「……ん……」 ちゅ、と小さな音が漏れる。 唇を舐められて、誘われるようにそろりと開いたその挟間に舌が差し入れられて漏れた音だ。 始めは柔らかくそろりと、少しづつ大胆に、けれど妙にゆっくりと口腔を掻き混ぜられてそれが恥ずかしいような、擽ったいような不思議な感じだ。 「……ん、ふ……」 初めてではないからか前より少し余裕があって、けれどやっぱり恥ずかしくてほんのり頬が赤くなった。 緩く腰に回った腕がぽんぽんと柔らかく、幼い子供にするようにリズムをつけて其処を撫でている。 その子供扱いと、深いキスのギャップに思わず苦笑いが漏れた。 「……あんま子供扱いすんなよ」 「………しなくていいの?」 クスクスと小さく笑う音が聞こえる。 「……っ」 それとほぼ同時に、視界が陰った。 殆ど衝撃を感じないぐらいゆるやかな動きで、抱き込まれたままソファに倒れ込まされたのだと気付いたのは視界に見下ろしてくる男の顔と高い天井が映ってからだった。 覆い被さるような姿勢になっている男の身体は予想外にずっしりと重く、しっかりとした身体付きで葛馬は目を瞬く。 「お、お前、細いクセに何かスゲー、重いんだけど……」 「………カズ君は細いね……折れちゃいそうだ」 半ば呆然と呟く葛馬に柔らかく笑って、スピット・ファイアは無駄な脂肪はおろか筋肉さえも薄い、骨ばった小さな身体を愛おしそうに辿る。 「……ぁ……」 数瞬遅れて状況を把握して、葛馬はぱっと顔を赤くして慌ててきょろきょろと辺りに視線を泳がせた。 身体に触れる指先は決していやらしい手付きではないのだが、押し倒されて見下ろされている状態には変わりない。 (……ッ、やっぱそういうこと、すんのかな?) 圧し掛かっていた身体がふっと軽くなったかと思うと、肘で身体を支えた相手が顔中にいくつも、いくつも繰り返しキスを落としてきて、葛馬は反射的に瞼を伏せた。 整った綺麗な顔があまりに近すぎて、恥ずかしくて直視できなかった。 「………怖い?」 「……こ、怖かねぇけどさ……っ……」 低い囁きと共に大きな掌が柔らかな髪を掻き上げて、露わになった額にも口付けが一つ。 腰に回っていた腕がパーカーの裾から入り込んできて、葛馬は小さく息を呑んだ。 長い指先が先程とは違う意図を持った動きで薄い腹部を、臍を辿り、擽ったさにびくっと身体が跳ねる。 (………大丈夫。絶対、大丈夫、だ) 葛馬はぎゅっと目を瞑って、自分に言い聞かせるように何度も口の中で呟いた。 この人が自分を傷つけることは絶対に無いと信じている、だから不安はない。 けれど恥ずかしくて居た堪れなくて、逃げ出したくて、自分でも緊張に身体が強張っているのが分かる。 「……ウソツキ」 くす、と笑みを含んだ声が落ちて、葛馬は真っ赤になった顔を隠すように外方を向いた。 「うるせぇッ、すんならさっさとしろよッ!」 「……色気無いなぁ……」 呆れたような、その癖どこか楽しそうな声が響く。 外方を向いた所為で相手の方を向いた耳朶に柔らかな口付けが落ちた。 緩く其処を食まれて、慌てて押しのけようと手を伸ばせばその指先をも含まれて、小さな爪を辿るように舌が這わされてぞくりとする。 「……ちょっ、擽ったいって!」 「………擽ったい、だけかな?」 「……ッ……」 揶揄るような口調で問われて思わず目を見開けば、真っ直ぐに、柔らかく見つめてくる瞳に捉えられて、耐えかねて葛馬はぼそぼそと小さく応えた。 「………けって、わけじゃ、ない、けど……」 小さく尖らされた唇にちゅ、と軽いキスが落ちる。 臍の辺りで遊んでいた指先が胸の方に移動して薄い胸を撫でて、葛馬はぴくっと小さく肩を揺らした。 「……っぅ……」 頂きの皮膚の薄い部分を繰り返し撫でられて、寒くてぞわっとするトキの様に其処が次第に固くなってくる。 米粒のように固くなった其処を指で押し潰すようにされて小さな息が漏れた。 身体の中央に向かってぞくぞくとした擽ったさにも似た感覚が走る。 「………ッ……」 カチャカチャと微かな金属音を響かせてジーンズの前が開かれるのがわかった。 咄嗟にしがみつくように男の首に回した腕に力を込めて、ぎゅっと目を瞑れば、大丈夫と言うように再度額にキスが落ちて、同時に下着の上から中心に骨ばった指が触れた。 