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女子学園におけるジェンダー及びセクシュアリティに関る課題

新聞報道等に現れた「性」にまつわる意識と問題

第U部 女子学園と性暴力

****中高校教諭 成田文広



ジェンダー・セクシュアリティと性差別・暴力・犯罪

1999年4月の法改正により、『セクハラ』と言う言葉は一般社会から教育現場にまで浸透してきた。しかし、いまだに「セクハラって犯罪なの?」という疑問が、女子校の女性教員の中にすらあるのが実態である。女子学園にあっては、性的被害の対象である女性(学生・生徒だけでなく教職員も)の性被害についてより大きな注意を払うことが社会的に求められよう。そこで、まず、性=ジェンダーやセクシュアリティに関わる被害の犯罪性を確認しておきたい。次に紹介するのが『性暴力』の一般的な説明である。


【性暴力】
英語ではsexual violence,gender-based violence。男性中心社会における男女間の力関係の不均衡を不当に利用して,男性が女性に暴力をふるうこと。とくに女性の合意を得ずに,性的行為を行うことをいう。レイプ,セクシュアル・ハラスメント,幼女虐待,家庭内暴力,ポルノグラフィー,強制売春(買売春)などの総称。ごく近年まで,男性の性暴力を仕方がないことと考える風潮が社会全体に根強く,法もまたそのような偏見に従っていた。その中では,〈男性の性欲は本能だからどうしてもはけ口を必要とするのだ〉とか,〈暴力をふるわれた女性の方に何かしらスキがあったはずだ〉などと,男性の性暴力を正当化するさまざまな説明が持ち出されてきた。

しかしウーマン・リブなどの女性解放運動の進展とともに,女性が女性であるという理由で暴力を受けることがなく,性差別のない社会を求めることやその実現は,女性が人間として生きていく上での当たり前の権利であるという認識が広まってきた。被害者ネットワークや救援グループなどがつくられ,被害の経験を語れるような環境がようやくできつつある。その結果,加害者になるのは見ず知らずの男性だけではなく,父親,夫,恋人,上司など,ごく身近な男性たちでもあることが明らかになってきた。

これは世界的な認識で,たとえば1993年12月の国連総会では,〈女性に対する暴力〉を〈身体的,性的,心理的に有害または苦痛となるジェンダーに基づくあらゆる暴力行為で,公的私的な場を問わない〉と広く定義して,その撤廃を謳っている。性暴力という問題に関して最優先されるべきは,被害にあった女性がどのように体験を克服していくかであり,そこに処方箋はないが,日本では強姦救援センターなどが設けられ,被害者の刑事告訴や刑法改正に向けて運動も進められている(強姦罪,被害者学)。(『マイペディア98(C)株式会社日立デジタル平凡社』より)



こうした理解を踏まえ、以下の項では性被害や性暴力に関する問題について、「戦後の流れ」「性に関わる法律と裁判」「社会・家庭での性犯罪と対応」「学校における実態」の順にふれていきたい。



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1-1 性差別・被害・暴力に関する戦後の流れ

1999年の西村政務次官のセクハラ発言による辞任騒動や、前大阪府知事横山ノックによる強制ワイセツ事件とその辞任騒動は、1999年に相次いで成立した『改正男女雇用機会均等法』によるセクシュアルハラスメント防止の義務化、『児童売春・児童ポルノ禁止法』による性の商品化への対応、『男女共同参画基本法』による課程・社会の内外での意識改革への指針といった性にまつわる法整備の必要性や必然性を、多くの人々に実感させる格好の材料となった。

被害者の多数が女性であるところの性被害・暴力は、何も最近発生したものではないが、「セクハラ」と言う語が「流行語大賞」に選定された1989年頃から世の中の性暴力に対する関心は次第に高まった。マスコミがそれを大々的に取り上げ、継続的に報道されるようになるにつれ、日本社会の性暴力に対するとらえ方も、この五・六年で急速に変化してきた。日本での性暴力・被害に対する処罰や防止が実現されるようになって来た元をたどれば、第二次世界大戦後の性差別撤廃と男女平等の実現を求める国際社会の大きな潮流がある。

戦後すぐの国連における「婦人の地位委員会」発足(1946.6)と同年11月の日本国憲法公布は国内外での性差別撤廃の出発とも言えるが、1975年に行われた国際婦人年世界会議で採択された「世界行動計画」とそれを受けた国連総会における「国際婦人の10年」の決定は、その後の国内の諸制度改革の推進に大きな影響を与えた。その10年の期限が切れる間際の1985年になって、国会は「女性差別撤廃条約」を批准し、男女雇用機会均等法が1986年4月から施行されることとなった。

それに続く十年間の、1993年6月の国連世界人権会議で採択された「ウイーン宣言」、12月の国連総会で採択された「女性に対する暴力撤廃宣言」、1995年9月に北京で行われた第4回世界女性会議での「行動綱領」と「北京宣言」、1996年8月にストックホルムで行われた児童の商業的政敵搾取に反対する世界会議などをバネに、女性差別と性暴力撤廃に向けた法整備が求められ、不十分な点は多く指摘されているとはいえ男女共同参画基本法成立までようやく行き着いた。

また、子どもの性に関わる問題への対応も、「子どもの権利条約」の発効やエイズ予防の性教育の必要、援助交際の社会問題化などがきっかけとなって法整備も進み、教育団体での研究や実践も活発になってきている。


現在、社会的に大きな関心を払われている「セクシュアル・ハラスメント」「ドメスティック・バイオレンス」「子どもへの性的虐待」を中心に、戦後日本の性差別・被害・暴力に関する流れを略年表にすると【表1】のようになる。(有斐閣刊「女性のデータブック第3版」参照)

【表1】 国内の性暴力に関わる年表

セクシュアル・ハラスメント等

ドメスティック・バイオレンス等

その他

1957

売春防止法一部施行4月

1972

沖縄でも売春防止法実施7月

1975

日本テレビアナウンサー配置転換取り消しの仮処分申請5月

1977

東京都婦人相談センター(駆け込み寺)開設4月

1983

東京強姦救援センター設立9月

1984

風俗営業法取締法改正8月

フィリピン女性「ジャパゆきさん」斡旋組長逮捕10月

1986

雇用機会均等法施行4月

鳥取地裁が夫による妻への強姦を認め有罪判決 12月

1990

三多摩の会「セクシュアル・ハラスメント1万人アンケート」実施3月

朝鮮人従軍慰安婦問題化12月

1991

熊本女性市議セクハラ県議を告訴12月

1992

福岡地裁がセクハラで会社の責任を認める判決4月

1993

労働省セクハラ概念を定義10月

 

フィリピン人元従軍慰安婦東京地裁に訴え4月

矢野京大教授セクハラ疑惑12月

ブルセラショップ摘発8月

1995

 

ドメスティック・バイオレンス調査報告4月

沖縄小学生強姦事件9月

1996

米国三菱セクハラ訴訟4月

1997

キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク全国会議9月

女性への暴力駆け込みシェルターネットワーキング発足6月

東京都「女性に対する暴力に関する調査」10月

1998

人事院セクハラ調査結果発表3月

日本DV防止・情報センター設立5月

文部省初のセクハラ防止策の調査10月

1999

文部省セクハラ防止規定3月

男性によるDV防止プロジェクト発足2月

児童売春・ポルノ禁止法成立5月

改正雇用機会均等法でセクハラ防止の義務付け4月

男女共同参画社会基本法成立6月



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1-2 性暴力と法律・セクハラ訴訟



被害は多くとも提訴の少なかった日本では、セクシュアル・ハラスメントに対する賠償額は極めて少なかった。しかし、男女雇用機会均等法が改正され、セクハラの犯罪性に対する社会の意識が広がるとともに、裁判所の判断にも変化が現れた。


1999年12月13日付読売新聞夕刊
見出し 「セクハラ日本の訴訟 賠償金引き上げ傾向 泣き寝入りもなお多数」
記事概略
日本のセクハラ訴訟で初めての司法判断は静岡地裁沼津支部が1990年12月に110万円の支払いを命じたもの。その後、福岡地裁が加害者の上司だけでなく会社の使用責任も認める画期的な判断を示したこともあったが、賠償金は低く抑えられるケースが多かった。今年の一連の判決は、行為の内容や継続性・被害者と加害者の地位関係・被害感情の大きさなどの賠償金の算定基準を厳格に考慮したほか、被害者が側が請求額を引き上げたこともあって比較的高額の賠償命令に結びついた。しかし、全国で起こされたセクハラ訴訟は約50件。訴訟を起こすことができず、泣き寝入りを続ける被害者は多い。



横山ノック前大阪府知事の訴訟事件で、女性の被害の深刻さや対応のまずさによっては、「セクハラ」が「強制わいせつ罪」という犯罪として裁かれることが再認識された。しかし、セクシュアル・ハラスメントをはじめとする性差別や性暴力への対応を示した書籍の中には、女性の権利や人権を守る立場で書かれたものも多数ある一方、「罪にならないようにするにはどうしたらよいか」と言う、会社や男性の利益を守る立場で書かれたものもある。

元参院議員で法務政務次官についたこともある弁護士の円山雅也氏の著書「スカートの中の社会学」
(泉書房刊:タイトルからして上野千鶴子「スカートの中の劇場」の向こうを張ったかのような、フェミニズムに対して挑戦的なものである)は、まさにその典型である。この書の前書きには「ふだんは、まともな人間の心理だって、ある日ある瞬間、全く別の感情が走り、本人も予想しなかった『魔がさすとき』はいくらだってある。かかる混乱に巻き込まれ、自分を失うような災難から身を守る知恵は、これからの時代に生きるにはどうしても必要である。」とし、被害者の痛みには全く目をむけず、自らの加害性を無視し、罪を犯して裁かれる事を男の災難としている。この著書でセクシュアルハラスメントについては以下のように触れられている。


無責任きわまりない言葉が流行している。〈セクハラ〉と言う言葉で代表される女性達の男に対するダサくて愚かな最近の抵抗だ。とにかく、女性を不快にする男性の言動全てについて「セクハラだ!」とわめいて噛み付いているのだ。〈性的〉だろうが、刑法222条は、明確に脅迫を犯罪として取り締まっている。頼まれても触りたくないたれ下がった不細工な偏平ケツに、たまたまそばに通りかかり、うっかり手が触れたとたん、「キャーッ!セクハラだわ!」とわめかれたんでは、相手は「脅迫罪の犯人よ!」と指摘されたようなものだ。

