前田の算数

富山大学「数学教育論」の講義より
算数の楽しさって何?①  「あれ」「どうして」が生まれる授業を!

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1、「あれ」「どうして」が生まれる授業を!
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最近は、「あれ」や「どうして」っていうつぶやきが生まれる授業、
そんな授業ををしたいなと考えています。
子どもたちは、驚きや矛盾と出会った時、
「あれ」「どうして」って目を輝かせます。
いくつか例をあげて問題を出しますから、小学生になったつもりで参加してください。


① 驚きや矛盾と出会った時、「あれ」「どうして」が生まれる

【実践例 6÷2を図で表そう】

(○を6個板書して)
飴があります。さて…

 <問題>
 6÷2を図で表しましょう。

6÷2を図で表しましょう。
かき終わったら、かいた図を持って、教室を自由に散歩しましょう。
そして、お友達と図を見せ合ってください。
はたして、同じ図になっているでしょうか…。

どうです?
いくつかの場所で、ざわめきが起こっていましたよね。
そして、自然に話し合いが始まっていましたね。

きっと、8割ほどの人が、こんな図をかいたんじゃないでしょうか。



そして、2割ほどの人が、こんな図をかいたんじゃないでしょうか。



自分と異なる図と出会うと、
「あれ、その図はおかしいよ。だって…」
と、自分の思いをしゃべらずにはいられなくなるんです。
「どうして、そんな図をかいたの?」
と、友達の考えを聞かずにいられなくなるんです。

2つの図、一体どっちが正しいのでしょうか。

実はこれ、どちらも正解なんです。
どちらも6÷2の図なんです。

それでは、どうして、1つの式から、2通りの図ができたのでしょうか。
1つ目の図は「6個の飴を2人で分けた時、1人分を求める図」なんです。
こういうわり算を「等分除」って言います。
2つ目の図は「6個の飴を2個ずつ分けた時、何人に分けられるかを求める図」なんです。
こういうわり算を「包含除」って言います。

1つの式から2通りの図ができた「あれ」「どうして」について考える中で、
わり算には、「等分除」と「包含除」の2種類があることを学んでいくんです。
こうしたやりとりをしながら、わり算には2種類の意味があることを学んでいくんです。


もう1つ、こんな図もお見せします。



どうです。
この図を見て、「あれ」「どうして」って思いませんでしたか。
「あれ、6÷2なのに、飴が8個もあるぞ」
「どうして、わり算なのに、分けてないの?」
そんな風に思ったんじゃないでしょうか。

実はこれ、何倍かを求めるわり算の図なんです。
「太郎の飴は、花子の飴の何倍か」を求めるわり算なんです。




② 「あれ」「どうして」は、どこにでも転がっている


「あれ」「どうして」は、アイディア教材の中だけに生まれるものではありません。
教科書を使った日常の授業の中にも「あれ」「どうして」は転がっているんです。

例えば、3年生の表に整理する授業。
ばらばらになっているデータを、見やすく表に整理していきます。
その中で、子どもたちは
「落ちや重なりなく数えるには、『正』の字を使えばいいこと」
を学習します。

さて、子どもたちが当たり前と思って使っている『正』の字、
そこに、ちょっと意地悪な質問をしてやるんです。

「『正』の字は、ちょうど先生の名前『前田正秀』の『正』だね」
なんて言いながら、
「ところで、『正』の字じゃなくて、『秀』って字じゃ駄目なんですか」
と、聞いてやるんです。
すると子どもたちは
「あれ、どうして、『正』の字を使うんだろう」
と、それまで当たり前に使っていた『正』の字を、もう1度見直し始めます。

どうです。
学生の皆さん、『秀』の字じゃ、駄目ですか。

そうですよね。
『秀』の字は7画もあります。
『正』の字は、5画だから数えやすいんですね。

なんて言いながら、
また、意地悪な質問をするんです(笑)

「だったら『田』の字じゃ駄目ですか。5画ですよ」

どうです。
田だといけませんか。

そう。
折れがあるから駄目なんですね。
まっすぐな画ばかりの方が、速いし間違いにくいんです。
なるほど、さすが大学生ですね。

なんていいながら…、
また、意地悪な質問をしてやるんです(笑)
「じゃあ、真っ直ぐな線で5画の字なら『正』の字じゃなくてもいいの」

どうです。いけませんか。
さすがに皆さん、困った顔になりましたね。

…実は、いいんです。
江戸時代は『玉』という字を使って数えていたそうです。
また、外国では4本の縦線と1本の横線を使って数える国もあるそうです。

例えば、巻き尺の授業。
大抵、長い物の長さを、ものさしを何個も重ねて測ってみたり、巻き尺で測ったりみたりという活動をします。
その中で、子どもたちは「巻き尺を使うと速く正確に測れること」を学習していきます。
ここまでは、いたって普通の授業です。
そこに、
「巻き尺って便利だね。これからは、ものさしは一切使わないで、何でも巻き尺を使って測っていこう」
と問い掛けたらどうでしょう。
子どもたちは、「あれ、確かに巻き尺は便利だけど、でも…」と自分の考えを見直し始めます。
そして、
「巻き尺は筆箱に入らないよ」
「短いものを測る時はものさしの方が簡単だよ」
「測るものによって、ものさしの方がいい場合と巻き尺の方がいい場合があるんだよ」
と、測る対象によって計器を使い分けることの大切さについて考えていくんです。


「あれ」「どうして」は、日常の授業の中にも、転がっているんです。
教師自身が子どもの目線になって「あれ」「どうして」というアンテナをはり、
教材研究をすることが、大切なんだと思います。

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