> 界樹の迷宮をリプレイ風プレイ日記としてしたためます候。






> い悪夢。



 前回のセッションから数日後。

 仮想世界のエトリアにて……。



リン : 「じゃじゃーん、今日はアップルパイを作ってきましたー」(ひょい)


アイラ : 「やったー! リンちゃんのアップルパイだー!」


シェヴァ : 「いただきまーす!」 (はむ)


カエデ : 「あ、それ! 私もお手伝いしたんですよ! あの、どうですか?」


シェヴァ : 「ふぁ、すっごく美味しいよ!」


リン : 「ホントですか。ふぁぁ……良かったです……」


ナルラト : 「あらあら……リンちゃんが甘い物をつくって来たんなら、アタシのコレなんて用済みかねぇ?」


シェヴァ : 「? ナルラトのねーさんは、何つくって来たのー?」


ナルラト : 「豚の角煮さね。何、食べっぷりの良さそうな男の子が一杯いるから、どうかなぁと思ってねぇ……」


アイラ : 「あー、私それ好きー。いいじゃないですかー、出してみんなで食べましょー!」



GM : 「いいねぇ、うん、実にいい……」(ニコニコ)


フィガロ : 「何、女性陣の方を見てニヤニヤと頬をゆるめてるんさね?」


ガモン : 「……セクシャル・ハラスメントという奴ですか?」


GM : 「ちょ、お前セクハラって! ただ見ていただけでセクハラって何だよ、俺の視線はそんなにエロスフェロモン出ていたのかっ! 俺の視線はそんなセクシービームだったのかよ、おいッ!」


フィガロ : 「そうは言ってないと思うけど?」


ガモン : 「はい。ただ視線がエロいと思っただけです」



GM : 「丁寧口調で何断線非道い! 何この子、俺から女性をエロい目で見る権利さえ奪おうというの、えっ!?」


フィガロ : 「まぁまぁ……」


リン : 「はい、ガモンさんとフィガロさんも。アップルパイです、どーぞ」


フィガロ : 「ん? ありがとう、悪いねぇ」


ガモン : 「頂きます」


リン : 「いっぱいつくってきましたからね!」


カエデ : 「ねー! ……ホントは、シグさんに食べさせるんだーって張り切って作ってきたのに。残念だったね、姉上」


リン : 「……そそ、そんな事ないって! 別に……」(オロオロ)


GM : 「んぁ? そういえば、今日はシグとシュンスケ君は休みか……」


シェヴァ : 「そう! シュンスケ、今日はどうしても抜けられない日だから、って!」


GM : 「そうか……いや、そう……だろうな


ガモン : 「シュンスケはともかく、シグ様は一体どうされたのですか?」


アイラ : 「風邪ひいたってー。あはは、私の軟弱な風邪なんてうつらないぞ! とか言ってた癖に、ばっちりうつったみたいだよー」(笑)


ヒルダ : 「……そうか、大丈夫か坊ちゃんは?」


アイラ : 「『治ったらスキヤキと焼き肉を思う存分食う。てか両方喰う』 ってうわごとのように言ってるから、大丈夫じゃない?」


GM : 「生命力強そうだな、シグ君は」(笑)


アイラ : 「うん。私も、シグにうつせば早く治る! と思って一生懸命うつしたからね!」


ヒルダ : 「何だ、と!?」


シェヴァ : 「地味ながら結構非道い事言うよね、アイラちゃんってさ!」


GM : 「と……今日はさばみそギルドはリーダー・参謀抜きって訳か……そんなメンバーで大丈夫か?



シェヴァ : 「大丈夫だ、問題ないっ!」



アイラ : 「出た、シェヴァさんの脊髄反射返答!」


ナルラト : 「根拠は全くないが、とにかく凄い自信さね!」


ヒルダ : 「うむ……流石に不安はあるが。皆がいるからまぁ、何とかなるだろう」


ナルラト : 「そうさね。構えないのが一番さ! 気楽に行こうよ、気楽に、ねぇ?」


リン : 「はい、頑張ります!」


カエデ : 「私も! 私も頑張ります!」


GM : (ニコニコ) 「麗しい……本当に女性ばかりのさばみそ、女性率の高いさばみそ麗しいそして潤しい……」


ガモン : 「またセクハラ視線になってますよ」


フィガロ : 「まぁ、気にするなって。一生涯モテた事のない男の、悲しいサガって奴さね……」



GM : 「ウルサイよもぅ……あぁ、あの生え際バード緑レンジャーもう帰ってくんねぇかなぁ……」



ガモン : 「……あんな事言ってますが?」


シェヴァ : 「ってか、俺はいいの? おれ、男だけど……」


GM : 「あぁ、お前はついてないのと一緒だから……」


シェヴァ : 「がびーん!」


ヒルダ : 「おいそこでショックを受けている場合じゃないぞシェヴァ……とりあえず、GM前回までのおさらいをしておきたいのだがいいだろうか」


GM : 「前回?」


シェヴァ : 「アイラちゃんとか、カエデちゃんとかみたいに、前回居なかった人もいるからね!」


カエデ : 「ご教示頂けると助かります、ヨロシクお願いしまーす!」 (ペコ)


GM : 「そうだね、前回は元々ワイバーンの居た場所に突如として現れた赤竜を退治した……のが、主な活躍かな?」


シェヴァ : 「えへん、おれ頑張った、偉い? 偉い?」 (キョロキョロ)


GM : 「……何キョロキョロしてんだよ、シェヴァ君?」


シェヴァ : 「あ……頑張ったからシュンスケに誉めてもらおうと思ったけど、今日はお休みだったんだーと思って……」(しょんぼり)


フィガロ : 「……ションボリしてるよ。ほら、ガモン、慰めてやればいいじゃないさね?」


ガモン : (なでなで)


シェヴァ : (うりうりうりうり)



アイラ : 「あれ、ガモンさんとシェヴァさん、ちょっと仲良くなってる?」


GM : 「うん? あぁ、前回の赤竜討伐でコンビを組んだから……かな?」


フィガロ : 「まぁ、元々仲が悪い訳じゃなかったからねぇ……当人同士はどう思ってるか知らないけど


アイラ : 「OK理解! つまり、ガモンさん×シェヴァさんのフラグが立ったって事ね!」


GM : 「なん……!?」


フィガロ : 「だ、と!?」



リン : 「違いますよアイラさーん、 シュンスケさん×シェヴァさん←ガモンさん ですよー!」


アイラ : 「そっかー! 失敗失敗。てへ!」



ナルラト : 「しかも訂正、入ってるさね!」


GM : 「えっと……? 何か聞いた事のない複雑な計算式出ちゃったけど……、あれどういう方程式だい。フィガロ君?」


フィガロ : 「GM、そこはスルーしておく所さね」



GM : 「と……まぁ、そこで今君たちに残されているのは第6階層の探索と……後は、男の腕を氷り付けにしたという竜の探索。あと、第5階層でアンクの探索も残っているねぇ」