男の管理職たる者も、今度「セクハラだ!」とわめかれたら、「何で、それが非難されるのか、その正確な内容を理論的に説明してほしい!でないと逆にあなたの方が名誉毀損で訴えられる事になるから」と警告するぐらいのき然たる態度をとるべきだ。多くの男共がこうなれば、セクハラなどの言葉は、あっという間に消え去るものと思われる。(「法律から見たSEXの社会学4〈セクハラ〉が百害あって一理もない理由」より)


弁護士によるこうした発言に「勇気づけられる」男性も多いかもしれないが、被害にあっている女性も、ここで触れられている「何で、それが非難されるのか、その正確な内容を理論的に説明してほしい」という疑問には答えねばならないだろう。そこで、円山氏の言う「これまでの法律」では性暴力がどのように裁かれ、今回改正された法律とどのように異なっているのかを、「実用版 法律用語の基礎知識 最新版」(1999年6月15日発行自由国民社)と「働く女性の法律Q&A」(1999年11月30日発行有斐閣選書)を参考にして整理してみる。



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刑事責任と民事責任

セクシュアル・ハラスメントは人権を侵害する不法行為であり、被害に対する責任を求める事が出来る。その内容を簡単に整理すると次の三点である。

  1. 行為が強要によるものであったり、名誉毀損・強姦などである場合は刑事罰の対象になり、刑事告訴する事も出来る。
  2. 加害者には民事上の責任を問う事によって損害賠償や慰謝料の請求をする事が出来る。
  3. 会社や学校にあっては、被害がその職場と関連している場合、使用者に対して損害賠償を請求する事が出来る。


罪の根拠となる法律

セクシュアル・ハラスメントの根拠となる主な法律や条例は、おおよそ次のようなものである。


【刑法】

条文の内容・例

傷害罪

刑204

人の身体を傷つける罪。合意の上の性交渉でも、故意に性病を感染させ病気にさせるても成立。

10年以下の懲役又は、30万円以下の罰金

暴行罪

刑208

人の体に暴行を加えたが、傷は負わさなかった時の罪。嫌がらせの目的で相手の顔にタバコの煙を吹き付けても成立。

2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

脅迫罪

刑222

恐怖心を起こさせようと、相手方又ははその親族の生命、身体、自由、名誉に危害を加える旨を伝える罪。付き合わないと家に火を付けるぞと言ったり、何度も嫌がらせ電話をしても成立。

2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

強要罪

刑223

暴行・脅迫によって、人に義務のない事を無理に行わせたり、当然出来る事を妨害したりする罪。無理矢理辞職願いを書かせても成立。

3年以下の懲役。未遂も処罰。

強姦罪

刑177

暴行・脅迫によって、女子を姦淫する罪。相手が13歳未満の場合、合意があっても成立。

2年以上の有期懲役

強制わいせつ罪

刑176

暴行・脅迫によって、姦淫以外の性的な行為を行わせ、または受忍させる罪。嫌がる女性に無理矢理キスをしたり、ヌード写真を撮っても成立。相手が13歳未満の場合、合意があっても成立。

6月以上7年以下の懲役

準強姦・準強制わいせつ罪

刑178

女子が犯行・拒絶する事が不可能または著しく困難な状態にあるのに乗じ、または暴行脅迫を用いずに犯行・拒絶できない状態に陥れて姦淫した場合の罪。

強姦・強制わいせつに準ずる

略取・誘拐罪

刑225

人を保護された状態から引き離し、自分又は第三者の支配の下におく罪。暴行・脅迫によるのが略取。だましたり誘惑によるものが誘拐。営利、わいせつ又は結婚の目的だと罪が重い。

1年以上10年以下の懲役

名誉毀損

刑230

具体的事実を不特定又は多数の人の知りうる状況で指摘して、他人の名誉を傷付ける罪。職場で「すぐ男と寝る女だ」などと言っても成立。

3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

侮辱罪

刑231

事実を示さなくても公然と人を侮辱する罪。

拘留又は科料1000円以上1万円以下

公然わいせつ罪

刑174

不特定又は多数の面前で、公然とわいせつな行為をする罪。「わいせつ」とは正常な政敵羞恥心を害し性的動議観念に反すると裁判官が判断したもの。

6月以下の懲役又は30万円以下の罰金

わいせつ物頒布・陳列罪

刑178

頒布はわいせつな文書、図画その他のものを不特定、または多数の人に対して有償で渡す罪。見える状態にしておくのが陳列。

2年以下の懲役又は250万円以下の罰金

淫行勧誘罪

刑182

営利の目的で、淫行の常習のない女子を勧誘して姦淫させる罪。

3年以下の懲役又は30万円以下の罰金

特別公務員暴行陵辱罪

刑195

裁判、検察、警察官が職務を行うにあたって、被告人や被疑者に暴行・陵辱などの加害行為をした罪。

7年以下の懲役又は禁固


軽犯罪法 第一条

4  公共の会堂、飲食店(中略)、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗り物の中で乗客に対し著しく粗野な又は乱暴な言動で迷惑をかけた者。

拘留又は科料

20 公衆の目に触れるような場所で公衆にけん悪の情を催させるような仕方でしり、ももその他身体の一部をみだりに露出した者

23 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見した者。

28 他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとった者。

こうした刑法についても、一部が親告罪である事などの問題が指摘されてきており、法務大臣の諮問機関である法制審議会が、性犯罪被害者に関する保護法案を国会に提出する動きがあることを新聞も報じている。


2000年1月26日 朝日新聞朝刊
見出し 「犯罪被害者守る要綱案 掲示記録閲覧・複写可能に 法制審部会」「法務省今国会に提出」
記事抜粋
今回の法整備は、性犯罪被害者の保護に重点の一つが置かれたのも特徴だ。強姦罪や強制わいせつ罪などの性犯罪は、被害者の告訴がないと起訴できない「親告罪」で、犯人を知った日から6ヶ月以内でないと告訴できないが、性犯罪の場合は、精神的な打撃が大きいことなどから短期間での告訴が難しいケースも少なくなく、期限を撤廃するとした。性犯罪や年少の被害者らの精神的な負担を軽くするため法廷と被害者がいる別室を回線で結び、テレビモニターを通じて証言できるシステム(ビデオリンク方式)を導入した。




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【民法】

民法は私的な財産や私的な財産や生命や身体に対する不法行為があった際にその賠償を求める事を認めている。その根拠となるのは次の条文である。

709

故意又は過失によって他人の権利を侵害した者は損害を賠償する責任を負う。

710

他人の身体、自由または名誉を侵害した場合と、財産を侵した場合に関わらず損害賠償の責任を負う。

417

損害賠償は別段の意思表示がない場合、金銭によって支払われるものとする。

723

名誉毀損の場合は、損害賠償の他に名誉を回復する適当な処分を命じる事ができる。

715

民法事業のために他人を使用する者は、被用者がそのその事業に関係して第三者に損害を与えた場合は、損害賠償の責任を負う。


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雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(1999年4月1日施行 改正男女雇用機会均等法)

第三章 女性労働者の就業に関して配慮すべき措置

第二十一条 (職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の配慮)
1  事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が配慮すべき事項についての指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。



児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(1999年5月26日)

第2条
1 この法律において「児童」とは、18歳に満たないものを言う。

2 この法律において「児童買春」とは、次の各号に揚げる者に対し、対償を供与し、又はその供与を約束して、当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、または自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首を言う。以下同じ)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせる事を言う。



児童福祉法

34条何人も、左の各号に掲げる行為をしてはならない。

6 児童に淫行をさせる行為
9 児童が四親等内の児童である場合及び児童に対する支配が正当な雇用関係に基づくものであるか又は家庭裁判所、都道府県知事又は児童相談所長の承認を得たものである場合を除き、児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的を持って、これを自己の支配下に置く行為



青少年の健全な育成に関する条例


都道府県によっては青少年保護育成(健全育成)条例が制定されており、18歳未満の青少年に対する淫行について処罰を定めている。京都府の場合、次のように定めている。

第21条
1 何人も、青少年に対し、金品その他財産上の利益若しくは職務を供与し、若しくはそれらの供与を約束する事により、または精神的、知的未熟若しくは情緒的不安定に乗じて、淫行又はわいせつ行為をしてはならない。


2 何人も、青少年に対し、淫行またはわいせつ行為を教え、または見せてはならない。



迷惑防止条例

各都道府県は、「迷惑防止条例」を定めている。都道府県によって内容は若干異なるが、ほぼ同一内容。公衆の迷惑になる行為を種々規定し、刑を定めており、痴漢もこれに当たる。刑は5万円以下の罰金。常習的犯行の場合は6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金。



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1-3 セクシュアル・ハラスメント

狭義のセクシュアル・ハラスメントは上記の「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(改正男女雇用機会均等法21条)によって守られる職場での性的な嫌がらせを指す。しかし、職場以外でも、これまで性暴力とは認識されてこなかった女性や女子生徒・学生に対する性的な嫌がらせは、社会のあらゆる場面では存在している。また、均等法では保護の対象に含まれていないが、男性や同性に対する性的嫌がらせもある。

セクシュアル・ハラスメントについては、労働省や人事院、文部省や各都道府県の教育委員会などがガイドライン等を設け、その防止と対応に努めている。それらに共通する、セクシュアル・ハラスメントの認識と対応策を京都府女性政策課のホームページ「KYOのあけぼの」の特集「セクシュアル・ハラスメント」http://www.pref.kyoto.jp/josei/sp/n302.htmlから抜粋して紹介する。

セクハラ防止が義務づけられる背景
アメリカの雇用機会平等委員会(EEOC)は80年にセクハラ防止のガイドラインを策定しました。それが世界各国に波及していきます。カナダでは「セクハラは性差別である」、「性差別は憲法違反である」「それゆえセクハラは憲法違反」とされます。EUでは89年、マイケル・ルービンシュタイン氏の「職場における女性の尊厳、欧州共同体におけるセクシュアル・ハラスメント問題についての報告」が出され、その後91年に勧告・行動規範が制定されることになりました。

