小烏丸の練習場所は基本的にホームエリアである東中周辺である。
 嘗ては取り立て目立つことの無かったその場所に、最近ちょこちょこと有名人が訪れるようになった。
 小烏丸の名が高まり注目度が上がり、さらにジェネシスと組んだことによって、状況が目まぐるしく変わっていったからだ。
 よく見るところでお目付け役として始終イッキに張り付いているアイオーン、稀に顔を覗かせるのが創世神ジェネシスの創設者渡り鳥のシムカに炎の王スピット・ファイア。
 今も、屋上の給水塔の上に腰を下ろした炎の王が学校の壁を利用して壁登りを練習するチームを見下ろしている。
(………なんだか最近メンツがやたらとゴーカになってきたわね)
 いつものように練習風景を見学していたエミリは腕を組んで壁に凭れたまま、うーんと小さく唸り声を上げた。
 ATをやらないエミリにもどうやらスゴイ人達らしい、というのはわかる。
 流石に毎日居るからアイオーンには慣れた。
(……ヘンな人だけど悪い人じゃないし意外と取っ付きやすいし。)
 噂ではホモらしいけどどうなんだろう、とぼんやりと考える。
 否、逆にホモだから女性陣には安全なのかもしれない。
(………つーことはむしろカズ様とか危ないんじゃ……いやでもイッキ君にべったりだし…それは仕事なんだっけ? そう言えば亜紀人君もホモ…?)
 初めて会った日、イッキ君相手に思いっきりぶちゅっとかましてくれたキスは忘れられない。
 ………意外とそう言う人は身近に溢れているのだろうか。
「……!!」
 ぶんぶんと頭を振って怖い考えを振り払い、エミリはアイオーン以上の大物二人を思い浮かべた。
 アイオーンをお目付け役として派遣した張本人と、真上にのんびりと座っている炎の王のことである。
(シムカさんはまぁ当然と言えば当然なんだけどこっちにまるっきり興味はなさそうな感じつーか……でもまぁ悪い人じゃないって言うか、話すと結構普通っぽいって言うか、むしろ面白いって言うか……)
 美人でスタイルもいい、その点では確かに群を抜いている。
 だが年もエミリ達とあまり変わらなそうに見えるし、ハイテンションだし、センスがちょっとヘンだし。
(……トドのつまりそんなスゴイ人には思えないし……)
 だが炎の王は少し、違った。
 多分、きちんと話したことがない所為もあるのだろう、どこか雲の上の人的な印象がある。
 細身ですらりとした体型で、整った顔立ちで、いつも穏やかに微笑んで余裕たっぷり。
 いかにも大人の男性と言った感じの人だ。
 きっと話し掛けたら柔らかく応対してくれるに違いない。
(……でもなぁんか、取っ付き難いのよね)
 『王』から、だろうか。
 でも何だかそれだけじゃないような気がする。
 そう思った時フッと目の前が翳った。
 ジャッと独特の音を立てて炎の王が給水塔から屋上へと下りてきたのだ
「………ぁ……」
 何時の間にか自分の考えに沈んでしまっていたらしい。
 一通りの練習を終えたのか、葛馬達が屋上に戻ってきている。
 慌ててタオルとペットボトルを手に駆け出したエミリよりずっと早く、炎の王は葛馬の側へと走り寄っていた。
(……AT履いてるんだから当たり前っちゃ当たり前なんだけどさ)
 何だか悔しい。
「あっちぃ〜……」
 膝に手を当てて半ばしゃがんだ体制でトレードマークのニット帽を取って、それでハタハタと顔を仰いでいる葛馬の隣に立った王はひょいと無造作に手を伸ばしてそのさらさらの金髪に指を絡めた。
「ん?」
 何、と言うように無造作に、何の警戒心も抱いていない無防備な表情で顔を上げる葛馬。
(ギャー!!)
 内心、悲鳴が上がった。
 ゴトリと音を立ててペットボトルが落ちる。
(何やってんのアンター!! あたしでも触ったことないっつーの! つーかココに居たか、ココにも居たかホモ野郎!!)
 声に出せない悲鳴に身悶えるエミリに気付いた様子もなくスピット・ファイアは葛馬の頭を検分している。
「……カズ君、そろそろうちに来た方が良くないかい?」
「え? もうそんなんなってる?」
 覗き込むスピット・ファイアの台詞に葛馬は驚いたような顔で……そこでようやく驚いた顔ってどうなの……自身の頭を押えた。
(………ナンですか今の会話。ウチって何!? ウチってー!?)
「だ、大丈夫!?」
 ぐるぐる回るエミリに慌てて弥生が駆け寄ってくる。
「……またお願いしちゃってもいい?」
「いいよ。今日は休みだし、この後で良ければ」
「サンキュ、俺も今日用事ないし……」
 気負う様子もなく穏やかに、和やかに、極自然に進んでゆく会話。
「………ちょ、すみませーん、話が見えないんですがー…」
「つーか何、お前ら知り合い?」
 親しげな様子が意外だったのかイッキ達まで興味深気な視線を向けてくる。
「あー、こないだ公園で偶然会ってさ、髪弄ってもらうようになったんだ」
「へ?」
「……髪?」
 なんのこっちゃ、と首を傾げるイッキ。
「こいつ表の顔は美容師なんだよ。すげーぞ、カリスマ美容師。髪染めてもらってンの。自分でやんのと全然違うんだよな」
 そう言って指先で摘み上げた髪は殆ど色がない所為だろう、落ちかけた夕陽に染められて鮮やかな茜色に透けている。
 ………さらさらと柔らかそうで、キレイだ。
「あー、ホントだ。カズ君手触り全然違う〜。前はもっと脱色しましたーってキシキシした手触りだったよねー」
「うわっ、亜紀人やめろって!」
 目敏く駆け寄ってきた亜紀人が手を伸ばして葛馬の頭をくしゃりとやる。
 擽ったそうに笑う葛馬の髪はちょうど旋毛の辺り、根元か少し色が変わっていた。
(…………う、ウラヤましい……! ってかそうじゃなくて!!)

