前田の算数

算 数 コ ラ ム
算数の楽しさって何?③   3つの鯛が泳ぐ授業を!

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3、三匹の鯛が泳ぐ授業を!
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① 三匹の鯛とは「考え鯛」「知り鯛」「やってみ鯛」

「あれ」「どうして」や「ははあん」「なるほど」や「だったら…」
という3つの素敵なつぶやきを紹介しました。
ここまでは、「考える楽しさ」についての話です。

さて、算数の楽しさは、こうした「考える楽しさ」ばかりではありません。
坪田耕三先生は、
「子供は好奇心から生まれる3つの欲求を持っている」
と言っておられます。
3つの欲求とは、
「考えたい(思考)」「やってみたい(体験)」「知りたい(知識)」
の3つです。
そして「3つの欲求を複合的に満足させることが豊かな学び」だと言っておられます。

「考え鯛」「知り鯛」「やってみ鯛」
心の中に3匹の鯛が泳ぐ授業ができたら、きっと楽しいことでしょう。

ここまでは、「考え鯛」についてお話してきましたが、
ここからは、「知り鯛」や「やってみ鯛」についてお話していきます。


②「知り鯛」が生まれる授業を!

【実践例 円周率・大きな数】

円周率ってあるでしょ。
5年生で習いますよね、3.14って。
大抵、5年生になると、どこのクラスでも、それぞれ思い思いの丸い形の物を持ってきて、
直径と円周を測ってみるわけです。
測ってみると、
「どの円も円周は直径の約3倍だなあ」
ってなるわけです。
それじゃあってわけで、円周÷直径を計算すると、
誤差はあるものの、どれも3.14あたりの数値になるんです。
そこで教師が
「実はこれを円周率と言って、正確には、こんな数値なんだよ…」
って板書するんです。

ここで、子どもたちに「へえ」と言ってほしいんだけど、
子どもたちは、「なあんだ」っていう顔をするんです。
みんな塾や問題集で円周率は3.14だって既に知っているんですね。

そうなると、ついついこっちもムキになってしまいます。
私は、黙って書き続けました。
3.1415…
子どもたちは「おや」という顔で黒板に注目し始めます。
どうだとばかりに、まだ書き続けました。
3.1415926535…
次第に、子どもたちからは、「おお」というどよめきが起こります。
気持ちいいもんだから、調子にのって黒板の端まで書き続けます。
3.141592653589793238462643383279…

しかし、ここまで書いてちょっと反省。
これは、調子に乗りすぎました。
なにしろ、学習指導要領の範囲を逸脱していますから(笑)
本当は、3.14まで覚えれば十分なんです。
実際、ロケットの設計ですら、円周率は3.14までで事足りると聞いたことがあります。
そこで
「…とまあ、長く続くのですが、みなさんが覚えるのは、ここまででいいでしょう」
などと尤もらしくまとめて、「3.14」を赤で囲んでみせました(笑)

そして、残りの4桁以下を消そうとしたんです。

しかし、子どもたちは、どんな反応をしたと思いますか。

「待って、消さないで」
と言って、必死にメモし始めたんです…30桁も(笑)
いつもは「ノートをとりなさい」と言っても嫌がる、
あのやんちゃ坊主まで…こんな時に限って(笑)
必要ないのに(笑)

その後、休み時間になったんですが、
「10桁覚えたよ!」「僕は15桁!」と子どもたちが集まってきました。
本当は覚えなくてもいいんですが、
子どもたちの楽しそうな表情を見ていると、ついつい
「おおっ、新記録」
なんて褒めてしまうのが、教師の性です。
さらには、言わなくてもいいのに
「実は、語呂合わせがあるんだよ」
なんて教えちゃうんですね(笑)

こんな語呂合わせです。
「産医師 異国に向こう 産後 厄なく 産婦 宮代に 虫散々 闇に鳴く(さんいし いこくに むこう さんご やくなく さんぷ みやしろに むし さんざん やみになく)」

子どもたちに、この語呂合わせを教えてやると大喜びです。
夢中になって覚えていました。

中には家に帰ってから、
「続きも調べたよ。御礼にははよ行くな(502884197)…って続くんだって」
「英語では、Yes(3),I(1) have(4) a(1) number(5)…って各単語の文字数で覚えるんだって」
など、面白いことを調べてくる子もいました。

子どもたちって、案外こういうことに夢中になるんですよ。

円周率の他にも、大きな数なんかもそうです。
クラスに一人くらいは、夢中になって、やたらと詳しく覚えている子がいます。
一、十、百、千、万、億、兆、京、垓、し、穰、溝、澗、正、載、極、恒河沙、阿僧祇、那由他、不可思議、無量大数、なんてね。
大抵いるんですよ、一人は(笑)