この報告はまず1. 性差別禁止法や男女平等法はセクハラが違法な性差別になることが明記されていないので不十分だと指摘し、2. 使用者は雇入れの契約上、労働者の尊厳(dignity)を傷つけない義務があり、被害者に対する賠償だけでは事後的なものなので不十分であること、3. セクハラを受けずに働く権利を守るためには、予防のための効果的な法的措置が必要としています。このEUのガイドラインは、その後の各国の法整備のための基準となっています。

セクハラの構成要素
セクハラの構成要件としては、「性的な言動がある」「それが相手の意に反している」「職場の」「労働条件について不利益を受けるか、就業環境を悪化させるか」があげられます。


1. まず性的な言動とは何でしょうか。「女らしさ・男らしさ」をことさら強調したり、性別役割分担を押し付けたりすることはジェンダー・ハラスメントになるでしょう。ただ「女性であるという属性に基づくいやがらせは、一般的な女性差別の問題として取り上げることが適当な場合(いわゆるグレーゾーン)がある」と労働省の研究会報告は述べています。そこでその職場で「女らしさ」とするものの強調が、均等法第21条ないしその指針にふれるかどうかは個々の事例ごとの判断になります。

2. 次に相手方の意に反しているかどうかは主観性が入ることを意味します。つまり性的な言動があっても合意の上であれば違法性がないので、被害者は意に反していることを示さなければなりません。その行為が意に反しているかどうかは、平均的な女性の常識で判断されるべきでしょう。

3. 職場とは、物理的に日頃勤務している場所だけでなく仕事に関連して出張した所もあれば、勤務時間外に仕事をする場合、懇親会や接待の場であっても仕事のためであれば含まれます。

4. 労働条件につき不利益を受ける場合とは、相手の対応によって不利益を与えることのできる地位にある人によって行われるのが通常であるため「地位利用型」ともいわれますが、その性的言動に対する女性労働者の対応がきっかけとなって解雇したり、配置転換、転勤、出向させたり、降格、昇給停止、賃金や賞与の査定を低くすることなどが例としてあげられます。それに先行するセクハラとの間には因果関係が必要ですが、それらの行為がないとの立証は加害者の側に課すべきでしょう。


就労環境が悪化する場合とは、労働省の方針によれば、「性的な言動により就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じ見過ごせない程度の支障が生じること」と書かれていますが、なにが「重大な」か、なにが「見過ごせない」かは被害者の判断によるべきでしょう。

環境型セクハラのタイプとしては、用いられる方法によって、発言型(何度も容姿を批判したり、性的な経験を尋ねたり、卑猥な話をしたりする)身体接触型(意に反して女性従業員の腰、お尻、胸等にさわったり抱きついたりする)視覚型(職場にヌードポスターを掲示したり、ポルノ写真を女性労働者の引出しに入れたり、宴席で裸踊りを見せたりすることが典型)に分けられます。



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2 各分野における性犯罪 政治・経済・家庭

2-1 政治と性差別・性犯罪


1999年11月19日付読売新聞「20世紀 どんな時代だったのか 女性の進出B」にも取り上げられているが、米国に「エミリーズリスト」という団体がある。EMILYは"Early Money Is Like Yeast." という意味で、女性の政治家をふやすための募金運動をする団体である。

アメリカにおけるセクシュアル・ハラスメントが政治の上でも大きな問題として全米の注目を集めるようになったのは、1991年10月にアメリカ上院での最高裁判事候補セクハラ疑惑によってであった。判事候補からのセクハラ被害にあった女性の訴えは、男性議員だけで構成された公聴会で無視された。それが全米の女性の非難の的となり、1992年の連邦議会選挙では、被害にあった女性への支持を表明した女性議員が大量に当選し、上院での女性議員は32人から54人へと大幅に増加した。

その選挙運動を支えたのが、女性を政界に送りアメリカ社会を変えようとして1985年に設立された運動する団体「エミリーズ・リスト」である。全米で5万人に及ぶ個人会員の寄付によって運営されるこの団体の運動などにより、1999年には上院・下院535名の議員中65人の女性議員が誕生しており、その数は1991年のセクハラ告訴前の2倍に増えたのである。


こうした動きは日本でのセクハラ訴訟出発にも少なからぬ影響を与えただけでなく、女性の政治参加の運動を大きく突き動かし、1999年6月9日には赤松良子、林陽子氏らが発起人になり、日本版エミリーズリストが立ち上がった。その概略をWIN WINのホームページhttp://www.winwinjp.org/の一部を転載し、紹介する。

女性候補者支援の募金ネットワークの目的
なぜ、女性が政治に参加する機会が少ないのだろう?という疑問を持ったことはありませんか。WIN WIN(Women In New World, International Network)は、政治の分野に進出することを目指す女性を支援するための、募金ネットワークです。アメリカの「エミリーズ・リスト」を参考にして、日本の土壌にふさわしい運動を立ちあげていきたいと考えています。6人の発起人の呼びかけに対し、73人の方々が賛同者となり、全国から会員を募り、大きな運動にしようとしております。

WIN WINの活動の概要


WIN WIN以外にも、様々なグループが活動を進めている様子が新聞各紙でも大きく取り上げられ始めた。


1999年1月23日付朝日新聞夕刊
見出し 「女性の声議会に運ぼう もう不満は爆発寸前」「統一地方選 草の根 候補予定約100人」「生活問題、おざなりにさせない」


こうした運動の結果、統一地方選挙では過去最高の女性当選者が生まれた。


1999年4月13日付朝日新聞朝刊
見出し 「女性空白県、10から3へ 世代 戦後生まれ、1000人突破」

1999年4月26日付京都新聞夕刊
見出し 「統一地方選後半戦 全国市議選 女性1081人、1割超す」

1999年12月29日付読売新聞朝刊
記事概略
1999年の選挙では、都道府県議会選挙で前回79人だった女性議員が136人になった。政令市議選では117人の女性議員が当選し過去最高を更新。市長選挙でも4人目の女性市長が当選し、一般市議選では、1084人が当選し、初めて1000人を越えた。特別区長・区議選でも女性の当選者は877人中177人となった。



また、国の審議会などで女性の占める割合は、1999年9月末までに4246人中842人となり、昨年より1.2ポイント上昇し19.8%となるとともに、2001年3月末までに20%以上にする事が目標とされている事も報じられた。(1999年12月4日朝日新聞朝刊)京都市でも、現在21%である各審議会の女性委員の割合を30%以上登用する「割当制」を導入する事を決定した。(1999年12月20日京都新聞朝刊)

こうした女性の政治参加の拡大と性暴力との関わりは、一見するとあまり関連がないようにも見える。しかし、政治の面でも女性が男性に頼って選択や責任を任せるのではなく、自らの主体性を失わず人生を選択できる社会に変革していこうとする意思=『自己決定権』の自覚が、社会や家庭や教育の場での性暴力否定の運動としっかり結びついているのである。その結果、「泣き寝入り」をせず被害を訴え、加害者の行為を社会的に糾弾するとともに、「自己の尊厳」を回復する手立てとしての訴訟が増えてきた。

1998年11月にアメリカのクリントン大統領のセックススキャンダルをめぐる捜査報告書がインターネットで全世界に発信された。不倫相手となったルインスキーさんは大統領の行為を不快な性的言動として訴えた訳ではない。大統領府と言う公的な場で、性的に「不適切な関係」が繰り広げられた事が問題視されたに過ぎない。しかし、不倫の揉み消し疑惑として弾劾審議になったスキャンダルの始まりは、クリントン大統領がアーカンソー州知事時代のセクシュアル・ハラスメントについての提訴だった。

この事件の日本版とも言えるのが、1999年4月に235万票を得て大阪府知事に再選された横山ノックが、選挙運動員のアルバイトをしていた21歳の女子大生にわいせつ行為を行ったとして、民事・刑事両面から訴えられたセクハラ訴訟である。民事訴訟は12月13日に判決が出され、猥褻行為による慰謝料200万円、虚偽告訴に関わる名誉毀損行為による慰謝料500万円、第一回口頭弁論以降の記者会見等の名誉毀損行為による慰謝料300万円、弁護士費用100万円の、総額1100万円の支払いが命じられた。(1999年12月13日付読売新聞夕刊「ノック知事セクハラ訴訟判決の要旨」より)

その後、強制わいせつ容疑の告訴を受けていた大阪地方検察庁特捜部は、1999年12月20日に府庁知事室などの強制捜査に踏み切り、12月21日に在宅起訴が行われ、同日知事は辞職した。この事件をめぐっては、様々な動きがあったが、その中で特徴的なものを新聞記事から三つ取り上げる。



1999年10月29日付朝日新聞朝刊
見出し 「ノック知事に抗議文送る 大学セクハラネット」
記事抜粋
大学でのセクハラ問題に取り組む教員や学生らで作る「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク・関西ブロック」は知事当てに抗議文を送った。抗議文は、「女子学生の訴えを真摯に受け止めようとせず、事実解明の責任を回避する事は、セクハラ問題への取り組みを進めていく上で大きな負の影響を及ぼす事になりかねない」などとしている。


1999年11月20日付朝日新聞朝刊
見出し 「曽野綾子さん上坂冬子さん『ノック知事提訴は甘え』 女子大生側弁護団が抗議文」
記事概略
1999年10月7日付毎日新聞のコラム『時代の風』に掲載された作家の曽野綾子さんの「セクハラ問題への疑問」と、『女性セブン』に掲載された上坂冬子さんのエッセー「ノック知事の一件」で、セクハラで提訴するのは女性の甘え。現場で叫ぶなどして自力で解決するべきだったなどと発言しているのは、「被害の実態を無視した軽率な発言で、すべての性犯罪の被害者を侮辱するもの」であり「被害者に非があると強調して、加害者の責任を免罪する論理」であるとする抗議文を送った。また、曽野綾子さんに司法制度改革審議会の委員を辞任するよう求めた。


1999年12月24日付朝日新聞朝刊
見出し 「ノック氏セクハラ辞任 仏流モンド紙1面で報道」
記事抜粋
24日付のフランス知るモンドは横山大阪府知事が辞任した事件を1面準トップで大きく報じ、職場や通勤電車で性的嫌がらせを受けてきた日本女性が変化したと伝えた。「数年前には考えられなかった事が現実になり、日本社会は変わった」とし、嫌がらせに泣き寝入りしなかった被害女性の執念が「無党派の星」だったノック知事を追い落としたと評価した。



