> 世界の迷宮をリプレイ風に日記つけるでゴザルよ。の巻。





までのあらすじ >


 ヒゲのオッサンにモリビトを殲滅しろといわれたり、モリビトのお嬢さんに帰れと言われたりしましたが、私は元気です。




> レ森へ



 前回のセッションから引き続き、都内いつもの場所……。



GM : 「という訳で、少し休憩もとったし。そろそろミッション、続けていいかな?」


シグ : 「俺はいつでもいいすよ、マスター」


シュンスケ : 「俺も……」


シェヴァ : 「え、シュンスケ。俺、今りんご剥いたけど、食べないの? これ、食べないの?」


シュンスケ : 「ん……ちょっとまってくれ、マスター。リンゴを食べてからでもいいか?」


GM : (笑) 「いいよ、食べながらでもやれって、リンゴくらい……さて、そんな訳で続きをボチボチはじめようか。とりあえず、今までのあらすじを言ってくれ。はい、シェヴァ君!」




シェヴァ : 「トンネルをこえたら、そこは不思議の国でした!」



GM : 「はい、トンネルをこえてもここは迷宮です! はい次、シグ君あらすじ!」




シグ : 「ヒュージーモアの肉も意外なくらい肉厚でうまいな」



GM : 「食いしん坊トークは求めてません! はい、次ヒルダさん!」



ヒルダ : 「わ、わ、ワタシか! ……え、その、何だ! ……デスマンティスが、こ。怖い訳ではないぞ!」



GM : 「はい、怖い訳ではない! 次、リンくん!」


リン : 「え、えっと……砂が、流れて、森が、えと、それで……SATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ! で……」


GM : 「何かクラウザーさん的なものがはいってしまった気がするのは、お兄さんの心が汚れているからですね、はい。という訳で、ご理解頂けたかな、シュンスケ君!」



シュンスケ : 「……さっぱりわからんな」 (リンゴ食いながら)


シグ : 「まぁ、細けぇ事はどうだっていいんだよ!」


シェヴァ : 「そうそう、とりあえず先に道があるうちは先に進んでればいいんだって!」


シュンスケ : 「そういう事だ」(笑)



GM : 「そういう事か。(笑) それじゃ、進むとしよう、いざ行かん、新たな土地〜へ〜♪」


ヒルダ : 「そうだな、執政院の長……ヴィズルからも、亜人の少女……モリビトたちを倒すよう指示を受けた。先に進み、モリビトと決着をつなければ」


シュンスケ : 「あぁ……そうしないと、世界樹の迷宮。その謎に迫る事は出来そうにないから、な……」



シグ : 「…………」



リン : 「……シグ?」


シェヴァ : 「シグ、大丈夫……か? その、モリビトの少女は……シグの、プレイヤーの……」


シグ : 「ン。あぁ、大丈夫だ……」


リン : 「…………でも」


シグ : 「……俺は、今俺が出来る事をするだけだ」


リン : 「……うん。ボクも……手伝いますね」


シグ : 「あぁ……頼んだぜ、リン!」


リン : 「はい!」




> つ、二人。



GM : 「という訳で、やってぇ、きましたぁ。旅行けば、駿河の国ぃ〜♪」


リン : 「……駿河?」


シュンスケ : 「GMのそういう語彙センスが、昭和の人間を感じさせるな」


GM : 「何をいう、俺は井上喜久子オネエちゃんと同い年だぞ……と。それはさておきやってきたのは、地下18階。君たちにとっては、新しい階層だ」


リン : (どきどき……)


シェヴァ : 「マスター! 新しい階層は、どんな感じ?」


GM : 「そうだな……君たちは階段を下りたばかりで、周囲に柱のような壁が迫っているのではっきりと周囲を見通す事は出来ないが……見える範囲だと、印象は……砂漠




一同 : 「砂漠ゥ!?」




GM : 「……そう、一面に砂の平地になっていて、ところどころには天を……上の階層を支えるような柱が見える。ただ、壁や木は殆ど見られる、ただ広い砂と、大地とが広がっているのみ……」



シグ : 「砂漠っつぅか……こりゃ、荒野だぜ」


シェヴァ : 「うん、マカロニウエスタンの大地なイメージだね。銀のピースメーカーもって、だきゅーん、だきゅーん、って」


シュンスケ : 「サボテンでもあれば雰囲気が出ただろうな」


GM : 「そんな会話をしながら君たちが、どことなく寂しい印象の森を一歩進んだその時……君たちを待っていたかのように、人影が現れる」



シグ : 「!? 若葉……!?」



GM : 「いや……モリビトの少女ではない。君たちが見覚えもあるだろう……レンツスクルだ」


シグ : 「……何だ、レンたちか」


GM : 「何だとは何だ、歴戦の冒険者を前に」(笑)


シグ : 「いや! いやいや、別にそういう意味じゃなくてよ……ちょっと構えてた所があって、拍子抜けしちまったんだよ、悪ぃな」(笑)


シュンスケ : 「それより、こんな所で何をしているんだ、その二人は?」


GM : 「うん……二人は、君たちを見据えるとゆっくりと近づいて話しかけてくるね。 (レン)『久しいな、冒険者の諸君。あれから、壮健にしてたか?』


シェヴァ : 「おお、してたよレンさん! おれ、荘厳にしてた!」


ヒルダ : 「荘厳だと、意味が違うと思うぞ、シェヴァ……急に厳かになってしまう」


GM(レン): 「『ふふふ……かわりないようだな、安心したぞ』



ヒルダ : 「むむ……すまん、坊ちゃん。こちらの女性は、どなただ?」


シグ : 「ん? あ、あぁ、姉弟子は初対面だったな……彼女は、ブシドーのレン。氷の剣士レン、なんて二つ名を持つ、凄腕のブシドーだ」


GM(レン) : 「『……初めてお目にかかる。レンと申す』


ヒルダ : 「……ブリュンヒルデ=ロックハートだ。ヒルダでいい、以後、たのむ」



シェヴァ : 「うぁ、何だろうこの、レンさんが二人居る感覚」(笑)


シグ : 「確かに、姉弟子とレンは似たタイプかもしれんな」(笑)



