その25 フェリーあがた


 

 小倉港から22時に対馬の比田勝に向けて出港するフェリーあがたは、夜の玄界灘を進んでいく。日曜日の夜、長崎から小倉に行ってその日のフェリーに乗る。 月曜日の上対馬病院の眼科診療のために。
 私にとって、それは最初で最後の小倉-比田勝フェリーだった。船内で寝られるように、夜の海を走るのだが、フェリーは博多-厳原間を走る船に比べひとまわり小さい。そのぶん、揺れも激しい。私は1等のベッドに休んでいたのだが揺れが激しくたびたび目が醒める。船内はがらんとして乗員も少ない。国境の島に向かう夜の船はなんともいえないわびしさを感じる。言葉に表せない哀愁を感じながら、船は対馬の北端へと向かっていく。この感触は博多-厳原間のフェリーでは味わえない。
 うとうとしている間に船は比田勝港に着岸した。朝の5時である。しかし、まだ夜が明けない。7時までは船内で休息をとれるので、船内でもうしばらく休むことにした。7時に船を出て、人気のない比田勝港をぶらぶらした後、上対馬病院に向かう。 そして、もう病院の玄関では、月1回の眼科診療のために朝早くからつめかけたたくさんの患者さんが並んでいるのだ。その日一日診療を終えて、タクシーで2時間の道を揺られながら厳原に帰るのであった。
 その小倉-比田勝フェリーは、平成10年9月30日をもって、その使命を終える。 上対馬町比田勝と北九州小倉との長年の経済的なつながりは今月で絶たれ、来月からは博多-比田勝フェリーとなり再出発する。比田勝-釜山間のあおしおの国際航路専用のターミナルビルも来年4月には完成する。対馬の北の玄関比田勝港にとっては、また、新しい歴史が始まる。
 
発着時刻
比田勝博多博多比田勝
13:55>19:1523:00>04:20



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