これらの記事から浮かび上がってくる事は次の三点である。

  1. 日本でも性被害に対する多くの支援団体が存在し、加害者が有名人であろうと社会的に隠蔽される事は減りつつある。
  2. 性被害対して、女性の理解が必ずしも深いとは言えない。
  3. 日本の性被害の深刻さや社会の対応の鈍さについて、国内よりも欧米の目のほうが厳しい。

このわいせつ訴訟を通して明らかになってきた事を「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」世話人で京都産業大学教授の渡辺和子氏は、新聞への寄稿記事で次のように指摘している。


1999年12月25日付朝日新聞朝刊
見出し 「『権力』に勝った『人権』横山・大阪府知事ワイセツ訴訟の意味」「傷深める『揉み消し行為』認定」「新時代へ/かみしめてほしい戒め」
記事概略
これまでは、自分の身体に不快な手が伸びてきても、やんわり避けるのが大人の女だと言われてきた。しかし、女性達は、自分の身体への自己決定権、安全に働き、学ぶ権利がある事を認識した。それを妨害するものに拒否の姿勢を示し、「それは権力の乱用、人権の侵害だ」と公の場で主張し始めたのだ。セクハラが単なるわいせつ行為と違うのは、権力構造の中で起こる一連の性差別行為だと言う点だ。



今回の民事訴訟の判決は、セクハラの違法性だけでなく、被害者に対する言葉による新たな精神的暴力「第二セクハラ」による被害をより厳しく認めた点で、セクハラの法的概念が第二段階にはいった事を示す。関西の女性たちは連帯の力を見せ、訴えを無視しようとする権力者への批判の世論を促した。

セクハラ知事辞任後、2000年2月6日の大阪府知事選挙で太田房江氏が「全国初の女性知事」として当選したことは、政党間の選挙戦術の結果としてのみ見る訳には行かない。同日フィンランド初の女性大統領にタルヤ・ハロネン氏が当選したのを初め、1999年5月パナマ初の女性大統領にミレヤ・モスコソ氏就任、6月ラトビア初の女性大統領にワイラ・ビケフレイベルガ氏就任、10月インドネシア副大統領にメガワティ氏就任、12月フランス初の女性保守党党首にマリオマリ氏が就任、スリランカ大統領にチャンドリカ・クマラトゥンガ氏再選、ニュージーランド首相にヘレン・クラーク氏が就き25人中11人の女性大臣誕生と、世界の潮流がその背後で作用していると見るべきであろう。


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2-2 損害賠償を恐れる企業 遅れた対応と女性の活用


2-2-1 企業のセクハラ対応


1999年4月1日からの改正男女雇用機会均等法の施行を前にして、特に産業界では「セクハラ防止」のキャンペーンが張られたり、経営者団体による学習会などが頻繁に行われた。それに伴い、書店でもセクシュアル・ハラスメントに関する書籍が「経営」のコーナーにも多種多様に並べられている。

しかし、それらの学習会や書籍は、必ずしも女性の人権を配慮しようと言う積極的なものばかりとは言えず、「セクハラ訴訟」を起こさないためのマニュアル、ガイドである場合も多い。また、企業が対応をせまられるようになってきたのは、次の記事のような、アメリカでの日本企業に対するセクハラ訴訟や、巨額の賠償を求められるセクハラ訴訟が相次いだことも大きい。



1999年6月26日付朝日新聞夕刊
見出し 「三菱自動車のセクハラ訴訟 和解金40億円支払いへ」
記事抜粋
女性従業員に対するセクシュアル・ハラスメントをめぐる訴訟で、米国三菱自動車製造は、総額3400万ドル(約40億8000万円)の和解金を支払いを近くはじめる。提訴からほぼ三年で最終決着することになる。支払額は計486人の被害状況によって異なり、一人当たり最高30万ドル(対象7人、約3600万円)から、約1万1000ドル(対象208人、約132万円)まで。


1999年2月25日付朝日新聞夕刊
見出し 「米・フロリダ地裁 『日本人上司セクハラ』に賠償金5億3000万円」「マツダ子会社元従業員訴えで」
記事抜粋
上司は日本人で。同僚や取引先に同従業員の事を「恋人で、一緒に寝ている」と言いふらして恥をかかせた、と言う。同従業員にかかってきた電話の相手を知るために体をつついたり、衣類を引っ張ったりするなどのセクハラ行為があったが、「彼女の抗議に関わらず、社内では事態改善に向けた取り組みはなかった」としている。

1999年2月4日付京都新聞朝刊
見出し 「『年齢でクビは不当』米中年女性のキャスター勝訴」
記事抜粋
看板キャスターの座をおろされたのは中年になったからだ、と女性キャスターがテレビ局を相手に起こした訴訟で、連邦地裁は訴えを一部認め、830万ドル(約9億7000万円)の賠償金の支払いを認める判決を下した。



このようなアメリカでのセクハラ訴訟の出発は、1960年代にさかのぼる。1964年の公民権法成立に伴い、女性差別撤廃と権利拡大の新たな運動が始まった。雇用機会均等委員会は、従業員からの訴えによりアメリカ最大の電話会社AT&Tを調査した結果、女性差別の実態を明らかにし、すべての女性従業員の職場異動や昇進を認めるよう要求した。AT&Tが1972年これを受け入れた事が全米に大きな影響を与え、職場における性差別は次第に解消されていった。

上記記事中にある1996年に米国三菱自動車製造に対して起こされたセクハラ訴訟の損害賠償請求額は、約220億円(和解したのは41億円)と言う巨額であっただけでなく、この事件が報道されることにより三菱自動車に対する不買運動や消費者運動も起こり、ついには外交問題にまで発展した。

1999年4月の法改正に向けて、経済団体も問題を回避すべく対応を急ぎ、1999年2月には関西経営者協会も、企業の基本的な対応策を小冊子にまとめ会員に配布した。また同協会は9月には「それって、セクハラ」をタイトルに、桂春之輔の古典落語「口入屋」や、笑福亭松枝の新作落語「浪速興産始末記」などが演じられた中小企業経営者向けのセクシュアルハラスメント防止講座を持った。

日経連は1999年2月に企業管理者向けの図書「セクハラ防止ガイドブック」を発刊し、啓発研修を進めようとしている。そこに書かれているセクハラ対策の必要性は次の三点である。

  1. 訴訟や交渉による損失。
  2. 企業イメージの低下
  3. 社員のモラールの低下

また、職場管理の新キーワードとして「@共生 Aパートナーシップ B能力主義・業績主義」をあげ、女性社員に対する性差別・被害を生み出す土壌自体の変革を求めている。また、管理者に求められる役割として「セクハラが起こらないよう職場でのミーティングなどのあらゆる機会を利用して注意換気や指導の徹底を行い、セクハラの加害者には服務規律違反などを理由とする懲戒処分がなされうることを周知させる」など、具体的な指示をしている。

法改正により職場でのセクシュアル・ハラスメントの実態がよりオープンに語られるようになり、こうした啓蒙活動が為されながらも、状況が決して改善されていないことは新聞でも報道された。


1999年6月2日付朝日新聞朝刊
見出し
「男性の意識遅れすぎ 『セクハラ』に反響」「『結婚いつ?』『スカートはいて』無神経さが不快」「胸などさわり『スキンシップや』嫌悪感越えて恐怖」

記事抜粋
「冗談」や「おせっかい」に見える発言に悩む女性が多かった。「周囲の男性から、『どうして結婚しないの』『誰かと暮らしているの』としつこく聞かれ、不快だ」結婚したらしたで「『子どもはまだなの』『体力残しておかないと、ダンナと出来ないよ』と上司からからかわれ、悔しくてならない自分の妻が他人に同じ事を言われたら、どう思うのか」「女性を『おまえ』呼ばわりする人が多く、抗議すると急に冷たくされるようになった。あまりの程度の低さに転職を考えている。」「「上司から、胸やお尻を触られ、キスをしようとしたり、下腹部を押し付けられた。本人に抗議しても『スキンシップだ』といって取り合ってもらえず、さらに上層部に訴えたところ、逆に自分が閑職に回されてしまい退職した」


改正均等法が女性労働者へのセクハラだけを対象にしていることに対し、男性読者から「両性の平等をうたった憲法に違反するのでは?」との疑問が寄せられた。労働省女性局は、「男性へのセクハラは均等法では防止対象になっていないが、各職場での防止対策に入れることが望ましい」として、法律での義務付けがないからといって野放しにされている訳ではないと説明している。

また日経連のガイドブックでは、女性にとって「働きやすい職場とはどんな職場か」「女性がやる気を出す条件とは」「女性を活用するための工夫」などの章を設け、セクハラ防止だけでなく、これからの企業における女性労働者の必要性や、その確保のための条件を示している。「女性がやる気を出す条件」として書かれている内容は次の二点である。

  1. 人に応じた管理をする

    「女性」というひとくくりの見方でなく、一人ひとりの意識に応じて管理の仕方を変えます。(中略)女性の場合、育成活用の道が未開拓なことが多いので、特にきめ細かく見ていく必要があります。少なくとも意欲のある女性には、「育てていく」と言う観点から仕事を与え、積極的に教育訓練を受けさせ、職務転換もします。(後略)

  2. 生きた期待を示す
生きた期待とは、「本当の期待」と言うことです。すなわち質の高い成果を求め、それに応じた関心を寄せ、指導をします。それには女性の持っている実務情報を尊重し活用することも必要になります。(後略)


ガイドブックを作成し、女性に対する積極的なアプローチ、それに伴う職場の変革の必要性を説いた点では一歩前進と言えようが、逆にこれらの記述は、日本の企業や社会がいかに女性を軽視し、一人前の労働者としての人格を認めておらず、いかにジェンダーロールの縛りがきついかを物語っている。



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2-2-2 ポジティブ(アファーマティブ)アクション

それでもなおガイドブックにこうした記述が必要とされるのは、少子化の中で女性の労働力を無視できない事実があるからである。それは次の記事にも表れている。


1999年2月19日付朝日新聞朝刊
見出し 「車工場に女性パワー 労働力確保へ各社 夜勤『解禁』で採用拡大」
記事抜粋
自動車メーカーが、工場の生産現場で働く女性を増やしている。今後少子高齢化が進んで若年労働力が不足する可能性があるため、女性の採用を増やして労働力を確保するのが狙い。労働基準法が改正され、原則として禁止されていた午後10時から午前5時までの女性労働が4月から認められるようになった事も背景にある。各社とも女性トイレや独身寮を増やすなど、福利厚生面も充実させると共に、工具の軽量化など職場の環境の整備も進めていく。



