> 界樹の迷宮を、あたかもTRPGのリプレイ風にかいてみるプレイ日記が現れた、どうする?





までのあらすじ >


 何だかんだいいつつ、第三階層を制覇してきたようです。



> 現のさばみそギルドさん成長録



シグ (わんぱくソードマン LV.52)

 氷・雷属性のチェイスはすでにマスター。火属性のチェイスもマスターして、目指せ三色チェイス。

 剣以外持たないというポリシーから火力が劣りがちだったが、最近は強力な剣が多いので安定した攻撃力になる。

 好きな食べ物は、牛肉のワイン煮込み。 (ただし、肉なら焼いただけでも美味しく喰えるタイプ)



ヒルダ (アグリアスパラディン LV.45)

 シグの姉弟子と称する、生真面目かつ高潔な聖騎士。

 かと思うと、各種ガードをレベル5まであげたとたん、シールドスマイトを目指すようになった案外粗暴な一面もある。

 好きな食べ物は、イチゴのショートケーキ。



リン (ロリメディック LV.54)

 医術防御、エリアキュアと一通り極めた今、心許ないTP強化をはかっている最中。

 シグの事を支えながら、アイラの帰りをまつできた子であり、彼女の死=全滅にもつながるアキレス健。

 好きな食べ物は、お団子と抹茶。



フィガロ (エロバード LV.40)

 ホーリーギフト特化型吟遊詩人、勿論戦闘に役立つ要素は皆無。

 だが、口だけはあたかもベテラン冒険者の如く動く不思議な人材。

 好き嫌いは特になく、何でも食べる雑食。 (主に性的な意味で)



シュンスケ (苦労性アルケ LV.50)

 三種の全体攻撃をマスターする、属性攻撃のエキスパート。

 最近は、フィガロのセクハラに苦労をしている。

 好き嫌いかは不明だが、何かに取り憑かれたように大量の食パンを買い込む時がある。




> 薄の男



 前回のセッションから3日後。

 都内某所(いつのもばしょ)……。



GM : 「という訳で、前回のセッションからちょっぴし間がありつつ……今回は皆に重大発表があるぞ!」


シグ : 「重大発表?」


フィガロ : 「何さね、GM。やっと、自分の本当の年齢を言う気にでもなったのかねェ?」



GM : 「本当の年齢もなにも、俺は井上喜久子お姉さんと同い年だと言っておろーがぁ!」



シグ : 「言い張るな、GM」(笑)


GM : 「当たり前じゃ、そこは譲れるかい! ……そうじゃなくて、だな。今回から、暫くお休みをしていた、シェヴァのプレイヤー復帰してくれたんで紹介しようと思ったんだよ。はい、シェヴァ君、どうぞー。おかえりなさーい!」



シェヴァ : 「えへー、皆。ただいまー!」



一同 : ぱちぱちぱちぱちぱち……。



リン : 「シェヴァさん! お久しぶりです、身体は大丈夫ですか?」


シェヴァ : 「うん、大丈夫。心配かけてごめんなさい」


ヒルダ : 「本当か? 盲腸、だと聞いたが……」



 ※シェヴァのプレイヤーは、一週間ほど虫垂炎(盲腸)で入院してました。



シェヴァ : 「うん。急性虫垂炎って奴で、すぐ手術したんだけど……もう、大丈夫だよ。もう、何でもむしゃむしゃ食べられるくらいには回復したから……イインチョ。じゃない。ヒルダも、ありがと! 心配かけちゃってごめんなさい。でも、もーだいじょうぶです!」


フィガロ : 「あはは、まぁ大事に至らなくて良かったさね。こっちもお前が元気になってくれて、一安心だよ」


シェヴァ : 「フィガロのアニキも、俺の代わりに色々ありがとう! シュンスケが、色々お世話になりました!」 (ペコリ)


フィガロ : 「あはは、困った時は当然さね!」



シグ : 「いやいやいやいや、ちょっとまてシェヴァ……アニキは、基本的にシュンスケの面倒なんか見てないぞ?」(笑)


シュンスケ : 「俺も、アイツに面倒を見てもらった記憶なんて無いな」


シェヴァ : 「ほぇ? でも、この前アニキに会った時、言ってたよ! アニキは、シュンスケがピンチだった時に、フェニックスの一輝兄さんの如くかっこよく助けにきたんだ、って!」




シュンスケ : 「誇大妄想も甚だしいな!」




シグ : 「っていうか、一輝兄さんが如くって……それだと、シュンスケのボコられ具合はハンパない状況だぞ。もっと早く助けにこいと、クレームをつけていいレベルだぜ!」(笑)


GM : 「俺はそれより、シュンスケにアンドロメダ瞬役を当てはめる事に激しく違和感を覚える」(笑)




ヒルダ : 「それより……せっかく、シェヴァが復帰してくれたのはいいが……どうするのだ、メンバーが6人になってしまったぞ?」


GM : 「ん?」


ヒルダ : 「確か、世界樹の迷宮は5人パーティ……だろう? この状態だと、一人留守番をしなければいけないのでは、ないか?」


GM : 「そうだねぇ。折角、シェヴァ君が復帰してくれたのはいいけど、このままじゃ確かに人数オーバーだから……とりあえず、キミたちの中で誰か一人、留守番お願いするよ。6人パーティは、流石にシステム上マズイからね」(笑)


シグ : 「留守番かァ……どうする?」


シェヴァ : 「いいだろ、くじ引きで決めようよ」


シュンスケ : 「いいのかそれで? くじ引きだと、折角復帰したお前が、復帰早々留守番になる可能性だってあるぞ」



シェヴァ : 「それは大丈夫だよ! だって、俺より絶対シュンスケの方が運が悪いもん!