そんな子どもたちの姿を見ていると、私の「楽しさ」に対する考えは、
少し変わってきました。

それまで、私は丸暗記っていうのを、何だか算数の本質ではないような
いけないことのような気がしていたんです。
しかし、ただ単純に「知りたい」っていう思うことだって、
子どもの自然な姿なんですね。
知的好奇心から来る、素敵な欲求なんです。
知識を身につける。
つまり、今まで知らなかったことを知るというのも、
楽しさの1つなんだと思うようになりました。

【実践例 10までの数】

さて、続いては、小学校に入ったばかりの1年生のお話です。
算数では、10までの数のお勉強をします。

(1を指さして)これはなんて読みますか。
そう「いち」ですね。
(2を指さして)これはなんて読みますか。
そう「に」ですね。
(3を指さして)これはなんて読みますか。
そう「さん」ですね。
みんな、すごいなあ、よく知ってるね…って、大学生だから当然ですね(笑)
1年生には、こんなふうに褒めてやるんです。
天才っ!花丸っ!
グレイトッ!エクセレントッ!マーベラスッ!
デリシャスッ!

おっと、デリシャスは違いましたね(笑)

数字が読めってことは、1年生の子供たちにとって、大きな自慢なんです。
はりきって元気いっぱいに答えるんです。

ところが、授業を進めるうちに、途中「あれ」ってなるところがありました。
どこだと思いますか。
そう、「4」と「7」なんです。
教科書には「し」「しち」というふうに読み方が記載されています。
しかし、
「よんって言う時もあるよ」「ななって言う時もあるよ」
と言う子が出てきました。

10
いち  に  さん    ご  ろく  しち  はち  く  じゅう 
なな

言われてみれば、確かにそうでしょ。
4は「し」とも言うけど「よん」とも言いますよね。
7は「しち」とも言うけど、「なな」とも言いますよね。

これ、実は面白い事実があるんです。
1から数える時と10から数える時で言い方が違うんです。

みなさん、1から数えてみてください。さんはい。
「いち、に、さん、、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう」
「し」「しち」って言ったでしょう。

今度は、10から数えてみてください、さんはい。
「じゅう、きゅう、はち、なな、ろく、ご、よん、さん、に、いち」
「よん」「なな」って言ったでしょう。
ね、面白いでしょ。

さて、そんな話をしていると、子供ってかわいいですね。
ある子が、
「よん と なな だけは、仲間外れでかわいそう」
なんて言ったんです。
数字に対してかわいそうだなんて、優しい発想でしょ。

でも安心してください。
実は、4と7だけが仲間外れではないんです。
他の数字にも2通りの読み方があるんです。
1(いち)には「ひと」っていう読み方もあります。
2(に)には「ふた」、3(さん)には「み」…

そんな読み方を紹介してやると、子供たちの中には
「あ、そういえば、ひとつ、ふたつ、みっつ…って数える時もあるよ」
という子が出てきました。
「よっつ、いつつ、むっつ…って続くよ」
なんてことを知ってる子もいます。
表にまとめてみましょうか。
次のようになります。

10
漢語系 いち  に  さん  し  ご  ろく  しち  はち  く  じゅう
和語系 ひと ふた いつ なな ここの とお

日本語には、和語系と漢語系の2通りの数詞があるんです。
和語系は日本古来から伝わる唱え方です。
一方、漢語系は中国語を元にした唱え方です。
中国語では「イー、アール、サン、スゥ…」なんて言うでしょ。
何だか「いち、に、さん、し…」に響きが似ていませんか。

さて、数詞が2種類あるだけでも、日本語って難しいのに、
さらに、ややこしいことがあるんです。
日本語って、数える物によって、使う数詞が異なるんです。
なおかつ、使う数詞は、漢語系と和語系が入り混ざって出てくるんです。

例えば、「何個」と数える時は、

10
漢語系 いっ
こ 

こ 
さん
こ 
し  ごこ  ろっ
こ 
しち  はっ
こ 
きゅう
こ 
じっ
和語系 ひと ふた よん
いつ なな
ここの とお

「何人」と数える時には、

10
漢語系 いち  に  さん
にん 
し 
にん 
ろく
にん 
しち
にん 
はち
にん 
きゅう
にん 
じゅう
にん
和語系 ひと
ふた

にん
いつ なな ここの とお

となります。

和語系と漢語系の2通りの数詞が入り混ざって出てくるでしょ。
そう考えると、日本の子供たちは、数詞を覚えるのが大変です。

ちなみに、2通りの数詞が入り混ざらず、
全て漢語系の数詞で数えられるものを、私は1つだけ知っています。
とある講演会で教わったんです。
何だか、分かりますか。
知りたいですか…、知りたいでしょ。
知りたいって思う、それが知識欲なんです。