『 うち = うちの店。 』

 髪を触っていたのは自分が染めたそれの具合が気になったからで……。
「……イッキ君……は必要なさそうだね。」
 頭の中からクゥの飛び出してきたイッキを見てくすくすと笑っている男。
 ブッチャもオニギリも、美容院とは縁が無さそうだ。
「はーい、僕も今度お願いしていいですか!」
「亜紀人君はカットの方かな」
 僕も僕もと手を上げる亜紀人にも変わらぬ笑顔を向けているところを見ると、どうやら他意があるわけではないらしい。
 それを確認してエミリはがっくりとコンクリートの床にしゃがみこんだ。
「……………良かったぁ……寿命が縮まったっての」
 心臓がまだ落ち着かずばくばくうるさく騒いでいる。
(……なんだってこんなに、過剰反応しちゃったんだろう)
 エミリは胸元を押えて一つ溜息を吐くと、落としたペットボトルを拾い上げ、改めてタオルと水を差し入れるべく葛馬の方へと駆け寄っていった。

 ……………それは乙女のカン、なのかも知れなかった。

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 すみません、少数派のようですがうちのカズは脱色です。
 だって眉毛が黒いんだもん……!! 眉毛が黒いってことは髪も黒いと思うんですよ…!(でも良く見たら全員眉黒いと言えば黒い。カズ君ほど太くて黒い子は居ないけど…うーん。実際のところどうなんだろう。)
 それにイキがったちゅーぼーの脱色の方が可愛…(コラコラ。
 勿論、スピに弄ってもらいたいと言うのも大きな理由ですが(笑。
 二次創作をやってない友人間では皆脱色&染色だろうと言っていたのですがサイトを巡るとどうやら天然の方が多いようですね。

2007.04.28

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