シュンスケ : 「うるさい! そんな訳ないだろッ!」



シグ : 「まぁいいや。くじでも、別にいいだろ、くじ作ろうぜ」


ヒルダ : 「あぁ……だが、このくじ。全員でするのか?」


フィガロ : 「そうでしょう。そうしないと、つまんないからねェ」


ヒルダ : 「それだと、メディックであるリン君が抜ける可能性もあるだろう? 流石にそれは……不味くないか? 回復がないのは辛いと思うが……」


フィガロ : 「それも含めて面白いじゃないのさ! それに、心配無用だよ、ヒルダ嬢」


ヒルダ : 「そうか?」



フィガロ : 「そうさね。何せこの手のくじ引きは、絶対に、シュンスケ君がハズレをひくに決まってるからねェ」



シュンスケ : 「お前までそう言うかっ! くそ……こうなったら、何としてもあたりをひいてやる! 何としても、ひいてやるぞッ!」



 ※ 皆くじ引き中………………。



GM : 「で、留守番決まった? 誰が留守番?」



シュンスケ : 「……いや、不運なんじゃない。今日はたまたま、運が悪かっただけだ……」 (ぶつぶつぶつ)



フィガロ : 「見てわかんないかねェ?」(笑)


GM : 「いや、多分そうだろうと思った」 (笑)



 かくして、くじびきでシュンスケを留守番にする事が決まったさばみそギルドの面子。

 ひとまず。



 前衛 : シグ・ヒルダ・シェヴァ

 後衛 : リン・フィガロ



 のメンバーが、四階層に挑む事になるのだった……。



−−−−−−−−−−−−−


> シェヴァ (褐色ダクハン LV.48)

 ジエンドやエクスタシーのような博打の一手が大好物の極めて健全なダークハンター。

 マイペースで少しだけアホの子、だがマッピングは一生懸命やっている。

 好きな食べ物は、ほうれん草のクリーム煮。 (それを生々しく零す事で、一部の愛好家に定評がある)


−−−−−−−−−−−−−




GM : 「と、言う訳でこのフロアは、シグ・ヒルダ・シェヴァと。リン・フィガロで行く事になった訳だが……」



シュンスケ : 「俺がいなくても、大丈夫だろうな……シェヴァ?」


シェヴァ : 「大丈夫だって!」


シュンスケ : 「お前は久しぶりの戦闘だから、あまり無理をするんじゃないぞ? 怪我をしたら、すぐにリン君に言うんだからな」


シェヴァ : 「わかってるってば!」


シュンスケ : 「空腹になったら、鞄にいれてあるお菓子を少し食べるんだぞ。 疲れたらすぐ、休ませてもらうようにな?」



シェヴァ : 「もー、全部わかってるって、いー加減にしてくれよシュンスケ、俺、大人なんだからなッ!」



シグ : 「まだ冒険に出てないうちからシュンスケの過保護が始まったぞ」(笑)


フィガロ : 「コレじゃ、シュンスケ君。留守番中に心臓とまっちゃうんじゃ無いかねェ……」


GM : 「そうかもな」(笑)


ヒルダ : 「しかし……留守番中、シュンスケは何をしているんだ? ただここで、待っているだけか?


GM : 「そうだね……ま、折角だからシュンスケ君には俺のプレイのサポートをしてもらおうかな? キミたちのプレイ内容を確認しながら、裏方の処理をやっててもらうとするよ。いいだろ、シュンスケ君?」


シュンスケ : 「あぁ、了解した」


リン : 「裏方さんですか? シュンスケさんは……プレイには参加されないんですね?」


GM : 「うん。とはいえ、キミたちのプレイ内容は見ているよ。プレイに直接参加しないだけでね」


フィガロ : 「そう、つまり……俺がシェヴァにごっついセクハラをしたとしても、シュンスケ君は咎める事も出来ず見ているだけ、って事かねぇ?」(笑)



シュンスケ : 「……冗談だよな? 冗談でいってるんだよな、フィガロ?」


フィガロ : 「おっと、何時にない殺気がシュンスケ君の方からビンビンするよ。こりゃ、楽しみだねェ……」 (ニヤニヤ)



ヒルダ : 「……フィガロの奴は、どうしてシュンスケにちょっかいをかけるのが、あんなに好きなんだろうな」


GM : 「変態だからじゃね?」


フィガロ : 「心外だねぇ、変態じゃないさね! 仮に変態だったとしても、変態という名の紳士って奴さね」(笑)


シェヴァ : 「クマ吉君!?」




> 砂の、時の声




GM : 「じゃ、メンバーも決まった所で、いよいよ第4階層に到着〜。 第4階層は……枯レ森。 今までの水辺の風景とはうってかわって、砂と枯れた木々とに包まれた、静かな風景が広がるよ」



シェヴァ : 「ロケ地:鳥取砂丘」



GM : 「そんな訳あるかい! エトリアでのオールロケじゃい」(笑)


シグ  : 「しかし、水辺(第三階層)の次は、砂漠とはまた、極端だな」


ヒルダ : 「極端を通り越して不気味なくらいだな……地下迷宮だというのに、この急激な地形変化は異質さを覚えるな」


リン : 「そうですね……ここ、地下迷宮ですもんね。地下に進んでいるはずなのに、こんなに色々な風景が広がっているなんて……」


ヒルダ : 「あぁ……それぞれの階層により全く別の姿を見せる迷宮だなんて……まるで人為的なモノを感じる……さながらこの空間は……実験のようだな。特殊な生態系、異なる自然環境……この迷宮そのものが、世界を模した実験場……そのような錯覚さえ覚えるよ……」


フィガロ : 「はぁ、ヒルダ嬢は相変わらず小難しい事を考えるねェ……」


ヒルダ : 「だが……私はこの迷宮が、不自然でならぬ。何か、とてつもなく大きな歪みを抱えているようで……な」


GM : 「…………」


フィガロ : 「別にいーじゃないのさ。歪んでよーが、曲がってようが、変わってしまおうが、世界に代わりはないじゃないのさ?」


ヒルダ : 「むぅ……それは、そうだが」


フィガロ : 「それに、ね」


シェヴァ : (ばたばたばたばたばた) 「……すっげ、全部ー。すなー! おーい、シグ! ヒルダ! 早く先にいってみよーぜ! この階層も、何かすげー景色が広がってて面白いよ!」



