> 界樹の迷宮をTRPGのリプレイ風にかいている日記が仲間にしてほしそうにこちらを見ている。





までのあらすじ >


 褐色ダク男のシェヴァさんはカースメーカーフラグをたてているようですが、すでにフラグ回収されているので実際のフラグはたちません。




> ツクルの穴



 前回のセッションから数日後の、都内某所(いつのもばしょ)……。



GM : 「さて、今日も皆さんにお集まり頂いた訳だけど……ひぃ、ふぅ、みぃ。おや、面子が一人足りないぞぉ! どうしたのかなぁ?」


シグ : 「最初から気付いてたのに、わざとらしいッスねマスター……今日はフィガロのプレイヤーが、どうしても抜けられない用事があるって言ってたから、来てないんですよ」



GM : 「そうか、それは残念だ! 残念だが……で、今回。フィガロの代わりにくるのは、どんなプレイヤーなのかね?」



リン : 「えっと、あの……」



GM : 「女の子? 女子? それとも、女生徒!? あいや、まぁ、女人でも全然かまわないんだけどね、ね!(笑)



シグ : 「貪欲だ、このGMは女人に貪欲だな。以前、フィガロも似たような事聞いてた気がするが」(笑)


シュンスケ : 「……別に、代理のプレイヤーはいないぞ?」




GM : 「!?」



シュンスケ : 「何、そんなショックを受けたような表情をしているんだ、GMは……忘れたのか? 元々フィガロはシェヴァの代理で入ってきたプレイヤーだぞ? シェヴァのプレイヤーが帰ってきた以上、もう必要もあるまい……むしろ俺としては、もう来なくていい位の勢いがある



シェヴァ : 「ただーいまっと!」



GM : 「えー、俺結構新しい女人キャラとか期待してーたのーになー!」


ヒルダ : 「……まぁ、期待をするのは勝手だが」


シュンスケ : 「それにこたえてやる義理はないな」


リン : 「あはっ……それに、今、もう一人プレイヤーが来たら、その人がパーティに入れなくなっちゃいますもんね」



GM : 「……うーむ。まぁ、その通りだから仕方ないか。女人キャラが足されないのは悲しいが、確かに現状で5人パーティな訳だし」


ヒルダ : 「あぁ、準備万端、怠りはない」



GM : 「それに、シェヴァはまぁ、半分女の子みたいなモンだしな!」(笑)



シェヴァ : 「そうそう、俺もぅいつも女の子扱いされてるし、顔も女の子っぽいからねー……って、そんな訳ないだろマスター! 俺、男! おーとこーの子だからッ」 (※ノリツッコミ)




シグ : 「そうだな、シェヴァはまぁ、女の子みたいなモンだし」


ヒルダ : 「私より淑やかに振る舞う事すらあるな」


リン : 「シェヴァさん、可愛いです」



シェヴァ : 「しかも、みんなまでッ! ……そんな事ないよね! 俺、男らしいよね! ねぇシュンスケ、俺男だよね! 強くなったよね!」


シュンスケ : 「……あぁ」


シェヴァ : 「ほらー、男だよー! シュンスケ言ってるもーん。ね、シュンスケほら、俺強いよ! 偉いよ! ね、俺偉いよね、シュンスケ! 誉めて誉めてー!」


シュンスケ : (なでなで)


シェヴァ : 「えーへーへー、シュンスケに撫でてもらったーおれ、えらいー」



ヒルダ : 「……そういう所が男らしくないと言うのだがな」


シグ : 「言ってやるな姉弟子、それを言うとまたシェヴァが同じ事を繰り返すからな」(笑)



 という訳で、本日は フィガロ(バード)がいないので探索は。


 前衛 : シグ・ヒルダ・シェヴァ

 後衛 : リン・シュンスケ


 の面子になるのだった……。




シュンスケ : 「さて、探索するメンバーは決まったが……前回はどこまで進んでたんだ?」


シグ : 「ン? あぁ、シュンスケは前回の探索メンバーに入ってなかったか、えっと、そうだな、大まかにまとめると……」




シェヴァ : 「ツスクルの穴見つけた! でも穴に上手に入るのなかったから途中で諦めた! けど、ツスクルは最後までいってねって言われた! ……こんな感じ?」




シグ : 「そうそう、こんな感じこんな感じ……って、ちょっと待て!」



GM : 「何か色々混じった結果、非道く勘ぐられるような内容になっているぞ、シェヴァ」(笑)



シュンスケ : 「!? どういう事だシグ、ツスクルが……ツスクルが何をしたッ!? 返答によっては……このシュンスケ・ルディック容赦せん!」


ヒルダ : 「シュンスケも落ち着け、別に何がどうした訳ではないッ! 狼狽えるな、素数を数えて落ち着くんだッ!」


シュンスケ : 「……うむ、すまない。だが……さしもの俺でも、今のシェヴァの説明では理解出来ないな。シグ、説明してくれないか?」


シグ : 「説明ィ? 俺、説明するの苦手なんだよなぁ……」


シュンスケ : 「大まかに理解出来ればいい、詳しくでなくてもいいぞ」


シグ : 「そうだな、一言でまとめるとすると……」


シュンスケ : 「あぁ」



シグ : 「ゴールドホーンの肉は肉厚、かつ肉汁がジューシィでなかなか美味だったぞ?」



シュンスケ : 「今はそういう食いしん坊トークは求めてない」




シグ : 「肉が好きで何が悪い!」



シュンスケ : 「肉好きを咎めた記憶もない……リンくん! ヒルダ! すまん、男二人がニワトリ頭だったようだ……俺に詳しい状況を教えて貰えないか?」



リン : 「えっ!? ぼ、ボクがですか、えっと、えっと……だ、第4階層はがいっぱいあって、靴に砂が一杯入って、大変で、それで……」


シュンスケ : 「長くなりそうだな……ヒルダ?」




ヒルダ : 「べ、べ、別に、ねずみが出た事で狼狽えたりはしていないぞ!」




シュンスケ : 「……わかったわかった、ヒルダは狼狽えたりしないな……って、大丈夫かこのギルド! 誰一人、前回のセッションをまともに説明出来てないのだがッ!」



シェヴァ : 「まーまー、何とかなるって、な!」


シグ : 「そうそう、細かい事気にしてると、ハゲるぞ、シュンスケ?」


シュンスケ : 「お前たちこそ、もう少し細かい事を気にしないと、冒険者として寿命が縮むぞ……」




> 服か、それとも



シグ : 「まぁ、細かい事は気にしない精神で、とりあえず執政院に行こうぜ!」


シュンスケ : 「……執政院? 珍しいな、普段はなで肩に会いに行くのをあれだけ渋るお前が、率先してあいつに会いに行こうだなんて」




シグ : 「べ、べ、別に眼鏡萌えした訳じゃないんだからねッ!」



ヒルダ : 「何でツンデレ化するんだ、坊ちゃん」(笑)