シェヴァ : 「だって、みんな。どうする?」


ヒルダ : 「……男の腕を氷り付けにした竜の所在はまだ、解ってないな?」


シェヴァ : 「うん……腕が見つかった階層は第三階層最深部……15階だから、多分その階層に居るんだと思うけど……」(地図をのぞき込みつつ)


ガモン : 「けど、何だ?」


シェヴァ : 「いや、地下15階にはどう見ても隠し通路って無いからさぁ……多分、地下16階に上に向かう隠し通路があるか。地下14階にあるか、どっちかだと思うんだけど。どっちだろうなーって思ってさ」


ヒルダ : 「シェヴァでもわからないのか?」


シェヴァ : 「うーん。地下14階は蓮の花ゾーンだろ。もう全部見ているから、コッチじゃないと思うんだけど……」


ヒルダ : 「だったら、地下16階だな。よし、私はそちらを調べて、竜が居るか否かを確認しよう」


カエデ : 「私も! 私もお供します、ヒルダ様!」


GM : 「OK、ひとまず探索面子を選んでー」



 ※皆、額を付き合わせて面子相談中……。



シェヴァ : 「はい、先生! 出来ました!」



 【前衛】 ヒルダ ・ カエデ ・ アイラ


 【後衛】 リン ・ ナルラト



シェヴァ : 「今回の探索は、これでいきたいと思います!」(ビシッ)


GM : 「……おっ、おっ、お。これはまさかの!」


ヒルダ : 「そうだな、全員女性プレイヤーのメンバーになった、な……」



シェヴァ : 「GMが、そっちのほうが嬉しいと思って!」



GM : 「そうかそうか偉いぞシェヴァくーん、ほーらよしよしよしよしよし!」(なでなでなでなでなでなで)


シェヴァ : 「わふわふわふわふわふわふ!」


ガモン  : 「……実際、前回いなかったアイラ様やカエデ様、ナルラト様のレベル上げも兼ねての探索メンバーですよ」


GM : 「そうかそうか……でかした! いやー、今までこのギルドには何か足りないと思っていたが、足りないのはそう、コレ。コレなのだよっ!」


リン : 「な、何だかGMさんの目がいつもに増してぎらぎらしてますけど……」


カエデ : 「ふ、不潔です!」


GM : 「うるさい。とと、とにかく竜探しの地下探索に来てくれるかなー!」



一同 : 「いいともー!」




枯れてた森の先には >



 かくして地下16階に到達する訳でして……。



ヒルダ : 「ふむ……久しぶりだな、この階層に来るのは」


リン : 「相変わらず、荒涼とした場所ですね……」


アイラ : 「私、実はここを真面目に探索するの初めてなんだよねー! ここまで私、ずっと居なかったから……」


カエデ : 「……そうなのですか? だったら、私と一緒ですね! 私も、マンティなんとか様を成敗する時にしかきておりませんから……」



ナルラト : 「……しかしまァ、この広さを探索するとなるとちょっと骨が折れそうだねェ。ヒルダちゃん、何かおおよその目星とか、ついてないのかい?」


ヒルダ : 「一応、シェヴァの言い分からすると……このMAPの形状からして、東側はもうすでにマンティコアの隠し通路が開いているから、あるとしたら西側ではないか、との事だ」


ナルラト : 「西側というと……この迷宮、砂の流れに行き着いた奥から探索すればいいかねぇ? よし、ちょいといってみようか」


ヒルダ : 「そうだな……」(びくびく)


アイラ : 「えへ、流砂で流されるの、私ちょっと楽しみー、だけど。ヒルダおねーさま? 顔色青いけど、大丈夫?」



ヒルダ : 「だ、だ、大丈夫だ! その、別に……流れる砂が案外早くて怖いとか。そういうのではないからな!」



アイラ : 「そうかなるほど! じゃ、怖くないなら遠慮なく私とほらほら、流砂へれっつごー!」 (ぐいぐい)


ヒルダ : 「えっ!? あ、ちょっとまっ……まだ心の準備が出来てないのだアイラ君! アイラくーん!」 (じたじた)


ナルラト : 「……ヒルダちゃん、もー少し素直になった方が、楽に生きられると思うけどねェ」


カエデ : 「同感です! 怖い時は怖いといった方がいいですよ?」


ヒルダ : (ふぇぇ……)



 とまぁ、それはさておき無事に迷宮奥底に到着した訳でありまして。



ヒルダ : (ぴるぴるぴるぴる) 「な、な、なかなかスリリングな体験だったな……」


リン : 「大丈夫ですかヒルダさん」(なでなで)


ヒルダ : 「う。あ、あぁ……」(めそり)


アイラ : 「あー、面白かった! もう一回行こうか!」


ヒルダ : 「や、やめてくれもう一回など! あ、いや、その……別に怖い訳ではないが! と、とにかく今はもう一回の流砂より探索が先だからな!」


ナルラト : 「そうさねぇ……シェヴァ君の言葉と地図だと、この壁あたりがあやしぃみたいだけど……」(ごそごそ)


カエデ : 「あ! 隠し通路発見ですわ!」


アイラ : 「ビンゴぉ! 流石、シェヴァさんの見立てはいつも的確だよね! じゃ、どんどん進んでみよー!」


リン : 「気を付けてくださいね。マンティコアさんの道は、第4階層なのに、第5階層の敵が出てましたから……ここも、第6階層の敵が出るかもしれません」


ナルラト : 「そうさね……もしそうなると、アタシたちじゃ属性攻撃が出来ないから。シュンスケのボウヤか、フィガロを連れてこないといけないネェ」



GM : 「心・配・ご・無・用! と、ここの敵はどうやら、普通に第4階層の敵が出るみたいだよ。出てきたのは火炎ネズミとカマキリっていういつもの第4階層チームだ」



リン : 「本当ですか? それなら、パーティ編成しなおさなくて良さそうですね」


アイラ : 「なーんだ。安心した。けど、私にはちょっと物足りないかなぁ?」


GM : 「俺としてはこのハーレムパーティが解散しない事が嬉しいけどね! さぁ戦闘だ。ねずみチョロチョロ。デスマンティスちょろちょろ!」



アイラ : 「チョロチョロさせるかー、せりゃぁぁぁ! 喰らえ炎の上腕筋!」(ずんばら!)



