- 物作りへの挑戦
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今年になっても忙しい日々が続いています。
「バーチャルからリアリティ」を書いた頃から、段々と私の中で変わってきました。
ソフトウェアでどこまで表現できるのか。
以前は、ソフトウェアの無限の可能性を信じて疑わなかったのですが、最近、妙にむなしさが残る。
私の本質的な性質は、物作りへの挑戦です。
ソフトウェアは、物書きの紙とペンと同じなのです。
コンピュータという機械に向かい合って、ソフトウエアという物語を書くことなのです。
何をどう表現するか、何を伝えたいか、その全てを持てる話術(プログラミング技術)を駆使し、読者(エンドユーザ)を喜ばせ、感動を与えているのです。
しかし、大抵の物書きが紙という媒体にしか表現出来ないように、今のコンピュータの基本的なデバイスはブラウン管です。
ブラウン管の中にだけでしか表現できないのです。
なんだかんだといっても、その殆どを読者の想像力に頼っているのです。
読者によって、物語の受けとめ方が違うのも、プレイヤーによってゲームの受けとめ方が違うのも同じことなのです。
バーチャルからリアリティへ、どんなに素晴らしい書き物でも、どんなに素晴らしいソフトウェアでも完璧ではないのです。
特にゲームのような分野のソフトウェアについては、なおさら自省の念に駆られます。
こういう物そのものを世に与え続けていいのだろうか、それによって万人にどれほど有益なことがあるのだろうか、一種のスランプかもしれません。
スランプから抜け出すには、一度このような現実から離れてみる必要があると考えました。
- 形のある物を作ってみよう
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私は小さい頃から、絵を描いたり物を作ったりするのが好きでした。
特に、プラモデルにはとことんはまったものです。
もちろん、今でも大好きですが、仕事や家庭にさかれる時間が多すぎて、ゆっくり物を作る充実した時間のことを忘れていました。
私は、本が好きでよく本屋に行くのですが、本といっても物語本ではなくて、雑誌という情報誌です。
雑誌は、文学本に比べて軽視されがちですが、時代の流れを読むには非常に有用な媒体です。
「車、ファッション、食べ物、芸能、ゴシップ」等々色々なジャンルがあります。
雑誌を読む場合、最も重要なことはジャンルにとらわれないことです。
ひたすら流しながら重複して取り上げられている事柄に注目することです。
ただし、故意に作られた情報には注意が必要ですが・・
遠い過去に、一人の個人が自分の想像力だけで書き上げた物語を読むよりは、時事刻々移り変わる雑誌の情報を読む方が、よほど安全で健全ではないかとも思います。
その中で最近特にとり立たされているのが腕時計ではないかと思います。
まさに異常な状態とも思える感があります。
特に、男性向け情報誌には取り上げられない号がないほどです。
スウォッチに始まり、最近はどんどん高級志向に向かいつつあるようです。
一時のファッションがDCブランド志向に向かっていった現象と似通っています。
1本200万円の腕時計なんかの記事を読んでいると、これを読んでどうなるのかと思う気もするのですが。
これの意図することは、デジタルからアナログへの逆行と読むべきなのでしょう。
私の求めていたものもこれなのかもしれないと思いました。
そう思うとますます、その時計が気になりだしたのです。
クロノメータ、トゥールビヨン・・・どうなっているんだ?
好奇心がワクワクこみ上げてきます。
頭の中を血液が、囂々と流れ始めるのを感じました。
200万円の腕時計は、美しい、何がそんなに美しいのか?
私の場合、金色に輝く金属でもなく、装飾されたきらびやかな宝石類でもない、歯車なんです。
非常に原始的にみえるその「からくり」は、そのフレームの中で絶妙なバランスをもって動き続けているのです。
調べれば調べるほど、その機構と職人芸に惚れ込むばかりです。
- シンボルクロック
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コレクターの行き着く先は、自分で自作することだと言われています。
基本的には真似事からはいるため、決してはじめっから上手くいきませんが、その情熱がいつしかカバーしてくれるでしょう。
私には200万円もだして時計を買うほど余裕はありませんが、その機構を理解し、模倣することは可能かもしれません。
所詮は人が作った物、才能のあるなしは多少あっても、模倣しいずれはそれを越えることが出来るはず。
しかし、私がほしいのは腕時計ではありません。
もともと日常生活では、腕時計を全く使っていません。
なぜなら、それをカバーする物が回りに多すぎる程あるからです。
みなさんの自宅にはいったいいくつの時計がありますか
一度、数を勘定してみて下さい。
私の家には、大小合わせて約20を越える程の時計があるはずです。
壁掛け、テレビの上、ビデオ、テーブル、ラジカセ、キッチン、トイレ、風呂場・・
贈り物で貰った物や自分で買ったものまで、よくもまーこれだけあるもんだなーって感じです。
どうです、あなたのところにはいくつありましたか?
