「……どこまで把握してんのか、洗いざらいしゃべってもらおうか」
 買出しに行くと言った手前、手ぶらで帰るわけにもいかないのでとりあえず、目指したのは学校の近くのコンビ二だった。
 ――――― けれど、駐車場で足を止めてがっつり襟首を掴んで凄んでみたところで。
「僕、チョコミントが食べたいなぁ?」
「…………」
 ウィンドウを指差してにっこり微笑む亜紀人に勝てるはずもない。
 渋々チョコミントのアイスと、自分用にコーラのペットボトルを購入した葛馬は亜紀人と並んでコンビ二裏の日陰に座り込んだ。
「やっぱりチョコミントだよねぇ」
 ちらちらと自分を伺う葛馬に気づいているにもかかわらず亜紀人は自ら口を開くことはなく美味しそうにアイスを頬張っている。
「………俺らが付き合ってんの、いつから知ってたんだよ」
「あ、やっぱりそうなんだ?」
 堪り兼ねて口を開いた葛馬に、亜紀人は平然とそう宣まった。
「……ぇ?」
「いつからって言うか……ちょっと前からそうかなーとは思ってたんだけど、確信したのはついさっき? カズ君反応わかりやすいよねぇー」
(………ハメられた……!)
 面白いなあ、と言わんばかりの完全に楽しんでいる表情で葛馬はようやく自分がハメられたことを悟った。
 ――――― 多分、確証はなかったのだ。
 幾つかのヒントと葛馬の態度、スピット・ファイアの行動からカマをかけただけのことで。
「……じゃあ他の奴らは、知らねぇんだな?」
 怒りを抑えた低い声で問うも亜紀人はちっとも怯む様子もなくにっこりふんわり女の子と見紛わんばかりの笑みを浮かべた。
「多分ねー。でもイッキ君達はともかく女の子は鋭いから隠したいならもっと気を付けた方がいいと思うよー」
「え?」
 その言葉の意味がわからず葛馬は目を瞬かせる。
 ………気をつけてはいる、つもりだ。
 学校で会う時はなるべく二人きりにならないようにしているし、話す内容だって気をつけている。
 そうやって隠してるのも時々罪悪感、ではあるけれどカミングアウトしてしまう勇気もない。
(………男同士、じゃなかったら言えた……んだろうけど)
 スピット・ファイアはそんなこと気にしてなくて、だから完全に葛馬の我侭で、それを許してくれる彼に甘えてしまっている形だ。
「前はオニギリ君ちでご飯食べたり遅くまで騒いだりしてたけど最近早く帰ること多くなったし……そう言う時に限っていつもと違う方向に帰ってくんだよねぇ」
「……………そう、だっけ?」
 予想外のそれにきょとんとした表情が浮かんで、それからすぐにぐっと眉根が寄せられた。
(………気づかなかった。つーかよく見てやがる……!)
 苛立ちと混乱を拡散させようとするかのように片手を口元に運び親指の爪先を齧る。
 どうしよう、どうしたらいいんだろう。
 ここまでの口振りからすぐにどうこう、と言うことはなさそうだが相手がどういうつもりなのか、どう口止めをすればいいやら皆目見当がつかない。
「……安心してよ、僕はカズ君の味方だから」
 その仕草を見ていた亜紀人は、数瞬の間を置いてにーっこりキレイに隙一つない、それ故にどこか胡散臭い笑みを浮かべた。
「………何企んでやがる」
「……別に? ただそうだなぁ……強いて言うなら利害の一致、と言うか?」
「利害?」
 何の話なのかさっぱりわからず眉間の皺を深くする葛馬に取り合わず亜紀人はにこにこ笑っている。
(……いったいどう言うつもりなんだ?)
 亜紀人がイッキ以外に目を向けることは珍しく、思わず向いた咢の問いに彼は密かに黒い笑みを浮かべた。
(親友、っていうのは下手すると幼馴染と同じぐらい強力なライバルだからね〜)
 イッキと葛馬、オニギリの三人は何だかんだで仲が良くて三人で行動することが多い。
 恋する乙男(?)としてはやっぱり二人きりの時間を増やしたいわけで。
 オニギリは欲のベクトルが極端に一方向に向かっているのでどう擽ればいいのわかりやすいのだが、葛馬は欲が薄くてその分動かしにくかった。
 だからこれは亜紀人にとってもチャンス、だ。
(スピット・ファイアとうまくいけばイッキ君達と居る時間も減るだろうし〜、僕も幸せだしカズ君も幸せだしで一石二鳥じゃない? 大丈夫、あの人自分のものは大事にするタイプだと思うしー)
 取って付けたような後半に咢は心の中で愛しい半身に胡乱な目を向けた。
 ……鮫島の血は怖い、そんなことを思いながら。