GM : 「上腕筋!? って、炎攻撃!?」


アイラ : 「前回、シェヴァさん達が赤竜退治をしてくれたおかげで、炎属性の斧が手に入ったの! 早速使っているの、お気に入りなの!」


GM : 「うえええ……元々打撃力のあるキミがさらに属性攻撃とか、死角ないなぁ……ダメだ。耐久力自慢のデスマンティスさんもその斧技の前では一溜まりもないや」


アイラ : 「やったぁー! ぶい! ぶい!」


ヒルダ : 「よし、アイラ君に続くぞ。我々も敵をうち倒すのだ……火炎ネズミに攻撃、どうだ!」(ガッ)


GM : 「ん、HIT! 手応えはあるよ……」


ヒルダ : 「良し!」


GM : 「……でも、倒し切れてないね。まだ元気に動いてるちょろちょろちょろー!」



ヒルダ : 「ふぇっ!? ちょっ、ひゃぁぁぁぁ! 来るな来るな! くーるーなー!」(じたじた)



カエデ : 「……ヒルダ様、可愛いです! 可愛いです!」 (ニコニコ)


ヒルダ : 「わ、笑ってないで手伝ってくれー! カエデくーん!」(泣)



 ……そんなペースで、地下16階の探索を始めたさばみそギルドご一行。



ヒルダ : 「どうだ! これだけダメージを与えればッ……」


GM  : 「残念! まだネズミは生きていた……ちょろちょろ走ってきて、ヒルダにぺたーん!」



ヒルダ : 「きゃー! ひゃぁー! ちょ、誰かー! とって! とーっーてー!」(じたじた)



 ……時に、ヒルダ嬢が悲鳴をあげ。



カエデ : 「見てくださいヒルダ様! あんな所にF.O.Eが居ますわ!」


ヒルダ : 「み、見てないで逃げるんだカエデ君! あれはうごめく毒樹、毒攻撃で結構やられるぞ!」


カエデ : 「わかりました、すぐに逃げます…………って、ヒルダ様! 追いかけてきました。うごめく毒樹が、追いかけてきましたわ!」


ヒルダ : 「ふぇぇ! きゃー! きゃー! 逃げるのだ、きゃー!」



 ……また、ある時もヒルダ嬢が悲鳴をあげ。



アイラ : 「ふぇー、何とかF.O.Eから逃げきれたねー」


リン : 「はい! ですが、油断は禁物ですよ。まだ追いかけてくるかもしれませんから」


ヒルダ : 「ぜー、はー。ぜー、はー」(ドキドキ)


ナルラト : 「……大丈夫かねェ、ヒルダちゃん? 随分、息切れしているみたいだけど」


ヒルダ : 「ナルラトさん……あ、いや。大丈夫だ。緊張のしっぱなしで少々、な……」


アイラ : 「そんな、緊張なんてしなくても! テキトーにいきましょ、ヒルダおねーさま。ね、適当にね!」


ヒルダ : 「そうだな……私は少し、気負いすぎかもしれん……よし、敵の姿も見えなくなった事だし。少し気楽に探索を勧めるとしようか!」


カエデ : 「了解です! さぁ、早速進みますよ!」


ヒルダ : 「うむ!」


GM : 「と、キミたちが決意も新たに一歩進むと、出会い頭にF.O.Eが…………」



ヒルダ : 「嘘だー! きゃー! うわー! いやぁぁぁー!」(じたじた)


ナルラト : 「落ち着くさねヒルダちゃん!」」



 ……また、ヒルダが悲鳴をあげながらも、確実に奥地へ切り進んでいった。

 そして……。




カエデ : 「……見て下さい、階段があります。ヒルダ様! 上の階層があるようですよ!」


ヒルダ : 「はぁ……はぁ……そうか、はぁ……」



 周囲の森だけでなくヒルダの声まで枯れそうになる頃、ようやくあらたな階の道が開けたのだ……。



GM : 「という訳で、第15階へ到着ー」


アイラ : 「えへへー、いちばーん!」(ビシッ)


カエデ : 「にばーん! 二番でーす!」(バシッ)


ヒルダ : 「確かこの階は、元々コロトラングルのボス戦があった階だと記憶しているが……」


ナルラト : 「地図を見る限りだと、随分と埋まりそうなスペースがあるねェ……どうやら、氷竜様は大分恥ずかしがり屋のようさね」


ヒルダ : 「そうだな、幸い……」



リン : 「敵が出ました! ヒュージーモアモアです!」


カエデ : 「姉上! モアが一つ多いです。ヒューモアです!」


GM : 「今度は一文字足りない気がするが!」


ヒルダ : 「…………敵はここも先ほどの階層と同じく、思わぬ強敵が出る事もなさそうだ。無理せず、確実に探索を続けていこう」


アイラ : 「アイアイサー!」


 ヒルダの言う通り、すでに第6階層の探索も勧めているさばみそギルドご一行の前では3階層の敵に苦戦する事は少なく。

 まぁまれに。



カエデ : 「しまった! す、すいませんヒルダ様! ヒュージーモアを一匹、撃ちもらしました!」


ヒルダ : 「きゃー! きゃー! きゃー!」(じたじた)


ナルラト : 「落ち着くさね……ほら、眠れ!」 (ちりーんちりーん)



