに、忘れがちなことを思い出すかもしれません。精神科医師の香山リカ氏の解説付きです。 「Mainichi INTERACTIVE 毎日中学生新聞」の毎中クラブというコーナーは、中学生が様々な話題を交換している場ですが、2002年の10月から2003年の2月にかけて「リストカット」をめぐって様々な投稿が寄せられています。それを抜粋したL352 毎日中学生新聞 自傷関連 投稿抜粋をご一読ください。 そこに込められた当事者と、向かい合う友達の切なさ辛さいらだたしさを、大人たちは真剣かつ冷静に受けとめるべきでしょう。 |
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2004年11月27日 一部更新 2005年03月18日 一部更新 |
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