シェヴァ : 「穴にいれる道具を執政院に渡しちゃったから、それをとりに行くんだよ!」


シュンスケ : 「穴、何のだ?」


シェヴァ : 「だから、ツスクルの……」


GM : 「やめろシェヴァ、またシュンスケが混乱するぞ」(笑)


ヒルダ : 「実は、地下16階の途中で進めない場所があってな。そこ先に進む為の扉を開くのに、以前亜人の少女が落とした石板のかけらが必要のようでな……その石板のかけらを借り受ける事が出来ないか、話に行く所だ」


シュンスケ : 「なるほど、やっとまともな前回の出来事が聞けたな」



シグ : 「という訳で……執政院へ行くぜ! たのもー、たのもー!」



GM : 「そんな道場破りみたいにドンドン扉を叩かないでくれ。(笑) (執政院の眼鏡) 『何だ、誰かと思えばさばみそギルドのキミたちじゃないか。以前はありがとう。今我々は、キミたちがひろった石版の解読作業を進めている所だ』


シグ : 「いや、それなんだけどさ、なで肩眼鏡君。実はかくかくしかじかで、その石版を借り受けたいのだがいかがかね?」


GM : 「だからなで肩じゃないかもしれないだろうに…… (なで肩眼鏡)『石版をかい? でも、我々も今解読作業中で、簡単に貸す訳には……』


シグ : 「まぁまぁ、そう言わずに……な?」 (懐の剣をちらつかせながら)




GM : 「脅しだー!!!」 



ヒルダ : 「な、何をしている坊ちゃん! 駄目だろう!」


GM : (よかった、まともな人がいた……)


ヒルダ : 「そういう事はもっときっちり、喉元に突きつけてやるべきだろうが! こう……ちゃんとキッチリ脅せ!」


シグ : 「あはは、そうだった俺うっかりしてたよ姉弟子ぃ!」


GM : 「い、いや、そこはキッチリとしちゃ駄目だろ! いや、脅しには屈しないぞ! 執政院だからな! (エトリアなで肩の会会長)『うーむ……何にせよそれは、私の一存では決められないな……長と相談してくれないか?』


ヒルダ : 「長?」


シグ : 「族長(オサ)! 族長(オサ)!」


GM  : 「いつも長を出すと、シグのテンションが上がるな」(笑)


シェヴァ : 「あぁ、ヒルダちゃんは会うの初めてだっけ? 執政院の長で……この街の政治を司る、おじさんだよ。町長さんみたいな人ね」


ヒルダ : 「そうか……」


GM : 「こうしてキミたちは促されるまま、執政院の長である男……ヴィズルの元へ案内される。 (ヴィズル) 『久しぶりだな、さばみその諸君……確か、石版を借り受けたいという話だったね』


シグ : 「案内早ッ! 執政院の長なのに、呼べばすぐ通してくれンのか!?」


ヒルダ : 「案外暇なのかもな」


GM : 「ち、ち、違うわい! 今日はたまたま暇だっただけだぃ!(執政院の長・ヴィズル)『……実はあの石版を調べて分かった事があるのだが、聞いて頂けないかね?』



シグ : 「だが断る! といっても、聞かせるんだろう?」(笑)


GM : 「あたりきよゥ!(笑) (ヴィズル)『あの石版を調べて分かった事がある……そう、キミたちが遭遇した亜人の娘は モリビト と言う樹海の住人で、人とは違った進化を続けた、樹海に住まう生物のようだ……』」



リン : 「モリビト……以外と、そのまんまですね」


シェヴァ : 「うん。でも、それでいいんじゃない。樹海に住むのに 海人(うみんちゅ) とかつけられた方がちょっと困るし」(笑)


シュンスケ : 「だがあまりにもそのまますぎるな。どうせなら 森人(もりんちゅ) くらいひねればよかったろうに」


GM : 「もりんちゅ、とか言い出した方がどうかと思うだろーが。どこのちゅらさんですかッ! (ヴィズル)『どうやらモリビトは樹海を聖地とし、立ち入る人間を敵対者として始末しているらしい……このままでは、樹海の探索を続ける事など出来ない……』



シグ : 「うッ……この流れ……厄介事を押しつけられそうな予感がぎゅんぎゅんするぜ!」



GM : 「押しつけてやる気満々だぜ!(笑) (ヴィズル)『そこでキミたちに頼みがある……どうだろう。モリビトを……殲滅してくれないだろうか?』




一同 : 「はぁっ!?」




GM(ヴィズル) : 「『……モリビトの殲滅。今の君たちくらいしかなし得る冒険者はいないだろう……さらなる樹海の探求の為、頼めないだろうか……』



シェヴァ : 「い、いや……殲滅って……い、い、いきなりすぎるだろッ!?


リン : 「そうです……話し合いだって出来ると思います、それなのに……」



GM(ヴィズル) : 「『いや、奴らに話し合いの余地などない……モリビト殲滅、それを条件に、石版を貸す事にしよう……さぁ、どうするかね?』



シェヴァ : 「ど、どうするって急に言われても、そんな……おれ、まだモリビトがどんな奴らなのかもしれないし……」


リン : 「そ、そうです。それに、モリビトさんが樹海で進化した、生き物だっていうなら……きっと、部外者はボクたちの方ですよ? そんなのって、ただの侵略じゃぁ……」