ヒルダ : 「むむ……私はこんなに近づきがたい印象を与えてるか……?」


シェヴァ : 「あはは。確かにヒルダちゃんは初対面、怖い人かなーって印象だけど、話してみると凄くいい人だと思うから、心配ないよ」


ヒルダ : 「そ、そうか?」


シェヴァ : 「そうそう。それに、ヒルダちゃん、戦闘だとけっこう可愛い声出るもんね!」


シグ : 「あぁ…… ひゃぅう! とか、 はにゅぅ! とかな!  当たれあたれー、とか言いながら剣振り回したりもするし……大丈夫大丈夫、姉弟子可愛いって、な!」



ヒルダ : ぷるぷるぷるぷる……。



シグ : 「あれ、どうした、姉弟子。急に真っ赤になって……」




ヒルダ : 「い、い、今人前でそんな事を言う必要はないだろッ、もー! 坊ちゃんのばか、ばか、ばかー! (ポカポカポカポカ)




シグ : 「いたた、きゅ、急に姉弟子が怒った、ちょ、ま。誰か助けてくれっ、リンー!」


リン : 「……知りません。もー、シグはデリカシーがない所は、嫌いです!」




シュンスケ : 「それで……エトリアきっての凄腕冒険者二人組が、一体何の用だ? 見た所、俺たちを待っていたみたいだが」


GM : 「目の前でシグがラブコメ街道つっ走っている最中、シュンスケ君は冷静だねぇ。(笑) (レン)『……いや、執政院から話を聞いてな。お前たちが、枯れ森に住むモリビトらを倒す任務を引き受けたのだな?』



シュンスケ : 「あぁ……成り行き上、な」



GM(レン) : 「『……この階層には多くのモリビトが潜み、地の利も彼らにある。厳しい戦いになるぞ』



シュンスケ : 「承知の上だ」


GM(レン) : 「『また、この階層は見ての通り……広い。砂に足を取られ、進むのも困難な上、モリビトやそれと生きる強力な魔物も多く潜んでいる……闇雲に戦えば消耗し、大地に躯を晒す事になるぞ』


シグ : 「はは、何だ、レンが心配してくれてるのか? なぁに、せいぜいそうならないよう、注意するさ! ……頼れる仲間も、居るしな」


GM(レン) : 「『頼れる仲間がいるのはいい事だ、だが……油断は、禁物だぞ? そうだな……私が知っている事を伝えておこう』」



シェヴァ : 「ん、レンさん何か知ってるの? 何知ってる、何知ってる?」


GM(レン) : 「『あぁ……』



シェヴァ : 「伝説の魔王・ケストラーをも一刀両断出来ると言われている伝説の聖剣・カッツバルゲルの場所とか知ってるの、ねぇ、教えて偉い人ー!」




シュンスケ : 「そんなモノの場所を知っている訳ないだろうが、こんな時に意味不明なボケを空回すな!」




GM(レン?) : 「『よくきいてくれた! 伝説の聖剣・カッツバルゲルは聖なる頂き・エターナ山脈の奥地に眠っている!』




シュンスケ : 「って、知ってるのかレンッ!?」



GM(レン??) : 「『だがエターナ山脈の扉は結界により硬く閉ざされており、その結界を解くには四天王と呼ばれる魔物……タイニィフェザー水龍フレイムタイラント。そして、ガラハドを倒さなければいけない……』



ヒルダ : 「何処かできいた事のある四天王の名前だな」



シグ : 「って、ガラハド倒したら駄目だろ! 冥府行き決定だぞ!」



GM(レン……?) : 「『さぁ、行け、ロトの血を引く勇者しぇう゛ぁよ! 伝説の聖剣を求めて旅立つのだッ!』


シェヴァ : 「おう! やってやるぜ!」



シュンスケ : 「……盛り上がっている所悪いが、GM。 これ、どうやって収拾をつけるつもりだ?」


GM : 「……すまん。俺もやりはじめて、しまったと思ったが、止める事が出来なかった」


シグ : 「GM、無理してシェヴァのボケに付き合うな、シェヴァは何も考えずに発言しているんだからな」(笑)


GM : 「うん、そうする」(笑)


ヒルダ : 「それに、カッツバルゲルはシリカの店で売っている普通の剣だしな」


GM : 「そうだね、ごめんね。それじゃ、気を取り直して……」




シェヴァ : 「それでレンさん、魔王・バラモスを封印する伝説の電子ジャーは一体何処にあるっていうんですかっ!」(笑)



GM  : 「おぅ、それはな!」(笑)




シグ&シュンスケ : 「…………だからそういう事しちゃ駄目って言ってるだろ!」




ヒルダ : 「もういい! 坊ちゃん! シュンスケ! シェヴァを捕まえて口を塞いでおけ」


シュンスケ : 「わかった」


シグ : 「仕方ねぇな、ほら。お前は話終わるまでじっとしてろ!」


シェヴァ : 「むぐー、むぐー、むぐー!」



GM : 「それじゃ、気を取り直して……。 (レン)『この階層は、見ての通り広い。闇雲の歩いていては、消耗するだけだ……が。私の知る限りでは、この階層には……どこかの壁に、秘密の隠し通路がある、という事だ』



ヒルダ : 「……隠し通路?」


GM(レン) : 「『いかにも……ただし、その隠し通路の先には、森の魔物が住み道を守護していると言う。充分に、注意して進むのだな』



ヒルダ : 「……あぁ。助言をすまない、助かった」


GM(レン) : 「『礼には及ばん……これが私の知る、この階層の全て……だ。先に進めるか否か、は君たちの力量にかかっている……』 と、そこまで言うとレンとツスクルは君たちの前に道をあける。 『行くがいい。壮健でな』


ヒルダ : 「あぁ、貴方たちも……ご武運を」


リン : 「……無理しないでくださいね、レンさん。ツスクルさん」



GM : 「君たちの言葉に、二人は僅かに頷くが振り返ろうとはしない。伝えるべき言葉は伝えた、という事か……」



シェヴァ : 「……ツスクル?」



GM : 「ツスクルは君に呼ばれ僅かに振り返るが、声を出す事はない。ただ、唇だけで呟いた……」


シェヴァ : 「……あ」



GM(ツスクル) : 「『何があっても……怖がらないで。貴方の世界を受け入れて……真実を見てくれれば……貴方の世界も、きっと変わる……から』」




シェヴァ : 「あ……今、何て……」


GM : 「……その声は聞こえない。ただ、唇だけ動かすと、彼女はレンに付き従い君たちの前から姿を消した……」




シグ : 「……」


シュンスケ : 「……助言、だけか」


シグ : 「あぁ……そうみたいだな……」


ヒルダ : 「……レンとツスクル。彼女たちが、エトリアでは最も熟練の部類に入る冒険者か?」


シグ : 「ん……あぁ、そうだ……俺らがココにきた時から、ベテランの冒険者としてご活躍しているそうだぜ」


ヒルダ : 「……そうか……いや、何だろうな。あの二人は何か隠し事をしている気がするのだが……以前から、そういう素振りがあるのか?」


シグ : 「隠し事、ねぇ……いや、俺は何も感じねぇけど……」


リン : 「はい……でも、確かにあの二人って、ちょっと不思議ですよね。強いって噂ですけど、ミッションとかにはあまり積極的に関わってませんし……謎めいた台詞を残して去っていく事も、多いですよね……」


