雑記(日記?)
6月13日(水)

目次に戻る  トップページに戻る  全項一括表示  ←新しい日付へ  古い日付へ→
「高校時代の恩師の作品」

『新潟県文学全集』というのがあります。
川端康成の「雪国」などの新潟県を題材にした作品や、
坂口安吾や新井満ら郷土のゆかりの作家の作品を集めたもので、
第I期・第II期それぞれ7巻ずつの全14巻+索引1冊、
第I期が小説、第II期が詩歌・紀行となっています。
第I期は高校のときに全巻セットで買って持っているのですが、
読みつけない純文学ばかりで、全然読みすすめないままでした。

さて。じつは、第I期・第II期それぞれに、
高校時代にお世話になった先生の作品が収録されているのです。
一人は小説、一人は短歌と、教職の傍ら、文学もやっているのでした。
なぜか二人とも社会科は地理の先生で。
そういえば地理の先生はみんなどこかマニアックでした……。
(「作品らしきもの」に掲載している「桜」には、歌人である先生の短歌の影響があると思います。
この先生の作品で、はじめて短歌というものに触れた思いがしたものです。
といっても、高校生だった当時は、読んでもさっぱり解らなかったのですが。^^;)

で、大学の図書館にこの『新潟県文学全集』が所蔵されているので、
このところ太宰など読んでいたその勢いで
この全集に収録されている文学作品も読んでみようと、
第I期の第7巻を借りてきたのでした。
目当ては、井伏鱒二と新井満、そして高校時代に読もうとして挫折?した、
例の恩師の作品です。

第I期に収録されている先生の作品は、なんと、文學界新人賞を獲った小説でした。
すごいじゃん。若き日の先生。(ぉぃ
「流れない川」という90枚余りの作品です。

舞台は新潟地震から13年後の新潟市です。
信濃川下流域(というか河口周辺)に位置する
この都市の抱える問題点を不気味な背景として、
主人公の記憶の中の新潟地震の光景と行動と、
他者から見たその行動の意味とのずれを芯に、
物語が紡がれてゆきます。
なんだか昔の白茶けた黒白写真の、
輪郭はくっきりとしていて鮮明のようだけれど、
でも埃に曇って白く靄のかかった風景の
その向こう側を覗き込もうとするような、
ぼやけた夢の景色をはっきり見ようと凝視するような、
そんな、ちょっとそら怖いような感触の作品です。

追憶のむこうのあやしくぼやけた光景の妙な鮮明さを際だたせる、
さすが地理の教師というべき
土地と都市にかかわる精密な徹底的にリアルな描写が、
欠かせない要素として作品世界をあやしく描き出しているのが
とても印象的でした。

作品の完成度の点では、この作品はまだちょっと至らないかな、なんて思ったりもしましたが、
興味深い、いい作品です。

ところで、私としては、「あの先生が、こんな作品を、ねぇ」という意外性のほうに
どうしても興味が向いてしまいます。^^;
普段の先生の様子からは、小説を書くなんてことはとても窺い知れないのでした。

この先生の授業を受ければ、多くの生徒が地理を面白く感じて深い興味を持ち、
意欲的に学ぶようになってしまうという、
非常に濃い、マニアックな授業を繰り広げる先生でした。
こんなところに書いても見てるわけはないんですが、
お元気でしょうか。小説家のI先生。
そして、「地理の最終目標(悟り)は、自然との対話だ」とおっしゃった
歌人でありお寺の住職でもあるT先生。

いやぁ。いい先生に恵まれたものです。
作品をつうじて、卒業後数年を経た今でも
こうして勝手に先生の課外授業を受けられちゃうんですから。


目次に戻る  トップページに戻る  全項一括表示  ←新しい日付へ  古い日付へ→