二日は二人で、初詣に行った。 元旦にチームで行ってるから正しくは初詣ではないけれど、あれとこれとはなんとなく別だ。 ドライブを兼ねてスピット・ファイアの車で少し離れたところにある大きな神社に向かって、お参りして、破魔矢を買って、お守りを買って、御神籤を引いて。 ……イッキ達とわいわいやるのは楽しい。 スピット・ファイアと二人で出かけるのはそれとは違って、でも同じぐらい楽しくて。 胸の中にあるのは穏やかで落ち着いた、でも擽ったいようなあったかいようなもどかしい気持ちだ。 (こう言うの、やっぱスキだからだよなぁ……) 樹やオニギリ達に対する好きとは違う、好き。だ 少しでも近づきたくて、側に居たくて、認めて欲しくて、そんな感情がたくさん蠢いて。 どうしようもないような感覚を覚えて自己嫌悪に陥ったり、相手のほんの些細な言動に振り回されたり、そういう気持ちだ。 (あ、ヤバ、恥ずかしくなってきた……) 幾つモノ情景が脳裏に蘇えり、なんとなく頬に熱が集まるのを感じて葛馬は御神籤を握り締めたまま僅かに赤くなった頬を押さえた。 「寒い? 顔、真っ赤だよ?」 鼻先も耳も真っ赤になった彼を見下ろし、スピット・ファイアは小さく首を傾げる。 「……なんでもね」 「そう? 風邪でも引いたら大変だし、早めに帰ろうか」 「ガキ扱いすんなっつーの!」 掌で押さえて温めてでも居るかのような仕草だったが、寒いわけではなかったのだろうか。 噛み付いてくる、それこそ子供っぽい仕草を微笑ましく見やりながら、スピット・ファイアは皮の手袋を嵌めたまま器用に御神籤を開いた。 「……大吉。今年はいいことがありそうだね。カズ君は?」 紙面に印刷された文字は『大吉』。 初詣は特に良い籤が入っているものだと言うし、占いや迷信を信じる方ではないがそれなりに嬉しい。 緩く微笑んで言葉を向ければ、眼下の恋人は非常に複雑な表情で手元を見下ろしていた。 「………俺、吉……」 葛馬の手にした御神籤は良いとも悪いとも言えない、微妙なところだった。 内容も『待ち人、来るけど遅れるでしょう』とか、『健康、気をつければ良し』とか、決して良いとも悪いとも言えない何とも微妙なモノが並んでいる。 「はぁ………」 らしいと言えばらしいのだが、正直今年もこんなんかと思わずには居られなくて。 思わず溜息を漏らした葛馬の指先から薄い紙片が引き抜かれた。 伸びてきたのがスピット・ファイアの指だということには気付いていたけれど、中身を読まれたところでどうと言うこともない。 半ば諦めの表情でそれを好きにさせて、葛馬はどこか手頃な枝はないかと辺りを見回した こんな御神籤はさっさと結んで忘れてしまうに限る。 (今年は受験だってのに………) スピット・ファイアが専属の家庭教師を買って出てくれて、幾らか成績が上がりはしたものの、志望校の判定はまだまだ予断を許さないところだ。 ここで一発大吉でも引いて勢いをつけておきたかった、と言うのが正直なところである。 (受験は冬休みが勝負って言うよなあ……) 宿題も終わらせなければならないし、もうすぐ模試もある。 思い出したら正月早々憂鬱な気分になって、折角二人で初詣なのにっと葛馬は慌てて頭を振った。 ………所謂デート、なのかもしれないが。 その単語を使うのはあまりにも恥ずかしくて、慣れなくて、未だに使えたことがない。 (……だってデートっつったら普通男と女ででかけることじゃん!! 俺ら付き合ってっけど男同士だしっ、こう言う場合もやっぱデートなのか! デートなのかッ!?) スピット・ファイアは簡単にその単語を口にするし、彼的には間違いなくデート、なのだが。 「……はい」 「ん、ん??」 一人で身悶えていたら掌に紙片が戻されて、何気なくそれを見下ろした葛馬は僅かに眉を顰めた。 葛馬が取り上げられたのは『吉』だった。 けれど今掌にあるのは『大吉』だ。 「こっちはオマエんだろ」 先ほどの男の言葉を思い出し、それをつき返したけれど。 でも彼はやんわり微笑むだけでそれを受け取ろうとしない。 「僕はこっちでいいから。交換、ね?」 「こっちでいいって、そういう問題じゃねーだろ……」 「今年はカズ君にとって大事な年だからね? 縁起、担いでおくのも悪くないんじゃないかな?」 そう言って、スピット・ファイアは長くて綺麗な指で御神籤を丁寧に細く折り畳んでゆく。 「ね、こういうの、結ぶんでしょ? どこに結んだらいいのかな?」 大人で、美人で、そんな外見に不相応にどこか無邪気に笑って、辺りを見回す男に、葛馬は目を瞬かせて。 それからおずおずと冷たい空気に僅かに乾いた唇を開いた。 