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考えるヒントのお蔵  人と自然の棚  第8番
ヤギとジュゴンとヒトとの交わり

2002年7月29日、沖縄の米軍普天間飛行場の移設先として名護市辺野古沖のリーフ上が決定されました。辺野古地区沖合の一帯には、絶滅危ぐ種であり、かつ国の天然記念物ジュゴンが生息しています。沖縄本島はジュゴンの生息の北限とされ、2002年2月には国連環境計画が報告書の中で日本政府に保護区の設定を求められていたところです。

沖縄タイムス2002年7月29日夕刊6面でジュゴンネットワーク沖縄顧問の香村真徳・琉大名誉教授(海藻学)は「辺野古の海域は、沖縄島の中でも見事なサンゴとジュゴンの藻場がある。ジュゴン、漁業面にとって非常に大事な場所だ。建設するとしても、海域をしっかりと調査し、具体的な調査結果を示すべきだと思う」と指摘していらっしゃいます。

実は、勤務校の沖縄修学旅行では、この香村真徳先生に沖縄の動植物のガイドをお願いしてきました。昨年度は例のテロ≠フ影響で修学旅行の行き先が急遽長崎に変更され、大変な失礼やらご迷惑をおかけしました。

しかし、2002年の12月には、今年度の高校2年生で「自然と親しむコース」を選択した生徒たちのお世話をしてくださることになっています。

その下準備にとジュゴン≠ノ関する本をあれこれ買い込んで読んでいる最中に、上記の日本政府と沖縄県の愚行・暴挙でした。

ただ、今回ここで取り上げるのは、そうした自然保護の問題というよりも、ジュゴンやヤギさんたちとヒトとの微妙なかかわり≠ノついてです。



■ ジュゴンはみんな女?

鳥羽水族館企画室長の中村元さんの著書『人魚の微熱 ジュゴンをめぐる愛とロマン』には「何故、人魚には女性しかいないのか?」という一章があります。
そこにはジュゴンの身体的特徴の解説とともに人魚伝説の仮説が述べられています。

人魚のモデルとしてジュゴンやマナティが挙げられるのは、人間の女性のように子どもを抱っこして授乳させる姿によるという説もありますが、実際そうした授乳行動が科学的に確認されたことはないとのことです。

ただ、ジュゴンのオスには、メスと同様に脇の下に小指ほどの乳首があり、下腹部には外性器のワレメがある(オスのペニスはイルカやクジラと同様、通常は下腹部のスリットの奥に格納されている)そうです。つまり、素人目≠ノはすべてのジュゴンはメスにしか見えないのだそうです。

洋の東西で描かれた人魚が女性ばかりであるわけは、こうしたジュゴンの身体的特徴によると同時に、もう一つ、ジュゴンと人間との特別なかかわりがあったからではないかと中村さんは推論しています。それは。古来、海洋民族の男性が何ヶ月にも及ぶ長い航海の最中、ウミガメやイルカやエイなどを女性の代用として交わってきた=獣姦したという話です。

何だか子どもたちのファンタジックな夢≠ェ大人のおもちゃ≠ノすりかわってしまったようでショックを受ける方もいらっしゃるでしょうが、そう考えたほうが合理的なのかもしれません。

そうした話は『みちのく実話 続 よばい物語』に収められた「タコの足(泊)」と「ダッチイルカとエイ」にもあります。

タコの足は遠洋漁業に出た漁師の妻が男性器の代用≠ニして使ったそうで、その一方、何ヶ月もの漁に出た船乗りたちはエイやイルカを相手にしたという話が紹介されています。つまり、洋の東西を問わず、同様のことは広く行われていたということでしょう。


■ ヤギとジュゴンは同類項?

では、陸の上ではどうだったか?