 と、撃ちもらした敵にヒルダがじたばたする事があるものの大きな苦戦はする事もなく。

 一歩、一歩確実に奥へと進んでいくのであった。


 …………そして。




ナルラト : 「……随分と、奥まで来たけどまだ果ては見えないのかねェ?」


カエデ : 「えーっと。地図からすると、流石にそろそろ奥も奥、最奥に行きそうですけど……?」


アイラ : 「それにしてもビックリしたねー、この最奥にきて、いきなり出たF.O.Eが……まさか第6階層に出るF.O.Eだったなんてー!」


ナルラト : 「それほど、この奥底には何かを集める輩がいるのかもしれないねェ……」


ヒルダ : 「…………」


ナルラト : 「って、急に立ち止まったりして。どうしたんだい、ヒルダちゃん?」


ヒルダ : 「…………何か、居る」



 ヒルダはそう言いながら、闇の先を指し示す。

 そこには迷宮の奥底に静かに鎮座する、青き竜の姿があった………………。




> いにしえのき竜



 そんなこんなで、ようやく青竜の姿を拝めたので一度戻ったヒルダ率いるさばみそ面子。



フィガロ : 「まぁ、敵が何であれとりあえず当たって情報収集しないとはじまらないさね」



 そんなフィガロの意見を受け、数度。



GM : 「先制攻撃! 出会い頭のアイスブレス! ごぱー!」


シェヴァ : 「ぎゃぁぁぁぁ!」

ヒルダ : 「いきなりとかずるい! ずるいぞ!」


 当たっては砕け。



GM : 「竜のアイスシールド! かっちんこっちん!」

ガモン : 「っ……サジタリウスの矢よ、貫け!」


GM : 「ふはは無駄無駄! そしてすかさず氷槍で貫けッ!」(ばしばし)


ガモン : 「!?」

シェヴァ : 「ガモン兄ちゃん! ガモンにいちゃーん!」



 ……当たっては砕けを繰り返した後。

 ようやく、対処法が導かれるのであった!




フィガロ : 「さ、どうかねぇナルラト姐さん?」


ナルラト : 「そうさね、ひとまず、解った事は……」



 ・度々、強烈なアイスブレスを打ち込んで来る。(出会い頭に打ち込まれた事があり、特定のターンで打ち込んで来る)

 ・アイスシールド発動後、全ての物理攻撃に耐性が出来る。

 ・氷河の再生でリジェネはHPを1700近く回復させる。

 ・貫く氷槍は単体に特大ダメージ




ナルラト : 「この位かねェ……」


フィガロ : 「そうさねぇ。シェヴァが度々殴られてきた結果、そうだとわかったよ」


シェヴァ : 「イタイよー。イタイよー」(めそめそ)


ガモン : (ナデナデ)


ナルラト : 「流石に、縛りがきく相手ではないから、アタシは出る幕無しかねェ……反面、完全防御状態になるアイスシールドと、リジェネ効果のある氷河の再生をうち消すには、フィガロ坊の奇想曲が必須だから、フィガロのボウヤは出ないといけないかねぇ?」


フィガロ : 「そうさね。仕方ないねェ、お仕事しましょうか」


ナルラト : 「どのタイミングで打つか読みにくいアイスブレス対策に、ヒルダちゃんの手も借りたい所だねェ」


ヒルダ : 「そうだな。ブレス対策は毎ターン、私のガードが効果的だろう。他に何も出来ぬ為、戦力にはならないだろうが……」


リン : 「回復、防御にボクのエリアキュア2と医術防御も必要ですよね! 頑張ります!」(ビシッ)


ナルラト : 「そうさね。ヒルダちゃん(パラディン)、フィガロのボウヤ(バード)、リンちゃん(メディック)は必須として、あと二人はどうしようか?」


フィガロ : 「俺やリンちゃんじゃ、アタッカーとしては弱いから出来れば前衛orアタッカーが欲しいんだけどねぇ」


アイラ : 「誰も居ない? だったらはいはいはーい! 立候補しちゃおうかなー!」


ナルラト : 「アイラちゃん?」


アイラ : 「前回は病欠しちゃったし! 今回は思う存分、斧奮いたいんだよー! 新しい装備で炎属性の奴もゲットしたし、青竜って氷竜でしょ! 私、戦力になると思うんだよねー!」


シェヴァ : 「アイラちゃんなら、俺より攻撃力もあるしね」


ナルラト : 「アタッカーとしても、ソードマンほど頼りになる子はいないからねェ……よし、それじゃあとは……」


フィガロ : 「無難に考えるなら、やっぱりガモンかねェ……アザステがあれば建て直しもきくし、サジタリウスの矢も強いから」


ガモン : 「私ですか? ……はい、命令であればお供致しましょう」


GM : 「じゃぁ、その面子でいく? 前衛にアイラちゃん。後衛にガモンさん……バランスは悪くなさそうだけど」


カエデ : 「あ、あの……アイラ様?」(くいくい)


アイラ : 「えっ? ど、どうしたのカエデちゃん?」


カエデ : 「あの! 差し支えがなければ私も、氷竜退治に向かいたいのですが……」


アイラ : 「えっ? えっ? いいけど……どうしたのカエデちゃん?」


リン : 「そうよカエデ! 危ないから、お留守番してなさい……ね?」


カエデ : 「あ、姉上はいつもそうやって言うのですが、私だって立派な武士です! そ、それに……折角見つけたボスの所です。最後までやり遂げたい気持ちもあります!」


GM : (カエデちゃんは、最後まで見届けたがるタイプ、と……)


リン : 「でも……」


フィガロ : 「リンちゃん、俺は別にかまわないよ? ガモンより、カエデちゃんの方が火力が高いのは事実だし」


GM : 「女の子は多いに越したことはないしな!」(ビシッ)


リン : 「皆さんがそう言うのであれば、ボクも止めませんけど……カエデ、無茶したらダメよ?」


カエデ : 「はい、姉上!」


フィガロ : 「ま、ま……無茶しそうだったら、俺がフォローしてやるさね。ねぇ?」(すっ)



カエデ : 「!? ……きゃー! は、は、ハレンチですー! お覚悟ー!」(ずんばらっ!)



フィガロ : 「ぎゃぁぁ!」


シェヴァ : 「相変わらず、男には慣れてないんだねー。カエデちゃん」


GM : 「フィガロもフィガロで、ブッた切られるってわかっていてやるから仕方ないよな!」



 ともあれ VS氷竜戦は。


 前衛 : ヒルダ ・ カエデ ・ アイラ

 後衛 : リン ・ フィガロ


 でチャレンジする事になりまして……。




GM : 「そしてぇ、やってきたのは氷竜の元っ! キミたちは美しい蒼い洞窟の奥底に、静かに鎮座する竜と対峙した……さぁ、氷嵐の支配者の登場だ!」


フィガロ : 「よし、と……竜も二匹目になると恐怖も薄らぐねェ。俺は、ひとまず安らぎの子守唄を〜」(ボロンボロン♪)