シグ : 「…………わかった、その任務(ミッション)、俺が受けよう」




シェヴァ : 「え、ちょっ……リーダー!?」



リン : 「シグ!?」



GM : 「間髪いれずにそう呟くシグを見て、ヴィズルは満足そうに頷く。 (ヴィズル)『わかった……それでは、石版を預けよう。期待しているぞ、さばみその諸君……』


シグ : 「いや、これはさばみそギルドの受けるミッションじゃねぇ……俺が冒険者個人として受ける仕事だ」


シュンスケ : 「……どういう事だ、シグ」


シグ : 「……」


GM(ヴィズル) : 「『……まぁいい。期待しているぞ、シグ君』 と、ヴィズルは石版の欠片をシグに手渡した」



シグ : 「……あぁ。これで、先に進めるんだな」


シェヴァ : 「そ、そ、そうだろうけどォ……どうしたんだよ、リーダー! 急に個人で仕事(ミッション)受けるとか言い出したりさァ……」




シグ : 「それなんだけどよ……な、皆。少し聞いてくれるか?」


シェヴァ : 「当たり前だろ! 俺まだ納得してねぇもん……話してくれよ! どうしてこんないけ好かない仕事を受けるとか言うんだよ! どうして……一人で受けるとか、言うんだよ! ヘンだよリーダー、俺……ちゃんと聞かないと暴れるからな!」


リン : 「ボクも……聞きたいです。シグ……どうしちゃったんですか、急に……」


ヒルダ : 「……話してくれるな、坊ちゃん?」




シグ : 「あぁ、黙っているつもりは無いからな……先日、リンやヒルダは知っていると思うけどよ……亜人の娘は。ヴィズルの言葉を借りるなら、あのモリビトの少女は、俺の……現実世界の俺の妹、若葉にそっくりだった……」



シェヴァ : 「!? シグの……プレイヤーの妹さんって……今、確かずっと意識不明で入院してン……だよな?」


シグ : 「あぁ……身体に異常は全くない。だが、心を置き忘れたみてぇに、ずっと眠ってる……ヘンな病気になっちまったんだが……その、病気がな。あの、モリビトの少女に会う事で……治るかも、しれねぇんだ」



シェヴァ : 「マジで!? 何で……!」


GM : 「……原因を説明するとめんどくさいから、まぁ、奇跡がおこるからと思ってくれ」(笑)


シグ : 「あぁ。(笑) ともかく、俺はそういう理由があるから、意地でもまたあのモリビトの少女と会いたい……何としてでも彼女と会って、妹を元に戻してやりてぇんだ。その為なら、手段は選ばねぇ……」


シュンスケ : 「……」


シグ : 「……だが、そんな俺の私事で……シグの私情でもなく、俺というプレイヤーの私事私情で、さばみそギルドのメンバーを巻き込む訳にはいかないだろう。だから、これは俺個人で受ける事にした……」



GM : 「……」


シグ : 「……モリビトの殲滅、だなんて仕事……シグだっていやだろうけどな……だから、俺も無理に付き合ってくれとは言わねぇし、そんな仕事でさばみそギルドの名前も……汚したくねぇ。お前たちもわざわざ、俺に付き合う必要なんて……」


ヒルダ : 「……全く、水くさいなお前は」


シグ : 「……ヒルダ」


ヒルダ : 「……坊ちゃんが望むのであれば私は、坊ちゃんに使える身……供をするに決まっているだろう? 遠慮などせずお前は私に命ずればいいのだ。 来い、と。守れ、と」


シグ : 「だが、ヒルダ……」


ヒルダ : 「最も、命令しなくても……私は勝手に守るがね」


シグ : 「ヒルダ……ありがと、な」


シュンスケ : 「俺も付き合おう」


シグ : 「シュンスケ?」


シュンスケ : 「俺の目的は、世界樹の迷宮と呼ばれたこの世界の謎を解き明かす事……お前とは利害が一致するからな」


シグ : 「……シュンスケ、ありがとう」


シェヴァ : 「シュンスケが行くなら俺も行くよ! 一人で留守番はいやだし……それに、リーダー。そんな話聞いたら、いかない訳にはいかないだろッ!」




シグ : 「シュンスケの装備アイテムもありがとな!」




シェヴァ : 「ちょ、名前で呼んでよー。なーまーえ!」


シグ : 「ぎゃははははッ! あー……でも、ありがとうな……シェヴァ」


シェヴァ : 「……うん!」




リン : 「……」


シグ : 「リン、あのな……」


リン : 「……ボクも、行きますよ? 駄目だって言っても、ついていっちゃうんですから」


シグ : 「リン……」


リン : 「ボクは……ヒルダさんみたいに貴方を敵さんの刃から守る事は出来ません。けど……もしも、シグ。貴方が、闘う事に疲れたら……ボクに言ってください。ボクは……貴方の心を、守っていたい……」


シグ : 「……リン、ありがとう」



GM : 「……で、結局さばみそギルドの面子全員で行くのかい?」(笑)


シュンスケ : 「そのようだな」(笑)



シグ : 「……あぁ、今回は俺の私事だけで皆を付き合わせて、心底悪いと思っている、が……今ここにっ、さばみそギルド心は一つ! 迷宮の最深部を目指して、進んでいくぞ、いいな!」




一同 : 「おぉー!!!」




> も、ひと、すな。



 こうして、執政院の長・ヴィズルに言われるがまま。

 さばみそギルドの面子は モリビト殲滅 の任務を受けるかわりに石版を得て、再び世界樹の迷宮へと戻るのだった……。




GM : 「という訳でキミたちは、以前行き止まりだった 石版をはめ込むのにちょうど良さそうなくぼみのある壁 に行き着く……」


シュンスケ : 「や、やっと着いたのか……」


リン : 「シュンスケさん、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ……?」


シュンスケ : 「あ、あぁ、大丈夫だ……お、思いの外、砂の流れが速かっただけ、だからな……」


シェヴァ : 「シュンスケ、早く動く乗り物嫌いだもんねー」


シュンスケ : 「き、嫌いではない! ただ、少し酔いやすいだけだ!」


GM : 「と、シュンスケ君がすっかりグロッキーになった流砂もここでは一端終了だ。キミたちの前には、不自然なくぼみが静かに口をあけている……」


シグ : 「よし、それじゃぁ……いれるぞ?」



一同 : (無言で頷く)



GM : 「……シグが静かに石版をそのくぼみに埋めると、キミたちの身体に僅かな浮遊感がある。そして……気付いた時、キミたちは別の空間に飛ばされていた!


