意識の隅に、小さな電子音が引っかかる。 小さくて、けれど耳につく、放っては置けない音だ。 「んー……」 朦朧とした意識で、葛馬はコタツに寝っ転がったまま手を伸ばして机の上を探った。 「………ケー、タイ……」 目当てのものはすぐには見つからなくて、億劫に思いながらものろのろと身体を起こす。 眠ったのは明け方だったからまだ眠くて意識がはっきりしない。 (あんなとこに……) すぐ近くに置いていたつもりだったのだがどうやら探していた場所が違ったようだ。 まだぼんやりとした意識のまま籠に盛られた蜜柑の山の脇に置かれていたそれを拾い上げ、葛馬はそのディスプレイを覗き込んだ。 (あ、ねーちゃんからだ……) メールは姉からのもので、あけましておめでとうのメッセージと共に友達と朝日をバックに撮った写真が添付されていた。 年が明けた直後の通話規制の所為で到着が遅れていたのだろう。 時間を確認すると9時を少し過ぎたところだった。 「……お姉さん?」 「うん、メール……大丈夫かって」 片手で携帯電話を操作しながら声を向けた先には、葛馬と同じようにコタツに横たわった男の姿があった。 (………なんか、似合わねーの……) 珍しくだらしないとも取れる、眠そうな表情に自然と笑みが浮かぶ。 チームジャケットのインナーとジーンズだけのラフな格好で、柔らかそうな髪にに少し癖がついてて、多分きっと、今の彼は葛馬しか知らない表情をしている。 彼はそのままふわりと瞼を伏せて、その切れ長の瞳を彩る長い睫が頬に僅かな影を落とすのが妙に色っぽかった。 (やっぱ、疲れてんだろうな……) 二人で鍋をして、年末特番の番組を見ながらだらだらして。 それから夜食に年越しそばを食べて、年が明けると共に初詣に向い、チームで集まって新年会。 明け方まで騒いで朝日を見て、それから戻ってくると言うハードスケジュールをこなしてきたところだ。 葛馬も同様で、まだ眠くてもう一眠りしたい気分だった。 加えて彼は前日も遅くまで仕事をしていたから尚更だろう。 「えーと……」 もたもたと、初詣に言った時みんなで撮った写真を添付した返信メールを送って葛馬は再度ホットカーペットに身を沈めた。 コタツは当然違う辺に入ってるから少し相手が遠くて。 もう少し近くでその表情を見たいと思って床の上をずりずりそちらの方へと移動したら長い腕が伸びてきた。 「……スピ……?」 やんわりと、緩く抱き込まれて。 起きてたのだろうかと思ったが男の瞼は伏せられたままで。 どうやら無意識らしいと気づいて思わず微かな笑い声が漏れた。 「………オマエ、眠っててもそんなんかよ」 「んー……?」 「っ、前、なー……」 スピット・ファイアの細くて、けれどしっかりと鍛え上げられた筋肉に覆われた身体がもそもそと動いて、まるで抱き枕にでもするかのように葛馬の身体を引き寄せる。 何時の間にか完全に抱き込まれた状態になって、葛馬は思わず漏れた苦笑を隠すことができなかった。 (あったけー……) 男の腕も、ホットカーペットもあったかくてますます眠くなってきて、一度は覚めかけた意識がまた解け始める。 (……起きたらは餅焼いて、雑煮作って、それからスピット・ファイアの持ってきたおせち食って……そのあとはどうしようかな……) 二人でできる正月の遊びと言ったら何だろう。 それとも結局、いつものようにATで散歩になるだろうか。 (折角だしなんかしてーな……) 心地よい温もりに鼻先を摺り寄せて、葛馬は再び瞼を伏せた。 目が覚めた後のことは、覚めてから考えることにして。 今日は目覚ましをかけないで好きなだけ眠る日にしよう。 寝正月だってある意味、正しい日本の正月の姿だと自分に言い訳をしながら。 葛馬は誘惑に逆らわず再度眠りに海へと落ちていった。 |
夜中騒いで、帰ってきたお正月、一日目。 ここまでがブログに載せていた分でした。リアルタイムではなくなってしまいましたがもう少し続く予定です。 |