ヒルダ : 「私は、フリーズガードをしよう……相手がどのタイミングでアイスブレスを吐くかはわからん。私は戦闘に参加出来ないと思ってくれ」


カエデ : 「わ、私は上段の構えを!」


リン : 「医術防御を!」


アイラ : 「私は、このターンはスキル攻撃にしようかな! ヘッドバッシュで。通常攻撃とスキル攻撃、どっちが強いか比べてみたいし!」


GM : 「うーん、1ターン目の行動はどうも似たりよったりになるなぁ……氷竜は初っぱなから行くぞぐぃんぐぃん、アイスブレスだ! ごぱー!」


ヒルダ : 「!! 来たか、だが無駄だッ!」


GM : 「うん、そうだなぁ……ヒルダが居る限り、氷属性は通らないか」 (まぁ、氷竜は1ターン目は必ずアイスブレスのキャラだから仕方ないんだけど)


アイラ : 「攻撃したのは私だけ? ダメージは、うーん……600ちょい。まぁまぁかなぁ? それでも、竜の体力からすると気が遠くなっちゃうけどー」(しょんぼり)


GM : 「まぁまぁ、気を取り直していこうか。次のターンは?」


フィガロ : 「効果が重なっちゃうけど……猛き〜をつかっておこうかねぇ?」


ヒルダ : 「……私は、ガードしかできないな」


カエデ : 「私は、このターンからツバメ返し! いかせて頂きます!」


GM : 「よっしゃ了解……と、コッチは容赦なくいくよ! アイスガード! このスキルは一気に物理耐性を高め、殆どの攻撃スキルを無効化する!


フィガロ : 「しまった! もうそれが来たのかねぇ……こっちはまだ奇想曲の準備はしてないよ!?」


アイラ : 「確かそれ、サジタリウスの矢も無効なんだよね……だったら、属性のってても私の攻撃も通らないかなぁ?」


GM : 「うん、残念ながら通らないねぇ。二桁いかないダメージだ。勿論、カエデちゃんのツバメ返しも通らないよ」


カエデ : 「しょんぼりです……」


フィガロ : 「でも、安心しなって。次のターンには奇想曲を飛ばすからね。少なくてもコレで、アイスガードは無効さね!」


アイラ : 「それなら、安心してスキルがたたき込めるよね!」


GM : 「とはいえ、コッチは連続して氷河の再生だ! ……これで体力、このターンで1700リジェネ!


カエデ : 「せ、千七百ですか! こ、これまで削ったぶん、殆ど回復じゃないですか!」


フィガロ : 「……まぁ、それも奇想曲で無効に出来るけどね」


ヒルダ : 「攻撃が来ないので、こちらにダメージが少ないのは有り難い所だが」


カエデ : 「全然、体力が減らないのは困ります〜」(めそり)


アイラ : 「仕方ない、仕方ない! こっちが倒れてなかったら攻撃は出来るもん、それで良しとして、コツコツ削っていこう!」



 そんなこんなで、戦闘に戻るさばみそギルドご一行。

 氷竜は アイスブレス → アイスシールド → 氷河の再生 を繰り返す攻撃パターンが多く、アイスブレスは完全ガード。

 防御系のスキルであるアイスシールド&氷河の再生はダメージが入らない為に、大きな体力の変動はない。


 反面、アイスシールド&氷河の再生のため、さばみそギルドも攻撃は通りにくく。

 また、折角攻撃が通っても氷河の再生でダメージが回復してしまい、結果殆ど体力が減ってないという一進一退の攻防が続いていた……。




ヒルダ : (うーむ、突破口が見えにくいな……幸い、アイラ君はスキル攻撃も通常攻撃も殆どダメージがかわらないから、通常攻撃を奮っているのでスキル消費が気にならないから長期戦にも耐えられるだろうが……)


アイラ : 「まだやれるよー!」(ぶんぶん)


ヒルダ : (ツバメ返しで消耗が激しいカエデ君の方は、あまり長期戦をしてもいられないか……)


カエデ : 「はぁ……はぁ」


リン : 「……TP回復する、カエデちゃん?」


カエデ : 「姉上! いえ、まだ大丈夫ですから……」


フィガロ : 「このターンでブーストしたから、安らぎの子守唄をかけなおすよ。そうすれば、カエデ君の消費も少し治まるんじゃないかねぇ?」


カエデ : 「ありがとうございます、フィガロ様! ……でも、その! あまり近づかないでくださいませ!」(ぴるぴる)


フィガロ : 「……本当、つれないねェ」


GM : 「カエデちゃんはイケメンの方が案外苦手なのかねぇ。イケメンざまぁ!」(ぷぎゃぁ)


アイラ : 「嬉しそう! GMさん心底嬉しそうだ!」


ヒルダ : 「……しかし。そうだな、フィガロ。ブーストをして安らぎの子守唄をかけなおしたのなら一つ、頼まれてはくれないか?」


フィガロ : 「ん……何だい、ヒルダ嬢? いや、ヒルダの頼みなら何だって引き受けちゃうけどねぇ?」


ヒルダ : 「それは頼もしい事だ……一つそうだ。次のターンからフィガロ、お前はずっと奇想曲の演奏に専念してくれないか?」


フィガロ : 「ん……別にいいけど、それだと俺とヒルダ、二人が戦闘に参加出来ない事になるよ? リンちゃんも戦闘出来る子じゃないから、実質アイラちゃんとカエデちゃん、アタッカーは二人だけになるけど……」


ヒルダ : 「そうだな、炎属性をのせたお前の攻撃も戦力の一つだが……それより、絶大な火力をもつ二人の攻撃が無効になる方が大きいと踏んだ。頼めないか?」


フィガロ : 「そうさねぇ……演奏なんてつまらない事、俺の性分じゃないんだけど……」


GM : 「えー、お前吟遊詩人だろ! 吟遊詩人!」


フィガロ : 「他ならぬ、ヒルダ嬢の頼みだからねぇ……仕方ない、引き受けたよ」


GM : (うーん……気付いたか。そう、常にバードが奇想曲でシールド&リジェネ効果をうち消す。それが手早く氷竜を倒す、対策なんだよねぇ)



 かくして、フィガロが常に奇想曲でシールド&リジェネ効果をうち消しにかかる事でコンスタントにダメージを積み上げる事に成功したさばみそギルドご一行。



GM : 「よし、今だ全体攻撃のアイスブレス!」


ヒルダ : 「任せろ、フリーズガードだ!」(カキン!)


GM : 「むぅ……続いては全体攻撃+即死効果つきの絶対零度だ!」


ヒルダ : 「何の、フリーズガードだ!」(コキン!)