ヒルダ : 「!? な、何ごとだ。わ、ワープか!?」


GM : 「うぃ。そして君たちの目の前に、下へ行く階段がぽっかりと口をあけている……」



一同 : 「おおおぉ〜!」



GM : 「という訳で、地下17階ご開帳だ〜。行くだろ、行くだろ?」


シグ : 「……当たり前だ」


GM : 「こうして、キミたちは階段を下りて地下17階に到達した……と、地下17階は相変わらず、枯れた木々と砂とが印象的な荒れ地だ」


リン : 「うぅ〜」 (ぶるっ)


ヒルダ : 「……大丈夫か、リン?」


リン : 「えっ? あ、はい、大丈夫です! でも、新しい所はどうしても緊張しちゃって……」


ヒルダ : 「……心配するな、私と坊ちゃんとで、リンの事は守るからな」


リン : 「……はい」


GM : 「と、キミたちが言葉を交わしている最中、枯れた森に似つかわしくない若葉色の髪を持つ少女がすぅと横切る……あの姿は」



シグ : 「……若葉!?」



GM : 「……シグは彼女に見覚えがある、そう。以前迷宮で出会い、度々キミたちに警告をしてくる少女……モリビトの少女だ」


シグ : 「……逃すか、待て、若葉!」


GM : 「彼女は一瞬、足をとめるような素振りを見せる……が、キミたちに気付かないのか。振り返る事もないまま、木々の隙間をかき分けて森の中へと消えた……」



シグ : 「……待て!」



GM : 「ん、シグは追いかけるんだね? するとその進路を塞ぐように敵が現れた! 敵は……デスマンティス」



シグ : 「……ハヤブサ駆け!」



GM : 「おぉっと、敵が身構える前にスキルをセットするなッ! 順番だぞ世の中、順番!」


シェヴァ : 「シグぅ、そんなに突っ走ンなよ!」



シグ : 「だがよォ!?」



シェヴァ : 「見失っても、迷宮をきっちり探してれば必ず彼女は見つかるよ! だって彼女にとって、この樹海は聖地……自分の家なんだろ? 家から離れるつもりはない限り、探索していれば絶対に彼女を捕まえる事は出来るってば!」


シグ : 「!!」


シュンスケ : 「シェヴァの言う通りだ……それより、あまり離れて隊列を乱すな。探索を続ければいつかは会える相手……倒れてしまってはその探索も続けられなくなるぞ?」


シグ : 「……わかった、悪い、シェヴァ。シュンスケ」


シェヴァ : 「気にするなって、リーダーが熱しやすい性格なのは、よぉく知ってるし!」


シグ : 「違いねぇ……シェヴァも、たまにはいい事言うな!」


シェヴァ : 「あはっ……俺、偉い? 偉い? あとで頭なでなでしてね!」


シグ : 「わかったわかった、撫でてやる撫でてやる」(笑)


シェヴァ : 「えへ、やったぁ!」


リン : 「……いいなぁ、シェヴァさんばっかり」(ぼそ)


ヒルダ : 「? どうした、リン」


リン : 「……べ、べ、別に、何でもないです!」


GM : 「と、そうこう言ってる間にデスマンティスの攻撃〜ばっさりこん! とシェヴァを切り裂く」


シェヴァ : 「いたた、俺装甲薄いのに! とはいえ、今は強くなったから平気だもんね!」


GM : 「うーむ、流石にレベル50代のダクハンを一撃で削りきれる程強くない、となると……」


シェヴァ : 「御礼のアームボンテージだ!」


シグ : 「せっかくセットしちまったから俺はハヤブサ駆けを選ぶぜ!」


ヒルダ : 「……シールドスマイト!」



GM : 「で、で、出過ぎだぞお前ら、自重せよ! あー、そりゃ流石に無理だー。デスマンティスは倒れた……が、周囲にあの若葉色の髪をした少女はいない」 


シュンスケ : 「何処にいった……?」


シグ : 「おかしいな……通路は行き止まりみたいだが……」


シェヴァ: 「いや、ちょっとまって、行き止まりみたいだけどさ……ほら、ここ。この通路、脇道があるよ」 (と、いいながら森と森の間にある僅かな隙間を指し示す)


シュンスケ: 「どれ……なるほど、確かに人が通った後がある、それも……まだ新しいな」


リン : 「さっきの、モリビトさんのでしょうか……?」


シュンスケ : 「あるいは……な。どうする、リーダー」


シグ : 「先に道があるなら進むに決まってるだろ!」


シュンスケ : 「そうだろうな……行くか」



GM : 「通路を進むと、枯れた森に一人佇むモリビトの少女の姿がある。彼女はふ、とキミたちの方を見た気がしたが……」



シグ : 「……待て!」



GM : 「そう呼び止めるシグの声には反応する様子は見せず、そのまま森の奥へと消えた……」


シュンスケ : 「……何とも、誘われている印象だな」


ヒルダ : 「敵の居る場所へおびき寄せられているのか?」


シュンスケ : 「彼女らが我々を敵対者として認識している以上はあり得る話だろう」


シェヴァ : 「でも……止まってる場合じゃないよな?」


シグ : 「……当たり前だ! 行くぞ」


GM : 「と、キミたちが少女の消えた方角へ向かうと再び、キミたちに立ちはだかるように敵が! 敵は、ヒュージーモア二匹災厄の木の根だ」



ヒルダ : 「やはり誘われてるのか……?」


シグ : 「はんッ、何でもいい……こいつらを倒して進むだけだ!」



GM : といっても、モアモアと根っこくらいじゃ、こいつらの足止めにしかならないな……)



シェヴァ : 「俺のターン、ヒュージーモアに攻撃!」


GM : 「……ばしーん。それで終わりだ、モアモアはばたりと倒れ……」


シェヴァ : 「仲間にしてほしそうな目でこちらを見ている?」


GM : 「見るか! 普通に倒れただけだ!」


シグ : 「それよりも、若葉は……モリビトの少女は何処いった?」


シェヴァ : 「ちょっと待って……ここの通路が通れるみたいだよ?」


シグ : 「よし……行くぞ!」


GM : 「そうして、シグがアグレッシブに小道を進むと、その道の先には少女が一人佇んでいる……」


シグ : 「若葉……」


GM : 「違う、モリビトの少女だ。彼女はキミたちを厳しい表情で見据え、見た目のわりには大人びた声で言う……。 (モリビトの少女) 『コロトラングルを退けた実力は認める。だが、樹海の奥に何の用がある? 人と……我らモリビトと結んだ協定の事を忘れたのか。人は、森の奥には進まぬという協定を……』



