> 界樹の迷宮をリプレイ風プレイ日記としてしたためます候。





までのあらすじ >


 ラスボス退治した後、何かもっと強い敵が出てきた悪寒。




> 汝、竜なるや



 前回のセッションから数日後。

 仮想世界のエトリアにて……。



GM : 「さて、皆久しぶりー元気だった! 今日も沢山の人が来ていてうれしいよ! と言いたい所だけど……」



シェヴァ : 「もぐもぐもぐ……お菓子食べ足りないなぁ。ねぇ、ガモンのにーちゃん、にーちゃんロールケーキ喰わないなら俺にちょうだいっ!」


ガモン : (ぺちっ!) ← でこピン


シェヴァ : 「いてっ! な、何するんだよー!」


ガモン : 「……お前にくれてやる餌はない、という証明だ。餌を強請るならお前の飼い主からにしろ」


シェヴァ : 「飼い主って! 飼い主って別におれ、シュンスケのペットじゃないもん。ねー、シュンスケ?」


シュンスケ : 「そうだな……それに、俺のケーキはとっくにシェヴァの腹の中だが?」


ガモン : 「そうか、なら諦めるんだな」


シェヴァ : 「!! 非道ぇー。 リーダー! あのオッサン、ひでぇーよー!」 (めそめそ)


ガモン : 「おまえっ、オッサンではないとあれほどっ……」


シグ : 「ってかよ。俺に抱きつくのはいいけど、もう俺もケーキならねーぞ。喰ったからな」


フィガロ : 「まぁ、ケーキなら俺の奴をやるから……ほら」



GM : 「何ぞねこの空間における驚異の男率は! 女の子をー! この空間にもっと女の子をくださーい!」



シグ : 「はは、勘弁してくれよ。アイラ(のプレイヤー)は、今日鬼の癇癪で久々に熱が出て倒れているんだから……ここに来れないの残念がってたぜ?」


GM : 「へぇ! ……マジで? ……まぁ、お大事にしてほしいところだけど。てか、それならシグは大丈夫なのか?」


シグ : 「ん? 大丈夫って?」


GM : 「だから、アイラが風邪ひいたならうつされてないかなーって」


シグ : 「おお、大丈夫だぜ! 今の所はな」


シェヴァ : 「きっと、シグの場合はあれだよほら。よく言うだろ、ナントカは風邪ひかないって……それだから、大丈夫!」



シグ : 「……そうそう、それだから大丈夫! ……って、俺に失礼だよ! お前は!」


ガモン : 「それに、その理論の割にシェヴァカ。お前は異常に風邪をひきやすいだろ……」


シェヴァ : 「そう、俺毎年風邪をひく……って、何だよガモン兄ちゃん! 俺はシェヴァ。 シェ馬鹿じゃないもん!」(ぽかぽか)


ガモン : (ひょいひょい)


GM : (おお、華麗なフットワークで驚異の回避率。さすがレンジャー……)




シグ : 「ところでアニキ、ナルラトさんも、今日は休みか?」


フィガロ : 「ん、そうさね。今日は店に出ているよ……流石にそう何度もお呼びをかける訳にはいかないだろう。店がつぶれちまうさね」(笑)


リン : 「……カエデも、今日は勉強の方が切羽詰まっているみたいでこれないそうです。あ、でもボクがいますよ!」


ヒルダ : 「……私もな。あまり女らしくはないかもしれんが」


シグ : 「いやいや、そんなコトねぇよ。姉弟子もリンも、アイラの3倍女らしいって!」


GM : (今日はぶん殴ってつっこむ相手がいないから、能弁だなぁ。シグは……)


リン : 「だ、ダメですよシグ。そんなコトいったら、アイラさんに怒られますよー」


ヒルダ : 「そうだぞ。 誰が大ナマケモノですってもー! 等といいながらまた、地の果てまで飛ばされるぞ?」


シグ : 「……いやいや、地味に姉弟子の言ってる事の方が非道いと思うぜそれ!」


ヒルダ : 「む、そうだったな」


GM : 「さぁ、それじゃぁ。今日はアイラさんの病欠、ナルラトさんは私事都合により、カエデちゃんは勉強留学の為に欠席と、いつもより面子が少ないけど、ボチボチと始めようかねー」



一同 : 「はーい」




GM : 「という訳で、君たちは前回。地下8階に竜が現れたというのを聞いた訳だけど……」


シェヴァ : 「地下8階の、ワイバーンさんが居た所だよね。ワイバーンさんはどうしたのかなぁ?」


リン : 「お引っ越しされたんですかね……12畳のリビングだと手狭になったんですよ!」


GM : 「まだ14日たってないから現れてないけど、ガチでお引っ越しされたようだね。今は地下10階の、6畳一間の和風建築に済んでいるよ」


シグ : 「お、やっと俺の部屋と同じレベルになったな」(笑)


シェヴァ : 「でも、前の物件より手狭になったんだ……」


シュンスケ : 「赤竜の取り立てにより、以前のような物件にすむコトはできなくなり、夜逃げするよう6畳のアパートに転がり込んだんだな」


GM : 「その例えはどうかと思うが、そういうコトだ」


フィガロ : 「ンで、どうするんさねリーダー? 敵は赤竜……マジもんのドラゴンって響きなだけあり、相当ヤバイと思うけどねぇ!」


シグ : 「そりゃもう、戦わなきゃ現実と! 強い相手と血が滾る戦いこそソードマンの浪漫だぜアニキ! という訳で俺はいそいそと戦う準備をする!」


ヒルダ : 「そうだと思ったが……仕方ない、私もいこう。坊ちゃんを一人にしてはいけないからな……」


リン : 「……回復も必要ですよね!」


GM : 「ん、そうだね……まぁ、君たちが自由に行くメンバーを決めて。決まったら連絡して!」



一同 : (額を付き合わせて相談中……)



ヒルダ : 「まぁ、相手がどんな敵だかわからん以上、危険な手はうてないな……」


シュンスケ : 「無難な形だが、これが一番だろう。なぁ、リーダー」


シグ : 「ん、そうだなーぁ。それでいくか」


GM : 「きまったー? きまったかー?」 (←椅子をぐるぐる回して遊んでいる)


シグ : 「決まったから、そんな小学生みたいな遊びをやめてくれ、GM」


GM : 「うぇっぷ、急に止めたら気持ち悪い……って。それじゃ、面子みせてくれ。うぇぇ……」


シグ : 「本気で回しすぎだってのGM……と、とりあえず討伐面子は」



前衛 : シグ ・ ヒルダ


後衛 : リン ・ フィガロ ・ シュンスケ



シグ : 「これで行くコトにする」


GM : 「…………ほー。さばみそギルド必勝の構えってやつだね、OK了解」


ガモン : 「私もまだあまりレベルが高くない以上、ボス戦では足手まといになりましょうから」


シェヴァ : 「俺は火力がないからね! ……シュンスケ、頑張って」


シュンスケ : 「あぁ……」


シグ : 「何、すぐに竜の鱗を土産にかってくるって!」



 ……こうして、さばみそ面子。

 第1陣は、樹海へと旅立っていったのである……。





> 赤無双!