シグ : 「コラっ、シェヴァ! お前、少し落ち着け、自重しろ! 久しぶりに帰ってきたんだからな、お前は!」


リン : 「あ……シグ、まってくださいー」



フィガロ : 「歪んでよーが、曲がってようが……先に進む道があって、一緒に歩く仲間がいる。それでまぁ、いいじゃないのさ。そうは思わないかねェ?」


ヒルダ : 「フィガロ……お前は単純でいいな」


フィガロ : 「世の中なんて皆、単純な事さね。大事なモノって、結局一つだと思うけど?」


ヒルダ : 「……なるほどな。私も、そう考える事が出来たら……良かったんだろうが、な」



GM : 「と、キミたちがアレコレいいながら歩いていると、目の前に広がる荒廃した大地、砂地のフロアを進むと、目の前には扉が現れる……」


シグ : 「扉かぁ……どうする。まだ先の道もあるようだけど?」


シェヴァ : 「とりあえず、扉の向こうがどうなっているのか、だけ確認してみる? 扉開けてみてさ……」 (と、扉を開く)


GM : 「……そういいながらシェヴァが扉を開くと、同時にシェヴァの足下。その床が動き出す!



シェヴァ : 「え?」



GM : 「そしてそのまま、砂に流されるがまま、シェヴァは動き出した!



シェヴァ : 「う、嘘だろっ! うぁ、うぁ、うぁあぁぁぁあああ!」



シグ : 「ちょっ、シェヴァ!?」


ヒルダ : 「!? 流砂か?」


GM : 「そうだね。(笑) 砂に流され、シェヴァの姿はどんどん見えなくなる」(笑)


シェヴァ : 「たーすーけーてーぇぇーぇー、ぇー」 (←ドップラー効果)


シグ : 「マズイな! このままだと、シェヴァが一人になっちまう。 皆、後を追いかけるぞ!」


フィガロ : 「はいはい……いや、戻ってきて早々、期待を裏切らないシェヴァっぷりだねェ。ちょっと安心したよ」(笑)


GM : 「そうして、次々と流砂にのると、皆流され、流され……同じ場所に到着する」


シェヴァ : 「ふぇ……び、ビックリした。ジェットコースターにのってるみたいだったよォ……」


シグ : 「大丈夫か、シェヴァ?」


シェヴァ : 「うん、だいじょうぶ。ちょっと砂まみれになったけど……」



GM : 「などと会話を交わしている間に、キミたちの傍らにモンスターが迫ってくる! さぁ、戦闘だ! 敵は……ゴールドホーン火炎ネズミだ!」


シェヴァ : 「えー、俺、今流砂に飲まれてきたばっかりー!」


GM : 「知るか。迷宮とは危険と隣り合わせなんだよ。何時でも戦闘の準備しておけ……という訳で戦闘だコラ。早速こうげ……」



シェヴァ : 「アームボンテージッ!」




GM : 「って、いきなりかい! 攻撃早ッ!」



シェヴァ : 「迷宮は危険と隣り合わせ、何時でも戦闘の準備しとけって言ったの、GMさんだろっ! 敵が出たんなら、遠慮なくやらせてもらうよ!」



GM : 「くぅ……そういや、忘れてたがシェヴァは攻撃が早いんだよな……」


シグ : 「おっと、シェヴァのいきなりのボンテージ技か。俺の取り分、ちゃんとあるかな?」(笑)


GM : 「あぁ、大丈夫。攻撃順番は早いが、流石に一撃でこの階層の敵を屠る程の攻撃力はないからな、という訳で次の攻撃は……よし、火炎ネズミだ! 火炎ネズミの炎の……」



ヒルダ : 「……ファイアガード発動! 炎は……無効だ」



GM : 「なぁっ!? 何で火炎ネズミをつかうと分かった!」(笑)


シグ : 「えっと……な?」


ヒルダ : 「名前……だな」(笑)



シグ : 「という訳で追撃行くぜ、ハヤブサ駆け!


GM : 「……うーん、ゴールドホーンが出る幕なかったなぁ。案外あっさり片づけられちゃったかな? それでもう終わりだ、敵は一掃された!」



一同 : ぱちぱちぱち。(拍手)



GM : 「思ったよりコンビネーションいいねお前たち、全体攻撃&属性係のアルケミストがいなくなっているから、もっと苦戦するかと思ったけど」


シェヴァ : 「シュンスケは、思ったより小回り効かないからね」(笑)


シグ : 「まぁ、スキル連発すれば何とかな。属性攻撃しか効かない、って奴がいなければって話だけどさ」


フィガロ : 「あはは、それにしても息ぴったりだったねェ……どうさね、シェヴァ。この冒険が終わったら、シュンスケと組むのはやめにして、俺と組まないかね?」


シェヴァ : 「……え、俺?」


フィガロ : 「そうさね。どうかねェ……三食昼寝付き、おやつにケーキ3個までオッケーの生活させてやってもいーけど」(笑)



