翌朝、ルークはそれまでの軟禁生活が嘘のようにあっさりと都城を許された、 謁見の間でルークを待っていたのはインゴベルト六世陛下とその娘ナタリア、大詠師モース。 そして二度と会うこともないだろうと思っていたティアやジェイド達だった。 むろん内務大臣や父であるファブレ公爵、キムラスカ王国軍第一師団師団長ゴールドバーグ、セシル少将と言った国の重鎮もいる。 そこでルークは緊急議会の末マルクト帝国と和平条約を締結することが決まったこと、そしてその第一歩として親書にあったアクゼリュスの救援要請に応えることになった旨を聞かされた。 アクゼリュスはマルクト領にある良質な鉱物が取れることで有名な鉱山都市なのだが、今は大地の毒素である瘴気により壊滅的な危機に陥ってしまっているのだと言う。 マルクト側の街道が瘴気に覆われてしまったため救援活動は難航しており、和平の印としてカイツール側の街道から………アクゼリュスは嘗てキムラスカ領土であったことから双方に街道が繋がっている………その救援を行おうと言うのだ。 「………そこで、お前をキムラスカ・ランバルディア王国の親善大使に任命する。この役目はお前でなくてはならぬわけがあるのだ」 重々しく告げられた言葉に、ルークは深々と垂れていた顔を上げて玉座に座る伯父を見た。 訝し気な表情を浮かべるルークに、彼は一枚の硝板の様な………不思議な光沢を放つ譜石の欠片を指し示す。 「これはわが国の領土に降った、ユリア・ジュエの第六譜石の一部だ。――――― ティア、この譜石の下の方に記された 兵士が恭しく捧げ持つ譜石に、一礼したティアが歩み寄る。 譜石に記された 「………ND2000。ローレライの力を継ぐ者、キムラスカに誕生す。其は王族に連なる赤い髪の男児なり。名を《聖なる焔の光》と称す。彼は、キムラスカ・ランバルディア王国を、新たな繁栄に導くだろう」 譜石に触れた彼女は、どこか陶然とした様子で謡う様に 「………ND2018。ローレライの力を継ぐ若者、人々を引き連れ、鉱山の町へと向かう。そこで ――――― ………この先は、欠けています」 「………つまりルーク、お前は選ばれたのだよ。………今までその選ばれし力を狙う者から守るため、やむなく軟禁生活を強いていたが、今こそ英雄となる時だ」 頭の中に、連絡船の中での師匠の言葉が蘇った。 『――――― ルーク。超振動と言う力が、お前を英雄にしてくれる』 (……… ヴァン以外の誰も気付くことはなかったが、あの船旅の途中、甲板で例の頭痛に襲われたルークは内にある力を………其れまで意識していなかった、ローレライの力を暴走させかけていた。 師匠がそれに気付き、力を制御してくれなければ大変なことになっていたかもしれない。 その時ルークは、自身が軟禁されていた真の理由を聞かされたのだった。 すなわち、世界でただ一人、単独で超振動を起こせるルークを、飼い殺しにする為なのだと。 誘拐前の数年間、ルークは超振動の この実験は酷い苦痛を伴い、意識を失うこともしばしばあったのだが、この実験がキムラスカ………ひいてはオールドラントの為と説明されれば否を告げることなど出来なかった。 ――――― だから、知っている。 国が、軍の上層部がどれだけその力を欲しがっているか。 その力がどれだけ貴重なものか。 その力のために自分は軟禁されている。 成人すれば軟禁は解かれ、ナタリアと結婚することになっているが、実質的には軟禁場所が城に変わるだけに過ぎない。 一生………否、少なくとも国王が逝去し、自身が王となり国を掌握するまで、だろうか………そうやって、兵器として軟禁され続けるのだと思うとぞっとした。 そんなことの為に。そんな形でこの国を支えたいと思ったわけじゃない。 そう言ったルークに、ヴァンはこの戦争を回避し、その功を内外に知らしめ………超振動の力さえ使いこなすことで英雄になれと言った。 そして自由を掴めと………お前ならそれが出来ると、自分もそれに協力すると言ってくれたのだ。 その信頼に応える為に、ルークも動かなくてはならない。 ――――― 英雄に、なるために。 「………その役目、謹んで承ります」 ルークは再び深々と頭を下げ、インゴベルト六世陛下に恭順の意を示した。 |
ちょっと短いのですが区切り的にこの辺で。 へこんだり自分的に難しい山場に唸りつつ、書き進めています。 ストーリーのある長編は齟齬が出ないように何度も読み返しながら進めていくので、時間がかかります……でも書きたいシーンに到達するまで頑張るんだ!! |