GM : 「という訳で、皆戦闘に向かう。向かう、と……」


シェヴァ : 「待機している間俺たち何してる? トランプでもしてようかー。ばばぬき! ばばぬき!」


ガモン : 「……お前、二人だけでババ抜きをやって楽しいのか?」


シェヴァ : 「じゃぁ、七並べ? 七並べがいいの、七並べ!」


ガモン : 「もっとダメだろそれは!」


シェヴァ : 「じゃぁ、じゃぁね……」(おたおた)


ガモン : 「俺はもう少し鍛えたい……鍛錬をしたいのだが、出来ないか?」


シェヴァ : 「だったら簡単な階層で経験値稼ぎでもする?」


ガモン : 「お前の力を借りるのは解せないが……悪くない提案だな。構いませんか、GM?」


GM : 「ん。別に俺は構わないよ」


シェヴァ : 「じゃぁ、3階層くらいでレベル上げできるような準備しよう、準備……」



 と、シェヴァが荷物をまとめ始めたその時。



シグ : 「ただいまー……」 (ガチャ)



シェヴァ : 「!! あぁっと!!」


ガモン : 「……もう戻られたんですか、リーダー。忘れ物ですか?」


シグ : (ボロボロ) 「この格好が忘れ物に見えるか?」(笑)


ヒルダ : 「……不覚だな」


リン : 「…………痛いですー」(ボロボロ)



ガモン : 「まさか…………?」


シグ : 「そう、そのまさかだ……っ、面目ねぇ」


シェヴァ : 「まさかリーダー……欲情に耐えかねてヒルダちゃんとリンちゃんに手を出したのっ!?」



シグ  : 「な、訳ねーだろ馬鹿がー!」 (どんがらがっしゃ〜ん)



シュンスケ : 「……予想以上に赤竜が強くてな。殆ど何も出来ないまま、撤退を余儀なくされたのだ」


ガモン : 「撤退?」


シグ : 「あはは、有り体に言えば全滅してエトリアに戻ってきた、って奴だけどな……」


シェヴァ : 「ほんと!? あ、シュンスケ大丈夫? 怪我してない? 痛い所はない? リーダーに手ぇ出されなかった?」


シュンスケ : 「怪我はしていない。痛い所もないな、シグに手を出される事もなかった、大事ない」



シグ : 「って、手ぇ出さねーよコイツ(シュンスケ)には! 俺には男女のべつまくなしやんちゃな時期はねー!



ガモン : 「全滅、ですか。マスター?」


フィガロ : 「……そういう事さね」


ガモン : 「一体どのような攻撃を受けたのですか? 今のさばみそ面子は、強敵相手でも決して遅れをとることなどないはず、ですが」



カエデ : 「……常に炎のブレスをはいてくる相手なのだ」 (やいのやいの)


リン : 「全体を混乱してくるスキルももっているみたいですし……」 (やいのやいの)


シグ : 「強烈な全体攻撃も厄介だったな!」 (やいのやいの)


フィガロ : 「攻撃力を上げて、一気に強襲してくるのも困ったモンだよねぇ……」 (やいのやいの)



シェヴァ : 「ちょ、一度に話さないでよー。俺が混乱するー!」


シュンスケ : 「混乱スキルは……攻撃力を下げる+混乱効果だったか……」


シグ : 「とにかく、この面子では完敗だったな……面子から考え直さないといけないだろ」


フィガロ : 「そうさね……少し、状況を整理してみるか」


ヒルダ : 「そうだな……戦った様子をまとめると」



・ 炎のブレスをランダムで吐いてくる場合あり。 (常にファイアガードは必須・まともに喰らうと800〜1000越えのダメージで1ターン死)

・ 全体を混乱させるスキルを使ってくる場合あり。 (テリアカβ必須・攻撃力弱体効果あり、バードの猛き〜で打ち消し可能)

・ 攻撃力を上げた直後に、強烈な攻撃を放つ場合あり。 (先制で医術防御などをかけるor強化をうち消す必要あり)



ヒルダ : 「このような意見が集まったが、他に意見はあるか?」



一同 : 「ありませーん」



GM : (お、ヒルダさん委員長っぽいな)


ヒルダ : 「了解した。それでは以上の意見をまとめると必須なのは……」


シグ : 「ファイアガード対策姉弟子だな。とにかく、何時うってくるかわからない上、受けたら一発で即死なら警戒したほうがいいだろ」


GM : (……一応、このターンは必ずファイアブレスっていう決まりはあるんだけどね。それ意外でも体力が減ると頻繁にうって来る事を考えると、その方が得策だろうね)



ヒルダ : 「そうだな……毎ターンガードだと攻撃に役立てないが、その方が得策だろう。他に必要な面子は?」


シェヴァ : 「はいはいはいはーい! どういう状況でもやっぱり、リンちゃん……メディックは必要だと思います!」


リン : 「ボク、ですか?」


フィガロ : 「そうさね……ヒルダが毎ターンガード技なら、防御陣形は使えないだろう。そうなれば、リンの医術防御でダメージを減らしていくしかないしねぇ」


シュンスケ : 「全体回復、状態異常回復と何でもこなせるリン君のスキルは頼もしいものな」


リン : 「でも、あのスキルだとボクも混乱する場合がありますよ……そうなったら……」


シグ : 「あはは、そうなった時のためのテリアカβだっての。頼むな、リン?」


リン : 「あ……ははは、はい。頑張ります!」



ヒルダ : 「他には……」


シュンスケ : 「認めたくないが、フィガロも必須といえよう。 あいつの混乱技は攻撃力低下に混乱付加のようだ……猛き戦いの舞曲で攻撃力低下をうち消せば、混乱付加はおこらないはずだ」


フィガロ : 「認めたくない、なんて言われているのは不服だけど、シュンスケ君にそう言ってもらえるのは嬉しいねェ」


シュンスケ : 「お前の実力は認めてないが、お前のスキルは認めている」 (きっぱり)


フィガロ : 「また、このツンデレ! ツンデレが!」


シグ : 「シュンスケがフィガロのアニキにデレている所を見た事がないけどな!」



リン : 「えっと……そうすると、出かけるのは、ボクと。ヒルダさんと、フィガロさん……」


シュンスケ : 「ガモンさんも居た方がいいかもしれん」


ガモン : 「……俺か?」


シグ : 「ん、そうだな……確かにガモンのアザステがあれば、建て直しは早いだろうしな!」


ガモン : 「ですが、私はまだ未熟……あまりレベルが上がってない身ですが、よろしいですか?」


フィガロ : 「ん? 大丈夫じゃないかねぇ、レベルが上がってないとはいえ、一応は40オーバーだし。後衛においておけばさして攻撃も受けないだろうし」


ヒルダ : 「確かに、アザステがあれば相手に弱体を入れられた直後にまたかけ直しも可能だ……悪い選択ではないな」


ガモン  : 「了解しました、この私でよろしければ、力を尽くさせて頂きます」(ぺこり)



