> ギンからの私信
ウェスト博士へ
先日、君の日記とおぼしきノートが俺の荷物袋に入っていたらしい。
君のモノだと解らず中身を読んだのは、申し訳ないと思っている。
だが、君の書いたこの日記には、俺にとっても興味深い記述がいくつもあった。
……これが全て、君の考えた想像上のストーリーだというのなら俺も見なかった事にするだろう。
しかし、単純に想像上の物語と割り切ってしまうには、少々気にかかる記述が多い。
そう、例えば「ヤルツール病」の記述……。
そして「観測者」という存在の記述……。
君自身の身体についての記述もそうだ。
……君の身体は、君も解っている通り…… 「普通の」 人間だったら死んでてもおかしくない。
脈はふれない程に弱く、寝ている時など呼吸が止まっている事すらあるのだ。
だが、君は生きている。
少なくともタルシスのあの厳しい迷宮に、ルーンを結び戦える程の身体能力を有しているのだ。
常識では考えられない事だが、君が 「人外の」 存在というのなら……。
人は馬鹿馬鹿しい妄想だと切り捨てるだろうが、俺はそれを信じてみようと思い、この手紙を挟んでおく。
……別に君を断罪しようとは思わない。
また、君の罪を受け入れようとも、俺は思わない。
ただ一人のメディックとして……傷や病に立ち向かう「医者」として、君と真摯に話をしてみたいと、そう思っている。
もし君がいやでなければ、その異世界すら見通す「知識」を俺に貸してほしい。
いい返答を期待しているぞ、ウェスト。
いや、「西園寺馨」博士。
ギン・シラヌイ
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