GM : 「むむむ…………絶対零度の即死効果もきちんと防げるよう、フリーズガードのレベルをきっちり5で止めておくとは……誰に入れ知恵された!?」


ヒルダ : 「シュンスケからちゃんと聞いているぞ……即死効果は、フリーズガードをレベル6にすると発動するという事をな!」


GM : 「……やっぱりか、あの参謀め!」



 氷竜の属性攻撃はことごとくうち消され。



GM : 「いくぞ、貫く氷槍! ……どうだ!?」


フィガロ : 「……!?」


アイラ : 「あ、ちょっと、フィガロさん!?」


フィガロ : 「きいたねぇ、これ……とはいえ、まだやれるよ。大丈夫さね! 医術防御様々だねぇ」


リン : 「……ありがとうございます! すぐに、エリアキュアしますね!」



 頼みの綱である貫く氷槍もすぐにリカバリーをされ。

 さばみそギルドメンバーに、致命的な攻撃を与える事が出来ぬまま、じりじりと削られていき、そして……。



GM : 「くぅっ……いよいよ体力も赤ラインだ……が…ッ」


アイラ : 「ガンガン行くよダブルアタック! 連続で炎攻撃、きりきり言うのだー!」(ぶんぶん)


GM : 「……いや、まだいけるか?」


カエデ : 「これで終わりです! ツバメ返し……その身に受けるのです!」


GM : 「おわっ!? あぁぁ……それで終了、終了だ! カエデちゃんの一太刀を受け、竜の巨躯が傾く……キミたちは、氷嵐の支配者を退治した!」




一同 : 「やったー、ぱちぱちぱちぱち」




 こうして、およそ50ターンの死闘をさばみそギルドたちは制したのである…………。




> 宴のに。



カエデ : 「やりました! やりましたよ姉上! 見てましたか!?」


リン : 「もう……カエデちゃん! あんまり無茶したらダメだっていったでしょ! フィガロさんやヒルダさんにも迷惑かけて……」


カエデ : 「え!? あ、あの。す、すいません。姉上……わたし……」(オロッ)


フィガロ : 「まーまー、あんまり言っちゃ可哀想だよ。彼女、頑張ったと思うよ」


カエデ : 「あ。あの、フィガロ様……」


フィガロ : 「それに、リンちゃんさ。彼女、本当はキミに誉めて欲しいから頑張っているんだと思うよ。他ならぬ、キミに認めて欲しいから……」


カエデ : 「……あ! 違います。私は、そのっ」


リン : 「……そうなの、カエデちゃん?」


カエデ : 「ち、違います! 私は別に姉上に認められたいとかそういうのではなく、その……でも、ちょっとだけ違わなくて……えっと」


リン : 「……もう、ボクの中ではカエデちゃんは、立派な一人前のブシドーよ?」


カエデ : 「えっ、姉上……」


リン : 「……でも、よくがんばったね。偉いよ?」(なでなで)


カエデ : 「えへへ……はい、姉上!」 (にぱぁ〜)


フィガロ : 「うんうん、麗しい姉妹愛が堪能出来た所で……さぁ、凱旋といこうか。カエデちゃん?」(むぎゅ)



カエデ : 「ふぁっ!? あ、あ……ハレンチ! ハレンチです、フィガロ様ー! きゃぁぁぁぁ!」(ずんばら!)



フィガロ : 「ひげぶ!」




ナルラト : 「やれやれ……リンちゃんにはには一人前と認められたみたいだけど」


シェヴァ : 「男の人になれるのは、まだ先みたいだね……」


ヒルダ : 「最も、コイツは切られるくらいで当然の気がするがな!」


フィガロ : 「ぴよぴよぴー」



 かくして、青竜退治まで成し遂げたさばみそギルドご一行。

 次はいったいどんな強敵が現れるのか……。

 残す竜は、いよいよあと一匹!






>幕劇 〜 彼が抗いそして受け入れた理由






 幕間劇をはじめよう。

 現実と向き合う為の、静かな物語を。

 キミはこの物語を読みすすめても、読まずに先を目指しても良い。




 ・

 ・

 ・


 その日のセッションが始まる事と、同じ時間帯。

 都内、とある墓所。

 ある男の墓前にて……。




椎名淳平(シュンスケ) : 「…………」


??? : 「おい、椎名!」


椎名 : 「…………?」


桐生和彦(シグ) : 「よ! ……やっぱり、ここに来てたのか?」


椎名 : 「桐生? ……今日は、セッションがある日じゃないのか?」


桐生 : 「いや、ちょっと風邪ひいて……いや、もう治りかかってるんだけどさ。一応、他の面子にうつす訳にもいかねーから、今日は出るのやめといたんだ」


椎名 : 「それはそれは、大事だったな。だが……その、休んでいた男がなぜここに居る?」


桐生 : 「いや、な……今日は、西園寺馨先生の命日なんだろ。それで、墓参りくらいしようかなぁってよ……」


椎名 : 「あぁ……知ってたのか、先生の命日」


桐生 : 「一応、調べたんだほら、妙な出会い方したとはいえ、俺とオンジ……西園寺先生はまぁ、ダチみたいなモンだしさ。そーなると、生前の西園寺の方も、どういう奴だか気になるからなぁ……」


椎名: 「そうか……」


桐生 : 「しかしまぁ、不思議なもんだよなぁ……俺たちはオンジと今でも連んで、ゲームなんてして遊んでんのにさ……本物のオンジはもう、地面の下に眠ってるとかさ……」


椎名 : 「………」


桐生 : 「今のオンジだって……もうこの世にはいない、西園寺馨って人間の複製なんだろ? 自分と同じ姿、同じ性格、同じ知識をもっていて……でも、自分とは違う……俺は、オンジと友達だと思ってるし、オンジもそういう風に俺と連んでくれるよ。けどさ……そうやって、考えるとオンジって……俺なんか、考えつかないくらい難しい立場なんだろーなぁーってさ」


椎名 : 「そうだな……」


桐生 : 「……なぁ、椎名。一つ、聞いてもいいかな」


椎名 : 「ん、何だ?」


桐生 : 「いや、生前の西園寺先生の事、さ……俺、今のオンジの事は知ってるけど……生きていた頃の、西園寺馨って人間の事、結局よくは知らないからさ……聞かせてくれないか、どんな奴だったのか……」


椎名 : 「そうか……いや、そうだな。先生は……先生は、そう……ずっと孤独な人だった」


桐生 : 「椎名?」


椎名 : 「俺は、一度……先生と意識を共有していたから、先生のあの時の気持ちが痛い程分かるんだ。意識を共有し、先生になら……身体を預けても仕方ないと思える程、共感した程だからな……」