でもよくよく思い返してみると、シンボルになるような時計がないのです。
昔、実家にはゼンマイで動く時計が一つありました。
よくゼンマイ切れになるもので、踏み台に上ってゼンマイを巻くことが自分の仕事だった時期がありました。
手を伸ばして、ゼンマイ回しを取り出して、ゼンマイを指先で巻くのはかなりの重労働で、よく手のフクラギの筋肉がつりそうになったのを覚えています。
そんな時計がほしい、そう思ったのです。
もしそれを自分で作れたら、私の子供たちに時計の思い出を残せるんじゃないかなと思いました。
よし、作ろう!それからです。来る日も来る日も時計が頭の中を回り始めました。
- 時計って
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時計の構造を色々と調べてはじめた頃、偶然にごみ捨て場に落ちていたバラバラになったゼンマイ時計を発見しました。
思わずそのまま持ち帰り、さっそく分解してみました。
今の時計は殆どがクォーツ時計で、水晶発振機からの周波数をどんどんわり算して1秒を取り出し、電磁石で歯車を回しているのです。
非常に正確ですが、面白味には欠けます。
拾った時計は、私が、子供の頃ゼンマイを巻いていた時計に、非常によく似た振り子時計でした。
分解してみると、トゥールビヨン(鳴り物)のからくりを取り除くと、時を刻む基本部分は意外な程単純な構造であることに気づきました。
振り子式時計は基本的に振り子が全ての時を刻んでいるのです。
ちょうど水晶発振器にあたるのが振り子になります。
これは、円周運動上の均一性からくる機構を上手く使ったものです。
全ては、振り子の長さで決まるのです。
学校で習ったはずのこの事象を、自分の手と目で確かめた今、新たな感動があるものです。
つまるところ振り子時計とは、振り子の機構で取り出した一定の時間を、歯車でわり算する機械なのです。
「これならいけそうだ。」
時計というと、精密機械の代表的な代物です。
それは、より小さく、正確にを追求するがために必要なことです。
「振り子時計の場合、時は基本的に振り子で刻むんだから、歯車の数だけ間違わなければ大丈夫だろう。」
これの軽い気持ちが後からローブローに効いてくることに、この時点では気づいていませんでした。
色々調べを進めるうち、17世紀ごろ流行っていた1m振り子「ロイヤル・ペンデュラム」(王様の振り子)というものに行き当たりました。
この振り子は、一往復、約2秒という時を刻むことが出来ます。
その機構から簡単に約1秒という時を取り出せます。
わかりやすい!これだ、これで振り子は決まった。
あとは、歯車で、60秒が1分、60分が1時間、とわり算をすればいいだけです。
さて、何で作るか?ここをすっかり忘れていました。
私には金属を切ったり、くっ付けた経験がなく見当もつきません。
ラジコンを趣味でやっていたので、バルサを切ったりくっ付けた経験が山ほどあります。
バルサは、加工がしやすいけれども強度がない、「木で作ってみよう、木なら出来そうだ。」
その昔、時計は木で作ったに違いないと思ったのです。(後に、これもハズレであったことに気付くが)
ここまで来ると話は早い、さっそく近くのDYI店に走った。
- DYI店へ
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色々な木を見て、適当な厚さの木を買い求めた。
買って帰った木を、上から下から横から斜めから
ありとあらゆる方向から、眺めれば眺めるほど時計への思いが高まっていきます。
どうやって切るか?歯車を切るには普通の鋸より糸鋸の方がベターでしょう。
しかし、かなりの歯車を正確に切り抜くには、普通の糸鋸では無理があります。
糸鋸旋盤がほしーーい!
翌日、DYI店にいって糸鋸旋盤を8千円で衝動買いしてしまいました。
ついでにコンパスも300円で買いました。
ここまで来たら引っ込みがつきません。歯車を作ってみよう!
まず紙の上に、コンパスを使って30個の歯をもつ歯車を画いてみました。
描きながら、なんだか変だなと思っていたのでが・・・
出来た型紙をハサミで切り取り、買ってきた合板の上に張り付け、いざ糸鋸旋盤へ、
糸鋸旋盤を使うのは全くの初めて。
まずは組立図どおり組立、鋸歯をセットいざスイッチをオン!
思った以上に切りにくい、重い、曲がる、曲がらない、悪戦苦闘の末、初めての歯車が切りました。
いい!歯車のとがった歯先が、指について気持ちいい!
呆然と眺めながら、ふかすタバコが旨い!
これだ、この一時の自己満足、何とも心地よい!
しかし、眺めれば眺めるほど、最初は綺麗に思えていた歯車は妙にゆがんで見え始めた。
まさかと思い歯の数を数え直してみてビックリ、1つ足りない!
30枚の歯を切ったはずが、29しかないのです。
そんな馬鹿なと思いつつ、計算表と照らし合わせてみると微妙に違っている部分がいくつもある。
円周 = 直径 × 3.14159265・・・誰でも知っている公式です。
しかし、300円のコンパスには厳しすぎたようです。
完全な頭打ちです。
併せて歯車について再度、勉強をし直す必要があるようです。
再び、本屋に・・
色々と調べてみると歯車の設計には山ほどの計算式を解く必要があることを知りました。
こんにシビアな物を木で作るのは不可能じゃないのか?
あーー糸鋸旋盤がーー
しかし、水車なんかどうだろう、どうみてもあれほどの計算式を解いて作っているとは思えない。
問題は、歯車の形状と精度です。
精度は大きさの問題です。大きくすればそれだけ相対的な精度が上がります。
形状は単純化することで克服できそうです。
そこで糸鋸旋盤で最も切り出しやすい、三角歯と、その雑さを吸収するために棒状を組み合わせた雌型の歯車を考えました。
これが大正解!
しかし、歯車の設計に300円コンパスは使えそうにありません。
そこで、得意なパソコンで計算してみました。
あっという間に完成!
簡単に組んだプログラムでも、精度的にはコンパスとは比べ物になりません。
試しにレーザープリンタで印刷してみました。
「これだ!」
さっそく、プリントアウトした紙をハサミで切り出して、再度、糸鋸旋盤に挑戦!
「ビューティフル!」
コンパスで手書きしたものと比べ物にならない物になりました。
当然といえば当然なんですが、ピッチが大きく狂うこともありません。
糸鋸旋盤を使うのも2度目となると慣れたものです。
それも相まって綺麗な歯車が出来ました。
またまた、自己満足、いっぷくを・・・
き・も・ち・い・い・
つづく・・・
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