シグ : 「これで4人か……」


シュンスケ : 「あと一人は前衛職が理想だな。リン君は戦闘職ではない。ヒルダはガードしか出来ない。フィガロも補助にまわるとなると、前衛で攻撃を専門にする職業が必要だろう……」



シェヴァ : 「はいはいはいはーい、前衛必要? だったら、俺いく。俺がいくよー!」



シュンスケ : 「シェヴァ?」


ガモン : 「珍しくやる気だな、どうしたバ褐色?」


シェヴァ : 「だから、俺はバ褐色じゃないし! ……ってほら、この人! ガモンの兄ちゃんはいっつも、俺の事バ褐色。バ褐色ってバカにするだろ!」


ガモン : 「何だ、バカをバカと言って何が悪い?」


シェヴァ : 「だぁから! 俺バカじゃないし! それに、俺の方がこのエトリアでは先輩なんだから、ここはガモンの兄ちゃんに先輩らしい所見せたいなーって思ってさ! な、いいだろシュンスケ!」


シュンスケ : 「……いや、だがなシェヴァ。確かにお前は前衛だが薄着だし。こういうのはシグのように火力と守備力のある方が適任……シグも戦いは好きだろうし。シグに任せた方がいい。なぁ、シグ?」


シグ : 「ん、俺はシェヴァがいきたいってなら別にいいぜ?」


シュンスケ : 「なぁっ!? シグっ、お前……!?」


シグ : 「戦ってみて解ったけどよ、あの赤竜。喰らう時は俺でも2発まともに受けたら死ぬんだわ。その点なら、俺もシェヴァもそう代わりはないだろ?」


シュンスケ : 「むぅ……確かにそうだが……」


シグ : 「だったら、俺はやる気がある奴の情熱を買ってやりたいけどな!」


シェヴァ : 「ほんと! やった! な、シュンスケ。俺いっていい! 俺いっていい?」


シュンスケ : 「む……シグがそう言うなら、俺が断る理由はない……な」


シェヴァ : 「ホント!? じゃ、俺いっていいんだね! やったぁ! ……見てろよガモンの兄ちゃん。俺が、兄ちゃんより先輩だってところを見せてやるからなー!」



ガモン : 「…………」


シュンスケ : 「すまん、ガモンさん……あんな性格だから迷惑をかけると思うのだが、世話してやってくれ……」


ガモン : 「……程々に、面倒見てやろう」



シェヴァ : 「ちょ、何こそこそ喋ってるんだよ二人ともー! 違うだろー、俺がガモンの兄ちゃんの面倒を見るのっ! 俺の方が先輩だから!」 (じたじた)



シュンスケ : 「喧しいと思った時には飴でもしゃぶらせておけば黙っている」


ガモン : 「……理解した。餌を与えておけばいいんだな」



シェヴァ : 「こらー! 人をペットみたいにあつかうなー! もー! もー!!」




> それは炎よりく偉大に佇んで



 そんなこんなで vs赤竜退治の討伐面子はひとまず。


前衛 : ヒルダ・シェヴァ

後衛 : リン・フィガロ・ガモン


 の面子に落ち着いた訳で……。




シュンスケ : 「ヒルダも頼む、不躾でそそっかしい奴だが……」 (ペコリ)


ヒルダ : 「心配するな、炎からの攻撃からは守ってやろう」


シュンスケ : 「リン君も、頼む……薄着だからすぐ、怪我をすると思うのだがな……」 (ペコリ)


リン : 「大丈夫です、任せておいてください!」



シェヴァ : 「もー、やめてよシュンスケぇ。おれ、一人前のダクハンだぞー! もー、もー!」 (ポカポカ)


シュンスケ : 「む、スマン……」



GM : 「などとやっている間に、樹海の道を進へー。はい、君らは見慣れた第二階層へ到達する」


ヒルダ : 「……相変わらず、蒸し暑い場所だな、ここは」


リン : 「虫除けスプレー、もってきた方が良かったかなぁ……?」


GM : 「そんな女性陣に不人気な反応をよびつつ、君たちはスライムベス(スリーパーウーズ)やらオオナマケモノをなぎ倒しつつ、進むよ進む奥へと進む……そして、ひとまずの目的地へ。元・ワイバーンの住処で現・竜の住処になったけど、さぁ。どうする?」


フィガロ : 「うーん……やっぱり居るねぇ、アレ。どうしようか?」


ヒルダ : 「どうするもこうするも……奴を倒しに来たのだろう? ただ突き進むのみ、だな」


リン : 「はい! えっと、背後が空いているから……ひとまず、背後をとりましょう。いいですよね?」


ガモン : 「はい……敵の弱点を突くのは基本。こちらが優位になる工夫なら、積極的にやっていきましょう」


GM : 「はいはい、背後を捉える訳ね。くそ、皆卑怯者め……まぁ、コッチは王者の竜だから、別にそれも承知の上だけどな。というワケで君たちは、卑怯な方法で、卑怯にも、背後を捉えて卑怯な攻撃を始めた!」


ヒルダ : 「承知の上、という割には卑怯を連呼するな」(笑)


GM : 「気のせいだ! ……というワケで現れたのは虚ろな目と巨大な体躯を持つ、一匹の赤き鱗を持つ竜……その名も、偉大なる赤竜!



 GMの声と同時に現れたのはただ闘志のみ光らせた瞳に、歪んだ魔の表情を浮かべる一匹の赤き竜であった。

 竜はその身体を精一杯捻り、冒険者たちの表情を伺っている……。





シェヴァ : 「へぇ……うわぁ……あいつ、おっきい! おっきいよ!」 (オロオロオロ)



GM : 「うむ、一応は竜だからな」



シェヴァ : 「うん……で、でも。何だろ、うわぁ……す、すげぇ迫力ッ。勝てるかなぁ……」 (オロオロ)


ガモン : 「何だ、もう臆したのか。バ褐色?」


シェヴァ : 「べ、別に。そんなんじゃ無ぇーよ! とにかく、コッチが先制攻撃だよね! 俺は、ヘッドボンテージ!」


ヒルダ : 「背後をとったら、このターンは赤竜の攻撃はないな。よし、私はシールドスマイトをしよう」


ガモン : 「……サジタリウスの矢」


フィガロ : 「俺はひとまず、舞曲より先に安らぎの子守唄をやっておこうかねぇ……TP回復はほしいもんね」


リン : 「医術防御、いきます!」


GM : 「了解。こちらはペチペチ攻撃を受けます、えー、HPは……んまぁ、これ位は減ったかな」 (ちょっぴり減ったライフゲージをみせる)



シェヴァ : 「……えっ、それだけしか減らないのォ!?」



GM : 「うむ、これしか減らないが、どうした?」(笑)