桐生 : 「お、おい。何言ってるんだよ椎名!? お前、無理矢理乗っ取られようとしたんじゃねーの!?」


椎名 : 「ん。いや、それは違うな。俺は最初から先生に身体を預ける事を条件に契約していた……幾つか俺からの条件も出してはいたが、先生が俺の身体を使うというのは最初から計画上に存在していた。別に、先生が俺を騙した訳ではないぞ……最初からそういう、契約だったからな」


桐生 : 「え、ちょっ……待てよおい椎名!? それって、お前は最初から死ぬつもりで……?」


椎名 : 「今となってはそれが正しい選択ではなかったのは、わかっている。だが、あの頃の俺には、そうするしかなかったんだ……」


桐生 : 「……」


椎名 : 「その過程で俺は、先生と意識の共有をした……先生はそう、孤独で。そしてとても不器用な人だったよ。たった一つの願い……大事な人が死を迎えるその日まで、傍らに居てやりたいという。ただそれだけの小さな願いの為に、自分の知識を。才能を、全て使い。自分の運命に抗おうと、必死に生きた人だった……」


桐生 : 「……でも、運命には抗えず。今はこうして静かに眠っているって訳か」


椎名 : 「いや、先生の場合は……受け入れたんだと、思う」


桐生 : 「受け入れた……?」


椎名 : 「自分の運命と、誰かの幸福を……それはきっと、抗い続けるより、難しい事だったはずなのにな。そう、先生は……運命に抗いうち勝ち、新たな人生を手に入れる事に成功したはずなのに……あえてその命を、諦めたのだからな」


桐生 : 「……?」


椎名 : 「だから今、西園寺先生は孤独ではない……孤独に運命と戦い続ける事より、誰かのそれを受け入れて……ともに歩む事を願って逝ったんだから……」



桐生 : 「……おい、椎名。何いってんだよお前、それってどういう事だ?」


椎名 : 「いや……まぁつまり、確かに桐生の言う通り。西園寺先生はちょっと複雑な出自もあるが……あんまり気にせずいつもみたいに、オンジオンジと絡んでやってくれって話さ」


桐生 : 「何だ、そういう事か。なーに、そういう事なら任せておけって、な!」



 彼の墓前で、二人は笑う。

 その下で、運命と抗う事をやめた男は、今日も静かに眠っていた。



 ・

 ・

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 そう、全ては一年前にさかのぼる。



??? : 「……どうやら、成功したみたいだな」



 鏡に映った自分の姿を確かめて、彼は一人笑う。

 眼前にあるのは椎名淳平……自分の教え子の姿。

 だが、中身は違う。



椎名淳平の姿をした西園寺馨 : 「データ上では成功すると確信していたが、実際に人の身体になってみると……奇妙なものだな」



 指を、脚を動かして生の感触を確かめる。

 自分の顔とも声とも違う、新しい身体。

 だが、悪いモノではない。

 腕も、脚も思うように動く……もう病床でいつ、呼吸が止まるかわからぬ恐怖に苛まれ横たわる日々は終わったのだ。


 歳も、以前より若い。

 知識も経験も充分にある……以前の人生でやり切れなかった事も、この身体なら出来る。



西園寺(椎名) : 「……ひとまず、これからの事を考えるか」



 ……やるべき事は沢山ある。

 自分と同様、病に蝕まれた母は大きな手術を終えたばかりだ。


 傍にいてやりたい。

 とはいえ、この身体で現れて 「息子だ」 と言ってすぐに信じるだろうか……。



西園寺(椎名) : 「……不安材料は残るが、母の性格は熟知している私だ。まぁ、何とかやり遂げる事が出来るだろう」



 すぐに受け入れられないであろうという、不安はあった。

 だが、自分は母の……西園寺透の息子なのだ、姿はかわってもそれは紛れもない事実だ。

 母ならわかってくれる……。


 根拠のない自信だが、彼はそう確信していた。



西園寺(椎名) : 「だからそうだな……まずは、椎名君の旧友に顔を出しておくか」



 椎名淳平には親しい友人と、幼馴染みで同居人の七瀬澪という男がいる。

 ……椎名からはただ一つ。

 七瀬澪だけは傷つけないよう接してくれ、と頼まれているが……。


 うまく言いくるめて自然と、縁を切っていけばいいだろう。

 椎名淳平の器を借りているとはいえ、自分は彼とは違うのだ。


 七瀬澪と、椎名淳平としての関係を続ける理由もなければ必要性もない。

 何より七瀬自身、すでに心が違う自分とかみ合うはずもないのだからいずれは離れていくだろう。



西園寺(椎名) : 「……最初は適当に話をあわせておくか、まぁ、ボロが出ないように気を付けないとな」



 椎名の家に向かいながら、ただ彼は考えていた。

 母との生活の事を。彼女に、しようと思っている事を。


 ……自分が死に至る病になったとき。

 彼はようやく自分がこれまで、母に何もしてやれなかった事に気が付いた。


 長く苦労をかけるばかりで、満足に話さえ聞いてやれなかった。

 病を患ってからはなおの事、母には多くの心配をかけた事だろう。


 病床にいる母に心配をさせたと、まず謝らないといけない。

 それから、少し暖かな日に散歩でもしよう。

 幼い頃にいった遊園地にまた、いってみるのもいい。


 動物園、水族館……子供じみた場所だと笑うかもしれないが、今はそういう場所へ向かい穏やかな時間を過ごしていたい……。

 言葉を重ねていたい、そう、まだ自分には話したい事が沢山ある。


 したい事が沢山あるのだ。

 研究にかまけて出来なかった事を、ゆっくりとしていこう……そう、ゆっくりと……。


 そんな考えを廻らせながら、扉を開いた。



七瀬澪 : 「お帰りなさい! 淳兄ぃ!」



 扉の向こうに、七瀬が居た。

 椎名の本質が変わった事も気付かず、無垢な笑顔をむけていた。



椎名(西園寺) : 「あ、あぁ……ただいま」


七瀬 : 「遅かったじゃないか淳兄ぃ! 何処いってたの? がっこー? おさんぽー?」


椎名(西園寺) : 「いや、少し……野暮用、という奴だな」


七瀬 : 「ふーんそっか。まーいいや、ほら淳兄ぃきてきて、こっちこっち! 今日はいっぱいご飯作ったから! 食べて食べて! ね、ね!」



 言われるがまま部屋に入れば、テーブルには暖かな料理が所狭しと並んでいる。



椎名(西園寺) : 「……随分と豪勢だな。どうしたんだ、こんなに。何か記念日でもあるまい?」


七瀬 : 「うん。別に記念日とかじゃないけど、俺、お礼がしたくて……」


椎名(西園寺) : 「……お礼?」


七瀬 : 「うん、お礼! ……ほら、俺さ。ずっと……ずっと、身体が動かなくて。お仕事も出来ないし。家で、家事とかも出来る訳ではないような。そういう状態が続いてただろ。それでも、淳兄ぃずっと俺の看病してくれて……勉強、忙しいのに俺の面倒見てくれてさ。おれ、淳兄ぃに、いっぱい心配かけたから……」