シェヴァ : 「ケーキ! あ……でも、どーしよ……ケーキ……ケーキケーキ……」




シュンスケ(※留守番中) : 「待て! 悩む所かそこは!!!」



フィガロ : 「はいはい、留守番は黙ってる〜……どうかねェ? 悪い条件じゃ、ないと思うけど」


シェヴァ : 「あー……魅力的ではあるけど、一応俺、シュンスケの相棒だから、シュンスケがいいっていったら、行く事にする!」


フィガロ : 「そう? 残念だねェ……」


シュンスケ : 「ほっ……」



シグ : 「しかし、まさか扉を開けた先に流砂があるとはなぁ」


リン : 「……三階層にあった、蓮の花の船と違って、一方にどんどん進んでいくみたいですね」


シェヴァ : 「俺は蓮の花の船は知らないけど、そうみたいだね。これは、一度乗ったらどんどん流されてしまうっぽいよ……」


シグ : 「それで、流されるだけ流されたら、今度は徒歩で戻ってくるのか!? くぅ、めんどくせぇなぁ」


フィガロ : 「まぁまぁ、めんどくさがっても仕方ないさね。地道にやってこう?」


シグ : 「だねぇ。リレミト係がいない今、無理のない程度で、徒歩で迷宮を踏破するぞ!」



一同 : 「おー!」



 かくしてシグの言う通り。

 リレミト係のないさばみそギルドは、徒歩でB16のフロアを埋め始めた。

 そう、時に。




シェヴァ : 「……うぁ、またうっかり流砂に……うぁあぁぁぁああ!」


リン : 「あ、またシェヴァさんが流砂に足をとられて遠くへ!」


フィガロ : 「……地図ばっかり描くのに夢中で、前みて歩いてないからさね!」



 流砂に足をとられ、思わぬ所に運ばれ。

 また時に。



シェヴァ : 「ここの地図はぁ、と…… (かきかき) うん、それでここに大木がある、と」



シグ : 「……シェヴァ、それ大木じゃねぇ! うごめく毒樹……f.o.eモンスターだっ!」



シェヴァ : 「……ほぇ?」



 時に敵と障害物を見間違え、戦闘に突入し。

 また時に。




シグ : 「よし、敵だな。火炎ネズミ三匹と、ゴールドホーンか」


フィガロ : 「いつもの奴さね、まぁ軽く撫でてやろ……」



GM : 「軽く撫でるのはこっちじゃい! 火炎ネズミの火炎攻撃、フィガロにぼ、ぼ、ぼぼぼ!」



フィガロ : 「アッー!」


ヒルダ : 「大変だ、フィガロがほぼ消し炭に!」


シグ : 「アニキが大変だ! これがwizだったら、復活に失敗した所でロストするレベルに焦げてるよ!」


フィガロ : 「うーん、三途の川で死んだはずの犬のタイガが、心配そうにこちらを見てるさね……」


シュンスケ : 「それは俺の飼ってた犬の名前だ」(笑)



 モンスターの猛攻に倒れる者を出しながら。

 それでも……。




ヒルダ : 「ねずみっ、ねずみ……もう、チョロチョロしおって! あたれ、あたれー!」 (ぶんぶんぶんぶん!)


GM : 「ぺちんと当たって、ダメージは……うん、まだ元気だ。よし、火炎ネズミの反撃、ちゅぅちゅうちゅ、ヒルダに仕返しだ!」



ヒルダ : 「ひゃぅうう、ねずみ、ねずみいやぁぁぁあぁ!」



シェヴァ : 「……ヒルダって、見た目と違って結構戦闘では女の子だよね?」


シグ : 「シェヴァ、いってやるな。姉弟子、それけっこう気にしてるからな」



 モンスター達の猛攻をかき分け。

 さばみその面子は、順調に奥地へと進んでいくのだった……。






> 砂の中の



GM : 「そうやって、奥地に進んでいくと、きみたちは迷宮の中心部のある袋小路に行き着く」


シェヴァ : 「ここが、袋小路、と……」 (かきかき)


GM : 「だがそこはただの袋小路ではなく、何やらはめ込めそうなくぼみがあるね」


ヒルダ : 「くぼみ?」


GM : 「そう、ちょうど……キミたちが以前、亜人の少女と出会った時に彼女が落とした、石板があっただろう? それをはめ込むのに丁度良さそうなくぼみだね」


シェヴァ : 「穴があったら塞げばいい! ね、じゃ、さっそくその石板をはめ込もうよ。リーダー、もってるんでしょ?」


シグ : 「いや……生憎、その石板とやらは、執政院に渡しちゃったんだよなぁ」


シェヴァ : 「えっ、何でさ!?」


シグ : 「何でって……石板に訳の分からない文字とかかいてあってな。それを調べたいっていうから……」


シェヴァ : 「うわぁ、何で迷宮で手に入れたお宝を手放しちゃうんだよぉ! 迷宮で手に入れた冒険者の浪漫は、冒険者のモノだろう! もー、シグのばかばかばか!」 (ポカポカポカ)


シグ : 「ちょ、こら! 俺の鎧をポカポカするなッ、お前は烈海王か!?」


GM : 「シェヴァが烈海王なら、お前はピクルになっちまうぞ、シグ」(笑)



フィガロ : 「まぁまぁ、シェヴァ。そんなにシグを攻めないでやりなって……石板は、執政院に取り上げれたんだから仕方ないさね」


シグ : 「そーだ、イベントだ! 俺のせいじゃない!」


GM : 「イベントとか言うなー。 まぁ、事実そうなんだけど」(笑)


ヒルダ : 「うむ……だがそうなると、執政院に戻り石板をとりにいかないといけないな?」


フィガロ : 「そうさね、ここまで来てアレだけど、引き返そうか?」



GM : 「と、キミたちが振り返り歩き出したその時……ゆらりと、人影が現れる



フィガロ : 「!! 人影ッ。また、あの亜人の娘さんかねぇ?」



ヒルダ : 「それとも、敵……新手か!?」



GM : 「いや、そのどちらでもないよ。 黒いローブに身を包み、大きな鐘を胸に、身体を鎖で縛り付けた陰鬱な表情の少女は、きみたち……シグ・リン・シェヴァの三人は見覚えがあるかな?」



