> 界樹の迷宮をリプレイ風のプレイ日記をつけるでござるよ。(おまけつき)





までのあらすじ >


 最後の戦いだ、みんなやるぞ!

 おー!





> 玩の街。



 その日、エトリアでは異変がおこりはじめていた。

 揺れる、大地。



シリカ商店店主 : 「ひゃぁっ! み、み、みんな、大丈夫!? な、な、何だろ。急に。こんなに大きな地震、いままで無かったのに……」



 荒れる、空。



金鹿の女主人 : 「あの雲……この街でこんな天気を見るのは、何年ぶりかしら……?」



 まるでこの街を壊すかのような天才が、次々と遅う最中。

 エトリアは未だ、長の居ない状態が続く。




執政院の眼鏡 : 「……そうか、落雷でそんな被害が……全く、このような時に、長は何処にいってしまったんだ……?」



 そんな中でも彼らは、冒険者であった。



ギルド長 : 「何だ、行くのか?」



 いつものように武器を背負うシグに、ギルド長が問う。



シグ : 「あぁ……そろそろ終わらせてやらねぇと、いけねぇからな」



 シグの言葉に、リンが。アイラが、静かに頷く。

 その隣には鞭を握りしめるシェヴァと……黙って彼らを見据えるシュンスケの姿もあった。



シグ : 「さぁ、行くぜ。最後の戦いに、な!」


 5人の若者は互いに黙って歩き出す。

 全てを終わらせる為……。


 さばみそギルドはついに地下25階……はじまりにして、終わりの階層へと向かう……。






> 虚の玩具



 世界樹の迷宮 第5階層。

 遺都 シンジュク。




シグ : 「……という訳で、再びゲームの世界に戻ってきた訳だが」


シェヴァ : 「うん……でも、どうしたらいいんだろ。GMがいなくなっちゃって……俺らだけじゃ、ゲームは進められないよね、ね、シュンスケ?」



シュンスケ : 「わかっている、少し待ってろ……アイラ君?」


アイラ : 「うん。ちょっとまってて……ヒルダお姉さま、お願いしまーす!」



GM(?) : 「あぁ……聞こえるか、皆?」



リン : 「ヒルダさんの声? ……ヒルダさん?」


GM(ヒルダ) : 「うむ……諸事情により、GMが遁走してしまったからな。今回は訳あって、私がGMを勤める事になった、よろしく頼むぞ」


シェヴァ : 「おおー、こちらこそヨロシクだぞ!」


シグ : 「だが、何故姉弟子がGMなんかを?」



GM : 「アイラ君とシュンスケのおかげで私が、GMの権限を得る事が出来たというのが最も大きな事情だが……」



シュンスケ : 「いや、殆どアイラ君の手柄だな。俺ではGM権限を動かすパスまではとけなかった」


アイラ : 「えへん、アイラさん偉い? 偉い? わー、シュンスケさん。撫でてなでてー」


シュンスケ : (なでなで)



シェヴァ : 「あ! 俺のなでなで……」


アイラ : 「えっ、何かいった、シェヴァさん?」


シェヴァ : 「べっ……別に、何でもない!」



GM : 「……本来なら私より、アイラ君やシュンスケの方が機械的な処理に通じているから、GMには適しているのだろうが……君たちにはプレイに集中してほしいと思ってな、私がGMを勤める事にした」


リン : 「わかりました。あ、でもフィガロさんは?」


GM : 「あぁ、フィガロは……」



フィガロ : 「なー、ヒルダ! 頼むからGM変わってくれさねぇ! シュンスケ君を! 好きに! 出来る! チャンスじゃ! ないさね!」




GM : (無言でシールドスマイト)




フィガロ : 「うあらば!」



GM  : 「……何をしでかすかわからんからな。この私が、しかるべき手段で黙らせておいたから安心しろ」


シグ : 「しかるべき手段!?」


シェヴァ : 「ヒルダちゃん、こえー。こえー!」


GM : 「とにかく、今回は私がGMを勤めさせてもらう事にした。不慣れな所で悪いが、全力を尽くさせてもらう。ヨロシクな?」



シグ : 「事情は分かった! それじゃ皆、行くか!」



一同 : 「おー!!!」



 という訳で。


 
前衛 : シグ(ソド男) ・ アイラ(ソド娘) ・ シェヴァ(ダクハン)


 後衛 : リン(メディ子) ・ シュンスケ(アルケ)。


 最初期のさばみそギルドメンバーが、最後の階層に挑む事になるのだった……。




リン : 「……迷宮には戻れましたけど、今、どうなっているんでしょうか? シュンスケさんが戻ってきてから、急に電源が落ちて、有耶無耶になっているうちにエトリアに戻ってきた感じがするんですけれども」


シュンスケ : 「……一応、あの後アリアドネの糸を仕様しエトリアに戻った、という処理をしておいた。仕切直しだな」


シグ : 「だが、エレベーターの電源は入ったんだよな? ……よし、いよいよ行けるぜ。B25……第5階層、最深部だ!」


シェヴァ : 「うん! 今の俺たちなら、どんな強敵にも立ち向かえる気がするよ!」



GM : 「そうか、それは良かったな……よし、それではエレベーターをつかい、いよいよ地下25階に到着した君たちの前に最初の敵が現れた! 敵は……」


シグ : 「きやがったな! 今の俺たちに死角はねぇ、返り討ちにしてや……」




GM : 「アーマービースト6体だ」




シグ : 「よし、皆帰るぞ、俺達の街、エトリアに!」 (きびすをかえしつつ)



シェヴァ : 「うん、今日はきっともう帰らなきゃいけない時間だったんだよ!」




GM : 「こらー! 気持ちは分かるが、帰るなー!!!」



シグ : 「だっていきなり、攻撃力がさほどでもないふりをしてコレだよ! なアーマービーストは無ぇーだろ! GM、もう少し手心というものをっ!」


シェヴァ : 「そうだよ、いきなりこいつらっ……最下層の探索が終わる前に俺たちの命が終わっちゃうよ!」


GM : 「だからって帰ろうとするな! この世界が終わるぞ!


