始めて逢ったのは夜王戦の時だった。 逢った、とは言わないか。 見たのは、だ。 向こうはこっちの事など見ていなかった。 細身の長身、炎のエンブレムの入ったジャケットと同じく炎を思わせる緩く立てられたオレンジとも赤ともつかない不思議な色合いの髪が印象的だった。 それ以上に印象的だったのが、炎の様な模様の刻まれたホイールのATが地を滑り、轟音を立てて炎が上がった瞬間。 「僕の名は、スピット・ファイア。 燃え盛る炎の向こう側で不敵に笑っていた。 (………そういやあん時はオニギリがパニくってすごかったよな……) ホイールと地面の摩擦の熱気とスピードで一瞬、蜃気楼のように上がった炎。 人間業とは思えない技を見せて、その癖直後に安達のドロップキックでつんのめってイッキの拳に突っ込んで鼻血吹いてたっけ。 それを思い出したら急におかしくなって、屋上の手摺りに凭れて葛馬は小さく笑った。 「……意外とヌケてんだよなぁ…」 もうすぐ日が落ちる。 傾いて赤く色付いた夕陽の滲む空は彼の人を思い起こさせる。 少しだけ冷たい、高く心地よい風が吹き抜けていった。 始めて逢ったのはシムカお気に入りのイッキ君とブッチャ君のバトルを見に行った時だった。 会話を交わしたわけでもない、名前を聞いたわけでもない、ただちらりと見かけただけ。 だが松葉杖を片手にギブスや包帯に塗れて、それでも友達を助けに来た姿は印象的だった。 (………観察力もあったかな) 燃え上がる 彼を彼として認識したのは、ベヒーモスと小烏丸戦のバトルの時。 小烏丸のメンバーとして名前は知っていたけれど、その時初めて彼があの時の少年だと知った。 彼もATを始めるのだろうと漠然と思っていたから驚きはなかった。 驚いたのは、この僅かな時間で彼がここまで伸びたことにぐらいだろうか。 始めは誰も注目していなかったステージ。 それでも何故か目を惹かれた。 (……それは間違いではなかった) 負けてはしまったけれど、でも大きな可能性を見せてもらったと思った。 その時にはもう深く、彼は僕の中に根を張っていたのかもしれない。 「………」 高いビルの合間を抜けて細く鋭い風が吹く。 それをより感じようとするかのようにスピット・ファイアは目を閉じて空を仰いだ。 (………ステルス、と言ったかな) 彼の起こす風に似ている、そう思った。 ― NEXT ―
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スノードロップ/待雪草の花言葉: 希望、慰め、恋の最初のまなざし 私的馴れ初め、みたいな。ALLキャラの予定です。 カズ君はきっと初恋。 |