シュンスケ : 「そうだな……疑いだしたらきりがない所はあるが」



シグ : 「ま、仕方ねぇだろ。アレコレ考えても、先にある道はいっこしか無ぇんだし……もし何かあっても、全力で叩き伏せるのみよ!



シェヴァ : 「うっはー、リーダー豪快ー!」


ヒルダ : 「うむ……だが、今は坊ちゃんの言う通りかもな……今は、彼女たちの助言を信じて進むか。先に道があるかぎり、な」




一同 : 「おー!」




> モビトたちの呼び声




GM : 「という訳で、進むよ進む、未来へ進む……砂の道をどんどん、突き進め!」



一同 : ざくざくざくざく。ざくざくざくざく。



シグ : 「うう……とはいうものの。砂に足を取られて進みづらいな……」


シェヴァ : 「……うん。それに、何だろ。あちこちから、すごい殺気が感じるよ……これ、モリビトのかな?」



GM : 「……その通り、オッス、モリビトだよ! っという事で……さぁ、現れたぞ、敵は……モリビトの戦士、グリンソルジャーと……」




シェヴァ : 「グリンジャイアントだ!」



シグ : 「緑の巨人!?」



シュンスケ : 「エドウィン・ファン・デル・サール! エドウィン・ファン・デル・サールだな!」



 ※ エドウィン・ファン・デル・サール → サッカー選手。 オランダでも最も偉大なゴールキーパーとも呼ばれる、世界屈指のキーパー。緑の巨人(緑のユニフォームを着ている事から)摩天楼などの二つ名を持つ。



GM : 「違う! グリンソルジャーと、グリンヴァルドだ!」


シュンスケ : 「なんだ……」(がっかり)


GM : 「あれ、シュンスケさんがグリンジャイアントじゃなかった事に対して、ガッカリされてるぞ?」(笑)


シェヴァ : 「シュンスケ、ファン・デル・サールの大ファンだから」(笑)


シュンスケ : 「俺はサッカーはキーパーから好きになるタイプだ……イケル・カシージャス……ペトル・チェフ……ジジ、ジダ、シュマイケル……あぁ、キーパー、キーパー素晴らしい」



GM : 「……シュンスケが、あっちの世界にいってしまったぞ?」


シェヴァ : 「あー、いつもの事だからほっといていーよアレ……で、敵はどんな奴?」


GM : 「うむ、敵はちまっとしているようだが屈強な戦士を思わすモリビト、グリンソルジャーと、手に自分の身の丈程ありそうな杖を握った女性、グリンヴァルドだ」



シェヴァ : 「!?」



GM : 「……何だよシェヴァ、そんなビックリした顔で、グリンヴァルドを見てて……」




シェヴァ : 「うぁー、見て見てシグ。あの、おねーちゃん、手にうんこののっかった杖もってる! うんこの杖もってるよ!」




一同 : 「えぇえぇえぇえ!」



リン : 「ま、まさか……そ、そ、そんなモノのせた杖、もってないですよ! ほら、あれ……多分、つぼみですよ! 花のつぼみ……」


シェヴァ : 「でも、ねじれてとぐろまいてっ、あれ、うんこに見える! ねぇ、シグ、うんこに見えるよねぇ!」




シグ : 「ぎゃははは! 確かに、そう……見えなくもねぇ、なぁ!」


ヒルダ : 「だが、罰ゲームだろ……そんな杖持つの……」




GM : 「そ、そうだ! べつにうんこの杖じゃないぞ! 何でこんな所まできて、そんなスカトロジーに目覚めたキャラを登場させなきゃならんのだ……これは花のつぼみをモチーフにした杖だ! そして彼女はグリンヴァルド! 大気の精と交信し、術を扱うのだ」



シェヴァ : 「大気のせい……?」


GM : 「あぁ!」


シェヴァ : 「……うんこの妖精とかじゃなくて?」




GM : 「だから、うんこじゃねぇってば!!」(泣)



シグ : 「ははは……ま、とっとと片づけちまおうぜ!」


シェヴァ : 「よっしゃ、俺ヘッドボンテージぃ!」


シグ : 「俺はハヤブサ駆けだ、姉弟子。姉弟子はどうする」



ヒルダ : 「……」



シグ : 「……姉弟子?」



ヒルダ : 「ぷっ……ぅ、くくっ……うんこ、うんこの杖っ……くくくくっ、駄目だ……笑いが、とまらんっ……」 (笑)




シグ : 「……うんこの杖が、姉弟子の笑いのツボを絶妙にヒットしたでござるよ!?」



ヒルダ : 「駄目だ……見ないようにしてるんだがっ、見てしまうと……ふふっ、どうしても、笑ってしまう……」


GM : 「普段真面目だから、こういう下ネタに耐性なくて、笑いの沸点が低くなってんだろーなぁ」(笑)


リン : 「ヒルダさん、花です! 花のつぼみだと思えばいいんですよ!」


ヒルダ : 「……だが、あの絶妙なねじれ感覚と、先端だけ赤い不自然さが……いかん、しっかりせねば。しっかりせねば……」



シェヴァ : 「そういえば、あの杖さきっちょが赤いね、何でだろ?」


リン : 「花だからですってば!」




シェヴァ : 「……まさか、血便?」




ヒルダ : 「ぶはぁっ!」 (爆笑)




シグ : 「姉弟子の笑いの壁が、崩壊した!?」



ヒルダ : 「あははははは! ハハハ! ははっ、何で! 何で大気の精と交信する杖の先に、糞便をっ……しかもご大層に血便をのせなければならんのだっ! 聖なる! 聖なる血便か! あはは、あははは! 坊ちゃん、私何だかおかしくなってきたぞ!」