リン : 「そうですよ! 回復ならぼくが頑張りますから!」


シュンスケ : 「それに今は俺の属性攻撃がある、さして苦戦はせんだろう」



シグ : 「お、そうだったな……今はシュンスケの全体属性攻撃があるから、一匹ずつ撃破しなくてもいいんだったな!」


シュンスケ : 「そうだ……大爆炎の術式、決めてやろう」


シグ : 「悪いな相棒! よし……俺たち前衛が全力で耐えている間に、属性攻撃を頼む!」



GM : 「……戦わないんだな」(笑)


シェヴァ : 「でも、それが一番消耗が少ないからね……よし、耐えた! シュンスケ!」



シュンスケ : 「分かっている……大爆炎の術式だ!」



GM : 「うむ……それで敵は一掃されたな」


シェヴァ : 「やった! やったな、シュンスケ! 誉めてつかわす!」


シュンスケ : 「……うむ、誉められてつかわす」


アイラ : 「良かったねー、シュンスケさんが復帰してくれて! これで、今まで物理攻撃が入りにくかった固くて嫌なアーマービーストも簡単に退治出来るよ!」


シグ : 「そうだな……フィガロのアニキしか居なかった頃は、通常攻撃に属性のせて一匹ずつ殴っていたからな」(笑)


アイラ : 「ねぇ、これなら案外、サクサク奥地まで進めるかもよ! ねぇ、シグ?」


シグ : 「あぁ、俄然やる気が出てきたぜ! という訳ではりきって奥へ進むぜ!」



GM : 「……と、奥底に進む君たちの前に新たな敵が現れた!」


シグ : 「よっしゃ、だが今のさばみそギルドには死角がないぜ! 何せ属性攻撃があるからな、さぁ敵は誰だ!」




GM : 「破滅の花びら2体とアーマービースト2体だ」




シグ : 「よっしゃそうか! ……今度こそ帰るぞ野郎ども撤収だ!




GM : 「だから気持ちはわかるが、帰るな!」




シグ : 「だって、何だこの布陣は! 攻撃力がさほどでもないといいつつ猛牛並の攻撃力なアーマービーストに、相手を眠らせてダメージ二倍の付加をおつけします破滅の花びらコンビじゃねぇかよ! GM、俺らをどうしたいってんだ!」



GM : 「仕方ないだろうが! ゲームとはいえルールの上でやる以上手加減など出来る訳がない!」



シュンスケ : 「そうだ、それに心配するなシグ。この程度の敵、全体攻撃を一発で殲滅だろう。そう危機感を覚える必要は……」




GM : 「スマン、シュンスケ。そう息巻くオマエにも眠り攻撃がとんだ。寝ててくれ」




シュンスケ : 「なん……だと!?」


シェヴァ : 「シュンスケ! シュンスケが帰宅早々しでかしてる! シュンスケがしでかしてるよっ!」(泣)


シグ : 「……ほら、シュンスケはコレがあるからダメなんだ」


リン : 「大丈夫ですかシュンスケさん、今起こしますからね!」


アイラ : 「本当に、驚異のバステ率だよね、何でだろー?」


シェヴァ : 「……バステ耐性のアクセサリをもっていてアレなんだから、外したらどうなるのか今から恐ろしいよ」



 ともあれ、それでも一応は熟練の冒険者である。

 破滅の花びらたちの攻撃もシグのハヤブサ駆けで何とか乗り切り。




シェヴァ : 「シュンスケ、戦闘が終わったよ。ほら、起きて起きて! 朝ご飯食べて迷宮いくよ! 朝ご飯はお粥ライスだよ!」


シグ : 「炭水化物好かぶってる!」


アイラ : 「究極超人あ〜る君だ!」


シュンスケ : 「言われなくても起きる! む、戦闘が終わったようだな……よし、改めて進むぞ」


シグ : 「おいおい、さっきまで寝てた奴が急にシキってるぞ?」(笑)


シュンスケ : 「小さい事は気にするな……いつもの事だろう?」


シェヴァ : 「確かにいつもの事だけど!」


リン : 「それをもう常識だと思っているシュンスケさん、どうかと思います……」(笑)



 さらに迷宮の奥底へ進み、現れた新たなF.O.Eも。



GM : 「そこの通路に、今まで見た事のないF.O.Eが居る……どうやら新たなタイプのF.O.Eのようだが……どうする?」


シグ : 「男なら、やってやれー……だ! 攻撃するぜ、いくぞアイラ!」


アイラ : 「おう、がってんだ! 女だけど、やってやるぅ!」


シェヴァ : 「……何だか、最近のアイラちゃんすげー逞しいよね、男の子っぽくなってきた!」


アイラ : 「そういうシェヴァさんは最近すっごく可憐だよ、女の子っぽくなってきた!」(笑)