実は、山羊や羊のメスの性器は人間の女性器とデザインが極めてよく似ているそうで、何十日もの間、人里離れて放牧をする羊飼いや山羊飼いが、そのメスを女性器の代用≠ノしてきたことが知られています。

この海と陸の両方重なった話が『沖繩の艶笑譚  語やびらいきが(男)といなぐ(女)の話』の中の「エイと山びこ」です。簡単にあらすじを紹介すると次のようなものです。
  昔々、南のある小さな島に漁師の夫婦がいました。男はいつものようにサバニ(くり舟)で漁をしていると大きなエイがかかりました。船底でバタバタもがいているエイのお腹の白さといい、アソコの形といい、男の妻のものとそっくりなので、男は溜らずエイとことに及び、済んだ後エイを海に逃がしてやりました。

  ところが、なんとその直後、自分が口にした言葉をそっくり男の
タニ(男性器)が真似をして言い返すようになってしまいました。

  家に帰ってエイと交わったことを妻に打ち明けると、妻はたまらなくなって夫に抱きつき、ことをいたしますと、なんと今度は妻の
ホー(女性器)がオウム返しに話し始めました。

  翌日その妻が、行商の鋳掛け屋を誘って交わると今度は鋳掛け屋のタニがオウム返し。

  やけっぱちになった鋳掛け屋は道端の雌牛と交わると、今度はその牛のホーがモウーと鳴く。驚いた雌牛は走り回って島中の岩や木々にホーをこすりつけた。

  それからこの島では「やまびこ」がはじまったとさ。
さらに、この『沖繩の艶笑譚』には「山羊ホー」という話が収められており、国頭のある村で、娘にもてず毛遊び≠していても相手にしてもらえない若者が、雌山羊を見て欲情し、「ヤナ、  ヒージャーヤ  ヒージャーホー シ  トゥラサヤー」(この山羊め、山羊のホトとやってやるぞ)とサナジを脱いでことに及んでしまう話が出てきます。

『旧約聖書』のレビ記18章と20章には、ヤギと名指しにこそなっていませんが、男も女も「動物と交わってはならない」と記され、見つかった場合は「人も動物も死刑」と戒められています。そのことからも、獣姦の歴史の古さや根深さがわかります。

鳥羽水族館館長の中村幸昭さんの著書ジュゴンの嫁とり物語の「第6章 鳥も魚もみんな人類の大先輩  第3節人間とヤギを冒すエイズ そのウイルスの系列は同じである」には、カヴァーノ・レッダというイタリア人言語学者の著書『父 パードネ・パドローネ』(平凡社1975)に描かれたサルデーニャ島の羊飼いの話が引用され、山羊と人間との交わりの話が出てきます。

ただ、この著書には、誤解を招きかねない記述も載っています。それは「現在、このエイズに冒されている生物は、地球上に2種類あるといわれている。人間と山羊だ。(中略)人間と同じ、ないしは同じ系列のウイルスを保有しているのはヤギなのである。(中略)有力な見方のひとつに人間からの感染説がある」とし、獣姦により人間のHIVウイルスがヤギに感染したように記されていることです。

日本実験動物協会さんのWEBサイトで紹介されているAIDS(エイズ)の動物モデル/日本実験動物協会海外技術情報Af29-3では、ヤギ,ヒツジのレンチウイルス(ヤギ関節炎脳炎ウイルスcaprine arthritis encephalitis virusCAEV)について「知られているかぎりのウイルス生物学は,HIVのそれとは著しく異なる。このウイルスの構造は,サル類のSIVやヒトのHIVと40%の相同性を示す。」と報告され、レンチウイルスではあるものの単純に同種のものだとはいえないことが指摘されています。

エイズを引き起こすHIVウイルスについてはNEWS LOG i2002.02.26ヤギを盗まれた南風原・翔南小に地元男性が3頭プレゼントで述べられた次の記述「獣姦の場合は未知の病気にご注意ください。かの有名なAIDSも、ジャングルの中で無性にやりたくて仕方なくなっちゃった兵隊さんがメスザルを犯しちゃったがために伝染し始めたと聞きます」のように、様々な風説が出回っているので十分注意したいものです。


■ 人と動物とが仲良くするには?