シグ : 「協定? 何の事だ?」


ヒルダ : 「それに……モリビト、とは何なんだ? 我々の言葉を理解し……見た目も、我々と大差ないように思えるが……」 


GM(モリビトの少女) : 「『我らを知らないのか……人とはそこまで、忘却するものなのだな……』


シュンスケ : 「……すべての時を記憶し背負って生きていかなければならないのは……忘れる事が出来ないのは、あまりに苦痛だからな……」


GM(モリビトの少女) : 「『いいだろう、人が我らを忘れたのならば、私が我らを伝えよう。 我らモリビトは、樹海で生を受け、樹海を守る為に生きる、人とは違うもの……』


シュンスケ : 「つまり……森人(モリビト)であり、守人(モリビト)という事か」


GM(モリビトの少女) : 「『故に我らは、人であるお前たちの進入を許す訳にはいかない……』


リン : 「……その、協定っていうのは……何ですか?」


GM(モリビトの少女) : 「『外に居たお前たちは、この樹海に足を踏み入れ、我々と争った……多く血が流れ、争いは続いた……それに終止符を打つため、人と我らの長とが話し合い、人は樹海の外へ。我らは樹海で。互いの生活に立ち入らないよう協定を結んだ……』


シェヴァ : 「……それって、昔のはなし?」


GM(モリビトの少女) : 「『我らが忘却するにはまだ新しい話だが……お前たちが忘却に及ぶには、充分な時だったようだな……』


シグ : 「だが、それでも迷宮の最深部へ向かうといったら、お前は……どうするんだ?」


GM(モリビトの少女) : 「『樹海は我らのものだ……これ以上進むのなら、命はないと思え……』 彼女はそう言うと、きびすをかえし森の奥へ……」



シグ : 「……追いかけて捕まえる! 届くか……?」



GM : 「いや、届かない……彼女はそのまま森の奥へ進むと、キミたちの前から姿を消し……」 


シグ : 「……若葉」



モリビトの少女 : (少女は立ち止まり、一度振り返ると今し方達観していたような表情とは違う……少女のようなあどけない表情を、シグに向けた)


GM : (!? どういう事だ、俺のプログラムを受け付けない……俺は、こんな命令してないぞ!?) 



シグ : 「若葉!?」


モリビトの少女? : 「……いつも、そう。一緒に居る時は全然気にしてくれなかった癖に、私がいなくなると急に心配するんだね、兄さん……」


シグ : 「!? ……若葉……?


モリビトの少女? : 「でも……そんな顔しても遅いから……いくら兄さんでも、もう……」


GM : (俺のプログラムと違う趣旨の発言をしてる……これは……若葉君自身の、意志……意識がプログラムとして、俺の領域に介入してきたか……いや、あり得ない事じゃないな……今の彼女の意識は、電気信号の集合体としてサーバーに保存されている……プログラムのようなものだから……)



モリビトの少女? : 「もう、私をそっとしておいて……これ以上進むなら、例え兄さんでも容赦しない……わたしと、森とで、貴方を拒む……から……」 (森の奥へ姿を消す……)


シグ : 「……若葉」



シュンスケ : (小声で) 「GM、今のは演出か?」


GM : (小声で) 「いや、一種のバグだ。俺でも予想してなかった……どうやら、若葉君の意識はNPCであるモリビトの少女を有る程度自由に動かせるらしい」


シュンスケ : 「厄介な状態だな。貴方でも制御出来ないとは……そうなると、今後も思わぬ演出(バグ)が現れる可能性が高か?」


GM : 「俺が制御しているんだからあんまり激しい脱線はおこらないだろうが……何にせよ、注意しとくよ」




シェヴァ : 「いなくなっちゃったね、モリビトの子」


リン : 「でも、彼女の言っていた事が本当なら……」


ヒルダ : 「なるほど、彼女たちにとって我々が敵対者であるという言葉も頷けるな」


シュンスケ : 「……どうする、リーダー」


シグ : 「すぐに進みたい所だが……少し、気になる事もある。一度、執政院に戻ってみるか。モリビトの言い分、一応伝えておくべきだろうしな……」



 シグの言葉に、誰かが頷く。

 こうして彼らは、一度エトリアへ戻るのだった……。





> ふるときのやくそく




GM : 「という訳でキミたちは一度地上へ帰還する」



シェヴァ : 「……ただーいまっと!」


リン : 「ただーいまっと、です!」


ヒルダ : 「さて、戻るには戻ったが、どうする坊ちゃん。このまま執政院に出向いてみるか?」


シグ : 「あぁ……モリビトの言い分、伝えるべきだろう……行くぞ」


GM : 「OK、執政院だね。そうすると、いつもの眼鏡男子がキミたちを見つけてにこやかに話しかけてくるね。 (執政院の眼鏡男子) 『やぁ、さばみその皆か。長から話は聞いている、モリビトと対峙しているそうだね……どうしたんだい?』


シグ : 「実は……」


GM(草食系男子) : 「『……モリビトの少女と会ったって!? そして、彼女たちはそんな事を……うーむ。俄に信じがたいが、古の協定か……』」


シュンスケ : 「古き時代の協定といった。俺たちが生まれる以前より、この迷宮はここにあり、彼女たちは何かを守るよう……あそこに潜み住んで居たのかもな」


GM(一人おぎやはぎ) : 「『あぁ……私は以前より世界樹の迷宮には過去の遺産が眠っていると推測している……彼女たちの言い分もあるいは真実かもしれない……私は、この迷宮が秘めた謎をキミたちに解き明かしてもらいたいのだが……我らの長は、そうでないようにも思える……最近は、あの二人組の冒険者を呼びだし、何か話し込んでいるようだしな……』


シグ : 「おい、眼鏡っ男(こ)が何か愚痴りだしたぞ」(笑)


GM(おぎやはぎではおぎの方) : 「『あぁ、悪い。とにかく、長を呼ぼう』 と、ここでキミたちは長の前に通される」


シェヴァ : 「ほんと、いつも居るねー」


ヒルダ : 「お役所仕事だか、いつも椅子の上に居るんだろう。暇なんだろうな」


GM 「ち、違うわい! 忙しい合間をぬってお前たちと会ってるんだ! 大体、ヴィズルは有る程度熟練の冒険者じゃないと会う事も出来ないんだからなッ! (執政院の長・ヴィズル) 『話は聞いた……古の盟約、モリビトたちはそう言ったのか……?』