シェヴァ : 「え!?」


シュンスケ : 「……それで、敵は?」


GM : 「……うむ。巨大なゾウのモンスターだな。その名は……樹の下の大王だ!」



アイラ : 「きゃぁ! ……ゾウだって。シグ! これはあこがれのマンガ肉を手に入れるチャンス、しっかり叩きのめしちゃいましょっ!」



GM : 「って、食べる気か!? 食べる気なのかっ!?」




シグ : 「よっしゃ、伝説のマンモス肉のため俺は本気を出す!」



GM : 「しかも何か坊ちゃんのテンションまで上がっている、だと!?」



シェヴァ : 「マンモスのマンガ肉と言われて黙ってられないぜ!」



GM : 「シェヴァまで!?」


シュンスケ : 「さばみそギルドの食欲に勝てるF.O.Eなどそうはいまい……」


GM : 「それは、何というか……何だこのギルドは、給料少なく栄養が足りてないのか?」


シグ : 「美食(グルメ)ハンターと呼んでくれたまえよ、GM」(笑)



 下層で現れた新たな驚異を前に俄然やる気になってしまったさばみそギルド面子の敵ではなく、比較的あっさり倒され。

 第5階層最後の道は、いつものさばみその、いつもの笑顔とともに着実に踏破されていった……。





> 箱の中の



GM : 「……そうして、奥へ、奥へと進んでいるうちに君たちの前に広い、ホールのような場所が開ける」


リン : 「ここは……」


アイラ : 「……姿形は、ちょっと違うけど。うん、間違いないね、ここは……」



 現実世界にあるシンジュク・セントラル・タワー……。

 彼らが今日、通ったばかりの道が。

 見てきた広場が、朽ちた姿で展開される。


 そして、その奥には見覚えのある扉……。


 現実世界のGM……西園寺馨の研究室が。

 彼が「西園寺馨」として生きる事が出来るただ一つの空間へ向かう扉が、見える……。





シュンスケ : 「Y−99研究室」


シグ : 「え? あ、何だ?」


シュンスケ : 「プロジェクト・ユグドラシルの語源は、案外ふざけていてな。研究室の名前が、Yー99研究室だったから。yggdrasill……ユグドラシル計画でいいんじゃないか、と。それだけで決まったんだ……」


アイラ : 「へぇ、意外。研究者ってそういうユーモアはないと思ってた!」


シュンスケ : 「……いや、馬鹿げた冗談の塊みたいな男だったよ。だからだろうな、馬鹿げた研究を実現させようと考えて、たった一人でも運命と戦おうと考えた……だが……」


GM : 「……」



シュンスケ : 「……もう……いないんだな……あの人は、何処にも……」


シェヴァ : 「シュンスケ……」


シュンスケ : 「……行くぞ、全てを終わらせよう」


シェヴァ : 「……うん!」



GM : 「そう、歩き出した君たちの前に一人の男が姿を現す……君たちも見覚えがある、ヒゲを蓄えた初老の男……その男の名は」


シェヴァ : 「……ヴィズルさん」


GM : 「そう、ヴィズル……執政院の長にして、エトリアの統治者である男だ。彼は君たちに厳しい視線を向けている……」


シュンスケ : 「ヴィズル……」



GM(ヴィズル) : 「『……来たか旧世代の遺物、ユグドラシード……どうだ。己が運命に従う覚悟が出来たか?』


シュンスケ : 「……俺は……」



シェヴァ : 「従わないよ!」



シュンスケ : 「シェヴァ?」


シェヴァ : 「誰かに強要される運命なんてないよ! シュンスケがここに来たのは自分で選んで来たんだ! 生まれながらの運命じゃない、シュンスケが自分で選んで、自分で進んできた先にアンタがいた、それだけだ!」


GM(ヴィズル) : 「『……それが、貴様の答えか。旧世代の遺物……世界樹の種子(ユグドラシード)?』


シュンスケ : 「…………あぁ、そうだ。俺は……ユグドラシードなんて道具(なまえ)じゃない。シュンスケ・ルディックだからな」


GM(ヴィズル) : 「『そう、か……』」



 長、ヴィズルは冷たい鉄扉に振れながら挑発的に笑う。



GM(ヴィズル) : 「『この扉の向こうにあるもの……この世界の記憶だけではなく、現実世界の記憶をも持つ貴様らならもう、おおよその予想はつくだろう?』


シグ : 「あぁ……」


アイラ : 「少なくても、子供が面白がって笑ってくれるような玩具ではなさそうだね?」


GM(ヴィズル) : 「『ならば、もういいだろう……貴様らはもう迷宮の謎を暴いた。これ以上進まなくても英雄として、私が認めよう。だからこの扉はも開くひつようなどないだろう……違うか?』」


シュンスケ : 「残念ながら、そうはいかない」


GM(ヴィズル) : 「『……何が欲しい? 地位や名声はくれてやる、といったのだ。謎を暴いたオマエたちを私は、執政院のバックアップを含めて英雄として認め、あがめさせよう。それでも……この迷宮の先が、見たいというのか? 何故だ? 秘密を暴いて、貴様に何がある? 貴様は、貴様らはいったい何を望んでいるというのだ』


シュンスケ : 「俺の望みは…………貴方を、自由にする事だ」


GM(ヴィズル) : 「『私を? 何をいって……』



シュンスケ : 「……もう解っているのでしょう、ヴィズルさん」


GM(ヴィズル) : 「『…………』


シュンスケ : 「こんな茶番を行う必要など、貴方にはなかったはずだ。街を繁栄させる理由も、迷宮の存在を世に知らしめる理由も貴方には……だが、貴方はそれを行った。その理由は、貴方自身が一番心得ているはず……そう、貴方は……終わらせたかったのでは、ないですか……?