シェヴァ : 「えぇぇ……俺、これでも火力は最近、けっこう自信あったんだぜー。それなのに、嘘だろー!?」


ガモン : 「上には上があるもんだぞ。バ褐色。その程度で戦意を失うな」


シェヴァ : 「わっ! わかってるよ。わかってるもん! ……ちぇっ。次のターンもヘッドボンテージなっ!」


ヒルダ : 「私は、ファイアガードの構えに入ろう……このターンから、いつ炎を吹いてくるかわからんからな」


ガモン : 「私は……」


フィガロ : 「ガモン! お前はアザステを頼む! このターンでアイツが混乱技をつかってきたら、一気に壊滅だからねェ!」


ガモン : 「了解致しました、マスター! マスターにアザーズステップ! これでこのターンは最初にマスターの攻撃から入ります!」


リン : 「ボクは……」(オロオロ)


シェヴァ : 「リンちゃんは温存でガードでもしてなって! リンちゃんが倒れるのが今は一番怖いからね」


リン : 「あっ。はい、わかりました! それじゃぁ、ボクはガードしています!」



GM : 「ふんじゃま、2ターン目いきやすか。えー、このターンはコッチも攻撃出来るワケだが……」


ガモン : 「アザーズステップ! 発動は……」


GM : 「ン。アザステが発動したんなら、ガモンの行動が先だな……」


フィガロ : 「OK。それじゃ、遠慮なく弾かせてもらうよ、猛き戦いの舞曲!」


ヒルダ : 「私はファイアガードだ!」


GM : 「むぅ……先に舞曲を歌われると寂しいものがあるな……偉大な赤竜のこのターンは、とどろく咆吼だ!」


ヒルダ : 「!! 来たか、全体混乱スキル!」


GM : 「お察しの通り、このスキルは全体攻撃力低下+高確率での混乱付加だ! が……」


フィガロ : 「舞曲はすでに発動しているさね!」


GM : 「うン、フィガロの舞曲効果でひとまず、混乱はナシ。ただ、強化が外されただけだ……チッ!」


シェヴァ : 「よっしゃ! やったね、フィガロのアニキ!」


フィガロ : 「ふふ……支援特化の詩人スキル、ここにきてようやく開花したって印象かねぇ?」


ヒルダ : 「流石はフィガロだ、スキルだけは素晴らしいな!」


フィガロ : 「ちょ! ヒルダ、俺も素晴らしいだろう? 俺も素晴らしいって認めなって、素直じゃないねェ……!」


シェヴァ : 「えーと……俺の攻撃、ボンテージ技は……?」


GM : 「縛られない。ダメージがちょろりだ。ちょろり」


シェヴァ : 「うぇぇ……ホント、ちょろりだー」(がっくし)


ガモン : 「どうした、元気がないな。バ褐色? もう気が折れたのか?」


シェヴァ : 「ううう、煩いなーもー。ば、バカにすんなっての! まだまだこれからだからな!」



GM : 「んで、最初に戻る……3ターン目だ、諸君。コマンド?」


ヒルダ : 「私はファイアガードしか出来ないな……すまん、攻撃に参加できなくて……」


シェヴァ : 「いいよ、ヒルダちゃんは俺たちの事しっかり守っててくれればさ!」


リン : 「ヒルダさんのファイアガードがないと、今のボクたちじゃ、ブレスで全滅ですから……」


フィガロ : 「そんじゃま、ヒルダがブレスの驚異を防いでくれているうちに、俺は混乱の驚異を防いでおこうかねぇ……ガモン、アザステを頼む。猛き戦いの舞曲を発動する」


ガモン : 「……仰せの通りに」


GM : 「んじゃま、3ターン目いってみよー! やってみよー! ターン最初は……」


ヒルダ : 「私のファイアガードか?」


ガモン : 「その前に私のサジタリウスの矢が天空(そら)より相手を射抜く頃でしょう……貫け!」


GM : 「だぁねぇ……とはいえ、ガモンはまだレベルも低めだし武器もさして強いモノじゃないから……ダメージは900強ッて所か」


ガモン : 「……その程度ですか。まぁ、やむを得ませんね、まだ若輩ですから」


シェヴァ : 「って、900!? うぁ、俺のダメージの3倍以上だぁ……」


フィガロ : 「ん、やっぱり発動に3ターンもかかるスキルのダメージは通常のダメージより大きくてしかるべき。じゃないのかねェ?」


シェヴァ : 「んでもなぁ……3倍。うう、そんな違うのかぁ……」


ガモン : 「どうした、自分の実力不足にようやく気付いたのか、シェ馬鹿?」


シェヴァ : 「ちがっ! もー、ガモンの兄ちゃんさっきからうっさいぞー、俺の方が先輩なんだからな。そこで、俺の方が先輩だって所見てろー!」



GM : (うむぅ……やっぱり一度全滅しているからか、さばみその攻撃は慎重だなァ。全体攻撃のブレスは……)



ヒルダ : 「来たか、させんぞ!」



GM : (ヒルダのファイアガードで確実に無効化させられるし……全体混乱スキルは)


フィガロ : 「……とどろく咆吼をつかわれたみたいだねェ。よし、ガモン。アザステで支援してくれ、猛き戦いの舞曲だ」


ガモン : 「了解致しました、マスターの仰せの通りに」


GM : (フィガロが先手、先手で猛き戦いの舞曲をかけなおす事で無効化させているし……これは炎のブレスやとどろく咆吼で隊列を乱すのはちょいと難しそうだな。だが……)



シェヴァ : 「てぇい、ヘッドボンテージ。どうだ! ……これしか減ってないし! むぅ、しかも封じもないしっ……くそー」


GM : (ただ、このシェヴァの火力のなさはネックだな……長期戦になれば、ガモンだってTPがまだそれ程高いキャラではない。こりゃまだまだ崩すチャンスがあるな……)



 等と思いつつ、状況は動かないまま。

 シェヴァがちまちま削りつつ、猛き戦いの舞曲が必要ない時はガモンのサジタリウスの矢で削り。

 随時、リンが医術防御をしながら、ターン数は進んでいく訳で……。




ヒルダ : 「このターンもファイアガードだ!」


フィガロ : 「俺はまだ猛き戦いの舞曲が残ってるよねぇ……ガモン、サジ矢(※サジタリウスの矢)だ」


ガモン : 「了解しました」


GM : 「よし、だったら偉大なる火竜はこのターンで、火竜の猛攻だ! 一気に攻撃力が大幅アップ!」


フィガロ : 「小賢しいねェ……ガモン、アザステをくれ。次のターン、沈静なる奇想曲で一気にうち消してやろうじゃないさね」


ガモン : 「っ……すいません、マスター」


フィガロ : 「何さね?」


ガモン : 「先ほど、サジタリウスの矢を使ってしまったので……私はもう、次にアザステを打てる程のTPがありません」


フィガロ : 「はぁッ!? 何だってまた……確か俺、安らぎの子守唄で毎ターンTP回復するようにしてたよねェ?」


ガモン : 「……すいません」 (汗)


シェヴァ : 「ガモン兄ちゃんのスキル、燃費悪いから……アニキのスキルで回復するより、使うTPの方がずっと多いんだよ」


フィガロ : 「……マジで?」


ガモン : 「……マジです」 (ぼそ)