さあ、では次の話に…
というのは、冗談です(笑)

答えを教えましょう。
それは「月の名前」です。
月の名前は、
「いちがつ、にがつ、さんがつ、しがつ、ごがつ、
 ろくがつ、しちがつ、はちがつ、くがつ、じゅうがつ…」
って、漢語系の数詞だけで数えられるんです。

10
漢語系 いち
がつ 

がつ 
さん
がつ 

がつ 

がつ 
ろく
がつ 
しち
がつ 
はち
がつ 

がつ 
じゅう
がつ
和語系 ひと ふた いつ なな ここの とお


言われてみれば、そうでしょ。
「ははあん」「なるほど」って思ったんじゃないでしょうか。
新しい知識と出会うって、楽しいことなんです。




③「やってみ鯛」が生まれる授業を!


「知り鯛」の次は、「やってみ鯛」の話をしていきます。
実は私、子どもの頃、算数が嫌いだったんです。
理科には実験がある。
社会科には見学がある。
それに比べて、算数はひたすら机に向かってのお勉強。
何だか算数って味気ないなあって思ってたんです。

でも、本当は、算数でだって、楽しい体験はいっぱいできるんです。
むしろ、算数は、どんどん体験させなきゃいけない教科だと思うんです。
子どもって、頭じゃなくて、手で考える生き物なんです。
見て、触れて、学習する方が、数倍、力がつくんです。
子どもたちが「やってみ鯛」と思うような活動、
そんな活動を目指して、いろいろと実践してきました。


【実践例 折れ線グラフ】


【実践例 折れ線グラフ】
例えば、折れ線グラフの学習。
800m走のラップタイムを教材に扱いました。
800m走を走り、100mごとのタイムを計って、折れ線グラフに表すんです。



何しろ、教科書やドリルに載っているグラフと違って、自分の生のデータです。
「もっとタイムを縮めたい」と必死ですから、
「1番速い時と遅いときで9秒も差があるよ。最初はもっとゆっくり走って、体力をためておくといいね」「300mからタイムがぐんと遅くなるから、最初をもっとゆっくり走って…」などと、子どもたちは真剣にグラフを考察していました。

子どもが夢中になる教材を与えてやれば、「最大値は」「最小値は」などと、教師がいちいち問題を出さなくても、子どもたちは、自らグラフを考察していくんです。

子どもの身近な問題を教材に扱うことで「やってみ鯛」が生まれるんです。


【実践例 かさくらべグラフ】

例えば、1年生の「かさ」をくらべる学習。
私は「満水リレー」を教材に扱いました。
「満水リレー」ってご存知ですか?
「満水リレー」って、コップに水をくんで、瓶に注いでいき、
はやく瓶が満水になったチームが勝ちになるというゲームです。
急がなければ負けてしまう。
急ぎ過ぎると水がこぼれてしまう。
そんな駆け引きが面白く、住民運動会などでお馴染みの人気種目です。

この「まんすいリレー」を教材化するにあたって、
ルールにちょっとした仕掛けをほどこしました。
使うコップを2種類用意したのです。
くじ引きを行い、1番を引いたチームから順に、使うコップを選んでいきます。
勝負がかかっているので、子どもたちは、当然、多く入るコップを選びたいですよね。
のコップがいい」「のコップがいい」と、
水のかさに着目して議論になるわけです。

  

のコップの方が断然人気だったのですが、しかし、実際にゲームをしてみると、見た目は小さそうだったのコップを使ったグループの方が先にどんどん満水になっていきました。
ゲームが終わった後、子どもたちは
「あれ、のコップの方が多く入りそうだよ」
「いや、やっぱりのコップだよ」
と、騒然となりました。
そして、「どっちが多く入るか、確かめてみたい」って言いだしたんです。

子どもが夢中になれば、
「どちらが多いかな」
「正確に比べられる方法を考えよう」
そんなことを教師が聞かなくても、子どもが自ら考えていくんです。

ゲーム性を持たせることで、「やってみ鯛」が生まれるんです。

身近な生活と関連づけたり、ゲーム性を持たせたりすることで、
やってみ鯛という切実感が生まれるんです。
















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