 ヴィズルは僅かに頬をゆるめる。

 だがその目は、鋭い視線のままだ。




GM(ヴィズル) : 「『……終わらせたいのか、束縛の輪廻を?』


シュンスケ : 「えぇ……終わらせましょう、前に進む為に」


GM(ヴィズル) : 「『……いいだろう、全てを丸ごと飲み込んで受け入れ、生きる覚悟があるというのなら……迷宮の先に何があるのか、その目で確かめるがいい。ただ……』」



 ヴィズルに目に、強い拒絶の色と闘志が浮かぶ。



GM(ヴィズル) : 「『覚悟しろ、この迷宮の本当の姿を目にしたその時は……私は貴様たちを、全力で排除する!



 そして重々しい鉄扉を開くと、素早く部屋の中に入ってしまった。

 扉は、カードキーにより固く閉ざされている……。




シュンスケ : 「……」


シェヴァ : 「シュンスケ……大丈夫?」


シュンスケ : 「あぁ……心配するな、大事ない」


リン : 「でも、どうしますか? ヴィズルさん、あんな事言ってましたよ……きっと、この先で……」


シグ : 「あぁ。だがよ、立ち止まっていても仕方ないだろ? 行くぞ、皆……」



 皆の意志を確認して、シグは扉に手をかける。

 だが……。




シグ : 「ん?」 (ガチャ、ガチャガチャ)


アイラ : 「あれ、どうしたのシグ?」


シグ : 「……いや、鍵がかかってる」



一同 : 「なんですと!?」



シェヴァ : 「そんなっ、鍵なんてあったっけ、あれ?」


シグ : 「し、しらねーよ! とにかく鍵がかかってんだから!」(汗)



シュンスケ : 「……えっと」



シグ : 「……って、ここまで来て鍵がないとか、ないだろ。おい、どうなってんだ、GM?」


GM : 「えぇっ!? わ、私か……そ、そういわれてもだな」 (オロオロ)


リン : 「か、鞄に入ってるんじゃないですか、探してみましょう……」 (オロオロ)


アイラ : 「は、入ってないみたいだよ! 何かの皮とか、何かの牙とか、そんなのばっかり!」


シグ : 「……どこかまだ、行ってない部屋があるのか!?」


シェヴァ : 「そ、そんなはずないよ! 俺、全部見てるもん! 地図は完璧だよ!」



シュンスケ : 「……あのな、皆」



GM 「わ、私もしらんぞ! 鍵の事なんて……」


シグ : 「くそ……ここまできて、足止めだって!?」


リン : 「どうします、また戻って鍵を探しに……」


GM : 「いや、システムが不安定だ……もう戻る程、持つかどうか……」


シグ : 「……畜生! ここまできて……間に合わないってのか!」



シュンスケ : 「……あの、な。シグ、皆、その……何だ」


シグ : 「ん、どうした、シュンスケ?」


シュンスケ : 「……いや、その鍵……俺が、持ってる




一同 : 「なんですと?」




シュンスケ : 「いや、だからな……鍵。その……俺が、もってるんだ、うん」



一同 : 「えー!!!」



シグ : 「…………何でオマエがもってんだよ!」


シュンスケ : 「何というか、その……レンとツスクルからもらったというか……」


リン : 「そういえば、レンさんもシュンスケさんに渡したっていってましたね」 (前々回参照)


シェヴァ : 「だったら! なんですぐに出さないんだよ、シュンスケ!」


シュンスケ : 「忘れていたというか、タイミングを逸したというか……」


シグ&シェヴァ : 「…………」



シュンスケ : 「……………………てへ」(ペロ)