フィガロ : 「ちょ、おまっ……そういう大事な事はもっと早く言ってくれさね!」


ガモン : 「……面目ない」


ヒルダ : 「仲間内で言い合っている場合ではないぞフィガロ!」


フィガロ : 「っ……ん、そうだね……とにかく、俺は沈静なる奇想曲の準備だ! ガモンはTP回復しておいてくれよ……出来れば、今後はアザステのTPを切りそうな時は伝えておいてくれよな?」


ガモン : 「……気を付けます」


シェヴァ : 「ガモンのにーちゃん、どんまい!」


ガモン : 「お前に言われると何でも腹立つが、今は素直に慰めと受け取っておこう」



GM : 「ふふ……隊列乱れたなら容赦はねぇーぞ! このターンで一気にてめぇーら全員沈めるぅー。 偉大なる火竜の攻撃ィ、ドラゴンテイル! いくぜ、攻撃力きわまった所に、全体攻撃だだだっ!」



ヒルダ : 「……しまった! シェヴァ、リンくん! ガモン! 皆無事か!」


リン : 「んぅ……ぼ、ボクは大丈夫です! 普段のターンはガードしてましたから……」


フィガロ : 「というか、ヒルダ。俺の心配はしてくれないのかねぇ」(笑)


ヒルダ : 「どうせ無事だろ?」


フィガロ : 「ホント、つれないねェ……そういう所、嫌いじゃないけど。ただ今度ばかりは、ご期待に添えないみたいで残念さね……」 (ぐら)


ヒルダ : 「フィガロっ……フィガロ! おい、冗談だろう?」


フィガロ : 「はは、生憎冗談じゃないんさね。いーい所に入っちゃってねぇ……少しばっかり寝てるから、後頼んだよ……」


シェヴァ : 「ちょ、アニキ。アニキ、まってよアニキぃ、アニキー」 (オロオロオロオロ)


フィガロ : 「……」(※返事がない、ただの戦闘不能状態のようだ)


シェヴァ : 「ちょ、どうしよ。アニキいないとまだ敵の攻撃力強いままだよ。ちょ、え、でも皆の体力も減っているし、えっと。おれ……あれ、俺」 (オロオロオロオロ)


ヒルダ : 「……お、落ち着けシェヴァ。まだうつ手は」 (オロオロオロ)


GM : (あ、シェヴァのオロオロがヒルダにも伝染した)


リン : 「そ、そうですよ。まだボクのTPだって充分残ってますから……」 (オロオロオロ)


GM : (リン君にまで!)


シェヴァ : 「え、でも。ちょ、ま。俺……」 (オロオロオロ)



ガモン : 「狼狽えるなシェヴァ!」



シェヴァ : (ビクッ!)


ガモン : 「……少しは落ち着け。マスターが倒れただけ、まだこちらには4人の仲間が残っているだろう。今お前のやるべき事はなんだ。ここで狼狽えてヒルダ様やリン様を、怯えさせる事か?」



シェヴァ : 「違う。違うよにーちゃん、俺のするのは、敵を倒す事……」


ガモン : 「そうだ……その為になすべき事は何だ?」


シェヴァ : 「その為になすべきはぁっ……えっと、赤竜の攻撃。あ、その前に、フィガロのアニキを起こして、それから、えっと……」


ガモン : 「一度にやろうとするな、そんなに器用な男ではないだろうお前は……一つずつ、優先順位の高い順から片づけていけ。いいな?」


シェヴァ : 「……うん」


ガモン : 「……出来るな?」


シェヴァ : 「うん! よっし……ヒルダちゃん、リンちゃん。このターンで一気に復帰にかかるから。リンちゃんはエリアキュアをお願い!」


リン : 「あ、はい。わかりました!」


シェヴァ : 「ガモンの兄ちゃんはTP、さっきのターンで回復したよね? アザステで、ひとまず皆の体力を回復させよ。アニキは俺が蘇生薬で復活させるから……反撃は次ターン以後になるけど、仕方ないよね」


ヒルダ : 「あぁ……とにかく建て直しが優先だからな」


リン : 「えぇ……それじゃぁボク、エリアキュアの準備をします」


GM : (む……軍師役のフィガロを潰せば精神的に崩れていくかとも思ったンだが……思った以上にリカバリーが早いな。まさか、シェヴァが立て直すとは……)


ガモン : 「そうだ、それでいい……シェヴァ、いい子だな」


GM : (いや……ガモンの力量か。シュンスケ君とは違うが……こいつもよく、シェヴァの事を心得ているようだ)



 かくしてその場は何とか建て直し。

 その後も。




フィガロ : 「しまった! 猛き戦いの舞曲つかえずに混乱効果が!」


リン : 「はにゃぁぁぁー。世界がまわってますよ、ほぇぇぇぇぇぇ……」


シェヴァ : 「リンちゃーん、リンちゃーん、今テリアカβ出すからまっててー!」



 時々のうっかりで混乱し、思わぬ大ダメージを受けたりするものの、僅かだが確実にダメージを蓄積させていく。

 そして……。




ガモン : 「サジタリウスの矢……発動、どうだ!」


GM : 「いや、まだ。まだ倒れないッ……」


シェヴァ : 「だったらこれで終わりだ! アームボンテージぃ!」


GM : 「っ……うん、それで終わった……君たちは、偉大なる赤竜を退治した!」




一同 : 「やったー、ぱちぱちぱち!」




 50ターンをかけて無事。

 偉大なる赤竜を退治したのであった…………。





> いのおわりに。



GM : 「とりあえず戦利品は火竜の牙ねー」


ヒルダ : 「ふぅ……何とか倒れずにすんだな……」


リン : 「はい! あ、早く帰ってシグに報告してこようっと」


フィガロ : 「そうさね……おい、ガモン! シェヴァ、帰るとするさね!



シェヴァ : (しょぼーん)


フィガロ : 「おい、早くこいって。置いてくよー、シェヴァ?」


シェヴァ : 「…………あ、はい。アニキ……いま、いきます……」


ガモン : 「……どうした、浮かない顔だな?」


シェヴァ : 「だって、おれさ。何か、格好悪かった……」(しょぼん)


ガモン : 「…………」


シェヴァ : 「オロオロしてばっかだし……ガモン兄ちゃんに結局、世話になってばっかりだしさ……おれ、おれ……やっぱ、ダメだなぁって……」


ガモン : 「…………」


シェヴァ : 「おれ、エトリアではガモンの兄ちゃんより先輩なのにさ……結局、シュンスケが心配してたみたいになったし。だからおれ、やっぱ、やっぱダメな子だなぁ、ってさ……」 (しょぼん)


ガモン : 「そうだな、貴様は未熟なバカガキだ」


シェヴァ : 「うう……」


ガモン : 「だが……今日はよく戦ったじゃないか?」


シェヴァ : 「そ、そう。かな……?」


ガモン : 「お前はまだ未熟で出来る事は少ない。だが、今日出来た成果は胸をはって語っても言いぞ……な、シェヴァ」(ぽむ)


シェヴァ : 「あっ……」


ガモン : 「さて……帰るか。帰ったらシュンスケに自慢してやれ、赤竜を退治してきたでもな」


シェヴァ : 「あ…………うんっ。うん!」



 かくして無事に赤竜退治を終えたさばみそギルドご一行。

 次に戦うのは果たしてどの竜か!