シグ : 「あぁ。あいつらは、樹海は我々のもの、部外者は帰れと言ってるぜ?」


GM(ヴィズル) : 「『何を今更……森をモリビトのモノと認める訳にはいくまい……さばみその諸君、依頼は……覚えてるな?』


シグ : 「……モリビト殲滅の依頼、か」


GM(ヴィズル) : 「『いかにも……頼めるな?』


シグ : 「俺たちに侵略行為の片棒を担げって訳だな?」


GM(ヴィズル) : 「『侵略ではない。元々、奴らのモノでさえないのだから……期待してるぞ、さばみその諸君』



シグ : 「あぁ……という訳で、やっぱりモリビトらとの戦いは避けられないらしい」


シュンスケ : 「まぁ、そうだろうな。あの長にはモリビトたちと話し合う気配さえ感じられなかった」


リン : 「どうしてでしょう……?」


シグ : 「さてな……しかし、迷宮を進むにゃ避けられない事なら仕方ない……皆、辛ぇ戦いになると思うが、行くぞ!」



一同 : 「おー!!」



 かくして執政院から出ていったさばみそギルドの面子。

 その中で、残された……ヴィズルは一人、呟いた。




GM(ヴィズル) : 「『誰も足を踏み入れた事のなかった第4階層、モリビトの元にまでたどり着いたか……これ以上、奴らを放置するのは危険だろうな』



 抑揚のない声が、室内に響く。




GM(ヴィズル) : 「『モリビトに倒されるのであればそれでよし。だがモリビトをも倒して先に進むというのであれば……あの二人に頼むしか、ないだろう……』


 僅かに長のマントが揺れる。



GM(ヴィズル) : 「『愚かな事だ……真実を知ったところで……何もならぬ。誰も幸せにはならぬと、いうのにな……』


 笑っているのか、憂いているのか……。

 俄に判断出来ない複雑な表情が男の顔にはりついていた。







> 幕劇 〜 均衡という名の喫茶店





 祭の、前夜。

 現で行われた密かな出会いがある。

 仮初めの世界と現とを繋ぐ橋渡しである彼の、記録に関する物語。

 キミはこの物語に触れても、触れなくてもよい……。




 ……今回のセッションが始まる、前日

 ある商店街の一角にある喫茶店・イクィリブリアム……世界樹の迷宮ではフィガロを演じている神崎高志が経営する喫茶店。


 そこに、その日。

 パソコンの画面と向き合う、ヒルダのプレイヤー……滝睦の姿があった。




芹沢梨花(リン) : 「こんにちはー」


 からんころんからん、からんころんからん。

 静かな鐘の音とともに現れた客人に最初に気付いたのは、店員ではなく滝睦だった。




滝睦(ヒルダ) : 「キミは……芹沢君じゃないか、どうした?」


芹沢 : 「えっ……滝さん! 偶然ですね!」


滝 : 「あぁ……ここは私の行きつけの店だからな……席は、どうする。問題がなければ、私の所に来ないか?」


芹沢 : 「問題なんてありませんよ、失礼します」


滝 : 「……あまり楽しい話は出来ないかもしれんがな」


芹沢 : 「そんな事ありませんよ……それより、何をしていたんですか、滝さん」


滝 : 「む……仕事の資料を少し見ていた所だ。以前見た時は理解出来なくてな……」


芹沢 : 「へぇ……何の資料ですか?」


滝 : 「ある大学の講義だ……」


芹沢 : 「へぇー……あれ、滝さんってどんなお仕事されているんですか、大学の講義が資料だなんて……」


滝 : 「はは、何だと思う?」


芹沢 : 「……えっと、以前公務員って言ってましたよね……市役所とかにお勤めなんですか?」


滝 : 「……刑事



芹沢 : 「えっ!?」



滝 : 「警察勤めの捜査官が刑事というなら、私はその職業なのだろうな……」 (と、言いながら警察手帳を見せる)



芹沢 : 「え、えぇえぇえぇえ! け、け、警察官……た、滝さん、刑事さんだったんですか!?」



滝 : 「声が大きいぞ、芹沢君。はは……とはいえ、私は新米。それに、あの職場ではお茶くみ同然だがな……」


芹沢 : 「で、でで、でもすごいです。そっか……刑事さんなんだ……通りで滝さん、格好いいと思った……」


滝 : 「ほ、ほ、誉めても何も出ないぞ?」


芹沢 : 「じゃぁ、事件の資料なんですね、それ!」


滝 : 「あぁ……とはいえコレは、別に事件と直接関係があるモノじゃない、資料価値のないモノだがね……本物の資料を持ち出して、こんな所で眺めていたらそれでこそ大問題だからな」


芹沢 : 「そっか、そうですよね、極秘資料ですもんね!」


滝 : 「……あぁ」


芹沢 : 「ふーん、そっか……すごいなぁ……刑事さんかぁ……」


滝 : 「それより、芹沢君はどうしてこの店に来たんだ?」


芹沢 : 「えっ。以前、神崎さん……フィガロのプレイヤーさんに、来てみないかって誘われて……今日は近くまで来たので、入ってみようかな、って思って……何か雰囲気のいいお店ですよね、落ち着いていて……」


滝 : 「そうだな、神崎の趣味とは思えない店構えだ」


芹沢 : 「そんな事言ったら、失礼ですよ! ……でも、確かにそうですよね。神崎さんのイメージだと、もっと何か、パンクロック調のお店かと思ってたから、怖くて入れないかもって少し心配だったんです」(笑)


滝 : 「……あぁ」



 ……暫く、沈黙が続く



滝 : 「……芹沢くん」


芹沢 : 「はい、何ですか?」


滝 : 「いや……その、な。以前……私と、桐生とが病室でしていた話しなんだが……聞いて、いたんだろう?」 (※世界樹プレイ日記その13幕間劇:若葉さんのお見舞い参照)