シェヴァ : 「可愛く誤魔化してもダメ!」




シグ : 「……可愛く誤魔化してたのか、今の?」


GM : 「うむ……若干、不気味ではあったな」


シグ : 「まぁ、とにかく鍵があったなら問題ねぇ、借りるぞシュンスケ」


シュンスケ : 「あぁ……すまない」


シグ : 「それじゃ、改めて……行くぞ、皆!」



一同 : 「……おー!」



 皆の意志を確認しながら、シグは扉を開く。

 第5階層最深部……全てを知る男の、居場所へ。





> つみの王〜積み木の王、あるいは罪着の王。



シグ : 「扉をあけて……いいな、GM?」


GM : 「…………」


シグ : 「GM?」


GM : 「すま……い、シグ……皆……ここまで、の……よう……」


シグ : 「GM!?」


シュンスケ : 「……システムが不安定だからな、管理権限を用いる、限界だろう」



GM : 「どうや……その、よう……だ。すまん、私は……ここまで、のよ……健闘を、祈る……」



 GMからの通信が途切れる。

 どうやら、後は……こちらが切り開いていかなければ、いけないらしい。





シグ : 「……最後の戦いは、直接対決しろってことか」


シュンスケ : 「あぁ、そのようだ……行くぞ」



 皆無言で頷く。

 さばみそギルドの前には、一人の男が……否、男であったものが、存在していた……。



ヴィズル : 「来たか、冒険者……」



 その手は。

 その足は。

 その肉体は、巨大なシステム……世界樹に捕らわれ、システムの一部となりながらまだ生きている 「旧時代」 唯一の生き残り……。




リン : 「ヴィズルさん……」


ヴィズル : 「……どうだ、これが貴様らの望んだもの……」



 幾千年の孤独をただ一人。

 胸に抱いてこの世界を浄化し続けた存在(もの)……。




ヴィズル : 「……この迷宮の、真実だ」



アイラ : 「これが、この迷宮の真実?」


ヴィズル : 「いかにも」


シュンスケ : 「……世界を浄化させる為のシステム。世界を管理し制御するシステム……ユグドラシル……」


ヴィズル : 「その通りだ」


リン : 「旧世代……世界に新たな命が芽生えるまで、貴方が世界を管理していたんですか。私たちが生まれる以前よりずっと……」


ヴィズル : 「それが世界樹の王である我が使命……」


シェヴァ : 「…………」


ヴィズル : 「我が背負っている命の重さが見えるか? 我が背負っている命運の重さを前に、貴様ら5人の命などちっぽけなゴミである事がわかるか? さぁ、全力でいくぞ……世界樹の王は、まだ朽ちる訳にはいかぬ!」



 ヴィズルの闘志が強い殺意に変わる……。

 戦闘の準備は完了している!


 全てを知る長…… 世界樹の王 が冒険者の前に立ちはだかった!




シグ : 「……よし、相棒!いくぞ、得意のチェイスは、氷か!?」


シュンスケ : 「いや……大爆炎だ」


シグ : 「……炎?」


シュンスケ : 「……燃やしてくれ、全て……あの人の過去を……俺の背負ってきた束縛の鎖を……」


シグ : 「……わかった」



アイラ : 「ヘッドバッシュ、行くよ! ……シェヴァさん!」


シェヴァ : 「よっしゃ、アームボンテージだ!」


リン : 「医術防御です、間に合うといいけど……」



 その時王の腕となる枝葉とも蔦とも思えぬそれが鞭のようにしなる!

 …………サウザンドネイルだ!




シグ : 「!!」



リン: 「シグ!」


アイラ : 「ちょっと、大丈夫シグ!? 倒れたら承知しないんだからね!」


シグ : 「へへっ……大丈夫だ、まだやれるぜぇ! 俺でよかったよな!」


シェヴァ : 「……腕技かな、縛りがきくといいけど……ダメか、失敗」


アイラ : 「ヘッドバッシュ! ……だめ、失敗だよ〜」


シグ : 「よし、上出来だ……相棒!」


シュンスケ : 「……任せろ。大爆炎の術式だ!



 今までに見た事がない程の熱い炎が、王の身体を焦がす……。



ヴィズル : 「……炎とはらしくないな、ユグドラシード?」


シュンスケ : 「俺は氷の術式が好きだった……氷の中にある花が永遠に美しさを保つよう、記憶を止める事で思いは永遠に美しいのだと、そう思っていたから……その思いを術式に重ねていたから……」


シェヴァ : 「……」


シュンスケ : 「だが、違ったんだな……ともに歩き出す事で、美しくなる思い出があるのだから……進む事を恐れて記憶を止め、己の中に引きこもっていてはいつまでも……世界が微笑む事はないのだと……」


シェヴァ : 「シュンスケ……」



シュンスケ : 「だから貴様を焼き尽くす! 全てを燃やし、新たな息吹に変える為に!」



 その瞬間。

 ヴィズルの表情が一瞬和らぎ……その面影に、別の誰かのそれが重なる。




ヴィズル(?) : 「いい目になったな、失う事を恐れて動けなくなっていた君とは違う……」


シュンスケ : 「!?」



ヴィズル(?) : 「強くなったね、椎名くん……それでこそ、私が残した希望だよ」



シュンスケ : 「そんな、西園寺、せんせ……」



 だがそれは一瞬だった。

 再びヴィズルの目に激しい闘志が戻る。





ヴィズル : 「だがなぁ、その程度の炎じゃ、焦げ付きもしないぞ……ユグドラシード?」


 戦闘は、続いていた。



シグ : 「続けるぜ、相棒! チェイスをどんどんたたきこんでやれ!」


シュンスケ : 「……わかってる」


シェヴァ : 「おれ、ブースト! アームボンテージだ!」


アイラ : 「……私もブースト、ヘッドボンテージ!」


リン : 「怪我している人がいますね……エリアキュアをします!」



 ヴィズルの蔦のようにしなる腕先が風をきる……。

 サウザンドネイル




アイラ : 「……ひゃぁ!」


シェヴァ : 「……うわ!」


リン : 「……アイラさん! シェヴァさん! ……今回復します。エリアキュア!」



ヴィズル : 「……回復、か。後衛に潜みただ癒すだけの能力……最後までかわらないままだったな?」


シグ : 「テメェ! なっ、リンに何言ってやがんだ!」


リン : 「シグ……ううん、あの人の言う通り。ボクは……変わりたいって思ってた。でも……変わる事ができない女の子だったと、思います……」



 暖かな手が、皆の傷を癒す……。



リン : 「……でも、変わった事もあったんですよ。少しずつだけどボクは、人を治すのが上手になって……みんなと話すのも楽しくなって……」


ヴィズル : 「……」


リン : 「自分でも、トロいなぁって思うんです……でも……そんな自分でも、いいのかなって思えてきたんです……私、バカで、トロくて、うじうじ悩んじゃう女の子だけど……でも、自分が好き。好きに、なってきたんです」