シェヴァ : 「ツスクル!」



GM : 「そう、ツスクルだ。ツスクルはキミたちを見据えると、ゆっくりとこちらに歩み寄る……」



シェヴァ : 「わー。ツスクル、久しぶりッ。元気だった?」


GM(ツスクル) : 「『えぇ……久しぶりね、あなた達も大事ないようで何よりよ』」



フィガロ : 「……誰さね、この子は?」


シグ : 「アニキ、以前俺らよりも熟練の冒険者がいる、って話しましたよね……彼女が、俺らの先輩冒険者二人組の一人……ツスクルですよ」


フィガロ : 「へぇ、驚いたねェ! 熟練冒険者というから、もっと筋骨隆々の女戦士を思い浮かべてたんだけど、まだあどけない可憐なお嬢さんじゃないのさ」




GM(ツスクル) : 「『……そちらの二人は、初めての人ね?』


シグ : 「あぁ、そうだな……俺の姉弟子の、ヒルダと……何かよくわからないけど付いてきている、フィガロのアニキだ。よろしくな!?」


フィガロ : 「ちょ、何かよくわからないけど付いてきているって、リーダーは辛辣だねェ……まぁ、事実だけど」(笑)



ヒルダ : 「……ブリュンヒルデ・ロックハートだ。ヒルダでいい、ヨロシク頼む」


GM(ツスクル) : 「『よろしく、ヒルダ』


フィガロ : 「ガリレオ・フィガロ……気軽にフィガロでいいさね、ヨロシクなお嬢さん」 (と、ツスクルの肩を抱こうとする)


GM(ツスクル) : (さりげなく、フィガロの手を避ける)


フィガロ : 「避けられた! 何だよ、ちゃんとトイレの後も手ぇ洗っているってのにねェ」(笑)


シュンスケ(※留守番) : 「お前の卑猥なオーラをいち早く感じ取ったんだろう」


フィガロ : 「そんな、肩を抱くくらいはスキンシップさね!」



GM(ツスクル) : 「『……不潔』」(ぼそ)



フィガロ : 「がーん! 今度は、アルコール消毒してくるとするさね……」


シグ : 「それでも挫けないんすね、アニキ」(笑)



シェヴァ: 「でも、ツスクル。どうしてこんな所に一人でいるのさ? レンさんは? というか、一人で大丈夫?」


GM(ツスクル) : 「『えぇ、大丈夫……私はね、貴方たちがここまで来る日をまってたの。砂の、流れる音を聞きながら……』


シェヴァ : 「俺たちを? こんな所で?」


シグ : 「待つならエトリアの金鹿の酒場にでもきてくれりゃぁいいのに」(笑)


GM(ツスクル) : 「『ごめん、なさい……人が、沢山いる所は……苦手……で……』


シグ : 「あれ、そうなのか?」


GM(ツスクル) : 「『私のように……呪われた宿命を背負った存在は、怖がられる……だから……』



シグ : 「!! あ、そりゃ……悪い、そういうつもりじゃ……」



GM(ツスクル) : 「『別に、いいの……それに、街だと、レンもいる……レンにはあまり、聞かれたくない話だから……』


フィガロ : 「レン? レンって、誰さね?」


シグ : 「彼女の相棒のブシドーですよ、凛々しい女性ッス」


フィガロ : 「へぇ……美人かい?」


ヒルダ : 「美人じゃなくても食いつく癖に何を言ってるんだ……?」


フィガロ : 「まぁ、そうなんだけど。一応、礼儀として聞いてみただけさね」


ヒルダ : 「女性の容姿を真っ先に聞く礼儀なんてあるか!」


シェヴァ : 「まぁ、まぁ……それより、ツスクル。俺たちを待ってた、っていうけど……どうしたんだよ。何か、悩みでもあるの?」



GM(ツスクル) : (僅かに頷きながら) 「『えぇ。あのね、シェヴァ……私、貴方たちに聞いて欲しい事があるの』


シェヴァ : 「俺たちに……いいよ、俺たちが何とか出来る事なら、聞くけどっ……何?」



GM(ツスクル) : 「『ありがとう、シェヴァ……あのね、私……私はね、レンが……心配なの』


シェヴァ : 「レンさん? レンさんが……何でさ?」


GM(ツスクル) : 「『彼女はね……過去に、捕らわれすぎているの。 変えられない過去に捕らわれて、自分を責めて、傷ついて……このままじゃ、彼女はきっと……壊れてしまうわ……』


シェヴァ : 「……」


GM(ツスクル) : 「『それを防ぐ為にはね、誰かがこの迷宮の真相知る必要があると思うの……』


シグ : 「へへ、こっちは元より、そのつもりだぜ、なぁ?」


シェヴァ : 「へっ!? あ、うん……」


GM(ツスクル) : 「『だから、シェヴァ。貴方に託したいの……この、一族に伝わる呪いの鈴を……』



シェヴァ : 「え? えっ、俺に!?」



GM(ツスクル) : 「『えぇ……貴方に……全てを知る覚悟があるなら、これを……受け取って……』



リン : 「一族の呪いの鈴って……何でしょう?」 


シグ : 「何だシェヴァ、ツスクルに呪われる程非道い事をしたのか?」(笑)


シェヴァ : 「そ、そ、そんな、してないよそんな事、アニキじゃないんだから!」(笑)


フィガロ : 「んー、やんわりと俺に失礼だよ、シェヴァ」(笑)



GM : 「安心しろ、別に呪いのアイテムじゃない。ギルドで、カースメーカーを作る為のアイテムだ。(笑) (ツスクル) 『きっと、冒険の役にたつと思うの。受け取って……くれる、かしら?』