「ま、ソレはいいとして〜、参考までにイロイロ聞かせてよ」
「何の参考だよ」
 結局話を濁した亜紀人に葛馬は眉を顰めて複雑な視線を向ける。
 コイツに拗ねた顔を見せるのは悔しいし、かといって平静な表情を作れるほど大人でもない。
 その苛立ちにも似た感覚をどこかに流してしまおうとするかのように勢い良く少し温くなったコーラを煽った、次の瞬間。
「僕とイッキ君の将来のた・め・の v 」
「ぶはっ!!」
 葛馬はきゃっと頬に両手を当てて可愛いらしいポーズで身をくねらせる亜紀人に、吹いた。
「ちょっとー、汚いじゃない」
「げほ、ごほっ……ッ、おまっ!!」
(本気だったのか……!)
 あまりにもあからさまな態度に半分冗談なんだろうと思っていた。
(……イヤでもそう言えば何度もキスしてるって……うわー……えぇ!?)
「イ、イッキにはリンゴが……」
 居るじゃん、と混乱しながらもぼそぼそ口にして。
「僕愛人でもいいしー」
 続く台詞に言葉を失った。
 どこまでが冗談でどこまでが本気なのか、さっぱりわからない。
(イッキを好き、なのは間違いないんだろうけど……)
 それが何を意味しているか、どういう方向に向いているかは葛馬の理解の範疇を軽く超えている気がする。
 何を返せばいいかわからず口をぱくぱくさせる葛馬に亜紀人はにっこり微笑んだ。
「……あんまりぐだぐだ言ってると話すよ? バラすよ? 触れ回るよ?」
わたくしが悪うございました」
 ばっとアスファルトに手を突いて頭を下げる。
(こいつを敵に回すとヤバイ……!)
 だらだらと冷たい冷や汗が背中を伝のがわかった。
「よろしい。で、どこまで行ったの?」
「………え?」
 満足気な声に顔を上げるとすぐ目の前に迫ってきていた亜紀人の顔にはっきり、わくわくと書いてあって。
 葛馬は慌ててぶんぶんと頭を振って否定の声を上げた。
「ど、どこまでって、別に何にもしてねえよ!!」
 ……キスは、したけど。
 それ以上のことも途中まではしたけど、でも未遂だからまだシテないで間違いないはず。
「残り香がべったり残るぐらい側にいて何にもしてないの!?」
「べっ……!!」
 けれどそんな葛馬の言葉をまるきり信じる様子もなくうっそだぁ、と高い声を上げる相手には目を白黒させるしかない。
「肌が擦れないと匂いなんか移らないよ? 第一相手は大人の男! 其処まで行ったら何かあって然るべきでしょ!!」
「ないないないマジないって!!」
 然るべきってなんだー!!と、叫びたい気持ちを押し殺して葛馬は両手を顔の前で振った。
 とにかくこの話題から離れないと不味い、と言うのは長年の虐められっ子人生で培われた本能で痛いほど感じている。
「何にもしてないなんてありえないよ!」
「ホントに何にもしてねえよ! さ、触られたり一緒に寝たりしたことはあっけど、ホンットーにそう言うことはまだしてないからッ!」
 半ば自棄になって叫んだ次の瞬間。
「……まだ、ね」
「!」
 ふぅん、と意味深に鼻を鳴らされて葛馬は硬直した。
「………ぁ、いや、その……ウソウソ、今のウソだから!!」
「……カズ君、往生際が悪いよ」
 にっこりキレイな、似非天使の笑顔が浮かんだ。

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 亜紀人君大暴走。
 イッキ大好きですよね〜、でも彼には好きは一種類しかないんじゃないかなと思ったり……とりあえず亜紀人はイッキを(どんな意味かは置いといて)大好きだなあと思います。
 それにしてもちょっとうちの亜紀人は黒すぎるかしら…(笑)。

2007.08.12

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