GM : 「ヒルダまで壊れた」(笑)


シグ : 「シェヴァ、俺の姉弟子をよくも壊してくれたな!」(笑)


シェヴァ : 「お、俺だってヒルダがこんなに下ネタが好きだと思わなかったんだよ!」(笑)


リン : 「もー、とにかく戦いましょうよ! ほら、グリンヴァルドさんもおこってますよ!」


ヒルダ : 「あぁ……あぁ、そうだな……戦おう」 (※収まってきた)



GM : 「おお、はやく戦ってくれ。彼女、待ちくたびれてうんこの杖がぷるぷる震えてるよ!」




ヒルダ : 「ぶぶはぁ!」 (爆笑)




リン : 「きゃー、ヒルダさんがまた笑いのどつぼに!」


シグ : 「マスター! せっかく収まってきた姉弟子になんてぇ事を!」


GM : 「す、すまん。あんまり楽しそうだったんで、つい」(笑)




ヒルダ : 「あはははは! あは、あは、あはは! 杖が、ぷるぷるしてるっ、上に乗ってる聖なる血便が、ぷるぷるぞ坊ちゃん……」




シェヴァ : 「ごめんよヒルダちゃーん、あれうんこじゃなかったから、もーおさまってぇ!」


シグ : 「完全にツボったみたいだな」(笑)


GM : 「ちょっと意外な笑いのツボだよな。(笑) まぁ、こっちは遠慮なくやらせてもらうぜ、グリンソルジャーの攻撃、どっせぇい!



シグ : 「何のっ、俺らも大分強くなってきた、って……っと、おもった以上に攻撃が、重いっ……?」


GM : 「地の利はこちらにあり、だ。ふふ。モリビトを甘く見るなよ、さばみその諸君?」



シェヴァ : 「……うん。モリビトの攻撃が侮れないのも心配だよ。けど……今はそれ以上に、グリンヴァルドの攻撃が俺は心配だよ」


GM : 「ん、そう? 何で?」



シェヴァ : 「だって、あのひと明らかに魔法使い系だろっ……魔法使われて、あのうんこの杖からレーザービームとか発射されちゃったら、その時こそヒルダちゃんの腹筋が崩壊するよ!!」




GM : 「 確 か に ! 」



ヒルダ : 「つ、え、杖からビーム……ぷっ、ぷぷっ……」


リン : 「危険です、ヒルダさん、想像だけで吹き出しそうですよ!」


シグ : 「……一刻も早くグリンヴァルドを倒さないとな、シェヴァ!」


シェヴァ : 「いえっさ! ヘッドボンテージいきまーす! さくさく倒して、ヒルダちゃんの腹筋を守るぞ!」



ヒルダ以外の全員 : 「おー!」



 そんな妙な結託もあり。

 モリビトたちは、さく、さくと倒されていく……。




シュンスケ : 「終わった、大爆炎の術式……」


GM : 「うーん、グリンソルジャーはまだしも、グリンヴァルドは体力低いからなぁ。うん、それで退治されたぞ。はい、おめでとー」


シグ : 「ふぅ、思ったより消耗したな」


シェヴァ : 「うん。殴られたら案外痛いんだもん、こいつら……ヒルダちゃんは、グリンヴァルドの方を見てるだけで笑うし」


ヒルダ : 「す、す、スマン……だが、あの杖を見てるだけで笑ってしまうのだ……」


リン : 「もー、シェヴァさんが変なこと言い出すからですよ!」


シェヴァ : 「ごめんごめん!」


シュンスケ : 「まぁ、いいだろう……幸いこの階には、回復の泉がある。まめに回復しながら、少しずつマップを埋めていけばいいだけだ。少しずつ進んでいこう。少しずつ進んでいるうちに……」



ヒルダ : 「……杖、あの杖なぁ……罰ゲームとして、じゃなく、お洒落としてもってるんだろうなぁ……ククっ……」



シュンスケ : 「ヒルダもグリンヴァルドの杖慣れてくれるだろうしな」(笑)


GM : 「そうだな」(笑)




> の後で



 かくして、シュンスケの作戦通り。

 こまめに泉に戻りながら、探索は続く……その最中。



シグ : 「……グリンヴァルドだ! 姉弟子、杖はなるべく見るな!」



ヒルダ : 「や、やめてくれ坊ちゃん! 見るな、と言われると見てしまうではないか!」



シェヴァ : 「だったら、ヒルダちゃん。杖見てもいいから戦ってッ!




ヒルダ : 「そうか……って、駄目だ! 見ていいと言われると、凝視してしまう!」




 ヒルダがグリンヴァルドの杖に全く慣れなかったり。




GM : 「よし、グリンヴァルドの攻撃はスキル攻撃、雷の矢だ! グリンヴァルドは精神を集中させ……その杖から、雷を発生させた!」



シェヴァ : 「うんこビーム! 危ないヒルダちゃん、見ちゃだめだ、うんこビームが出たよ!」




ヒルダ : 「……あはははは! あは、あは、あははははは!」



シグ : 「もう遅い! 姉弟子の腹筋が崩壊した!


ヒルダ : 「坊ちゃん……私もう駄目だ。こんな事でこんなに笑える自分がっ……あはっ、な、情けないのと滑稽なのとで、涙が出る……」



 全然見慣れてないうちから、杖からビームを出すグリンヴァルドのせいで、ヒルダの腹筋崩壊がおこったり。



GM : 「新しい的が現れた。名前は、グリンドルイド!