特定の宗教的に基づく倫理観がどうであるにせよ、ほとんどの場合、獣姦は動物にとってレイプ≠るいはセクシュアル・ハラスメント≠ナしょう。また、一部のストリップ劇場で行われている獣姦ショー≠ヘ、動物を人間の独りよがりな快楽のために酷使する動物虐待の典型ともいえます。

人と動物とが本当に仲睦まじく共存・共生していく≠スめにはどうすればよいのか。

動物愛護の精神というよりも、生物の多様性を認め、社会の矛盾をクールに分析・批判できる知性と同時に、ヒトの獣性=底知れぬ情動や性のエネルギーを正面から見据える知性も養うことが大切なのではないでしょうか。

そして、一人でファンタジックに行うマスターベーションと、二人ではぐくむセックスとを区別できる性への認識を養っていくことが大切でしょう。

そう考えると、逆獣姦≠ニもいえるかの有名なバター犬≠世に送り出し、街のノラ猫ムギギ、村の牛タロ、農民タゴの伸びやかなかつ露悪的な性生活を描いた谷岡ヤスジのナンセンス漫画に、こうした問題を解く鍵が隠されているように思えてきます。残念ながら谷岡氏は1999年6月14日咽頭がんで亡くなられました(享年56歳日刊スポーツ・訃報・谷岡ヤスジさん)が、残された四コマ漫画をもう一度手にとって味わってみてはどうでしょうか。

さて、こうした人と動物との特別な関わりは、洋の東西を問わず様々に伝承されています。中でも、鶴女房をはじめとして、女性が異類≠ニ交わる伝承・伝説・神話は、民俗学の重要な研究課題になっています。それを、様々な書物から拾いだして見るのも面白いかもしれません。その入り口として宮田登氏の著書『ヒメの民俗学』をお薦めします。


■ さらには北の熊さんまで

ちょっと話題はそれますが、『沖繩の艶笑譚』にあるように琉球方言で女性器を「ホー」というそうです。面白いことに北海道南部方言地帯(胆振及び日高沙流郡)のアイヌ語ではそれを「ホ」というそうです。そして、ホパラタ(ホ=陰部・パラ=ひろげる・タ=打つ)という行為があり、それは、病魔や外敵を退散させる行為だそうです。それについて知里真志保氏の著書『和人は舟を食う』には次のように紹介されています。
  陰部を露出することによって外敵から免れようとする呪術行為にホパラタと呼ばれているものがある。男なら前をまくって着物をばたばたさせながら陽物を露出し、女ならば後ろ向きになって上身を屈め、着物をまくって陰門ができるだけ敵方によく見えるような姿勢をしながら、やはり着物をばたばたとたたくのである。
  そのときの有様をアイヌは次のように表現している。
   オッカイ・ネ・イケ
   ホイヌ・パ
・ぺ
   イ・コ・サンケ
   メノコ・ネ・イケ
   パ
クル・パ・ペ
   イ・コ・サンケ
   イ・コ・ホパラタ
男ならば
貂(テン)ほどのものを
露出し
女ならば
鴉(カラス)ほどのものを
露出して
ホパラタする
( P91 性に関するアイヌの習俗  三 性器に強大な魔力があると信ぜられていること  より)
また、アイヌの女の子が熊と出会ったときにも、熊を追い払うためにホパラタをしながらある呪文を唱えるそうですが、その呪文を知りたい方はこの図書か同じ知里真志保の著書『アイヌの話』(観光社発行)所収の 「アイヌの呪法と呪文」をご覧ください。

沖縄のジュゴンとヤギと北海道の熊さんが、思わぬところで結びついていくのですから、文化を学ぶというのは本当に面白いことですね。

(2003/08/26 一部改訂)
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