シェヴァ : 「……うん、わかった。もらうよ、ツスクル」


GM : 「シェヴァがそれを受け取ると、彼女は幾分か安心したように笑う。 (ツスクル) 『……ありがとう、シェヴァ。約束してね……』


シェヴァ : 「うん、わかった。任せておけって!」


GM(ツスクル) : 「『えぇ……』 彼女は安心したように笑うと、キミたちの前を去っていく」



シェヴァ : 「……ツスクル!」



GM(ツスクル) : 「『……なに、シェヴァ?』


シェヴァ : 「……あ、あの。いや、その……何だろ。えっと……あ、ツスクルはさ。何で……その、何で、レンさんと……一緒に、居るのかな、って。そう、思ってさ……」



GM(ツスクル) : 「『……レンと?』


シェヴァ : 「……聞いても、いいかな?」


GM : 「彼女は、少し驚いた表情で暫くキミを見ている。けど……やがて、少し笑うと、穏やかに口を開いて続けるた。 (ツスクル) 『……たぶん、貴方と同じ理由よ』



シェヴァ : 「!!」 



GM(ツスクル) : 「『でも……誰かの隣にいる理由は、それで充分じゃないかしら?』」


シェヴァ : 「そうか……そう……だよね……」


GM : 「彼女はそう言い、僅かに微笑むと身を翻して迷宮へと消える。僅かに残った小さな足跡も、流れる砂にかき消えていった……」



フィガロ : 「……何か、不思議な雰囲気のお嬢さんだったねェ。また小さいお嬢さんに見えるけどさ、何となく貫禄を感じたよ」


ヒルダ : 「同感だな、流石はベテラン冒険者、といった所か……」


リン : 「確かにそうですけど……何でしょう。今日のツスクルさんは……何か、何時もよりちょっと……違ってた気がします」


シグ : 「あぁ、確かにな……何だろう、ピリピリしているのは相変わらずだがよ……」



シェヴァ : 「…………」



フィガロ : 「何にせよ、何かいーモンくれたみたいだし。ひとまず喜んでおきますかね?」


ヒルダ : 「そうだな、好意を今は素直に受け取っておくべきだろう……さて、ここで立ち止まっていても仕方ない。そろそろ行くか、坊ちゃん?」



シグ : 「んぁ? そうだなぁ……この階には亜人の少女も居ないみたいだし、石板を執政院にとりに行かないといけないし……ボチボチ戻るとするか、ほら行くぞシェヴァ!」」




シェヴァ : 「ひゃぅう! 何するんだよ、リーダー、耳引っ張るなよ! 伸びたらどーするんだ!」



シグ : 「ダークエルフっぽくなっていいんじゃないのか?」(笑)


リン : 「属性攻撃が出来そうですね」(笑)


シェヴァ : 「いやだよそんな、暗黒神の加護を受けてそうな設定!」


フィガロ : 「はいはい、耳引っ張られるのがいやならサッサと行くんさね。まだまだ仕事は、沢山あるんだからねェ……」



 フィガロの言葉に頷き、シグが、リンが、ヒルダが。

 それぞれ、先を歩き始める。




シェヴァ : 「あ、まってよみんな!」



 その後を、シェヴァが慌てておいかける。

 ただ一度だけ立ち止まると。




シェヴァ : 「……俺と同じ理由、か」



 誰にも聞こえない声で、一人静かに呟いた。



シェヴァ : 「俺も……出来れば、ずっとこう、してたい……けど……俺は、たまに思うんだ。いつまでも、アイツの傍に居ていいのか、って……本当に、俺でいいのかって……」



 砂は静かに流れ、時が数多に積み重なっていく。



シェヴァ : 「ツスクルは……強いからそういうの、無いんだな……俺はそれが、すごく……羨ましい、よ……」



 立ち止まる男の姿に気付いたのか。

 振り返ったシグが片手を降る。





シグ : 「おい、シェヴァ。何やってんだ、おいてくぞ!」


シェヴァ : 「あ! ごめんなさい、今いきまーす!」



 シェヴァは慌てて足を速める。

 さばみそギルドの面子が去った、その足跡は風と砂とが静かに消していった……。






> 幕劇 〜 壊してしまうから





 迷宮は進み、さらなる奥へと歩む頃。

 現実もゆるゆる、動きだそうとしている。


 現の話をしよう。

 これは、彼が。

 彼らが、歩みを留めている物語。


 キミは、彼らの語りを聞いても、聞かなくても良い。



 ・

 ・

 ・




 ……セッション終了後、都内某所。

 ある商店街の一角にある喫茶店・イクィリブリアム


 世界樹の迷宮ではフィガロを演じている神崎高志が経営する喫茶店である。


 そこに、その日。

 一人の男が、訪れようとしていた……。




七瀬澪(シェヴァ) : 「こんにちはー」



 からんころんからん。

 店の入り口に設置されたベルが静かに鳴り響く。




神崎高志(フィガロ) : 「あ……シェヴァ。じゃない、みぃ(七瀬澪)か。遅かったねェ……」


七瀬 : 「ごめん、あにき。支度に、案外手間取っちゃって……えっと、何処に座ったらいい?」 (※神崎と七瀬は、先輩後輩の関係だが、七瀬は神崎の事をアニキと呼ぶ癖がある)


神崎 : 「そうさね……今の時間は、客も少ないから、適当でいいよ? あぁ、奥のテーブル席があいてるから、そこにでも座りなって」


七瀬 : 「はーい!」


神崎 : 「んー……で、みぃ、何注文するかね? 一応、お前の快気祝いだから、好きなもんタダで食べさせてやるけど?」


七瀬 : 「ほんと!? うぁ、嬉しいなァ、アニキの料理、何食べても美味しいんだもんっ。えっと、何にしよーかなぁ……」


神崎 : 「……ンでも、みぃ。食べる前に、聞いて欲しい事があるんだけど……いいかねェ」


七瀬 : 「ほぇ……何、あにき?」


神崎 : 「いや、ね……ほら、みぃ。元気な時に、たまにうちの仕事手伝いに来てくれるだろ?」


七瀬 : 「うん。あにきが、大変だぁっていう時はお手伝いにくるけど……それが、どうかしたの?」



神崎 : 「いやね……みぃ。 お前さ……ウチで、住み込みで働いてみる気がないかな。と思ってねぇ」



七瀬 : 「え……」


神崎 : 「うち、今は日中は喫茶店。夜はバーで運営してるだろ? 俺やジジイや他の従業員なんかでサ、何とか回しているンだけど……正直、人手がもう幾人か、欲しい所なんだよ」



七瀬 : 「えっ、えっ、アニキ……?」



神崎 : 「勿論、求人も出してるよ? ンでもね……俺としてはさ、見知らぬ誰かを1からたたき込むより、もう仕事も覚えているお前を使いたいんさね。ほら、お前は他の従業員とも仲いいし、厨房もフロアも完璧にこなせる……バーテンとしての知識も充分、申し分ないだろう?」


七瀬 : 「…………」


神崎 : 「俺の店は従業員住み込みで働いてるし、お前なら正社員で雇ってもいいんさ……どうかね、俺の店で働かないか?