シグ : 「ん……いままでのグリンヴァルドの、色違い。上異種族か?」


シュンスケ : 「ドルイドは、祭司の事……ヴァルドはドルイドより役職が別れた、神話や伝承、法律、歴史などを歌にして伝える吟遊詩人の事だ……かつてヴァルドはドルイドの補佐として生まれた事を考えると、ドルイドがヴァルドの上異種と思って差し支えはないだろうな」



シェヴァ : 「あぁ。だからうんこの杖がお揃いなんだね!」


シュンスケ : 「やめろシェヴァ! もうヒルダの腹筋はとっくに崩壊している!」


ヒルダ : 「あはは、あははははは、あはははは……」



 グリンヴァルドの杖に慣れてないうちから、上異種までも似たような杖をもっている事が明らかになったりしながら。

 ようやく。




シェヴァ : 「あれ、こんな所に人が踏み固めたみたいな足跡が……壁の向こうで、途切れてる」


リン : 「あ! シェヴァさん、見てください。これ、抜け道ですよ」


シグ : 「おおっ、でかしたリン! シェヴァ! これが、レンの言っていた、抜け道に違いない!」


ヒルダ : 「そ、そうか……これでようやく、あの杖の連中ともおさらば出来るか……」


GM : 「いや、あれはこの先も出る」(笑)


ヒルダ : 「…………」 (しょんぼり)



 レンに伝えられていた、隠れ路地を見つけるのであった。



シュンスケ : 「……レンの言う通りであれば、この先には森を守る獣が居るはずだが、どうする。リーダー?」


シグ : 「幸い、体力には余裕あるし……迷って立ち止まるのは性分じゃねぇ、サクサクと進もうぜ」


GM : 「ん、了解。サクサク進むんだね……と、そうして進んでいくと通路の先には、ここに潜み森を守護しているっぽいf.o.eがチラチラ見える」


シェヴァ : 「……やり過ごせそう?」


GM : 「いんや、君たちの存在に気付くとおっかけてくるね」


シグ : 「だったら迎え撃つだけだ! さぁ、この森に潜む奴なんて、ゴリラみたいな化けもンか? それとも、チンパンジーかニホンザルか!」


GM : (何でそんなサルに拘るんだ?) 「いや、おサルさん系じゃなくて……女性を思わすしなやかな肉体を持つモンスター……その名も禍乱の姫君だ!」



シグ : 「おぉっと……姫君?」


リン : 「お姫様なんですか?」


GM : 「いや、お姫様というより女王様だナ。手に鞭を持ち振り回すその姿はさながら……」



シュンスケ : 「シェヴァのようだな」



シュンスケ以外の全員 : 「えー!!!」




シェヴァ : 「ひ、非道いよシュンスケ、俺女王様じゃないよ! 女の子じゃないもん!」


シュンスケ : 「ん? そういうつもりじゃなかったのか、マスター?」


GM : 「いや、俺は手に鞭をもち振り回すその姿は、さながらSM女王様みてぇだ、って言いたかったんだが……まぁ、確かにシェヴァっぽいと言えばシェヴァっぽいな」(笑)


シグ : 「ダークハンターって職業が、もうソレっぽい衣装だもんな」(笑)



リン : 「……だったら、シェヴァさんみたいに封じ技を使ってくるかもしれませんね」


シェヴァ : 「だったら封じられる前に封じてやる、アームボンテージだ!」


GM : 「いや、その前に女王様の攻撃だ! 女王様の……呪いの声ッ!」


シェヴァ : 「えっ? おれより、行動早いッ!?」


GM : 「いつも自分が一番に攻撃出来ると思うなよ、シェヴァ……という訳で、女王様の歌声を聞けぇい! 呪いの声は、全体に呪い状態のバステを付属するッ!」


シェヴァ : 「うぇぇっ……俺、スキル攻撃つかっちゃったよ!」


シグ : 「俺もスキル攻撃使っちまったぜ。(笑) 呪われないよう祈るしかねぇな」


GM : 「……だが残念ながら、女王様の歌声は予想している以上に皆の心を蝕んでいった!(笑) シグ、ヒルダ、シェヴァの前衛三人組は呪われておいてな!」


シグ : 「ぐは……マジでか! 何だよ、呪われそうな歌声って、どんだけジャイアンなんだそのモンスター!」


GM : 「禍乱の姫君リサイタルへようこそ」(笑)


シェヴァ : 「……うへぇ。自分の攻撃で体力半分くらいダメージ受けたよぉ!」


シグ : 「心配するな、俺もだ」(笑)


リン : 「皆さん、大丈夫ですか。次のターンで、すぐにエリアキュア飛ばしますからね!」



 と、最初のターンこそ呪い効果で大幅にさばみそギルドの出鼻をくじいた女王様だったが、女王様自身の攻撃力は高い訳でもなく。

 次ターンで回復。

 次々ターンでリフレッシュされ、呪い効果が外されると再び前衛の集中砲火を浴び、結果。




シェヴァ : 「もう歌を歌えないようにしてやる、ヘッドボンテージ!」


GM : 「……うん、頭が縛られた。もう歌えないな、女王様のリサイタルが」(泣)



シグ : 「やったな、今ならジャイアンリサイタルが中止になってよろこぶのび太のクラスメイトたちの気持ちが分かるぜ!」



 と、唯一のダメージ源でもある呪いの歌声も封じられてしまい。

 わりとアッサリ、撃退されてしまうのだった。




GM : 「ううう、女王様の鞭が……歌声が……こうも簡単に……しかも……」


シュンスケ : 「ん、濡れた紫糸……レアドロップか?」


GM : 「F.O.Eが最初っからレアドロップを落とすという辱めにあうなんてっ! ううう、悲しい。何かすごく悲しいぞ……」


シグ : 「これで真の女王様がシェヴァだって事が判明したな」(笑)


シェヴァ : 「俺、女王じゃありませんー。男ですぅー!」


ヒルダ : 「だが、王様って感じはしないんだよな……シェヴァは」


リン 「でも、女王様って印象でもないですよね、シェヴァさんはむしろ……お姫様?


シェヴァ : 「非道ッ、リンちゃん非道い……シュンスケー、リンちゃんが非道いよー、俺男だよね! 男らしいよね!」


シュンスケ : 「…………それより、道の奥には何がある?」



シェヴァ : 「無視された! 無視された! シュンスケっ、非道いよ、そういう無視が一番こたえるよ!」



GM : 「ん……その道の奥には、そうだな。君たちが待望した、下の階層へ向かう階段があるぞっ!」



一同 : 「おおっ!」



GM : 「下への階層へ向かう階段は、ぽっかりと口をあけている。君たちはこの階段に挑んでも挑まなくてもいい……が、さて、どうする?」


シグ : 「……」


シュンスケ : 「シグ、行くか?」


シグ : 「あぁ……先を急ぐぞ。俺たちに、留まっているヒマは無ぇんだから、な……」



一同 : 「おー!!」



 そうして、さばみそギルドの面子が新たな階層に挑む頃。

 レンとツスクルは誰にも聞かれぬよう、呟いていた。




GM(レン) : 「『魔物の群、そしてモリビト……ツスクル。彼らさばみそギルドの面子は、それらも倒し先に進む事が出来るだろうか……それすら排除して、樹海の奥へ到達する事が……もし、それを彼らがなし得たら……』