さらに、男女格差を積極的に是正する『ポジティブ(アファーマティブ)・アクション』(男女格差の積極的是正措置)を導入する事で、女性の力を活用しようと言う大手企業も急速に増加している事は、次の新聞記事の見出しにも顕著に表れている。これは、『男女雇用機会均等法』の第9条(女性労働者に係る措置に関する特例)で「事業主が雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の刺傷になっている事情を改善する事を目的として女性労働者に関して行う措置を講ずる事を妨げない」とし、積極的な女性の雇用を認めている事によるものでもある。


1999年7月1日付朝日新聞朝刊
「女性パワーじわり 大和銀 行内初の支店長/行内初の年金専門職も」

1999年7月9日付朝日新聞朝刊
「女性管理職 積極登用します 三洋電機社長 アキノ取締役風穴=v

1999年7月11日付朝日新聞朝刊

「支店長への道、全行員に 人事区分を刷新 女子の制服も廃止へ 第一勧銀」

1999年8月4日付朝日新聞朝刊

「女性500人ドカンと昇格 マツダ 全体の3割以上」

1999年9月10日付京都新聞朝刊
「女性の力、管理職で生かせ課長級以上を3年で2.5倍に松下電器グループ」

1999年9月14日付京都新聞朝刊
「ルシアン 総合職 女性のみ採用 均等法特例で企画力など期待」

1999年12月10日付読売新聞朝刊
「女性採用 総合職の2割以上 帝人2001年春から 来春には初の部長」


こうしたポジティブ・アクションを特集した記事に、次のものがある。


1999年10月16日付朝日新聞夕刊
見出し 「改正半年の雇用機会均等法 女性の職場どう変えた」「トップダウンで一斉昇格 やる気にさせた米国流」
記事概略
課長職が男性の約1700人に対し、女性が3人だったマツダでは、米国フォードから送り込まれたジェームズ・ミラー社長が女性の処遇改善を指示。職務等級の人数枠をなくし、能力主義を徹底させると共に、一般職の女性445人を「特別昇格」させる事にした。松下電器産業も係長以上の女性を現在の600人から今後三年をめどに1300人にし、課長職は2.5倍の220人とする方針を打ち出した。福島人事部長は「専門性と独創性が生き残りのキーワード。今後は性差でなく、個人差重視でいくと言う強いメッセージでもある」と説明する。



1999年12月20日付日本経済新聞夕刊
見出し
「日本企業もそろり始動 外資先行のポジティブアクション(男女格差の是正措置)」「管理職候補に研修 労使検討委で議論」

記事概略
松下電器産業掃除機事業部では、これまでも女性中心の開発チームを作るなど、活用の試みはあった。今回は今後、明確に責任ある立場に就いていくことを要求されている点がちょっと違う。イメージ向上のための女性活用に取り組めるほど経営環境は甘くない。そんな中で松下がこの活動に踏み切ったのは、男女を問わず、これからは社員が組織に寄り掛からずに個人として自立していく事が重要。能力発揮を求める企業にとっては、年齢や性差にこだわらずに、評価、登用する風土作りを避けて通れなくなっている。

日経連労務法制部次長は「男女共にのびのび働くには、まずスタートラインをそろえるべきだという意識を定着させなければならない」と指摘する。ポジティブアクションには、家庭との両立支援など、女性が働きやすい環境作りも当然含まれている事を、企業は忘れてはならない。


ポジティブアクションの取り組みは、企業内にとどまらない。欧米では既にあらゆる分野で進められているが、次の記事に見られるフランスの動きは特徴的なものである。


2000年1月28日付朝日新聞朝刊
見出し 「候補者は男女同数 フランス下院で法案可決」「女性の地位向上へ左派政権が推進 来年の公職選挙から」
記事概略
フランスでは世界初の「男女同数法案」が国民議会で可決された。法案では、当選者の数は必ずしも同数にはならないが、各政党の候補者を男女同数にする事を義務づける。左派ジャスパン政権は、女性を重視する政策を打ち出し、29閣僚の内11人に女性を据えている。欧州内で候補者の男女比を法律で規定しているのはベルギーだけで、男性であれ女性であれその割合が3分の1以下になってはならないとしている。



こうしたフランスの政策は、国家社会のみならず、個人や家庭においての性の在り方をも変革する動きとなっている。


1999年10月10日付朝日新聞朝刊
見出し 「同性愛カップル結婚≠ナきます フランスで法案可決」「『家族制破壊』と反対も」
記事概略
フランス国民議会は、契約を結んだ同性愛のカップルにも社会的地位を認め、相続や税金・社会保険の支払い、住宅の賃貸契約などで結婚に準じた権利を与える事を盛り込んだ「連帯の市民協約」(PACS)法案を可決した。欧州では10年前にデンマークで同様の権利が認められて以来、ノルウエー(93年)、スウエーデン(94年)、オランダ(98年)などにも広がったが、カトリックの伝統が強い国ではフランスが初めて。フランスでは、結婚しないで同居しているカップルは同性、異性合わせて500万人いると言われる。首相は社会の変化に対応するためにこの法案は必要だと支持を訴えた。



ポジティブアクションや、同性愛カップルの社会的な認知に特徴的に見られるジェンダーやセクシュアリティにまつわる社会の変革は、教育の場にも確実に及びつつある。それは、女子を専門的に教育する学校である女子校であれば、女性教職員の意識的な位置付けや、女性の発言が生かされる環境作りをいかに進めるかが、より重要な問題となろう。また、男女を問わず「性」にまつわる問題を洗い直す事は、男性教員間にある固定的な役割分担にも影響を及ぼし、学校の教育活動や制度改革を活性化する原動力の一つとなる。


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2-3 ドメスティック・バイオレンス 家庭内暴力

性暴力の中で、現在もっともホットな問題は『ドメスティック・バイオレンス(DV)』と『児童の性的虐待』である。それは、単に他人の家庭を覗き見する下世話な好奇心によるものではなく、警察も「民事不介入」として野放しにしていた「暴力行為の聖域」、家庭や恋人同士などの「個人的な関係」においても、女性や子どもに対する暴力は「夫婦喧嘩」「痴話喧嘩」「厳しい躾」ではなく、人権を侵す「犯罪」として認識されてきたことによるものである。


1999年7月7日付朝日新聞朝刊
見出し 「『元夫は100万円支払え』大阪地裁判決 家庭内暴力 妻に後遺症」
記事概略
女性は、DVのせいで、上唇がちぎれ、口が開きにくくなるなどの後遺症が残ったとして元夫に慰謝料の請求を求めた訴訟で、大阪地裁は全面的に訴えを認める判決を言い渡した。女性から離婚後告訴されていた元夫は、暴力行為などの罪に問われ、懲役1年6月の実刑判決を受けて控訴している。


2000年1月9日付朝日新聞朝刊
見出し 「妻に暴行容疑、夫逮捕 熊本 自宅監禁骨折させる」
記事概略
妻を自宅に監禁して、自宅で30代の妻をゴルフクラブで殴った他、妻を脅してたばこの火を自分の目に押し当てさせたり、包丁を足に落とさせたりして、二ヶ月の重傷を負わせた夫(31)を傷害と監禁の疑いで逮捕した。



徐々にDVへの社会の認識が浸透し始めると共に、新聞各紙はDVの特集を1998年から1999年にかけてシリーズで組んだ。


1999年3月12日〜14日付京都新聞朝刊
シリーズ「夫や恋人からの暴力 DVから逃れて 1〜3」
見出し 「息子が包丁持ち『親父を殺すかも…』」「何が原因?何時?ビクビク20年と」「『平凡な家庭』が理想だったのに」

1999年7月6日〜9日・16日付朝日新聞朝刊
シリーズ「DVドメスティック・バイオレンス 米国編 1〜4・番外編」


こうした世論の高まりを受けて、国や自治体も法制化の動きをはじめ、警察の対応も変化しつつある。


1999年2月20日付朝日新聞朝刊
見出し 「身近な男性からの暴力 DV防げ」「国会でも 参院に調査会、神戸で聞き取りも」「法整備や教育の必要性を議論」「男性も 『防止プロジェクト』27日に発足集会」「『暴力を振るわないで生きよう訴え』

1999年8月20日付朝日新聞朝刊
見出し 「DV禁止 条例で 東京都埼玉で明文化の方針」

1999年12月16日付朝日新聞夕刊
見出し 「夫の暴力・ストーカー・児童虐待 未然防止へ積極介入 警察庁が要項」


セクシュアル・ハラスメントですら一部でマトモに相手にされていない現状では、ドスティック・バイオレンスの犯罪性に対する認識は未だ低い。「俺の言う事が聞けんのか」「誰のおかげで食っていられると思うんだ」と言う言葉となって現れる男性の支配欲や、パートナーシップの欠如から起こるDVは、女性の人格を否定し、多くは身体的な被害を及ぼす。相手を一人占めしたいという独占欲と、相手は自分のものだという所有の意識とは似ていて異なる。セクシュアリティが身体性と関係性によって成り立つものである事を、DVは最もよく表わしていると言えよう。

しかし、DV防止については、男性加害者からの取り組みも始まっている。草柳和之著岩波ブックレット「ドメスティック・バイオレンス 男性加害者の暴力克服の試み」によれば、DV男性の専門相談は次の二つを柱としているという。

  1. 妻とストレスを激化しない対応や、妻を対等な人格としてみとめた上でのコミュニケーションを図る。
  2. 本人の人生史上の問題がどう暴力とつながるかを発見したり、現在の感情バランスの回復を図る

DV男性には、生きてきた歴史の中で、学校・家庭・社会において自分が尊重されず踏みにじられてきた経験や、複雑な家庭環境の中で子供としての自分が精神的に放置されてきて、自分を受け入れてくれるはずだと願う親密な人間をターゲットに、暴力を行使することで、自分の中の傷つきを埋め合わせようとする場合もあると、草柳氏は述べている。性暴力のメカニズムを探ることは、社会にある「抑圧」や「支配構造」に目をむけることにつながる。「個人的な問題は政治的問題」というフェミニズムのスローガンは女性だけのものではない。