 立ちはだかる残りの竜は、あと二匹!







>幕劇 〜 彼と彼女の事情





 幕間劇をはじめよう。

 君はこの現実の物語につきあっても、付き合わなくてもよい。



 ・

 ・

 ・


 その日のセッション終了後。

 都内、某所(いつもの西園寺研究室)



西園寺馨(GM) : 「よし、本日の営業は終了いたしましたー!」



一同 : 「お疲れでしたー!」



桐生和彦(シグ) : 「よし、と……それじゃ、悪いけど今日は先に帰るな。お疲れー!」


西園寺 : 「ホントに早いな……どうしたの桐生君?」


桐生 : 「いやぁ、若葉(アイラ)が寝込んでウンウン言いながら 「アイスたべたい……あと、栄養剤と冷えピタとまるごとバナナと、ついでに化粧水も切れたから買ってきて欲しいのと、寝込んでいてヒマだからマンガかってきてぇ〜」 ってうなされてるから、早く帰らないといけなくてな!」



西園寺 : 「どう見ても後半、病気関係ねーよそれ! ただのお使いだ!」



芹沢梨花(リン) : 「あ、アイスとかはいいですけど、化粧品とか……何買うかわかりますか、和彦さん?」


桐生 : 「んー、一応メモもらってきたけど……」


芹沢 : 「良かったらボク、一緒に見に行きましょうか?」



西園寺 : 「!! ダメだ! ダメに決まっている! 誰か阻止しろ! 誰か! 誰かぁっぁぁー!」



桐生 : 「そうだな、そうしてくれると助かる………」


芹沢 : 「はい!」



西園寺 : 「だからダメだといっておろうが! おい椎名君止めろ! この男を止めてくれぇぇぇ!」



椎名淳平(シュンスケ) : 「むしろ止めるべきは西園寺さん、どう考えても貴方の方ですけどね」


滝 睦(ヒルダ) : 「よしんば止めたとしても、止めた事で西園寺の好感度が上がる事もなさそうだしな」


七瀬 澪(シェヴァ) : 「はい、どうどうどう……よしよしよし」


西園寺 : 「がるるるるるる……」


神崎高志(フィガロ) : 「この場合、祝福するのが優しさだと思うけど……男の嫉妬はみっともないよ?」


西園寺 : 「嫉妬ではない! ただ一方的に桐生和彦に羨望があり、羨望を通り越して憎しみを抱いているだけだ!」


ウォード=ランカスター(ガモン) : 「そういうのを、簡単な言葉で嫉妬と言うのではないですか?」


桐生 : 「おおっと、怖い怖い……じゃ、しっと団の炎でコゲつかないうちに、俺は退散するかねー……行こうか、梨花?」


芹沢 : 「はい、和彦さん!」 (きゅ、とさりげなく手を繋ぐ)



西園寺 : 「!! 何でワシの目の前で手なんぞ繋ぐのじゃコラぁぁぁ! 説明しろ! いや、説明はいらぬ! 誰か! 誰か! 憎い憎い桐生を討ってくださいまし! 討ってくださいましぃいいぃー!」



ウォード : 「マスター、この人いつもこうなんですか?」


神崎 : 「ん、まぁ起きている時は大概、こういう奴さねぇ……」


桐生 : 「怖い怖い……っと、じゃあな、西園寺さん!」


芹沢 : 「失礼します、西園寺先生!」



 桐生和彦、芹沢梨花が退室する……。



七瀬 : 「……あ、それじゃ俺もそろそろ帰ろうかなァ」


西園寺 : 「……ん、そう。はい、お疲れさん」


滝 : 「芹沢君の時と比べるとえらい淡泊だな、西園寺さん」(笑)


西園寺 : 「七瀬君の下半身にナニかついてなければ俺ももっと必死だったのだろうが、残念ながらついているんだよコイツは……」


滝 : 「本当に正直だな、西園寺さんは」(笑)



椎名 : 「……何だもう帰るのか、澪……大丈夫か、一人で帰れるな?」


七瀬 : 「うん、今日はお店もあるし……それに、一人じゃないよ! ウォード兄ちゃんも一緒に帰るから!」


ウォード : 「別に俺はお前と一緒に、店に戻るつもりはないが?」


神崎 : 「いいじゃない、お前たちどうせこれから出勤だろ。送っていきなってウォード」


ウォード : 「マスターもそう言ってるし……仕方ない、今日は特別だぞ?」


七瀬 : 「はーい、じゃ、一緒に帰ろー」 (ぎゅ、とウォードの手を握る)


ウォード : 「こら、七瀬。あまりくっつくな……」



椎名 : 「そうだ澪ッ、お前は馴れ馴れしく他の男にくっつきすぎだぞ! 離れろ、すぐにだッ!」




西園寺 : 「!!」


滝 : 「普段温厚な淳ちゃんが突然激昂しだしたッ!」



椎名 : 「何故一緒に帰るだけで手をつなぐ必要があるんだ澪ッ! 離れろ!」



七瀬 : 「……ほぇぇぇ? でも、迷子になるからっていつも淳兄ぃは手ぇつなげって言うじゃないか!」




椎名 : 「俺はいいんだ! だが他の男はダメだ!」



七瀬 : 「えー、何でだよー?」



椎名 : 「理屈じゃないッ! とにかくダメだといったらダメなんだ……神崎! ほら神崎も説得してやれ! というかウォードさんもどうして手なんか繋ぐんだ離れろ! いいから離れろォっ!」



滝 : 「理屈じゃないのはわかったから、とにかく落ち着け淳ちゃんッ!」



神崎 : 「うわー、俺今初めて、西園寺先生と椎名君。この師弟がそっくりだと思ったさね!」


西園寺 : 「俺も椎名君にこんな既視感を覚えたのは初めてだ!」


ウォード : 「……この男は、いつもこうなのか。七瀬?」


七瀬 : 「いつもはこんな人じゃないんだけどな……」


神崎 : 「まぁまぁ、みぃ。ここは後、俺が椎名君を説得しておくから、先に二人で出てるといいさね……俺としても、お前たち二人にあまり店を離れてほしくないしねェ」(笑)


七瀬 : 「わかりました。じゃ、アニキ。淳兄ぃの説得よろしくです!」 (すっ、とウォードの袖を握りながら)



椎名 : 「!! こら、澪! 近づきすぎだぞ、離れろッ! はーなーれーろ!」 (じたじた)



滝 : 「淳ちゃん。どうどうどう……」(なでなで)


ウォード : 「それでは、マスター。こいつをつれて、先に店に戻っております」



椎名 : 「ウォードさんも近づきすぎですっ! コイツは見た目は子供ですがもう中身は大人ッ! そんなに近づかなくても事は足りますッ!」 (じたじた)