 また、一瞬。

 ヴィズルの表情が……和らぐ。




ヴィズル(?) : 「とても素敵な子なのに、自分に魅力がないみたいに振る舞っていたから、少し心配だったけど……」


リン : 「……えっ!?」


ヴィズル(?) : 「自分が好きになれた君は、最初あった時よりずっと綺麗になったね」


リン : 「あ……」


ヴィズル(?) : 「だから彼も君を見てくれるようになったんだよ……梨花くん。幸せに、おなり。君は私が見られなかった幸福そのものだよ」



リン : 「貴方は……西園寺、さん?」



シェヴァ : 「よっしゃ、仕返し! 行くよ、アイラちゃん! ……ブースト、アームボンテージ! ……縛れないっ!」


アイラ : 「オッケーわかったシェヴァさん! ヘッドボンテージ! ……こっちは成功!」



 戸惑うリンの言葉を、戦闘の激しさが消し飛ばす。

 ヴィズルの顔に、すでに笑顔は消え失せていた。

 だが。




リン : 「西園寺さん……ありがとございます……」



 彼女に残された言葉は、消えずに残り続けていた。



シュンスケ : 「まだTPは大丈夫だな、シグ……チェイスを頼むぞ?」


シグ : 「当たり前だ、任せておけ!」


アイラ : 「頭封じたからなぁ、きくかわかんないけど、スタン!」


シェヴァ : 「俺は引き続きアームボンテージだっ!」



 行動が決まると、王はまるでこちらの様子をうかがうように腕をしならせる。

 三度目のサウザンドネイル……。




シグ : 「アイラ、シェヴァ、まだいけるな!」


シェヴァ : 「おう! 反撃の、アームボンテージだ!……よし、決まった!」


アイラ : 「まかせて! ……スタンスマッシュだ!」


 と、その時。

 空間が歪み、何処かから声が聞こえてくる……。




ヒルダ : 「皆、聞こえるか!?」


シュンスケ : 「……ヒルダ?」


アイラ : 「ヒルダおねーさま!?」


ヒルダ : 「王の弱点を……見つけた、今からそれを伝える……」



 空間が歪む。

 その歪みに、ヴィズルは鋭い視線を向けた。




ヒルダ : 「ひっ……こ、これが……世界樹の王?」




 その造詣に一瞬驚くヒルダに、ヴィズルは僅かに微笑んだ。



ヴィズル(?) : 「自らの弱さをさらけ出そうとしないのは、君の悪い所だね?」


ヒルダ : 「……な、に?」


ヴィズル(?) : 「弱さを他者に見せたまえ。一人では人が無力である事をもっと自覚したまえ。他人に寄り添い歩く喜びも、覚えてみたまえ」


ヒルダ : 「……オマエ、は……?」


ヴィズル(?) : 「笑いたまえ。そして、もっと泣きたまえ。それが君の人生を豊かにする……だがきみにはその訓練がもう必要だね、滝くん?」


ヒルダ : 「……西園寺?」


ヴィズル(?) : 「そういった訓練は、君が毛虫のように毛嫌いしている神崎(あの男)が得意だよ、嫌がらず一度レッスンを受けてみたまえ……じゃぁ、さよならだ。次に会う時はとびっきりの美女になっている事を、期待しているよ?」


ヒルダ : 「……ばかな、西園寺?」



 歪んだ空間を一瞥すると、ヒルダの声が届かなくなる。

 歪みを遮断されたのか……。

 戦闘は、続いていた。





シュンスケ : 「……シグ、続けるぞ。戦闘だ!」


シグ : 「言われなくても……アイラ! シェヴァ!」


アイラ : 「……はいな!」


シェヴァ : 「まかせて、レッグボンテージも……決まった!」



 三点縛りが完成した瞬間、王は不気味に笑って蠢く。

 封じのせいで、攻撃を繰り出す事は出来ないようだが……。




アイラ : 「いった! いった、いったよ! シェヴァさん、次は必殺技決めちゃって!」


シェヴァ : 「わかった、エクスタシーいくぜ!」


シグ : 「よっしゃ、立て続けていくぞ、チェイス頼む!」


シュンスケ : 「……解っている、いくぞ。アイラ君、シェヴァ、オマエたちも頼む!


アイラ : 「わかってる、とにかくいくよー! スタンスマッシュだ!」



 走り出すアイラに、王は視線を向ける。

 その視線は不思議と暖かく穏やかで……彼女の攻撃の、その手をゆるめた。




ヴィズル(?) : 「君は相変わらずお転婆で……お淑やかさにかけるねぇ?」


アイラ : 「……え?」


ヴィズル(?) : 「でも君はそれを受け入れて、また認めている……素晴らしい事だよ、簡単にみえてなかなか出来ない事だ」


アイラ : 「えっ? えっ? 貴方は……」


ヴィズル(?) : 「だからきっと君は何時か巡り会う事が出来るだろうね。君が望んだ以上の存在を……それだけの強さがある。若葉くん、君は、強い女性だよ」


アイラ : 「……西園寺さん? えっ、西園寺さん、なんですか?」



ヴィズル(?) : 「……祝福、出来るね?」


アイラ : 「え?」


ヴィズル(?) : 「来る時、二人を祝福出来るねと。そう、聞いたんだよ……出来るかい?」



アイラ : 「あ……はい! 祝福します、きっと……きっと、きっと、祝福します!



ヴィズル(?) : 「そうか……それはよかった。私は、君のその笑顔が好きだ



アイラ : 「……西園寺さん。あ、ありがとう……ございま……」



シュンスケ : 「大爆炎の術式!