親や保護者による子どもの虐待(性的な虐待も含む)に気付いている教師もいる。しかし、警察のそれと同様、学校や教師の対応は鈍い。


1999年11月8日付朝日新聞朝刊
見出し 「教師の3割『児童虐待、接した』民間団体アンケート」
記事概略
関西ソーシャルワーク研究会の調査によれば、虐待を受けている子どもに接した事のある教員は、3人に一人、小学校では2人に一人。世話をしない「ネグレスト」が48%、精神的虐待が29%、性的虐待は8%もあった。しかし児童相談所などに相談したのは26%にとどまり、教員個人が問題を抱え込む傾向が強い。



身近な者からの性暴力は、見知らぬ者による強姦以上に精神的な傷を残し、回復も困難である。DVについて言えば、女子の「自己決定能力」と「自尊感情」を高める教育が不可欠である。女子学園の可能性としては、「同窓会」などの外郭団体を母体に、暴力に耐えている卒業生や在校生、その保護者にとって、相談機能やシェルター機能、傷を回復し合えるグループやネットワーク作りまで視野に入れた女性救済センターを開発する事もある。



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3 スクール・キャンパス・セクシュアル・ハラスメント


3-1 新聞記事からうかがえるスクール・セクハラ 教師による犯罪

マスメディアによるセクハラ防止キャンペーンがしげく行われている中でも、なおセクシュアル・ハラスメントやドメスティック・バイオレンスを「犯罪」として認識することができない人々が多数いる。また、教育の現場におけるセクシュアル・ハラスメントについては、その存在自体が否定されたり無視されたりすることさえある。しかし、教職員が関与する猥褻行為については、新聞紙上でも何度も大きく取り上げられてきた。

1998年の秋には朝日新聞でもスクール・セクハラが特集され、大阪市の教員や弁護士で作る「子ども性虐待防止市民ネットワーク・大阪」の取り組みや、兵庫県川西市教育委員会が「子どもの人権オンブズパーソン」の設置に向けて準備を進めていることが紹介されている。スクール・セクハラの「増加」は他のセクハラや性暴力被害と同様に実数が増えているのではなく、社会の中で子どもへの「いたずら」が性虐待であり「犯罪」として認識されるにつれ、表ざたになった件数が増えたに過ぎないというのが実態であろう。被害の実態が社会的に知られるところとなったにもかかわらず、1998年度の被害は更に深刻となったことは、次の新聞報道にも現れている。


1999年12月28日付読売新聞朝刊1面
見出し 「わいせつ教員処分最多76人」「『心の病』で休職1707人」

1999年12月28日付京都新聞朝刊1面
見出し 「わいせつ処分最悪76人にも 公立小中高などの教員 目立つ悪質化」
記事概略
「児童・生徒らに対するわいせつ行為を理由に、1998年度に処分を受けた公立の小中高などの教員は76人に達し、最悪だった96年度(67人)を上回った。減給や戒告にとどまらず免職処分となった教員は53人と過去最多で、教え子が被害に遭うなど悪質なケースが多かった。わいせつ行為による処分の内訳は懲戒免職34人、諭旨免職19人。停職は10人、減給4人、戒告2人、訓告などの注意処分は7人だった。猥褻行為の対象は、34人が自校の児童・生徒、5人が卒業生で計39人が教え子だった。」


小・中・高校生や大学生が、学校と関わりのあるところで被害にあった性暴力、またその職場における性暴力や性的被害に関する1998年から2000年にかけての新聞報道を列挙したのが、次の【表2】である。

【表2】

小・中・高でのスクール・セクシュアル・ハラスメント


月日

新聞

地域

「見出し」と記事の概略

罪・処分

1998.
9

朝日

神戸

「教諭、部員にわいせつ行為 市教委、処分せず」神戸市立中学校で、38歳の柔道部顧問の教員が柔道部員だった3年の女子生徒をTシャツやブルマーを着用しないよう指示した上で練習場に呼び出し、胸などを触った。さらに、大会予選前には「全国大会に出られなかったら俺の女になれ」などと何度も話した。

処分なし

1999.
2.23

朝日

大阪

「教え子救え 先生支援 人権申し立て『養護学校でセクハラ』」大阪の養護学校の48歳の教諭が車で自宅に送る際、手を握ったり抱き付いたり、同級生や上級生もキスを求められるなどした。

処分なし

1999.
3.9

朝日

大阪

「わいせつ行為教諭に有罪」44歳の高校教員が顧問をする柔道部員を体育教官室に呼び付け抱き付いて、無理矢理自分の身体を触らせるなどした。また別の女子部員にスポーツマッサ−ジをするとだまして体を触った。

条例違反懲役9月

1999.
5.8

朝日

大阪

「『生徒にセクハラ』認定 大阪弁護士会元府立高生申し立てで」54歳の数学担当の高校教員から、ドライブに誘われた際無理矢理胸を触られキスをされた。別の一人は数学準備室などで「抱いたる」「いっしょに寝たるわ」などと言われたり体を触られた。

処分なし

1999.
8.21

朝日

新潟

「中3の教え子妊娠させ免職」28歳の中学教師が教え子の中3生徒と付き合い妊娠させていたのは、県青少年健全育成条例に抵触する行為である。

懲戒免職

1999.
9.1

京都

愛知

「女子高生とみだらな行為 愛知で容疑の教諭逮捕」41歳の小学校教師がわいせつビデオに興味を持ち、女子高校生徒のみだらな行為をビデオ撮影していたうえ、ビデオショップに持ち込まれていた疑い。

県青少年条例違反

1999.
9.1

京都

滋賀

「京の中学教諭逮捕 女子中学生にわいせつ行為の疑い」49歳の補導主任をしている数学担当の中学教師が、テレホンクラブで知り合った滋賀県内の中学生二人にみだらな行為をした。

条例違反

懲戒免職

1999.
9.20

朝日

浜松

「更衣室前にビデオ 浜松高校教諭、自宅待機に」36歳の保健体育科教員が校内の合宿所の女子更衣室前にビデオカメラをポリ袋に包んで設置していた。

自宅待機

1999.
11.2

京都

福岡

「野球部が寮で少女集団暴行 容疑で4人逮捕 西日本短大附属高」19歳の野球部OB、20歳の寮監と18歳の現役野球部員二人が少女二人を校内の寮で暴行した。

婦女暴行容疑

1999.
11.3

京都

熊本

「クレー射撃協会今度は役員セクハラ熊本国体、女子中生に」熊本国体で役員二人が手伝いの女子中学生に「胸が大きい」などと言ったり、体を触ったりした。(2000.1.7理事全員が辞任。同協会は3年前の神奈川国体でもセクハラ騒動を起こした。)

辞任

1999.
11.16

朝日

大阪

「女生徒に教諭わいせつ容疑」46歳の生活指導主事で保健体育科の中学教師が相談室に相談にやってきた中学二年の生徒の服の中に手を入れるなどの猥褻行為をした。

強制猥褻

懲戒免職

1999.
12.2

読売

奈良

「奈良県立高校セクハラ訴訟『県は1100万円支払え』地裁判決」36歳の奈良県立高校演劇部顧問を部員四人に三年間に渡り演技指導と称して暴行や体を触るなどセクハラ行為を繰り返した。

1100万円の損害賠償

1999.
12.21

朝日

富山

「教え子の下着盗む 容疑の高校教諭を逮捕」38歳の教員がこの5年間に約30人の自分が勤務する高校の女子生徒宅に忍び込んで約300点の制服や下着を盗む。盗品の画像をパソコンで管理。

窃盗

大学におけるキャンパス・セクシュアル・ハラスメント

1999.
2.9

京都

広島

「スカートの中手鏡でのぞき見県立広島女子大卒論指導の助教授」44歳の生活科学部助教授が女子学生数人に対し、論文指導の際ズボンのポケットに忍ばせた手鏡を使って机の下からスカートの中を数回覗き見した。

論旨免職

1999.
5.25

朝日

仙台

「セクハラ賠償750万円 仙台地裁東北大助教授に命じる」45歳の助教授は修士課程在学中の女性に対し、論文指導時に性的な冗談を言うとともに、君に恋愛感情を持っている。指導教官を降りたいなどと発言。距離を置いてほしいと大学院生が言うと論文の評価を一変させ書き直しを命じた。

損害賠償

1999.
7.23

朝日

「三重大女子学生4人に乱暴医学部の5人退学処分」1999年5月に集団で女子学生4人に対して乱暴をした医学部生5人を退学、4人を無期停学、4人を厳重注意の処分にした。

退学等

1999.
7.24

朝日

徳島

「セクハラ教授停職一ヶ月に徳島大」40歳代の総合科学部の教授が女子学生二人に研究室などで胸に触ったり、膝の上に座らせたりしたとした。徳島大学評議会は停職一ヶ月の処分を決めた。

停職

1999.
7.31

朝日

東京

「慶応大生 女子学生を集団乱暴 婦女暴行容疑 医学部の5人逮捕」慶応大学医学部の23歳の四年生から18歳の1年生までの5人が都内の大学に通う女子一人を集団で乱暴した。

婦女暴行

全員退学

1999.
8.6

朝日

北海道

「セクハラなどで教授懲戒免職北海道教育大」57歳の英語科教授が女子学生に対するセクハラや単位を認定しないと迫るなどした問題で、同大の代議委員会は懲戒免職を決定した。

懲戒免職

1999.
10.23

朝日

東京

「セクハラ学生無期停学 早大、ガイドライン適用」盗撮行為をしていた社会科学部の学生を学内のセクシュアル・ハラスメント防止ガイドラインを適用し、無期停学処分とした。

無期停学

1999.
10.28

朝日

西宮

「関学元教授のセクハラ認定学内調査委」42歳の法学部元教授が、6人の女子学生に対し学内外でキスや飲酒を強要する7件のセクハラ行為を重ねていた。学内に設置した調査委員会はセクハラと認定した。

依願退職

1999.
11.12

京都

徳島

「鳴門教育大のセクハラ教授の上告棄却賠償命令が確定」64歳の心理学ゼミを担当した教授が、暗に愛人関係を求めたり女子の異性関係を詮索する手紙を多数出したことで大学院を休み勝ちになり博士課程への進学を断念した女性が損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は210万円の支払いを命じた一、二審を支持