七瀬 : 「……でも」



神崎 : 「………………何時までも、椎名淳平の家に居候している訳にもいかないだろ?」



七瀬 : 「!」



神崎 : 「……お前が来てくれれば、うちの店としては大助かりだ。そうして、ウマイ具合に今の運営がいけば……最近、ちょいと安い不動産を見つけてねェ。二号店も夢じゃなくなるって訳さ。 俺としては、しがない街の小さな喫茶店でウチの店を終わらせるつもりはないからねェ……ゆくゆくは二号店出して、そうしたらお前を店長にって、夢もあるんさね」


七瀬 : 「……」


神崎 : 「……どうかね、七瀬君。これは、お前の先輩としてではなく、経営者・神崎高志の頼みなんだ……俺の下で働いてみる気はないかね?」


七瀬 : 「アニキ……おれ……」


神崎 : 「すぐに返事をもらうつもりはないさね。何、一ヶ月は待つ……」



七瀬 : 「……無理だよ」


神崎 : 「はァ?」



七瀬 : 「俺なんかに……無理だよ、そんなの……」



神崎 : 「みぃ……」



七瀬 : 「出来る、訳、ないよ……俺、毎日、普通に生活するのだってやっとなんだよ? それだってのに……」



神崎 : 「……みぃの境遇は、俺だって知ってるよ。ンでも、俺は……それでもいいから、引き受けてほしいんさね」



七瀬 : 「それに……無理だよ、俺、淳兄ぃがいない所で、一人で生活なんて……」



神崎 : 「……そうやって、いつまでもジュンペイに守ってもらうつもりか?」



七瀬 : 「!!」



神崎 : 「……七瀬。もう、いいだろ? お前、もっと自分に自信を持つべきだよ……そうじゃないと、お前……ずっと、ジュンペイの傍からはなれられないんじゃないかねぇ」


七瀬 : 「っ……」


神崎 : 「いつまでもそんな関係、続ける訳にはいかないだろう? だから……」




七瀬 : 「……アニキには関係ない! アニキは俺の事なんか、全然わかってないよ!」




神崎 : 「……七瀬」



七瀬 : 「アニキだけじゃねぇ……この世界はずっと、俺の事わかってくれなかったじゃないか! 俺の事、誰も……受け入れて、くれなかったじゃないか……」



神崎 : 「七瀬、それは違うよ。お前は……」



七瀬 : 「俺の事、わかってくれるの、淳兄ぃだけだもん……俺の世界は、淳兄ぃだけだもん……」



神崎 : 「七瀬! 落ち着け……な?」


七瀬 : 「もういい……もういいよ、もう……」 (立ち上がる)



神崎 : 「何処に行くんさね、七瀬! まだ話は終わって……」


七瀬 : 「おれ、もう話す事なんかないよ……アニキ。俺から……世界を、取り上げないで……俺の事、もう……そっとしておいて……」



神崎 : 「七瀬!」



 七瀬澪が、店から出る……。



神崎 : 「あー……最近落ち着いているから、大丈夫かと思ったんだけど……やっぱり、思ったより深刻だねェ、あの二人の関係は、さ」



 残された神崎は、天井を仰いで溜め息をついた。



神崎 : 「……誰も受け入れてくれなかった、か」



 静かなジャズの音色が、店内に流れる。



神崎 : 「確かにねぇ、みぃ……かつてお前は、誰も受け入れてくれなかったかもしれない、けど……」



 人が疎らな時間帯だからか、客の姿はない。



神崎 : 「……今は、違う。今は……世界を拒んでいるのは、お前自身だよ」



 何処かでカランと音がなる。

 ポットの中で氷が、溶けたようだった。




神崎 : 「……このままじゃ……七瀬が護りたい一番大切な世界が、れちまうよ……他ならぬ、あいつ自身の手で、ねぇ……」



 誰もいない店内、神崎は一人呟く。

 その声を、ジャズの音色がかき消す。


 ただ時間だけが、静かに積み重なっていった。





> 幕間劇 〜 れてしまうから



 同時刻、都内某所。(いつものばしょ)

 西園寺馨の研究室。




西園寺馨(GM) : 「よーし、システムチェックしゅうりょーう。ありがとう、シーナ君、キミがいてくれたおかげで、サクサク終わったよ」


椎名淳平(シュンスケ) : 「……いえ、大丈夫です。俺も久しぶりに、先生の手伝いが出来て光栄ですよ」


西園寺 : 「流石優等生、言う事が違うな……それにしても、今日は本当に悪かったねぇ、キミ、世界樹の迷宮のプレイには全然関わってない上に、俺の手伝いまでさせちゃって……今日は殆ど俺の手伝いに来てくれたよーなモンだよなぁ!


椎名 : 「いえ……俺としても、裏方に徹する事で、西園寺さんがどのような処理をしているのか知る事が出来ました、いい機会ですよ」


西園寺 : 「あは……ホント真面目だね、キミ……」


椎名 : 「俺からしてみると、西園寺さんが不真面目すぎる気がしますがね……しかし、今回のプレイ、裏方をやってみて気付いたんですが……」


西園寺 : 「ん、何?」


椎名 : 「ツスクルの台詞が、大分……本来の、ゲームでの台詞と書き変わっていますよね?」


西園寺 : 「ん……まぁ、ね……」


椎名 : 「アレンジされている、というか……これではまるで、世界樹の迷宮。その場所以外にも、何か暴くべき真相があるかのようだ」


西園寺 : 「あはぁ……まぁ、そうだろうな……」



椎名 : 「………………どういう事ですか、先生?」



西園寺 : 「んー……俺は伝えたいメッセージを、彼女に託しただけだ。そう……真相を、知る必要があるんじゃないかと思っているだけだよ」


椎名 : 「……本気で言ってるんですか、先生?」


西園寺 : 「シーナ君……キミが、キミ自身の肉体の秘密を、七瀬君に知られたくないその気持ちは分かるよ。ンでも……七瀬君こそ、それを知るべきだとは思わないか?」



椎名 : 「先生。ですがそれを知られれば、貴方だって……」


西園寺 : 「……確かに俺としても、キミの身体の秘密を知られるのは非常に痛手だ。それだけ西園寺馨はキミの身体に非人道的な行いをしているし、キミの秘密を知られるという事は、俺の秘密を知られる事にも直結するからね」


