Top Pageへ戻る

研究紀要47号
女子総合学園におけるジェンダー及びセクシュアリティの課題

生活・宗教・進路・行事指導における新たな視点

V 女子校としての沖縄修学旅行の課題
目次にもどる

V 女子校としての沖縄修学旅行の課題


 本校の修学旅行の行き先が長崎を中心とした北九州地域から沖縄へと変更になって、すでに15年以上経つが、「なぜ沖縄か?」という問いに対する「本土では学べぬ平和学習」と言う答えが全教職員の揺るがぬ意思となっているかといえば疑わしい。事実、2001年度の修学旅行は9月11日のアメリカ同時テロの影響で急遽北九州に方面が変更された一方、アルカイダばかりかイラクへの攻撃が米英中心に着々と進められ、その反動としてテロの危機が高まっていたにもかかわらず2002年度の修学旅行は沖縄へと戻された。

 ちなみにその最終第3団が沖縄の地を踏み、ひめゆり学徒隊生き残りの宮良るいさんの沖縄戦体験記をホテルで聞いた2002年12月16日は、イージス護衛艦「きりしま」がイラク攻撃準備を進める米英艦を支援する海上自衛隊補給艦の警護のため、横須賀基地からアラビア海に向けて出航した日であった。

 その3ヶ月後の2003年3月20日に米英軍により開始された「イラクの自由作戦」後、沖縄修学旅行をキャンセルした中・高校は3月25日までに18校に上った。その主たる理由は「国際情勢の不安」とされながら、実際には「スケジュール通りに実施できるか」を心配する声が多いことを2003年3月25日付沖縄タイムス朝刊は報じた。はからずも学校という「組織の体質」が透けて見えたといえる。

 沖縄の修学旅行を行っている高等学校の数は年々増加してきたようだが、そのキャッチフレーズの多くは「青い海 青い空 白い砂浜だけの沖縄じゃない」というものであろう。本校も学年による程度の差こそあれ、そうした路線を堅持し、また担当教員の多大な労力を払って企画運営されてきた多様な体験学習は、生徒たちの貴重な財産となっている。

 しかし、ここであえて今後の発展的かつ本校独自の課題を見出そうとするならば、仏教系女子校としてのアイデンティティに深く関わる課題をより意識的に見出していくことも重要であろう。その切り口として、ジェンダーとセクシュアリティの課題を位置付けてみてはどうであろうか。

 その課題とすべき項目を次に箇条書きにして示し、参考図書と関連WEBサイトを資料Eとして挙げる。なお2002年度の修学旅行事前研究用に生徒たちの紹介した約50冊については、ProjectGの下記アドレスのページで「図書紹介」を公開しているので参照されたい。

  http://www6.plala.or.jp/fynet/2book412okinawa-ryukyu.html


沖縄を再考するジェンダー及びセクシュアリティの視点

  1. トートーメを中心とする長男中心の先祖供養の伝統と、洗骨に見られるような嫁の苦労。資料E-1
  2. ユタに象徴されるような女性シャーマンが中心となった世俗的な宗教、および主として男性中心に継承されてきた浄土宗の念仏踊りを基礎にするエイサーの発展と浄土真宗の教義との比較。資料E-2
  3. ハジチ(針突)と呼ばれる女性特有の入墨などの身体装飾に関するアイヌ民族との比較。資料E-3
  4. 女性の家内労働によって発展してきた沖縄の紅型や紬などの織物と、男性職人中心に発展してきた京友禅や西陣織の比較。資料E-4
  5. 尾類(ジュリ)とよばれる沖縄の遊女と、京都における遊郭の太夫、あるいは花街の芸妓の比較。資料E-5
  6. 沖縄における従軍慰安婦と京都丹後地方の朝鮮人強制労働者の比較。資料E-6
  7. 第二次大戦下のひめゆり学徒隊に代表される沖縄の女学生と、京都高等女学校の女子挺身隊の活動の比較。資料E-7
  8. 第二次大戦直後の沖縄女性のフィリピン人兵士との婚姻、あるいは沖縄返還前後の米兵と婚姻し渡米した米兵花嫁から見る基地問題。資料E-8
  9. 沖縄返還の前後を問わぬ米兵による性暴力・性犯罪の実態。資料E-9
  10. 沖縄の女性の大学進学率の低さ、出生率・離婚率・失業率の高さが示す沖縄の現代的課題。資料E-10