損害賠償

1999.
12.22

朝日

広島

「セクハラ容疑教授を解雇に広島修道大、本人反論」60歳の人文学部教授が三人の女子学生の髪や体に触るなどのセクハラ行為をしたとして懲戒解雇にした。

懲戒解雇

2000.
1.8

朝日

仙台

「セクハラ敗訴教官懲戒免へ東北大学」セクシュアル・ハラスメントをめぐる民事訴訟で、仙台地裁から750万円の支払いを命じられた48歳の助教授について、懲戒免職処分が決定された。

懲戒免職

学校職場における職員間のセクシュアル・ハラスメント

1999.
6.4

朝日

仙台

「東北生活文化大セクハラ訴訟『教授は700万円払え』仙台地裁元職員の主張認める」50代の元指導教官が大学職員になった女子に対し交際中の男性と別れるように迫った上、お前が大学で働けるのは俺が推薦してやったからだと怒鳴り無理矢理性的関係を持ったことに対し、仙台地裁は「職員に対する教授の立場を利用した行為」として700万円の損害賠償を認めた。

損害賠償

1999.
6.22

朝日

千葉

「指導教官からセクハラ 大学院生、提訴へ 千葉大医学部」指導教官だった講師が大学院生に対し、学会に参加した際ホテルの自室に呼ばれ抱き付かれたりベッドに押し倒されたりしたことにより、指導を受ける自信を無くし精神的な苦痛を受けたとして880万円の損害賠償を求めっる訴訟を起こす。

1999.
10.20

朝日

京都

「高校教諭がセクハラ女性講師の体触る府教委へ報告せず」30代の数学教師が歓送迎会の席で20代の女性講師の体に何度も触ったとして、府教委は「府立学校セクシュアル・ハラスメントの防止に関する要項」を策定していたが、同校は府教委に事実を報告していなかった。

文書訓告処分

1999.
11.1

朝日

奈良

「セクハラで校長を処分奈良県教委、減給に」57歳の小学校校長が女性教諭二人に宴会の席で胸を触ったり腕を引っ張って隣に座るように言ったとして、奈良県教委は減給10分の1、三ヶ月間の処分をした。

減給

1999.
12.15

朝日

佐賀

「同僚教師を隠し撮り佐賀で諭旨免」30代の中学教員が20代の同僚教師の机の下にビデオカメラを仕掛け隠し撮りをしていたとして、県教委は論旨免職の処分をした。

論旨免職

1999.
12.29

読売

横浜

「セクハラ校長停職一ヶ月横浜市教委」56歳の小学校校長が職員に対して帰りに橋の下でまってるよとか、職員のカバンを見てお医者さんごっこをしてるんじゃないのなどと少なくとも9回のセクハラ発言をしていたことに対して、市教委は停職一ヶ月の懲戒処分にした。

停職

大学生による中学生への性暴力

1999.
10.28

京都

神奈川

「中大法学部生ら逮捕 女子中生を集団暴行」中央大学法学部三年生の二人を含む5人が、海水浴場で知り合った女子中学生をアパートに連れ込み集団で暴行した。

婦女暴行容疑

退学処分



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これまで性暴力の加害者と言えば、性欲に駆られた異常者や性的衝動を抑えられない変質者、つまりは特別な人間の仕業として描かれ、また性的暴力を他愛のない悪戯や冗談で済ませてきがちであった。しかし、こうした新聞報道からうかがえることは、加害者が、若い男性に限ったものでも見知らぬ人でもなく、常に身近にいて社会的な信用を受けているはずの経験豊かな教員に多いと言うことである。そして、意識をしていようといまいと、「立場を利用した性的な嫌がらせ」は犯罪であると言うことである。

こうした学校や大学でのセクシュアル・ハラスメントに対しても、一般のセクシュアルハラスメントに対してと同様に、様々な支援団体が立ち上げられ、支援グループのホームページも開設されている。その中でも『易しいセクハラ解説書「お猿の広場」』(http://www5a.biglobe.ne.jp/~stem/stem.html)は中・高校性も読者の対象としたもので、具体的な対策についての解説も載せられている。

また、大学での性被害=キャンパス・セクシュアル・ハラスメントについては、全国組織「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」(
http://www.jca.apc.org/shoc/)も生まれており、ホームページも開設している。同ネットワークは実態の調査と共に、大学の責任追及やセクハラ防止のためのガイドラインの手引きの提示、実際に作られたガイドラインの点検も行っている。それらは「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント 大学の責任、どこまで、どうとらせるか」(1998年11月28日発行)「ガイドラインの手引き キャンパス・セクシュアル・ハラスメント」(1999年6月20日発行)にまとめられている。
そこに収められている1999年4月8日に作られた「キャンパス・セクシュアル・ハラスメントに関するガイドライン(指針)作成のためのチェック項目」の一部を紹介する。
この全文や『易しいセクハラ解説書「お猿の広場」』に載せられている高知大学の学生向けセクハラ防止パンフレットは、上記のホームページまたは、高知大学http://www.kochi-u.ac.jp/ssh/で参照されたい。



<ガイドラインに含まれるべき内容>

1 [目的と定義]
◎a セクシュアル・ハラスメントは人権侵害であるということの明記
◎b 定義づけとして他の者を不快にする性的な言動であることの明記
(人事院)(対価型/環境型など包括的な)
◎c 権力関係の中で生じるものであるという言及

2 [相談]
◎a 相談窓口業務の明示
被害者の訴えの傾聴と受容、取り得る救済方法の説明と被害者の意思決定の援助、被害者の希望に応じたカウンセラーなどの紹介
◎b 相談員の構成についての明記
( 両性からなる 研修を受けた人 外部の専門家含むなど)

3 [紛争処理、救済]
◎c 調査委員会の独立性、中立性、公正性の保証、公正な調査を保証するシステム
加害者の所属部局からの独立性
(両性からなる研修を受けた人、外部の専門家含むなど)

4  [予防措置]
◎a 周知徹底のための啓発活動(リーフレット、学生便覧、新入生オリエンテーション)の明記
○b 研修の義務付け
あらゆるレベルの構成員全体への継続性を持たせた研修
*カリキュラムの中での人権教育の取り組み

5 [全体に関わること]
◎a 責任の所在を明らかにすること(防止、対応、決定などの過程における)
◎b 被害者のすべての過程における主体性、意思の尊重



1999年10月20日の京都女子中高校職員会議で学校長名で報告された「セクシュアルハラスメントの防止について」の文書は、相談窓口を中高両教頭とした点だけ見ても、極めて不十分なものと言わざるを得ない。京都女子学園全体でも1999年3月末を目標に、学園内でのセクシュアル・ハラスメントに関するガイドラインを策定する準備が進められている。しかし、それは対象を教職員間に限った「職場のセクシュアル・ハラスメント対策」になり兼ねず、学内に何千人もいる女子学生・生徒・児童・園児に関わる総合的なガイドラインとなるかどうかは判然としない。対策が遅れてしまっている分、全国の優れた実践に学び、現代社会の女子学園に相応しいガイドラインが策定される事が望まれる。


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3-2 京都におけるスクール・セクシュアルハラスメント実態調査

事件として報道される性的被害や性暴力は、女性が置かれている抑圧的状況や、そこでの人間関係を考えれば「表沙汰」になるのは氷山の一角に過ぎないと考えるのが妥当である。何事もないかのように過ごしている我々の学校でも、性的被害の直接の訴えを受け止め、真摯に対応できるシステムが存在しないため直接的な訴えかけが為されないだけで、教職員間・教師生徒間・生徒同士のいずれにおいても実際にはセクシュアル・ハラスメントの被害に傷付けられている者はこれまでもいた。性的被害への誠実な対応をしようとするならば、まずその実態を把握すべきである。

今年度、文部省や教育委員会から通達が来て、本校でもセクシュアル・ハラスメントへの対応をはじめることとなったが、その実態を把握しようとする動きはいまだにないばかりか、この問題から目をそらそうとしたり問題をぼやかそうとする傾向すらある。

1999年9月3日、平安女学院中高校で行われた1999年度“人間と性” 教育研究協議会京都サークルの9月例会で、1999年度の1学期に京都府下数校で行われた「スクール・セクハラ実態調査」の中間報告が行われた。その報告の概略と、例会での特徴的な発言のいくつかから、学校におけるセクシュアル・ハラスメントの問題を検討したい。

アンケートは発達段階に合わせて小・中・高校生用の三種類が用意されたが、その下敷きとなったのは啓文社発刊の「キャンパスセクハラ」である。集計は「社会的影響」に配慮して学校別には行わず、調査校全体の学年別にまとめられた。まず、その中でもっとも調査個数の多かった高2の女子(回答数409人)の調査結果の一部を紹介する。なお、調査報告資料の詳細や、閉会後出された感想文については、1999年10月発行の「性教協京都サークルニュース」No.80を参照されたい。


高校におけるセクシュアル・ハラスメント(スール・セクハラ)実態調査

3 あなたはスクールセクハラを体験したことがありますか。

校内

校外

ある

45人

11.0%

50人

12.2%

ない

364人

359人

*以下の質問は高校に入学してから今までにあったことについて答えて下さい。

5 セクハラの内容は次のどれですか

  1. 身体にさわられた 28人(62.2%)
  2. 自分が性の対象でしかないような言葉をかけられた。 13人(28.9%)
  1. セックスをせまられた 5人(11.1%)
  2. その他…よかったら詳しく、内容を教えてください。