椎名(西園寺) : 「…………」


七瀬 : 「俺、やっと元気になってきてまた、お仕事とか出来るようになってきたからさ……これ、アニキのお店手伝いにいった時、もらったお小遣いで作った料理だよ! ね、食べて食べて」



 その料理を食べるべき男は今は、ここには居ないのだが。

 内心で呟き、西園寺はその席に座る。



七瀬: 「淳兄ぃ」


 その傍らで、七瀬は言った。


七瀬 : 「俺さ、おれ……今まで、ずっと淳兄ぃと出来なかったけどさ……元気なってきたからさ、また一緒に、遊びに行こうよ!」


椎名(西園寺) : 「……何?」


七瀬 : 「お散歩とか……小さい頃にいった遊園地とかさ、動物園とか、水族館とか……俺、ずっといけなかったけど。もう、大丈夫だから! だからさ、一緒にいこうよ淳兄ぃ! ね、いいでしょ?」



 無垢な瞳が、西園寺の姿を捉える。



七瀬 : 「公園にさ、一緒に桜とか見にいきたいよね。俺、並んであるくから。淳兄ぃの大学のあの桜並木、すごいだろ。あの下、一緒に歩こうよ!」



 それは西園寺が、母としたいと思った事だった。



七瀬 : 「それとさ、電車で二つくらいいった所に、すごい水族館あるだろ! イルカとかそういうショーもやってるやつ! あれにいこう。俺、淳兄ぃとイルカとか見たかったんだよね!」


 それは西園寺が小さい頃に連れられた場所。

 そしてまた、行きたいと強く願った場所でもあった。


七瀬 : 「買い物も、一緒にしような。ほら、淳兄ぃいつも地味で野暮ったい服ばっかりきてるからさ。もっと、華やかな奴買おうね。ね?」


 母もいつもそうだった。

 息子である自分を優先させるばかりに、地味で野暮ったい古びた服ばかりきていたから……もっと華やかな服をかってやりたいと。

 常々、願っていたのだ。



七瀬 : 「俺さ……淳兄ぃとしたい事、いっぱいあるんだ。話したい事、まだまだいっぱいあるんだよ!」



 ……自分も、そう思っていた。

 同じような願いを、抱いていた。



西園寺(椎名) : 「……俺は」



 何をしていたのだろうな。

 食事を終え、風にあたってくると適当な言い訳を見つけて、一人外に出る。


 七瀬澪は彼を、椎名だと信じて疑わなかった。

 疑わずに告げた。


 まだ、彼としたい事が沢山あると。

 彼がしたいと望んだ事は全てささやかな事。


 暖かな日の散歩であったり、小さい頃の思い出巡りといった、誰でもする小さな記憶巡りにすぎなかった。

 つまらぬ事。ちっぽけな事だ。

 だが。


 ……それらの全ては彼が、これからしようとしている望みそのものだった。



 ・

 ・

 ・




西園寺 : 「…………結局の所だよ。それをすべきは俺ではなく、椎名君。やっぱりね、キミなんだよ」



 一度与えた身体を戻された椎名が、最初に聞いたのはその言葉だった。



椎名 : 「いいんですか、先生……?」


 契約ではこの身体は、二度と彼の元には戻らないはずだった。

 改めて問いかける椎名の言葉に、西園寺は黙って首を振る。



西園寺 : 「……椎名君。運命に抗う事は悪い事じゃぁないと、私は思っているよ。でもね……結局の所、誰かの運命を踏みにじってまで得た運命(それ)は、所詮まがい物……本物には、勝てないんだよ」



 西園寺は笑顔でそう語る。



西園寺 : 「私は……それに気付くのが、少しばかり遅かったけどね」


 そして、それ以上語らぬまま。

 椎名の身体を戻した理由を明確にせぬまま……ちょうど一年前のその日、静かに息を引き取った。



 西園寺馨が、運命を受け入れるその覚悟をした理由。

 その明確な理由は、彼の分身であるはずの西園寺馨……電脳人格、西園寺馨でさえ定かではないという。


 だが。



桐生 : 「西園寺先生が、お前に身体を返した理由かぁ……」



 全てを聞いて、桐生はいう。



桐生 : 「いや、俺もそういうのよくわかんねーけどよ。でも、何となくわかる事だってあるぜ」


椎名 : 「……というと、何だ?」


桐生 : 「椎名の隣にいるのは、やっぱりななみだろ。俺でも、オンジ先生でもなきゃウォードさんでもねぇ。ななみには、やっぱりお前なんだよ」


椎名 : 「……バカ言うな、茶化すつもりか?」


桐生 : 「いやいや、そんなつもりじゃなく……まぁ、とにかくさ。誰も、誰かになりかわったりとかできねーし……そういう事されてもさ、誰もきっと嬉しくねぇんだって」


 桐生は普段と変わらぬ調子で笑いながら歩く。


椎名 : 「ふむ……」


桐生 : 「西園寺先生もさ、気付いたんじゃないかな。仮にお前の身体をつかって、大事な人とあったとしても……その姿はきっと、借り物のまがい物。誤魔化して得た運命じゃ……大事な人は喜ばないってさ」


椎名 : 「そうか。そう……だろうな」


桐生 : 「それに……西園寺先生はきっと、ななみとお前に一緒に居てほしかったんだよ……自分が、大切な人と一緒に居たかったみたいに。七瀬が、おまえと一緒に居たかった気持ちを……踏みにじる事が、出来なかったんじゃないかな……」


椎名 : 「……そう、か」



 そうかも、しれないな。

 椎名は静かに呟くと、桐生の後をついて歩いた。

 土の中で静かに眠る、今はなき恩師の姿を振り返りながら……。



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