驚かせないようにだろうか、酷く優しい手付きが気恥ずかしくて思わずもぞもぞと腰が動いてしまう。 (……ひー!) 内心悲鳴が上がりそうになるのを必死に堪えて、葛馬は男の首に一層きつくしがみついた。 「……すごく緊張してる」 「っぁ……」 くすくす、と耳元で笑う音がして、文句を言おうかと思ったけど、声が震えてしまいそうで何も言えなかった。 柔らかく其処を探っていた長い指先が下着を掻い潜り、直接自身に触れて身体が強張る。 「ちょっ、やっぱやっ……ゥんッ」 緊張に縮こまったものを緩く揉まれて予想外の感覚に鼻にかかったような声が漏れた。 あの魔法のような指先が自分のものを包み込むように握っている、そう思うだけで心臓が痛いぐらい激しく脈打っている。 それなのに男は信じられないぐらい巧みで、緩く親指で裏側を辿るようにされるだけで自分が簡単に熱を持って目が回りそうになってしまうのが悔しかった。 (………自分ですんのと、全然違っ……) 恥ずかしくて居た堪れなくて、けれど蕩けそうなほど気持ちいい。 腰の辺りに鈍い熱が重く溜まって、立ち上がったそれが震えているのがわかる。 とろりと先走りが溢れて、それを擦り込むように長い指が動くのに粘着質の水音が響いた。 「っだ、もッ……」 聞き覚えのない音ではないはずなのに、でも酷くいやらしく聞こえて泣きそうになって男を押しやろうとするが広い胸はびくともしなかった。 「………やめる?」 「ぁっ……はッ……」 かと思うとふっと動きが止まって、先程とは違う緩い動きで先端の敏感な箇所を撫でられて眩暈がする。 思わずギュッと相手のシャツを握り締め、葛馬はきつく唇を噛んだ。 答えを待つように、男は無言のまま、ただ薄い皮膚の感触を楽しむかのように周辺に指を滑らせている。 口元には何時もの穏やかな、けれどどこか楽しんでいるような笑みが浮かんでいて、こっちの状態をわかってやっていているのだと気付いて葛馬は眉を顰めた。 「……ッ、テメェ……性格、悪ィ、ぞっ……」 焦れったくてもどかしくて、抗議の声もどこか熱っぽく上擦ってしまう。 「……カズ君があんまり可愛いから」 ちゅ、と小さく音を立てて鼻先に唇が落ちる。 「……続き、してもいい?」 「………っ、ん……」 額にも、瞼にも、唇にも、幾つも幾つも、飽くことなく繰り返し落とされる、キス。 葛馬は眉をきつく顰めたまま、ごくごく小さく頷いた。 逃げ出した気持ちでいっぱいだったけれど、このまま放置されても耐えられそうになくて。 「………カズ君……」 慣れないに快感に声が漏れてしまいそうになるのを堪えてだろう、息を詰めている所為もあって頬が赤く染まっているのに眼元を緩める。 物慣れない様子が愛おしくて、スピット・ファイアは葛馬の快楽を引き出すべくゆっくりと指を動かしながら顔中にキスの雨を降らせた。 腕の中にある小さな身体の熱が次第に上がってきたのがわかる。 内腿に走る緊張に意図して少し強く先端を弄った瞬間、びくっと小さな身体が跳ねるのがわかって。 次の瞬間、とろりと温かな感触が大きな掌を濡らした。 「ん、んぅっ……」 慌てて口を押えたけれど、鼻から息が抜けて変な声が漏れてしまうのを押えられなかった。 目も眩む様な快感、それから独特の脱力感。 「……っは……」 詰めていた息を吐き出して、葛馬は身体の力を抜いた。 柔らかいソファのクッションに沈み込み、恐る恐る相手を見上げれば少し心配そうに覗き込んできている茜色の瞳が見えて、安堵にも似た感覚を覚える。 (………っぱり、好き、なんだよな……) ぼんやりと浮かんだ考えにまたほんのり頬が赤く染まった。 「………大丈夫?」 「ぅ、ん……」 低く囁かれてこくりと小さく頷くと再度額にキスが落ちてくる。 擽ったいような優しい感触が気持ち良くて、葛馬はうっとりと目を閉じた。 (………れ、すっげー……瞼、重い……) |
一ヶ月開いちゃいました〜(汗。どうにかこうにか連載再開です。 途中まで書いていたのですが中々難産でした…(汗。 一度進まなくなると同じところで何度も躓いて堂々巡りに……orz。 |