芹沢 : 「!!」


滝 : 「……キミが戻ってこなかったから、桐生は随分心配していたぞ」


芹沢 : 「は、はい……その、盗み聞きはいけないって思ったけど、聞こえてきちゃって……」


滝 : 「キミにあの会話を聞かれて、心配をかけたんじゃないかとあいつは随分気を揉んでいたぞ?」


芹沢 : 「そ、そうなんですか? 和彦さん、そんな所全然見せないから……」


滝 : 「聞くに聞けなかったんだろう。以前キミは……思い詰めて随分と悩んだ素振りを見せた事があるからと、心配していた、が……」


芹沢 : 「……はい」


滝 : 「セッションに影響が出るかと私も懸念していたが、キミは全く変わらぬキミのまま、私や桐生に接してくれた……」


芹沢 : 「……」


滝 : 「桐生は喜んでたぞ。変わらないキミを見る事が出来て、な」


芹沢 : 「……はい」


滝 : 「だが、何故そう振る舞う。キミだってあの会話を聞いていたなら……気になっては、いるのだろう? 私の事、あいつの事……」


芹沢 : 「ぼくは……以前、そういう思いで一度、和彦さんを振り回しちゃいましたから……その時の和彦さんの心配そうな顔、また見るのはいやだから……」


滝 : 「……」


芹沢 : 「それに、和彦さんは……まっていてくれ、って言ったんです。ボクに……だから、ボクは待ってようと思うんです。和彦さんが何を選んでも、それが和彦さんが一生懸命出したこたえなら、ボクはそれでいい……」


滝 : 「芹沢くん……」


芹沢 : 「ぼく、もうそれくらい和彦さんの事が好きになっちゃったんです。だから……えへへ、こういうのって、好きになった方が……弱いですね」


滝 : 「いや……キミは強いよ芹沢くん」


芹沢 : 「……滝さん」


滝 : 「…………強いから、きっと選んだんだ。そう、あいつも……な」



 珈琲の暖かな香りが、店内を包む。

 二人の女性は、互いに静かな時を過ごしていた……。



 ・

 ・

 ・


 そんな時間が終わり、芹沢が店を出てから数十分後。

 再び、イクィリブリアム。




七瀬澪(シェヴァ) : 「こんちゃー」



 からんころんからん。

 店の入り口に設置されたベルが静かに鳴り響く。




滝睦(ヒルダ) : 「お……何だ、七瀬じゃないか。珍しいな、一人か?」


七瀬 : 「あ! い、イインチョ! イインチョだ、驚いた……珍しいね、イインチョがアニキの店に居るなんて!」



 ※滝睦と七瀬澪は、高校時代のクラスメイトであり滝睦は高校時代、学級委員長を務めていた。

 ※そのため、今でも高校時代の同級生にはイインチョと呼ばれている。




滝 : 「そうか? 私はこれでもよく、神崎の店は使っているぞ?」


七瀬 : 「まじで! 俺、よくこの店手伝いに来るけど、イインチョに会った事ないよ?」


滝 : 「そうか? そういえば私も、この店で七瀬と会ったのは初めてだな……」


七瀬 : 「行き違いになってたのかなぁ……あ、でもいいやその方が。何か仕事している時、友達に会うのとかって気恥ずかしいし」


滝 : 「うむ……確かにそうだろうな。私も職務中に友人に見つかり話しかけられると、気恥ずかしいからな……」


七瀬 : 「……俺なんて、何かスカートみたいなのはかされて接客してる時あるし、見られない方がいいよね?」




滝 : 「いや、その接客は問題だろう?」




七瀬 : 「で、で、でも、スカートじゃないよ! キュロットっていうのかなぁ? 何かズボンみたいになってるやつだから!」



滝 : 「キュロットスカート」


七瀬 : 「え?」


滝 : 「キュロットスカート、とも言うんだぞ、それは……確かに半ズボンに分類されるが、見た目は殆どスカートと同等……むしろ、スカートと言い換えても構わないだろう」


七瀬 : 「えっ、まじで! アニキ(神崎高志=フィガロのプレイヤー)、ヨーロッパでは軍服として着用する事を義務づけられている紳士の衣装だって言ってたよ!」



滝 : 「他国はどうであれ、日本では成人男性の着用に適している衣装ではないな」


七瀬 : 「え、俺、騙された?」


滝 : 「……拒む事も覚えろ、七瀬」


七瀬 : 「ううううう……」


滝 : 「……そんな所で立ってないで、座ったらどうだ?」


七瀬 : 「あ……そ、そうだね。じゃ、イインチョ、相席ー」



 七瀬が座ると同時に、ウェイターが水をもってくる。

 見るからに無愛想な大柄の定員と、二言三言交わす七瀬の姿を眺めながら、滝は口を開いた。



滝 : 「……だが、七瀬。今日は一人でこの店に、何か用事か?」


七瀬 : 「うん……いや、用事って事じゃないけど、アニキに……神崎先輩に、ちょっと伝えたい事があって……」


滝 : 「……神崎なら、今出払っているぞ。私も奴に会いに来たのだが、留守と聞いてな。戻るまでこうして、待っていた所だ」


七瀬 : 「え、そうなの!?」


滝 : 「今日は夕方に戻るという事だ……」


七瀬 : 「夕方ぁ!? どうしよ、おれ、夕飯の買いものしようと思ってたのに……」


滝 : 「……さしたる用事でなければ伝えておくが、どうする?」


七瀬 : 「うーん……いや、一応自分で伝えようと思ってさ……」


滝 : 「何か大事な用事だったのか?」


七瀬 : 「大事っていうか……この前、アニキにちょっと頼まれ事したんだけど、やっぱ……俺なんかに出来る訳ないから……断ろうと思って、来たんだ……」


滝 : 「……淳ちゃんは」


七瀬 : 「え?」


滝 : 「いや、椎名とは相談したのか?」


七瀬 : (無言で首を振る)


滝 : 「……二人で決めたらどうだ? 椎名は他人に愛想がないが、お前にだけはいつでも親身だろう?」


七瀬 : 「でも……淳兄ぃもきっと、駄目だっていうから……」


滝 : 「そう、か……」


七瀬 : 「…………ねぇ、イインチョ。さっきからパソコンの画面とにらめっこしてるけど、何してんのさ?」


滝 : 「ン……あ、あぁ。これか? 西園寺教授が以前行っていた講義の映像があったので、見ていた所だ」


七瀬 : 「西園寺教授、って……世界樹の遊びに付き合ってくれてる、あの西園寺さん?」


滝 : 「……西園寺馨。人の脳髄にある微弱な電気信号と筋肉との動きの関連性を熟知し、脳の一部をプログラム化する事で機械工学の分野にもまた大きく貢献した、脳科学の権威……だった男だ……」