椎名 : 「だったら、いいじゃないですか。このまま、誰にも言わなくとも……」


西園寺 : 「……いや、だからこそ、知るべきじゃないのか?」


椎名 : 「……」


西園寺 : 「正直に言うと、私もね……七瀬君と再び会うまでは……言わずにいる方がいいと、思っていたんだ。だけど……」


椎名 : 「……」


西園寺 : 「……今は、七瀬君こそ知るべきだと思うんだよ。西園寺馨が、キミにしてしまった事と……それで、キミの身体におこった事を……」


椎名 : 「……俺は」


西園寺 : 「正常に振る舞っているが……限界、なんだろう?」



椎名 : 「……!」



西園寺 : 「キミの精神構造は、本来、自分だけでも精一杯のはずなんだ……だが、今は無理をして七瀬君を支えている……」


椎名 : 「……」


西園寺 : 「……自分でも分かっているだろう? キミは……普通の人間とは、違う身体なんだから……」


椎名 : 「そう……ですね……」


西園寺 : 「だから今こそ、全てを知るべきじゃ……ないのか?」


椎名 : 「……っ」


西園寺 : 「そうだ、全てを知るべきだよ。俺の事、キミの事、そして……プロジェクト・Y……プロジェクト・Yggdrasill(ユグドラシル)の本当の目的を……」




椎名 : 「……本気でそう、言ってるんですか?」



西園寺 : 「……私は、本気だよ?」


椎名 : 「プロジェクト・ユグドラシルは……なかった。 そんなものは、存在しなかった……それでいいと、思わないんですか? あんなもの……」


西園寺 : 「キミはそうやって、全てを自分だけが背負って、生きていくつもりなのか。ずっと……?」



椎名 : 「当たり前です……西園寺先生も、わかっているでしょう? アレは、あってはならない技術だった、と……」


西園寺 : 「……そうだ、俺は……いや、西園寺馨は、キミに、とんでもない事をした……そして……」



椎名 : 「それ以上言うな!」



西園寺 : 「!!」



椎名 : 「…………頼む……言わないでくれ……後生だから……」



西園寺 : 「…………シーナ君」


椎名 : 「お願いだから……」



西園寺 : 「そんなに、知られたくないのか……七瀬君に……あの事を……」


椎名 : 「当たり前です……俺があんな事をしたんだって、澪が知ったら、あいつがどうなるか……」


西園寺 : 「だが、何でそんなにまで隠す? あれは、キミのせいではない……キミが、七瀬君の為にした事だろう。 だったら……彼こそ知るべきじゃないのか、それは、キミだって……」


椎名 : 「でも……それを知ったら、澪は……きっと、耐えられない……」


西園寺 : 「……」



椎名 : 「……それに、俺は……俺の人生を、あいつに背負わせたくない……俺であいつを、縛り付けたくはないんです……」


西園寺 : 「椎名君……」


椎名 : 「重たいモノを背負うのは……俺一人で、充分ですよ……」



西園寺 : 「椎名君、だけどキミは、このままでは……」


椎名 : 「……議論は終わりです。先生。俺は……プロジェクト・ユグドラシルについて、公言するつもりはありません。今でも、これからも……」


西園寺 : 「……それでいいのか?」


椎名 : 「決めた事です……ですから……もし、貴方が秘密を漏洩しようというのであれば、俺は……管理権限を用いてでも、貴方を黙らせますよ



西園寺 : 「!! ……そうか、いや……そうだろうな」



椎名 : 「……ご理解頂けますね?」


西園寺 : 「仕方ないな。到底納得は出来ないが……管理権限がキミにある以上、俺ではどうしようもない……」


椎名 : 「ご理解頂けて、幸いです……では、失礼致します。西園寺さん」


西園寺 : 「ん、何だ……もう、帰るのか?」


椎名 : 「えぇ、仕事はもう終わりましたからね」



 椎名淳平はそう告げると、一度も振り返らず部屋を出る……。



西園寺 : 「やれやれ、本当に頑固な弟子だよ……」



 一人残され、西園寺は呟く。



西園寺 : 「確かに、椎名くん……キミがされた事は、人に言うにはあまりにおぞましい事かもしれない、けど……」



 何処かから熱を帯びたサーバーの音がする。



西園寺 : 「一人で抱えて生きていける程、軽いモノではないだろうに……」



 空調の音だろうか、モーターの音がうなり声をあげる。



西園寺 : 「本当は、キミと七瀬くんとで、二人で分け合って生きて行かなきゃいけないんじゃないのか? なぁ、椎名くん……キミたちは、そういう関係であるべきだろう、それなのに……」



 なま暖かい風が吹き付ける。



西園寺 : 「キミは、全て背負おうとする、抱え込もうとする、それでは……」



 西園寺はその風を受けながらも、揺れる事がない自分の髪を見据えながら呟いた。



西園寺 : 「いつか、キミは壊れてしまうよ……」



 男は一人溜め息をつくと、椎名淳平が去ったドアをただ見つめる。

 その背後で、ユグドラシル……世界樹と名付けられたサーバーは、今日もやや熱を帯びているようだった。





紀行に戻る / 「コロトラングルって食べれるの?」「あぁ、酢味噌が一番ウマイらしい」  /  西園寺教授の秘密に迫る