 レンは隣に立ちつくすツスクルの方を向く。

 彼女は少し俯くと、レンの方を見て呟いた。



GM(ツスクル) : 「『……その為に、私がいて。そして、貴方が居るわ。レン……私たちは、街と、樹海の為に……』


 レンは静かに歩き出す。

 さばみそギルドが新たな道を歩き出す頃。

 二つの影もまた、樹海の中へと消えていった。



> 幕劇 〜 悲シキ玩具





 幕間劇に興じよう。

 ここは現実。

 エトリアとは違う時が流れ、命が時代へと紡がれる世界。


 そして、私が居てはいけない世界……。


 君はこの物語の語り部である私。

 西園寺馨の、真実に触れても触れなくても良い。


 ・

 ・

 ・



 都内、某所。

 セッションが終了し、皆が帰宅しておよそ一時間ほどたった頃。

 再びその場所に現れた人影があった。




滝 睦 (ヒルダ) : 「失礼する……居るか、西園寺馨?」


西園寺 馨 (GM) : 「…………居るよ。いや、今日は誰か来そうな気がしてねぇ。まだ、寝ないでいたんだ」


滝 : 「……悪いな、度々失礼する」


西園寺 : 「あぁ……いや、気にしないよ? ま、好きな所に腰掛けて……で、何の用事だい、滝さん? いや……滝睦警部補とでもいった方が、いーい感じかい?」


滝 : 「私の素性は、もう調べてある、という事か……」


西園寺 : 「あはは……こう見えても、案外情報が早いほうでね……でも、それはお互い様だろ、滝警部補。君も、俺の周辺を色々嗅ぎ回っているみたいだし、ねぇ?」


滝 : 「まぁ……な」


西園寺 : 「で、何のご用事だい……まさか夜這い! 夜這いって奴かい! 女性の社会進出が進む昨今、夜もアグレッシブになった感じかいっ! そーなのかいっ!」



滝 : 「……いや、それはない」 (さらり)


西園寺 : 「さらりと言われた! 少しも表情をかえずに、さらりと言われたよ! しょんぼーん……でも負けない、カオル強い子だもん」


滝 : 「そうだな……実はお前に、少し聞きたいコトがあってな。私と与太話に付き合ってはくれないか?」


西園寺 : 「ん。あぁ、別にいいよ……まぁ、俺の話せる事なんてさして無い、けどね」


滝 : 「……そんな事ないだろう、西園寺馨教授。貴方は世界的に認められた脳科学の権威であり……人間の脳、その機能の一部をプログラムとして再現する事に成功した、天才じゃないか?」


西園寺 : 「……買いかぶりすぎだって。天才なんかじゃ無いよ、俺は。ただ、偶然。たまたま、俺の居た時代にそういう事が出来る技術があった。それだけだよ?」


滝 : 「……謙遜するな」


西園寺 : 「謙遜じゃないさ。それより天才ってのは、既存の技術を応用する事で万人に受け入れられるモノを作れる奴だと思うよ、俺は……そう、ウォークマンとか、防水の電気シェーバーとか……あと、スキャンティーとかスキャンティーとか、スキャンティーとかなっ!」



滝 : 「お前のスキャンティー好きはわかった。だから三回も言うな」



西園寺 : 「スキャンティーはいいものだ」


滝 : 「……ニーズホッグ・システム


西園寺 : 「ん?」


滝 : 「この、世界樹の迷宮を運営するシステム……ニーズホッグ・システムは、凄いものだな。このゴーグルや、プロテクターを用いる事で、全ての人間に共通のイメージを共有させる事が出来る……統一された、共通の感覚をな……」


西園寺 : 「ま、そういうシステムだからね、それ」


滝 : 「これは、何の為のシステムだ? ただ、ゲームの世界を再現する為のオモチャでは……無いだろう?」


西園寺 : 「それ、本当に興味あるのか? まぁ、聞かれたなら答えるけどさ……仰るとおり、ニーズホッグ・システムはただ、ゲームの世界を体感させる機能じゃないよ。むしろ、それは付加価値。 本当は、プレゼンテーション利用を目的とされたシステムだ」


滝 : 「……プレゼンテーション、か」


西園寺 : 「そ。なぁ、滝さん。君は、黒澤映画って見た事あるかい?」


滝 : 「あぁ」


西園寺 : 「『生きる』って作品は、見た事あるかい?」


滝 : 「……誰が何と言おうと、あの作品は傑作だ。私の……大好きな作品だ」


西園寺 : 「そうか、そりゃよかった! ……俺も、大好きだ。特にラストシーンの、ブランコに揺られる主人公がゴンドラの唄をうたうシーンが、大好きでねぇ」


滝 : 「……あぁ。私も、あのシーンが強烈に焼き付いて、今でも忘れられない……」


西園寺 : 「……あのシーンは、不思議なシーンなんだよな。 悲しいんだ。多分胸に抱いた感情は、悲しいが一番大きいんだと思うんだよ。だが、心は全て悲しみで満たされている訳ではない……悲しいけど暖かく優しくそして喜ばしい。そんな無数の感情が幾つも渦巻いているんだ」


滝 : 「……概ね、同意しよう」


西園寺 : 「俺はあの瞬間を見た時、思ったんだ。人は、言葉で全てを表現する事は出来ない。って。自分の感情を表現するには、世界にある言葉は少なすぎる、ってね……」


滝 : 「……」


西園寺 : 「そこで考えた……こういう細かい感情を差異もなく他人に伝える事が出来るシステムを作る事ができないだろうか。お互いの心を、言葉がなくとも伝える事は出来ないだろうか……」


滝 : 「……それが、ニーズホッグ・システムの出発点だな?」


西園寺 : 「そうさ……実際、世界は広すぎて言語は多岐に渡るってのに、互いの心を伝える為の言葉は少なすぎるんだ……言葉が伝わらない為に、おこった悲劇なんていくらでもあるだろう。俺は、そういう悲劇を無くしたかった。言葉がなくても通じ合える心が欲しかった。言葉に変わるコミュニケーションを作りたかった……」