上記の課題を意識しつつ、それを生徒たちの事前学習に生かす実験的な取り組みとして行った今年度の高校2年1組の学級通信に掲載した「沖縄シリーズ」の一部を以下転載する。なおシリーズの全文についてはProjectGで公開している下記アドレスのページを参照されたい。
    http://www6.plala.or.jp/fynet/4tegami2002-1.htm

目次にもどる


2002年度 2年1組学級通信「32枚目の手紙」 2002/09/14

沖縄シリーズ 輝くものが作る影に気付く力が想像力 6 長寿の影の女の一生

明日は敬老の日。「長生きしただけのことがそんなにえらいん?」と思う人もいるでしょうが、幾多の歴史の荒波や、山あり谷ありの人生を乗り越えて行くことは並大抵ではないのです。

一見平和に見える日本でも、「老衰」で死ぬことはとても難しいことです。日本では毎年1万5000人以上が車を運転する人に殺されたり誤って死に、毎年3万人以上が病気や仕事や人間関係に絶望して自らの命を断っています。そんな日本で最も平均寿命の長い県が沖縄です。沖縄はそれほど暮らしやすいところなのでしょうか?

平成7年 都道府県別生命表の概況
都道府県別平均寿命(単位:年)http://www1.mhlw.go.jp/toukei/life/page2.html

順位

都道府県

平均寿命

都道府県

平均寿命

1位

長野県

78.08

沖縄県

85.08

2位

福井県

77.51

熊本県

84.39

3位

熊本県

77.31

島根県

84.03

全国

76.70

全国

83.22

45位

大阪府

75.90

大阪府

82.52

46位

兵庫県

75.54

青森県

82.51

47位

青森県

74.71

兵庫県

81.83

今回は修学旅行の選択コースのうち、「特別養護老人ホーム谷茶の丘」に出向くボランティアコース≠ノかかわる、沖縄の女性の一生に目を向けてみようと思います。

■ 長生き県の裏側

2年前に石垣島の隣の竹富島に行った時、現地のおじいさんが「この島には寝たきり老人は一人もいない」と自慢しておられました。

しかし、そのことを別の機会に調べたら、悲しい事実がわかりました。離島の竹富島や西表島には「特別養護老人ホーム」も老人専用の病院もないので、寝たきり状態になったら石垣か沖縄本島の病院に送られてしまい、二度と島に戻ることなくそのお年寄たちはそこで亡くなるという事でした。

沖縄は長寿県ですが、全国で一番寿命の男女差が大きく、全国で2番目にお年寄の占める比率が低い県でもあります。

平均寿命の男女差 (単位:年)

順位

都道府県

男女差

1位

沖縄県

7.86

2位

青森県

7.81

3位

鳥取県

7.51

 

全国

6.52

都道府県別人口高齢化度  65歳以上構成(%)

1位

秋田県

23.8%

2位

高知県

23.6%

3位

山形県

23.3%

全国

17.7%

45位

神奈川県

14.2%

46位

沖縄県

13.9%

47位

埼玉県

13.1%

長寿なのにお年寄が少なく、中でもおじいさんが少ないことと、日本で地上戦≠ェ行なわれた唯一の県が沖縄であることとは、深く関わっていると考えてよいでしょう。第2次世界大戦の戦禍と敗戦後の飢え、差別や不条理を乗り越え、生き抜いて来られた沖縄のお年寄りとかかわることから、自分につらなる親や祖父母の歴史・人生を捉えなおしてみてはどうでしょう。