6 誰にされましたか〔A〕〔B〕両方から選択してください。

〔A〕

〔B〕

男の先生

23人

51.1%

担任の先生

1人

2.2%

男子の先輩

4人

8.9%

教科担当の先生

6人

13.3%

男子同級生

17人

37.8%

文科系クラブ

0人

女の先生

0人

体育系クラブ

5人

11.1%

女子の先輩

0人

その他

2人

4.4%

女子同級生

4人

8.9%

無回答

6人

13.3%

無回答

6人

3%

7どんな状況で起こりましたか

授業中

8人

17.8%

クラブ合宿中

1人

2.2%

休み時間

14人

31.1%

電話で

3人

6.7%

放課後

14人

31.1%

手紙で

3人

6.7%

クラブ活動中

4人

8.9%

その他

10人

22.2%

修学旅行中

1人

2.2%

無回答

6人

13.3%

自主学習中

1人

2.2%

11 セクハラがあなたに与えた影響はどのようなものでしたか。

不眠や頭痛が続いた

1人

2.2%

不登校になった

1人

2.2%

うつ状態が続いた

1人

2.2%

人間不信になった

4人

8.9%

自己嫌悪におちいった

1人

2.2%

その他

18人

40.0%

無回答

21人

46.7%

「その他」の内容:特になし(5)こっちが一方的に気まずくなった(1)その先生に対して恐怖感を持った(1)先生が嫌いになった(1)男の人が怖い(1)等


次に、同様の調査を行った「中学生の調査」結果と、そこで把握できた具体的な事例について紹介する。


中学におけるセクシュアル・ハラスメント(スール・セクハラ)実態調査

質問3 あなたはスクール・セクハラを経験したことがありますか。

学年

中学1年生

中学2年生

中学3年生

合計

性別

男子

女子

男子

女子

男子

女子

男子

女子

合計

回答数

37

47

0

98

64

110

101

256

356

経験あり

3

4

0

8

1

32

4

44

48

8.1%

8.5%

0

37.7%

1.5%

29.1%

4.0%

17.3%

13.5%

経験無し

34

43

0

90

63

78

97

211

308

質問6 誰にされましたか〔A〕〔B〕両方から選択してください。

〔A〕

〔B〕

男の先生

24人

担任の先生

1人

男子の先輩

3人

教科担当の先生

7人

男子同級生

13人

文科系クラブ

3人

女の先生

0人

体育系クラブ

16人

女子の先輩

2人

その他

9人

女子同級生

5人



具体的例1

を触られた。相手の性器を触らされた。目付きが嫌らしい。

*相手と場所:運動系クラブ男性顧問に、休み時間や部活動中に、1対1でいた時。
*対応 :その場では笑ってごまかした。
*期間 :先生が指導している時はいつも。
*相談 :友達には相談した。ゆっくり聞いてくれた。
*相談の結果:相談後もひどくなった。
*影響 :不眠や頭痛が続き、成績が落ちた。
*具体的な記述については「ひどすぎて書けない」と記している。


具体的例2

*学年・性別:中学3年生女子
*被害内容 :頭・手・腕・胸・お尻・胴・足を触られた。スカートを無理矢理上げられた。
*相手と場所:運動系クラブ男性顧問に、休み時間と部活動中に大勢でいた時。
*対応 :その場では笑ってごまかした。
*期間 :ほとんど毎日。
*相談 :友達には相談した。ゆっくり聞いてくれた。
*相談の結果:相談後も変わらなかった。
*影響 :人間不信、自己嫌悪になった。


具体的例3

*学年・性別 :中学3年生女子
*被害内容 :頭・顔・手・腕・胸・お尻・性器・足を触られた。性的な行為を強制された。
*相手と場所:運動系クラブの男子同級生、女子同級生に休み時間と放課後に1対1でいた時。
*対応 :その場では笑ってごまかした。自分で抗議した。会わないようにした。
*期間 :期間は3ヶ月。
*相談 :友達には相談した。ゆっくり聞いてくれた。友達もされたと言っていた。
*相談の結果:相談後も変わらなかった。
*影響 :生理不順、不登校、人間不信、自己嫌悪になり、無力感を感じた。



こうした報告を受け、例会では活発な意見交換がなされ、様々な感想が寄せられた。そのいくつかを紹介する。

この調査報告とその報告に接した参加者の感想の中で、我々が注目すべき事は、次の三点である。

  1. 京都の中学生で17.3%の女子中学生が、高校では校内で13.4%、校外で10.4%の女子高校生がスクールセクハラの被害にあっていると答えているにもかかわらず、大人に相談するケースが極めてまれであること。
  2. 被害にあった生徒は、その場ではっきりと拒絶することができず笑ってごまかしてしまい、被害者でありながら自己に対する罪悪感や否定的感情や無力感を抱いていると言うこと。
  3. 男性・女性に関わらず、みずからの行為をセクシュアル・ハラスメントと認識していなかったり、同僚の行為に対して注意・批判できない教員が多いと言うこと。



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この調査は「スクール・セクハラ」の調査であるため、生徒が学校と関わりのない相手から受けている性的被害(痴漢・ストーカー・強姦など)の実数はもっと多いはずである。更に、父親や兄弟などの近親者から受ける性的虐待は、その存在を取り上げる事自体タブーとされている面もある。性犯罪の多くはどこかから降りかかってくるのではなく、身近な生活に潜んでいるのである。

教師が生徒の性的被害を知った時、被害者(多くは女子生徒)の行動や身だしなみへの注意に終始することは、加害者(多くは男性)の加害性を低める(男は性的な欲望が強いので仕方のない)ことにもなる。「挑発的な態度を取った」「やられて仕方のないようなかっこうをしている」「日頃からだらしないからそうなっても仕方がない」などと、加害者の問題を抜きにして性的被害にあった生徒に落ち度があったかのように問うことは、セカンド・レイプに等しい行為である。

それは、性的被害の事実や回復への対応を大人に相談することから遠ざけるばかりでなく、被害者の生徒を一層の無力感に陥らせ、自己否定の感情や人間不信を高めてしまいかねない。まず被害にあった生徒の自尊感情をしっかりと支えるために、「あなたは悪くない」と言うことをしっかりと認識させる事が重要である。


1997年度のわいせつ行為による処分を受けた教員が過去最高に上ったことを受け、1999年には京都新聞でもスクールセクハラの問題が取り上げられているので、その概略を紹介する。


1999年5月29日付京都新聞朝刊
見出し 「スクールセクハラ まず打ち明けよう『先生対生徒』の関係表ざたにしにくいが」
記事概略
「スクールセクハラは、子どもを不快にさせたり傷付けたりする先生の性的言葉や行動を指す。性的な関係を強いるのはもちろん、手を握ったり体を触るなどの行為、『キスしたことあるか』などの言葉や『女はいくら頑張っても男には勝てない』など性差別をするような発言も含まれる。大阪市の弁護士段林和江さんによれば、『子どもが不快に感じるかどうかが判断基準。そんなつもりじゃないといういい訳は必ずしも通らない。当事者の子どもは@信頼できる人に話すA相手にNOを言うB証拠は残しておく事を心がけ、大人は打ち明けられた時決して子どもを責めず、よく言えたと誉める事が大切だ』という。」



一般的な性的被害とは異なり、スクールセクハラの深刻さは、加害者のかなりの部分が「指導」に当たっている教師であり、その被害を知りながら目をそむけ、あるいは隠蔽しようとするのも教師であると言う事実である。

セクシュアル・ハラスメントと言う概念が社会的に広く認知されるのに比例して、特に男性教員の中でセクシュアル・ハラスメントを「自分の学校の問題」にすることへの抵抗感が表に現れてきているのも事実である。それは、自分が過去に「悪気なく」行ってきた生徒や同僚に対する言動が、場合によると「犯罪者」=教師失格のレッテルを貼られるものではなかったか、と言う恐れもあろう。今も自らが無意識の内に抱いている、女性に対する「優位性」や「既得権」が侵され、指弾されることから回避したいと言う感情が働いてもおかしくはない。自らの「価値観」や「人間観」を覆されかねないという不安や抵抗感が態度を硬化させることもあろう。

自らに刷り込まれたジェンダー意識から、過去に「どうせ女の子は嫁にいくんだから無理して浪人なんてしない方がいい」と言うような進路指導や、「女の子だからこの教科はできなくても仕方がない(あるいはできなければいけない)」と言うような教科指導、「女の癖にそんなみっともないことをするな」と言う生活指導をしてきた教員は少なくない。

また、生徒に対して性的好奇心を抱いた経験や、同僚教員との関わりで、今から思えば相手は嫌がっていたのではないかと思える言動を、無神経かつ自分本位にしていたのではないかという自責。「個人的な問題」としてきたことが「社会的な犯罪」であると言う認識を得て生まれる自己嫌悪。社会的信用を看板にした職業であることが、逆に問題を正面から取り上げることへのブレーキとなっていく。学校内においては、学校社会の閉鎖性とともに、指導的立場にある教師であると言う意識がセクシュアル・ハラスメントの防止や対応を鈍くしていると言えよう。


また、出身校による「権威主義」や男性間によく見られる「先輩後輩意識」、多くの教師が持つ「指導者としての優位性」が、知らず知らずの内に女子生徒や女性の同僚に向かって「支配・抑圧」の関係を生み出していることもまれではない。それがセクシュアリティと結びついた時、性的加害となることもあろう。

運動系クラブ顧問や生活指導担当教師による深刻なスクール・セクシュアル・ハラスメントが多く報告されていることは、教師による暴力や強制を生み出している「教員の意識構造」と性暴力とが無関係でないことを表わしている。



1999年9月19日付朝日新聞朝刊
見出し 「『体罰受け脳内出血』兵庫県の中学生バレー合宿中高砂市提訴へ」
記事抜粋
昨年8月合宿中に倒れ意識不明になっている兵庫県高砂市立龍山中学バレーボール部の男子生徒とその母親が、顧問の男性教諭(39)からボールで顔面を殴られた際の脳内出血が原因だとして、高砂市を相手取り2億4000万円の損害賠償を求める訴えを起こす。顧問教諭は普段から部員がミスをすると、ボールで顔や側頭部を殴る「顔面ボール」と呼ばれる体罰をしている。



セクシュアリティやジェンダーに関わるプログラムを組むことは、単に被害防止のマニュアルを作ることではない。学校内での性暴力を防止するためには、セクシュアル・ハラスメントを「女性の被害性・男性の加害性」の問題としてのみ見るのではなく、学校が抱える様々な暴力や差別の発生のメカニズムを認識し、行動をコントロールできる学習活動を生徒・教師ともに行うことが不可欠である。

男性優位社会でながらえてきた売買春を初めとする「性の商品化」と、「学校生き残り」のための「生徒の商品化」は、当事者の人格をどう尊重し守り育てるのかという点で大きな共通点を持つ。性の問題を教育課題として誠実に位置づける事は、学校の抱える保守性を排し、同性間・異性間を問わず、個々の教員や生徒の権利や自由が対等平等に保障された学校を社会創造することにつながり、従来の進路指導や生活指導についてもメスをも入れることになる。

そこで最も求められるのは、学校内でのあらゆる不当な扱い・不合理な問題・生徒や教職員の不利益や、人権侵害・軽視に関わる問題に対して、男女を問わずはっきり「NO」と言える教職員自身の自立であろう。



第V部では、こうした教職員のありようも含めて、教育分野ごとの課題の検討を進めたい。


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以上