 轟音が、言葉を裂く。

 彼女が気付いた時、戦闘は始まり……ヴィズルには今見た男の面影が消え失せていた。




シグ : 「……まだやれる、まだやれるな皆! ……攻撃を!」


シュンスケ : 「わかっている……大爆炎だ、準備をしてくれシグ!」


シグ : 「あぁ……行くぞ!」



 封じを施された王は身動ぎせず、ただ攻撃を受けるのみとなる……。

 その最中。




シュンスケ : 「大爆炎の術式!」



シグ : 「よっしゃ、チェイスファイア、いくぜ!」



 炎をまとい剣を振るう。

 シグの剣を身体に受けた王の顔は何故か……不思議と、安らかだった。




シグ : 「……っ、剣が……抜けない?」


ヴィズル(?) : 「はぁ……相当堪えてるよこれは。うん……やはり、君は強いね。桐生くん?」


シグ : 「はぁっ? オマエ、何て……」


ヴィズル(?) : 「だが少々鈍感で無鉄砲すぎるのが玉に瑕だね、騙されやすいのもいけない……一歩考え反省する事を覚えたまえ? 君は……もう、一人でいていい男では、無いんだからね?」



シグ : 「はぁッ!? ……おまえ……いや、貴方は……?」



ヴィズル(?) : 「……思慮をもちたまえ。そして、敬いたまえ。君はもう一人の身体ではない……誰かを愛し、その愛を育み、育てなければいけない男だ……そうじゃないのかな?」


シグ : 「……西園寺?」



ヴィズル(?) : 「君は強い。だが、それだけではどうしようもない場合がある……だから、強さにかまけてはいけないよ。良く、考えたまえよ? 君が愛する人と、君が愛する平穏の為にもね?」



シグ : 「……解ってるっての、バーカ」


ヴィズル(?) : 「ならばよろしい! それでは……幸福を!」


シグ : 「あぁ……幸福を!」



 その時、シグの剣がヴィズルの身体から抜ける。

 同時に仲間たちの追撃があり……王はその身を輝かせ震わせた。


 ……王の誇り!

 自身の封じ状態を全て解除する技だ。




シグ : 「……西園寺」


シュンスケ : 「どうした、シグ?」


シグ : 「いや……続けるぞ、封じ解除されちまったが……」


シェヴァ : 「また封じればいいよ、アームボンテージ!」


アイラ : 「そだね、ヘッドバッシュ!」



 攻撃をかまえるパーティの前で、王は静かに呼吸を整える……。

 王の威厳だ。

 そのスキルは……強化能力を、うち消す!



アイラ : 「え、やばっ! これ、次、医術防御こないとやば……」


シェヴァ : 「その前に叩いちゃえばいいんだよ! よし、行くぞっ……」



 走り出したシェヴァに、王は鋭い一瞥をくれる。

 憎悪に近い感情に晒され、シェヴァはその足を一瞬止める……。




ヴィズル(?) : 「七瀬澪」


シェヴァ : 「え?」


ヴィズル(?) : 「私は、オマエがかった……才能ある椎名君の感情を、自らの思いで鎖のように縛り付けるオマエが……何の努力もせずただ、彼の慕情を貪り喰らって生きる、オマエという獣がな……」


シェヴァ : 「誰だよっ、何でそんな……」


ヴィズル(?) : 「己を限界まで傷つけ、この世の嵐全てからオマエを守ろうとする椎名君を、ボロボロになるまで使い潰してもまだ彼の庇護から抜けようとしない愚かで浅ましい獣……情というものだけで武器も使わず人を魂ごと刻むオマエを……恐ろしくだが憎らしい獣だと、本心から思ったものだよ」


シェヴァ : 「……」



ヴィズル(?) : 「さぁ、七瀬君。今真実を知った君は……まだ彼を喰らいつくすケダモノでいるつもりかね?



シェヴァ : 「おれは……」


ヴィズル(?) : 「……」


シェヴァ : 「淳兄ぃが居ない世界では、生きていけない……淳兄ぃがいないと、生きる意味がわからない……」



ヴィズル(?) : 「そうか」



シェヴァ : 「でも……前と少し違うのは……何だろうな。今は、その……淳兄ぃに、何かしてもらおうとか。淳兄ぃに、何かしてほしいってのは……あんまり、無いんだ」



ヴィズル(?) : 「…………」


シェヴァ : 「淳兄ぃに、何かしてあげたい……淳兄ぃに、淳兄ぃのしたい事してほしいって……もう、俺の事に一生懸命にならなくてもいいから……淳兄ぃには、淳兄ぃの好きなことしてほしいなって……その為なら……」



ヴィズル(?) : 「……」



シェヴァ : 「俺、今は何だって出来る気がするんだ」



ヴィズル(?) : 「……そう、か」



 ヴィズルは笑う。

 穏やかに、朗らかに。





ヴィズル(?) : 「それが君の笑顔なんだね」


シェヴァ : 「え?」


ヴィズル(?) : 「…………やっと君の心からの笑顔を、見れた気がするよ」


シェヴァ : 「えっ、えっ?」


ヴィズル(?) : 「椎名君にはまだ、君の力が必要だろう。だから……」


シェヴァ : 「え、あ……西園寺さん?」



ヴィズル(?) : 「……私の教え子を、頼む」



シェヴァ : 「あ……はい!」



 穏やかな時は、程なくして終わりを迎える。

 次のターン。

 妖しく輝く王の周囲にある世界樹の枝葉が一斉にうなりをあげてパーティを襲った……。


 …………サイクロンウェーブ!



 その効果は……平均500オーヴァーの全体攻撃!