「………あー……えっと、その……サンキュ」 「帰ったら先週の続き、やろうね?」 極々小さな声だったのに、聞き漏らすことなく振り向いた男にふんわり綺麗に微笑まれて。 「……もうちょっと正月気分で居させろよ……」 けれど、折角一緒に過ごす正月なのにと思うと素直には頷けず、葛馬は拗ねた表情で小さく呟いた。 「あ、タコ焼き、買って帰ろうぜ!」 境内から降りて、真っ先に目に入ったのは道の左右に並ぶ出店のタコ焼き屋だった。 出店のタコ焼きは、もの凄く美味しいと言うわけでもないのに見るともの凄く食べたくなってしまうと言う不思議な食べ物だ。 外で寒かったり、焦げたソースの匂いが香ばしかったりが食欲を誘うのかもしれない。 小腹も空いてきたことだし……正月はこうやって不規則に何かを食べたりするから太るってのもあるのかも知れない……と、おやつ代わりにそれを購入して二人は車へと戻った。 正直高そうな外車の中でタコ焼きを広げるのもどうかと思ったが、スピット・ファイアはそう言ったことにはあまりこだわらない。 それよりも寒空で葛馬が風邪を引いたら大変だからと車に詰め込まれて温かいココアの缶を与えられてしまった。 「ちぇ、んとにガキ扱いだよな」 「そんなことないよ、カズ君が大好きなだけです。今の時期に風邪でも引いたら大変だからね」 「……………」 臆面のない台詞が嬉しいやら恥ずかしいやらで見る間に頬が赤くなる。 顔を隠すように俯いて冷えた指先を温めるようにココアの缶を両手で握り締め弄ぶ葛馬に、スピット・ファイアは何かを思いついたように悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「……Do you understand this ingredient?」 簡単に包装されたタコ焼きの包みを開いて、一言。 「…………へ?」 流暢に流れ出たそれを捕らえ損ねて、葛馬は間の抜けた声を上げた。 「Do you、understand、this ingredient?」 今度は幾分ゆっくりと、同じ音が繰り返される。 「え、なに?」 「ほら、早く答えないと全部食べちゃうよ?」 楊枝で一つ、熱々のそれを口に運んでスピット・ファイアは頬を綻ばせた。 「わ、こら、ずりぃぞ!!」 慌てて手を伸ばして奪い取ろうとしたら長い腕でそれは高く、反対側に持ち上げられてしまう。 「……ゆっくり考えればわかるはずだよ?」 くすくすと楽しそうに笑う男の言葉に、頭の中でさっきの音を反芻する。 彼が判る、と言うからには判る、はずだ。 頭の中でぐるぐると単語が回って、パニックになっている間にもう一つ、タコ焼きが彼の口の中に消えた。 「ちょ、わーわー!!」 視線はタコ焼きに固定で、慌てたような声を上げる葛馬の仕草が可愛くて思わず笑みが漏れる。 最初から全部食べてしまうつもりはないけれど、中々本気にならない受験生にちょっとした悪戯を仕掛けるぐらいは許されるだろう。 葛馬は勉強が嫌いなだけで、決して頭の悪い少年ではない。 今のところATにしか向いていないが、飛び抜けて高い集中力と理解力、洞察力を持っているのだから。 きょろきょろとよく動く青い瞳を見下ろして、スピット・ファイアは目元を緩ませた。 (………Ingred、dient?? えーと、成分? じゃない、材料!? だから、えーと……) 小麦粉、紅しょうが、他に何が入っていただろうかと幾つか思い浮かべて、最後に一番大事なものを思い出した。 これがなければ、タコ焼きは始まらない。 だから答えはきっとこれだ。 「お、おくとぱすっ! タコっ!」 「はい、正解」 「んっ」 ぽふ、とタコ焼きが半分口に押し込まれて、葛馬は目を見開いた。 「んぐんぐ……」 慌てて落とさないように歯を立てればあつあつのそれが口の中で解れる。 一瞬何しやがる、と思ったけれどもソースとマヨネーズたっぷりのそれを咀嚼すれば自然と頬が緩んだ。 恥ずかしいから本当は外でこう言うことをするのは嫌い、だけど。 (……地元じゃねーし、正月だし、たまにはいいよな……?) 自分にそう言い訳して、強張っていた身体の力を抜く。 「………もいっこ」 珍しく甘えたような声にスピット・ファイアは驚いたように目を瞬かせ。 それから嬉しそうに目を細めて、二つ目のタコ焼きを持ち上げた。 |
ごろごろ寝正月、寝てばっかも勿体無いので二日目。 英語は適当です(一応エキサ○トしました)。結城は英語が苦手です。むしろ大嫌いです。 間違ってたらこっそり指摘してあげましょう(……。 |