七瀬 : 「だった……?」 


 七瀬は首を傾げながら滝のパソコン画面をのぞき込む。

 中には得体の知れない化学式や計算式を前に生徒らしい人物に向かって話す、西園寺の姿があった……。



画面の中の西園寺 : 「つまり、多くの……は……ニューロンの……シナプスが……」



七瀬 : 「……何言ってるのかさっぱりなんですけどっ! 何これ、生徒の皆さんわかってるの!?」


滝 : 「安心しろ、私にもさっぱりだ」(笑)


七瀬 : 「何だよ、西園寺さんって実は滅茶苦茶頭いい系!? 何か、あの人の調子だといつもパンツの話とかしてそうなのに……」



画面の中の西園寺 : 「まぁ、分かりやすく言うと。だ。ニューロン普通のパンツだとすると、シナプススキャンティーの役割があるともいえ、スキャンティーとニューロンの関係はだなぁ!」




七瀬 : 「と思ったら何かパンツの話はじめた! この人、パンツの話はじめたよ!」


滝 : 「……西園寺馨という人物は、講義をわかりやすくする為にパンツの例えをよく出すが、かえって分かりにくくなる事で有名だったそうだ」




七瀬 : 「駄目じゃん!」



滝 : 「しかも、パンツの話の方が長いらしい……」



七瀬 : 「駄目通り越してむしろ潔いねそれ!」


滝 : 「……まぁ、西園寺教授の講義は難解で有名だったからな……彼もまた、自分の講義になんて誰もついてこれないと思って、半ば冗談みたいな事をよくやっていたらしいよ」


七瀬 : 「へぇ……あれ?」



 そこで七瀬は、画面にある西園寺馨のある違和感に気付く。

 そう、画面に映る西園寺馨は……。




七瀬 : 「あれ、西園寺せんせー……車椅子、乗ってる?」


滝 : 「……あぁ」


七瀬 : 「何でまた……西園寺先生、事故でもおこした?」


滝 : 「いや……」


 画面の中では、慣れた調子電動式の車椅子を弄る西園寺教授の姿がある。

 講義は力強く、ユーモアと活気に満ちている、が……。



 ……それとは反面。

 彼の顔には、冷たい死の色が浮かんでいた。





滝 : 「西園寺馨は……ある病気を患っていた……自らの運動機能が広範囲に犯され……少しずつ、中枢神経が壊されていく……皮肉な事に彼は、自分が携わる脳の領域を……病に、壊されていったんだ……」


七瀬 : 「えっ……?」


滝 : 「現代の医学ではどうしようもならない事実(こと)……進行が早く、いかなる術をもってしても、数年以内に確実に死が訪れる……」


七瀬 : 「えっ、えっ、えっ?」


滝 : 「研究者として、医者として、学者として……自らの病が治る事のないモノである事。全てを熟知していたあの男が、己の余命を知った時……いったい、どんな気持ちだったんだろうな……」


七瀬 : 「な、何言ってるんだよイインチョ! 西園寺さん……今、全然元気じゃん! 車椅子にも乗ってないし、自分で歩いてるよ?」


滝 : 「あぁ……そう、そうなんだ……決して治る事のない病に犯されていながら、あの男は……今はただ、笑っている……」


七瀬 : 「治ったのかな?」


滝 : 「……あるいは」


七瀬 : 「何だっ、びっくりしたぁ……不治の病みたいにいうから、西園寺先生、もう危ないのかと思って心配しちゃったけどッ……今元気って事は、治ったンだよね!」


滝 : 「……さてな。本人に会った時に、聞いてみたらどうだ?」


七瀬 : 「うん、そうする……さて、と」 (立ち上がる)


滝 : 「……何だ、七瀬。何も頼まないで帰るのか?」


七瀬 : 「アニキがいないなら、また来るよ。急いでする話でもないだろうし、夕食の買い出しに間に合わなくなっちゃうし……」


滝 : 「……喫茶店で水まで出してもらって、帰るのか?」


七瀬 : 「だって、アニキいないんだろ……今の店番の人さ、ウォードって言う人なんだけど、あの人、パフェとか作るの劇的に下手くそなんだ。何か、バナナパフェサグラダ・ファミリアみたいになるんだよ!」



滝 : 「それは、有る意味見たいな……」


七瀬 : 「食べにくいったらないよ! チョコレートパフェはモン・サン=ミシェルみたいになってるし!」


滝 : 「……有る意味でものすごい芸術家なんじゃないか、その店員は?」


七瀬 : 「いちごパフェはストーンヘンジみたいになってるし……」



滝 : 「何だその店員は、どうしてパフェにそんな世界遺産的なアレンジを加えたがるのだッ!?」



七瀬 : 「しーらない、と……さて、俺そろそろ帰るから。アニキが戻ってきたら、また会いにくるって伝えておいてね」


滝 : 「あぁ……わかった……」



 ……七瀬澪が、喫茶店を後にする。



滝 : 「しかし……確かに、七瀬の言う通りだ……西園寺馨……確かに不治の病に犯されていた天才の名を、どうしてあいつは騙るのだろうな……いや、それ以前にどうして……」


 滝は静かに映像を眺める。



滝 : 「どうしてあの男は、記録にある西園寺馨まったく変わらない姿をしているのだろうな、どうして……」



 そのファイルには4年前の、今日の日付が刻まれていた……。


 ・

 ・

 ・

 七瀬が去ってから、さらに一時間ほどたった後。



神崎高志(フィガロ) : 「ただいま……待たせたねェ、滝刑事」


滝 : 「遅いぞ、神崎……例のモノは調達出来たか?」


神崎 : 「まぁ……ネ。でも、実際持ち出すのは明日になりそうだよ?」


滝 : 「明日か……ちょうど、セッションがある日じゃないのか」


神崎 : 「どうするさね……その日にあいつを、追いつめるのかい?」


 神崎の言葉に、滝は頷く。


滝 : 「あぁ……頼む神崎、何としても明日には入手してきてくれ……あの男が、西園寺馨などではない、という決定的な証拠を、な……」



 イクィリブリアムの一日は、静かに過ぎようとしていた。



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