滝 : 「そして、ニーズホッグ・システムが生まれた……」


西園寺 : 「……試作品で、目指していたモノと大幅に違うがね。 ひとまず、紙媒体より優秀なプレゼン機能をもっていると自負してるよ。何せ、誰にでも同じようなイメージを投影させる事には、成功しているんだしね」


滝 : 「……プログラム・フレスベルグは」


西園寺 : 「共通のイメージを投影させる為の、全ての基本となるプログラムだよ……基本となる感覚。 痛みや苦しみから、喜び怒りなんてそういう感情をプログラミング化したものさ。 脳に擬似的にそういったモノを与える……何事にも、基本のデータは必要だろ。プログラム・フレスベルグは、そういった感覚をデータ化したものだよ」



滝 : 「なるほど、理解した」


西園寺 : 「理解した? いや、感心感心。これ、俺の教え子もめんどくさがって聞きとばすよ?」


滝 : 「……いや、見事な演説だよ西園寺馨。 まるで……本物の西園寺馨の話を、聞いているようだったぞ?」


西園寺 : 「…………俺は」


滝 : 「本物だ、とは言わせない。その理由は……お前自身、よくわかっているだろう?」


西園寺 : 「……」


滝 : 「6年前……西園寺馨は、進行性のある病を患った。それは……現代の医学では治す事は到底出来ないものだった」


西園寺 : 「……たまんないよな。これだけ医学が発展したとか言う時代にだぜ……原因不明で対処療法しか無いってんだから、馬鹿げてるだろう? 医学の進歩がよくいったもんだぜ。おまけに、早くて3年。長くても5年もたない、ってんだ……こんなタチの悪い冗談ったら、無いよなぁ?」


滝 : 「…………そうだ。私が見た西園寺馨の映像も、病気の進行が激しく車椅子に乗っているものが殆どだった」


西園寺 : 「スーツと白衣だったろ、俺」


滝 : 「……あぁ」


西園寺 : 「学生に心配されちゃたまんないからね……背中にバネいれたスーツ、誤魔化す為に白衣羽織ってたんだ……コレ、案外気をつかってたんだよ、俺。まぁ、シーナ君にはバレてたけどね」


滝 : 「それは初耳だ、が…………そこまで西園寺馨を知っているのなら……もう、分かっているだろう?」


西園寺 : 「……何の事だい、お嬢さん」




滝 : 「とぼけるな……何故、西園寺馨のフリをする?」



西園寺 : 「……」


滝 : 「そこまで西園寺馨の事を知っているのなら……もう、お前も知っているだろう。西園寺馨は……一年前。もう……」


西園寺 : 「……」




滝 : 「西園寺馨は、もうんでいる……一年前、病に抗う事が出来ずに、な」




西園寺 : 「……」


滝 : 「そうだよな、西園寺。私の言う事に、何か間違いはあるか?」


西園寺 : 「いや、別に……その通りだよ、西園寺馨は、死んだ……その通りだ」


滝 : 「…………だから聞きたい、お前は……誰なんだ?


西園寺 : 「……」


滝 : 「西園寺馨には、妻子はない……」


西園寺 : 「理系だったもんで、婚期逃しちゃったもんでね」


滝 : 「肉親は、年老いた母親のみ……兄弟は、腹違いの弟が二人だが、そのどちらもこのプロジェクトに直接関係ない……」


西園寺 : 「腹違いなもんで、あちらのご家庭で俺は、毛虫のように嫌われていてねぇ……あんまり協力させる訳にもいかなかった訳さ」


滝 : 「……だからわからない。お前は、一体誰なんだ? どうして、西園寺馨のフリをする? どうして……」


西園寺 : 「……」


滝 : 「どうしてお前はそんなに、西園寺馨に似ている? お前の顔、表情、声、思想……全てにおいて、記録の中にある西園寺馨そのものだ。発言も、研究内容に関しても、どれをとっても、西園寺馨そのものの発言とさえ思える……」


西園寺 : 「……」


滝 : 「……最初、私は西園寺馨に双子の兄弟がいるのでは、と考えた。だが……そう説明するにはあまりにも、お前は西園寺馨なのだ。身振り手振りや仕草、癖まで全く同じ……生き写しだ」


西園寺 : 「……」



滝 : 「だから聞きたい……お前は一体何者だ? 何故、西園寺馨を演じ続ける?」



西園寺 : 「俺は……」


滝 : 「西園寺馨、だなんて冗談はやめろ……見ての通り、ここに西園寺馨の死亡診断書がある」


西園寺 : 「そんなもの!? ……よく、もってきたね。いーのソレ、刑事さんだよね、滝さん?」


滝 : 「……私の友人、神崎高志が偶然拾ったモノだ。私はただそれを、預かったにすぎない」


西園寺 : 「あ、そ……面白い言い訳もあったもんだ。ま、別にいいけどさ……」


滝 : 「もういいだろう、答えてくれ。お前は、一体何ものだ。何故、西園寺と言い続ける?」



西園寺 : 「俺は……それでも、俺は……西園寺馨……だよ」


滝 : 「……いい加減にしろ。いいか、お前が誰かは知らない。だが、死者の名を騙りその研究所を無断使用するのは感心出来る事じゃないぞ。ましてやそれで私の友人たちを騙しているなら、尚更だ」


西園寺 : 「騙す、つもりは毛頭……ないんだが、な」



滝 : 「いい加減にしろ!」



 語調を強め、滝は西園寺の腕を掴もうと手を伸ばす。

 だがその手は……。


 ……西園寺馨の身体に触れる事なく、ただ空を掴むのみだった。



滝 : 「……何?」



 確かに手を掴んだ。

 だが、つかめない。

 その事実で、ようやく西園寺の身体、その奇妙な特徴に滝は気付く、この男……。


 影が、無い……。




西園寺 : 「ニーズホッグ・システムがなければ、俺に触れる事は出来ないよ? 何せ俺は……俺の身体は、ただの三次元映像だからね」


滝 : 「……映像、だって? バカな、だったら、お前は……お前は……」



西園寺 : 「……さて、改めて自己紹介をしよう。俺の名前は……プログラム・ラタトスク。 死んだ西園寺馨教授が残した、西園寺馨の頭脳・知識・性格・性癖。その他もろもろ、全ての脳の記憶をプログラム化されて出来た……西園寺馨の、模倣品だ」