神崎 : 「どうどう……さぁ二人とも! ここは俺がくい止めるから早く帰るンさね!」


七瀬 : 「ほ、ほぇっ! じゃ、じゃぁ、お願いです、アニキ!」


ウォード : 「お先に失礼します、マスター……」



 七瀬澪・ウォード・ランカスターが退室する……。



椎名 : 「気を付けろよ澪っ……」


滝 : 「そう心配するな……ウォードはあれで信頼出来る奴ぞ、淳ちゃん」


椎名 : 「そうか……それなら……」


神崎 : 「ンでも、最近ウォードはとくに、みぃ(七瀬)に色々と良くしてくれるから仲いーいみたいなんさねーぇ」


椎名 : 「むむ…………」


神崎 : 「ほら、みぃの奴、年上には妙になつく所があるから。うちの面子のなかでも特にウォードには懐いていてねぇ〜」


椎名 : 「むむっ……むぅ……」(汗)


西園寺 : (煽ってる……説得しておくとかいいつつ、がっちり煽ってるよ神崎君……)


滝 : 「さて……七瀬も帰った事だし。今日は少し話をしていきたいのだが、いいですか。西園寺先生?」


西園寺 : 「話! 話ッ……よ、よいですよ。あの、布団とまくらを今、ご用意致しますね……いそいそ」


滝 : 「準備するのは勝手だが、使わないぞ」



西園寺 : 「そんな、今日から使えばいいのに!」



神崎 : 「何言ってるんさね……馬鹿なことばっかり言ってると、今日から使い物にならなくしてあげてもいいんだけどねぇ?」 (ニッコリ)


西園寺 : 「うわぁ怖い! その笑顔怖いよっ……って、何? 何だよその、話したい事って?」


滝 : 「うむ……実は、若葉くん……桐生の妹の、首にある痣……の事、なのだが」


西園寺 : 「痣ゥ……?」


滝 : 「そうだ、首に三角の……そう、ちょうど淳ちゃんの首にある痣だな。それの事について少し聞きたいのだが」


椎名 : 「…………」


滝 : 「今、淳ちゃんの首にある痣と同じものを、私は若葉君の首にも見た……本当に寸分違わぬ程、よく似たものだ……」


西園寺 : 「ほうほう、それで?」


滝 : 「それで私が考えるに……この傷は、人の記憶をユグドラシルサーバーに吸い上げる時につく痣なのではないか?」


西園寺 : 「お!」


滝 : 「憶測にすぎないのだが……淳ちゃんがこの傷の事を知った時、非道く狼狽えたのを覚えている。それに、二人の共通点はそこだろう。それで、よもやと思ったのだが……違うか?」


西園寺 : 「いや、否定する必要はないよな。まぁその通りだよ……ユグドラシル・サーバーが記憶を吸い上げる時にね、どういう訳かこの痣みたいな痕跡が、結構強く残っちゃうみたいなんだよねー……この傷が栗鼠の噛む傷くらいだろう、って事からラタトスクの噛み傷とか呼んでたかな。生前の西園寺が」


滝 : 「そうか、やはりか……だが、この傷が、事故で一度記憶を吸い出された若葉君にあるのは理解出来るのだが……」


西園寺 : 「あぁ」


滝 : 「私は彼女の首にその痣を見る前に、淳ちゃん……椎名の首にも、これを見ている」


椎名 : 「…………」


滝 : 「……そして今、椎名の首にはこの痣が二重になっている……どういう事だ?」


西園寺 : 「……それは」


滝 : 「どうして記憶を吸い上げた時に出る傷が、淳ちゃんの首にはすでにあったのだ? そしてどうしてそれが今、二つ重なっているのだ? 解答は頂けるか、西園寺?」


西園寺 : 「……賢い滝君なら、最後まで説明しなくても。もう、結論は出ているんじゃないかなぁ? ……椎名くん? 言っていい系、これ?」


椎名 : 「えぇ……俺としても特に、隠す必要はないですよ」


西園寺 : 「それなら言うけど、君の憶測通りだよ。西園寺馨が、椎名淳平の性格、人格を奪いユグドラシル・サーバーに吸い上げたのは……今回が二回目だ」


滝 : 「……そう、か……やはり」


西園寺 : 「以前、記憶を吸い上げたのはおそらく1年ほど前だ……そう、その時。オリジナルの西園寺馨は、プロジェクト・ユグドラシルを完遂させるつもりだった。椎名淳平の身体を乗っ取ってね……あの頃の計画では恐らく、椎名君の記憶・知識はこのままサーバー内に封印するか。あるいは、これから死に向かっていく自分の身体に戻して、殺してしまうつもりだったはずだ……」


滝 : 「…………低俗な考えだな」


西園寺 : 「……全く同感だよ。マトモな人間だったら絶対手ェ出しちゃいけない領域だ。ンだが、あの頃の彼……西園寺馨には、どうしてもなし得たい事だったんだ。寿命が差し迫っていたからね」



 寿命が差し迫っていたのは、西園寺馨本人もそうだった。

 だがそれ以上に、彼の母の事もあるのだろう。

 椎名は漠然とそう思ったが……口には出さずに黙ってそれを聞いていた。




神崎 : 「……んじゃ、アレかい。1年前、椎名君は一度……西園寺馨に身体を奪われたのかい?」


椎名 : 「……あぁ、そうだ」


神崎 : 「何だ、とッ!? ……って、でも椎名君、別に全然普通の椎名君だよねぇ? そんな形跡ないんだけど?」


西園寺 : 「あはは、当たり前だって! ……生前の西園寺馨はねぇ、一度。椎名君の身体を奪う事に成功した。んだが、何故か知らないんだけどね。その身体を、すぐに返しているんだよ」


滝 : 「返し……本当か? 一体、何故」


椎名 : 「それは……わからない。西園寺先生に聞いても、とうとう最後まで教えてはくれなかった、今でも謎の一つだ……」


西園寺 : 「だが、その西園寺の奇妙な行動……椎名君の身体を奪う事に成功しながらそれをまた元に戻すって行為のおかげで、椎名君は死なずにすんで……俺が生まれた訳だけどな!」



滝&神崎 : 「は?」



椎名 : 「……西園寺さん。今俺たちの目の前に居るこのホログラムの西園寺馨という人格は、その時の事故で生まれた複製人格なんだ」


滝 : 「何ッ、事故!?」


西園寺 : 「そう……西園寺馨は、一度椎名君の中に自分に記憶・知識を置いてきた関係で、電脳(コッチ)に戻ってきた時、そういったモノをうまく統合する事が出来なくなっててね……で、出来たのが俺。電脳世界で西園寺馨が、普通に生活する為に必要なデータの残骸が意志をもったもの……それが俺の正体だよ」


神崎 : 「なるほどねぇ。だからカオルちゃん先生は、人格に著しい破綻を起こしているって訳さね!」


西園寺 : 「ちょ、何非道い事言ってるんだよ。俺別に人格に著しい破綻はおこしてねぇーよ!」(笑)