■ 女子の進学率 最下位

さて、死ぬまでの間、沖縄の女性の人生がどうなっているのか。いくつかの統計資料で見てみましょう。まずは、進学率。高校進学率も大学進学率も全国最下位。特に女子の大学進学率は第1位の京都の半分です。

でも、京都のほうが2倍賢い女の子がいるわけではないでしょう。

都道府県別 女子の

高校進学率

大学進学率

県名

順位

県名

順位

富山

99.2

1

京都

60.6

1

福井

99.2

1

兵庫

59.1

2

徳島

98.8

3

奈良

57.8

3

石川

98.6

4

東京

56.9

4

新潟

98.5

5

愛知

54.7

5

全国

97.7

 

全国

47.8

 

愛知

97.1

43

宮城

35.2

43

大阪

97.1

44

北海道

34.0

44

鳥取

97.0

45

岩手

33.8

45

岐阜

96.9

46

青森

33.6

46

沖縄

94.5

47

沖縄

33.1

47

■ 失業率 第一位

学校を卒業すれば就職。ところが沖縄の失業率は全国第1位。ちなみに第2位と3位が大阪・京都であるところが面白い。

都道府県別失業率(%) 総務省20023月公表試算値

1位

沖縄県

8.4%

2位

大阪府

7.2%

3位

京都府

6.3%

45位

滋賀県

3.8%

46位

山梨県

3.3%

47位

長野県

3.2%

■ 出生率と出産適齢者人口 第一位

少子化が叫ばれ、国も自治体も女性が子どもを産みやすい環境を整えようとしています。そんな中で沖縄は全国一の出生率。その上、出産適齢期の女性の人口に対する割合も一番。よーするに沖縄は若い女性がいっぱいいて、たくさん子どもを産んでいるということです。

それに対して京都の出生率は下から3番目。子育てをする上で、自分が暮らしている地域の何が問題なのか、沖縄から学んでみるのもよいかもしれません。

合計特殊出生率

人口総数に対する
15〜49歳の女性人口の割合(%)

1位

沖縄県

1.82

1位

沖縄県

24.6%

2位

佐賀県

1.67

2位

東京都

24.3%

3位

島根県

1.65

3位

福岡県

23.9%

全国

1.36

全国

22.9%

45位

京都府

1.28

45位

山形県

20.5%

46位

北海道

1.23

46位

秋田県

20.5%

47位

東京都

1.07

47位

島根県

19.5%

■ 離婚率 第一位

結婚すれば離婚することもあります。この10年ほどで日本の離婚率は確実に上昇していますが、その中でも沖縄は伝統的に離婚率の高い県です。

1998年 離婚率(人口1000にあたり)

1位

沖縄県

2.72

2位

大阪府

2.42

3位

北海道

2.38

全国

1.94

離婚率の高さというのはその地方の人と人との結びつき方、個人個人の自立の仕方を示す指標のようで面白いものがあります。

沖縄には冠婚葬祭や家のしきたりなどに、本土とは違った様々な風習があり、女性差別が根強く残っていると同時に、女性の経済的な自立を評価する気風があると言われています。

こうした沖縄の女性にかかわる本を読んでみたい人には、「性to生 ジェンダ−のはざまから」がお薦めです。よければ「事前学習ファイル」に加えてください。


 今回は紙幅の関係上修学旅行に関する問題提起にとどめた。しかし、学校行事を「受験体制にとっての障害」のようにとらえ、かつ「慣例と前例」を基準に行事予定を組みがちな昨今であればこそ、学内で行われている様々な行事についてジェンダーやセクシュアリティ、あるいはマイノリティの視点から教育課題を整理し、年間を通して行事構成を再検討していくことは、本校が「女子校としてアイデンティティ」を確認し、社会的な存在意義を再確認する上で有効であろう。


資料 に続く


目次にもどる