リン : 「え? あ……きゃぁああぁ!」



 一瞬の出来事だった。

 嵐のような枝葉の攻撃に、リンは成す統べもなく倒れる。



シェヴァ : 「リンちゃん! あ、ちょ……まってて、俺がアムリタを……」


シグ : 「チッ……シェヴァ、その前に耐性を立て直したい! ソーマを頼む!」


シェヴァ : 「わかった!」


シグ : 「シュンスケとアイラは引き続き攻撃を頼む!」


シュンスケ : 「了解した」


アイラ : 「がってん!」



 しかし。

 医術防御がない状態でサイクロンウェーブは確実にパーティの体力を削っていき、そして……。




アイラ : 「あ、れ……あたし、もう、ダメかも……」



シグ : 「!? アイラ?」


アイラ : 「ごめん、シグ……悔しいけど、少し休むね」



 リンに次いで、アイラが倒れる。

 だが。




アイラ : 「せめて一矢報いたから……ヘッドバッシュきめておいたよ、だから……少しだけ、眠らせてね?」



 倒れる前、彼女は最後に一つ仕事をした。

 だがそれが正解だったのだ。


 体力が少なくなった王は「インフェルノ」を連発するが頭封じで無効化。

 その間に、メンバーは体制を整えながら善戦をする。


 だが……。



シグ : 「……っ、強ぇな。おい、シェヴァ、まだやれるか?」


シェヴァ : 「うん……でも……」


シュンスケ : 「……GMがいないからな、今敵がどれだけ体力が残っているのかもわからん……くそ、アイテムが持つかどうか……」



 ……その時。

 再び空間が歪み、聞き覚えの声がする。

 目を向ければ、異空間から話しかけるフィガロの姿が見てとれた。




フィガロ : 「聞こえるかい、皆!?」


シグ : 「え……アニキ!? どうして?」


フィガロ : 「……ちょっと権限を弄らせてもらって……さっき、ヒルダが伝えられなかった事をな。よし、見えた。コイツの残り体力は1200ちょい……畳みかければオマエたちでやれるよ! ……これだけ解れば、幾分か楽だろう?」


シグ : 「あ、アニキ……助かりました!」


フィガロ : 「気にするなって、それ位しか出来ないんだからさ……」



 その時、フィガロの視線が王とぶつかる。

 二人は暫く違いを見据えていたが、やがて王は僅かに笑った。




ヴィズル(?) : 「……神崎君か」


フィガロ : 「……何さね」


ヴィズル(?) : 「きみに、特に言う事はない。せいぜい、性病にでも気をつけて人生を楽しみたまえよ?」


フィガロ : 「あはは! 言われなくても解ってるさね!」


ヴィズル(?) : 「だろうな……君はそういう生き物だ。だから余計な事はいわないよ?」


フィガロ : 「そりゃどーも……」


ヴィズル(?) : 「いずれ会う事があったら、君とはゆっくり話してみたいもんだね……きっと、趣味があう」


フィガロ : 「俺もさね! そうだ……いつか……天上でな」


ヴィズル(?) : 「あぁ……良い旅を!」


フィガロ : 「いい旅を!」



 ヴィズルは……西園寺馨は笑うと、再び戦場へ目を向ける。

 気付いた時、フィガロの幻影も消えていた。

 通信機を無理につかって、情報を伝えてくれたのだろう……。




シグ : 「よし、アニキが伝えてくれたのが事実なら、俺たちならやれるっ……行くぞ!」


シェヴァ : 「おう!」


シュンスケ : 「わかった!」



 炎が舞い、鞭がしなる。

 残り僅かになった王の体力は少しずつ削れていき、その抵抗も……。


 運命に抗う事が出来ぬ程に、なりはじめていた。


 そして……




シェヴァ : 「……ボンテージ! ダメだ……シュンスケ!」


シュンスケ : 「…………わかった」



 黒い髪の男が、舞う。



シュンスケ : 「……もう、終わりにましょう。ヴィズルさん……いや、西園寺先生。プロジェクト・ユグドラシルは……この世界には、必要がない……」



 腕に赤い炎を輝かせ。

 強い決意を目に秘めて。


 爆音を轟かせ、王の身体に熱の一波を喰らわせる。


 その刹那。




ヴィズル : 「ぁ……あ! ぁ……あぁああぁぁあぁああぁ!」



 王の身体が輝いた。

 その口からは叫びとも嘆きともとれぬ声が漏れる。


 身体をよじらせて天を仰ぐ。

 王は暫く苦しそうに顎を奮わせると、やがて……。




ヴィズル : 「これ……で、いい……ぁ……り、が……と……」



 最後の息を吐き出し、その機能を停止した。


 同時に、世界樹に捕らわれていた王の身体はするりと樹より抜け落ちる。

 脱け殻のようになった身体は、千年生きた男にしてはあまりにも小さく……乾いて見えた。




シグ : 「やったか!」


シェヴァ : 「終わった!?」



 背後で見ている二人は、同時に声をあげる。

 王が、倒れた……。

 それは、戦いが終わった事を意味している。


 歓喜の声をあげる二人、その声を背にして、シュンスケ・ルディックは王の躯。

 その傍らに跪く。


 そして、枯れ木のような身体を抱きしめるとその目を閉じて呟いた。



シュンスケ : 「西園寺先生……」



 閉じた目はもう開かない。

 体温は休息に失われ、顔の色も肌の色も土気色になっていく……。




シュンスケ : 「…………………………おつかれ、さまでした」



 永劫の休息が、ようやく王に訪れる。

 幾千の命を背に、幾千の年月を生きた王の静かな死を前に、シュンスケの目からは自然と涙が零れていた。




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