滝 : 「だが……なるほど、そうだったのか……」


西園寺 : 「そう……だから俺は西園寺馨って存在の自我を維持するためのデータであり……彼の一部でもあったから、西園寺馨と。そう名乗らせてもらっているって訳さ」


椎名 : 「最も今の西園寺さんは、生前の西園寺先生と比べればやや、落ち着きがなくなってますがね……」


西園寺 : 「あはは、誉めるなって!」


神崎 : 「誉めてないと思うけどねェ?」



西園寺 : 「……まぁ、こんな出来損ないの残骸から生まれたコンプレックスはあるから。かつて一度は西園寺馨になった事のある椎名君に劣等感を抱いた事もあったし」


滝 : 「劣等感? あるように見えないが?」


椎名 : 「言わないでやってくれ、滝。これで西園寺先生は、案外繊細なんだ……俺の事を本物の西園寺馨とか呼んだりして、うらやましがっていた時期もあるからな」


神崎 : 「しかしまぁ、何でまた西園寺は一度は達成した計画を無駄にしたりしたんさねぇ?」


西園寺 : 「そうだなァ……あの時の状況はよくわからないけど、確かに謎だよね。実際、西園寺馨は、自分の人格を椎名君にうつす計画はしていたはずだけど、椎名君の中にいる自分をまたユグドラシルサーバーに戻す事に関して、計算してなかったはずだ。やらなくていい事、だからね」


椎名 : 「……」


西園寺 : 「ただね。今、君たちを見ていて。俺は、何となくそれがわかるんだよ。あの時の西園寺馨が、椎名君にならなかった理由がね……」


神崎 : 「へぇ……カオルちゃん先生は、それをどう考えているんさね?」


西園寺 : 「あはは。憶測にすぎないしそんなの言えないって。ただ……多分ね、高志君。君が漠然と考えている事、多分それと大差ないと思うよ?」



 西園寺は悪戯っぽく笑うと、それ以上は何も言おうとしなかった。

 だが……。



神崎 : 「……そうさね。いや……そう、なんだろうねぇ」



 言わずにも伝わる……そう。

 神崎もまた漠然と思っていたのだろう。

 椎名淳平になれる人間は、椎名淳平だけしかいないという事を……。


 神崎だけではない。

 滝も恐らく同じ事を考えていたのだろう。

 それ以上何も言わず、黙って静かに目を閉じた。


 …………今はもうここには居ない。

 西園寺馨……生前の西園寺、その姿を思い浮かべながら。



 ・

 ・

 ・


 一方その頃。



桐生 : 「よし、まるごとバナナOK……これで買い物終了だ。ありがとな梨花、おかげで買い物、早く済んだぜ」


芹沢 : 「いえ、とんでもないです! ボクも買い物、結構楽しかったですから」


桐生 : 「いやー、ホントに助かったぜ…………」


芹沢 : 「? どうしたんですか、和彦さん」


桐生 : 「いや、な。梨花とはまだ会ってから1年ちょい……この、世界樹のセッションで知り合ったばっかりのはずだろ?」


芹沢 : 「えっ。あ、は。はい……」


桐生 : 「でもよ、何か……俺、前から梨花の事を知っているような気がしてな!」


芹沢 : 「!!」


桐生 : 「なぁんて……はは。キザな口説き文句みたいになったな、悪ぃ悪ぃ」



芹沢 : 「あ、実はあの…………………ぼく、初めましててじゃ、ないん、だ。なんて、あはは……


桐生 : 「?」


芹沢 : 「あ、あの。和彦さん、覚えてますか。もう、3年。ううん、4年くらい前に、バイトで……」


桐生 : 「???」


芹沢 : 「新人のバイトにすぐ、えっちな事とか。いやな事をいう店長に困っていた所を、助けてくれた事とか……ありませんでしたか?」


桐生 : 「バイト、バイトか……俺結構色々やってたからな……


芹沢 : 「エッチな事をいう店長に何も言えなくてもじもじするだけだった時、 『やめろよ嫌がってるだろ』 って。見て見ぬふりをする人が多いなか、堂々と言って助けてくれた……そう、ボクね。桐生さんに以前一度……そうやって、助けてもらっているんです」


桐生 : 「? あぁ……俺、結構バイト時代、何処でも似たような事していたからなぁ……道理じゃねぇと思ったら黙ってられねぇせいで、色々あったし……」


芹沢 : 「あはは、そうじゃないかなぁって思いました! あの時、困っているボクを、貴方はあまりにも当たり前みたいに助けてくれたから……」


桐生 : 「そんな……俺はただ、ヘンな真似している奴が嫌だからってだけで……」


芹沢 : 「でもボクにはそれが凄い事だったんです。誰かの影に隠れるだけのボクには……そして、その日から貴方は、ボクの憧れだった……」


桐生 : 「…………」


芹沢 : 「桐生さん。って名前だから、若葉さんにお兄さんが居るって知った時、ひょっとしたらなぁって思ったんですよ。それで、ボク。貴方にまた会えた時、勝手に運命だ、って思ったりもして…………」


桐生 : 「あはは……悪かったなァ。運命感じた相手が、実際会ってみたら触手ゲーマーでさぞやガッカリしただろ」(笑)



芹沢 : 「はい!」


桐生 : 「うわぁ、爽やかな笑顔で肯定! 肯定されたよ!」


芹沢 : 「えへ。でも、話してみた和彦さんがボクのイメージと結構違ったのは本当ですよ。和彦さんは結構お調子者だし、えっちな事すぐ言うし……」


桐生 : 「う!」


芹沢 : 「でも……何だろ。ボクは……憧れだった時の桐生さんより、今の和彦さんの方がずっと……好きですよ。なんて……」


桐生 : 「? ん、今何かいったか、梨花?」


芹沢 : 「べ、べ、別に。何でもないですよ!」(あせあせ)



桐生 : 「……そっか」


芹沢 : 「はい…………」


桐生 : 「……りっちゃん?」


芹沢 : 「!?」


桐生 : 「いや、そのバイト先で梨花。ひょっとして、りっちゃんって呼ばれてなかったか。友達っぽい子に……」


芹沢 : 「え、あ……あ、はい! あの、覚えていたんですか……?」


桐生 : 「いや、俺……あのバイト先はほら、店長に文句言ったからすぐ辞めてんだけど。その時にさ。りっちゃんって眼鏡で一つ縛りの子が居た覚えがあるから……」


芹沢 : 「あ、あ……そ、そ、それ、たぶんボクです! あ、昔、ボク、眼鏡よくかけていたから……今はコンタクトなんですけど」


桐生 : 「そう、なんだ。そうか、いや……実は、やんわりと見た事あるし。そうじゃないかとも思ってたんだが……」


芹沢 : 「何ですか、気付いたなら言ってくれれば……」


桐生 : 「いや。あの時は可愛いなと思っただけだけど、こんなに綺麗になっているなんて思わなくてな……」


芹沢 : 「え、あ……な、何言ってるんですか。もう……」


桐生 : 「あ。いや……その、何だ。梨花。今日は、手ぇ繋いで帰らないか?」


芹沢 : 「えっ!?」


桐生 : 「…………いいだろ?」


芹沢 : 「あ…………はい!」



 二人の指先が自然と触れ合う。

 二人の間に、暖かな時間が流れていた。




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