滝 : 「何、だ……と……」



西園寺 : 「……最も、プログラム・ラタトスクという名前はあくまで俺という現象の名前であり……西園寺馨は、死ぬ間際まで俺の事を 西園寺馨 と呼び続けたがね」



滝 : 「脳のコピーだと!? 人格をコピーした、だと!? そんな馬鹿げた事が、出来る訳が……」



西園寺 : 「……そう、できっこないんだ。だがそれを、西園寺馨はやろうとした……そして、その持ち前の神懸かり的な集中力でね……そんな馬鹿げた、あり得ない事を、やってのけたんだよ。そして、俺という現象が生まれた……


滝 : 「……バカな」


西園寺 : 「信じられなくてもバカげていても、俺は、西園寺馨なんだ。 確かにすでに人間の枠からはちょっとばかりはみ出してこそいるが、この性格、知識、その他諸々全ては西園寺馨のそれを正確に模写している。 だから俺は、西園寺馨だよ。 人間の西園寺馨から他の名前は与えられてもいなかったし……俺も、西園寺馨としての記憶も、自我もある。他の名前を名乗るのも、どうにも居心地悪いから、この名を名乗らせてもらっているよ……ご理解、頂けたかな?」


滝 : 「お前が、西園寺馨のコピーで、その肉体がただの三次元映像だって……?」


西園寺 : 「あはは、見事なもんだろ。肉感や重量感もある、映像とは思えないだろ? これも、人間・西園寺馨の傑作さ。 この研究室に、俺という存在をリアルに表現する為の装置を幾つか組み込んでるんだ……この部屋に居る限り俺が人間だと疑わないよう脳を錯覚させる信号を幾つか出している。最も、君のように最初から俺の存在に疑問をもっていれば、なかなか……騙しにくいがね」


滝 : 「信じられん……」


西園寺 : 「ははは……信じろ、って方が無理だ。が……」


 西園寺馨は、机に置かれたポットに手を伸ばす。

 だが、その手はポットに触れる事なく、ただ陶器の器をすり抜けていくだけだった。




西園寺 : 「……見ての通り、俺は現実の存在に……君たちに触れる事が出来ない。現実世界に触れる事が出来ないって事は、な……俺はやはり、人間では……ないんだよ……」


滝 : 「そうか……だが、西園寺馨は、何故そんな事を……?」


西園寺 : 「……それに関しては……今は、言えないな……」


滝 : 「言えない? ……何故だ?」


西園寺 : 「プロジェクト・ユグドラシルに関わる発言だからだ。 アレに関わる発言、その全ては西園寺馨の半身とも言える教え子によりロックがかけられている……納得してくれるかい?」


滝 : 「西園寺の……? 淳ちゃ……椎名淳平が、か?」


西園寺 : 「それが誰か言う事も、俺は出来ない管理権限は全て彼がもっているからね……何せ俺の管理権限は、ほとんど全てその教え子が掌握しているのさ……俺の存在を壊すのも、生かすのも、全て彼の裁量一つで決まる……故に俺は、彼が不利益とする情報を、彼の居ない場所で発言する事が出来ないんだ……分かってくれるだろう。俺だって、消えたくはないんだよ」


滝 : 「それは、椎名だな。椎名の事なんだな。 だったら、今から椎名に頼んで……」


西園寺 : 「いや、それは……少し待ってくれないか?」


滝 : 「何故だ? お前が人間ではないという事、皆に知られたくはないからか?」



西園寺 : 「……若葉君をまだ、見つけてないからだ」



滝 : 「!!」


西園寺 : 「……ニーズホッグ・システムの思わぬ暴走により、彼女の意識は俺という存在を意地するサーバー、ユグドラシルの何処かに沈んでいる……彼女の意識を引き出す切っ掛けは、君たちしか作れないだろう。だが、彼女の意識を抽出するのは、恐らく俺しか出来ない……


滝 : 「…………」


西園寺 : 「西園寺馨はもう死んでいて、俺は西園寺馨の模倣品……西園寺馨が死ぬ前に生み出した、西園寺馨のお人形です、なんて事さ……今、皆に聞かせても、戸惑うだけ、だろう?」


滝 : 「……そうだな」


西園寺 : 「……こんな時に、俺の事でさばみそ面子に戸惑って欲しくないんだ。とにかく彼らには今は、若葉君の救出だけを考えて欲しい


滝 : 「なるほど……」


西園寺 : 「……それが終われば、俺の正体をバラすなり何なり、好きにしてくれていいよ……だが、今はもう少し。せめて若葉君が戻ってくるまでは……黙っていてくれないかね、滝君?」


滝 : 「……」


西園寺 : 「それとも、俺が西園寺馨を騙っていた事実が、どうしても許せない、か……?」



滝 : 「あぁ……お前がそれ程までに秘密を隠していた事は、いささか不本意に感じる」



西園寺 : 「悪かったね……でも、俺は人間じゃない、なんて。言っても誰も信じないと思ったからね。実際、もう何ヶ月も皆と過ごしてきた訳だしさ」


滝 : 「だが……事情を知ったのなら、私はあえて黙っていよう……今、ここでそれを暴く事が……正義では、なさそうだから……な」


西園寺 : 「……ありがとう、滝君」


滝 : 「……それでは、失礼する」



 ……滝睦が、退室する。

 一人残された西園寺は、傍らにある椅子に腰掛けた。


 椅子は音をたてない。

 疲れを知らない西園寺馨の幻影にとって、この仕草はただの戯れである。


 が……人間の頃の名残があるのだろう。

 椅子を見ると座る癖が、彼にはついていた。




西園寺 : 「やれやれ、まさか彼女が俺の正体を暴くなんて……やっぱり刑事の嗅覚ってやつかね? ま、何時か誰かにバレると思ったし。むしろ、長くバレなかった方だよな、これ」



 残された西園寺は、誰にでもなく呟く。



西園寺 : 「まぁ……いい機会だ。 そろそろ、頃合いだと思っていたし……全て、見せてもいい頃だろう……そう、プロジェクト・ユグドラシル。その全てを……な……」



 一人になった西園寺は、静かに目を閉じる。

 スリープ機能の合図。

 彼が目を閉じると同時に室内の照明は全て消え、西園寺馨の姿もまた闇へと溶ける。


 後にはただ。

 巨大サーバー、ユグドラシルが熱を帯びて動く音だけが響いていた。




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